説明

金属イオンとポリペプチドとの錯化

非水性懸濁媒体中に存在するポリペプチドの水性媒質への暴露時の安定性を改善する調合物および方法が提供される。本発明の特定の観点では、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁された金属イオンおよびポリペプチドの錯体を含んでなる調合物が提供される。水性媒質がそのような調合物に導入される時、個々のポリペプチド分子の凝集が低下し、ポリペプチドの安定化に役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は2005年6月23日に出願された特許文献1の利益を主張し、これは引用により全部、本明細書に編入する。
発明の分野
本発明の特定の観点は、非水性媒体(vehicle)に懸濁されたポリペプチドが、水性媒質(media)へ暴露された時の安定性を改善する調合物(formulations)および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
タンパク質は疾患の防止、処置および診断のための薬剤(pharmaceuticals)としての用途を有する。タンパク質は水性環境で自然に活性であり、そして好適なタンパク質性調合物はこのような水溶液である。タンパク質は典型的には水溶液中でわずかに安定なだけであり、しかし水性の製薬学的調製物(pharmaceuticals preparations)は周囲または生理学的温度で短い使用期限を現し、すなわちしばしば冷蔵を必要とする。さらに水溶液中の多くのタンパク質の溶解性は限られ、そして高濃度で水溶液に可溶性のタンパク質は凝集および沈殿し易い。さらに水が可塑剤として作用し、そしてタンパク質分子のアンフォールディング(unfolding)および不可逆的な分子凝集を促進する。非水性または実質的に非水性のタンパク質調合物は、このように一般に周囲または生理学的温度で時間を通してタンパク質の安定性を確実とすることが必要である。
【0003】
非水性のタンパク質調合物を調製するための1つの手段は、水性タンパク質調合物を乾燥粉末に変える(reduce)ことである。タンパク質調合物は、凍結−乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥およびデシケーションを含む種々の技術を使用して乾燥することができる。乾燥粉末タンパク質調合物は、周囲温度またはたとえ生理学的温度でも時間を通して有意に増大した安定性を現す。しかし非経口的注入または移植可能なデリバリーデバイスに使用するためのような流出性(flowable)タンパク質調合物が必要な場合、乾燥粉末タンパク質調合物は使用が限定されている。
【0004】
乾燥タンパク質粉末は非水性の流出性媒体に懸濁され得るが、そのような懸濁物は周囲またはたとえ生理学的温度でも長期間にわたり安定である。しかし非水性媒体内に懸濁されたタンパク質は、タンパク質が水性媒質に暴露された時、沈殿する可能性があることが分かった。非水性の懸濁媒体に含まれるタンパク質が水性環境の流体に暴露される場合、タンパク質は変性し、そして続いて凝集し、タンパク質の沈殿を生じる恐れがあると考えられる。したがって当該技術分野には、タンパク質が水性媒質に暴露された時、非水性媒体に懸濁されたタンパク質の安定性を改善するタンパク質調合物および方法が必要である。
【参考文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第60/693,173号明細書
【発明の開示】
【0006】
発明の要約
特定の観点において本発明は、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁された金属イオンとポリペプチドとの錯体を含んでなる調合物に関し、ここで調合物を水性媒質に暴露すると、ポリペプチドは実質的な程度まで凝集しない。他の態様では、本発明はポリペプチドと金属イオンとの錯体を形成することを含んでなる、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁されたポリペプチドの、水性媒質への暴露時の安定性を改善する方法を対象とする。
具体的態様の詳細な説明
