説明

金属イオンセンサ

【課題】簡便かつ正確に金属イオンの量を測定し得る金属イオンセンサを提供すること。
【解決手段】金属イオンセンサ1は、液体試料20中の金属イオンの量を測定するものであり、液体試料20を収納する試料収納空間2と、少なくとも一部が試料収納空間2に露出し、金属イオンを内部に取り込み得る金属貯蔵タンパク質を含む金属イオン受容層6と、金属イオン受容層6の試料収納空間2と反対側に設けられた作用電極3と、少なくとも一部が試料収納空間2に露出し、作用電極3との間に電圧を印加する参照電極5と、金属貯蔵タンパク質内に取り込まれた金属イオンの酸化反応に伴って放出される電子を、作用電極3との間に流れる電流値として検出するための対電極4とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素やDNA、抗体等の生体分子が関与する生体反応を、in vivoではなく、in vitroにて、リアルタイムに検出可能なセンサの需要が高まっている。
特に、ゲノム解析終了後、ゲノム解析からDNA鎖の機能解析に比重が移っており、とりわけ、DNA鎖から発現される酵素、抗体などのタンパク質の機能解析、その機能に沿った創薬ターゲットの最適化が重要となっている。
【0003】
これらの解析を効率よく行うためには、DNAチップ、プロテインチップのようなセンサの利用が有効である。このセンサには、生体反応の情報から、有用な情報パラメータを選択して増幅し、これを検出パラメータに変換した後、検出手段に伝達する機能が求められる。
このようなセンサの一つとして、酵素を利用した電気化学的検出装置が開発されている。例えば、グルコースの酸化反応を触媒する酸化酵素(グルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼ)を含有する反応層を、電極基板に固定した血糖測定装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
この血糖測定装置では、血液中のグルコースを反応層に拡散させ、前記酸化酵素によって酸化して、この際、発生する電子を電流値として検出することにより、血液中のグルコース濃度を測定する。
このように、現在、血液等の液体試料中の各種物質を検出可能なセンサの開発が行われているが、金属イオンを簡便かつ正確に検出し得るセンサ(金属イオンセンサ)は、未だ開発されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平6−78791号公報
【特許文献2】特開平6−90754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡便かつ正確に金属イオンの量を測定し得る金属イオンセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の金属イオンセンサは、液体試料中の測定対象の金属イオンの量を測定する金属イオンセンサであって、
前記液体試料を収納する試料収納空間と、
少なくとも一部が前記試料収納空間に露出し、前記測定対象の金属イオンを内部に取り込み得る金属貯蔵タンパク質を含む金属イオン受容層と、
該金属イオン受容層の前記試料収納空間と反対側に設けられた第1の電極と、
少なくとも一部が前記試料収納空間に露出し、前記第1の電極との間に電圧を印加する第2の電極と、
前記金属貯蔵タンパク質内に取り込まれた前記測定対象の金属イオンの価数が第1の価数から第2の価数に変化するのに伴って放出される電子を、前記第1の電極との間に流れる電流値として検出するための第3の電極とを有することを特徴とする。
これにより、簡便かつ正確に金属イオンの量を測定し得る金属イオンセンサを得ることができる。
【0008】
本発明の金属イオンセンサでは、前記金属貯蔵タンパク質は、前記測定対象の金属イオンと同種の金属イオンを内包し、前記内包された前記金属イオンの価数は、前記第2の価数または前記第1の価数および前記第2の価数とは異なる第3の価数であり、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記測定対象の金属イオンの量を測定する際の電圧と逆の電圧を印加することにより、前記内包された金属イオンの少なくとも一部を放出するものであることが好ましい。
これにより、金属イオンの量の測定終了後、逆電圧を印加すれば、金属イオン受容層を測定前の状態に戻すことができる。すなわち、金属イオンセンサを初期状態に戻すことができる。このため、金属イオンセンサを繰り返し使用することができるようになる。
【0009】
本発明の金属イオンセンサでは、前記測定対象の金属イオンは、Fe2+であり、
前記金属貯蔵タンパク質は、フェリチンを主成分とするものであることが好ましい。
フェリチンは、極めて多くのFe3+を内包しており、Fe2+を効率よく取り込み、Fe3+に変化させることができる。また、Fe3+がFe2+に変化すると、Fe2+を確実に分子外に放出する。そして、このフェリチンにおいて、価数の異なる鉄イオンの出し入れは、極めて迅速かつ高精度に行われることから好ましい。
【0010】
本発明の金属イオンセンサでは、前記金属イオン受容層中における前記金属貯蔵タンパク質の含有量は、10〜60wt%であることが好ましい。
これにより、液体試料中に測定対象の金属イオンが含まれる場合、この金属イオンを金属貯蔵タンパク質に効率よく取り込ませることができ、その量を正確に測定することができる。
