説明

金属ナノ粒子分散体を用いて得られる成形加工物、金属積層板及び塗膜

【課題】 簡便な方法で、金属ナノ粒子成分と有機成分とを含有する複合体である成形加工物を得ることができ、且つ、金属ナノ粒子成分と有機成分とを含有する有機無機複合体を含有させることで、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等といった多くの応用分野に広く利用することが可能な成形加工物を提供すること。
【解決手段】 ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)とを含有する金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有することを特徴とする成形加工物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンイミン鎖と親水性セグメントと疎水性セグメントとを含有する高分子化合物が溶媒中で形成する分散体に金属ナノ粒子が含有されてなる金属ナノ粒子分散体を用い、溶媒除去等の処理を施すことによって得られる有機無機複合体を含有する成形加工物、金属積層板及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は1〜数百ナノメートルの粒径を有するナノ粒子であり、その比表面積が著しく大きいことから、金属ナノ粒子を用いた成形加工物は多分野から着目され、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等への応用が期待されている。しかしながら、金属がナノサイズまで小さくなると表面エネルギーが増大するため、粒子表面での融点降下が生じ、その結果、金属ナノ粒子同士の融着が起こりやすくなるため、保存安定性が悪くなる。金属ナノ粒子を安定化させるためには、該融着を防止するために保護剤で保護する必要がある。
【0003】
金属ナノ粒子の製造方法としては溶液法や気相法等があるが、いずれの場合にも前述のように保護剤の使用が不可欠であり、様々な保護剤が提案されてきた。保護剤としては、一般的に低分子量の界面活性剤よりも、例えば、ゼラチン、アルブミン等のたんぱく質や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の方が保護力が高いことが知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、水溶性高分子を保護剤とする金属ナノ粒子は該保護剤同士の凝集が起こりやすいために、得られる金属ナノ粒子もまた凝集することが多く、保存安定性についての根本的な解決策とはならない。前記特許文献1においても、保護剤で保護した後、溶媒を除去して金属粉体として、使用する際に所望の溶剤に再分散させるという煩雑な手段を用いることで、保存安定性の問題の解決を図るものである。また一般に保護剤は、金属の表面に物理的又は化学的に吸着又は結合することで金属ナノ粒子を形成するものであるが、前記水溶性高分子は金属表面との結合力に乏しいため、金属ナノ粒子を安定に保護できないという欠点もある。
【0004】
金属ナノ粒子を安定に保護する試みとしては、例えば、ポリジエチルアミノエチルメタクリレート−ポリグリセロールモノメタクリレート−ポリエチレングリコール(PDEA−PGMA−PEG)のトリブロックコポリマーを使用した高分子会合体を使用する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。該トリブロックコポリマーによる高分子会合体は、PDEA鎖がコア部、PEG鎖が水中への分散安定性を担うシェル層を形成し、その中間にPGMA鎖からなる中間層を有するものである。該会合体は、PDEA鎖中のアミノ基によりコア部に金属を取り込んで安定化し、該コア部周囲の中間層を形成するPGMA鎖の相互架橋により会合体形状を保持するものである。しかし、該会合体は、そのコアを形成するPDEA鎖が親水性のポリマー鎖であるため水中での会合力に乏しく、会合体形状を不安定にする要因を有している。また、コア部に金属を取り込むためには、実質的に会合体形状を保持している中間層の架橋密度を上げることができず、該会合体の保存安定性の向上には限界があった。
【0005】
安定したコアを有する分散体の例として、ポリスチレン粒子やポリメタクリル酸メチル粒子表面にポリアリルアミンやポリ(アミノエチルメタクリレートハイドロクロライド)等のアミノ基含有ポリマーをグラフトした高分子を用いた報告がある(例えば、非特許文献2、3参照。)。しかし、該高分子によって形成される分散体は主に溶媒中での分散安定性に寄与するシェル層に金属を取り込むことから、金属の還元・取り込みによる該シェル層のモルフォロジーが変化することにより分散安定性が不足している。
【0006】
以上のように金属ナノ粒子の分散安定性等に問題があると、その金属ナノ粒子を用いて上記応用分野で利用するためには種々の処理を施す必要があり、また、そのような処理を行なった後に得られる成形加工物等にも、加工処理の条件、方法、工程、成形加工物の品質等に様々な悪影響を及ぼすこととなる。
【0007】
一方、上記応用分野で求められる電気的特性や機械的特性等に優れた特性を発現させるために、低分子保護剤を用いた金属ナノ粒子に対して、種々の前処理を行い、成形処理後に得られる成形材料中から該保護剤を金属ナノ粒子から解離させ、除去する等の処理を施した、金属ナノ粒子を用いた加工物の報告がある(例えば、特許文献2、3参照。)。しかし、電気的特性や機械的特性等といった一部の特性を最大限に向上させることが目的であるために、用いる金属ナノ粒子に対して大変煩雑な前処理を行なう必要があり、製造面、コスト面において非常に不利となる。さらに、成形処理等によって保護剤を金属ナノ粒子から解離、或いは除去することで、保護剤の特性が失われ、得られる成形加工物は、バルク状態の金属に近い物性となることから、金属ナノ粒子が有している成形性、製膜性、接着性、柔軟性等が低下し、実用化するうえで多大な困難が避けられず、改良が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−027307号公報
【非特許文献1】S.Liu,J.V.M.Weaver,M.Save,S.P.Armes,Langmuir,2002,18,8350.
【非特許文献2】J.H.Youk,Polymer,2003,44,5053.
【非特許文献3】G.Sharma,M.Ballauff,Macromolecular Rapid Communications,2004,25,547.
【特許文献2】特開2004−218055号公報
【特許文献3】特開2004−273205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、簡便な方法で、金属ナノ粒子成分と有機成分とを含有する複合体である成形加工物を得ることができ、且つ、金属ナノ粒子成分と有機成分とを含有する有機無機複合体を含有させることで、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等といった多くの応用分野に広く利用することが可能な成形加工物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高い分散性を有するセグメント、金属ナノ粒子を固定化したり、還元したりすることが可能なセグメント、及び会合体の会合力を長く保持することに寄与するセグメントの3つのセグメントを有する高分子化合物を用いると、金属ナノ粒子が安定して存在する金属ナノ粒子分散体が得られ、該金属ナノ粒子分散体を用いることによって、煩雑な前処理を行なわなくても、金属ナノ粒子を有する有機無機複合体を含有する成形加工物が得られること、基材の上に該金属ナノ粒子分散体を含む組成物を塗布すると導電性を有する金属積層板が得られること、さらに該金属ナノ粒子分散体を含む塗料用組成物を塗布すると、金属ナノ粒子由来の色を有する塗膜が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)が溶媒中で形成する分散体中に、金属ナノ粒子(Y)を含有する金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有することを特徴とする成形加工物を提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、基材の上に、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)とを含有する金属ナノ粒子分散体を含む組成物を塗布して得られることを特徴とする金属積層板をも提供するものである。
【0013】
更に又、本発明は、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)とを含有する金属ナノ粒子分散体を含む塗料用組成物を塗布して得られることを特徴とする塗膜をも提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形加工物は、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)が溶媒中で形成する分散体中に金属ナノ粒子(Y)を含有する金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有するものである。該金属ナノ粒子分散体は、ポリアルキレンイミン鎖の強い還元能力、配位結合力や静電的な相互作用によって金属イオンを還元するとともにナノ粒子として分散体中に固定化することが可能であり、このようなポリアルキレンイミンの機能に伴って、該ポリアルキレンイミン鎖の収縮等に伴う分散体のモルフォロジーに変化が生じても、分散体を形成する高分子化合物中の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、溶媒との高い親和力と、前記セグメント間の相互作用による強い会合力によって優れた自己組織化能力を発現するため、分散体としての分散安定性を損なうことがなく、種々の溶媒中で長期に渡り安定な分散状態を保持できる。よって該金属ナノ粒子分散体を用いると、金属ナノ粒子を有する有機無機複合体を含有する成形加工物を容易に得ることが出来る。該成形加工物は、金属ナノ粒子が有する種々の化学的、電気的、磁気的、光学的、色材特性等といった特性に加えて、有機成分が有する成形性、製膜性、接着性、柔軟性等の特性を併せもっている。故に、従来、金属ナノ粒子が有する特性を成形加工物に発現させるために必要とされていた保護剤の除去は必要ではなく、成形加工物を得る前に、主に保護剤の除去を目的として施されていた金属ナノ粒子分散体に対して行なわれる煩雑な前処理を必要としないばかりか、更には、有機成分である高分子化合物由来の特性をも付与するものであり、工業的応用範囲が広く、有用性が高い。
【0015】
前記金属ナノ粒子分散体を、様々な用途に応じて、コーティング材料、接着性材料、バインダー、導電性材料等の成形材料に調整し、種々の方法で成形加工することによって、膜、シート、立体成形物等といった本発明の成形加工物が得られる。本発明の成形加工物は、比表面積が大きい、表面エネルギーが高い、プラズモン吸収を有する等の金属ナノ粒子を含有することによる特徴と、さらに自己組織化高分子分散体が有する様々なモルフォルジー制御特性とを有するものであり、種々の化学的、電気的、磁気的、光学的性能を兼備し、多岐にわたる分野、例えば触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等への応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の成形加工物は、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを含有する高分子化合物(X)が溶媒中で形成する分散体中に、金属ナノ粒子(Y)を含有する金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有するものである。
