説明

金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法

【課題】極めて簡素な構成で迅速に測定対象物である金属体に生じている欠陥の位置と大きさを特定できる、金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法を提供する。
【解決手段】アンテナ103を水平方向に据え置いた状態で、測定対象物102の長手方向にアンテナ103を移動させながら、周波数をスイープさせてその入力インピーダンスを計測する。その後、アンテナ103を垂直方向に据え置いた状態で、同様に測定対象物102の長手方向にアンテナ103を移動させて、その入力インピーダンスを計測する。これにより、アンテナの入力インピーダンスが大きく変化した位置に亀裂102aが存在することが推定できるとともに、その際の電波の周波数から、亀裂102aの縦方向の有効長と横方向の有効長を算出することができる。なお、本発明のシステムでは、電波を用いているので、塩化ビニール等の絶縁体の被覆で覆われている金属配管に対しても、被覆を除去せずにそのまま計測することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法に関する。
より詳細には、測定対象物である金属板上の亀裂の位置及び大きさを非接触で特定できる、金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板、金属配管あるいは棒状の金属物に生じている欠陥を見つけ出すことは、工場やプラント、あるいは巨大構造物の保守管理を行うために重要な技術である。測定対象物が大きくなればなるほど、目視による欠陥の発見は困難になるので、機械的な手法で効率的に且つ確実に欠陥を検出する技術が編み出され、様々な場面で運用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−107284号公報
【特許文献2】特開2008−256499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属物の欠陥、特に亀裂を発見する方法としては、例えば以下の手法が挙げられる。
(1)超音波を用いる欠陥検出方法
例えば特許文献1等に開示される、測定対象物に対して超音波を照射し、その反射音を解析して亀裂等の欠陥を検出する方法である。この超音波を用いる方法には、測定対象物に密着するか極めて近接させた状態で測定しなければならず、また測定後のデータ処理が複雑で装置が大掛かりになりがちであるという問題がある。
【0005】
(2)磁粉を用いる欠陥検出方法
例えば特許文献2等に開示される、測定対象物である鉄鋼に対して磁界を加えた状態で蛍光塗料で着色した磁粉と界面活性剤を混ぜた液体を塗布し、その後ブラックライトを照射し、亀裂に入り込んだ磁粉を光らせて亀裂等の欠陥を検出する方法である。この磁粉を用いる方法は、(a)測定対象物が鉄鋼等の強磁性体に限られる、(b)湿式の場合は測定対象物を取り出して測定する場所に持ち込まなければならない、(c)液体ではなく磁粉そのものを直接噴射する乾式の場合は磁粉の回収が困難であるので運用コストが嵩む、(d)被覆に覆われた測定対象物の検査ができない、等の欠点がある。
【0006】
本発明はかかる課題を解決し、極めて簡素な構成で迅速に測定対象物である金属体に生じている欠陥の位置と大きさを特定できる、金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の金属体亀裂探傷システムは、アンテナと、アンテナと金属の測定対象物との相対位置を変化させるアクチュエータと、アンテナに接続される周波数可変信号源と、アンテナと周波数可変信号源に接続され、アンテナの入力インピーダンスを計測するインピーダンス測定部と、周波数可変信号源及びインピーダンス測定部に接続され、周波数可変信号源を制御してアンテナから複数の周波数の電波を測定対象物に照射し、インピーダンス測定部からアンテナの入力インピーダンス測定値を、電波の周波数及びアンテナの測定対象物に対する相対位置情報と共に記録するデータ処理装置とを具備する。
【0008】