【0011】
本発明の金属イオンセンサでは、前記金属イオン受容層において、前記金属貯蔵タンパク質は、前記試料収納空間側に偏在していることが好ましい。
これにより、液体試料と金属貯蔵タンパク質とを確実に接触させることができ、液体試料中の金属イオンを金属貯蔵タンパク質により効率よく取り込ませることができるようになる。
本発明の金属イオンセンサでは、前記金属イオン受容層において、前記金属貯蔵タンパク質は、固定物質により固定されていることが好ましい。
これにより、金属貯蔵タンパク質が液体試料中に拡散するのを防止することができ、金属イオンの量をより正確に測定することができる。
【0012】
本発明の金属イオンセンサでは、前記固定物質は、前記第1の電極に結合する第1の結合性基と、前記金属貯蔵タンパク質に結合する第2の結合性基とを有する化合物であることが好ましい。
これにより、第1の電極の上面から金属貯蔵タンパク質を前記化合物の鎖長分だけ確実に離間させることができる。その結果、金属貯蔵タンパク質が第1の電極に接触して、変性、失活するのを好適に防止することができる。
本発明の金属イオンセンサでは、前記固定物質は、生体由来高分子またはその変性物を主成分とするものであることが好ましい。
これらの高分子を固定物質として用いることにより、金属貯蔵タンパク質が容易に変性、失活するのを好適に防止することができる。
【0013】
本発明の金属イオンセンサでは、前記金属イオン受容層は、前記金属貯蔵タンパク質と前記第1の電極との間での電子の移動を媒介する媒介物質を含むことが好ましい。
これにより、金属貯蔵タンパク質と第1の電極との間で効率よく電子を移動させることができる。
【0014】
本発明の金属イオンセンサでは、前記媒介物質は、一部のものがスペーサ分子を介して前記第1の電極に固定されていることが好ましい。
このような構成において、差長が比較的短いスペーサ分子を用いることにより、一部の媒介物質を、第1の電極の近傍に確実に位置させることができ、また、残りの媒介物質を、金属イオン受容層中において分散した状態とすることができる。その結果、例えば、金属貯蔵タンパク質から放出された電子を、層中に分散した状態の媒介物質、さらに第1の電極の近傍に位置する媒介物質へと受け渡し、より円滑に第1の電極に移動させることができる。このようなことから、金属イオンセンサの応答速度の向上を図ることができる。
本発明の金属イオンセンサでは、前記金属イオン受容層中における前記媒介物質の含有量は、0.1〜10wt%であることが好ましい。
これにより、金属貯蔵タンパク質と第1の電極との間で、電子を確実かつ迅速に移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の金属イオンセンサを、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の金属イオンセンサの構成を模式的に示す縦断面図、図2は、図1に示す金属イオンセンサの動作を説明するための模式図、図3は、図1に示す金属イオンセンサが備える金属貯蔵タンパク質の一例を示す模式図、図4は、図1に示す金属イオンセンサの製造方法を説明するための縦断面図、図5は、金属イオン受容層の他の構成例を示す模式図である。なお、以下の説明では、図1、図2、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0016】
図1に示す金属イオンセンサ1は、液体試料20を収納する試料収納空間2と、作用電極(第1の電極)3と、対電極(第3の電極)4と、参照電極(第2の電極)5と、金属イオン受容層6とを有しており、これらの各部が基板8上に積層されて構成されている。この金属イオンセンサ1は、試料収納空間2に供給された液体試料20中の金属イオン(測定対象イオン)の量を、一対の電極3、4間に流れる電流値として検出するものである。
【0017】
ここで、液体試料20としては、例えば、血液、尿、汗、リンパ液、髄液、胆汁、唾液等の体液、これらの体液や飲食物に各種処理を施した処理済み液、工業排水、家庭排水、地下水等が挙げられる。
測定対象とする金属イオンとしては、例えば、鉄(Fe)イオン、銅(Cu)イオン、マンガン(Mn)イオン、コバルト(Co)イオン、ルテニウム(Ru)イオン、ニッケル(Ni)イオン、亜鉛(Zn)イオン、パラジウム(Pd)イオン、クロム(Cr)など、さらに重金属イオン等、いかなるものであってもよい。
【0018】
基板8は、金属イオンセンサ1を構成する各部を支持するものである。
基板8の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアクリル酸、エポキシ樹脂のような各種樹脂材料、各種ガラス材料、各種セラミックス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、複合材料からなる基板8としては、例えば、ガラス繊維とエポキシ樹脂とで構成される難燃性のプリント基板等が挙げられる。
【0019】
基板8上には、作用電極3が設けられている。
この作用電極3、後述する対電極4および参照電極5の構成材料としては、それぞれ、例えば、金、銀、銅、プラチナ、白金またはこれらを含む合金のような金属材料、ITOのような金属酸化物系材料、カーボンのような炭素系材料等が挙げられる。
作用電極3上には、金属イオン受容層6が設けられている。
【0020】
この金属イオン受容層6は、金属貯蔵タンパク質61を含んでおり、その少なくとも一部(上面)が試料収納空間2に露出するように設けられている。
