説明

金属フラーレン造影剤

水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までの緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、金属内包フラーレン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、核磁気共鳴試験及びMRIの分野において有用である化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴画像法(MRI)は、様々な医学的診断手順において用いることができる。一般に、MRIは、磁場における水プロトンの高周波(RF)放出の測定、及びその後の外部RFパルスへの曝露に基づくものである。MRIの間に画像を構築する上で用いられるパラメータには、水プロトンが、RFパルス後のそれらの平衡状態を緩和するのにかかる時間が含まれる。外部RFパルス後の水プロトンの緩和は、T及びTと呼ばれる2つの成分パラメータを有する。常磁性の造影剤は、水プロトンの緩和能においてT成分に影響を及ぼし、MRI手順の間、コントラストを効果的に増強する。一方、強磁性の造影剤は、水プロトンの緩和能においてT成分に影響を及ぼす。増強はバックグラウンドに比べてより明るい画像をもたらすので、多く適用に関してTに影響を及ぼす薬剤が好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁性又は常磁性の性質を有し、近くのプロトンが短い緩和時間を有するのをもたらす元素、例えば様々な遷移金属を、MRI手順の間のコントラストを増強するのに用いることができる。不対電子7個を有するガドリニウム(Gd)が、MRIの間に水の緩和能を増強するのにとりわけ効果的である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
例示の実施形態は、水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までの緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、金属内包フラーレン化合物に対するものである。
【0005】
具体的な例示の一実施形態は、式(I):A@C
[式中、A及びXは、元素の周期律表における同一の、又は異なる元素を表し、但し、A及びXの少なくとも1つが常磁性であり、
Nは、窒素原子を表し、
は、置換されているCを表し、
は、炭素原子をm個有するフラーレンを表し、
kは、1から3までの整数を表し、
nは、0から2までの整数を表し、但し、1≦k+n≦3であり、
iは、0又は1の整数を表し、
mは、約60から約200までの偶数の整数を表す]
によって表され、Cにおける置換基(単数又は複数)は、N、O、S、及びPからなる群から選択される少なくとも1つの原子によってCに直接結合している1つ又は複数の基を含む、金属内包フラーレン化合物に対するものである。
【0006】
別の例示の一実施形態は、式(II):A@C**
[式中、C**は、置換されているCを表し、
、A、X、N、k、n、i、及びmは上記に記載したのと同じ意味を有する]
によって表され、
**における置換基(単数又は複数)は、1つ又は複数のZ’、及び場合により1つ又は複数のQ’を含み、Z’は、親水性部分を含み、1つを超えるZ’が存在する場合、Z’は同一又は異なり、
Q’は、N、O、S、及びPからなる群から選択される原子によってCに結合している基を表し、1つを超えるQ’が存在する場合、Q’は同一又は異なる、金属内包フラーレン化合物に対するものである。
【0007】
さらに別の例示の一実施形態は、式(III):A@C
[式中、C’は、1つ若しくは複数の欠損した炭素原子、及び/又はCに由来する結合を有する、場合により置換されているフラーレンを表し、C、A、X、N、k、n、i、及びmは上記に記載したのと同じ意味を有する]
によって表される、金属内包フラーレン化合物に対するものである。
【0008】
本明細書に記載するように、式(I)、(II)、及び(III)によって表される金属内包フラーレン化合物は、フラーレン誘導体自体にとって固有であり、大型の凝集によるものではない、比較的高い安定性及び緩和能を有することができる。これら金属内包フラーレン化合物は、MRI造影剤、特に特定の部位を標的とする造影剤として有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】完全メチル化β−シクロデキストリンの分子構造を示す図である。
【図2】PMCD−TMS抱合体の提唱されている構造を示す図である。
【図3(a)】C’の一例のスティックモデルを示す図である。
【図3(b)】小穴を示す、スティックモデルの空間充填モデルを示す図である。
【図4】凝集したGd金属フラーレンの緩和能増強効果を説明することができる理論を示す図である。
【図5】式(I)又は(II)によって表される分子の緩和能増強効果を説明する可能な一理論を示す図である。
【図6】C70−モノエチレングリコールアミン(C70−MEG)、ハイドロカラロン(Hydrochalarone)−1(GdN@C80−MEG)、及びハイドロカラロン−3のゲル電気泳動のデータを示す写真である。
【図7(a)】DOにおけるMEG−TFAのH NMRスペクトルを示す図である。
【図7(b)】YTMSプレ透析におけるMEG−TFAのH NMRスペクトルを示す図である。
【図8】DO中、透析後Y ハイドロカラロン−1のH NMRスペクトルを示す図である。
【図9】金属内包フラーレンの置換及び重合化に対する反応を示す図である。
【図10(a)】例示の金属内包フラーレンの2量体を示す図である。
【図10(b)】例示の金属内包フラーレンの3量体を示す図である。
【図11】NH(CHCHO)CHの、GdN@Cとの反応に対する一模式図を示す図である。
【図12】GdN@C[N(OH)(CHCHO)CHの例示の重合化反応の模式図を示す図である。
【図13(a)】C70−MEGのIRスペクトルを示す図である。
【図13(b)】ハイドロカラロン−3のIRスペクトルを示す図である。
【図14】ハイドロカラロン−3の元素分析を示す図である。
【図15(a)】GdTMS−デシルアミンのIRスペクトルを示す図である。
【図15(b)】ハイドロカラロン−1のIRスペクトルを示す図である。
【図16(a)】ハイドロカラロン−1のIRスペクトルを示す図である。
【図16(b)】ハイドロカラロン−3のIRスペクトルを示す図である。
【図17】水中ハイドロカラロン−6のUV/Visスペクトルを示す図である。
【図18(a)】ハイドロカラロン−6のTGAスペクトルを示す図である。
【図18(b)】非官能基化したGdN@C80のTGAスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
多くの性質の中で造影剤の有用性に影響を及ぼすのは緩和能である。それによってGdベースの造影剤が水プロトンの緩和能に影響を及ぼすメカニズムが、研究の主題であった。Gdによる緩和能の増強の度合は、水プロトンに対するGdの近接性、及びGdの近くにおける水の動力学の関数である。従来の化合物では、水プロトンの緩和能の増強に対するGdの影響は、Solomon−Bloembergen−Morganの等式によって記載されている。造影剤の緩和能に主に寄与する構成成分は、水の配位部位の数、q、水がこの部位に結合したままでいる時間、τ、及び回転速度、τである。これらのパラメータは、造影剤中のGdの、水分子の内圏との相互作用に関連する。これらは、水和殻における水分子の外圏を通した、Gdと水分子との間の相互作用でもあり得る。しかし、内圏の構成成分が優先するので、外圏の相互作用の寄与は測定するのが困難である。例えば、M.Botta、Second Coordination Sphere Water Molecules and Relaxivity of Gadolinium(III)Complexes:Implications for MRI Contrast Agents、Eur.J.Inorg.Chem.、399〜407頁(2000年)を参照されたい。
【0011】
Gd及び多くの他の知られている緩和能増強元素は毒性であるので、これらが有害作用を引き起こし得る部位からこれらを隔離するある構造中に捕捉する場合にのみ用いることができる。Gdベースの造影剤を調合するための現在の技術は、Gdがイオン結合又は静電気相互作用によってキレート内で荷電している基によって結合している場合、キレートに頼っている。現在販売されている数々のこのような製品は、様々な線状のキレート及び大環状のキレートを使用している。しかし、ガドリニウムのキレートに対する結合は永久的ではない。ガドリニウムは、患者から排出される前にキレートから解離し得る。幾人かの患者、特に糸球体ろ過速度の障害のある患者で用いた場合、Gdキレートは、腎性全身性線維症(NSF)(「ガドリニウム中毒」)と呼ばれる潜在的に致死的な疾患を引き起こし得ることを、最近の証明は示唆している。Grobner,T、「ガドリニウム−腎性線維化性皮膚症及び腎性全身性線維症発症の特異的な誘因(Gadolinium−A Specific Trigger for the Development of Nephrogenic Fibrosing Dermopath and Nephrogenic Systemic Fibrosis)」、Nephrol.Dial Transplant、21巻、1104〜08頁(2006年)を参照されたい。
