説明

金属イオンを使用するピロロキノリンキノン類の製造方法

【課題】ピロロキノリンキノン類の回収率が高く、活性汚泥処理できない1%以上の濃度の塩廃水量を減少させることができる、ピロロキノリンキノン類の回収・精製方法を提供する。
【解決手段】ピロロキノリンキノン類を含有する水溶液に多価の金属イオンを加え、難溶性の塩または錯体を形成させた後、該塩または錯体からピロロキノリンキノン類を回収することを特徴とするピロロキノリンキノン類の回収・精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン類の製造法に関し、さらに詳細には、培養を使用して生成させたピロロキノリンキノン類の回収・精製方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(以下「PQQ」と称す)類は、細菌に限らず、真核生物のカビおよび酵母、さらには哺乳動物などの組織中にも存在し、脱水素酵素および酸化酵素のそれぞれの補酵素として重要な働きを担っている。さらに細胞の増殖促進作用、神経保護作用、アルドース還元酵素阻害作用-抗白内障作用など多くの生理活性が明らかにされている。
【0003】
従来、PQQ類を含有する培養液のような水溶液からPQQ類を回収・精製する方法としては、培養液から細菌菌体を遠心分離などの方法により除去しDEAE−Sephadex(ジエチルアミノエチル系陰イオン交換樹脂−セファデックス−A25 ファルマシア社(現GEヘルスケアバイオサイエンス社)、商品名)カラムを通過させて、このカラムにPQQ類を吸着させた後、0〜1M KCl溶液でPQQ類を溶出する方法(非特許文献1)が知られている。
【0004】
しかしながら、この方法では、培養上澄液中に含まれている蛋白質などの不純物のために得られるPQQ類の純度が低く、また純度の高いPQQ類を得るためには、多量のDEAE−Sephadex樹脂を必要とするなどの問題がある。
【0005】
これらの問題を解決すべく、培養液から細菌菌体を全部あるいは一部除去した培養上澄液のpHを調整し、培養液あるいは培養上澄液中に含まれる蛋白質などの不純物を沈澱させて除去することにより蛋白質などの不純物を取り除き、塩析を行う方法が報告されている(特許文献1、2)。この方法は純度が高く、使用する薬剤も安価であるが大量に使用する場合、発生する塩および塩廃水の量が多い。その場合、高塩濃度の廃水を活性汚泥処理するには活性汚泥中の生物相を破壊しないための希釈処理が必要となるため、廃水量増大により環境に対する負荷が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2692167号公報
【特許文献2】特許第3036009号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Ameyama et al.,Agric.Biol.Chem.,第48巻、第561頁〜565頁(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者はPQQ類の回収率が高く、活性汚泥処理できない1%以上の濃度の塩廃水量を減少させることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの問題解決のため鋭意検討した結果、ピロロキノリンキノン類を含有する水溶液に多価の金属イオンを加え、難溶性の塩または錯体を形成させることによってPQQ類の回収・精製が容易に行なえることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、PQQ類の回収・精製の際に使用する塩の量および塩廃水量が減少するため、工業的に極めて大きな利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるPQQ類とは、PQQそのものや、PQQのナトリウム塩およびPQQのカリウム塩などのPQQ塩類を意味する。
【0012】
本発明で使用するPQQ類を含有する水溶液に、特に制限はないが、培養法により製造された培養液もしくは上清が好ましく、上清のpHを3-5にすることにより含有している蛋白質などの不純物を除去した水溶液が特に好ましい。
【0013】
なおPQQを生産する能力を有する細菌としては、たとえば、メチロバチルス・グリコゲネス、メチロバクテリウム エクストロクエンス、メチロバクテリウム オルガノフィラム、メチロバクテリウム ロディウム、メチロバクテリウム メソフィリアム、メチロバクテリウム ラジオトレランス、ハイホミクロビウム ブルガレ、ハイホミクロビウム メチロボラム、アンシロバクター アキュアティカス、キサントバクター オートトロフィカス、キサントバクター フラバス、アシドモナス メタノリカ、パラコッカス デニトリフィカンス、パラコッカス アルカリフィラス、チオバチルス ノベルス、メチロファーガ マリーナおよびメチロファーガ サラシカなどがあり、本発明は、これらの細菌を培養し得られた培養液の精製に適している。
【0014】
本発明で使用する水溶液中のPQQ類の濃度には、特に制限はないが、0.1g/L〜10g/Lが好ましく、特に0.2g/L〜10g/Lが好ましい。PQQ濃度が低すぎる場合には、回収率が減少するためである。なお、これらの値以下の場合には、濃縮処理などを行ってもよい。
【0015】
本発明はこれらのPQQ水溶液に多価の金属イオンを加え、難溶性の塩または錯体として回収することで回収・精製することができる。使用する金属イオンは2〜14属から選ばれる金属の多価イオンであることが好ましく、使用する金属イオンが鉄イオンまたはカルシウムイオンであることが特に好ましい。
【0016】
添加する金属イオンは金属塩や錯体で加えればよく、特に制限がない。添加は水溶液、有機溶媒溶液、固体で加えることができる。
具体的には塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化第一鉄、臭化第二鉄、ヨウ化第二鉄、酢酸第一鉄、シュウ酸鉄(III)アンモニウム、クエン酸鉄(III)、水酸化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。
【0017】
これらの金属イオンを加えることでPQQは水溶液から沈殿し、この沈殿物を回収することができる。この沈殿物を酸や緩衝液で処理することにより沈殿物(金属化合物)から、PQQのアルカリ金属塩、アンモニウム塩やフリー型のPQQにすることができる。
【0018】
さらに本発明により得られたPQQ類を、カラム処理などの精製を行うことにより容易に純度のよいPQQ類を回収率よく得ることが可能である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
【0020】
<実施例1>
ハイホミクロビウム メチロボラム DSM 1869を培養して得られた培養液を遠心分離して、菌体を除去し、その後硫酸を加え、pHを4にして蛋白質等の不溶成分を遠心分離して除いたPQQを含有する水溶液を得た。この水溶液はPQQを0.92g/L含有していた。
この水溶液19.6gに81g/L(0.5M)塩化第二鉄水溶液0.4gを添加し、4℃で一晩静置して遠心分離により固体物を得た。
この固体物をリン酸緩衝液に溶解し、一晩4℃で静置した後、遠心分離してPQQを含有する溶液を得た。この溶液をHPLC分析により、回収率を求めた。PQQ回収率は95%であった。この時の廃液中の塩は1%以下であり、該廃液20mlはそのまま活性汚泥処理できた。
【0021】
<実施例2−5>
実施例1と同様の処理により添加する81g/L(0.5M)塩化第二鉄の添加量を変え、PQQ回収率と廃液量を求めた。結果を表1に示す。いずれの場合も、廃液中の塩は1%以下であり、そのまま活性汚泥処理できた。
【0022】
【表1】