また、本発明の金属体亀裂探傷システムでは、周波数をスイープさせてアンテナの入力インピーダンスを計測し、アンテナを測定対象物の長手方向に移動させている。このため、アンテナの入力インピーダンスが大きく変化した位置に亀裂が存在することが推定できる他、その際の電波の周波数から、亀裂の有効長を算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、極めて簡素な構成で迅速に測定対象物である金属体に生じている欠陥の位置と大きさを特定できる、金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システムのブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システムに用いられるボウタイアンテナの外観図である。
【図3】一般的な金属体亀裂探傷システムの原理を説明する概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システムの原理を説明する概略図である。
【図5】本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システムの動作の流れを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システムの実験結果(亀裂長60mm)を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システムの実験結果(亀裂長40mm)を示すグラフである。
【図8】円偏波を出力するアンテナの一例である、クロスボウタイアンテナ装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[全体構成]
図1は本発明の実施形態に係る金属体亀裂探傷システム(以下、「探傷システム」と略す)のブロック図である。この探傷システムは、発明者が実施した実験設備に基づく。
探傷システム101は、測定対象物102にアンテナ103からおよそ1GHz乃至8GHz程度の極超短波帯の電波を照射し、アンテナ103の入力インピーダンスの変化を記録することで、測定対象物102の表面に形成されている亀裂の位置と大きさを推定する。
【0012】
測定対象物102は、例えば金属板や金属配管、金属棒等の、長手方向に長さを有する金属の物体である。前述の特許文献2に開示された方法とは違い、電波を用いて傷を推定するので、金属の材質は特に問わない。導体であれば何でも良い。
測定対象物102の表面には、亀裂102aが形成されている。
実験では、銅板にドリルにて穴を開け、鋸にて穴の長さを調整した。
【0013】
図1に示されるように、測定対象物102に相対する側には、ステッピングモータ104とスクリューシャフト105よりなるアクチュエータ106にアンテナ103が設けられている。このアンテナ103は、アクチュエータ106によって測定対象物102の長手方向と平行な方向に移動できるようになっている。
アンテナ103は周知のボウタイアンテナである。このアンテナ103の詳細については後述する。
スクリューシャフト105はステッピングモータ104にパルス状の電流を流すことで所定の角度だけ回転駆動される。ステッピングモータ104に与えるパルス状電流のステップ数によって、アンテナ103を所望の距離だけ移動させることができる。
【0014】
アンテナ103には周波数可変信号源107が接続されている。周波数可変信号源107は1GHz乃至8GHz迄の極超短波の信号を発生する。この信号はアンテナ103によって電波となって測定対象物102に照射され、測定対象物102から反射された反射波がアンテナ103に返ってくる。この反射波の存在によって、アンテナ103の入力インピーダンスは悪化する。
アンテナ103と周波数可変信号源107との間には、インピーダンス測定部108が接続される。インピーダンス測定部108は、アンテナ103の入力インピーダンスの実部と虚部との両方の値を測定し、数値データとして出力する。
なお、実験では周波数可変信号源107とインピーダンス測定部108は、周知のベクトル・ネットワーク・アナライザとして一体化した構成となっている。
【0015】
ステッピングモータ104と、インピーダンス測定部108と、周波数可変信号源107は、パソコンであるデータ処理装置109に接続される。
データ処理装置109は、ステッピングモータ104にステップパルスを供給して、所望の位置にアンテナ103を固定させた状態で、周波数可変信号源107に所望の周波数の電波を出力する制御情報を出力する。そして、インピーダンス測定部108で得られる入力インピーダンスのデータを、アンテナ103の位置情報と共に図示しない不揮発性ストレージにファイルとして記録する。
記録したデータは、周知のグラフ表示ソフト等に読み込ませてグラフ表示させた上で共振周波数を推定する等の、様々な解析方法に利用できる。一例として、グラフ表示をさせた結果が後述する図6と図7のグラフである。