ここで、金属貯蔵タンパク質61は、液体試料20中に含まれる金属イオンを内部に取り込み、取り込んだ金属イオンを酸化する機能を有する。そして、この金属イオンの酸化反応に伴って、電子(e)が放出される。
【0021】
また、この金属貯蔵タンパク質61には、測定対象の金属イオンと価数の異なる同種の金属イオンを内包し、後述するように、作用電極3と参照電極5との間に、金属イオンの量を測定する際の電圧と逆の電圧を印加することにより、その内部に取り込んだ金属イオンと価数の等しい金属イオンを放出するものを用いるのが好ましい。これにより、金属イオンの量の測定終了後、逆電圧を印加すれば、金属イオン受容層6を測定前の状態に戻すことができる。すなわち、金属イオンセンサ1を初期状態に戻すことができる。このため、金属イオンセンサ1を繰り返し使用することができるようになる。
【0022】
測定対象の金属イオンがFe2+(鉄2価イオン)である場合、金属貯蔵タンパク質61には、例えば、フェリチン、ヘモシデリンのような鉄貯蔵タンパク質を用いることができるが、特に、フェリチンを主成分とするものを用いるのが好ましい。
このフェリチンは、肝細胞、骨髄等に幅広く存在する分子量約45万のタンパク質である。図3に示すように、フェリチンは、直径13nm程度の球形構造を有しており、24個のポリペプチドサブユニットによって外殻が形成されている。またサブユニットはH鎖とL鎖の2種類がある。
【0023】
フェリチンは、極めて多くのFe3+を内包しており、Fe2+を効率よく取り込み、Fe3+に変化させることができる。また、Fe3+がFe2+に変化すると、Fe2+を確実に分子外に放出する。そして、このフェリチンにおいて、価数の異なる鉄イオンの出し入れは、極めて迅速かつ高精度に行われることから好ましい。
また、測定対象の金属イオンがFe2+以外のものである場合、金属貯蔵タンパク質61には、前記鉄貯蔵タンパク質が貯蔵する鉄イオンを、測定対象の金属イオンと価数の異なる同種の金属イオンに置換して用いればよい。これにより、他の金属イオンに置換された鉄貯蔵タンパク質は、置換された金属イオンに対応する金属イオンを選択的に内部に取り込むようになる。
【0024】
金属イオン受容層6中における金属貯蔵タンパク質61の含有量は、20〜80wt%程度であるのが好ましく、40〜60wt%程度であるのがより好ましい。これにより、液体試料20中に測定対象の金属イオンが含まれる場合、この金属イオンを金属貯蔵タンパク質61に効率よく取り込ませることができ、その量を正確に測定することができる。
また、金属イオン受容層6において、金属貯蔵タンパク質61は、固定物質により固定されているのが好ましい。これにより、金属貯蔵タンパク質61が液体試料20中に拡散するのを防止することができ、金属イオンの量をより正確に測定することができる。
この固定物質としては、作用電極3に結合する第1の結合性基と、金属貯蔵タンパク質61に結合する第2の結合性基とを有する化合物を用いるのが好ましい。図2に示す構成では、かかる化合物を介して、金属貯蔵タンパク質61が作用電極3の上面に固定されている。
【0025】
このようにして、金属貯蔵タンパク質61を固定することにより、作用電極3の上面から金属貯蔵タンパク質61を前記化合物の鎖長分だけ確実に離間させることができる。その結果、金属貯蔵タンパク質61が作用電極3に接触して、変性、失活するのを好適に防止することができる。
また、金属イオン受容層6において、金属貯蔵タンパク質61が試料収納空間2側に偏在することになるため、液体試料20と金属貯蔵タンパク質61とを確実に接触させることができ、液体試料20中の金属イオンを金属貯蔵タンパク質61により効率よく取り込ませることができるようになる。
かかる固定物質として用いる化合物は、炭素数50〜100(特に、60〜80)の直鎖状の構造を含むものが好ましい。これにより、作用電極3の上面から金属貯蔵タンパク質61を十分に離間させることができ、金属貯蔵タンパク質61が作用電極3に接触して、変性、失活するのをより確実に防止することができる。
【0026】
ここで、第1の結合性基としては、作用電極3の構成材料に応じて適宜選択され、特に限定されないが、作用電極3の構成材料が、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等である場合、チオール基、チオスフフォネート基等が挙げられ、作用電極3の構成材料が、金属酸化物(例えばITO等)の場合、チオール基、ハロゲン基、アルコキシシリル基、ハロゲン化シリル基、リン酸基等が挙げられる。
【0027】
一方、第2の結合性基としては、例えば、N−サクシミドエステル基、アミノ基、ジスルフィド基、チロシン(ヒドロキシル基)等が挙げられる。
例えば、N−サクシミドエステル基は、金属貯蔵タンパク質61が有するアミノ基に置換することにより、金属貯蔵タンパク質61と前記化合物とが結合する。また、アミノ基は、金属貯蔵タンパク質61が有するカルボキシル基とアミド結合を形成することにより、金属貯蔵タンパク質61と前記化合物とが結合する。
以上のような化合物の具体例としては、例えば、次のようなポリエチレングリコール系の化合物が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
ただし、前記式中、Xは、第1の結合性基を示し、nは、1以上の整数を示す。
