説明

金属アルコキシドからグラフェンの製造

グラフェンを製造する工程が開示される。前記工程は、溶媒中の金属アルコキシド溶液(102)を分解装置へ導入し、前記分解装置は、前記金属アルコキシドを分解してグラフェンを生成するために十分な高温を持つ第1の領域を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェンの製造方法に関する。特に、しかしこれに限られるものではないが、本発明は、化学蒸着析出法を用いてグラフェンを製造する方法に関する。グラフェンはこの方法により粉末又は膜として製造され得る。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素原子の2次元(2D)の単層であり、前記原子はお互いに2D六角形格子で結合されている。グラフェンは炭素の種々の他の形状の基本的構造ブロックであると考えられている。例えば、グラファイトは、3次元(3D)材料を形成するように積層されるグラフェン層からなり、カーボンナノチューブは通常は巻かれたグラフェンのシートとして説明され、フラーレンはグラフェンのナノメートルサイズのボールである。
【0003】
カーボンナノ構造は多くの異なる応用、特にナノテクノロジー及び材料科学での使用が提案されている。カーボンナノチューブ及びフラーレンはこれまで種々の応用のために使用されてきたが、その電気的、磁気的及び弾性特性はすべてその親構造から生じるものである。しかし、グラフェンは、ナノチューブ及びフラーレンに与えられたほどの注目をまだ受けていない。というのは現実的な応用のためにバルク量で製造することに問題があったからである。フラーレン及びカーボンナノチューブは共に、連続合成のために利用され得る多くの異なる方法で成長させることが可能である。しかしグラフェンの既存の製造方法は工業的生産に又は大量生産には適するものではなかった。
【0004】
この材料について多くの性質、特に電気的性質が研究されてきた。グラフェン内の電子は相対論的粒子のように振る舞い、有効質量を持たず1秒に10メートル移動する。この値は真空中での光速の300倍遅いが、通常の導電材料中での電子移動に比べて非常に速い。グラフェンは室温で量子ホール効果、両極性電界効果を電荷キャリアのバリスチック導電性と共に示す。グラフェンは、シリコン酸化物ゲートに基づくトランジスタの問題に対する1つの回答として示唆される材料である。全ての知られた他の材料とは異なり、1ナノメートルサイズ幅の装置に切断された場合でもグラフェンは非常に安定であり、かつ導電性を維持する。グラフェントランジスタは、10ナノメートル未満の厚さ-これは現在のシリコン技術では失敗すると予想される極小化の限界である-で有利な優れた製造を示し始めている。グラフェン層はまた、装置内で透明な導電性電極として提示されてきている。
【0005】
AFMチップを用いるグラフェンシートの構造についての機械的研究により、ヤング率が0.5TPa(ナノスケールで、鋼鉄の200倍強い)であった。この高い値は、グラフェンが高強度と剛性を有し、ナノ複合材料へのフィラーと同様に、圧力センサ及び共振器などのナノ電子機械システム(NEMS)の分野への応用に使用され得ることを示唆する。
【0006】
初期の多くのグラフェン及びその性質研究がなされたサンプルは、バルクグラファイトを機械的に、しばしば接着テープを用いて切断させたものか、ミクロ機械的の切断したものであった。この工程はスケールアップすることが難しく、少量の生成グラフェンが大量の薄いグラファイトフレークに隠れているという問題に悩まされている。又はバルクグラファイトのグラフェン酸化物への酸化が、溶媒に分散させる際にそれらを分離することを可能とする層間の相互作用に干渉する。カーボンナノチューブの酸化のように、かかる工程は、前記構造に大きな欠陥を導入することで性質に有害な効果を有する。グラフェン構造を回復するために、不活性雰囲気中での熱アニーリングやヒドラジンを用いる還元が必要とされる。グラファイトの層を破壊してグラフェンを製造することは、溶媒及び表面活性剤を用いて液相剥離を用いることで達成されるが、しかしこれもまた低い収率と多量の溶媒又は表面活性剤が必要とされるという問題に悩まされている。
【0007】
最近は、他の炭素源からのグラフェンの合成についての研究にますます焦点が当てられてきている。グラフェンはベタイン及びカンファの熱分解(ニッケル金属上で)、シリコン炭化物還元及びマイクロ波照射エタノールから合成されている。金属基板上での炭化水素の分解はまた、ある程度のグラフェンを生成することが知られている。また最近カーボンナノチューブはグラフェンの出発原料となることが報告されており、過マンガン酸カリウム及び硫酸又はイオン化アルゴンガスを用いたカーボンナノチューブの選択的酸化又は円筒壁の「長手方向切断」などによる。しかしこれらの方法はそれぞれ共通の欠点を持っている:(i)前記工程での低収率及び他の炭素形態が合成されること;(ii)厚さが10ナノメートル未満の材料はめったに製造されないこと;及び(iii)しばしば高度な装置(マイクロ波及び高圧反応装置)、雰囲気の制御、高温(シリコン炭化物還元には1500〜2000℃が必要)、時間のかかるステップ、遷移金属触媒又は高可燃性及び爆発性ガス混合物が要求されること、などである。
【0008】
世界市場のためのグラフェンの商業的製造は現在、ミクロ機械的破壊及び酸素インターカレーション方法に基づくものであるが、これらは共に時間のかかるものであり、後者の方法はなお大量の酸化グラフェン(これは電気的及び機械的性質に劣る)を含むものである。製造コストが高いということは、市場での値段が高くしている。
【0009】
WO2009/029984A1は、グラフェンの製造方法が開示されており、アルカリ金属がアルコールと反応し、金属アルコキシドを含む溶媒熱生成物を生成する。前記溶媒熱生成物はその後熱分解させてグラフェンを製造する。この工程は時間のかかる工程であり約72時間を要する。さらに、前記溶媒熱生成物の製造及び前記熱分解ステップの両方ともバッチプロセスで実施される必要がある。結果として、前記工程は工業的製造規模には十分適するものではない。同様に、前記溶媒熱生成物の形成は100バールを超える高圧を生成し、金属ナトリウムを少量のアルコールに添加することは非常に発熱反応であり、大量の熱と爆発性の水素を生成する。前記熱分解ステップは酸素の存在を必要とし、生成されるグラフェンは酸化されてグラフェン酸化物となり得るものであり、グラフェンの生成収率を下げることとなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はグラフェンの製造方法に関する。特に、しかしこれに限られるものではないが、本発明は、化学蒸着析出法を用いてグラフェンを製造する方法に関する。グラフェンはこの方法により粉末又は膜として製造され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面によれば、グラフェンを製造するための方法が提供され、前記方法は:金属アルコキシドの溶液を分解装置に導入するステップを含み、前記分解装置が、前記金属アルコキシドを熱分解してグラフェンを製造するために十分な高温度を持つ第1の領域を含む。