【0016】
[ボウタイアンテナ]
図2(a)、(b)及び(c)は、アンテナ103の外観図である。
図2(a)はアンテナ103の正面図であり、図2(b)はアンテナ103の裏面図であり、図2(c)はアンテナ103の斜視図である。
絶縁体の基板201の表面には銅のプリントパターン202が、裏面には同じく銅のプリントパターン203が、それぞれ形成されている。
プリントパターン202及び203の三角形状の部分(エレメント202a及び203a)が、ダイポールアンテナのエレメントに相当する。
裏面のプリントパターン203の下側が広く設けられている箇所はバラン領域203bであり、周知のバランの役目を担っている。
【0017】
図2には図示していないが、プリントパターン202及び203の下部分に同軸コネクタを接続することで、同軸ケーブルを接続可能にする。あるいは、同軸ケーブルを直接プリントパターン202及び203にハンダ付けする。後者の場合、同軸ケーブルの芯線は図2(a)の側のプリントパターン202へ、同軸ケーブルの被覆線は図2(b)の側のプリントパターン203へ、それぞれハンダ付けされる。
周知のように、ボウタイアンテナは広い周波数特性を持っているので、周波数をスイープさせて計測を行う本実施形態の探傷システム101には最適なアンテナである。
【0018】
[動作原理]
図3と図4を参照して、本実施形態の探傷システム101の動作原理を説明する。
図3(a)、(b)及び(c)は、探傷システム101の原理を説明する概略図である。
先ず、図3(a)は空間に導体が存在しない状態における、アンテナ103と信号源の概略図である。
今、図3(a)の状態において、アンテナ103は信号源の内部インピーダンスと整合性(マッチング)が取れており、効率良く電波を発射できる状態であるとする。
【0019】
次に、図3(b)はアンテナ103の指向性方向の正面に金属板が存在している状態における、アンテナ103と信号源の概略図である。
図3(a)の状態に対して、アンテナ103の指向性方向の正面に金属板を置くと、アンテナ103から発射される電波は金属板によって反射され、アンテナ103に跳ね返ってくる。このため、アンテナ103の入力インピーダンスは変化し、アンテナ103は信号源の内部インピーダンスとのマッチングが崩れる。
【0020】
図3(c)は、アンテナ103の指向性方向の正面に亀裂102aがある金属板が存在している状態における、アンテナ103と信号源の概略図である。
図3(c)に示すように、アンテナ103の指向性方向の正面に亀裂102aの存在する金属板を置くと、アンテナ103の指向性方向の正面に亀裂102aがないところでは、図3(b)と同様にアンテナ103から発射される電波は金属板によって反射され、アンテナ103に跳ね返ってくる。しかし、アンテナ103の指向性方向の正面に亀裂102aがあるところでは、亀裂102aの周囲で電波の乱反射が生じる。つまり、アンテナ103と亀裂102aとでスロットアンテナに似たような現象が生じることになり、アンテナ103に跳ね返ってくる電波の電力に変化が生じる。このため、アンテナ103の指向性方向の正面に亀裂102aがある時とない時とで、アンテナ103の入力インピーダンスは大きく変化する。
【0021】
したがって、アンテナ103から電波を計測対象物へ照射しながらアンテナ103を計測対象物と相対的に移動させ、アンテナ103の入力インピーダンスを計測することで、亀裂102aの位置を推定することができる。この亀裂位置の推定は、アンテナ103の指向性方向の正面に存在する亀裂102aによって入力インピーダンスが大きく変化する現象を捉えることで実現できる。
【0022】
しかし、亀裂102aに対して電波を照射すれば必ず入力インピーダンスが変化する、という訳ではない。発明者らは、実験を繰り返すうちに、亀裂102aの長さと電波の波長に相関関係があることを見出した。
図4(a)及び(b)は、本実施の形態における探傷システム101の原理を説明するための概略図である。
図4(a)は、アンテナ103が測定対象物102に対して水平に据え置かれている状態を示す概略図である。
アンテナ103が水平偏波の電波を出力すると、電波の波長が亀裂102aの縦方向の長さに対して共振する特性を示す。上述したように、電波の偏波に対する亀裂102aの有効長が電波の波長とマッチングしていると、スロットアンテナと同様の特性を示し、入力インピーダンスに大きな変化を生じさせることができる。
一方、図4(b)は、アンテナ103が測定対象物102に対して垂直に据え置かれている状態を示す概略図である。
