説明

金属又は金属酸化物のナノ粒子を内包するピーポッド型有機ナノチューブ

【課題】 有機ナノチューブの中空内に、金属又は金属酸化物のナノ粒子を内包するピーポッド型有機ナノチューブを、低コストで簡単に製造することが可能となる方法を提供する。
【解決手段】 有機ナノチューブを形成する両親媒性分子として、下記の一般式(1)で表されるN−グリコシド型糖脂質を用いるものであって、水に、ナノ粒子、及び該有機ナノチューブを混合し、ナノ粒子の表面電位を電荷0点付近まで下げて攪拌することによりナノ粒子を内包したピーポッド型有機ナノチューブが製造される。
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の不飽和炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属又は金属酸化物のナノ粒子を内包する有機ナノチューブの製造方法及び該方法により製造された、金属又は金属酸化物のナノ粒子を内包する有機ナノチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料や電池電極材料や水素吸蔵などの次世帯ナノデバイス材料の1つとして、金属や金属酸化物の一次元的な配列の研究は近年盛んに行われている。そして、医療、健康、食品、衛生、農業分野においては薬剤、香料、風味成分など有効成分の安定保存、放出濃度制御がきわめて重要な課題である。その解決法として種々の基質をチューブ構造の無機材料又は有機材料へ内包化し、該基質を徐放させる研究がされ、今日までに数多く実用化されている。
【0003】
その中で、異元素を内包するカーボンナノチューブの製造方法として、炭素以外の異元素を触媒またはそれ以外の異元素として混入させる方法、又はカーボンナノチューブの先端部を化学または物理処理によって除去し、ここから異元素を導入する手法が紹介されている(特許文献1)。しかしながら、これらの方法では、異元素を内包するカーボンナノチューブの割合を制御することは困難であり、また、ナノチューブの先端部を除去して導入するなどの工程を必要とするなど、その工程が複雑であることから、工業的レベルでの大量生産技術としてコストが高いことが課題となっている。
【0004】
一方、有機ナノチューブは、自己組織化分子により生成する中空の内部を持つ円筒型構造の材料であり、ナノサイズの1次元構造は、異方性を持つコンポジットのためのテンプレートとして用いられている。そして、ナノチューブが中空構造を持つ点を利用し、この中空内に有機又は無機の異元素を含む異元素内包有機ナノチューブが知られている。
【0005】
本発明者らは、これまでに、ペプチド脂質を用いて同様の性質をもつ中空繊維状有機ナノチューブを簡便且つ大量に合成できることを見いだしている(特許文献2)。また、この有機ナノチューブのチューブ構造からなる毛細管現象を利用して、チューブの中空に金属ナノ粒子やタンパク質を導入できることも見いだしている(非特許文献1、特許文献3)。しかしながら、該方法で製造された異原子内包有機ナノチューブは、異元素を内包するナノチューブの割合が少なく、また、毛細管現象のみを利用して内包するため、異元素を内包する有機ナノチューブを得るためには、有機ナノチューブ内の水分を完全に除去するための凍結乾燥が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−201715号公報
【特許文献2】特開2008−30185号公報
【特許文献3】特開2004−261885号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Bo, S.Kamiya, Y.Shimizu, N.Koshizaki, T.Shimizu, Chem.Mater.,2004,16,2826
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、低コストで簡単に、金属又は金属酸化物を内包するナノサイズの直径を持つ長い有機ナノチューブ(以下、「ピーポット(peapod)型有機ナノチューブ」という。)を製造することができる新しい技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、溶液中で作製または分散したナノ粒子を有機ナノチューブへ導入する条件を見出し、本発明を導き出した。
すなわち、本発明者らは、有機ナノチューブの中空内へ効率的に金属又は金属酸化物のナノ粒子を内包させるために電気的な力を利用することを検討し、水に、ナノ粒子及び有機ナノチューブを分散させた後、分散液のpHを、ナノ粒子の表面電荷ゼロ点(point of zero charge=pzc、または、zero charge point=zcp)付近まで下げることにより、高い割合で金属又は金属酸化物を内包するピーポッド型有機ナノチューブを作製できることが判明した。また、得られた、金属又は金属酸化物のナノ粒子が内包されたピーポッド型有機ナノチューブの分散液を用いて、簡便な方法で、金属又は金属酸化物からなるナノ粒子の、異方性を有する一次元的な配列(いわゆるナノワイヤー)を製造しうることを見いだしたものである。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]水に、金属又は金属酸化物のナノ粒子、及び下記の一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質からなる有機ナノチューブを分散させた後、該分散液のpHをナノ粒子の表面電荷ゼロ点の付近に調整し、撹拌することにより、該ナノ粒子をチューブの中空内に内包させること特徴とする、金属又は金属酸化物を内包するピーポッド型有機ナノチューブの製造方法。