【0012】
さらに、現在入手可能な造影剤の緩和能は比較的低く、約4から8mM−1・S−1の間の範囲である。緩和能の低い造影剤を利用した場合、望ましいレベルのコントラストを達成するためにより高濃度の造影剤を導入する必要がある。一般に、許容できるレベルのコントラストを達成するために比較的少量のGdが必要とされるので、緩和能が20mM−1・S−1を超える薬剤が好ましい。
【0013】
標的に関する具体的な解剖学的詳細を明らかにするために特定の標的に蓄積するようにデザインされた造影剤に、緩和能がより高い薬剤が特に好ましい。緩和能が比較的高い造影剤を用いる場合、薬剤の濃度が低いと、バックグラウンドのノイズを超えて検出可能である十分なシグナルが生成される。
【0014】
Gdを含む内包フラーレン(「金属フラーレン」の1タイプ)が、Gd原子がフラーレン内に封入されている場合、造影剤としてGdを導入するための代替の技術としてやはり研究されている。例えば、国際公開第2005/097807号を参照されたい。金属内包フラーレンは、フラーレンの炭素ケージが生理学的条件下で壊れることができない共有結合によって一緒に保持されており、そのようなものとして封入されたGd原子(単数又は複数)がフラーレンケージから逸脱し組織と相互作用するのが防がれ得るので、より安全であることが推定される。
【0015】
フラーレンは、炭素の第3の同素体であり、水に不溶性である。したがって、金属内包フラーレンを生物学的ツールとして効果的に用いるために、これらの表面を、例えばフラーレンを可溶性にする基を付加することによって、修飾することが必要である。例えば、米国特許第5,648,523号を参照されたい。
【0016】
数人の研究者たちは、Gd又は他の原子を含む金属内包フラーレンは、フラーレンケージ上の炭素原子に複数のヒドロキシル基を付着することによって水溶性にすることができると報告している。例えば、米国特許第6,471,942号、米国特許出願公開第2004/0054151号、Mikawaら、「MRI造影剤に最高の緩和能を有する常磁性水溶性金属フラーレン(Paramagnetic Water−Soluble Metallofullerenes Having the Highest Relaxivity for MRI Contrast Agents)」、Bioconjug.Chem.、12巻、510〜4頁(2001年)、並びにFatourosら、「新しい金属内包フラーレンナノ粒子のin vitro及びin vivo画像化研究(In Vitro and In Vivo Imaging Studies of a New Endohedral Metallofullerene Nanoparticles)」、Radiology、240巻、756〜764頁、(2006年)を参照されたい。
【0017】
金属フラーレンの緩和能は、ケージ内にGdなどの金属を包含することでそれに対して水分子がGd原子(単数又は複数)に接近することができる近接を制限するので、劣るであろうと当初は考えられていた。したがって、常磁性Gdの水プロトンへの移動のメカニズムに対する内圏の構成成分は存在しない。Gd原子上の磁場の影響は、R−6に比例して降下すると考えられている(RはGd原子と水分子の間の距離である)。例えば、Kumarら、「核磁気共鳴画像法造影剤としてのランタンの大環状ポリアミノカルボキシレート複合体(Macrocyclic Polyaminocarboxylate Complexes of Lanthanides as Magnetic Resonance Imaging Contrast Agents)」、Pure and Applied Chemistry、65巻、515〜520頁(1993年)を参照されたい。
【0018】
驚くべきことに、ポリヒドロキシル化金属フラーレンでは比較的高い緩和能が観察された。例えば、Bolskarら、「第1の可溶性M@C60誘導体は金属フラーレンへの接近の増強をもたらし、MRI造影剤としてGd@C60[C(COOH)10のin vivoの評価を可能にする(First Soluble M@C60 Derivatives Provide Enhanced Access to Metallofullerenes and Permit In Vivo Evaluation of Gd@C60[C(COOH)10 as a MRI Contrast Agent)」、J. Am. Chem. Soc.、125巻、5471〜78頁、(2003年)、Mikawaら、「MRI造影剤に最高の緩和能を有する常磁性水溶性金属フラーレン(Paramagnetic Water−Soluble Metallofullerenes Having the Highest Relaxivity for MRI Contrast Agents)」、Bioconjug.Chem.、12巻、510〜4頁(2001年)、Tothら、「水溶性ガドフラーレン:高緩和能、pH反応性のMRI造影剤に向かって(Water−Soluble Gadofullerenes: Toward High−Relaxivity, pH Responsive MRI Contrast Agents)」、J.Am.Chem.Soc.、127巻、799〜805頁(2005年)、Fatourosら、「新しい金属内包フラーレンナノ粒子のin vitro及びin vivo画像化研究(In Vitro and In Vivo Imaging Studies of a New Endohedral Metallofullerene Nanoparticles)」、Radiology、240巻、756〜764頁、(2006年)、並びに国際公開第2005/097807号を参照されたい。
【0019】
しかし、17O緩和能測定を用いたGd@C60(OH)のコントラストの挙動の最近の徹底的な研究は、水中で観察されるポリヒドロキシル化ガドフラーレンの高緩和能は、Gd@C60(OH)を脱凝集させる溶質が存在する場合に実質的に変更されることを示していた。例えば、Lausら、「Gd@C60(OH)及びGd@C60[C(OOOH)10の水溶液中に塩を加えることによるガドフラーレン凝集物の破壊(Destroying Gadofullerene Aggregates by Salt Addition in Aqueous Solution of Gd@C60(OH) and Gd@C60[C(OOOH)10)」、J.Am.Chem.Soc.、127巻、9368〜69頁、(2005年)、並びにLausら、「水溶性ガドフラーレンに対する常磁性緩和現象の理解(Understanding Paramagnetic Relaxation Phenomena for Water−Soluble Gadofullerenes)」、J.Phys.Chem.、111巻、5633〜39頁(2007年)を参照されたい。
【0020】
換言すると、ポリヒドロキシル化ガドフラーレンの比較的高い緩和能は、ポリヒドロキシル化ガドフラーレンの大型の凝集物が存在することによる。例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)バッファー溶液で処理した時、又はヒト血清などの生体液に付加した時に凝集物が除去される場合、ポリヒドロキシル化ガドフラーレンの緩和能は無視できるようになる。例えば、Lausら、「Gd@C60(OH)及びGd@C60[C(OOOH)10の水溶液中に塩を加えることによるガドフラーレン凝集物の破壊(Destroying Gadofullerene Aggregates by Salt Addition in Aqueous Solution of Gd@C60(OH) and Gd@C60[C(OOOH)10)」、J.Am.Chem.Soc.、12巻、9368〜69頁(2005年)、並びにLausら、「水溶性ガドフラーレンの常磁性現象の理解(Understanding Paramagnetic Phenomena for Water−Soluble Gadofullerenes)」、J.Phys.Chem.、111巻、5633〜39頁、(2007年)を参照されたい。少なくともこの理由から、これらのポリヒドロキシル化ガドフラーレンは、生物学的応用においてMRI造影剤として望ましくない。
【0021】
本明細書で用いられる「金属内包フラーレン化合物」の語は、その分子及びそれらの凝集物中に1つの金属内包フラーレンを有する化合物を包含し、相互に共有結合した金属内包フラーレンモノマー単位及びそれらの凝集物を2つ又はそれを超えて有する化合物を包含する。とりわけ、相互に共有結合した金属内包フラーレンモノマー単位を2つ又はそれを超えて有する化合物には、2量体、3量体、オリゴマー、ポリマーなどが含まれてよい。モノマー単位の結合様式は特に制限されない。例えば、式A−Bによって表される2つのモノマーの2量体は、式A−B−A−B(頭−尾)、A−B−B−A(尾−尾)、B−A−A−B(頭−頭)、
【化1】


(頭−頭及び尾−尾)などによって表すことができる。さらに、これらの化合物は個々に存在してもよく、又はそれらの組合せであってもよい。金属内包フラーレン化合物は荷電していてよく、したがってカウンターバランシングイオン(counter balancing ion)であってよい。一実施形態において、金属内包フラーレン化合物は、1つ又は複数の陰性の荷電を有していてよい。対抗する陽イオンは、媒体中に存在するあらゆる正に荷電している種であってよい。陽イオンの具体的な例には、それだけには限定されないが、H、反応において用いられるプロトン化アミン試薬、例えばプロトン化MEG、及びトリズマ(すなわち、tris−(ヒドロキシメチル)アミノメタン)をその後の反応で用いる場合は、プロトン化トリズマが含まれ得る。