【0017】
本発明において使用する高分子化合物(X)を構成するポリアルキレンイミン鎖(a)は、該鎖中のアルキレンイミン単位が金属又は金属イオンと配位結合可能であることから、金属をナノ粒子として固定化できる高分子鎖である。その構造は二級アミンのアルキレンイミン単位を主な繰り返し単位とし、直鎖状、分岐状のいずれであっても良く、目的とする金属ナノ粒子分散体の粒径等によって、適宜選択すればよい。
【0018】
後述する金属ナノ粒子分散体の製造方法で該分散体を得る場合、その粒径は用いる高分子化合物(X)の分子量やポリアルキレンイミン鎖(a)の分岐度だけではなく、該高分子化合物(X)を構成する各成分、即ち、ポリアルキレンイミン鎖(a)、後述する親水性セグメント(b)、後述する疎水性セグメント(c)の構造や組成比によっても影響を受ける。同じ分子量のポリアルキレンイミン鎖(a)である場合には、分岐度が小さいと得られる分散体の粒径が大きく、分岐度の向上に伴って粒径が小さくなる傾向がある。また、金属ナノ粒子の含有率を上げるためには、分岐状のポリアルキレンイミン鎖であることが好ましく、親水性溶媒中で製造・保存する場合には、該溶媒中で結晶性を示す直鎖状ポリアルキレンイミン鎖を用いると、得られる金属ナノ粒子分散体に特に優れた分散安定性と保存安定性を発現させることができる。
【0019】
一般に市販されている分岐状ポリアルキレンイミンは3級アミンによって分岐状となっており、そのまま本発明で使用する高分子化合物(X)の原料として用いる事ができる。安定した分散性を保持できる望ましい粒径の金属ナノ粒子分散体が得られる点からは、分岐度を(3級アミン)/(全てのアミン)のモル比で示すと1〜49/100の範囲であり、工業的な製造面、入手のし易さ等も鑑みるとより好ましい範囲は15〜40/100である。
【0020】
ポリアルキレンイミン鎖(a)の重合度としては特に限定されるものではないが、低すぎると、高分子化合物(X)の分散体中に含有する金属ナノ粒子の量やその安定的な保持が不十分であり、高すぎると高分子化合物(X)が巨大な会合体となるため、保存安定性に支障をきたすこととなる。従って、得られる金属ナノ粒子分散体中の金属ナノ粒子の固定化能力や分散体の粒径の巨大化を防ぐ能力等がより優れた金属ナノ粒子分散体を得るためには、前記ポリアルキレンイミン鎖(a)の重合度としては通常1〜10,000の範囲であり、3〜3,000の範囲であることが好ましく、5〜1,000の範囲であることがより好ましい。
【0021】
さらに分岐状ポリアルキレンイミン鎖に比べ、直鎖状ポリアルキレンイミン鎖は、同じ重合度で比較した時、分子鎖の拡がりを示す排除体積が大きいため、直鎖状ポリアルキレンイミン鎖の方が小さい重合度で十分な大きさの分散体を形成することが可能である。逆に分岐状ポリアルキレンイミン鎖は同程度の排除体積を考えた時に、高い重合度となる。よって直鎖状ポリアルキレンイミン鎖を用いる場合の、その重合度は5〜300の範囲であることが特に好ましく、分岐状ポリアルキレンイミンを用いる場合は15〜1,000の範囲であることが特に好ましい。
【0022】
前記ポリアルキレンイミン鎖(a)は一般的に市販、又は合成可能なものであれば、特に限定されることなく使用することができるが、工業的な入手の容易さ等から、ポリエチレンイミン鎖、ポリプロピレンイミン鎖であることが好ましく、特にポリエチレンイミン鎖であることが好ましい。
【0023】
本発明において使用する高分子化合物(X)を構成する親水性セグメント(b)は、該高分子化合物(X)を水等の親水性溶媒中に分散した場合には、溶媒との高い親和性を有し、分散体を形成した際に分散安定性を保持するセグメントである。また疎水性溶媒中に分散した場合は、該親水性セグメント(b)の分子内又は分子間相互の強い会合力により、分散体のコアを形成する役割を有する。親水性セグメント(b)の重合度としては特に限定されるものではないが、親水性溶媒中に分散させる場合は、重合度が低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎると分散体同士が凝集してしまう可能性が考えられ、また疎水性溶媒中に分散させる場合は、重合度が低すぎると分散体の会合力が乏しくなり、高すぎると溶媒との親和性を保持できなくなる。これらの観点から、親水性セグメント(b)の重合度としては通常1〜10,000であり、3〜3,000であることが好ましく、製造方法の容易さ等の点から5〜1,000であることがより好ましい。さらにポリオキシアルキレン鎖である場合の重合度としては5〜500であることが特に好ましい。
【0024】
親水性セグメント(b)は一般的に市販、又は合成可能な親水性のポリマー鎖からなるものであれば特に限定されることなく使用することができる。特に親水性溶媒中では、安定性に優れた分散体が得られる点から、ノニオン性のポリマーからなるものであることが好ましい。
【0025】
親水性セグメント(B)としては、例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖等のポリオキシアルキレン鎖、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類からなるポリマー鎖、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の水溶性のポリ(メタ)アクリル酸エステル類からなるポリマー鎖、ポリアセチルエチレンイミン、ポリアセチルプロピレンイミン、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリプロピオニルプロピレンイミン等の親水性置換基を有するポリアシルアルキレンイミン鎖、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等のポリアクリルアミド類からなるポリマー鎖等を挙げることができ、これらの中でも、安定性に特に優れた分散体が得られ、また、工業的入手が容易である点から、ポリオキシアルキレン鎖であることが好ましい。
【0026】
本発明において使用する高分子化合物(X)を構成する疎水性セグメント(c)は、該高分子化合物(X)を水等の親水性溶媒中に分散した場合には、分子内又は分子間相互の強い会合力により、分散体のコアを形成し、安定な分散体を形成する役割を有する。また疎水性溶媒中に分散した場合は、溶媒との高い親和性を有し、分散体を形成した際の分散安定性を保持するセグメントである。
【0027】
疎水性セグメント(c)は一般的に市販、又は合成可能な疎水性の化合物の残基からなるものであれば特に限定されることなく使用することができる。例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリクロロメチルスチレン、ポリブロモメチルスチレン等のポリスチレン類、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸2−エチルヘキシルエステル、ポリメタクリル酸2−エチルヘキシルエステル等の非水溶性のポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリベンゾイルエチレンイミン、ポリベンゾイルプロピレンイミン、ポリ(メタ)アクリロイルエチレンイミン、ポリ(メタ)アクリロイルプロピレンイミン、ポリ〔N−{3−(パーフルオロオクチル)プロピオニル}エチレンイミン〕、ポリ〔N−{3−(パーフルオロオクチル)プロピオニル}プロピレンイミン〕等の疎水性置換基を有するポリアシルアルキレンイミン類のポリマーの残基や、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート等の樹脂の残基等が挙げられ、単独の化合物の残基でも、2種以上の異なる化合物を予め反応させて得られる化合物の残基であっても良い。
【0028】
前記エポキシ樹脂としては、市販、又は合成可能なものであれば特に限定されることなく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、特開2003−201333号記載のキサンテン型エポキシ樹脂等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。これらの中でも、得られる金属ナノ粒子分散体を導電ペーストとして用いた際に、基板との密着性に優れる等の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の残基であることが好ましく、親水性溶媒中での会合力が強く、分散安定性・保存安定性に優れる分散体が得られる点から、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂等の3官能以上のエポキシ樹脂の残基であることが好ましい。また、これらのエポキシ樹脂は、そのまま高分子化合物(X)の原料としても良く、更には目的とする高分子化合物(X)の構造等に応じて、種々の変性を加えたものであっても良い。
【0029】
前記ポリウレタンとしては、市販、又は合成可能なものであれば特に限定されることなく使用することができる。一般にポリウレタンはポリオールとポリイソシアネートとを付加反応させて得られるポリマーである。前記ポリオールとしては、例えば、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリプロピレングリゴール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル−4,4’−ジオール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、n−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ポリブタジエンジポリオール、トリメチロールプロパン、ジヒドロキシベンゼン、2官能以上のグリシジル基を有する化合物、及び上記エポキシ樹脂から変性した化合物等が挙げられ、単独でも2種以上を混合して用いても良い。
【0030】
また、ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
これらの中でも、得られる金属ナノ粒子分散体を本発明の金属積層板の原料等として用いた際に、無機材料系、又はハイブリッド系材料等からなる種々の基盤との密着性に優れる等の観点から、ポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA型エポキシ樹脂変性ポリオール等が好ましく、ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が好ましく、これら好ましい原料を組み合わせて得られるポリウレタンを用いる事が最も好ましい。また、これらのポリウレタンは、そのまま高分子化合物(X)の原料としても良く、更には目的とする高分子化合物(X)の構造等に応じて、種々の変性を加えたものであっても良い。
【0032】