かかるポリエチレングリコール系化合物は、これが含む酸素原子に非共有電子対が存在する。このため、隣接する分子同士の間において、非共有電子対が互いに影響を及ぼし合い立体障害(回転障壁)が大きくなる。これにより、固定物質の剛直性が増大し、結果として、金属イオン受容層6の膜強度が比較的大きくなる。その結果、金属貯蔵タンパク質61と作用電極3とが接触するのを確実に防止して、金属貯蔵タンパク質61が変性、失活するのをより確実に防止することができ、液体試料20中に測定対象の金属イオンの量を正確に測定することができる。なお、かかる効果は、前記nを11以上とすることにより、より顕著に発揮されるようになる。
また、ポリエチレングリコール系化合物は、それ自体が生体親和性に優れることからも、金属貯蔵タンパク質61の変性、失活を防止することができる。
【0030】
また、金属イオン受容層6は、金属貯蔵タンパク質61と作用電極3との間で電子の移動を媒介するメディエータ(媒介物質)62を含むのが好ましい。これにより、金属貯蔵タンパク質61と作用電極3との間で効率よく電子を移動させることができる。
メディエータ62としては、例えば、フェリシアン化カリウム、フェロセンまたはフェロセン誘導体、ニッケロセンまたはニッケロセン誘導体、キノンまたはキノン誘導体(例えばp−ベンゾキノン、ピロロキノリンキノン等)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)のようなフラビン誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)のようなニコチンアミド誘導体、フェナジンメトサルファート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩、オクタシアノタングステンイオン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
金属イオン受容層6がメディエータ62を含む場合、その含有量は、0.01〜5.0wt%程度であるのが好ましく、0.1〜1.0wt%程度であるのがより好ましい。メディエータ62の含有量を前記範囲とすることにより、金属貯蔵タンパク質61と作用電極3との間で、電子を確実かつ迅速に移動させることができる。
また、メディエータ62は、一部のものがスペーサ分子を介して作用電極3に固定されているのが好ましい。このような構成において、差長が比較的短いスペーサ分子を用いることにより、一部のメディエータ62を、作用電極3の近傍に確実に位置させることができ、また、残りのメディエータ62を、金属イオン受容層6中において分散した状態とすることができる。その結果、例えば、金属貯蔵タンパク質61から放出された電子を、層6中に分散した状態のメディエータ62、さらに作用電極3の近傍に位置するメディエータ62へと受け渡し、より円滑に作用電極3に移動させることができる。このようなことから、金属イオンセンサ1の応答速度の向上を図ることができる。
【0032】
かかる観点から、スペーサ分子は、その鎖長が前記固定物質として用いる化合物の鎖長より短いものが好ましい。具体的には、スペーサ分子は、炭素数5〜40(特に、10〜25)の直鎖状の構造を含むものが好ましい。
このようなスペーサ分子が結合したメディエータ62としては、前述したのと同様の理由から、例えば、次のようなポリエチレングリコール系の化合物が好適に用いられる。
【0033】
【化2】

【0034】
ただし、前記式中、Xは、作用電極3への結合性基を示し、nは、1以上の整数を示す。
また、以上のような構成の金属イオン受容層6では、末端に水酸基やカルボキシル基を含み、作用電極3に結合した化合物を含んでいてもよい。かかる化合物を含むことにより、金属イオン受容層6への非特異的なタンパク質の吸着を防止(阻止)することができる。その結果、金属イオンの量を測定する際に、金属貯蔵タンパク質61が放出した電子以外に起因した電流が検出されるのを防止または低減することができ、より正確な電流値(金属イオンの量)の測定が可能となる。
このような化合物の具体例としては、前述したのと同様の理由から、例えば、次のようなポリエチレングリコール系の化合物が好適に用いられる。
【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
ただし、前記式中、Xは、作用電極3への結合性基を示し、nは、1以上の整数を示す。
対電極(第3の電極)4は、その少なくとも一部(本実施形態では、下面)が試料収納空間2に露出するように、作用電極3に対向して配置されている。この対電極4は、金属貯蔵タンパク質61内に取り込まれた金属イオンの酸化反応に伴って放出される電子を、作用電極3との間に流れる電流値として検出するための電極である。
参照電極(第2の電極)5は、その一部が試料収納空間20内に位置するように、封止部(隔壁部)10に固定されている。この参照電極5は、作用電極3との間に電圧を印加する電極である。
【0038】
以上のような金属イオンセンサ1では、試料収納空間2内に液体試料20を供給した状態で、例えば、一定の速度で、作用電極3と参照電極5との間に印加する電圧の値を変化させて(電圧掃引して)、CV(cyclic voltametry)測定を行う。
このとき、液体試料20中に金属イオン(以下、Fe2+で代表する)が含まれる場合、このFe2+が、金属イオン受容層6の金属貯蔵タンパク質61(以下、フェリチンで代表する)に取り込まれ、タンパク質シェル内においてFe3+に酸化され、電子が放出される。