本発明の特定の態様は、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁されたポリペプチドの、水性媒質への暴露時の安定性を改善する調合物に関する。調合物は非水性懸濁物に懸濁されたポリペプチドと金属イオンとの錯体を含んでなる。水性媒質への暴露で、ポリペプチドは安定性を保持し、そして実質的な程度に凝集しない。本発明の他の観点は、ポリペプチドと金属イオンとの錯体を形成することを含んでなる、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁されたポリペプチドの、水性媒質への暴露時の安定性を改善する方法に関する。ポリペプチド/金属イオン錯体は水性媒質への暴露に際して安定性を保持し、そしてポリペプチドは実質的な程度に凝集しない。
【0007】
本明細書で使用する用語「錯体」は、少なくとも1つの金属イオンに配位結合したポリペプチドを含んでなる組成物を指す。「配位結合した」とは、ポリペプチドの1つの原子が金属イオンとの結合を形成し、ここでポリペプチドの原子はルイス塩基供与原子であり、そして金属イオンはルイス酸受容原子である。
【0008】
本明細書で使用する用語「懸濁物」とは、連続相および少なくとも1つの不連続相を含む少なくとも二相性である組成物を指す。用語「懸濁された」とは、懸濁液の不連続相中にある物質の状態を指す。
【0009】
本明細書で使用する用語「懸濁媒体」とは、懸濁物の連続相を指す。本発明の特定の態様では、ポリペプチド/金属イオン錯体が懸濁媒体に懸濁されている。ポリペプチド/金属イオン錯体は一般に、その元の物理的形態を、懸濁媒体に懸濁されているポリペプチド/金属イオン錯体を含有する剤形の使用期限を通して保持する。例えば固体粒子であるポリペプチド/金属イオン錯体は、一般に懸濁媒体に懸濁された粒状のポリペプチド/金属イオン錯体を含有する剤形の使用期限を通して粒子を保持する。
【0010】
本明細書で使用する「非水性」とは、実質的に水を含まない物質を指す。非水性液体は好ましくは、約5重量%未満の水、さらに好ましくは約2重量%未満の水、そして最も好ましくは約1重量%未満の水を含んでなる。
【0011】
本明細書で使用する用語「水性媒質」とは、ある程度の水を含み、そしてまた例えば水との多成分溶液を形成する塩のような1もしく複数の他の物質を含んでもよい物質を指す。水性媒質は好ましくは少なくとも約50重量%の水、さらに好ましくは少なくとも60重量%の水、そして最も好ましくは少なくとも75重量%の水を含んでなる。
【0012】
本明細書で使用する句「水性媒質中で不溶性」とは、水性媒質中で実質的程度に溶解できない物質を指す。痕跡量もしくはわずかな量より多くの物質が水性媒質に溶解されれば、物質は「実質的程度に溶解される」。
【0013】
本明細書で使用する用語「凝集する」とは、個々のポリペプチド分子が会合し(associate)、集まり(gather)、または一緒に連結する(join together)工程を指す。痕跡量もしくはわずかな量より多くないポリペプチドが凝集する場合、ポリペプチドは「実質的程度に凝集しない」。
【0014】
本明細書で使用する用語「生物適合性」とは、生きている組織および生物に対して生理学的に許容され得る物質を指す。生物適合性物質は、ほとんどの患者に導入された場合に、重大な悪反応または応答を引き起こさない。
【0015】
本明細書で使用する句「水性媒質への暴露」とは、非水性媒体中に存在する金属イオンとポリペプチドの錯体を含んでなる調合物の、任意の測定可能な量の水性媒質への導入を指す。
【0016】
本明細書で使用する句「水性媒質への暴露時の安定性を改善する」とは、タンパク質分子が存在する非水性調合物の、水性媒質に対する暴露時に起こるタンパク質分子の凝集における測定可能な減少を指す。
【0017】
本明細書で使用する用語「ポリペプチド」とは、天然に由来する、合成的に製造された、または組換え的に製造されたペプチド、タンパク質、アミノ酸のポリマー、ホルモン、ウイルスおよび抗体を指す。またポリペプチドは、リポタンパク質および例えばグリコシル化タンパク質のような翻訳後修飾タンパク質、ならびにD−アミノ酸、修飾化、誘導化、または自然に存在しないアミノ酸をそれらの構造の一部としてD−もしくはL−立体配座および/またはペプトミメティック(peptomimetic)単位中に有するタンパク質またはタンパク質物質を含む。
【0018】
ポリペプチドは典型的には疎水性/親水性界面で不安定である。具体的には非水性媒体中に調合された(formulated)ポリペプチドは、水性媒質に暴露された時に不安定である。注入により、または移植可能なデリバリーデバイスからデリバリーされるポリペプチドは、典型的には非水性媒体に懸濁された粒子として調合されて、生理学的温度で長期間にわたりポリペプチドの安定性を確実とする。しかし不安定性は、ポリペプチドが水性の使用環境に入った時に起こる。
【0019】
