説明

金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体およびその製造方法

【課題】
約5〜30nmの範囲で中心細孔半径の設計が可能な金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】
非晶質珪酸カルシウム水和物の構造中に金属イオンを分散させて合成した金属ドープ型珪酸カルシウム水和物の水熱作用による自己組織化とその後の加熱脱水処理により形成されたメソ細孔の中心細孔半径が約5〜30nmの範囲で制御されていることを特徴とする金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メソポーラス材料は、メソポア領域に均一な細孔径を有する無機質多孔体として、触媒、吸着材、徐放材等の幅広い用途が期待されている。通常、メソポーラス材料は界面活性剤からなる球状、棒状のテンプレートを鋳型として以下のように製造される。すなわち、(1)基板上や液中でテンプレートが自己組織化する際にテンプレート周囲をメソポーラス材料前駆体で被覆し、(2)テンプレートを自己組織化し、(3)乾燥させた後、熱処理を施しテンプレートを除去するプロセスからなる。
【0003】
この最初のプロセスであるメソポーラス材料前駆体作成においては金属アルコキシドのゾルゲル法を利用したもの(特許文献1)やpH調整による珪酸ナトリウムのゲル化を利用したもの(特許文献2)が開示されている。
【0004】
非シリカ系メソポーラス遷移金属酸化物が注目されるのは、構造中に存在する遷移金属が種々の触媒として利用されているからである。一般に遷移金属からなる触媒は、複数の金属元素から構成されている場合が多く、触媒用途としてメソポーラス遷移金属酸化物を想定した場合、その構成元素も複数の金属元素から構成されていることが望ましい。
【0005】
特許文献1においては、ゾルゲル法を採った場合、鉄、銅、バナジウム、マンガンなど複合化させることが難しい元素の存在を指摘し、pH調整プロセスの導入による解決を図っている。
【0006】
特許文献2においては、ゾルゲル法が高価な原料を使用するプロセスであることとその原料は危険物第四類第二石油類に属することから安全対策への配慮が必要であり、合成されるメソポーラス材料も高価にならざるを得ない点を指摘し、工業的に安価にメソポーラス材料を提供するために、pH調整による珪酸ナトリウムのゲル化を利用した製造方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−250277
【特許文献2】特開2001−261326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで提案されてきた特許文献にも指摘されているように、複数の異種金属をドープしたメソポーラス材料は作成に困難を伴うため複雑な工程を必要とすることやテンプレート材や金属アルコキシド等高価な原料を用いることから、製造されるメソポーラス材料も高価にならざるを得ないという問題点がある。
【0009】
本発明の課題は、触媒、吸着材、徐放材等の用途を想定した金属ドープ型メソポーラス粉体であって、工業的に安価に合成できる製造方法で得られる金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体およびその製造方法を提供することである。すなわち、金属アルコキシドによるゾルゲル法と有機テンプレートを組み合わせた従来の方法を用いずに、金属元素を構造中にドープした金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが前項課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、共沈法による珪酸カルシウムの合成プロセスにおいて、水溶性カルシウム化合物と水溶性金属化合物を混合して得た水溶液を沈殿剤として、珪酸ナトリウム水溶液に滴下させた際に生じる沈殿物をろ過洗浄し、所定の温度で水熱処理することにより、合成物はメソポーラス化し、なおかつ合成条件を制御することにより、メソ細孔の中心細孔半径が約5〜30nmの範囲で制御できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は非晶質珪酸カルシウム水和物の構造中に金属イオンを分散させて合成した金属ドープ型珪酸カルシウム水和物の水熱作用による自己組織化とその後の加熱脱水処理により形成されたメソ細孔の中心細孔半径が約5〜30nmの範囲で制御されていることを特徴とする金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体とその製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mgの何れか1種若しくは2種以上の金属をドープした金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体であって、メソ細孔の中心細孔半径が約5〜30nmの範囲であることを特徴とした金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体を工業的に安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で合成したマグネシウムをドープした珪酸カルシウムメソポーラス粉体の粉末X線回折図である。