【0022】
本明細書で用いられる「金属内包フラーレン」の語は、1つ又は複数の金属原子がフラーレンケージ網状構造内に封入されているフラーレンを意味する。元素に認められた記号、及び元素の数を意味する下付き数字を、本明細書で用いる。一般に、記号@の右側の元素は全て、フラーレンケージ網状構造の部分であり、記号@の左に列挙する元素は全て、フラーレンケージ内に含まれている。例えば、ScN@C80の表示のもとでは、ScNの三金属窒化物がC80フラーレンケージ内に位置する。
【0023】
本明細書で用いられる「TRIMETASPHERE(登録商標)」(TMS)の語は、フラーレンケージ中に三金属窒化物化合物を含む金属内包フラーレンのファミリーのメンバーを意味する。例えば、GdTMSは、Gd含有TRIMETASPHERE(登録商標)を意味する。適切なTRIMETASPHERE(登録商標)には、米国特許第6,303,760号、及び第6,471,942号、並びに米国特許出願公開第2004/0054151号において論じられているものが含まれる。
【0024】
本明細書で用いられる「緩和能」の語は、緩和プロセスに対する時間を短縮し、したがって濃度1mM(ミリモル)の金属フラーレン分子の緩和速度を増大する常磁性複合体の有効性の尺度である。緩和能の値が大きいことは、通常、造影剤としての常磁性複合体のin vivoの性能がより良好であることを反映するものである。
【0025】
本明細書で用いられる「分散液」の語は、分散相及び連続相である別々の2相を含む不均一な混合物を意味する。本明細書において記載する分散相は、連続相にわたって分布する金属内包フラーレンの粒子又は凝集物からできている。
【0026】
本明細書で用いられる「流体力学的半径」の語は、所与の構造として等価な流体力学的性質を有する球体の半径を意味する。
【0027】
本明細書で用いられる「凝集物」の語は、実体又は塊を形成する単位又は粒子の収集物を意味する。
【0028】
金属内包フラーレン化合物
本開示は、水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までの緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、金属内包フラーレン化合物を記載するものである。
【0029】
一実施形態において、金属内包フラーレン化合物は、1つ又は複数の陰性の荷電を有する。
【0030】
一実施形態において、金属内包フラーレン化合物は、式(I):A@Cによって表される。
【0031】
式(I)において、A及びXは、元素の周期律表における同一の、又は異なる元素を表し、但し、A及びXの少なくとも1つは常磁性である。一実施形態において、A及びXの少なくとも1つは、1つ又は複数の不対電子を有する元素を表す。好ましい一実施形態において、A及びXの少なくとも1つは、希土類元素、元素の周期律表におけるIIIB族元素などを表す。適切な希土類元素及びIIIB族元素の例には、それだけには限定されないが、スカンジウム(Sc)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、ツリウム(Tm)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、及びイッテルビウム(Yb)が含まれ得る。Nは窒素原子を表す。
【0032】
さらに、kは1から3までの整数を表し、nは0から2までの整数を表し、iは0又は1の整数を表す。好ましくはk+nが1、2、又は3である。
【0033】
は、1つ又は複数の置換基によって置換されているフラーレンCを表し、mは整数、とりわけ約60から約200までの偶数を表す。一実施形態において、mは、60、68、70、74、78、80、82、90、92、94などである。さらに、iが0である場合、mは好ましくは約60から約82までの整数である。
【0034】
一実施形態において、Cにおける置換基は、電気陰性度が比較的高い原子によってCに直接結合している1つ又は複数の基を含むことができる。好ましくは、電気陰性度が比較的高い原子は、N、O、S、及びPからなる群から選択される。しかし、式(I)によって表される化合物は、Cにおける置換基(単数又は複数)がOH又はC(COOH)の少なくとも1つからなるGd@Cを含まず、とりわけ上記で言及したGd@C60(OH)、Gd@C60[C(COOH)、Gd@C82(OH)、及びGd@C82[C(COOH)を含まない。
【0035】
さらなる一実施形態において、Cにおける置換基(単数又は複数)は、−Q−Zによって表される。Qは、N、O、S、及びPからなる群から選択される原子を表す。Z、G、及びDは異なり、各々親水性部分を含む。さらに、Z、G、及びDは、各々QによってCに結合している。さらに、jは1から3までの整数を表し、pは0から2までの整数を表し、rは0から2までの整数を表す。好ましくは1≦p+j+r≦3である。本明細書で用いられる「に結合している」及び「に付着している」の句は、単結合、又は二重結合及び三重結合などの多重結合のいずれかによる共有結合を意味する。二重結合又は三重結合が存在する場合、これは、隣接していても又はいなくても一端で1つ、2つ、又は3つの原子間で形成され、隣接していても又はいなくても他端で1つ、2つ、又は3つの原子間で形成され得る。
【0036】
一実施形態において、Z、G、及び/又はDにおける親水性部分が、1つ又は複数の酸素原子を含むのが好ましい。
【0037】
における適切な置換基の例には、それだけには限定されないが、>O(エポキシド)、ポリエチレングリコール部分、糖基、双性イオン基、アミノ酸基、及びこれらの誘導体が含まれ得る。1つを超えるアミノ酸サブユニットを含む基などの短いペプチドも、Cにおける置換基として用いられ得る。
【0038】
ポリエチレングリコール部分として、hが1又は複数である、式CH(OCHCH−によって表されるポリエチレングリコール基が、好ましくは用いられ得る。より好ましくは、hは1から20までの整数を表す。
【0039】
適切な糖基の例には、それだけには限定されないが、完全メチル化シクロデキストリン(PMCD)が含まれ得る。以下に例示するPMCDは、図1において例示するように、金属内包フラーレンに近接する水分子に結合するのに適する部位を提供することができる、容易に入手できる高度に水溶性の化合物である。
【0040】
PMCDが、GdTMSなどの金属内包フラーレンのフラーレン環に共有結合している場合、PMCD分子及びTMSにおける酸素原子間に少なくとも1つの結合が形成される。PMCD−GdTMS抱合体の可能な構造を図2に示し、この場合mは、α−、β−、又はγ−シクロデキストリンに対して、それぞれ6、7、又は8であり得る。
【0041】
少なくとも1つ、おそらくは2つのPMCDが、各フラーレンケージ上に結合している。さらに、PMCD分子におけるCD基は、GdTMS単位と相互作用して、それによってGdTMS単位を囲む球体を部分的に封入し得る。
【0042】
PMCDはフラーレン表面に十分な湿潤をもたらすことができ、したがってその水溶性を改善することができる。フラーレンケージ内の常磁性金属の磁気モーメントは大量の水に移され得、それによってコントラスト効果をもたらす。しかし、メチル基のないシクロデキストリンは、大型の凝集物を形成する傾向があり、好ましくない。
【0043】
適切な双性イオン基の例には、それだけには限定されないが、ホスホコリン基が含まれ得る。
【0044】
適切なアミノ酸基の例には、それだけには限定されないが、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リシン、及びこれらの組合せが含まれ得る。
【0045】
別の一実施形態において、Cにおける置換基は、酸素連結、窒素連結、N−ヒドロキシアミノ連結、イオウ連結、硫酸塩連結、リン酸塩連結、又はホスホエステル連結によってCに結合している1つ又は複数の親水性部分を含むことができる。
【0046】
本明細書において、式(II):A@C**によって表される金属内包フラーレンも記載する。
【0047】
式(II)において、C、A、X、N、k、n、i、及びmは、式(I)に関して本明細書において記載したのと同じ意味を有する。
【0048】
**は、1つ又は複数の置換基によって置換されているCを表す。C**における置換基は、1つ又は複数のZ’及び場合により1つ又は複数のQ’を含むことができる。Z’は親水性部分含有基を表す。C**において1つを超えるZ’が存在する場合、Z’は同一又は異なっていてよい。Q’は、相対的に電気陰性の原子によってCに結合している基、好ましくはN、O、S、Pなどの原子を表す。さらに、C**において1つを超えるQ’が存在する場合、Q’は同一でも、異なっていてもよい。
【0049】
一実施形態において、Z’に対する親水性部分は、好ましくは1つ又は複数の酸素原子を含むことができる。
【0050】
**における適切な置換基Z’の例には、それだけには限定されないが、式(I)に関して本明細書において記載した、ポリエチレングリコール部分、糖基、双性イオン基、アミノ酸基、及びこれらの誘導体、並びに短いペプチドが含まれ得る。
【0051】