前記ポリカーボネート類としては、市販、又は合成可能なものであれば特に限定されることなく使用することができる。一般にポリカーボネートはビスフェノールAとホスゲン、又はジフェニルカーボネート等との縮合反応から製造されるポリマーである。前記ポリカーボネート類とはポリカーボネートが代表例であるが、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールAの代わりに、前記ポリウレタン類の原料であるポリオールで例示した種々の原料を用いて製造できる種々のカーボネート系ポリマーも、ポリカーボネート類の例として挙げることができる。
【0033】
これらの中でも、得られる金属ナノ粒子分散体を本発明の金属積層板の原料等として用いた際に、ポリカーボネート基板をはじめとし、種々の基盤との密着性に優れる等の観点から、ポリカーボネートが好ましい。また、これらのポリカーボネート類は、そのまま高分子化合物(X)の原料としても良く、更には目的とする高分子化合物(X)の構造等に応じて、種々の変性を加えたものであっても良い。
【0034】
以上に挙げた疎水性セグメント(c)のなかでも、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、疎水性の置換基を有するポリアシルアルキレンイミンから選ばれる一種以上の化合物の残基は、原料として用いるそれぞれの化合物の工業的入手容易性、取り扱いの容易さだけでなく、高分子化合物(X)としたときの疎水性会合力の高さ等、総合的に判断して好ましい疎水性セグメントであり、特に高分子化合物(X)の工業的製法に優れ、且つ、コスト面、入手の容易さ等から、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、エポキシ樹脂類、ポリウレタン類の残基であることがより好ましく、エポキシ樹脂類の残基であることが最も好ましい。
【0035】
また、疎水性セグメント(c)の重合度としては特に限定されるものではないが、親水性溶媒中に分散させる場合は、低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎると分散体同士が凝集してしまう可能性が考えられ、また疎水性溶媒中に分散させる場合は、低すぎると分散体の分散性が乏しくなり、高すぎると溶媒との親和性が保持できなくなる。これらの観点から、疎水性セグメント(c)の重合度としては通常1〜10,000であり、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、疎水性置換基を有するポリアシルアルキレンイミン類等の場合には3〜3,000であることが好ましく、10〜1,000であることがより好ましい。また、エポキシ樹脂類、ポリウレタン類、ポリカーボネート類等の樹脂の残基からなる場合は、その重合度としては通常1〜50であり、1〜30であることが好ましく、特に1〜20であることが好ましい。
【0036】
本発明で用いる高分子化合物(X)は、前述のポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とが結合した化合物であり、好ましくは、親水性セグメント(b)と疎水性セグメント(c)がポリアルキレンイミン鎖(a)に結合している構造を有するものであり、金属を金属ナノ粒子として分散体中に固定化し、溶媒中で分散安定性と保存安定性の高い分散体を形成できる能力を有している。
【0037】
本発明で用いる高分子化合物(X)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、設計どおりの高分子化合物(X)を容易に合成可能である点から、下記の方法によるものが好ましい。
【0038】
ポリアルキレンイミン鎖は前述したとおり、市販又は合成したものを好適に用いることができる。
【0039】
まず、分岐状ポリアルキレンイミン鎖を用いる場合について説明する。
分岐状ポリアルキレンイミン鎖の合成は種々な方法で行ってよく、特に限定されるものではないが、一般的にはエチレンイミンを酸触媒を用いて開環重合させる方法が挙げられる。分岐状ポリエチレンイミンの末端は1級アミンとなっているため、親水性セグメント、及び疎水性セグメントが1級アミンと反応する官能基を有したものであれば、逐次、或いは同時に反応させることによって、本発明で用いる事ができる高分子化合物を合成することができる。1級アミンと反応する官能基としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルデヒド基、カルボキシル基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基、イソチオシアネート基、ハロゲン、酸クロライド、スルホン酸クロライド等が挙げられる。なかでもカルボキシル基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基は反応性、取扱い易さ等、製法上有利であり、好ましい官能基である。
【0040】
また1級アミンと直接反応する官能基でなくとも、種々の処理を行うことによって1級アミンと反応可能な官能基にできるものであれば良く、例えば、ヒドロキシル基を有するものであれば、これをグリシジル化する等の手法でポリエチレンイミン鎖と反応させても良い。更には、分岐状ポリアルキレンアミン鎖の1級アミンを、親水性セグメント、または疎水性セグメントが有する官能基と反応可能な他の官能基に変換する処理を施した後、これらを反応させて高分子化合物(X)を合成することも可能である。
【0041】
更にまた、予め、分岐状ポリアルキレンイミン鎖とノニオン性の親水性ポリマーとを反応させて得られる化合物を水性媒体中に溶解又は分散し、ここに、ラジカル開始剤と、疎水性セグメントを誘導するラジカル重合性モノマーとを加え、ラジカル重合を行なうことによって、本発明で用いる高分子化合物(X)の水分散体を得ることもできる。この手法は、過酸化物等のラジカル開始剤とアミノ基との相互作用等によりアミノ基に発生したラジカル開始点より、或いはラジカル開始剤から発生したラジカルがイミノ基への連鎖移動等によって、イミノ基に発生したラジカル開始点より前記ラジカル重合性モノマーが重合することによって、分岐状ポリアルキレンイミン鎖とノニオン性の親水性ポリマーとを反応させて得られる化合物に疎水性セグメントを導入するものである。ここで用いる事ができるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン等のスチレン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられ、工業的入手容易性と、取り扱い容易性の観点から、スチレン、(メタ)アクリル酸メチルを用いる事が好ましい。
【0042】
次に直鎖状ポリアルキレンイミン鎖を用いる場合について説明する。
直鎖状ポリアルキレンイミン鎖は、一般的にはポリアシル化アルキレンイミン鎖をリビング重合によって合成したのち、加水分解する方法で得られるものであるが、本発明で用いる高分子化合物(X)は親水性セグメントと疎水性セグメントとを有するものであることを考慮して、合成順序を選択する方法が好ましい。
【0043】
合成の順序は、用いる重合方法、使用する開始剤等重合条件によって異なる。直鎖状の高分子化合物の一般的な合成例としては、リビング重合によって、まず疎水性のポリマー鎖からなるセグメントを合成し、続いてポリアシル化アルキレンイミン鎖、親水性のポリマー鎖からなるセグメントを合成することによって高分子化合物を得た後、加水分解によりポリアルキレンイミン鎖を有する高分子化合物(X)を得る方法が挙げられる。
【0044】
また、親水性のポリマー鎖からなるセグメントを合成し、続いてポリアシル化アルキレンイミン鎖、疎水性のポリマー鎖からなるセグメントを合成して直鎖状の高分子化合物を得た後、加水分解によりポリアルキレンイミン鎖を有する高分子化合物(X)を得る方法であっても良い。
【0045】
更には、リビングラジカル重合、ATRP、リビングカチオン重合等を用いることによってリビング末端がハロゲン、トシル基等の電子吸引性末端を有する、疎水性のポリマー鎖からなるセグメントとポリアシル化アルキレンイミン鎖を有する化合物を合成し、官能性基を有する親水性のポリマー鎖を縮合させて、高分子化合物を合成し、加水分解によりポリアルキレンイミン鎖を有する高分子化合物を得る方法等が挙げられる。
【0046】
更にタイプの異なる例として、例えば末端にハロゲン、トシル基等の電子吸引性基を有する親水性ポリマーを開始剤に用い、リビングカチオン重合等によってポリアシル化アルキレンイミン鎖を合成し、リビング末端がハロゲン、トシル基等の電子吸引性末端を有する、親水性のポリマー鎖からなるセグメントとポリアシル化アルキレンイミン鎖とを有する化合物を得た後、末端に官能性基を有する疎水性の化合物を縮合させて、高分子化合物を合成し、加水分解によりポリアルキレンイミン鎖を有する高分子化合物を得る方法等が挙げられる。
【0047】
リビング重合反応を用いて櫛型または星型の高分子化合物(X)を合成する例を挙げる。複数個のハロゲン、トシル基等の電子吸引性基を有する疎水性の化合物をリビング重合開始剤とし、リビングカチオン重合を用いてグラフト重合させ、ポリアシル化アルキレンイミン鎖を導入する。続いてリビング末端から、同様にリビングカチオン重合を用いて親水性のポリマー鎖からなるセグメントを導入することによって、櫛型又は星型の高分子化合物を得た後、加水分解によりポリアルキレンイミン鎖を有する高分子化合物(X)を得ることができる。
【0048】
リビング開始剤として用いる化合物は親水性のポリマー鎖であってもよく、その場合は、ポリアシル化アルキレンイミン鎖を合成後、続けて疎水性のポリマー鎖からなるセグメントを導入することによって、高分子化合物(X)を得ることが出来る。
【0049】
上述した種々のリビング重合反応で使用される開始剤は特に限定されるものではないが、一般例としてATRPの場合はベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、1−(クロロエチル)ベンゼン、1−(ブロモエチル)ベンゼン等、ATRPの場合は助触媒として塩化銅、臭化銅等のような遷移金属ハライドと、ビピリジン、4,4’−ジ(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン、メチル2−ブロモプロピオネート、エチル2−ブロモイソブチレート等によって形成される錯体の使用を挙げることができる。リビングカチオン重合の場合は臭化メチル、臭化エチル、メチルトシレート等が挙げられる。
【0050】
上述した縮合反応させる官能性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられ、塩基性化合物の存在下で反応を行うことができる。用いる事ができる塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド等の有機塩基等が挙げられる。
【0051】
上述したようなリビング重合反応、あるいは縮合反応を行う際には反応溶媒を用いることもでき、一般的にアプロティック溶媒が好ましく使用することができる。なかでも特にN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いる事が好ましい。
【0052】
高分子化合物(X)の代表的な合成例を記す。