非水性媒体に懸濁されたポリペプチドが水性流体と遭遇した場合、ポリペプチドは開き(unfold)、そして引き続き凝集し、ポリペプチドの沈殿を生じる可能性があると考えられる。さらに非水性媒体に懸濁されたポリペプチドがそれらの天然の立体配座に固定された(lock)場合、ポリペプチドの変性の可能性は一般に水性媒質への暴露で低下し、これによりポリペプチドの凝集および同時に起こる沈殿を防止すると考えられる。
【0020】
したがって本発明の特定の態様は、ポリペプチドを金属イオンで錯化することによりポリペプチドがそれらの天然の立体配座に固定されるように、ポリペプチドを調合することを対象とする。分子間の錯化が起こる場合、三次元のネットワークが形成し、これがポリペプチドをその天然の立体配座に固定すると考えられる。水性媒質への暴露において、金属イオン/ポリペプチド錯体は変性されにくくなり、ポリペプチドの凝集を防ぐ。したがって非水性媒体中に存在する金属イオン/ポリペプチド錯体が注入により、または移植可能なデリバリーデバイスからデリバリーされる場合、凝集は水性の使用環境中でポリペプチドの移行中には起こらない。このように本発明の特定の観点は、注入によるデリバリーのために、または生理学的温度で移植可能なデリバリーデバイスからの徐放性デリバリーのために、非水性の粘稠な媒体中の懸濁液として安定に調合されたポリペプチド/金属イオン錯体に関する。
【0021】
本発明の特定の観点は、非水性の生物適合性懸濁媒体中に懸濁されたポリペプチド/金属イオン錯体を含んでなる調合物に関する。錯化されたポリペプチドは、調合物の水性媒質への暴露で実質的な程度に凝集しない。本発明の好適な態様では、ポリペプチド/金属イオン錯体は水性媒質中で不溶性である。本発明の別の態様では、ポリペプチド/金属イオン錯体は水性媒質中で可溶性である。
【0022】
本発明のさらなる態様は、ポリペプチドと金属イオンとの錯体を形成することを含んでなる、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁されたポリペプチドが水性媒質へ暴露された時の安定性を改善する方法に関する。
【0023】
金属イオンと錯化されることができるポリペプチドには、限定するわけではないが、天然に由来する、および合成的に、または組換え的に製造されたペプチド、タンパク質、アミノ酸のポリマー、ホルモン、ウイルス、抗体等を含む。またポリペプチドは、リポタンパク質および例えばグリコシル化タンパク質のような翻訳後修飾形態、ならびにD−アミノ酸、修飾化、誘導化、または自然に存在しないアミノ酸をそれらの構造の一部としてD−もしくはL−立体配座および/またはペプチドミメティック単位中に有するタンパク質またはタンパク質物質(protein substance)を含む。好ましくはポリペプチドは骨形態形成タンパク質、インスリン、コルヒチン、グルカゴン、甲状腺刺激ホルモン、副甲状腺および下垂体ホルモン、カルシトニン、レニン、プロラクチン、コルチコトロピン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、絨毛性性腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン、ウシソマトトロピン、ブタソマトトロピン、オキシトシン、バソプレッシン、GRF、ソマトスタチン、リプレシン、パンクレオチミン、黄体形成ホルモン、LHRH、LHRHアゴニストおよびアンタゴニスト、ロイプロリド、インターフェロンアルファ−2a、インターフェロンアルファ−2b、インターフェロンタウ、インターフェロンオメガおよびコンセンサスインターフェロンのような哺乳動物起源のインターフェロン、インターロイキン、表皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子−I(IGF−I)、インスリン様成長因子−II(IGF−II)のような増殖因子、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−6、インターロイキン−8、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、腫瘍壊死因子−β(TNF−β)、インターフェロン−β(INF−β)、インターフェロン−γ(INF−γ)、コロニー刺激因子(CGF)、血管細胞増殖因子(VEGF)、トロンボポイエチン(TPO)、間質細胞由来因子(SDF)、胎盤増殖因子(P1GF)、肝細胞増殖因子(HGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、グリア−由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、凝固因子、またはヒト膵臓ホルモン放出因子がある。