【0012】
利点は、この工程は従来の方法に比べて高収率でグラフェンを製造し、及び連続方法として実施され得る、ということである。他の利点は、前記工程が利用可能なスプレー注入化学蒸着堆積技術を用いて実施することができることであり、グラフェンを研究室スケールから工業的スケールへと拡大することができることである。他の利点は、前記工程はグラフェンの膜及び粉末の両方を製造するために用いることができる。前記工程のさらなる利点は、製造されたグラフェンは容易に分離できるということである。というのは前記金属カーボネート及び金属水酸化物副産物が水に容易に溶けるからである。前記工程の他の利点は、金属アルコキシドの熱分解により得られる前記カーボンは実質的に全てグラフェンである、ということである。前記工程の他の利点は、前記工程はグラフェンの安価な製造方法を提供することである。というのは使用される試薬は容易に利用可能であり安価であり、及び工程自体も比較的迅速かつ単純であるからである。さらに重金属触媒が必要ではないということである。というのは重金属触媒は高価であり、グラフェンから前記触媒を除去するさらなる処理が必要とされ得るからである。
【0013】
好ましくは、前記溶媒はアルコールを含む。
【0014】
好ましくは、前記アルコールの前記アルキル基は前記金属アルコキシドの前記アルキル基と同じである。
【0015】
前記アルコールは、エタノールを含み、前記金属アルコキシドは金属エトキシドを含み得る。
【0016】
前記金属アルコキシドはナトリウムアルコキシドを含み得る。前記工程はさらに前記溶液を蒸発させるステップを含む。
【0017】
前記溶液の導入のステップは前記金属アルコキシド溶液の液滴を生成することを含み得る。
【0018】
前記液滴は前記金属アルコキシド溶液のスプレー又はミスト又はエアロゾルを含み得る。
【0019】
前記液的は、ガス流中で生成、又はガス流中に導入され得る。
【0020】
好ましくは、前記ガスは不活性である。
【0021】
前記工程はさらに、前記第1の領域を通じて前記ガスを流すステップを含み得る。
【0022】
これにより、前記ガス流が前記液滴を、前記第1の領域中に及び/又は領域を通じて運ぶ。
【0023】
前記工程はさらに、グラフェンを集めるために、前記ガスを前記第1の領域よりも低温度の第2の領域を通じて流すステップを含み得る。
【0024】
有利には、前記ステップはグラフェンを連続的に集めることを可能とする。
【0025】
グラフェン粉末が製造され得る。
【0026】
前記工程はさらに、基板上にグラフェンの膜を成長させるステップを含み得る。
【0027】
有利なことは、これによりグラフェンを電子部品を作るために要求される構造中で製造され得るということである。これまでの研究では、グラフェンは基板上に成長させており、前記基板はグラフェンを成長させるために必須の金属触媒である。しかし本発明ではグラフェン成長のためになんら特別の基板を必要とするものではない。実際、前記基板はいかなる材料でもよく、特に、金、銀又は鋼鉄などの非触媒活性の金属でもよい。前記基板は高温プラスチックを含み得る。
【0028】
前記基板は、シリコン、シリコン酸化物、ガラス及び/又はシリコン炭化物の少なくとも1つであってよい。
【0029】
有利には、本発明はグラフェン膜を電気部品を作るために適する基板上に直接成長させることを可能とする。
【0030】
前記工程はさらに、前記膜の成長の時間を制御するためのステップを含む。
【0031】
有利には、前記膜の成長の時間を制御することは膜の厚さを選択することを可能とする。
【0032】
前記第1の領域は、前記金属アルコキシドの分解温度を超える温度に維持され得る。
【0033】
前記第1の領域は、300〜1800℃の温度に維持され得る。
【0034】
前記工程は化学蒸気堆積工程を含む。
【0035】
有利には、前記工程は既存の設定を用いて実施され得る。というのはカーボンナノチューブなどの他のカーボンナノ構造物の製造のために使用されるものと類似の技術だからである。
【0036】
好ましくは前記工程は実質的に連続的に操作される。
【0037】
前記工程はさらに、グラフェンを水で洗浄し熱分解ステップで生成された他の生成物を除去することを含む。
【0038】
前記工程はさらに、グラフェンをアニーリングするステップを含む。グラフェンのアニーリングのステップは、400〜3000℃の間の温度で実施され得る。
【0039】
前記金属アルコキシドの溶液は、溶媒熱工程以外の方法でも得られ得る。
【0040】
有利には、これによりグラフェンを製造するコスト及び時間を低減する。
【0041】
金属アルコキシドの溶液は、金属をアルコールに添加すること、金属水酸化物をアルコールに添加すること、又は金属炭酸塩をアルコールに添加すること、のいずれかの少なくとも1つで得ることができる。
【0042】
有利には、これらの方法にそれぞれは金属アルコキシドの溶液を生成し、前記金属アルコキシドを単離することは必要ではない。特に大量の溶液を調製する場合には、金属水酸化物をアルコールに添加するか、金属炭酸塩をアルコールに添加することで金属アルコキシドを得ることが有利である。というのはこれらの方法では、金属ナトリウムを用いる必要がないからである。金属ナトリウムは非常に反応性が高く従って危険であり、安全に保存することが難しいからである。
【0043】
有利には、工業的にはこの方法で金属アルコキシドを調製されるものであり容易に利用できかつ安価である。グラフェン製造のこれまでの方法とは対照的に、本発明の方法では、時間のかかる高価な溶媒熱工程の方法により金属アルコキシドを製造する必要がない。
【0044】
本発明の第2の側面によれば、グラフェンを製造するための方法が提供され、前記方法は:少なくとも第1の試薬と第2の試薬を分解装置の第1の領域に導入し、前記第1及び第2の試薬が反応して金属アルコキシドを生成し;及び前記第1の領域が充分な高温度を有し、前記金属アルコキシドの熱分解を起こしてグラフェンを生成する。
【0045】
有利には、連続方法で実行するために、グラフェンへ分解させる金属アルコキシドをその場で調製する。特に金属アルコキシドの生成とそのグラフェンへの分解は同じ装置で同時に実施することができる。