アンテナ103は垂直偏波の電波を出力する。すると、電波の波長が亀裂102aの横方向の長さに対して共振する特性を示す。
【0023】
電波の周波数と、電波の偏波に対する亀裂102aの有効長は、以下の式(1)で表すことができる。
f=c/2l (1)
但し、f:周波数、c:光速、l:亀裂102aの有効長
【0024】
まず、アンテナ103を水平方向に据え置いた状態で、周波数をスイープさせてアンテナ103の入力インピーダンスを計測し、その後アンテナ103を垂直方向に据え置いた状態で、周波数をスイープさせてアンテナ103の入力インピーダンスを計測する。そして、このようにして得られた周波数から、亀裂102aの縦方向の有効長と横方向の有効長を算出すると、亀裂102aの実際の長さを推定することができる。
【0025】
[動作]
図5は、本実施形態の探傷システム101の動作の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(ステップS501)、データ処理装置109はアンテナ103の現在の位置情報を取得し、ファイルに記録する(ステップS502)。
次に、データ処理装置109は周波数可変信号源107に制御信号を出力して、周波数可変信号源107を通じてアンテナ103から所望の周波数の電波を出力する。そして、その時のアンテナ103の入力インピーダンスをインピーダンス測定部108から取得してファイルに記録する。次に、データ処理装置109は周波数可変信号源107を制御して、異なる周波数の電波をアンテナ103から出力させ、同様に入力インピーダンスを取得し記録する。この動作を、周波数可変信号源107及びアンテナ103の定められた周波数可変範囲内で繰り返す(ステップS503)。つまり、アンテナ103から出力する電波の周波数をスイープさせながら、アンテナ103の入力インピーダンスを計測し、記録する。
【0026】
ステップS503の、周波数スイープを伴うインピーダンス計測動作が終了したら、データ処理装置109はモータに制御信号を出力して、アンテナ103の位置をステップ移動させる(ステップS504)。そして、データ処理装置109はアンテナ103が移動可能な範囲の終端に位置したか否かを確認し(ステップS505)、終端でなければ(ステップS505のNO)、再度ステップS502から処理を繰り返し、終端であれば(ステップS505のYES)、処理を終了する(ステップS506)。
【0027】
図4で説明したように、亀裂102aの実際の長さを推測するためには、まずアンテナ103を水平方向に据え置いて水平偏波を出力させる状態で計測を行い、その後でアンテナ103を垂直方向に据え置いて垂直偏波を出力させる状態でも計測を行って、水平方向及び垂直方向の共振周波数を見出す必要がある。
上述の処理は、アクチュエータ106を用いて行われるが、アクチュエータ106に対してアンテナ103を取り付けるクランプ部材に、ソレノイド等で固定方向を転換させる機構を設けることにより、一連の計測動作を全て自動で遂行することが可能になる。
【0028】
[実験結果]
図6と図7は、本実施形態の探傷システム101の実験結果を示すグラフである。
図6は、測定対象物102に銅板を用いて、銅板に60mmの亀裂102aを作成し、アンテナ103と銅板との距離を20mmに設定して、アンテナ103の入力インピーダンスの実部の計測を行ったグラフである。横軸は亀裂102aの位置に対するアンテナ103の相対位置であり、縦軸はアンテナ103の入力インピーダンスである。
亀裂102aの長さは60mmなので、数(1)式のl=60mmとして、理論的にはf=2.5GHzの周波数で共振する。
使用アンテナは図1及び図2で示した、広帯域のボウタイアンテナである。使用可能周波数は2〜7.5GHzの範囲である。
銅板とアンテナ103との間の距離は、前述の通り20mmである。
アンテナ103の移動範囲は亀裂102aを中心に±100mmとした。
図6から判るように、亀裂102aの共振周波数(2.5GHz)近傍の計測周波数(2.45GHz)において、大きなインピーダンス変化を生じている。
また、亀裂102aの共振周波数からやや離れている計測周波数(3.0GHz)においても、インピーダンス変化を生じている。
インピーダンス変化の極大点(2.45GHz)、極小点(3.0GHz)と亀裂102aの位置(横軸0mm)が一致していないのは、アンテナ103の取付け位置がややずれていたためと思われる。
【0029】
図7は、測定対象物102に銅板を用いて、銅板に40mmの亀裂102aを作成し、アンテナ103と銅板との距離を20mmに設定して、アンテナ103の入力インピーダンスの実部の計測を行ったグラフである。横軸は亀裂102aの位置に対するアンテナ103の相対位置であり、縦軸はアンテナ103の入力インピーダンスである。