【0024】
本発明の特定の観点では、異なるポリペプチドを組み合わせることが望ましいかもしれない。それとして任意の前記ポリペプチドの例を金属イオンと単独で、または他のポリペプチドと組み合わせて錯化することができる。
【0025】
ポリペプチドに錯化することができる好適な金属イオンは、多価金属イオンであり、そして例えば亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ニッケルおよび銅を含む。亜鉛が特に好適な金属イオンである。
【0026】
本発明の好適な観点では、金属イオン/ポリペプチド錯体中の金属イオン対ポリペプチドのモル比は約1:1〜約100:1である。本発明のさらに好適な態様では、金属イオン対ポリペプチドのモル比は約10:1〜約50:1である。本発明の特に好適な態様では、金属イオン対ポリペプチドのモル比は約15:1〜約30:1である。
【0027】
本発明の特定の態様では、金属イオン/ポリペプチド錯体は粒子を形成するために乾燥される。粒子の直径は好ましくは約0.3〜約50ミクロンの間、そしてさらに好ましくは約1〜約10ミクロンの間である。本発明の好適な態様では、ポリペプチド/金属イオン錯体の粒子は、粉砕(milling)、篩分け、噴霧乾燥または超臨界流体抽出により調製される。
【0028】
本発明の特定の態様に従い、ポリペプチド/金属イオン錯体は非水性媒体に安定に懸濁される。一般に懸濁媒体は、非水性の生分解性の生物適合性物質から実質的に形成された単相の粘稠な流出性(flowable)組成物である。ポリペプチド/金属イオン錯体は好ましくは懸濁媒体中で溶解性をほとんど現さないか、または全く現さない。
【0029】
本発明の特定の態様によるポリペプチド/金属イオン錯体懸濁物は、所望のポリペプチド/金属イオン錯体を懸濁媒体中に当該技術で既知の適切な手段または方法を使用して分散することにより調製することができる。ポリペプチド/金属イオン錯体は、懸濁媒体中に有益な作用剤(agents)の分散を可能とする任意の所望する形態で提供することができる。懸濁媒体中の分散前に、ポリペプチド/金属イオン錯体は好ましくは安定化された乾燥粉末形態で提供される。本発明の特定の態様に従い、懸濁液中に含まれるポリペプチド/金属イオン錯体は、一般に水中で分解性であるが、周囲および生理学的温度で乾燥粉末として安定である。好ましくは懸濁液は約3カ月間、より一層好ましくは約6カ月間、そしてさらにより一層好ましくは約1年間、実質的に均一性を保持する。さらにポリペプチド/金属イオン錯体は、懸濁媒体中で約3カ月間、より一層好ましくは約6カ月間、そしてさらにより一層好ましくは約1年間、物理的および化学的に安定性を保持する。
【0030】
本発明の特定の観点に従いポリペプチド/金属イオン錯体を懸濁するために使用する非水性の生物適合性媒体は、場合によりポリマー、溶媒または表面活性剤の少なくとも1つを含んでなる。本発明の好適な態様では、懸濁媒体はポリマーまたは溶媒の少なくとも1つを含んでなる。本発明のさらに好適な態様では、懸濁媒体はポリマーおよび溶媒の両方を含んでなり、そして場合により表面活性剤を含んでなる。
【0031】
非水性懸濁媒体を調製するために使用することができるポリマーには、例えばポリ乳酸(PLA)(約0.5〜2.0i.v.の範囲の固有粘度を有する)およびポリ乳酸グリコール酸(polylacticpolygllycolic acid;PLGA)(約0.5〜2.0i.v.の範囲の固有粘度を有する)のようなポリエステル、ポリビニルピロリドン(約2,000〜1,000,000の分子量範囲を有する)のようなピロリドン、酢酸ビニルのような不飽和アルコールのエステルもしくはエーテル、およびPluronic105のようなポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(37℃で高い粘性を現す)がある。好適なポリマーにはポリビニルピロリドンを含む。
【0032】
懸濁媒体を調製するために使用することができる溶媒には、例えば乳酸ラウリルのようなカルボン酸エステル、グリセリンのような多価アルコール、ポリエチレングリコールのような多価アルコールのポリマー(約200〜600の分子量を有する)、オレイン酸およびオクタン酸のような脂肪酸、ヒマシ油のような油、炭酸プロピレン、安息香酸ベンジル、ラウリルアルコール、ベンジルアルコールまたは酢酸トリアセチンのような多価アルコールのエステルがある。好適な溶媒には乳酸ラウリルを含む。
【0033】