【0046】
前記第1の試薬は、金属、金属炭酸塩及び/又は金属水酸化物の少なくとも1つを含み、及び前記第2の試薬はアルコールを含み得る。
【0047】
前記金属はナトリウムであり得る。
【0048】
前記アルコールはエタノールであり得る。
【0049】
前記第1の試薬は、間欠的に補充され得る。
【0050】
有利には、これにより前記工程を、特に前記第1の試薬が固体の場合に実質的に連続的に実施できる。
【0051】
前記第2の試薬は、液滴として前記分解装置へ導入され得る。
【0052】
有利には、これにより前記第2の試薬が前記分解装置へ連続的に導入され得る。
【0053】
前記液適は、ミスト、スプレー又はエアロゾルを含み得る。
【0054】
前記液適は、ガス流内で作られるか又はガス流へ導入され得る。
【0055】
前記工程は、前記第1の領域にガスを流通させるステップを含み得る。
【0056】
有利には、ガスの流れが前記第2の試薬を前記第1の試薬の前記位置へ輸送するための方法を提供する。
【0057】
前記ガスは不活性であり得る。
【0058】
前記第1の試薬はボートに保持され得る。
【0059】
この構成の有利な点は、グラフェンが前記ボート内に形成され、それによりグラフェンの収集を可能とする、ことである。グラフェンの製造を連続的に行うために、グラフェンを含むボートは時々第1の試薬を含むボートと交換され得る。又は、前記第1の試薬を含むボートは前記分解装置に前記第1の領域を通じてサイクルさせることができる。
【0060】
グラフェン粉末が製造され得る。
【0061】
前記第1の領域は、300から1800℃の範囲に維持され得る。
【0062】
前記工程は実質的に連続的に操作され得る。
【0063】
前記工程はさらに、グラフェンを水で洗浄して、熱分解ステップで生成した他の生成物を除去するステップを含み得る。
【0064】
前記工程はさらにグラフェンをアニーリングするステップを含み得る。グラフェンのアニーリングのステップは、400及び3000℃の間の温度で実施され得る。
【0065】
本発明の好ましい実施態様を以下添付の図面を参照して説明するが、これらは例示のためのものであり、なんら限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明の第1の実施態様によるグラフェンの製造のための工程を示す。
【図2】図2は、本発明の方法によるグラフェンの製造のために適した装置を示す。
【図3】図3は、本発明による方法を用いて得られたグラフェン粉末のラマンスペクトル(632.8nm励起)を示す。
【図4】図4は、本発明による方法を用いて得られたグラフェン粉末の重量熱分析(TGA)をパーセントで示す。実線は精製前、グレー線は精製後を示す。
【図5】図5は、図4のTGAデータの正規化した重量微分を示す。実線は精製前、グレー線か精製後を示す。
【図6】図6は、本発明の方法を用いて得られた精製前のグラフェン粉末のX線光電子スペクトル(XPS)スキャンを示す。
【図7】図7は、図6のスキャンのCの1sピーク領域の拡大を示す。
【図8】図8は、精製前のグラフェン粉末からの粒子の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【図9】図9は、図8で示される粒子の拡大SEM画像を示す。
【図10】図10は、図8に示される粒子のエネルギー分散X線(EDX)スペクトルを示す。
【図11】図11は、レース状カーボンでコーティングされた300メッシュの銅格子上に堆積させた本発明の工程で得られる精製グラフェン粉末の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図12】図12は、レース状カーボンでコーティングされた300メッシュの銅格子上に堆積させた本発明の工程で得られる精製グラフェン粉末の、前記エッジが電子ビームに平行である透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図13】図13は、グラフェン粉末の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。ここで(a)は溶液から、新たに開裂させたマイカ表面上に堆積させたグラフェン粉末の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示し、(b)及び(c)は、(a)で矢印で示される線に沿っての、(a)の画像の高さ断面を示す。
【図14】図14は、本発明の工程を用いて得られたグラフェン膜の機械的に破壊した表面のSEM画像を示す。
【図15】図15は図14で示されるグラフェン膜の1つの領域のEDXスペクトルを示す。
【図16】図16は、図14で示されるグラフェン膜の、Cの1s領域のXPSスキャンを示す。
【図17】図17は、本発明の第2の実施態様によるグラフェン製造のための方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1は本発明の体の実施態様によるグラフェン製造の工程をしめす。金属アルコキシドの溶液102がスプレー/エアロゾルゾーン104に導入される。溶液102の液滴は微細スプレー、ミスト又はエアロゾル108として加熱ゾーン106へ導入される。好ましい実施態様では、前記液適108は担体ガス110により前記加熱ゾーン106へ輸送される。加熱ゾーン106では、金属アルコキシドは熱分解を受けてグラフェン112、114を生成する。グラフェンは粉末112形状で生成され得る。この粉末は冷却収集ゾーン116で集められる。グラフェンはまた薄膜114として前記加熱ゾーン106内に置かれる基板118上に形成され得る。
【0068】
図2は本発明の方法によるグラフェン製造に適する装置を示す。前記装置は、スプレー装置10、加熱炉14内で加熱される石英加熱炉チューブ12及び収集容器16を含む。前記スプレー装置10は金属アルコキシド溶液18を含み、このましくは金属アルコキシドのアルコール溶液である。前記スプレー装置10はガス供給20に接続されており、前記ガスはアルゴンなどの不活性ガスである。前記ガスは前記スプレー装置10及びノズル22を通じて前記金属アルコキシド溶液のスプレー、又は微細なミスト又はエアロゾル24を生成する。ガス流は金属アルコキシドの液滴24を前記加熱された石英の加熱炉チューブ12へ輸送し、そこで金属アルコキシドは熱的に分解してグラフェンを生成する。
【0069】
グラフェンは粉末30として生成され得る。これは前記加熱炉チューブ12の冷却部分で堆積する。図2に示されるようにグラフェン粉末は前記収集容器16に集められる。グラフェン粉末は自分の重量で前記収集容器16の底に落ちる。一方ガスは前記収集容器の出口34を通って排気される。これに代えて、又はこれに加えて、前記加熱炉チューブ12の壁上及び/又は加熱炉の熱領域に置かれる基板上にグラフェン膜36が生成され得る。