亀裂102aの長さは40mmなので、数(1)式のl=40mmとすると、理論的には3.75GHzの周波数で共振する。
使用アンテナ103は図6と同様の、広帯域のボウタイアンテナである。
銅板とアンテナ103との間の距離は、前述の通り20mmである。
アンテナ103の移動範囲は亀裂102aを中心に±100mmとした。
図7から判るように、亀裂102aの共振周波数(3.75GHz)において、多少のインピーダンス変化を生じている。
【0030】
また、亀裂102aの共振周波数(3.75GHz)からやや離れているが、計測周波数(3.0GHz)において、大きなインピーダンス変化が生じている。
インピーダンス変化が大きく現れる周波数(3.0GHz)と、理論的な亀裂102aの共振周波数(3.75GHz)が一致していないのは、亀裂102aがドリルによる多数の丸穴を繋いで作製したものであり、亀裂102aの形状が理想的な直線でなかったためであると思われる。その結果、機械的な亀裂102aの長さより電気的な長さが長くなり、共振周波数が低下したためであろう。
また、インピーダンス変化の極大点と亀裂102aの位置(横軸0mm)が一致していないのは、アンテナ103の取付け位置がややずれていたためと思われる。
【0031】
以上、図6及び図7の実験結果より、亀裂102aの実効長と、アンテナ103の入力インピーダンスに変化が生じる電波の周波数に相関関係が認められた。
【0032】
上述の実施形態の他、以下のような応用例が考えられる。
(1)上述の実施形態では、水平偏波を出力するアンテナ103を採用し、水平偏波は水平に据え置いて出力させ、垂直偏波は垂直に据え置いて出力させていた。
もし、円偏波を出力する形態のアンテナ103を用いれば、一度のスキャンで亀裂102aの実効長に対して共振する周波数の電波を特定できるので、アンテナ103を縦方向及び横方向に固定させて二度スキャンさせる必要がなくなる。
【0033】
図8は、円偏波を出力するアンテナの一例である、クロスボウタイアンテナ装置を示す概略図である。
90°移相回路802は、図示しない信号源から供給される極超短波電流を、一方はそのまま出力し、もう一方を90°位相をずらして出力する。90°移相回路802の出力側には、第一バラン803と第二バラン804が接続されている。第一バラン803及び第二バラン804は周知の不平衡−平行変換回路である。
【0034】
クロスボウタイアンテナ805は、図1及び図2に示したボウタイアンテナのエレメントを縦と横に十字形状に設けた形態のアンテナである。横方向の給電点には第一バラン803が、縦方向の給電点には第二バラン804が、それぞれ接続されている。このため、横方向のエレメント805a及び805bと縦方向のエレメント805c及び805dには、互いに90°位相がずれた極超短波電流が供給され、結果としてクロスボウタイアンテナ805から円偏波の電波が放射される。
図1のアンテナ103をこのクロスボウタイアンテナ装置801に置換すると、計測の結果判明する電波の周波数は、アンテナ103の姿勢に対する亀裂102aの傾斜角に依存しない、亀裂102aの実効長に略一致する波長の電波になる。
【0035】
(2)アクチュエータ106は、アンテナ103をステップ移動させることのできる駆動手段であれば良いので、ステッピングモータ104とスクリューシャフト105の組み合わせに限られない。DCモータあるいはリニアモータでアンテナ103を駆動し、リニアスケールとセンサを用いて、移動距離を管理しても良い。
【0036】
(3)アンテナ103の入力インピーダンスは、実部と虚部との双方が大きく変化することが、実験で判明している。したがって、図6及び図7に示したような、入力インピーダンスの実部のみを計測するに留まらず、虚部の数値から共振周波数を割り出しても良いし、周知の定在波比(VSWR)を用いても良い。
【0037】
(4)本実施形態の金属体亀裂探傷システムでは、測定対象物102を固定させた状態でアンテナ103をアクチュエータ106で移動させたが、必要なことは測定対象物102とアンテナ103との相対位置を移動させることであるので、必ずしもアンテナ103を移動させなくとも、逆にアンテナ103を固定させた状態で測定対象物102を移動させても良い。
また、図1ではアンテナ103を測定対象物102の長手方向に移動させたが、移動する方向は必ずしも長手方向だけとは限らない。例えば、広い面積の鋼板であれば縦横に満遍なくスキャンさせる必要がある。また、金属配管の円周に沿って螺旋状に移動するロボットに、本実施形態の金属体亀裂探傷システムを搭載しても良い。