(I)分岐状ポリアルキレンイミンは市販品を用い、親水性ポリマーとしてはポリエチレングリコールモノメチルエーテルのトシル体を用いる。該親水性ポリマーは例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルとトシルクロライドを極性溶媒中、ピリジンの存在下で反応させることによって得ることができる。疎水性ポリマーとしては末端にエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いる。この組み合わせの場合には、はじめにポリエチレンイミンを極性溶媒に溶解し、炭酸カリウム等のアルカリ存在下で、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルのトシル体と100℃で反応させ、ポリエチレングリコールとポリエチレンイミン構造を有する化合物を合成し、この後、アセトンとメタノールとの混合溶媒中、エポキシ樹脂を加えて、60℃で反応させることにより、ポリエチレングリコール−ポリエチレンイミン−エポキシ樹脂の構造を有する高分子化合物を得ることができる。
【0053】
(II)分岐状ポリアルキレンイミンは市販品、親水性ポリマーとしては、(I)と同様にして得られるポリエチレングリコールモノメチルエーテルのトシル体を用いる。疎水性ポリマーとして、原子移動ラジカル重合(ATRP)によって合成した片末端を臭素化したポリスチレンを用いる。該ポリスチレンは、例えば、トルエン溶媒中、スチレンモノマーを、ビピリジンと、臭化銅、1−ブロモエチルベンゼンの存在下でリビングラジカル重合することによって合成することが出来る。この組み合わせの場合には、まず片末端臭素化ポリスチレンを極性溶媒に溶解し、水酸化ナトリウム等のアルカリで処理して片末端をヒドロキシル化したポリスチレンとする。さらに極性溶媒中、トシルクロライドをピリジンの存在下で反応させることによって片末端トシル化ポリスチレンとする。これを(I)と同様にしてポリエチレングリコールとポリエチレンイミン構造を有する化合物とともに、極性溶媒中、炭酸カリウム等のアルカリ存在下、100℃で反応させることにより、ポリエチレングリコール−ポリエチレンイミン−ポリスチレンの構造を有する高分子化合物を得ることができる。
【0054】
(III)スルホニル化したポリエチレングリコールモノメチルエーテルを重合開始剤として、2−メチルオキサゾリンをジメチルアセトアミド中でリビングカチオン重合させた。反応終了後、続けて2−フェニルオキサゾリンをカチオンリビング重合させ、ポリエチレングリコール−ポリアセチルエチレンイミン−ポリベンゾイルエチレンイミンの構造を有する高分子化合物を得る。
【0055】
さらにポリアセチルエチレンイミンセグメントを酸加水分解することにより、ポリエチレングリコール−ポリエチレンイミン−ポリベンゾイルエチレンイミンの構造を有する高分子化合物を得ることができる。
【0056】
(IV)始めにスチレンモノマーをベンジルブロマイド、臭化銅、ビピリジンの共存下、トルエン中で原子移動ラジカル重合(ATRP)を行い、片末端臭素化したポリスチレンを合成した。これを重合開始剤として2−メチルオキサゾリンをジメチルアセトアミド中でカチオンリビング重合させ、臭素末端のポリアセチルエチレンイミンとポリスチレン構造を有する化合物を得た。
【0057】
一方酢酸ビニルをジメチルアセトアミド中でナトリウムメトキシドを用いて部分的にアセチル基を加水分解し、−ONa部分に対し当モル以上の臭素末端ポリアセチルエチレンイミンとポリスチレン構造を有する化合物の反応溶液を導入し、ポリ酢酸ビニル−ポリアセチルエチレンイミン−ポリスチレンの)の構造を有する高分子化合物を得る。さらに酸加水分解することにより、ポリビニルアルコール−ポリエチレンイミン−ポリスチレンの構造を有する高分子化合物を得ることが出来る。
【0058】
(V)スルホニル化したエポキシ樹脂を重合開始剤として、2−メチルオキサゾリンをジメチルアセトアミド中でリビングカチオン重合させ、続いて2−エチルオキサゾリンをリビングカチオン重合させることによって、ポリプロピオニルエチレンイミン−ポリアセチルエチレンイミン−エポキシ樹脂の構造を有する高分子化合物を得る。さらにポリアセチルエチレンイミンセグメントをアルカリ加水分解することにより、ポリプロピオニルエチレンイミン−ポリエチレンイミン−エポキシ樹脂の構造を有する高分子化合物を得ることができる。
【0059】
(VI)スルホニル化したエポキシ樹脂を重合開始剤として、2−メチルオキサゾリンをジメチルアセトアミド中でリビングカチオン重合させた。さらにポリエチレングリコール モノメチルエーテルを、上述で合成したコポリマーのトシル末端に反応させ、ポリエチレングリコール モノメチルエーテル−ポリアセチルエチレンイミン−エポキシ樹脂の構造を有する高分子化合物を得る。さらにポリアセチルエチレンイミンセグメントを酸加水分解することにより、ポリエチレングリコール−ポリエチレンイミン−エポキシ樹脂の構造を有する高分子化合物を得ることができる。
【0060】
尚、エポキシ樹脂のスルホニル化や、これを用いるリビング重合、ポリアセチルエチレンイミンセグメントの加水分解などの諸反応条件などは、例えば、特開2005−307185号公報等に記載の方法に従えばよい。
【0061】
本発明で用いる高分子化合物(X)中のポリアルキレンイミン鎖(a)、親水性セグメント(b)、疎水性セグメント(c)の各成分の鎖を構成するポリマーの重合度の比(a):(b):(c)としては、特に限定されるものではないが、得られる金属ナノ粒子分散体の会合力、分散安定性及び保存安定性に優れる点から、通常5,000:5〜5,000,000:1〜5,000,000の範囲であり、特にポリアルキレンイミン鎖(a)に直鎖状ポリアルキレンイミン鎖を用いた場合は5000:80〜1,000,000:10〜3,000,000が好ましく、分岐状ポリアルキレンイミン鎖を用いた場合は5000:25〜400,000:5〜1,000,000が好ましい。さらに直鎖状ポリアルキレンイミン鎖の重合度を5000とした時、好ましい例として親水性セグメント(b)にポリオキシアルキレン鎖を用いると、その比率の範囲は80〜500,000がより好ましく、且つ疎水性セグメント(c)にポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、疎水性置換基を有するポリアシルアルキレンイミン類等を用いると、その比率の範囲は50〜3,000,000がより好ましく、エポキシ樹脂類、ポリウレタン、ポリカーボネート等の樹脂の残基等からなる化合物を用いると、その比率の範囲は10〜50,000がより好ましい。一方分岐状ポリアルキレンイミン鎖の重合度を5000とした時、好ましい例として親水性セグメント(b)にポリオキシアルキレン鎖を用いると、その比率の範囲は25〜200,000がより好ましく、且つ疎水性セグメント(c)にポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、疎水性置換基を有するポリアシルアルキレンイミン類等を用いると、その比率の範囲は15〜1,000,000がより好ましく、エポキシ樹脂類、ポリウレタン、ポリカーボネート等の樹脂の残基等からなる化合物を用いると、その比率の範囲は5〜20,000がより好ましい。
【0062】
本発明に使用する高分子化合物(X)は、金属ナノ粒子を安定に存在させることが出来るポリアルキレンイミン鎖(a)とは別に、該化合物(X)が溶媒中で会合体を形成する際に、コア部又はシェル部を形成する親水性セグメント(b)及び疎水性セグメント(c)を有する。上記したように、親水性セグメント(b)は、疎水性溶媒中で強い会合力を示し、親水性溶媒中では溶媒と高い親和性を示し、また、疎水性セグメント(c)は親水性溶媒中で強い会合力を示し、疎水性溶媒中では溶媒と高い親和性を示す。さらには、疎水性セグメント(c)中に芳香環を有する場合には、該芳香環の有するπ電子が金属ナノ粒子(Y)と相互作用し、さらに該金属ナノ粒子(Y)を安定化することに寄与するとも考えられる。
【0063】
本発明においては、このような金属含有部、コア形成部及びシェル形成部を構造中に個別に有する化合物(X)を使用することにより、金属ナノ粒子分散体を形成する際に、各種溶媒中でのコア部を形成するセグメント相互の会合力の低下や、シェル部を形成するセグメントの収縮等が生じず、分散体の安定性は金属ナノ粒子を含有させることにより阻害されることがない。従って本発明の原料として用いる金属ナノ粒子分散体は、強い会合力により会合したコア部と、溶媒への優れた分散安定性を示すシェル部とを有し、各種溶媒中で優れた保存安定性を有するものである。
【0064】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子分散体を構成する金属ナノ粒子(Y)の金属種としては、その金属又はイオンがポリアルキレンイミン鎖(a)と配位結合できるものであれば制限されず、遷移金属系の金属化合物等の金属種を使用できる。なかでもイオン性の遷移金属であることが好ましく、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト等の遷移金属であることがより好ましい。また金属ナノ粒子分散体を構成する金属ナノ粒子(Y)は一種類であっても、二種類以上であってもよい。例示した遷移金属の中でも特に銀、金、パラジウム、白金は、その金属イオンがポリエチレンイミンに配位した後、室温または加熱状態で自発的に還元されるため特に好ましい。さらにその中でも還元反応の容易さ、取扱い易さ等の面から銀、金、白金が最も好ましい遷移金属である。
【0065】
前記金属ナノ粒子分散体中の金属ナノ粒子(Y)の含有量としては、特に限定されるものではないが、含有量が少なすぎると分散体中の金属ナノ粒子の特性が現れにくく、また多すぎると分散体中の金属ナノ粒子の相対重量が増し、その相対重量と分散体の分散保持力との兼ね合いによって、金属ナノ粒子分散体が沈降することが予想される観点、ならびに、高分子化合物(X)中のアルキレンイミン単位による、還元能力や配位能力等の観点から、該金属ナノ粒子(Y)の含有率としては、ポリアルキレンイミン鎖(a)を形成する全窒素原子数を100molとしたとき、金属ナノ粒子(Y)は通常1〜20,000molの範囲であり、1〜10,000molの範囲であることが好ましく、特に、後述の製造方法において、還元剤を併用する場合には50〜7,000mol、還元剤を併用しない場合には、5〜70molであることが好ましい。
【0066】
前記金属ナノ粒子分散体を構成する金属ナノ粒子(Y)の粒子径としては、特に限定されるものではないが、金属ナノ粒子分散体がより高い分散安定性を有するためには、金属ナノ粒子分散体を構成する金属ナノ粒子(Y)の粒子径は1〜200nmの微粒子であることがよく、1〜50nmの範囲であることが好ましく、さらに1〜30nmの範囲であることがより好ましい。
【0067】
一般に数十nmのサイズ領域にある金属ナノ粒子は、その金属種に応じて、表面プラズモン励起に起因する特徴的な光学吸収を有する。従って、得られる分散体のプラズモン吸収を測定することによって、該分散体中には、金属がナノメートルオーダーの微粒子として存在していることを確認することが出来、更には、該分散体をキャストして得られる膜のTEM(透過電子顕微鏡)写真等にて、その平均粒径や分布幅等を観測することも可能である。
【0068】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子分散体の製造方法は、ポリアルキレンイミン鎖と、親水性セグメントと、疎水性セグメントとを有する化合物を分散した媒体中に、金属の塩又は金属のイオン溶液を加え、該金属イオンを還元し、金属ナノ粒子として安定化する。このようにして製造した金属ナノ粒子分散体は、分散安定性、保存特性に優れ、金属ナノ粒子が有する発色、触媒、電気的機能等、様々な金属含有機能性分散体としての能力を有している。