【0070】
前記工程は前記金属アルコキシドが利用できる限り続けることができる。この方法で、前記工程は連続的又は半連続的に操作され得る。
【0071】
図2の参照を続けて、ナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)のエタノール(CH3CH2OH)溶液を用いてグラフェンを製造する実施例を説明する。
【0072】
ステップ1 金属アルコキシドの調製
ナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)は、例えば(a)ナトリウムをエタノールに添加するか又は(b)水酸化ナトリウム(NaOH)をエタノールに添加するか、(c)炭酸ナトリウム(Na2CO3)をエタノールに添加することで得られる。又は市販のナトリウムエトキシドをそのまま使用することができる。
【0073】
方法(a)を使用する場合、ナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)は前記エタノールの溶液中である。通常使用される濃度は、約0.5M(0.57gのNaを50mlのエタノールへ)及び1.7M(1.95gのNaを50mlのエタノールへ)である。
【0074】
方法(b)では、類似の濃度が用いられる。即ち約0.5M(1.0gのNaOHを50mlノエタノールへ)から約1.7M(3.4gのNaOHを50mlノエタノールへ)である。この反応で、水酸化ナトリウム(NaOH)はエタノールに60℃で添加し、すべてのNaOHが溶解すると完了し、通常数分である。水が反応の副生成物であり、3Aモレキュラーシーブを用いて除去でき、溶液をろ過してモレキュラーシーブを除くことができる。しかし水を除くことは必須ではない。
【0075】
方法(c)では、炭酸ナトリウム(Na2CO3)をエタノールと還流温度で反応させ、水を3Aモレキュラーシーブにより除去する。ただし水の除去は必須ではない。2gのNa2CO3及び100mlのエタノールから出発して0.1gのナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)が12時間後に得られる。ここでも濃度は通常0.5Mから約1.7Mである。
【0076】
さらに、購入市販品のナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)の前記濃度の(エタノール)溶液も適切である。
【0077】
前記のナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)の濃度は例示的であり、この値よりも低い場合も高い場合もあり得る。しかし、エタノール中のナトリウムエトキシドの飽和濃度(従って最大濃度)は約21重量%であり、これは約3Mである。使用されるナトリウムエトキシドの濃度は望ましい応用に応じて変更され得る。例えばグラフェン膜が製造される場合には、相対的に低濃度のナトリウムエトシキドが使用される(例えば0.5M)。またグラフェン粉末が製造される場合には、相対的に高濃度が使用される(例えば1.7M)。
【0078】
ステップ2 加熱炉チューブの加熱
溶液18を調製した後、それをスプレー10に添加し、前記スプレー10を加熱炉チューブ12へ接続する。前記チューブ12は加熱炉14内部に設けられている。この実施態様で、前記スプレー10は約1リットルの容量を持ち、前記加熱炉チューブ12は長さ900mm及び直径28mmの石英チューブ12である。しかし前記加熱炉チューブはいかなる長さ及び直径であってよく、その材料も、前記工程の温度及び/又は塩基条件に耐えるものであればいかなるものでもよい。不活性ガス20はその後前記システムを通じて(即ち前記スプレー10、前記加熱炉チューブ12及び収集容器16を通じて)、70ml/分で流される。不活性ガスはアルゴンであり得るが、いかなる不活性ガスも使用され得る。この流速(70ml/分)ではスプレーは起こらない。この時間の間に前記加熱炉14は、20℃/分の速度で900℃に加熱され、前記工程の間この温度が維持される。前記加熱炉14の温度は前記金属アルコキシドの分解温度よりも高いことが必要とされるだけであり、ナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)の場合は300℃であり、ナトリウムメトキシド(NaOCH3)の場合には350℃である。より高い温度を使用し得る。この実施態様では、チューブ加熱炉で実際に使われる、例えば約1800℃までのいかなる高温度でも使用し得る。
【0079】
ステップ3 グラフェン製造
前記加熱炉14が前記必要な温度に到達した場合、エタノール中のナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)のスプレー/微細ミスト/エアロゾル24を、前記スプレー装置10を通じる前記不活性ガス20の流速を170ml/分へ増加することで、発生させる。前記流速はこの値の上下で調節することができる。しかし、前記流速が低すぎるとスプレーは生成されず、前記流速が高すぎると、スプレーは前記加熱炉チューブ12を急速で通過してしまい少しの反応しか起こらないこととなる。スプレーを生じるための前記最小流速は、実際に使用されるスプレー装置、特に前記スプレー装置のノズルサイズに依存する。
【0080】
前記スプレー装置10の前記ノズル22で生成される前記ミスト/スプレー/エアロゾル24は、前記加熱炉チューブ12を通じて運ばれる。前記加熱炉チューブ12は900℃に維持されている(上記参照)。通常の実験では、エタノール中のナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)の1.7M溶液の約40mlを前記加熱炉チューブ12へ、アルゴンガスで流速170ml/分で、約20〜30分かけてスプレーする。
【0081】
ナトリウムエトキシド溶液18は前記熱加熱炉チューブ12へスプレーされ熱分解を受けてグラフェン粉末30及びグラフェン膜36を生成する。本実施態様の装置内で、前記加熱炉14の均一なホットゾーンは中心のどちらかの側で約10cm広がっている。この領域の外側は小さな温度勾配が存在し得る。グラフェン粉末30は前記石英加熱炉チューブ12のより冷たい部分で堆積し、図2で示されるように前記スプレーユニット12から前記加熱炉チューブ12の端と反対側に接続される容器16で集められ得る。カーボンの収率は、ナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)の重量に基づいて約5〜10%である。しかし、収率を正確に決めることは難しい。というのは加熱炉チューブ12の壁に付着して全てのグラフェンが回収されない場合があるからである。