懸濁媒体は、例えばグリセロールモノラウレートのような多価アルコールのエステル、エトキシル化ヒマシ油、ポリソルベート、乳酸ミリスチル(Ceraphyl50)のような飽和アルコールのエステルもしくはエーテル、およびPluronicのようなポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含む表面活性剤を含むことができる。好適な表面活性剤にはグリセロールモノラウレートおよびポリソルベートを含む。
【0034】
また懸濁媒体は、例えば酸化防止剤、安定化剤および粘性調整剤のような賦形剤を含むことができる。使用する賦形剤の種類にかかわらず、懸濁媒体に含まれる賦形剤材料は、好ましくは懸濁媒体の約25重量%以下を占め、そして賦形剤が使用される好適な態様では、懸濁媒体には約15重量%以下、約10重量%以下または5重量%以下の賦形剤材料を含む。
【0035】
非水性媒体は、選択した期間にわたり所望する速度でポリペプチドの投与を可能にする調合物を提供するために、変動する量のポリペプチド/金属イオン錯体を装填する(loaded)ことができる。本発明の好適な態様に従い、ポリペプチド/金属イオン錯体調合物はポリペプチドの効能(potency)に依存して約0.1重量%〜約15重量%のポリペプチド/金属イオン錯体、そしてより好ましくは約0.4重量%〜約5重量%で含む。ポリペプチド/金属イオン錯体が粒状物質として懸濁液内に分散されるならば、変動する量のポリペプチド/金属イオン錯体および1もしくは複数の賦形剤を含むことができるポリペプチド/金属イオン錯体粒子は、好ましくはポリペプチド/金属イオン錯体懸濁物の約25重量%以下を占める。
【0036】
懸濁媒体とポリペプチド/金属イオン錯体の懸濁物は、すべての種類の剤形、例えば経口懸濁剤、眼科用懸濁剤、インプラント懸濁剤、注射用懸濁剤および注入用(infusion)懸濁剤に使用するために調製することができる。好適な剤形は移植可能な(inplantable)浸透性剤形である。ポンプにより作動される(pump−driven)とも呼ばれる浸透的に作動されるデバイスには、米国特許第5,985,305号;同第6,113,938号;同第6,132,420号;同第6,156,331号;同第6,395,292号明細書に記載されているものを含み、これら各々は引用により全部、本明細書に編入する。
【0037】
本発明の特定態様によるポリペプチド/金属イオン錯体懸濁物は、移植可能なデリバリーデバイスから所望の流速での分散を可能とするように調合することができる。特にポリペプチド/金属イオン錯体懸濁物は、デリバリーされるポリペプチド/金属イオン錯体およびポリペプチド/金属イオン錯体懸濁物をデリバリーするために使用する移植可能なデバイスに依存して、最高約5μl/日の流速でデリバリーするために調合することができる。ポリペプチド/金属イオン錯体が低い流速を提供するように設計された浸透圧で作動する移植可能なデバイスからデリバリーされる場合、ポリペプチド/金属イオン錯体懸濁物は好ましくは約0.5から5μl/日の間でのデリバリー用に調合され、約1.5μl/日および1.0μl/日の流速が特に好適である。
【0038】
懸濁媒体は、所望する投与経路に生理学的に許容され得ることが好ましく、例えば投与時に懸濁物の受容体による悪い生物学的応答がない。本発明の幾つかの態様では、成分は限定するわけではないが注射、注入または移植を含む非経口の投与経路に適していることが好ましい。
【0039】
以下の実施例は本発明の特定態様の具体的説明であり、そして本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0040】
実施例1:非水性の単相粘稠媒体の調製
安息香酸ベンジル(BB)(22.81g)およびベンジルアルコール(BA)(J.T.Bakerから得た)(2.55g)を窒素を充填したグローブボックス中のビーカー中で混合した。ポリビニルピロリドンC30(BASF、マウントオリーブ、ニュージャージー州)(9.96g)を、窒素を充填したグローブボックス中のガラス容器中のBB/BAの混合物(9.58g)に加えた。混合物はパチュラを用いて手で撹拌して、ポリマー粉末を完全に湿潤化した。混合物はさらに65℃で、オーバーヘッドミキサーに付いたスパチュラを用いて単相になるまで撹拌した。
【0041】
さらに非水性の単相の粘稠な媒体(その組成は以下の表1に示す)を、上記の手順に従い調製した。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2:ヒト成長ホルモン粒子の調製