【0069】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子分散体の製造方法で用いる、ポリアルキレンイミン鎖と、親水性セグメントと、疎水性セグメントとを有する高分子化合物は、前記した原料より、前述の手法によって調整する。該化合物は、各種媒体、例えば、水、親水性溶剤、疎水性溶剤中で、その媒体に応じた分散体を形成する。媒体として用いる事ができるものは、限定されるものではなく、分散体がO/W系であっても、W/O系のいずれも場合でもよい。得られる金属ナノ粒子分散体の使用目的等に応じて親水性溶媒、疎水性溶媒、またはその混合溶媒、或いは後述するようなその他の溶媒を併用する混合溶媒を種々選択して用いる事ができる。混合溶媒を用いる場合は混合比をO/W系の時は親水性溶媒を多く、W/O系の時は疎水性溶媒を多くして用いる。混合比は用いる高分子化合物の種類によって異なるので、一概に限定することはできないが、一般的な目安として例を挙げるとO/W系の時は疎水性溶媒の5倍容量以上の親水性溶媒を用い、W/O系の時は親水性溶媒の5倍容量以上の疎水性溶媒を用いることが好ましい。
【0070】
親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、N−メチルピロリドン等を挙げることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。
【0071】
疎水性溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ブタノール、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、メトキシベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。
【0072】
親水性溶媒、或いは疎水性溶媒と混合して用いることができるその他の溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、得られる金属ナノ粒子分散体の使用用途等に応じて、適宜選択して用いればよい。
【0073】
高分子化合物を媒体中に分散させて、分散体を調整する方法としては、特に限定されるものではなく、通常、室温で静置、又は攪拌によって、容易に得ることが出来るが、必要に応じて超音波処理、過熱処理等を行ってもよい。また高分子化合物の結晶性等により、媒体とのなじみが低い場合には、例えば、高分子化合物を少量の良溶媒で、溶解又は膨潤させた後、目的とする媒体中へ分散させる方法でもよい。このとき、超音波処理又は過熱処理を行うとより効果的である。
【0074】
親水性溶媒と疎水性溶媒を混合して用いる場合は、その混合方法、混合順序等特に制限を加える必要はなく、種々の方法で行ってよい。用いる高分子化合物の種類や組成等によって各種溶媒との親和性、分散性に違いが生じることがあるので、目的に応じて、溶媒の混合比、混合順序、混合方法、混合条件等を適宜選択することが好ましい。
【0075】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子分散体の製造方法で用いる金属は上述した通りである。実際に原料として用いる場合は金属塩やイオン溶液を使用する。ここで使用できる金属イオンとしては、水溶性金属化合物であればよく、金属カチオンと酸基アニオンとの塩類のもの、あるいは金属が酸基のアニオン中に含まれるものなどを用いることができ、遷移金属等の金属種を有する金属イオンを好ましく使用できる。
【0076】
遷移金属系イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLn−)であっても、錯体状態で好適に配位させることができる。なお、本明細書において遷移金属とは第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0077】
遷移金属カチオンとしては、下記の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Cr,Co,Ni,Cu,Pd,Ag,Pt,Au等の一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO,SO、またはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、ポリエチレンイミン骨格により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制することで、錯体を調製することが好ましい。
【0078】
さらに、下記の金属が含まれたアニオン(MLn−)、例えば、AuCl,PtCl,CuF等の、金属がハロゲンに配位されたアニオンも好適に錯体状態で配位させることができる。
【0079】
これら金属イオンの中でも、上記したように、特に銀、金、パラジウム、白金の金属イオンはポリエチレンイミンに配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元され、非イオン性の金属ナノ粒子に変換されるため好ましい。
【0080】
また含有させる金属種を2種類以上とすることも可能である。この場合は、多種の金属の塩またはイオンを同時に、または別々に加えることによって、分散体内で多種の金属イオンが還元反応をおこし、多種の金属粒子が生成するため、多種金属を含有する分散体を得ることが出来る。
【0081】
自発的に還元しない金属、あるいは自発的な還元が不十分である金属を使用する場合、または、分散体中に多くの金属を取り込ませたい場合等には、更に還元剤により、金属イオンを還元させる工程を経ることにより金属ナノ粒子分散体を形成させることもできる。
【0082】
前記還元剤としては、種々の還元剤を用いる事ができ、特に限定されるものではなく、得られる金属ナノ粒子分散体の使用用途や、含有させる金属種等により還元剤を選択することが好ましい。用いる事ができる還元剤としては、例えば、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウム等のホウ素化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類、アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の酸類、プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン等のアミン類、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等のヒドラジン類等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手のし易さ、取扱い面等からより好ましいものとしては、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸ナトリウム、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール等である。
【0083】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子の製造方法において、高分子化合物と金属の塩又はイオン溶液との使用割合としては、特に限定されるものではないが、該高分子化合物のポリアルキレンイミン鎖を形成する全窒素原子数を100molとしたとき、金属として通常1〜20,000molの範囲であり、1〜10,000molの範囲であることが好ましく、特に、還元剤を併用する場合には50〜7,000mol、還元剤を併用しない場合には、5〜70molであることが好ましい。
【0084】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子分散体の製造方法において、高分子化合物が分散している媒体と、金属の塩又はイオン溶液とを混合する方法としては、特に限定されるものではなく、該高分子化合物が分散している媒体に金属の塩又はイオン溶液を加える方法、その逆の方法、或いは別の容器に同時に投入しながら混合する方法でもよい。攪拌等の混合方法についても、特に限定されない。
【0085】
また、還元剤を併用する場合においても、その添加方法は限定されるものではなく、例えば、還元剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。また還元剤を加える順序についても限定されることはなく、予め高分子化合物の分散液に還元剤を添加しておいても、金属の塩又はイオン溶液を混合するときに同時に還元剤を加えてもよく、さらには、高分子化合物の分散液と金属の塩又はイオン溶液とを混合した後、数日或いは数週間経過した後、還元剤を混合する方法であってもよい。
【0086】
本発明の成形加工物、金属積層板及び塗膜の原料として用いる金属ナノ粒子分散体の製造方法で使用する金属の塩またはそのイオン溶液を、高分子化合物が分散した媒体中に加える時は、O/W系またはW/O系にかかわらず、そのまま、または水溶液に調整して加えるとよい。前述したように銀、金、パラジウム、白金等の金属イオンは共重合体中のアルキレンイミン単位に配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元されるため、そのまま室温または加温して、静置または攪拌により、金属ナノ粒子分散体を得ることが出来る。その他の金属を用いる場合など、必要に応じて還元剤を用いる場合においても、室温または加温して、静置または攪拌により、目的の金属ナノ粒子分散体を得ることができる。このとき、還元剤はそのまま、又は水溶液に調整しておくことが好ましい。加温する場合の温度としては、高分子化合物の種類や使用する金属、媒体、還元剤の種類等によって異なるが、一般的には100℃以下、好ましくは80℃以下である。
【0087】
本発明の有機無機複合体は、上記の金属ナノ粒子分散体を用いて得られるものであり、最も簡単な例としては、該金属ナノ粒子分散体中の分散媒を除いて得られるものである。その他の例としては、使用する目的に応じて種々の添加物等を混合した組成物としてもよく、さらに上記分散媒を除いた金属ナノ粒子分散体、及び該組成物を、再分散、加熱、光照射、混練、コンパウンド等といった種々の処理を行ったものでもよい。また一般的に固体であることが好ましいが、目的に応じてゲル状、ゾル状、ウェット状であっても特に問題はない。
【0088】
本発明の成形加工物は、上記有機無機複合体を含有したものであり、該有機無機複合体をそのまま、或いは目的に応じてその他の物質と混合してもよく、さらに該有機無機複合体をそのまま、或いはその他の物質と混合したものを、目的に応じて種々の処理を施してもよく、これらを種々の方法で成形加工することによって得たものである。
【0089】
前記成形加工の方法は特に限定されるものではない。代表的な例を挙げるならば、目的に応じて選択された種々の基材上に、キャスト、スピンコータ、バーコータ、アプリケータ、各種印刷機、プリンター、ディスペンサー等によって基材上に加工する方法、金属ナノ粒子分散体又はこれを含む組成物中へのディッピングによる加工法等といった基材上に成形加工物を作成する方法や、フローガンやフローコータ等を用いた方法、スプレー等による吹き付け法、刷毛塗りやパフ塗り、ローラー塗り等による方法、複数の同じ又は異なる基材に挟む方法、これらの方法を繰り返し行うことによって厚膜構造又は肉厚構造等とする方法、金属ナノ粒子分散体からなる有機無機複合体、又は該有機無機複合体とは異なる物質を組み合わせて、前述の方法を繰り返すことによって積層構造とする方法等といった、基材上に成形加工物を作成する方法、前記基材上に作成した種々の成形加工物を基材からはずして成形加工物を得る方法、基材とその他の材料等の間に挟む方法、基材上の他の材料の一部若しくは全部を被覆させる方法、同じ又は異なる材料の一部又は全部を被覆させる方法、目的に応じた種々の型、或いは型枠を利用して加工する方法、前記型、或いは型枠をはずして成形加工物を得る方法、鋳型を用いた加工法、或いは射出成形機、押し出し成形機、圧縮成形機、ブロー成形機等といった各種成形機による加工法等が挙げられる。