別の一実施形態において、C**における置換基Q’は、酸素連結、窒素連結、N−ヒドロキシアミノ連結、イオウ連結、硫酸塩連結、リン酸塩連結、又はホスホエステル連結によってCに結合している基を表すことができる。
【0052】
本明細書において、式(III):A@C’によって表される金属内包フラーレン化合物をさらに記載する。
【0053】
式(III)において、C’は、1つ又は複数の欠損した炭素原子、及び/又はCに由来する結合を有する、場合により置換されているフラーレンを表し、したがってフラーレンケージ上に1つ又は複数の「穴」を有する。好ましくは、フラーレンケージ上の穴は、水分子の通過を許すことができ、ケージ網状構造の内側に封入された金属構成成分の通過を許さない寸法を有する。C、A、X、N、k、n、i、及びmは、式(I)に関して本明細書において記載したのと同じ意味を有する。
【0054】
一般に、C’は、主に5員及び6員の炭素環からなるおよそ球状の骨格を有する。C’上の置換基(単数又は複数)は、存在する場合は、式(I)において上記Cに対して記載した置換基から、並びにZ’及びQ’は式(II)において上記C**に対して記載した置換基から選択することができる。一実施形態において、C’は、>O及び/又は−COOHの1つ又は複数によって置換されている。図3(a)は、C’の一例のスティックモデルを図示したものであり、図3(b)は小穴を示すその空間充填モデルである。
【0055】
さらなる一実施形態において、A@C、A@C**、及びA@C’は、それぞれGd@C60、Gd@C82、又はGdN@C80、Gd@C60**、Gd@C82**、又はGdN@C80**、及びGd@C60’、Gd@C82’、又はGdN@C80’を表すことができる。
【0056】
本明細書において記載するように、式(I)のCにおける置換基、式(II)のC**における置換基、及び式(III)のC’における置換基は、フラーレンケージに直接共有結合している、塩素などのハロゲン原子を1つ又は複数さらに含むことができる。
【0057】
式(I)、(II)、及び(III)によって表される金属内包フラーレン化合物は、好ましくは約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までを超える、より好ましくは40mM−1・S−1を超える、最も好ましくは60mM−1・S−1を超える、水中の緩和能を有する。本明細書で用いられる「約」の語は、±30%、好ましくは±20%、±10%、±5%、±2%、又は±1%の偏差を意味することがある。本明細書で用いられる「水」の語は、いかなるさらなる構成成分が実質的にない水を意味する。一実施形態において、脱イオン(DI)水を用いることができる。
【0058】
金属内包フラーレン化合物の緩和能は、その凝集物粒子のサイズに強力に依存する。流体力学的半径又は粒子の直径の平均は、媒体における粒子の凝集度を反映する。例えば、Lon Wilsonは、「第1の可溶性M@C60誘導体は金属フラーレンに対するアクセスの増強をもたらし、MRI造影剤としてGd@C60[C(COOH)10のin vivoの評価を可能にする(First Soluble M@C60 Derivatives Provide Enhanced Access to Metallofullerenes and Permit in Viva Evaluation of Gd@C60[C(COOH)10 as a MRI Contrast Agent)」、J.Am.Chem.Soc.、125巻、5471〜78頁、(2003年)は、ポリ(OH)修飾したGd@C60は、その流体力学的直径(D)が約600nmである場合、80mM−1・S−1の緩和能を有すると報告した。しかし、Dが100nmに低減した場合、緩和能は10mM−1・S−1未満に低下する。個々の金属内包フラーレン分子は、約2nmから約3nmの直径を有すると考えられている。
【0059】
動的光散乱試験は、これらのガドフラーレンの高い緩和能は、サイズが数百nmである凝集物によることを示した。しかし、凝集物は生体液中で速やかに解離し、高緩和能は失われる。
【0060】
理論によって拘泥しようとするものではないが、金属フラーレン凝集物が高緩和能であることについての一つの可能な説明は、水分子が凝集物の間隙中に閉じ込められ、その凝集物の回転速度はより遅く、これがGdなどの常磁性金属と水プロトンとの間のカップリングメカニズム、とりわけ回転相関時間τに影響を及ぼすということである。
【0061】
回転時間がより遅いということは、緩和能を改善する手がかりであると考えられていた。例えば、Maeckeら、「共有結合した巨大分子MRI造影剤に対する新規な前駆物質の合成及び物理化学的キャラクタリゼーション(Synthesis and Physicochemical Characterization of a Novel Precursor for Covalently Bound Macromolecular MRI Contrast Agents)」、J.Biol.Inorg.Chem.、4巻、341〜7頁、(1999年)を参照されたい。しかし、緩和能を示したその後の様々な製剤実験の研究からの結果は、高緩和能を得るための手がかりはGdの回転相関時間であるという仮説と不一致であることが見出された。例えば、Raymondら、「次世代の高緩和能Gd MRI薬剤(Next Generation, High Relaxivity Gd MRI Agents)」、Bioconjugate Chem.、16巻、3〜8頁、(2005年)を参照されたい。
【0062】
いかなる理論によって拘泥しようとするものではないが、金属内包フラーレン凝集物において観察される高緩和能は、凝集物を通した水分散速度が遅いことによる可能性があると考えられている。詳しくは、図4の図解において示すように、凝集物は、実際は多孔性のクラスターであり、遊離の水分子に比べて水分子の拡散を著しく妨害することができる、そこを通したチャンネルを有している。
【0063】
水分子の拡散が遅い結果として、水プロトンは、金属フラーレンケージにおいてGdなどの金属に非常に接近して存在する長い期間を有し、高緩和能をもたらす。
【0064】
本明細書において記載するように、金属内包フラーレンは、金属フラーレンに直接結合することによって、又はN、O、S、及びPなどの比較的電気陰性の原子によって、1つ又は複数の親水性部分を含有する置換基で修飾され得る。
【0065】
いかなる理論によって拘泥しようとするものではないが、(置換基(単数又は複数)を有する)式(I)、(II)、及び(III)によって表される金属内包フラーレン化合物が、水分子との相互作用するための構成要素は4つ存在すると考えられる。第1に、フラーレンケージ及び/又は隣接の原子に直接結合している電気陰性の原子は、例えば、水素結合又は他の静電気的相互作用によって水分子と相互作用することができ、それによって水分子をフラーレンケージ及びその中に封入されている金属原子(単数又は複数)に近づける。第2に、図5の図解において示すように、水和殻がフラーレンケージCに付着している親水性部分によって形成され得、そこを通して水分子が分散してフラーレンケージ上の付着点に到達しなければならない。第3に、フラーレンケージ上の枝はさらなる立体障害をもたらすことができ、それによってフラーレンケージ近傍の水分子の拡散をさらに妨害する。第4に、例えば式(III)において、フラーレンケージに1つ又は複数の穴がある場合、曝露されたガドリニウムが水分子と直接相互作用することができる(図3(b))。
【0066】
式(III)に関して、水分子はフラーレンケージ上の穴を通過し、ケージ内部に入ることも可能である。これらの水分子は、穴を通ってケージの出口を見つけるまでフラーレンケージ内部に少なくとも一時的に捕捉されている。さらに、フラーレンケージ内部の水分子は、その中の金属とさらに相互作用することができ、又は配位結合することさえある。このような場合には、捕捉された水分子がフラーレンケージから拡散して出るのが妨げられることがある。
【0067】
水分子を水和殻中に閉じ込めることによって、及び/又は水分子の拡散を妨害することによって、或いはフラーレンケージ内では、長期間、フラーレンケージ内の水分子と常磁性金属原子(単数又は複数)の間の相互作用をもたらし、それによってτを最適化することが可能である。したがって、本明細書に記載する金属内包フラーレン化合物は、単に大型の凝集物に起因するのではない、比較的高い固有の緩和能を表すことができる。
【0068】
フラーレンケージに直接結合しているヒドロキシル基を多く有する金属フラーレンは、比較的大型の凝集物を形成する傾向がある。したがって、好ましい一実施形態において、式(I)のCにおける置換基、式(II)のC**における置換基、及び式(III)のC’における置換基は、フラーレンケージに直接共有結合している多くのヒドロキシル基を含まない。
【0069】
式(I)、(II)、及び(III)の金属内包フラーレン化合物は、好ましくは、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する。凝集物と異なり、これらの化合物は生体液中で「解離」しない。
【0070】
式(I)、(II)、及び(III)の金属内包フラーレン化合物は比較的高い緩和能を有し、MRI手順において脈管構造系の視覚化を含めた画質の改善をもたらすことができる。
【0071】
さらに、これらの金属内包フラーレン化合物は、優れた化学的安定性を有することができる。一般に、フラーレンケージは、空中で温度約250℃未満では、又は95℃の70%硝酸などの濃熱硝酸に曝されなければ分解しない。