ヒト成長ホルモン(hGH)、シュクロースおよびメチオニンの個々の溶液を、5.0mM Trisバッファー、pH7.4に調製した。次いで3つの溶液を混合して、それぞれ100/200/100/9.1のhGH/シュクロース/メチオニン/Trisの重量比を有するhGH/シュクロース/メチオニン/Tris溶液を得た。この溶液を3500rpmで15分間、4℃で遠心し、そして上清を以下の条件を使用して噴霧乾燥した。
噴霧する空気圧 0.2MPa
空気流 0.43m/分
入口温度 121−122℃
出口温度 87℃
噴霧乾燥器の排気湿度 4〜5%
噴霧乾燥器の排気温度 70℃
溶液流速 4ml/分
hGH粒子を得、その大部分は2〜20ミクロンのサイズ範囲にあった。
【0044】
実施例3:hGH/Zn錯体の調製
40mg/mLのhGH溶液および27.2mMの酢酸亜鉛溶液は、5mM TRISバッファー、pH7.0中に調製した。等しい部のhGHおよび酢酸亜鉛溶液を混合して、15:1の亜鉛 対 hGHのモル比を有する亜鉛/hGH溶液を得た。亜鉛/hGH溶液はおよそ1時間、4℃で錯化させた。hGH/Zn粒子は、以下の条件を使用して噴霧乾燥により調製した。
噴霧する空気圧 0.2MPa
空気流 0.43m/分
入口温度 121−122℃
出口温度 87℃
噴霧乾燥器の排気湿度 4〜5%
噴霧乾燥器の排気温度 70℃
溶液流速 4ml/分
hGH/Zn粒子を得、その大部分は2〜20ミクロンのサイズ範囲にあった。
【0045】
実施例4:タンパク質粒子の溶解性試験
種々の媒質中のhGH/Zn粒子の溶解性を測定した。hGH/Zn粒子(4−8mg)は、1.0mlの脱イオン水(DI水)、リン酸ナトリウムバッファー(50mM、pH7.4、150mMのNaClを含有する)(PBS)、または20mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むPBSを含む1.5mlのエッペンドルフ試験管に加えた。エッペンドルフ試験管を室温で30分間、ゆっくりと両端にわたり回転し、そして次いで10,000rpmで1分間遠心した。上清中のhGH濃度は、UV吸収を測定することにより決定した。hGH/Znの溶解性は溶解したhGHの画分として表し、そして表2に示す。DI水中には本質的に不溶性であるが、hGH/Zn錯体はPBS中で可溶性である。また表2はhGH/Zn錯体の形成が錯化剤EDTAにより完全に可逆性であることを表す。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例5:懸濁物の調製
それぞれ実施例2および3に記載したように調製したhGHおよびZn/hGH粒子を、非水性の単相の粘稠媒体(実施例1に記載したように調製した調合物13)に装填した。調合物の組成は表3に示す。タンパク質粒子および非水性の単相の粘稠媒体を、窒素を充填したグローブボックス中のガラス容器に加えた。混合物はスパチュラを用いて手で撹拌して 、タンパク質粒子を完全に湿潤化した。さらに混合物は65℃で、オーバーヘッドミキサーに付いたスパチュラを用いて均一な懸濁物になるまで撹拌した。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例6:hGHの安定性実験
非水性媒体中のhGH粒子の安定性は、以下の手順に従い測定した。非水性媒体に懸濁したhGH粒子は、DI水または150mMのNaClを含有する50mMリン酸ナトリウムバッファー(PBS)、pH7.4のいずれかでスパイクした(表4)。懸濁物はDI水または
PBSが非水性媒体と均一に混合するまで穏やかに撹拌した。次いで懸濁物を37℃でインキュベーションした。hGHモノマー含量および総タンパク質回収(水溶性hGHの画分)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して測定した。
【0050】
【表4】

【0051】
図1は表4に示すように水性媒質を加えた後、インキュベーション時間の関数としてhGHモノマー含量を示す。調合物23を調合物18と比較すると、hGH/Zn錯体は非錯化hGHよりも安定であることは明らかである。hGH/Zn錯体は、20%PBSを含有する媒体中のモノマー含有に有意な減少を表したが、PBS中のhGH/Znの脱錯化により、可溶性hGHを生じた。実施例4の表2に示すように、hGH/Zn錯体はDI水に不溶性であるが、PBSには可溶性である。
【0052】
図2は不溶性hGH/Zn錯体が不可逆的凝集に抵抗性であることを示す。調合物23を調合物18と比較すると、hGH/Zn錯体が非錯化hGHよりも有意に高いhGH回収または可溶性hGHの画分を生じることは明らかである。しかしhGH/Zn錯体の有意な凝集が、20%PBSを含有する非水性媒体で起こった。これら調合物のインビボデリバリーは、図2に示すインキュベーション時間よりも調合物と水性媒質との有意に短い接触時間に対応するようである。実施例4の表2に示すように、hGH/Zn錯体はPBSには可溶性であるが、DI水には不溶性である。