【図2】実施例1で合成したマグネシウムをドープした珪酸カルシウムメソポーラス粉体の細孔分布図である。
【図3】比較例1で合成した珪酸カルシウムメソポーラス粉体の粉末X線回折図である。
【図4】比較例1で合成した珪酸カルシウムメソポーラス粉体の細孔分布図である。
【図5】実施例2で合成した鉄をドープした珪酸カルシウムメソポーラス粉体の細孔分布図である。
【図6】実施例3で合成した金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体の水熱処理温度‐比表面積図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかる金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体は以下の工程により製造される。
(A)沈殿剤を調整する工程
(B)(A)の沈殿剤を珪酸ナトリウム水溶液に滴下して沈殿により合成物を得る工程
(C)(B)の合成物を水熱処理する工程
(D)(C)により調整した合成物を加熱脱水処理する工程
【0015】
沈殿剤としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mgの硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、各種錯塩等をCaの硝酸塩、塩酸塩、各種錯塩に添加して水溶液化して用いる。
【0016】
なお、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg等の金属原子とCa原子の比率は、金属原子/(金属原子+Ca原子)=0.05〜0.5、好ましくは0.1〜0.3とするのが適当である。
【0017】
また、沈殿剤中の(金属原子+Ca原子)と珪酸ナトリウム水溶液中のSi原子の比率が、(金属原子+Ca原子)/Si原子=0.6〜1.2、好ましくは0.8前後となるように沈殿剤と珪酸ナトリウム水溶液の濃度と量を調整する。濃度は1mol/L前後とするのが適当である。
【0018】
沈殿剤を珪酸ナトリウム水溶液に滴下して沈殿により合成物を得る工程では、通常の共沈法が原料とは異なる薬品を用いpH調整を行いながら反応させていくのに対し、本発明においては特段のpH調整を必要としない。
【0019】
沈殿により得られた合成物を2〜3回水洗洗浄し、金属塩と珪酸ナトリウムの反応により生じたナトリウム塩を除去した後、合成物1部に対し、水1〜5部となるように調整し、水熱処理を行う。処理温度は100〜200℃とし、それぞれ添加した金属塩の種類とドープ割合により適当な温度を選択する。特に140〜180℃の温度範囲で中心細孔径が大きく変化し、高温で処理を行うほど中心細孔径は大きく、比表面積は減少する傾向にある。
【0020】
水熱処理した合成物は層間水を含むため、これを除去する工程が必要である。ここで得た合成物は800℃以上で焼成すると、その構造が壊れることから、800℃以下での加熱脱水処理が好ましい。さらに好ましくは、300〜750℃で加熱脱水処理を行うのが適当である。
【0021】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明する。また、以下の実施例、比較例において粉末X線回折図は(株)リガク製TTR3を用いて行った。細孔分布及び比表面積は(株)日本ベル製BELSORP−miniを用い、窒素により測定した。細孔分布は、DH法により算出し、比表面積はBET法により算出した。
【実施例1】
【0022】
沈殿剤として硝酸カルシウム四水和物10.63g、硝酸マグネシウム六水和物1.28gをそれぞれ秤量し、蒸留水50mlに溶解させた。これとは別に珪酸ナトリウム九水和物385.3gを蒸留水1Lに溶解させた水溶液を62.5ml用意し、磁石式撹拌子を用い十分に撹拌させながら、先に調整した硝酸カルシウム四水和物と硝酸マグネシウム六水和物の混合溶液を滴下させ、沈殿により合成物を得た。この沈殿物を含む溶液に1L程度の蒸留水を加え2〜3回水洗洗浄した。減圧濾過により余剰の水を除去した後、水分量を調整し沈殿物と水分の合量が25gとなるようにした。これをオートクレーブ容器に入れ、140℃、160℃、180℃でそれぞれ水熱処理した後、得られた合成物を300℃で乾燥処理し、粉末状珪酸カルシウムを得た。得られた粉末状珪酸カルシウムのX線回折図からカルサイト、アラゴナイト、トバモライトと非晶質相を確認した。また、窒素吸脱着による細孔分布解析から中心細孔径が水熱処理温度に応じて変化し、8〜10nmの値を取ることが認められた。粉末X線回折図を図1に、細孔分布図を図2に示す。