【0090】
前述の種々の成形加工の前工程、又は途中、後工程等において、脱水、脱溶剤、乾燥、加熱、紫外線照射、電子線照射等の処理を種々の目的に応じて好適に施すことも可能であり、これらの処理方法は特に限定されることなく用いることができる。
【0091】
上記成形加工方法によって得られる、本発明の成形加工物の形態は、特に限定されるものではない。特に上述した代表例によって得られた成形加工物の形態の例としては、塗膜、被覆膜、被覆物、接合物、積層板、封止物、フィルム、シート、ボード、繊維状成形加工物、チューブ状成形加工物、立体成形加工物、ゲル状成形加工物、固体ゾル状成形加工物等が挙げられる。
【0092】
本発明の成形加工物に含有される金属ナノ粒子分散体を含有する組成物は、上記金属ナノ粒子分散体が、目的に応じて選択された第3成分と混合して得られる混合物であり、該第3成分は特に限定されるものではない。代表的な例としては、電子材料用であれば、種々の導電性材料成分や、電子材料との親和性や密着性を向上させる成分等であり、塗料用であれば、基材との親和性や密着性を向上させる成分や、表面を平滑、或いは凹凸を制御する成分、各種の沸点を有する溶剤等であり、接合用であれば、種々の接合物との密着性や接着性を向上させる成分や、粘度調節剤等であり、色材用であれば、各種ポリマー、セラミック等といった種々の被着色成分であり、容器や構造物等の立体成形物用であれば、各種ポリマー、カップリング剤、架橋剤等である等、様々な目的に適した原料、材料、溶剤、或いはカップリング剤、架橋剤、レベリング剤等の各種添加剤等を挙げることができる。
【0093】
本発明の金属ナノ粒子分散体を含有する組成物を加熱成形して得られる成形加工物において行われる加熱成形は、上記金属ナノ粒子分散体を含有する組成物を用いて、加熱成形するものであれば、方法、条件等、特に限定されるものではない。代表的な例としては、該組成物を基材上にキャスト等によって塗膜化、被覆化、積層状態にしたものや、型や型枠等を用いて該組成物を充填させた成形物等を、電気炉、乾燥機、オーブン、恒温槽、ホットステージ等の各種加熱装置を用いて熱処理する方法、或いは射出成形機、押し出し成形機、圧縮成形機、ブロー成形機等を用いて該組成物を加熱しながら同時に成形する方法等が挙げられる。上述したように条件も限定されるものではなく、用途、用いるポリマーや添加剤等の原料成分等といった目的に応じて適宜選択されることが望ましい。なかでも代用的な条件である加熱温度としては、高すぎると原料成分の分解等生じ、得られる成形加工物の特性の悪化につながる。反対に低すぎると成形処理が不十分であったり、加熱処理による特性が十分に発現できなかったりする可能性がある。一般的には30〜500℃であり、好ましくは50〜400℃、より好ましくは70〜300℃である。
【0094】
本発明の導電性を有する成形加工物の導電性は、固有体積抵抗率10×10−3Ω・cm以下であることを示し、好ましくは10×10−4Ω・cm以下であり、より好ましくは10×10−5Ω・cm以下である。従来、このような導電性を得るためには、金属ナノ粒子分散体中の保護剤(本発明では高分子化合物に相当する)は除去しなければならないと考えられていた。そのために、前記特許文献2及び3では、保護剤の除去を容易にするために低分子量の保護剤を使用したり、煩雑な分散溶媒(有機溶媒)の調製を施したりすることによって、金属ナノ粒子を含有するペーストを調製し、これを塗布してから該保護剤や溶媒を加熱等により除去する方法を採用している。しかしながら、本発明においては、上述した金属ナノ粒子分散体を用いることによって、特許文献2及び3に記載のような溶媒変換等の煩雑な工程を用いなくても、成形加工物に導電性を発現させることが可能となり、更には、高分子化合物(X)が該成形加工物中に残っていることから、各種基材への接着性等が良好で、又、該加工物中にヒビや割れ等の発生を抑制するといった、付加価値をも発現させた物である。
【0095】
本発明の金属積層板に用いられる基材は、上記金属ナノ粒子分散体を含む組成物を塗布することによって吸着できるものであれば、形状、素材等、特に限定されるものではない。形状はフィルム状、シート状、板状の他、立体的成形物等、単純な形状のものから彫刻等を施した複雑な形状のもの等を用いることができる。基材表面の形状も平滑性表面、エンボス調の表面、複雑な凹凸表面等、種々の表面形状の基材が使用可能である。素材は、ポリマー等の有機材料からなる基材、ガラスや金属、セラミック等の無機材料からなる基材、或いはこれらを混合したハイブリッド材料からなる基材等を用いることができる。該基材の代表例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン等といった種々のポリマー、或いは木材等を用いた有機基材、或いはこれら有機材料を混合して得られた基材、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅、鉛、チタン、鋳物、種々の金属の組み合わせによって得られた各種の合金、シリコン、セラミック、ガラス等といった無機基材等が挙げられる。
【0096】
本発明の金属積層板で施される塗布は、特に限定されることなく種々の方法で行うことができる。代表的な塗布を施す方法には、スピンコータ、バーコータ、アプリケータ、各種印刷機、プリンター、ディスペンサー等を用いた方法、金属ナノ粒子分散体又はこれを含む組成物中へのディッピングによる方法、フローガンやフローコータ等を用いた方法、スプレー等による吹き付け法、刷毛塗りやパフ塗り、ローラー塗り等による方法等が挙げられる。塗布によってできる形はベタ状のものから、種々の太さの線、微細なパターン状、或いは模様等を、目的に応じて種々の方法から選択することによって施すことができる。
【0097】
本発明の金属積層板は、上記基材の上に、上記金属ナノ粒子分散体を含む組成物を塗布して得られるものであり、基材の上に金属ナノ粒子分散層、或いは金属ナノ粒子が熱処理、紫外線照射、電子線照射等の種々の処理によって融着、又は結晶化等した有機無機複合体層が積層したものである。また該金属ナノ粒子分散層、及び該有機無機複合体層は基材の上に、同じ、或いは異なる金属ナノ粒子分散層、及び該有機無機複合体層を、複数回繰り返し塗布することによって得られる金属積層板であってもよい。その際、塗布する形、面積、厚さ、条件、方法等は同じであっても、または異なっていても良い。さらに繰り返し塗布する、同じ、或いは異なる金属ナノ粒子分散層、及び該有機無機複合体層の間に、金属ナノ粒子及び上記処理によって融着又は結晶化等を生じた成分を含まない材料によって塗布された層を挟むことも可能である。
【0098】
本発明の塗膜に用いられる塗料用組成物は、上記金属ナノ粒子分散体を含むものであり、上記金属ナノ粒子分散体に含有される金属ナノ粒子、及び該金属ナノ粒子を熱処理、紫外線照射、電子線照射等といった上記した種々の処理を施すことによって融着、又は結晶化した有機無機複合体等が発色剤の役割を担うものである。また該塗料用組成物は、上記金属ナノ粒子分散体と、塗料用に用いられる種々の成分を混合した組成物である。代表的な成分であるポリマー成分は、特に限定されるものではない。該ポリマー成分の代表例としては、水溶性アクリルポリマー、メラミン樹脂、水溶性アルキド樹脂、アクリルエマルション、ウレタンエマルション、又はこれらを組み合わせた混合物等の水系塗料用ポリマー、また、アクリルメラミン樹脂、アルキドメラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらを組み合わせた混合物等の溶剤系ポリマー等が挙げられる。さらに、該塗料用組成物に混合される成分の代表的なものとしては、塗装する材料との吸着性、密着性等を制御する添加剤、粘度調節剤、表面状態を平滑、又は凹凸状等に制御する添加剤、製膜性を制御する各種レベリング剤、乾燥速度等を制御する沸点の異なる各種溶剤を組み合わせた混合溶剤等が挙げられる。
【0099】
本発明の塗膜とは、上記金属ナノ粒子分散体を含む上記塗料用組成物を上記の方法で塗布して得られるものであり、塗膜の形状、厚さ、塗膜中のモルフォルジー等、特に制限されるものではない。また同じ、又は異なる該塗料用組成物を用いた重ね塗り、種々の方法で塗布したものを、乾燥後そのまま塗膜として得ることができるが、熱処理、紫外線照射、電子線照射等といった様々な処理を施したものを塗膜として得ることも可能である。
【0100】
本発明の成形加工物は、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)が溶媒中で形成する分散体中に金属ナノ粒子(Y)を含有する金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有したものであるため、該金属ナノ粒子分散体を用いた成形加工物を得る際、有機成分を除去し易くする等のために行われる、様々な原料成分の交換操作等の大変煩雑な処理等をすることなく、該金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有する成形加工物が得られる。さらに該金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有する成形加工物は、金属ナノ粒子が有する種々の化学的、電気的、磁気的、光学的、色材特性等といった特性に加えて、有機成分が有する成形性、製膜性、接着性、柔軟性等の特性を併せもっている。その用途は限定されるものではなく、例えば、触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等の非常に幅広い分野で使用可能である。含有させうる金属種やその割合も、容易に調整可能である点から、目的に応じた効果を効率的に発現可能であり、複雑な工程や緻密な条件設定等をほとんど必要としないため、工業的製法として優位性が高いものである。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断わりがない限り「%」は「質量%」を表わす。
【0102】
尚、分子構造・物質名については以下のように省略形で示す。
【0103】
PEI : ポリエチレンイミン
PEG : ポリエチレングリコール
PEGM : ポリエチレングリコールモノメチルエーテル
PAEI : ポリアセチルエチレンイミン
PBEI : ポリベンゾイルエチレンイミン
EP : エポキシ樹脂
BisAEP : ビスフェノールA型エポキシ樹脂
MOZ : 2−メチルオキサゾリン
POZ : 2−フェニルオキサゾリン
DMA : N,N−ジメチルアセトアミド
【0104】
以下の実施例中、用いた機器類
H−NMR:日本電子株式会社製、AL300、300Hz
粒子径測定:大塚電子株式会社製、FPAR−1000
TEM写真:日本電子株式会社製、JEM−2200FS(図1、図2)
TGA測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300
プラズモン吸収スペクトル:日立製作所株式会社製、UV−3500
透析:Spectrum社製、Spectra/Por RC透析チューブ、MWCO3500
【0105】
高分子化合物と金属ナノ粒子分散体の合成
合成例1 PEG−直鎖PEI−PBEI構造を有する高分子化合物(X−1)の合成及び これを用いる金属ナノ粒子分散体の合成