【0053】
実施例7:オメガ−インターフェロン/亜鉛錯体の調製
pH5.5の5mM酢酸バッファー、またはpH7.5、8.3もしくは9.6の5mM Trisバッファーのいずれかの溶液を調製した。酢酸亜鉛をバッファー溶液に加えて、5mM酢酸亜鉛の溶液を作成した。オメガ−IFNを別の容器中の同じバッファーに加えて、1mg/mLオメガ−IFNの溶液を作成した。亜鉛を含有する溶液を適当量のオメガ−IFN溶液に加えて、1:1〜50:1の範囲の亜鉛:オメガ−IFNモル比を有する混合物を作成した。
【0054】
実施例8:可溶性オメガ−インターフェロンの割合の決定
可溶性オメガ−IFNの画分を決定するために、亜鉛およびオメガ−IFNを最初に上記のように合わせた。生じた混合物を目で観察し、遠心し、そして透明な上清中の可溶性オメガ−IFNの量を測定した。混合物中のオメガ−IFNの総量および上清中のオメガ−IFNの量を比較することにより、可溶性オメガ−IFNの割合を決定した。得られたデータ(以下の表5)は、可溶性オメガ−IFNの画分がpHおよびオメガ−IFNに対する亜鉛の比率で変動することを示す。
【0055】
【表5】

【0056】
実施例9:亜鉛/オメガ−IFN錯体のマイクロ熱量測定
マイクロ熱量実験は、亜鉛およびオメガ−IFNの混合物について5mMの酢酸バッファー、pH5.5中で行った。5mMの酢酸バッファー中、既知量の5mM酢酸亜鉛を1mg/mLのオメガ−IFN溶液(5mM酢酸バッファー中)を、一定温度で撹拌している5mM酢酸バッファー中の1mg/mLのオメガ−IFN溶液にゆっくりと加えた。オメガ−IFN溶液への亜鉛溶液の各注入後、発熱が1モルの注入物あたりkcalで記録された。得られたデータ(図3)は、熱が亜鉛をオメガ−IFN溶液に加えた時に吸収され、錯化が亜鉛イオンとオメガ−IFN分子との間で起こったことを示す。
【0057】
ここで引用または記載した各特許、特許出願および公開公報の全開示は、参考により本明細書に編入する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ヒト成長ホルモンおよびヒト成長ホルモン/亜鉛イオン錯体の安定性を具体的に説明するグラフである。
【図2】リン酸緩衝化生理食塩水中で可溶性のヒト成長ホルモンおよびヒト成長ホルモン/亜鉛イオン錯体の画分を具体的に説明するグラフである。
【図3】亜鉛およびオメガ−IFNの混合物について行ったマイクロ熱量実験の結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁された金属イオンとポリペプチドとの錯体を含んでなる調合物。
【請求項2】
ポリペプチド/金属イオン錯体が水性媒質に不溶性である請求項1に記載の調合物。
【請求項3】
金属イオンが多価金属イオンである請求項1に記載の調合物。
【請求項4】
多価金属イオンが亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ニッケルまたは銅である請求項3に記載の調合物。
【請求項5】
ポリペプチドがヒト成長ホルモンである請求項1に記載の調合物。
【請求項6】
金属イオン/ポリペプチド錯体中の金属イオン対ポリペプチドのモル比が1:1〜100:1である請求項1に記載の調合物。
【請求項7】
非水性の生物適合性懸濁媒体がポリマー、溶媒および表面活性剤の少なくとも1つを含んでなる請求項1に記載の調合物。
【請求項8】
ポリマーがポリエステル、ピロリドン、不飽和アルコールのエステルもしくはエーテル、またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーである請求項7に記載の調合物。
【請求項9】
ポリエステルがポリ乳酸またはポリ乳酸ポリグリコール酸であり、ピロリドンがポリビニルピロリドンであり、不飽和アルコールのエステルまたはエーテルが酢酸ビニルであり、そしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーがPluronic105である請求項8に記載の調合物。
【請求項10】
溶媒がカルボン酸エステル、多価アルコール、多価アルコールのポリマー、脂肪酸、油、多価アルコールのエステル、炭酸プロピレン、安息香酸ベンジル、ラウリルアルコールまたはベンジルアルコールである請求項7に記載の調合物。
【請求項11】