この放出された電子は、金属イオン受容層6内のメディエータ62を介して、作用電極3に移動し、作用電極3と対電極4とを接続する外部回路に取り出され、電流(酸化電流)値として測定される。
【0039】
具体的に、液体試料20中に含まれるFe2+の量の測定は、例えば、次のようにして行われる。
まず、実測定に先立って、調製液(緩衝液)を試料収納空間2内に供給してCV測定を行う。これにより、バックグラウンド電流を計測しておく。
次に、実際の液体試料20を試料収納空間2内に供給してCV測定を行う。そして、この際現れるCV曲線と、バックグラウンドCV曲線とを比較(図4参照)することにより、液体試料20中のFe2+の量(濃度)を見積もることができる。
なお、CV曲線中、ピーク値が現れる電圧に固定して、その電圧値で測定される電流値を比較してFe2+の量(濃度)を見積もる方法が好ましい。これにより、電流値の差がより明確となるため、より正確にFe2+の量の測定を行うことができる。
【0040】
このようにして、本発明の金属イオンセンサ1によれば、簡便かつ正確にFe2+(金属イオン)の量を測定し得る。
また、作用電極3と参照電極5との間に、Fe2+の量を測定する際の電圧と逆の電圧を印加すると、フェリチン内部のFe3+が作用電極3から、メディエータ62を介して注入された電子により還元され、Fe2+としてフェリチン外に放出される。
このため、作用電極3と参照電極5との間の印加電圧は、Fe2+の量の測定の際は、プラス側に0.6V程度、マイナス側に0.3V程度とするのが好ましい。
【0041】
測定終了後は、数分間、作用電極3と参照電極5との間に、所定の値のマイナス電圧(−0.5V程度)を印加することにより、フェリチンに取り込まれた過剰なFe3+をFe2+に還元、離脱させて、フェリチン内部のFe3+量を標準レベルにまで復帰させる。なお、これは、測定終了後の液体試料20を除いて、再度、調製液を試料収納空間2内に供給してCV測定を行うことにより、この際のCV曲線がバックグラウンド曲線とほぼ一致することを確認すればよい。
このような状態とすることにより、金属イオンセンサ1の再使用が可能となる。
【0042】
このような金属イオンセンサ1は、例えば、次のようにして製造することができる。
[1] まず、図5(a)に示すように、基板8を用意する。
そして、図5(b)に示すように、この基板8上に、作用電極3を形成する。この作用電極3は、次のようにして形成することができる。
まず、基板8の上面(電極形成面)を覆うように金属膜(金属層)を形成する。これは、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、MOD法、金属箔の接合等により形成することができる。
【0043】
次いで、この金属膜上に、レジスト材料を塗布(供給)した後、硬化させて、作用電極3の形状に対応する形状のレジスト層を形成する。
次いで、このレジスト層をマスクとして、金属膜の不要部分を除去する。この金属膜の除去には、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウェットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
その後、レジスト層を除去することにより、作用電極3が得られる。
なお、金属膜のパターニングが不要な場合、レジスト層の形成工程および金属膜の除去工程等を省略することができる。
また、作用電極3は、例えば、導電性粒子を含む導電性材料を基板8上に塗布(供給)した後、必要に応じて、この塗膜に対して後処理(例えば加熱、赤外線の照射、超音波の付与等)を施すことにより形成することもできる。
【0045】
ここで、塗布法には、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
[2] 次に、作用電極3上に、金属イオン受容層6を形成する。
[2−1] まず、図5(c)に示すように、前述したようなポリエチレングリコール系の化合物を用いて単分子膜を形成する。
これは、例えば、次のようにして行われる。
まず、ポリエチレングリコール系の化合物を溶媒に溶解して液状材料を調製する。
【0047】
この溶媒としては、例えば、無水エタノール、無水ジクロロメタン、無水クロロフォルム、無水THF、無水DMF等が挙げられ、これらを単独または混合液として用いることができる。
また、液状材料中に、必要に応じて、メディエータ62を添加しておく。
液状材料中におけるポリエチレングリコール系の化合物の濃度(含有量)は、0.1〜30mM程度であるのが好ましく、1〜15mM程度であるのがより好ましい。
【0048】
次いで、この液状材料を作用電極3の上面に接触させた状態で一定時間放置した後、洗浄、乾燥する。これにより、作用電極3の上面に、ポリエチレングリコール系の化合物の単分子膜が得られる。
液状材料を作用電極3の上面に接触させる方法としては、液状材料中に、作用電極3を形成した基板8を浸漬する方法(浸漬法)が好適である。
【0049】
この場合、液状材料の温度は、4〜40℃程度であるのが好ましく、10〜25℃程度であるのがより好ましい。
また、基板8の浸漬時間は、30〜200分間程度であるのが好ましく、60〜150分間程度であるのがより好ましい。
なお、液状材料を作用電極3の上面に接触させる方法としては、液状材料を作用電極3上に塗布する方法(塗布法)、噴霧する方法(噴霧法)を用いることもできる。
【0050】