【0082】
これに代えて、又は同時に、グラフェン膜36が前記加熱炉チューブ12の壁に生成される。グラフェン膜36は前記加熱炉チューブ12内に置かれる基板38上に生成され得る。前記基板としては、前記加熱炉の温度に耐えるものであればいかなるものも使用可能である。例えばグラフェン膜36は、前記加熱炉チューブ12の前記ホットゾーン内に置かれたシリコン(Si)又はシリコン酸化物(SiO2)を含む基板38上に成長させた。又は前記基板は金属を含み得る。特に触媒的に不活性な金属であり、金、銀又は鋼鉄などであり、又は高温プラスチック又はガラスなどである。
【0083】
グラフェン膜を製造するために、前記同様の条件を用いることができる。ただし、相対的に低濃度のナトリウムエトキシドを使用し(例えば、0.5M以下の溶液)、及び/又は前記スプレー時間を低減させる(例えば数分)。前記不活性ガス20の流速がまた、前記加熱炉チューブ12の前記ホットゾーンへ送られるナトリウムエトキシド溶液の量を制御するために変更され得る。膜36の厚さは、前記スプレー時間を制御することで制御でき、より長いスプレー時間であるほどより厚い膜が得られる。SiO2表面上で350nmの膜厚を、1.7Mのナトリウムエトキシドエタノール溶液を、170ml/分のアルゴンガス流速を用いて、20分間で900℃の加熱炉内へスプレーすることで成長させた。Si上の薄膜(約20〜30nm)を、0.5Mのナトリウムエトキシドエタノール溶液を、170ml/分のアルゴンガス流速を用いて、6分間で900℃の加熱炉内へスプレーすることで成長させた。
【0084】
ステップ4 グラフェンの収集及び精製
スプレーの後、前記加熱炉チューブ12は室温までアルゴンガス流内(流速70ml/分)で冷却されて大気圧へ開放される。
【0085】
生成物30、36は前記加熱炉チューブ12の壁及び収集容器16から集められ、前記反応装置内で生成される炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムから分離される。この分離は、水中で黒色固体生成物を超音波処理(例えば、黒色固体10mgにつき水5mlを用いる)し、得られる溶液をpHが1.0になるまで塩酸(濃度5M)を用いて酸性にすることで達成される。分散物をその後20分間遠心分離(11000ppm、15557g)し、上澄みをデカントして純水と交換し、さらに分散物を超音波処理し遠心分離する。この処理を上澄みが中性になるまで繰り返し、グラフェン固体を最後に、0.2ミクロンポアサイズのナイロン膜でろ過して単離する。さらにグラフェン固体を400〜3000℃の高温度で数時間アニールして結晶性を改良させる。
【0086】
分析データ
図3は、製造されたまま(精製前)のグラフェンのラマンスペクトルを示す。製造されたままの物質は典型的なG(グラファイト炭素)バンドピークを1580cm-1付近に示し、これは既に報告された値に対応する。G’バンドが2674cm-1に観察された。1350cm-1付近のDバンドの存在は、いくらかの欠陥を示すものか、又はサンプル材料の領域に存在する可能性のあるグラフェン粒子のいくつかのエッジにより励起を示すものであり得る。
【0087】
図4は、前記加熱炉から得られたままのグラフェン固体の空気中での熱重量分析(TGA)の結果を示す。TGA分析は、製造されたままのグラフェン固体は700℃で55%の重量残渣を持つことが示された。この残渣は上で説明した精製工程の後で700℃で8%まで減少する。
【0088】
図5から分かるように、前記材料の分解温度は、製造のままでの約400℃から精製グラフェンについて620℃へと増加し、この精製後の温度はグラフェンで予想される温度である。
【0089】
図6は製造されたままの固体のX線光電子スペクトル(XPS)の結果を示し、製造されたままの物質内に存在する副生成物が、15%ナトリウム含有量(Naの1sピーク、1072eV)を持つ主にナトリウム塩であることを示す。図7に示される炭素ピークを詳細に検討すると、グラファイト炭素の典型的Cの1sピークを284.6eVに、さらに289.4eV(炭酸塩に特異的)にピークを持つことが観察される。XPSはまた、精製工程の有効性を示し、即ちナトリウム含有量の大幅な減少(0.97%)を示しかつCの1s領域での炭酸塩の消失を示した。同様に、このデータにより、グラフェン酸化物又は非常に不規則なグラフェンは生成されず、グラフェンが生成されていることを示している。というのは、図7には284.6eVでのグラファイト性ピークにはなんら有意な肩ピーク(C-O又はC=O基に特徴的な)が見られないからである。
【0090】
走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記加熱炉から取り出された製造されたままの粉末の構造を研究することができた。図8には、製造されたままのグラフェン粉末からの粒子のSEM画像が示されている。種々の粒子サイズが、1〜100ミクロンの範囲で定められ得る。図8で示される粒子の倍率を拡大することで、図9に示されるように前記粒子表面及び粒子内に埋め込まれている小さい粒子の束が観察される。これらの束は明らかにシート状構造を持ち、これらはグラフェンの塊状物であり、前記金属塩の大きな粒子内に閉じ込められている可能性がある。エネルギー分散X線(EDX)スペクトルは、図10に示されるように、これらの構造が主に少量のナトリウム及び酸素が存在する炭素から主にできていることを示した。
【0091】
透過電子顕微鏡(TEM)を、さらにこのグラフェン構造を研究するために用いた。前記精製された材料の希薄溶液を、レース状炭素をコーティングした300メッシュの銅格子上に堆積させることで、図11に示されるように前記グラフェンのシート状の構造が明確に視覚化される。重要なことは、他のナノカーボン構造、例えばスクロール、リボン、ファイバ、ナノチューブ又はグラファイトなどは観察されなかった、ということである。図11に表される画像は第2のシート上にあるグラフェンの1つのシートを示す。前記シートはその寸法が変化するが、通常数ミクロンのサイズである。図12は、エッジが電子ビームに平行であるグラフェンで密にパックされた1つの領域の高分解TEM画像を示す。この画像は、前記領域には数層のグラフェンが存在し、層間の距離が約0.35nmであることを明確に示しており、充分規則的なかつ結晶性のグラフェンが製造されたことを照明している。
【0092】