【0023】
<実施例6>
81g/L(0.5M)塩化第二鉄に代えて固形の塩化カルシウム0.29gを使用したこと以外は実施例1と同様にして行った。PQQ回収率は60%であった。廃液量は、塩濃度1%換算で29mlであった。
【0024】
<比較例1>
実施例1と同様にして得たPQQを0.92g/L含有する水溶液19.6gを使用した。これに1M NaClになるように固形食塩1.2g加えた。析出したPQQのナトリウム塩を遠心分離で回収して、実施例と同様に回収率を算出した。
回収率は74%で、廃液中の塩は1%以上であり、その量は20mlであった。活性汚泥処理できる濃度にするためには希釈して1%の塩濃度相当として120mlの廃液量を処理しなければならなかった。
【0025】
<比較例2>
実施例1と同様にして得たPQQを0.92g/L含有する水溶液を4℃で1週間保存した。固形物の析出は見られず、温度を下げただけではPQQを回収できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン類を含有する水溶液に多価の金属イオンを加え、難溶性の塩または錯体を形成させた後、該塩または錯体からピロロキノリンキノン類を回収することを特徴とするピロロキノリンキノン類の回収・精製方法。
【請求項2】
使用する金属イオンが2〜14属から選ばれる金属の多価イオンであることを特徴とする請求項1に記載のピロロキノリンキノン類の回収・精製方法
【請求項3】
使用する金属イオンが鉄イオンまたはカルシウムイオンであることを特徴とする請求項2に記載のピロロキノリンキノン類の回収・精製方法

【公開番号】特開2011−30485(P2011−30485A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179039(P2009−179039)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】