[2−2] 次に、図5(d)に示すように、単分子膜上に、金属貯蔵タンパク質61を配設する。
まず、金属貯蔵タンパク質61を溶媒に溶解して液状材料を調製する。
この溶媒としては、例えば、純水、超純水、イオン交換水、蒸留水、RO水のような各種水、またはこの水に塩類を溶解した各種緩衝液等が挙げられる。
液状材料中における金属貯蔵タンパク質61の濃度(含有量)は、0.1〜30μM程度であるのが好ましく、1〜15μM程度であるのがより好ましい。
【0051】
次いで、この液状材料を、単分子膜の上面に接触させた状態で一定時間放置した後、洗浄、乾燥する。これにより、単分子膜の上面に、金属貯蔵タンパク質61が配設される。
また、ポリエチレングリコール系の化合物が、その末端に、金属貯蔵タンパク質61との結合性基を有する場合、前記化合物と金属貯蔵タンパク質61とが結合する。
液状材料を単分子膜の上面に接触させる方法としては、前記塗布法が好適である。
この場合、液状材料の温度、および雰囲気の温度は、それぞれ、4〜40℃程度であるのが好ましく、10〜25℃程度であるのがより好ましい。
【0052】
放置時間は、10〜150分間程度であるのが好ましく、30〜100分間程度であるのがより好ましい。
なお、液状材料を単分子膜の上面に接触させる方法としては、浸漬法、噴霧法を用いることもできる。
以上のようにして、単分子膜上に金属貯蔵タンパク質61が配設されてなる金属イオン受容層6が得られる。
【0053】
[3] 次に、図5(e)に示すように、作用電極3に対向するように、対電極4を配置するとともに、参照電極5を所定の箇所に配置した状態で、例えば、接着剤を外周部に供給した後、硬化させることにより、封止部10を形成する。これにより、金属イオン受容層6と対電極4と封止部10とで、試料収納空間2が画成される。
接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤等が挙げられる。
なお、このとき、封止部10には、液体試料20を試料収納空間2内に供給するための注入口(供給口)101を形成しておく。
以上の工程により、図1に示す金属イオンセンサ1が得られる。
【0054】
次に、金属イオン受容層6の他の構成例について説明する。
以下、図6に示す金属イオン受容層6について、図2に示す金属イオン受容層6との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図6に示す金属イオン受容層6は、高分子(固定物質)で構成されたマトリクス(基材)中に、金属貯蔵タンパク質61と、メディエータ62とを含んで(含浸させて)構成されている。これにより、金属貯蔵タンパク質61やメディエータ62が他の層や液体試料20中に拡散するのを防止することができ、金属貯蔵タンパク質61と作用電極3との間で電子をより確実に移動させる(受け渡す)ことができる。
【0055】
マトリクスを構成する高分子としては、特に限定されないが、例えば、生体関連高分子(動物由来の高分子)や植物由来の高分子のような天然の高分子、合成高分子(合成樹脂)、またはこれらの変性物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、マトリクスを構成する高分子としては、生体由来高分子またはその変性物を主成分とするものが好ましい。これらのものを高分子としてマトリクスを構成することにより、金属貯蔵タンパク質61が容易に変性、失活するのを好適に防止することができる。
【0056】
このような生体関連高分子としては、例えば、アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン:BSA)、グロブリン、ミオグロビン、カルボキシメチルセルロースとBSAとの混合ポリマー、ポリビニルピロリドンとBSAとの混合ポリマー、ポリエチレングリコールとBSAとの混合ポリマー等が挙げられる。
また、その変性物としては、前記生体関連高分子の疎水結合、水素結合、イオン結合を破壊する処理を施したもの等が挙げられる。かかる処理としては、例えば、熱処理、加圧処理、pH調整処理、変性剤による処理等が挙げられる。
【0057】
また、マトリクスには、架橋構造が形成されているのが好ましい。これにより、金属貯蔵タンパク質61やメディエータ62を当該マトリクスに強固に保持(担持)することができる。また、金属イオン受容層6の機械的強度の向上にも寄与する。
マトリクスに架橋構造を形成する架橋剤としては、高分子としてペプチドを主成分とするものを用いる場合には、例えば、グルタルアルデヒド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、トリニトロメタン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような金属イオン受容層6は、まず、金属貯蔵タンパク質61、メディエータ62および、必要に応じて、架橋剤を溶媒に溶解して液状材料を調製する。
この溶媒としては、例えば、純水、超純水、イオン交換水、蒸留水、RO水のような各種水、またはこの水に塩類を溶解した各種緩衝液等が挙げられる。
【0058】
次いで、この液状材料を、作用電極3の上面に接触させた状態で一定時間放置した後、洗浄、乾燥する。これにより、作用電極3の上面に、金属イオン受容層6が得られる。
液状材料を金属イオン受容層6の上面に接触させる方法としては、前記塗布法が好適である。