【0072】
さらに、MRI手順において金属内包フラーレンを用いる場合、ガドリニウムなどの封入される金属は閉鎖されているカーボンケージ中に安定に取り囲まれており、したがって対象の組織に入り、望ましくない作用をもたらすために相互作用することが妨げられる。(C’(式(III))における穴は、Gdが逸脱するほど十分大きくない。)したがってこれらの金属内包フラーレン化合物を、腎機能の損傷を有する患者を含めた全ての患者において用いることができる。
【0073】
さらに、化合物における強固なフラーレンケージは、その安全性を低下させることなく、例えば、金属内包フラーレンを取り囲む水和殻を実現することができるものなど、望ましい機能性又は性質を有する付加物の付加を可能にすることができる。
【0074】
さらに、生物学的環境におけるそれらの比較的高い安定性及び緩和能の増強により、本明細書に記載する金属内包フラーレン化合物を標的画像において用いることもできる。例えば、フラーレンケージが強剛性であり、フラーレンケージ上に潜在的な付着部位が多数あることにより、τを増大することができる基の他に標的部分の付着が可能になる。これらの金属内包フラーレン化合物は、特定の部位を標的にするMRI造影剤を構築するためのモジュールとして働くことができる。例えば、1つ又は複数の標的種を、式(I)、(II)、及び(III)によって表されるものなど、金属内包フラーレン化合物のフラーレンケージに付加的に付着してもよい。適切な標的部分の例には、それだけには限定されないが、コレステロール、L−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)、トロパン又はその誘導体、テトラベナジン、ウルシオール、トランスフェリン、muc−1、抗体(ポリクローナル又はモノクローナル)、サイトカイン、サッカライド(例えば、グルコース、マンノース、及びリボース)又はポリサッカライド、グルタメート、並びにアミノレブリン酸が含まれ得る。
【0075】
1つ又は複数の標的部分を有する金属内包フラーレン造影剤を含むこれらの標的薬剤は、好ましくは、特異的な部位に選択的に蓄積して、これらの部位に対する詳しい解剖学的情報を提供する。この取組みは、ある種の疾患の診断及びマネージメントにおける実質的な改善をもたらし得る。
【0076】
好ましい実施形態において、本明細書に記載する金属内包フラーレン造影剤の水和殻は、金属内包フラーレン化合物の溶解性を増強することができ、重篤な毒性の問題を有し得る大型の凝集物の形成の防止を助けることができる。
【0077】
本明細書に記載する金属内包フラーレン造影剤は、水及び/又は他の有機溶媒、例えばエーテル中の溶解性が比較的高いことがある。例えば、GdN@C80/NHCHCHOCH付加物(「ハイドロカラロン−1」)の水における溶解性は約100mg/mLである。この数字は、知られているフラーレン及びそれらの誘導体に対する最高値を大まかに2桁上回る。一実施形態において、本明細書に記載するフラーレン誘導体の水の溶解性は、約40mg/mLを超える。さらに、GdN@C80/NH(CH11CH付加物のエーテル中の溶解性は約10mg/mLを超える。
【0078】
水溶性の改善により、本明細書に記載する金属内包フラーレン誘導体は生物系とより適合性になり、したがってこれらはMRI造影剤として潜在的に有用になる。
【0079】
溶解性の増大はフラーレンケージ上の付着に起因し得ると考えられる。さらに、ケージ上に荷電が存在することは、水溶性の増大の説明にもなり得る。例えば、ゲル電気泳動実験は、GdN@C80/NH(CHCHO)CH付加物(「ハイドロカラロン−3」)が負の荷電を有することを示している(図6)。
【0080】
具体的に、図6は、陰極(下)に向かって移動する、C70−モノエチレングリコールアミン(C70−MEG)(左)、ハイドロカラロン−1(GdN@C80−MEG)(中央)、及びハイドロカラロン−3(右)のゲル電気泳動結果を示すものである。ゲル電気泳動は、Novex(登録商標)Tris−グリシンポリアクリルアミドゲル化学(Novex(登録商標)10%のTris−Glycine Gel 1.0mm、10ウェル)にしたがって行った。Novex(登録商標)Tris−グリシンポリアクリルアミドゲル化学は、Laemmliシステム(1)に基づき、プレキャスト(pre−cast)フォーマットにおける最大の性能に対して少々修飾した。これらのゲルはSDSを含まず、したがって天然タンパク質及び変性タンパク質の両方を正確に分離するのに用いることができる。Novex(登録商標)Tris−Glycine Gelは、高純度の、厳しく品質管理された試薬:Tris塩基、HCl、アクリルアミド、ビスアクリルアミド、TEMED、APS、及び高純水で作られている。これらはSDSを含まない。SDSなしのTris−Glycine Running Bufferをバッファーとして用いる。試験試料を、各試料25μLを、1ウェルあたりグリセロール5μLと合わせることによって調製する。電流を@50ボルト(20分)負荷し、次いで一旦負荷したら120ボルト(30分)に増大する。
【0081】
図7(a)及び(b)は、DO中MEG−TEA、及び反応混合物中YTMS−MEGを有するMEG−Hの存在を示すYTMS−MEGプレ透析のH NMRスペクトルである。図8は、透析によってMEG−Hが除去されているDO中Y ハイドロカラロン−1の透析後のH NMRスペクトルである。
【0082】
金属内包フラーレン化合物の調製
N@C金属フラーレンを、Kratschmer−Huffmanジェネレータを用いるなど、あらゆる適切な方法によって調製することができる。Kratschmer−Huffmanジェネレータは、典型的には、容易に排気され、ヘリウムなどの不活性ガスの制御された圧力で荷電され得る反応チャンバーを有する。ジェネレータは、反応チャンバー内に電極を2つ保有し、アーク放電を生成するための電極を横切って電荷を適用することができる。国際公開第2005/097807号は、Kratschmer−Huffmanジェネレータを用いたプロセスの詳しい記載を提供している。
【0083】
好適な一方法において、金属酸化物とグラファイトとの混合物を、グラファイト又は他の炭素源の典型的には中空にしたロッド中に充填する。金属酸化物は、フラーレンケージ中に封入すべき金属を含んでいる。好ましくは、金属酸化物は、例えば、Er、Ho、Y、La、Gd、Tm、Yb、他の常磁性元素の酸化物などの、希土類金属又はその3価の形態のIIIB族金属の酸化物を含むことができる。これらの金属酸化物は、個々に、又はそれらの組合せで用いることができる。金属酸化物とグラファイトとの混合物は、グラファイトの量をベースにして約20重量%から約50重量%までの金属酸化物を含んでいてよい。典型的には、グラファイト充填に対して47%の金属酸化物は、所望の三金属窒化物内包金属フラーレンを生成する。
【0084】
1つを超えるタイプの金属をフラーレンケージ中に封入しようとする場合、中空にしたグラファイトロッドを、金属酸化物とグラファイトとの混合物と一緒に充填することができる。各金属酸化物の相対的含量は、約20重量%から50重量%までであってよい。所望により、フラーレンの形成を増強するために少量の銅を混合物に加えてもよい。一実施形態において、約9重量%から約16重量%までの量の銅を加えることができる。
【0085】
金属酸化物、グラファイト、及び任意選択で銅の混合物を充填したグラファイトロッドを、次いで、反応チャンバー中に搭載し、Kratschmer−Huffmanジェネレータ中に配置することができる。反応チャンバー中のガスを排気し、ヘリウム及び少量の窒素ガスで置き換える。典型的には、約300ml/分から約24250ml/分までのヘリウム、及び20ml/分から約1000ml/分までの窒素ガスの範囲の動的大気圏を利用することができる。ヘリウム対窒素の比率は変化してよい。三金属窒化物金属内包フラーレンは、広範囲の比率のヘリウム対窒素に対して生成され得るが、金属フラーレンの収率は、窒素の量がヘリウムの量に接近すると低減する傾向にあることがある。典型的には、ヘリウム対窒素の比率は約15から約30までの範囲であってよい。
【0086】
窒素含有ガスは、三金属内包金属フラーレンにおける窒素の供給源として好ましい。他の窒素源には、それだけには限定されないが、窒化炭素が含まれ得る。或いは、又はさらに、金属窒化物を、封入されるべき金属及び窒素の両方の供給源として用いてもよい。
【0087】
金属フラーレンの形成は、典型的には、アーク放電を引き起こすことによって、例えば電極を横切って電荷を適用することによって実行され得る。アーク放電はグラファイトロッドを消耗し、煤煙と一般に呼ばれる炭素生成物の混合物を産生する。煤煙内には、三金属窒化物金属内包フラーレンを含めた、広範囲のフラーレンがある。所望の三金属窒化物金属内包フラーレン及び他のフラーレンを、一般に、オルトキシレン、二硫化炭素、オルトジクロロベンゼン、又はトルエンなどの好適な溶媒での抽出によって、得られた混合物から単離することができる。
【0088】
抽出物は、好ましくは、例えばヌッチェフィルターを通してろ過して、残留の不溶性材料を除去し、次いで多段階のバッチ化学プロセスによって精製してフラーレンを除去し、それによって所望の、純度レベル85%又はそれを超える三金属窒化物金属内包フラーレンを得ることができる。純度をより高めるために、さらなるクロマトグラフィーのプロセスを利用して98%を超える純度レベルをもたらすことができる。