カルボン酸エステルが乳酸ラウリルであり、多価アルコールがグリセリンであり、多価アルコールのポリマーがポリエチレングリコールであり、脂肪酸がオレイン酸またはオクタン酸であり、油がヒマシ油であり、そして多価アルコールのエステルが酢酸トリアセチン(triacetic acetate)である、請求項10に記載の調合物。
【請求項12】
表面活性剤が多価アルコールのエステル、エトキシル化ヒマシ油、ポリソルベート、飽和アルコールのエステルもしくはエーテル、またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーである請求項7に記載の調合物。
【請求項13】
多価アルコールのエステルがグリセロールモノラウレートであり、飽和アルコールのエステルまたはエーテルが乳酸ミリスチルであり、そしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーがPluronicである請求項12に記載の調合物。
【請求項14】
ポリペプチドと金属イオンとの錯体を形成することを含んでなる、非水性の生物適合性懸濁媒体に懸濁されたポリペプチドが水性媒質へ暴露された時の安定性を改善する方法。
【請求項15】
ポリペプチド/金属イオン錯体が水性媒質に不溶性である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
金属イオンが多価金属イオンである請求項14に記載の方法。
【請求項17】
多価金属イオンが亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ニッケルまたは銅である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリペプチドがヒト成長ホルモンである請求項14に記載の方法。
【請求項19】
金属イオン/ポリペプチド錯体中の金属イオン対ポリペプチドのモル比が1:1〜100:1である請求項14に記載の方法。
【請求項20】
懸濁媒体が溶媒、ポリマーおよび表面活性剤の少なくとも1つを含んでなる請求項14に記載の方法。
【請求項21】
ポリマーがポリエステル、ピロリドン、不飽和アルコールのエステルもしくはエーテル、またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ポリエステルがポリ乳酸またはポリ乳酸ポリグリコール酸であり、ピロリドンがポリビニルピロリドンであり、不飽和アルコールのエステルまたはエーテルが酢酸ビニルであり、そしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーがPluronic105である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
溶媒がカルボン酸エステル、多価アルコール、多価アルコールのポリマー、脂肪酸、油、多価アルコールのエステル、炭酸プロピレン、安息香酸ベンジル、ラウリルアルコールまたはベンジルアルコールである請求項20に記載の方法。
【請求項24】
カルボン酸エステルが乳酸ラウリルであり、多価アルコールがグリセリンであり、多価アルコールのポリマーがポリエチレングリコールであり、脂肪酸がオレイン酸またはオクタン酸であり、油がヒマシ油であり、そして多価アルコールのエステルが酢酸トリアセチン(triacetic acetate)である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
表面活性剤が多価アルコールのエステル、エトキシル化ヒマシ油、ポリソルベート、飽和アルコールのエステルもしくはエーテル、またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーである請求項20に記載の方法。
【請求項26】
多価アルコールのエステルがグリセロールモノラウレートであり、飽和アルコールのエステルまたはエーテルが乳酸ミリスチルであり、そしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーがPluronicである請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−543950(P2008−543950A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518516(P2008−518516)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/025077
【国際公開番号】WO2007/002709
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】