この場合、液状材料の温度、および雰囲気の温度は、それぞれ、4〜40℃程度であるのが好ましく、10〜25℃程度であるのがより好ましい。
放置時間は、10〜150分間程度であるのが好ましく、30〜100分間程度であるのがより好ましい。
なお、液状材料を金属イオン受容層6の上面に接触させる方法としては、浸漬法、噴霧法を用いることもできる。
【0059】
また、金属イオン受容層6と作用電極3との間には、金属貯蔵タンパク質61の作用電極3への接触を防止する目的や、金属イオン受容層6と作用電極3との密着性を向上させる目的等として、中間層を設けるようにしてもよい。
前者の目的で設ける中間層としては、例えば、本実施形態の金属イオン受容層6から金属貯蔵タンパク質61を除いた構成の層が挙げられる。
また、後者の目的で設ける中間層としては、例えば、炭素数1〜5のアミノアルカンチオール、ヒドロキシアルカンチオール等のうちの1種または2種以上を組み合わせて構成される層が挙げられる。
【0060】
以上のような金属イオンセンサ1は、前述したように、簡便かつ正確に金属イオンの量を測定し得る。特に、金属イオンとしてFe2+の量を測定するものでは、鉄欠乏性貧血や再生不良性貧血等の発生要因と考えられる血中のFe2+の量を経時的にモニタリングを可能がとなる。このため、これらの病状の進行や治療効果をより簡便かつ正確に判定することができるようになる。
【0061】
以上、本発明の金属イオンセンサを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の金属イオンセンサを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
また、例えば、各層の間には、金属イオンセンサの特性の低下を招かない範囲で、任意の目的(密着性の向上)の層を1層以上設けるようにしてもよい。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.センサの作製
(実施例1)
<1A> まず、ガラス基板を用意し、真空蒸着により、平均厚さ200nmの作用電極を形成した。
【0063】
<2A> 次に、下記化5、化6および化7の3種の化合物を用意し、モル比で2:1:7となるように、無水ジクロロメタンに溶解して、溶液を調製した。なお、この溶液中における化合物の合計濃度を3mMとした。また、この溶液中には、所定量のフェリシアン化カリウムを添加した。
そして、この溶液中に、ガラス基板を20℃で2時間浸漬した。その後、溶液から取り出し、純水で洗浄後、窒素ブローにて乾燥した。これにより、単分子膜を得た。
【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
<3A> 次に、フェリチン(金属貯蔵タンパク質)を純水に溶解して、フェリチン含有溶液を調製した。なお、フェリチン含有溶液中におけるフェリチン濃度を10μMとした。
そして、このフェリチン含有溶液を、単分子膜上に滴下して液状被膜を形成し、液状被膜が乾燥しないようにしつつ20℃で1時間放置した。その後、純水で洗浄後、窒素ブローにて乾燥した。これにより、金属貯蔵タンパク質を配設して、金属イオン受容層を得た。
なお、金属イオン受容層において、フェリチンの含有量は、30wt%、フェロセンとフェリシアン化カリウムの合計の含有量は、31wt%であった。
【0068】
<4A> 次に、作用電極に対向するように、プラチナ製の対電極を配置するとともに、カーボン製の参照電極を所定の箇所に配置した状態で、エポキシ系接着剤を外周部に供給した後、硬化させることにより、封止部を形成した。これにより、金属イオン受容層と対電極と封止部とで、試料収納空間が画成される。
なお、このとき、封止部には、液体試料を試料収納空間内に供給するための注入口を形成しておいた。
以上のようにして、センサを得た。
【0069】
(実施例2)
<1B> まず、ガラス基板を用意し、真空蒸着により、平均厚さ200nmの作用電極を形成した。
<2B> 次に、アミノエタンチオールを無水ジクロロメタンに溶解して、溶液を調製した。なお、この溶液中におけるアミノエタンチオールの濃度を3mMとした。
そして、この溶液中に、ガラス基板を20℃で2時間浸漬した。その後、溶液から取り出し、純水で洗浄後、窒素ブローにて乾燥した。これにより、単分子膜を得た。
【0070】
<3B> 次に、変性ウシ血清アルブミン(BSA)と、グルタルアルデヒドとを、純水に溶解して、溶液を調製した。
そして、この溶液を、単分子膜上に滴下して液状被膜を形成し、液状被膜が乾燥しないようにしつつ20℃で1時間放置した。その後、純水で洗浄後、窒素ブローにて乾燥した。これにより、BSA層を得た。
【0071】
<4B> 次に、フェリチン(金属貯蔵タンパク質)と、変性ウシ血清アルブミン(固定物質)と、グルタルアルデヒド(架橋剤)と、フェリシアン化カリウム(メディエータ)とを純水に溶解して、溶液を調製した。
なお、この溶液中におけるフェリチンの濃度、変性ウシ血清アルブミンの濃度、グルタルアルデヒドの濃度、フェリシアン化カリウムの濃度は、それぞれ0.5wt%、2.0wt%、0.5wt%、1.0wt%となるように混合した。
そして、この溶液を、BSA層上に滴下して液状被膜を形成し、液状被膜が乾燥しないようにしつつ20℃で1時間放置した。その後、純水で洗浄後、窒素ブローにて乾燥した。これにより、金属イオン受容層を得た。
【0072】