【0089】
式A@Cによって表される金属内包フラーレンを、反応器に窒素種を加えない他は上記に記載したのと同様の条件を用いて調製することができる。
【0090】
金属内包フラーレンの反応
金属内包フラーレン化合物のフラーレンケージに置換基を共有的に付着するための方法は、置換基の性質に応じて変化してよい。
【0091】
本発明者らは、TRIMETASPHERE(登録商標)分子を官能基化するための非常に好ましい経路を提供する新しいタイプの反応を発見した。反応は、1級アミン及び過酸化物から産生された独特の活性化窒素中心のラジカル種をベースにしている。
【0092】
本明細書で用いられる「ハイドロカラロン」の語は、フラーレン、過酸化物、及びアミンの反応に起因する化合物のクラスを意味する。ハイドロカラロン−1、ハイドロカラロン−3、及びハイドロカラロン−6は、アミンとしてそれぞれモノエチレングリコール(MEG)、トリエチレングリコール、及びヘキサエチレングリコールを用いることによって得た化合物を意味する。
【0093】
いかなる理論によって拘泥しようとするものではないが、一つの可能なメカニズムは、トルエン又はキシレンなどの有機溶媒中ブタノンペルオキシドなどの過酸化物の1級アミンとの反応は、長時間ではなく、少なくとも数分の安定性を有するRN(OH)・反応中間物の形成をもたらすことであると考えられている。TRIMETASPHERE(登録商標)の存在下、RN(OH)・はフラーレンケージ上のベンゼン環と速やかに反応し、フラーレンラジカルを形成し、これは次に、反応混合物中に存在する他のラジカル種又は非ラジカル種と反応することがある。フラーレンラジカルは、内部的に再編成を受けることもある。一代替において、フラーレンラジカルはフラーレンケージ上の1つ又は複数の結合の切断を受けることがある。
【0094】
得られた置換されているフラーレン分子は、存在するラジカル種と繰返し反応し、それによって多置換フラーレン分子、ポリマー、又は両方を形成することがある。さらなる置換が、置換されたフラーレンのあらゆるポジションで、例えば、フラーレンケージ上の炭素原子、又はその枝上のあらゆる部位で生じることがある。図9は、このプロセスの例示の反応模式図を示す。
【0095】
さらに、図10(a)及び(b)は、頭−頭様式における、例示の金属内包フラーレン2量体及び3量体をそれぞれ示す。
【0096】
さらに、RN(OH)・中間体は再編成又は他のメカニズムを経験してR(NH)O・中間体を生成することがあり、これはフラーレンケージ上のベンゼン環と反応し、RN(OH)・中間体と同様の様式においてフラーレンラジカルを形成することがある。得られたフラーレンラジカルは、次に、上記に記載したラジカル反応を経験し、エポキシドを形成し、又はフラーレンケージ上の1つ又は複数の結合の切断をもたらすことがある。
【0097】
置換反応は、好ましくは1級アミンで行われる。2級アミン又は3級アミンは、一般に対応する生成物を生成しない。さらに、過酸化物がブタノン過酸化物を含むのが好ましい。t−ブチルヒドロペルオキシド、及びクメンヒドロペルオキシドなどの他の適切なラジカル開始剤も用いることができる。
【0098】
一般に、このような反応において、アミン化合物及び過酸化物を、過量の金属内包フラーレン化合物において、例えば、約1:15:30の重量比のフラーレン:アミン:過酸化物において用いることができる。反応溶媒がオルトジクロロベンゼンを含まないのが好ましい。
【0099】
親水性部分含有置換基が望ましい場合は、1つ又は複数の親水性部分を含む1級アミン化合物を用いることができる。
【0100】
用いられる1級アミンは非常に多様であってよく、アルキルアミン、アミノ酸、ポリエーテルなどを含んでいてよい。適切な1級アミン化合物の例には、それだけには限定されないが、hが1又はそれを超える整数、好ましくは1から20であるNH(CHCH及びNH(CHCHO)CHが含まれる。具体的には、1級アミン化合物は、Rがエチル、プロピル、ヘキシル、ドデシル、−(CH−NH、−(CH10−NHBoc、−(CH−COOH、−CH(COOCHCH)(CHPh、−CH−18−クラウン−6、−グリム−OH、−グリム−OCH、−グリム−NHBoc、−トリグリム−OH、−トリグリム−OCH、−トリグリム−NHBoc、−ヘキサグリム−OH、−ヘキサグリム−OCH、及び−ヘキサグリム−NHBocである式RNHによって表すことができる。
【0101】
図11は、NH(CHCHO)CHのGdN@Cとの1つの具体的な反応を示すものである。この具体的な模式図は、複数の置換されているフラーレン(a)及び頭−頭様式(b)、尾−尾様式(c)、頭−尾様式(d)、並びに頭−頭及び尾−尾様式(e)における様々な2量体の形成を例示的に記載している。反応混合物はフラーレン3量体及び他のポリマーも含んでいることがある。
【0102】
得られた置換反応生成物が、−N(OH)R付加生成物、−ONHR付加生成物、−ON=CHR付加生成物、−NHR付加生成物、又はこれらの生成物の2つ若しくはそれを超える混合物を含むことがあるのは可能である。
【0103】
具体的な一例において、YN@C80のCH(CH13CHNHとの反応において得られた13C同位体濃縮生成物を試験した。シリカクロマトグラフィーによる精製後、13C NMRスペクトルにおいて、生成物は、δ140、65、及び39ppmに3本のピークを示した。DEPT NMRは、δ140ppmのピークは水素原子を1つ保有するが、δ65及び39ppmのピークは水素原子を2個保有することをさらに示している。このように、δ140ppmのピークはCH=Nに対応し、これはIRスペクトルにおける1600cm−1の伸縮とやはり一致する。さらにδ65ppmのピークはCH−N(OH)に対応し、これはIRスペクトルにおける1451〜1456cm−1の伸縮とやはり一致する。
【0104】
図12は、GdN@C[N(OH)(CHCHO)CHの例示の重合化反応模式図を示す。この模式図は、頭−頭及び尾−尾様式の具体的な2量体中間体の形成を示している。
【0105】
糖などのヒドロキシル基含有分子を、インサイチュー産生した金属フラーレンラジカル、ラジカル陽イオン、又はラジカル陰イオンで処理して、フラーレンケージとヒドロキシル含有分子との間にC−O結合(単数又は複数)を形成することができる。
【0106】
さらに、C、O、S、及びP連結を、ラジカル化学を用いて実現することもできる。すなわち、予め産生されたC、O、S、及びPラジカルを金属フラーレンと容易に反応させて、それぞれC−C、C−O、C−S、及びC−P結合を形成させることができる。炭素ラジカルは、それだけには限定されないが、グリニャード試薬とCu(I)Brとの反応から産生されたものなど、フリーラジカル又はラジカル同等物であってよい。
【0107】
炭素連結は、それだけには限定されないが、シクロプロパン化(「Bingel反応」)、ジアゾ付加、ピロリジン付加(「Prato反応」)、求核性炭素反応(炭素リチウム塩の負荷など)、[4+2]付加環化(例えば、「Diels−Alder反応」)、[3+2]付加環化、及びカルベン付加などの確立されているフラーレン化学を用いて、やはり作成してもよい。
【0108】
本明細書において記載するように、反応混合物において、各金属内包フラーレンケージ上の置換基及び穴のタイプ及び/又は数は、置換基及び反応条件の性質に応じて、ある程度変化することができる。したがって、あらゆる特定の反応が、フラーレンケージ上に様々なタイプ及び/又は数の置換基及び/又は穴を有する金属内包フラーレン化合物の混合物を産生することができる。
【0109】
例えば、キシレン中、GdN@C80の、メチルエーテルオリゴエチレングリコールアミン、すなわちnが1、3、6、及び11であるCH(OCHCHCHとの反応において、得られるGdN@C80付加物の数は、鎖長を、n=1では6〜12、n=6では3〜6に増大すると低減する。この依存性は、反応が自己制御的であることを示し得る。生成物はキシレン中に可溶性ではなく、十分に極性になると沈澱し、それによって反応の停止が引き起こされる。
【0110】
1つを超えるタイプの置換基を有する金属フラーレン化合物が望ましい場合、置換の順序は変化してよく、当業者であれば最適化することができる。例えば、式(II)、すなわちC**における置換基がZ’及びQ’両方を含む、A@C**によって表される化合物を調製する場合、Z’を対応する金属内包フラーレンに最初に導入し、その後Q’を導入してもよく、又はその反対でもよい。
【0111】
本発明を、具体的な以下の実施例によってさらに説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0112】
特定しなければ、市販の材料は全て、本明細書においてさらなる精製なしに用いた。重量及び温度を含めた測定値は全て、補正なしであった。
【0113】
測定−緩和能
永久磁場がプロトン磁気周波数約23MHzに相当する約0.55Tである、Maran Ultraベンチトップ緩和計(Oxford Instruments、UK)を用いて緩和能を測定した。測定温度を40℃一定に保った。
【0114】
測定−平均流体力学的半径
流体力学的半径を、動的光散乱を用いて市販の機器(Malvern InstrumentsからのZetasizer Nano−S90)で測定した。
【0115】
(例1)−NH(CHCHO)CHを用いた内包ガドフラーレン化合物の調製