1−1 [ポリエチレングリコールのトシル化反応]
PEGM〔数平均分子量(Mn)2000〕10g(5.1mmol)、クロロホルム15g、及びピリジン4g(51mmol)を混合した溶液に、トシルクロライド4.9g(25.5mmol)をクロロホルム15gに溶解した溶液を加えた後、40℃で4時間反応させた。反応終了後、クロロホルムを30g加えて希釈し、2.5mol/Lの塩酸300gで2回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液300gで2回、さらに水300gで2回洗浄した。得られたクロロホルム溶液を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、エバポレータで濃縮した。これをヘキサン中に攪拌しながら加えて沈殿させ、真空乾燥した。収率は81%であった。H−NMRスペクトルより各ピークの帰属を行い(2.4ppm:トシル基中のメチル基、3.3ppm:PEGM末端のメチル基、3.6ppm:PEGのEG鎖、7.3〜7.8ppm:トシル基中のベンゼン環)、ポリエチレングリコールの片末端トシル化を確認した。
【0106】
1−2 [リビングカチオン重合]
上記1−1で得られた片末端トシル化ポリエチレングリコール(以下、PEG−Tsと略記する。)を1.5g(0.71mmol)、MOZ3ml(34mmol)、及びDMA30mlを窒素雰囲気下で混合し、密栓後、100℃で22時間反応させた。続いてPOZ4.7g(34mmol)を加え、密栓後、100℃で111時間攪拌した。
【0107】
得られた反応溶液を冷却後、酢酸エチル150gとヘキサン150gの混合溶媒中に添加し、沈殿させた。デカンテ−ション後、メタノール15gに溶解させ、これを酢酸エチル150gとヘキサン150gの混合溶媒中に添加し、再沈させ、ろ過後、80℃で真空乾燥した。収率は89%であった。
【0108】
H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い(2.1ppm:PAEIのアセチル基、3.4ppm:PAEIとPBEIのCHCH、3.6ppm:PEG、7.0〜7.7ppm:PBEIのベンゾイル基)、これより、得られた生成物はPEG−PAEI−PBEI構造を有する高分子化合物(1)であることを確認した。
【0109】
1−3 [酸加水分解反応]
上記1−2で得られた高分子化合物(1)1.7g〔アセチルエチレンイミンユニット(以下、AEIと略記):5.7mmol〕を、5mol/L塩酸3.5g(HCl:17.1mmol)に分散させ、90℃で10時間反応させた。冷却後反応溶液をアセトン200g中に加え、生じた沈殿をろ過し、水10gに溶解した。再度アセトン200g中に加えて再沈させ、ろ過した。60℃で真空乾燥し、PEG−直鎖PEI(HCl)−PBEI構造を有する高分子化合物を得た。収率は90%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、2.1ppmのアセチル基由来のピークが消失していること等、生成物の構造を確認した。
【0110】
1−4 [アンモニア処理]
上記1−3で得られたPEG−直鎖PEI(HCl)−PBEI構造を有する高分子化合物1.6gを水5gに分散後、透析チューブに入れ、0.5%アンモニア水で透析後、引き続き水中で透析を行った。得られた水溶液にエタノールを加えてエバポレータで溶媒を留去し、80℃で15時間真空乾燥することによって、PEG−直鎖PEI−PBEI構造を有する高分子化合物(X−1)を得た。
【0111】
上記得られた高分子化合物(X−1)10mg〔エチレンイミン(以下EIと略記する)ユニット:0.039mmol〕を水5g中に加温し溶解させたところ、平均粒径が約100nmの分散体が得られることを確認した。
【0112】
1−5 [金属ナノ粒子分散体の合成]
上記1−4で得た高分子化合物(X−1)9.0mg(EI:0.039mmol)を水5g中に加温し溶解させた。この時の分散体の平均粒径は100nmであった。該分散液に、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物0.8mg(0.0019mmol)を加えた後、静置した。混合した直後は薄い黄色であったが、時間と共に変化し、翌日には赤味を帯び、3日後には綺麗なワインレッドの金ナノ粒子分散体の分散液を得た。プラズモン吸収スペクトル測定により540nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、金ナノ粒子の生成を確認した。
【0113】
合成例2 金属ナノ粒子分散体の合成
合成例1で得た高分子化合物(X−1)において、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物4.5mg(0.019mmol)とする以外は、全て合成例1と同様に行った。可視吸収スペクトル測定により金ナノ粒子の特徴的な540nmのピークが認められた。
【0114】
合成例3 金属ナノ粒子分散体の合成
合成例1において、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物の変わりに硝酸銀を用いて、その混合する量を1.6mg(0.0097mmol)とする以外は、全て合成例1と同様に行った。可視吸収スペクトル測定により銀ナノ粒子の特徴的な400nmのピークが認められた。
【0115】
合成例4 金属ナノ粒子分散体の合成
合成例3において、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物の変わりに硝酸銀を用いて、その混合する量を42.0mg(0.248mmol)とする以外は、全て合成例1と同様に行った。可視吸収スペクトル測定により銀ナノ粒子の特徴的な400nmのピークが認められた。
【0116】
合成例5 PEG−直鎖PEI−BisAEP構造を有する高分子化合物(X−2)の合成 及び これを用いる金属ナノ粒子分散体の合成
5−1 [EPのトシル化反応]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 EPICLON AM−040−P(大日本インキ化学工業株式会社製)2g(エポキシ基:7.9mmol)、クロロホルム10g、ピリジン6.2g(79mmol)を混合した溶液に、トシルクロライド7.5g(39.5mmol)を、クロロホルム15gに溶解した溶液を加えた後、40℃で4時間反応させた。反応終了後、クロロホルムを20g加えて希釈し、2.5mol/L塩酸100gで2回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液100gで2回、さらに水100gで2回洗浄した。得られたクロロホルム溶液を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、エバポレータで濃縮した。これをヘキサン中に加えて沈殿させ、真空乾燥した。収率は91%であった。H−NMRスペクトルより各ピークの帰属(1.6ppm:EPOP中のBisA骨格のメチル基、2.4ppm:トシル基中のメチル基、6.6〜7.3ppm:EPOP中のBisA骨格のフェニレンの水素、7.3〜7.8ppm:トシル基中のベンゼン環)を行い、エポキシ樹脂のトシル化を確認した。
【0117】
5−2 [MOZのリビングカチオン重合]
上記2−1で得られたトシル化BisA型EP(以下、BisAEP−Tsと記す)を0.30g(トシル基:0.71mmol)、MOZ3ml(34mmol)、及びDMA30mlを窒素雰囲気下で混合し、密栓後、100℃で86時間攪拌した。
【0118】
5−3 [PEGの縮合反応]
上記反応溶液にPEGM(Mn2000)2.78g(1.42mmol)と炭酸カリウム0.49g(3.55mmol)を加えた後、100℃、48時間反応させた。該反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン=1/1(wt/wt)混合溶液中に再沈、洗浄し、ろ過後、80℃で真空乾燥した。
【0119】
H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い(1.6ppm:BisAEPのメチル基、2.1ppm:PAEIのアセチル基、3.4ppm:PAEIのCHCH、3.6ppm:PEG、7.0〜7.7ppm:BisAEPのフェニル基)、これより、PEG−PAEI−BisAEP構造を有する高分子化合物であることを確認した。
【0120】
5−4 [酸加水分解反応]
上記5−3で得られたPEG−PAEI−BisAEP構造を有する高分子化合物2.0g(AEI:15.2mmol)を、5mol/L塩酸4.57g(HCl:22.8mmol)に分散させ、90℃で10時間反応させた。冷却後、反応溶液をアセトン100g中に加えた。生じた沈殿をろ過し、水10gに溶解した。再度アセトン100g中に加えて再沈させ、ろ過した。80℃で真空乾燥することによって、PEG−直鎖PEI(HCl)−BisAEP構造を有する高分子化合物を得た。収率は92%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い、2.1ppmのアセチル基由来のピークが消失していることより生成物の構造を確認した。
【0121】
5−5 [アンモニア処理]
上記5−4で得られたPEG−直鎖PEI(HCl)−BisAEP構造を有する高分子化合物を水5gに溶かし、0.5%アンモニア水で透析した。引き続き水中で透析を行い、5回水を取替えた後、得られた水溶液にエタノールを加えてエバポレータで溶媒を留去し、80℃で15時間真空乾燥することにより、PEG−直鎖PEI−BisAEP構造を有する高分子化合物(X−2)を得た。
【0122】
5−6 [金属ナノ粒子分散体の合成]
上記5−5で得た高分子化合物(X−2)3.0mg(EIユニット:0.033mmol)をメタノール0.25g中に加温し溶解させた。このメタノール溶液を水5g中に滴下した。該分散液にテトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物0.7mg(0.0017mmol)を加え、軽く振り混ぜ溶解させた後、静置した。混合した直後は薄い黄色であったが、時間と共に変化し、翌日には赤味を帯び、3日後には綺麗なワインレッドの金ナノ粒子分散体の分散液を得た。プラズモン吸収スペクトル測定により540nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが生じており、金ナノ粒子の生成を確認した。
【0123】
合成例6 PEG−分岐PEI−BisAEP構造を有する高分子化合物(X−3)の合成 及び これを用いる金属ナノ粒子分散体の合成
6−1 [トシル化ポリエチレングリコールの合成]
クロロホルム150mlにPEGM〔数平均分子量(Mn)5000〕(アルドリッチ社製)150g〔30mmol〕とピリジン24g(300mmol)とを混合した溶液と、トシルクロライド 29g(150mmol)とクロロホルム30mlとを均一に混合した溶液をそれぞれ調製した。
【0124】
PEGMとピリジンの混合溶液を20℃で攪拌しながら、ここにトシルクロライドのトルエン溶液を滴下した。滴下終了後、40℃で2時間反応させた。反応終了後、クロロホルム150ml加えて希釈し、5%HCl水溶液250ml(340mmol)で洗浄後、飽和食塩水と水で洗浄した。得られたクロロホルム溶液を硫酸ナトリウムで乾燥した後、エバポレータで溶媒を留去し、さらに乾燥した。収率は100%であった。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い(2.4ppm:トシル基中のメチル基、3.3ppm:PEGM末端のメチル基、3.6ppm:PEGのEG鎖、7.3〜7.8ppm:トシル基中のベンゼン環)、トシル化ポリエチレングリコールであることを確認した。