<5B> 次に、作用電極に対向するように、プラチナ製の対電極を配置するとともに、カーボン製の参照電極を所定の箇所に配置した状態で、エポキシ系接着剤を外周部に供給した後、硬化させることにより、封止部を形成した。これにより、金属イオン受容層と対電極と封止部とで、試料収納空間が画成される。
なお、このとき、封止部には、液体試料を試料収納空間内に供給するための注入口を形成しておいた。
以上のようにして、センサを得た。
【0073】
2.評価
各実施例のセンサを複数用いて、それぞれ、既知の濃度のFe2+溶液について、作用電極と参照電極との間の電圧を変化させて、CV測定を行った。
その結果、調製液でCV測定を行った場合に比べ、測定される電流値が大きくなり、また、Fe2+濃度と電流値との間に相関関係があることが確認された。
なお、前述したような方法により、フェリチン内部の鉄イオンを、銅イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンに置換したものを調製し、前記実施例と同様にしてセンサを作製し、前記と同様にしてCV測定を行ったところ、内包する金属イオンに対応した金属イオンの量を測定できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の金属イオンセンサの構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1に示す金属イオンセンサの動作を説明するための模式である。
【図3】図1に示す金属イオンセンサが備える金属貯蔵タンパク質の一例を示す模式図である。
【図4】CV測定で観察されるCV曲線を示す図である。
【図5】図1に示す金属イオンセンサの製造方法を説明するための縦断面図である。
【図6】金属イオン受容層の他の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1‥‥金属イオンセンサ 2‥‥試料収納空間 20‥‥液体試料 3‥‥作用電極 4‥‥対電極 5‥‥参照電極 6‥‥金属イオン受容層 61‥‥金属貯蔵タンパク質 62‥‥メディエータ 8‥‥基板 10‥‥封止部 101‥‥注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の測定対象の金属イオンの量を測定する金属イオンセンサであって、
前記液体試料を収納する試料収納空間と、
少なくとも一部が前記試料収納空間に露出し、前記測定対象の金属イオンを内部に取り込み得る金属貯蔵タンパク質を含む金属イオン受容層と、
該金属イオン受容層の前記試料収納空間と反対側に設けられた第1の電極と、
少なくとも一部が前記試料収納空間に露出し、前記第1の電極との間に電圧を印加する第2の電極と、
前記金属貯蔵タンパク質内に取り込まれた前記測定対象の金属イオンの価数が第1の価数から第2の価数に変化するのに伴って放出される電子を、前記第1の電極との間に流れる電流値として検出するための第3の電極とを有することを特徴とする金属イオンセンサ。
【請求項2】
前記金属貯蔵タンパク質は、前記測定対象の金属イオンと同種の金属イオンを内包し、前記内包された前記金属イオンの価数は、前記第2の価数または前記第1の価数および前記第2の価数とは異なる第3の価数であり、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記測定対象の金属イオンの量を測定する際の電圧と逆の電圧を印加することにより、前記内包された金属イオンの少なくとも一部を放出するものである請求項1に記載の金属イオンセンサ。
【請求項3】
前記測定対象の金属イオンは、Fe2+であり、
前記金属貯蔵タンパク質は、フェリチンを主成分とするものである請求項2に記載の金属イオンセンサ。
【請求項4】
前記金属イオン受容層中における前記金属貯蔵タンパク質の含有量は、10〜60wt%である請求項1ないし3のいずれかに記載の金属イオンセンサ。
【請求項5】
前記金属イオン受容層において、前記金属貯蔵タンパク質は、前記試料収納空間側に偏在している請求項1ないし4のいずれかに記載の金属イオンセンサ。
【請求項6】
前記金属イオン受容層において、前記金属貯蔵タンパク質は、固定物質により固定されている請求項1ないし5のいずれかに記載の金属イオンセンサ。
【請求項7】
前記固定物質は、前記第1の電極に結合する第1の結合性基と、前記金属貯蔵タンパク質に結合する第2の結合性基とを有する化合物である請求項6に記載の金属イオンセンサ。
【請求項8】
前記固定物質は、生体由来高分子またはその変性物を主成分とするものである請求項6に記載の金属イオンセンサ。
【請求項9】
前記金属イオン受容層は、前記金属貯蔵タンパク質と前記第1の電極との間での電子の移動を媒介する媒介物質を含む請求項1ないし8のいずれかに記載の金属イオンセンサ。
【請求項10】
前記媒介物質は、一部のものがスペーサ分子を介して前記第1の電極に固定されている請求項9に記載の金属イオンセンサ。
【請求項11】
前記金属イオン受容層中における前記媒介物質の含有量は、0.1〜10wt%である請求項9または10に記載の金属イオンセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−225521(P2007−225521A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49084(P2006−49084)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】