【0023】
[比較例1]
沈殿剤として硝酸カルシウム四水和物のみを使う点以外は実施例1と同様な方法で粉末状珪酸カルシウムを得た。すなわち、硝酸カルシウム四水和物11.80gを秤量し、蒸留水50mlに溶解させ、実施例1と同様の濃度の珪酸ナトリウム水溶液62.5mlを撹拌させながら沈殿剤を滴下し、沈殿物を得た。水洗洗浄と水分調整を行った後、140℃、160℃、180℃でそれぞれ水熱処理した後、得られた合成物を300℃で乾燥処理し、粉末状珪酸カルシウムを得た。X線回折図からカルサイト、トバモライトと非晶質相を確認した。また、窒素吸脱着による細孔分布解析から中心細孔径は水熱処理温度にかかわらず、約20nmの値を取ることが認められた。粉末X線回折図を図3に、細孔分布図を図4に示す。
【実施例2】
【0024】
沈殿剤として硝酸カルシウム四水和物と硝酸鉄九水和物を用い、Fe/(Ca+Fe)が0.1、0.2、0.3となるよう硝酸カルシウム四水和物と硝酸鉄九水和物をそれぞれ10.63g:2.02g、9.45g:4.04g、8.27g:6.06g秤量し、それぞれ50mlの蒸留水に溶解させた。実施例1と同様に沈殿により合成物を得て、水洗洗浄と水分調整を行った後、160℃の水熱処理を行った。300℃で乾燥処理した粉末状珪酸カルシウムのX線回折図からカルサイト、アラゴナイト、トバモライトと非晶質相を確認した。ヘマタイト等のような酸化鉄のピークは見られないことから、鉄は上記のいずれかの相に固溶していると考えられる。窒素吸脱着による細孔分布解析からは鉄のドープ量に応じて中心細孔径が変化し、中心細孔半径が約5〜30nmの範囲の値を取ることが認められた。細孔分布図を図5に示す。
【実施例3】
【0025】
様々な金属のドープを目的として、硝酸コバルト六水和物、硝酸マンガン六水和物、硝酸ニッケル六水和物、硝酸亜鉛六水和物、硝酸銅三水和物を、金属原子/(Ca+金属原子)が0.1となるようそれぞれ1.46g、1.44g、1.45g、1.49g、1.21g秤量し、硝酸カルシウム四水和物10.63gと50mlの蒸留水に溶解させて五種類の沈殿剤を得た。実施例1と同様に沈殿により合成物を得て、水洗洗浄と水分調整を行った後、100℃、120℃、140℃、160℃、180℃、200℃の水熱処理を行った。それらを300℃で乾燥処理した粉末状珪酸カルシウムの窒素吸脱着によるBET解析からドープされる元素によって比表面積は変化し、良好な条件では約400m/gの値を取ることが認められた。水熱処理温度を横軸に、比表面積を縦軸に取ったプロット図を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体およびその製造方法は、アルカリ触媒を含む触媒、調湿材料を含む吸着材、土壌改良材を含む徐放材等に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質珪酸カルシウム水和物の構造中に金属イオンを分散させて合成した金属ドープ型珪酸カルシウム水和物の水熱作用による自己組織化とその後の加熱脱水処理により形成されたメソ細孔の中心細孔半径が約5〜30nmの範囲で制御されていることを特徴とする金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体。
【請求項2】
前記金属イオンはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mgの何れか1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項1の金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体。
【請求項3】
前記加熱処理は800℃以下であることを特徴とする請求項1の金属ドープ型珪酸カルシウムメソポーラス粉体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195376(P2011−195376A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63781(P2010−63781)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】