GdN@C80(10mg)をキシレン中(4.0mL)に採取した。NH(CHCHO)CH(250mg)及びブタノンペルオキシド(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート中31%の市販溶液1500mg)を加えた。混合物を超音波処理し(30秒)、次いで75℃で60分振盪した。この時間の間に沈殿物が形成した。反応混合物を冷却し、キシレンをデカントした。残渣の油状沈殿物をトルエン(5mL×2)及びジエチルエーテル(5mL×2)で洗浄した。次いで、生成物をDI水(10mL)中に溶解し、50℃のオーブンで7日間焼いた。次いで、これを1000MWCOチュービングで、10mMトリズマ(Trizma)アセテート(pH=7.2)に対して3日間透析した(3バッファーを各3I交換)。この材料の緩和能(r)は90mM−1−1と測定された。粒子サイズは、DLSを用いて10nm未満と決定された。得られた溶液の緩和能を、T1測定値を得ることによって測定し、次いで試料を900℃で灰化した。白色の灰を、4時間かけて濃HCl中に溶解した。得られた溶液のT1を測定し、検量線と比較し、それによってGdの濃度を決定した。
【0116】
さらに、動的光散乱によって観察される凝集物は存在しなかった。
【0117】
図13(a)及び13(b)は、C70−MEG及びハイドロカラロン−3(低ペルオキシド調製物)のIRスペクトルであり、約1452cm−1にヒドロキシルアミンに関連するピークが示されている。
【0118】
ハイドロカラロン−3の元素分析は、式C1641924813Gdを有する、12個のペンダント基を有する生成物を示している(図14)。TRIMETASPHERE(登録商標)の元素分析において、ケージの不完全燃焼が根強い問題であることが注目される。例えば、純粋な、非官能基化材料の試料、例えばScN@C80は、ルーチン的に低い炭素分析をもたらす。これは、TGAにおいて反映されるように、間違いなく、これらの材料の安定性が高いことによる。
【0119】
(例2)−NHCHCHOCHを用いた内包ガドフラーレン化合物の調製
キシレン(7mL)中GdN@C80(GdTMS)(2.8mg)の溶液に、メトキシエチルアミン(52mg)及びブタノンペルオキシド(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート中31%の溶液110mg)を加えた。反応混合物を16時間撹拌し、次いで水で2回抽出した(それぞれ5mL及び2mL)。次いで、水抽出物を、1000MWCOチュービングを通して、トリズマアセテート(10mM)に対して透析した。水性抽出物を合わせたものは、約90mM−1・S−1の緩和能を表した。
【0120】
図15(a)及び15(b)は、非エーテルのアミン生成物中C−O伸縮(約1100cm−1)を示すGdTMS−デシルアミン及びハイドロカラロン−1のIRスペクトルである。GdTMS−デシルアミンはエーテル可溶性であり、ハイドロカラロン−1は水溶性であることが注目される。
【0121】
図16(a)及び16(b)は、ハイドロカラロン−1及びハイドロカラロン−3のIRスペクトルである。
【0122】
(例3)−NH(CHCHO)CHを用いた内包ガドフラーレン化合物の調製
例2において記載したのと同じ様式で、GdN@C80(4mg)及びNH(CHCHO)CH(60mg)をキシレン(12mL)中、超音波処理しながら溶解した。得られた溶液に、ブタノンペルオキシド(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート中31%の溶液120mg)を加えた。反応混合物を室温で16時間撹拌し、その間に沈殿物が形成された。次いで、得られた混合物を水で3回抽出した(各回3〜4mL)。水性抽出物を合わせたものを、1000MWCOチュービングで透析した。得られた溶液は、上記に記載した灰化法によって測定して、180mM−1・S−1の緩和能を表した。
【0123】
図17は、水中ハイドロカラロン−6のUV/UVisである。
【0124】
図18(a)及び(b)は、重量減少対温度を示す、ハイドロカラロン−6及び非官能基化GdN@C80のTGAである。図18(b)は、非官能基化TMSは、200℃付近で分解し始め、400℃で完全に分解するが、ハイドロカラロン誘導体のケージは600℃付近まで分解しないことを示している。600℃付近での急速な重量減少は、Gdである最終質量に対する重量減少前の質量に基づき、フラーレンケージの分解によると考えられている。
【0125】
(例4)−GdTMS−グルコサミンの調製
テトラ−O−アセチルグルコサミン(60mg)、GdN@C80(2.5mg)、及びブタノンペルオキシド(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート中31%の市販溶液115mg)をキシレン(7mL)中で合わせた。得られた溶液を16時間撹拌した。真空中でキシレンを除去した後、残部をMeOH:HO(10ml:15mL)混合液中に溶解した。得られた混合液に、飽和NaOH溶液(2mL)を加えた。この溶液を室温で2日間放置し、1mLに濃縮してメタノールを除去し、水で5mLに希釈した。0.2ミクロンシリンジフィルターを通してろ過した後、溶液を1000MWCOチュービングで透析し、緩和能を測定した(R=5mM−1・S−1(出発材料が100%変換され、100%抽出されたと仮定して))。約20分間、60℃に加熱した後、Rは8mM−1・S−1に上昇した。
【0126】
(例5)−対照実験
アミノエーテルとペルオキシドとの反応によって、緩和能が測定可能ではない無色の生成物がもたらされた。さらに、アミノエーテル、ペルオキシド、及びC60の反応により、無視できる緩和能を有する黄色フラーレン生成物が得られた。
【0127】
(例6)−GdTMS[PMCD]の調製
GdN@C80(5.0mg)を、不活性な窒素雰囲気下、無水DMF(5.0mL)中に懸濁した。得られた懸濁液を激しく撹拌し、引き続き過量の超過酸化カリウム粉末(8.0mg)で処理した。引き続き、上記の懸濁液に8−クラウン−6 10.0mgを加えた。反応が進行するにしたがい、GdTMSは徐々に溶解して暗色溶液を形成した。反応混合物をさらなる30分間かき混ぜ、次いでPMCD(完全メチル化β−シクロデキストリン、10等量)を加えた。1〜2時間激しく撹拌した後、真空下で溶媒を除去した。残渣を脱イオン水(5.0mL)中に溶解した。得られた着色した水溶液を、0.45マイクロメートルシリンジフィルターを通してろ過し、その後SEPHADEX G−25フラッシュカラム精製及び/又は透析にかけた。
【0128】
GdTMS[PMCD]生成物は、DI水中約35から40mM−1・S−1の緩和能を示し、血清中の典型的な粒子サイズは約20nmから約90nmであった。
【0129】
様々な実施形態を、特定の実施形態を参照して記載してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく変形及び修飾を行うことができる。このような変形及び修飾は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の権限及び範囲内であるとみなされる。
【0130】
上記に記載した参照は全て、個々の参照が各々、その全文において参照によって本明細書に組み入れられることが具体的且つ個別に指摘されたのと同程度に、本明細書においてその全文が参照によって組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までの緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、金属内包フラーレン化合物。
【請求項2】
陰性に荷電している、請求項1に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項3】
式(I):
@C
[式中、
A及びXは、元素の周期律表における同一の、又は異なる元素を表し、但し、A及びXの少なくとも1つは常磁性であり、
は、置換されているCを表し、
は、炭素原子をm個有するフラーレン分子を表し、
kは、1から3までの整数を表し、
nは、0から2までの整数を表し、但し、1≦k+n≦3であり、
iは、0又は1の整数を表し、
mは、約60から約200までの偶数の整数を表す]
によって表され、
における置換基(単数又は複数)は、N、O、S、及びPからなる群から選択される原子によってCに直接結合している1つ又は複数の基を含み、
金属内包フラーレン化合物は、Cにおける置換基(単数又は複数)が、OH又はC(COOH)の少なくとも1つからなるGd@Cではない、
金属内包フラーレン化合物。
【請求項4】
水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1の緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項5】
A及びXの少なくとも1つが、希土類元素又は元素の周期律表におけるIIIB族元素を表す、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項6】
A及びXの少なくとも1つが、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ジスプロシウム、テルビウム、及びイッテルビウムからなる群から選択される、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項7】