原子間力顕微鏡(AFM)はナノ構造を特徴づけるために使用される共通の技術である。図13(a)で示される精製材料のAMF画像から、2〜3ミクロンサイズのシート状構造が観察される。図13(b)及び(c)で示されるグラフェン粒子の断面分析は、これが平面でありこの場合には0.8及び1nmの間の高さを持つことが示され、これはこの特定の粒子では3層までが存在し得ることが示される。
【0093】
導電性測定は製造された材料の性質に関して優れた考えを提供し得る。カーボンブラック及びグラフェン酸化物は非常に低い導電性を持ち、前者は10-6及び10-8Sm-1の間を変動し、後者は実質的に絶縁性である。ここで製造された固体グラフェンはエタノール中のグラフェン分散物を真空ろ過したゆるくパックされたものであり、このバルク導電性は0.03Sm-1と測定され、グラフェンとして予測される導電性よりもずっと高い値であることを示す。比較として、グラファイトの面内導電性は103Sm-1程度である。
【0094】
本発明の工程で製造される膜は前記グラフェン粒子と類似のスペクトル的性質を持つ。図14は、石英表面に成長させた約300nm厚さの膜を意図的に機械的に損傷させた膜のSEM画像を示す。
【0095】
EDXスペクトルは、グラフェン膜が主に炭素からできていることを示す。本発明の工程で得られるグラフェン膜の1つの領域のWDXスペクトルを図15に示す。
【0096】
図16は、グラフェン膜のXPSスペクトルを示し、284.6eVにグラファイト性の典型的Cの1sピークが示される。前記のグラファイト粉末同様に、グラフェン酸化物又は高度に不規則なグラフェンの存在も除外される。というのは284.6eVでのグラファイト性Cの1sピークになんらの肩(C-O又はC=Oに特徴的)が観察されないからである。
【0097】
van der Paaw構成での4点プローブを用いてグラフェン膜のシート抵抗が測定され、その平均は22.6kΩ/□(スクエア)であり、この値はグラフェン膜について他の報告された値と同程度であった。
【0098】
現時点では、前記実施例でのエタノールは前記ナトリウムエトキシドの担体として作用すると仮定されている。金属アルコキシドは低蒸気圧を持つ固体であり、純粋な金属アルコキシド蒸気の熱分解によりグラフェンの有効量を製造するために充分な金属アルコキシドを得ることは難しい。本発明の利点は従って、金属アルコキシドの溶液を用いることで、比較的大量のアルコキシドを反応ゾーンに導入することで、グラフェンを比較的高収率及び高い製造速度で得ることができる、ということである。
【0099】
しかしエタノールは担体として作用することに加えて、ナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)の熱分解からの副生成物である炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び水酸化ナトリウム(NaOH)が、前記ホットゾーンでエタノール(CH3CH2OH)流/ミストと反応し、ナトリウムエトキシドを再生する、ということもあり得る。
Na2CO3+2CH3CH2OH=>2NaOCH2CH3+CO2+H2O
及び
NaOH+CH3CH2OH=>NaOCH2CH3+H2O
従って、グラフェンの収率はナトリウムエトキシド(NaOCH2CH3)同様にエタノールの存在にも依存する可能性がある。
【0100】
前記工程は一般に化学蒸気体積(CVD)工程である。しかし、グラフェンを製造するために本発明の工程は、これまで使用されている遷移金属上でメタン及び水素を反応させるためにCVDを用いる化学蒸気堆積(CVD)法よりもいくつかの優れた利点を持つ。本発明は遷移金属を必要としないものであり、グラフェン製造のコストを下げ、前記触媒を生成物から除くという困難を避けることができる。さらに本発明はグラフェン膜を全ての望ましい基板、例えばシリコン、シリコン酸化物又はシリコン炭化物などの上に直接成長させることができ、それにより金属触媒から必要とされる基板への移動の工程を省くことができる。さらに、カーボンナノチューブを製造するために使用され得る類似の条件での遷移金属触媒CVD法とは異なり、他の炭素構造が本発明では生成されない。また、本発明では、非炭素性副生成物が水溶性であり、容易に除去され、さらにナトリウムエトキシドを製造するために再利用され得る。
【0101】
前記実施例はエタノール中のナトリウムエトキシドを用いたが、前記工程は全ての金属アルコキシド(例えばMOR、ここで金属Mはナトリウム(Na)、カリウム(K)又はリチウム(Li)、又はM(OR)2、ここでMはマグネシウム(Mg)であり、及びRは全てのアルキル基であって、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル又はより長鎖の基及びそれらの変位体である)を用いても実施され得る。同様に全てのアルコール(R’-OH)も使用可能である。
【0102】
好ましくはアルコキシドのアルキル基(R)及びそれを溶解させるアルコールのアルキル基(R')は同一である。例えば前記のようなナトリウムアルコキシド/エタノールである。しかし、アルコールとアルコキシドが一致することは必須ではない。
【0103】
さらに、前記溶媒はこのましくはアルコールであるが、他の溶媒も使用され得る。特に極性溶媒であって前記アルコキシドが反応しない溶媒が挙げられる。
【0104】
種々の方法が金属アルコキシド溶液を調製するために使用可能であり、かつ金属アルコキシド及びその溶液は市販されている。例えば、金属アルコキシドは次の方法のすべての方法で得ることができる:金属をアルコールへ添加すること、金属水酸化物をアルコールへ添加すること、又は金属炭酸塩をアルコールへ添加すること、などである。どの場合でも金属アルコキシドはアルコールに溶解させて溶液を調製することができる。金属をアルコールに添加する場合において、金属アルコキシドはアルコール中の溶液として調製され単離されることは必要ない。又は市販の金属アルコキシド又は金属アルコキシド溶液が使用可能である。金属アルコキシドは特に特定の工程で取り扱う必要はない。
【0105】
前記のとおり、金属アルコキシドを加熱炉チューブへスプレーすることは、金属アルコキシド溶液が用いられる限り連続的に行われ得る。本発明の工程は従って、金属アルコキシド溶液を前記スプレー装置へ連続的に供給することで連続工程として実施されることができる。グラフェン膜はバッチ工程で基板上に製造され得る。又は、実質的に連続的方法で多くの数の基板上にグラフェン膜を堆積させるために、コンベアベルト方法で加熱炉のホットゾーンを通って移動する基板上に製造され得る。
【0106】