【0125】
6−2 [PEG−分岐PEI構造を有する高分子化合物の合成]
上記6−1で得られたトシル化ポリエチレングリコール23.2g(4.5mmol)と、分岐状ポリエチレンイミン(日本触媒株式会社製、エポミン SP200)15.0g(1.5mmol)をDMA180mlに溶解後、炭酸カリウム0.12gを加え、窒素雰囲気下、100℃で6時間反応させた。反応終了後、固形残渣を除去し、酢酸エチル150mlとヘキサン450mlの混合溶媒を加え、沈殿物を得た。該沈殿物をクロロホルム100mlに溶解し、再度酢酸エチル150mlとヘキサン450mlの混合溶媒を加えて再沈させた。これをろ過し、減圧下で乾燥した。H−NMRスペクトルにより各ピークの帰属を行い(2.3〜2.7ppm:分岐PEIのエチレン、3.3ppm:PEG末端のメチル基、3.6ppm:PEGのEG鎖)、PEG−分岐PEI構造を有する高分子化合物であることを確認した。収率は99%であった。
【0126】
6−3 [エポキシ樹脂の変性]
EPICLON AM−040−P 37.4g(20mmol)、4−フェニルフェノール2.72g(16mmol)をDMA100mlに溶解後、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.52mlを加え、窒素雰囲気下、120℃で6時間反応させた。放冷後、多量の水中に滴下し、得られた沈殿物をさらに多量の水で洗浄した。再沈精製物をろ過後減圧乾燥し、変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂を得た。得られた生成物の収率は100%であった。
【0127】
H−NMR測定を行いエポキシ基の積分比を考察した結果、ビスフェノールA型エポキシ樹脂1分子にエポキシ環は0.95個残っており、得られた変性エポキシ樹脂は、ビスフェノールA骨格を有する単官能性のエポキシ樹脂であることを確認した。
【0128】
6−4 [高分子化合物(X−5)の合成]
上記6−2で得られたPEG−分岐PEI構造を有する高分子化合物20g(0.8mmol)をメタノール150mlに溶解した溶液に、上記6−3で得られたビスフェノールA型の単官能性エポキシ樹脂4.9g(2.4mmol)をアセトン50mlに溶解した溶液を、窒素雰囲気下で滴下後、50℃で2時間攪拌することで反応を行った。反応終了後、減圧下で溶媒を留去し、さらに減圧乾燥することにより、PEG−分岐状PEI−BisAEP構造を有する高分子化合物(X−3)を得た。収率は100%であった。
【0129】
上記6−4で得られた高分子化合物(X−3)30mgを水10mlに加えて攪拌し溶解した。その溶液での粒径分布状態を光散乱法により測定したところ、平均粒径110nmの分散体であり、水中で良好にミセルを形成していることを確認した。
【0130】
6−5 [金属ナノ粒子分散体の合成]
上記6−4で得た高分子化合物(X−3)20mg(EIユニット:0.15mmol)を水2.39gに溶かした溶液1Aと、硝酸銀0.16g(0.97mmol)を水1.30gに溶かした溶液1B、クエン酸ナトリウム0.12g(0.48mmol)を水0.25gに溶かした溶液1Cをそれぞれ調製した。25℃で攪拌しながら、溶液1Aに溶液1Bを加え、続いて溶液1Cを加えた。分散液は次第に焦げ茶色へと変化した。7日間攪拌後、透析により精製し、水分散液を得た。
【0131】
得られた水分散液1部をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。得られた銀ナノ粒子分散体の水分散液の溶媒を留去後、TGA測定により銀含有量を測定した結果、83%であった。また得られた銀ナノ粒子分散体の水分散液は2ヶ月後も凝集、沈殿等は認められることはなく、保存安定性に優れていることを確認した。
【0132】
合成例7 金属ナノ粒子分散体の合成
合成例6において、溶液1Aに溶液1Cを加え、続いて溶液1Bを加えたこと以外は、合成例6と同様にして、水分散液を得た。得られた水分散液は安定であり、分散液を1部サンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。
【0133】
実施例1
合成例1で得た金ナノ粒子分散体の分散液をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、薄いワインレッドの透明感のある成形加工物(塗膜)を得た。得られた成形加工物のプラズモン吸収スペクトル測定により、540nmに金の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。
【0134】
実施例2
合成例2で得た金ナノ粒子分散体の分散液3.5gをアクリルエマルジョン(大日本インキ化学工業株式会社製 WATERSOL S−701)1.5gと混合した組成物をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、赤色の塗膜を得た。得られた塗膜のプラズモン吸収スペクトル測定により、540nmに金の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。
【0135】
実施例3
合成例3で得た銀ナノ粒子分散体の分散液をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、黄色の成形加工物(塗膜)を得た。得られた成形加工物のプラズモン吸収スペクトル測定により、400nmに銀の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。
【0136】
実施例4
合成例4で得た銀ナノ粒子分散体の分散液をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、銀色の成形加工物(塗膜)を得た。得られた成形加工物のプラズモン吸収スペクトル測定により、400nmに銀の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。
【0137】
実施例5
実施例4で得た成形加工物を窒素中、250℃、30分熱処理したところ、成形加工物の色は銀色であった。体積固有抵抗率(三菱化学株式会社製、Loresta−GP MCP−T610)を測定したところ9.8×10−4Ω・cmであった。
【0138】
実施例6
合成例5で得た金ナノ粒子分散体の分散液をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、ワインレッドの透明感のある成形加工物(塗膜)を得た。得られた成形加工物のプラズモン吸収スペクトル測定により、540nmに金の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。
【0139】
実施例7
合成例6で得た銀ナノ粒子分散体の分散液をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、銀色の成形加工物を得た。得られた成形加工物のプラズモン吸収スペクトル測定により、400nmに銀の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。
【0140】
実施例8
合成例7で得た銀ナノ粒子分散体の分散液をガラス板上にバーコータ(RDS60)で塗布し、25℃で24時間放置することにより、銀色の成形加工物(塗膜)を得た。得られた成形加工物のプラズモン吸収スペクトル測定により、400nmに銀の特徴的なプラズモン吸収スペクトルのピークを確認した。さらに基材上の成形加工物部分のみをアクリル系UV硬化樹脂で埋包し、成形加工物断面のTEM観察を行った結果、図1のように銀ナノ粒子と有機成分が複合した成形加工物であることを確認した。
【0141】
実施例9
実施例8で得た成形加工物を窒素中、250℃、30分熱処理したところ、成形加工物の色は銀色であった。実施例5と同様に体積固有抵抗率を測定したところ3.8×10−4Ω・cmであった。
【0142】
実施例10
合成例7で得た銀ナノ粒子分散体の分散液を遠心分離により濃縮し、濃厚層2gにイソプロピルアルコール(IPA)5gを加え、混合した。(該IPA分散液中の銀ナノ粒子分散体の含有量は14%であった。)分散状態に変化はなく、安定なIPA分散液を得た。該IPA分散液をガラス基板上にキャストし、金属積層板を得た。その後、窒素下、200℃で30分熱処理した。実施例5と同様に体積固有抵抗率を測定したところ7.8×10−4Ω・cmであった。さらにTEM観察を実施例8と同様にして塗膜断面の観察を行った結果、図2のように銀ナノ粒子が融着した様子と有機成分が複合した成形加工物であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】実施例8によって得られた成形加工物断面のTEM写真である。
【図2】実施例10によって得られた成形加工物断面のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)とを含有する金属ナノ粒子分散体を用いて得られる有機無機複合体を含有することを特徴とする成形加工物。
【請求項2】
前記ポリアルキレンイミン鎖(a)がポリエチレンイミン鎖である請求項1記載の成形加工物。
【請求項3】
前記親水性セグメント(b)が、ポリオキシアルキレン鎖である請求項1記載の成形加工物。
【請求項4】
前記疎水性セグメント(c)が、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート及び疎水性の置換基を有するポリアシルアルキレンイミンからなる群から選ばれる一種以上の化合物の残基である請求項1記載の成形加工物。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子(Y)が銀、金及び白金からなる群から選ばれる1種以上の金属である請求項1記載の成形加工物。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子(Y)の粒子径が1〜200nmである請求項1記載の成形加工物。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子分散体を含有する組成物を加熱成形して得られる請求項1記載の成形加工物。
【請求項8】
導電性を有する請求項1〜7の何れか1項記載の成形加工物。
【請求項9】
基材の上に、ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)とを含有する金属ナノ粒子分散体を含む組成物を塗布して得られることを特徴とする金属積層板。
【請求項10】
ポリアルキレンイミン鎖(a)と、親水性セグメント(b)と、疎水性セグメント(c)とを有する高分子化合物(X)と、金属ナノ粒子(Y)とを含有する金属ナノ粒子分散体を含む塗料用組成物を塗布して得られることを特徴とする塗膜。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45024(P2008−45024A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221506(P2006−221506)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】