@Cが、Gd@C60、Gd@C82、又はGdN@C80を表す、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項8】
における置換基(単数又は複数)が、1つ又は複数の−Q−Z
[式中、Qは、N、O、S、及びPからなる群から選択される原子を表し、Cに直接結合しており、Z、G、及びDは異なり、各々親水性部分を含み、各々Qに直接結合しており、jは、1から3までの整数を表し、pは、0から2までの整数を表し、rは、0から2までの整数を表し、但し、1≦p+j+r≦3である]を含む、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項9】
親水性部分が1つ又は複数の酸素原子を含む、請求項8に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項10】
における置換基(単数又は複数)が、>O、ポリエチレングリコール部分、糖基、双性イオン基、アミノ酸基、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項11】
における置換基(単数又は複数)が、式CH(OCHCH−:[式中、hは、1から20までの整数である]によって表されるポリエチレングリコール部分、完全メチル化シクロデキストリン、及びホスホコリン基からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項12】
アミノ酸基が、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、及びリシンからなる群から選択される1つを表す、請求項10に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項13】
における置換基(単数又は複数)が、コレステロール、L−DOPA、トロパン又はその誘導体、テトラベナジン、ウルシオール、トランスフェリン、muc−1、抗体、サイトカイン、サッカライド、ポリサッカライド、グルタメート、及びアミノレブリン酸からなる群から選択される1つ又は複数の標的種をさらに含む、請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項14】
請求項3に記載の金属内包フラーレン化合物を含む組成物。
【請求項15】
式(II):
@C**
[式中、
A及びXは、元素の周期律表における同一の、又は異なる元素を表し、但し、A及びXの少なくとも1つは常磁性であり、
**は、置換されているCを表し、
は、炭素原子をm個有するフラーレンを表し、
kは、1から3までの整数を表し、
nは、0から2までの整数を表し、但し、1≦k+n≦3であり、
iは、0又は1の整数を表し、
mは、約60から約200までの偶数の整数を表す]
によって表され、
**における置換基(単数又は複数)は、1つ又は複数のZ’、及び場合により1つ又は複数のQ’を含み、Z’は親水性部分を含み、1つを超えるZ’が存在する場合、Z’は同一又は異なり、Q’は、N、O、S、及びPからなる群から選択される元素によってCに結合している基を表し、1つを超えるQ’が存在する場合、Q’は同一又は異なる、
金属内包フラーレン化合物。
【請求項16】
水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までの緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
A及びXの少なくとも1つが、希土類元素又は元素の周期律表におけるIIIB族元素を表す、請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項18】
A及びXの少なくとも1つが、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ジスプロシウム、テルビウム、及びイッテルビウムからなる群から選択される、請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項19】
@C**が、Gd@C60**、Gd@C82**、又はGdN@C80**を表す、請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項20】
Z’が、ポリエチレングリコール部分、糖基、双性イオン基、アミノ酸基、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの基を含む、請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項21】
Z’が、式CH(OCHCH−[式中、hは、1から20までの整数である]によって表されるポリエチレングリコール部分、完全メチル化シクロデキストリン、及びホスホコリン基からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項22】
アミノ酸基が、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、及びリシンからなる群から選択される1つを表す、請求項20に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項23】
**における置換基(単数又は複数)が、コレステロール、L−DOPA、トロパン又はその誘導体、テトラベナジン、ウルシオール、トランスフェリン、muc−1、抗体、サイトカイン、サッカライド、ポリサッカライド、グルタメート、及びアミノレブリン酸からなる群から選択される1つ又は複数の標的種をさらに含む、請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項24】
請求項15に記載の金属内包フラーレン化合物を含む組成物。
【請求項25】
式(III):
@C
[式中、
A及びXは、元素の周期律表における同一の、又は異なる元素を表し、但し、A及びXの少なくとも1つは常磁性であり、
’は、1つ又は複数の欠損した炭素原子、及び/又はCに由来する結合を有するフラーレンを表し、Cは場合により置換されていてもよく、
は、炭素原子をm個有するフラーレン分子を表し、
kは、1から3までの整数を表し、
nは、0から2までの整数を表し、但し、1≦k+n≦3であり、
iは、0又は1の整数を表し、
mは、約60から約200までの偶数の整数を表す]
によって表される、金属内包フラーレン化合物。
【請求項26】
水中で約30mM−1・S−1から約300mM−1・S−1までの緩和能を有し、平均約20nm未満の流体力学的半径を有する実体と水中で分散液を形成する、請求項25に記載の化合物。
【請求項27】
A及びXの少なくとも1つが、希土類元素又は元素の周期律表におけるIIIB族元素を表す、請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項28】
A及びXの少なくとも1つが、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ジスプロシウム、テルビウム、及びイッテルビウムからなる群から選択される、請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項29】
@C’が、Gd@C60’、Gd@C82’、又はGdN@C80’を表す、請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項30】
’における置換基(単数又は複数)が、コレステロール、L−DOPA、トロパン又はその誘導体、テトラベナジン、ウルシオール、トランスフェリン、muc−1、抗体、サイトカイン、サッカライド、ポリサッカライド、グルタメート、及びアミノレブリン酸からなる群から選択される1つ又は複数の標的種をさらに含む、請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項31】
’が、
(a)N、O、S、及びPからなる群から選択される元素によってCに直接結合している、1つ又は複数の基、並びに/或いは、
(b)親水性部分を含む1つ又は複数の基
によって場合により置換されている、請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項32】
’が、酸素原子、及び−COOH基からなる群から選択される少なくとも1つで置換されている、請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物。
【請求項33】
請求項25に記載の金属内包フラーレン化合物を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−501761(P2011−501761A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531025(P2010−531025)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/011996
【国際公開番号】WO2009/054958
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(510111560)ルナ イノベーションズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】