グラフェンの製造速度は金属アルコキシドの濃度及び/又は前記ガスの流速を制御することで制御され得る。金属アルコキシドの濃度が高いほどグラフェンの製造速度は高くなる。ホットゾーンに導入される材料の量はまた、スプレーの速度により制御され得る。これは前記スプレー装置を通るガスの流速を制御することで制御され得る。前記ガス流は、電子的質量制御装置により制御され得るが、また単純なバルブやバブル計を用いることもできる。加熱炉の温度はまた、前記金属アルコキシドの分解温度よりも高いいかなる温度へも変更され得る。
【0107】
前記の実施態様で、不活性ガスは、グラフェンの製造の間前記加熱炉チューブ12を通じて連続的に流される。前記記載の装置では単純なスプレー装置が使用されている。しかし、当業者であれば種々のスプレー装置が使用可能であることは理解できる。特に種々のスプレー装置には、限定されるものではないが、シリンジポンプ装置、アトマイザー、ネブライザー及び超音波ネブライザーが挙げられる。種々のサイズの液滴が生成され得る。さらに前記溶液は、前記液滴をホットゾーンへ輸送するための担体ガスを用いるよりも直接に高温ホットゾーンに導入され得る。熱分解は前記液相から直接起こることも可能であるが、液滴は急激な加熱により熱分解の前に蒸発することがあり得る。
【0108】
前記装置は加熱炉チューブを用いるが、溶液中の金属アルコキシドの液滴が導入され得る全ての容器又はチャンバも使用することが可能である。前記加熱路チューブ、容器又はチャンバはいかなるサイズでもよい。前記収集容器又はチャンバはフィルタを含むことができ、これにより固体粉末を集め、ガスを通過させる。前記装置では、加熱炉チューブは水平に示されている。しかし加熱炉チューブはまた垂直でも使用でき、金属アルコキシド溶液は流液体又は液滴又は蒸気として前記頭部から添加され得る。この垂直設定では、製造されたグラフェン粉末を全ての寸法を取りうる収集チャンバで受けた後単純に底から集められ、ガスは再循環させることができる。
【0109】
図17は、本発明の第2の実施態様によるグラフェンの製造のための方法を表す。この方法は、第1の実施態様の方法に類似する。ここで第1の実施態様では、金属アルコキシドは分解装置202のホットゾーン200で分解してグラフェンを生成する。しかし第2の実施態様では、金属アルコキシドは前記ホット領域200で、その場調製される。炭酸ナトリウムの形で第1の試薬が加熱炉チューブ206のホット領域200内のボート204に入れられる。エタノールの形で第2の試薬がスプレーにより前記ホット領域200へ導入される。エタノールは炭酸ナトリウムと反応して金属アルコキシドをナトリウムエトキシドの形で生成し、これが熱分解を受けてグラフェン粉末の形でグラフェンを生成し、前記ボート204内に集められる。
【0110】
前記ボート204は、グラフェンを収集するために取り出され、別の第1の試薬のボートが前記加熱炉チューブ206内に挿入される。このようにしてグラフェンの製造が実質的の連続的に続けられ得る。
【0111】
第2の実施態様で使用される加熱炉チューブ206は第1の実施態様で使用されるものと同じであってよく、前記した。加熱速度は正確に前と同じであるが、最終温度は異なりここでは炭酸ナトリウムの分解温度である851℃よりも低い800℃である。エタノール及びアルゴンの流れはまた同じである。800℃への加熱はアルゴン流速70ml/分で開始され、必要な温度に到達した後は170ml/分へ増加され、エタノールが加熱炉へスプレーされる。炭酸ナトリウム(通常1.5gであるが使用されるボート204のサイズにより変わり得る)が加熱炉206の中央のボート204内に入れられ、エタノールスプレー208がこの温度で蒸発して炭酸塩上を通過し、ナトリウムエトキシドを生成し、これが即時に分解してグラフェンと炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを生成する。
【0112】
生成したグラフェンは集められ、第1の実施態様で説明したステップ4で記載されたように精製され得る。
【0113】
本発明の第2の実施態様による方法はナトリウムエトキシド及びエタノールにより説明されたが、第1の実施態様と同様に、第2の実施態様での他の試薬及び/又はアルコールも使用可能である。例えば、他の金属炭酸塩及び/又は他のアルコールが使用可能である。使用可能な他の金属炭酸塩の例は第1に実施態様の説明において与えられている。
【0114】
第1及び第2の試薬が利用可能な限りグラフェンの製造は連続する。前記のように、金属アルコキシドの熱分解は副生成物として金属の炭酸塩及び水酸化物を与える。これらの副生成物はまた、第1の試薬と反応してグラフェンを生成することができる。前記第1及び第2の試薬は、この工程を実質的に連続的に操作するために連続的にまたは間欠的に補充することができる。例えば、この工程を工業規模で実施するために、垂直加熱炉チューブが使用され得る。この場合炭酸ナトリウムを単純にそれを通じてエタノールをスプレーしつつ滴下する。グラフェンはその底部で容易に収集され得る。
【0115】
当業者は、前記実施態様は例示のために記載され、なんらを限定するために記載されたものではないことは理解できるであろう。また当業者は、特許請求の範囲で定められる本発明の範囲から離れることなく種々の変法・変更が可能であることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン製造のための工程であり、前記工程は:溶媒中の金属アルコキシドを分解装置に導入するステップを含み、前記分解装置が、金属アルコキシドを熱分解してグラフェンを生成するための充分な高温を持つ第1の領域を含む、工程。
【請求項2】
請求項1に記載の工程であり、前記溶媒がアルコールを含む、工程。
【請求項3】
請求項2に記載の工程であり、前記アルコールのアルキル基が前記金属アルコキシドの前記アルキル基と同じである、工程。
【請求項4】
請求項3に記載の工程であり、前記アルコールがエタノールを含み、前記金属アルコキシドが金属エトキシドを含む、工程。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の工程であり、前記金属アルコキシドがナトリウムアルコキシドを含む、工程。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の工程であり、さらに前記溶媒の蒸発のステップを含む、工程。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の工程であり、前記溶媒を導入するステップが、前記金属アルコキシドの液滴を作ることを含む、工程。
【請求項8】