【0038】
本実施形態では、金属体亀裂探傷システム及び金属体亀裂探傷方法を開示した。
アンテナ103を水平方向に据え置いた状態で、周波数をスイープさせてアンテナ103の入力インピーダンスを計測しつつ、測定対象物102の長手方向に移動させた後、アンテナ103を垂直方向に据え置いた状態で、周波数をスイープさせてアンテナ103の入力インピーダンスを計測しつつ、測定対象物102の長手方向に移動する。これにより、アンテナの入力インピーダンスが大きく変化した位置に亀裂102aが存在することが推定できる。また、その際の電波の周波数から、亀裂102aの縦方向の有効長と横方向の有効長を算出することで、亀裂102aの実際の長さを推定することができる。更に、電波を用いているので、塩化ビニール等の絶縁体の被覆で覆われている金属配管に対しても、被覆を除去せずにそのまま計測することが可能である。
【0039】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0040】
101…探傷システム、102…測定対象物、102a…亀裂、103…アンテナ、104…ステッピングモータ、105…スクリューシャフト、106…アクチュエータ、107…周波数可変信号源、108…インピーダンス測定部、109…データ処理装置、201…基板、202…プリントパターン、202a…エレメント、203…プリントパターン、203b…バラン領域、801…クロスボウタイアンテナ装置、802…移相回路、803…第一バラン、804…第二バラン、805…クロスボウタイアンテナ、805a、805b、805c、805d…エレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと、
前記アンテナと金属の測定対象物との相対位置を変化させるアクチュエータと、
前記アンテナに接続される周波数可変信号源と、
前記アンテナと前記周波数可変信号源に接続され、前記アンテナの入力インピーダンスを計測するインピーダンス測定部と、
前記周波数可変信号源及び前記インピーダンス測定部に接続され、前記周波数可変信号源を制御して前記アンテナから複数の周波数の電波を前記測定対象物に照射し、前記インピーダンス測定部から前記アンテナの入力インピーダンス測定値を、前記電波の周波数及び前記アンテナの前記測定対象物に対する相対位置情報と共に記録するデータ処理装置と
を具備する金属体亀裂探傷システム。
【請求項2】
前記アンテナは水平偏波あるいは垂直偏波を出力し、
前記データ処理装置は、前記アンテナを前記測定対象物の走査方向及び前記走査方向と直交する方向に据え置いた状態で計測を行い、各々の計測結果から前記入力インピーダンス測定値の変化の大きい周波数を基に、前記測定対象物に形成されている亀裂の長さを推測する、請求項1に記載の金属体亀裂探傷システム。
【請求項3】
前記アンテナはボウタイアンテナである、請求項1または2に記載の金属体亀裂探傷システム。
【請求項4】
前記アンテナは円偏波を出力し、
前記データ処理装置は計測結果から前記入力インピーダンス測定値の変化の大きい周波数を基に、前記測定対象物に形成されている亀裂の長さを推測する、請求項1に記載の金属体亀裂探傷システム。
【請求項5】
アンテナの、測定対象物に対する相対的な位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
前記アンテナに複数の周波数の信号を供給し、夫々の周波数における前記アンテナの入力インピーダンスを計測して、前記周波数と前記位置情報と共に記録するインピーダンス計測ステップと、
前記アンテナの、前記測定対象物に対する相対的な位置を移動するアンテナ移動ステップと
を有する金属体亀裂探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−137360(P2012−137360A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289396(P2010−289396)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月27日 社団法人計測自動制御学会計測部門発行「第27回センシングフォーラム −センシング技術の新たな展開と融合− 資料」 平成22年12月10日 日本AEM学会発行「日本AEM学会誌 Vol.18,No.4(2010)」
【出願人】(508324433)財団法人大分県産業創造機構 (17)