請求項7に記載の工程であり、前記液滴が、前記金属アルコキシド溶液のスプレー、ミスト又はエアロゾルを含む、工程。
【請求項9】
請求項7に記載の工程であり、前記液的がガス流内で作られるか、又はガス流内に導入される、工程。
【請求項10】
請求項9に記載の工程であり、前記ガスが不活性である。
【請求項11】
請求項9又は10のいずれか1項に記載の工程であり、前記ガスを前記第1の領域に流通させるステップをふくむ、工程。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の工程であり、さらに、前記ガスを、前記第1の領域よりも冷たい第2の領域に流通させてグラフェンを収集するステップを含む、工程。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の工程であり、グラフェン粉末が製造される、工程。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の工程であり、基板上にグラフェンを成長させるステップを含む、工程。
【請求項15】
請求項14に記載の工程であり、前記基板が、シリコン、シリコン酸化物、ガラス及び/又はシリコン炭化物の少なくとも1つである、工程。
【請求項16】
請求項14又は15のいずれか1項に記載の工程であり、前記グラフェン膜の厚さを制御するステップを含む、工程。
【請求項17】
請求項14乃至16のいずれか1項に記載の工程であり、前記膜の成長時間を制御するステップを含む、工程。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか1項に記載の工程であり、前記第1の領域が、前記金属アルコキシドの分解点を超える温度で維持される、工程。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の工程であり、前記第1の領域が、300から1800℃の範囲の温度で維持される、工程。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれか1項に記載の工程であり、前記金属アルコキシドがナトリウムアルコキシドを含む、工程。
【請求項21】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の工程であり、前記工程が実質的に連続的に操作される、工程。
【請求項22】
請求項1乃至21のいずれか1項に記載の工程であり、さらに、前記グラフェンを水で洗浄して前記熱分解ステップの他の生成物を除去するステップを含む、工程。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の工程であり、さらに前記グラフェンをアニーリングするステップを含む、工程。
【請求項24】
請求項23に記載の工程であり、前記グラフェンのアニーリングのステップを400及び3000℃の間の温度で実施する、工程。
【請求項25】
請求項1乃至24のいずれか1項に記載の工程であり、前記金属アルコキシド工程が、溶媒熱工程以外の方法で得られる、工程。
【請求項26】
請求項1乃至25のいずれか1項に記載の工程であり、前記金属アルコキシド溶液が、前記金属をアルコールに添加すること、金属水酸化物をアルコールに添加すること及び/又は炭酸金属塩をアルコールに添加すること、の少なくともいずれか1つを用いて得られる、工程。
【請求項27】
グラフェンを製造するための工程であり、前記工程が:少なくとも第1の試薬と第2の試薬を分解装置の第1の領域に導入するステップを含み、前記第1及び第2の試薬が反応して金属アルコキシドを生成し;及び前記第1の領域が前記金属アルコキシドを分解してグラフェンを生成するために十分な高温を持つ、工程。
【請求項28】
請求項27に記載の工程であり、前記第1の試薬が、金属、金属炭酸塩及び/又は金属水酸化物の少なくとも1つを含み、及び前記第2の試薬がアルコールを含む、工程。
【請求項29】
請求項28に記載の工程であり、前記金属がナトリウムである、工程。
【請求項30】
請求項28又は29のいずれか1項に記載の工程であり、前記アルコールがエタノールである、工程。
【請求項31】
請求項27乃至30のいずれか1項に記載の工程であり、前記第1及び/又は第2の試薬が、間欠的に補充される、工程。
【請求項32】
請求項27乃至31のいずれか1項に記載の工程であり、前記第2の試薬が前記分解装置へ液滴として導入される、工程。
【請求項33】
請求項32に記載の工程であり、前記液適が、ミスト、スプレー又はエアロゾルを含む、工程。
【請求項34】
請求項33に記載の工程であり、前記液滴が、ガス流内で作られるか、又はガス流内へ導入される、工程。
【請求項35】
請求項27乃至34のいずれか1項に記載の工程であり、前記第1の領域へ流通させるステップを含む、工程。
【請求項36】
請求項34又は35のいずれか1項に記載の工程であり、前記ガスが不活性である、工程。
【請求項37】
請求項27乃至36のいずれか1項に記載の工程であり、前記第1の試薬が、ボートに保持される、工程。
【請求項38】
請求項27乃至37のいずれか1項に記載の工程であり、グラフェン粉末が製造される、工程。
【請求項39】
請求項27乃至38のいずれか1項に記載の工程であり、前記第1の領域が、300℃から1800℃の範囲の温度に維持される、工程。
【請求項40】
請求項27乃至39のいずれか1項に記載の工程であり、前記工程が実質的に連続的に操作される、工程。
【請求項41】
請求項27乃至40のいずれか1項に記載の工程であり、さらに、グラフェンを水で洗浄して前記熱分解ステップでの他の生成物を除去するステップを含む、工程。
【請求項42】
請求項27乃至41のいずれか1項に記載の工程であり、さらに前記グラフェンをアニーリングするステップを含む、工程。
【請求項43】
請求項42に記載の工程であり、前記グラフェンのアニーリングのステップが、400℃及び3000℃の間の温度で実施される、工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2013−500233(P2013−500233A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522248(P2012−522248)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051099
【国際公開番号】WO2011/012874
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512010247)ユニバーシティー オブ ダラム (1)
【Fターム(参考)】