[1]水に、金属又は金属酸化物のナノ粒子、及び下記の一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質からなる有機ナノチューブを分散させた後、該分散液のpHをナノ粒子の表面電荷ゼロ点の付近に調整し、撹拌することにより製造された、金属または金属酸化物のナノ粒子が内包されたピーポッド型有機ナノチューブ。
[3]上記[2]に記載の金属または金属酸化物のナノ粒子が内包されたピーポッド型有機ナノチューブを、液中に分散させたピーポッド型有機ナノチューブの分散液。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の、内包材である有機ナノチューブを凍結乾燥させて中空内の水分を完全に除去するという工程を必要とせず、水に、ナノ粒子と有機ナノチューブを分散させるだけで、簡単にかつ高い割合でピーポッド型有機ナノチューブを得ることができる。また、得られたピーポッド型有機ナノチューブの分散液を、基板上に塗布、乾燥し、焼成するという簡単な工程により、異方性を有するナノワイヤーの作製が可能であり、さらに、有機や無機材料を複合することで内外側の特性が異なる機能性コンポジットを作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の概念図(a)及び電荷ゼロ点との関係を示す図(b)
【図2】実施例2で得られたマグネタイトが内包したピーポッド型有機ナノチューブの透過型電子顕微鏡。
【図3】比較例1で得られた有機ナノチューブの透過型電子顕微鏡写真。
【図4】比較例2で得られた有機ナノチューブの透過型電子顕微鏡写真。
【図5】応用例で得られたナノワイヤーの走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1(a)は、本発明の方法を説明するための概念図である。
図1(a)に示すように、本発明のピーポッド型有機ナノチューブの製造方法は、水に、金属又は金属酸化物のナノ粒子、及び有機ナノチューブを分散させた後、該分散液のpHをナノ粒子の表面電荷ゼロ点の付近に調整し、撹拌することにより、有機ナノチューブの中空内に、表面電位がゼロ付近である金属又は金属酸化物のナノサイズの粒子を内包させてピーポッド型の有機ナノチューブとすることを特徴とするものである。
【0014】
本発明において、ナノ粒子の内包材として用いる有機ナノチューブは、−OH基を持つ親水基Aと疎水基Bの両方を分子内に持ち、一般式A−Bで表される両親媒性化合物を自己集合して作製する。このような該両親媒性物質の親水部Aは、単糖や複糖で、好ましくは単糖で、より好ましくはグルコースである。また、疎水部Bは、飽和もしくは不飽和のアルキルまたは芳香族やその他の元素を含んでも良いが、好ましくは炭素鎖が10〜24の飽和もしくは不飽和の脂肪族基である。
【0015】
特に、分子構造内にアミドなど分子間相互作用を引き起こす官能基を有し、これが隣接する両親媒性物質と水素結合などを介して安定な結晶性の分子膜を形成するものがよく、具体的には、前記A−Bで表される化合物としては、上記特許文献2等において、有機ナノチューブの原料として用いられるところの、下記一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質が用いられる。
【0016】
一般式(1)中のGは、糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、この糖としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、セロビオース、及びキトビオースが挙げられ、好ましくはグルコピラノースである。この糖は単糖又はオリゴ糖、好ましくは単糖である。この糖残基はD、L型、ラセミ体のいずれであってもよいが、天然由来のものは通常D型である。さらに、アルドピラノシル基においては、アノマー炭素原子は不斉炭素原子であるので、α−アノマー及びβ−アノマーが存在するが、α−アノマー及びβ−アノマー及びそれらの混合物のいずれであってもよい。とくにGがD−グルコピラノシル基、D−ガラクトピラノシル基、特にD−グルコピラノシル基であるものが、原料の入手の点で容易で製造しやすいので好適である。
【0017】
また、上記一般式(1)中のRは、飽和もしくは不飽和の炭化水素基であり、好ましくは直鎖であり、更に好ましくは不飽和結合として3個以下の二重結合を含む炭化水素基である。また、Rの炭素数は10〜24であり、好ましくは11〜19、より好ましくは17である。このような炭化水素基としては、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘネイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、及びオクタコシル基など、及びこれらに不飽和結合としてモノエン、ジエン又はトリエン部分などを含むものが挙げられる。
【0018】
本発明の上記一般式(1)で表される有機ナノチューブは、上記一般式(1)のN−グリコシド型糖脂質をアルコール又は水に溶解し、自己集合することより得られるものであって、内径が10〜5000nm、長さが20〜100μmであることを特徴としている。
【0019】
また、本発明のナノ粒子を内包するピーポッド型有機ナノチューブにおいて、コアとなるナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、鉄(Fe)などの金属、又は酸化亜鉛(ZnO)、マグネタイト(Fe)、二酸化チタン(TiO)などの金属酸化物の粒子で、その直径が500nm以下のナノサイズであり、攪拌することによりある程度水に分散できるものである。
【0020】
本発明では、有機ナノチューブの中空内に効率的にナノ粒子を内包させるために電気的な力を利用した。一般的に、分散されている粒子は表面がプラスかマイナスの電荷に帯電する。そして、粒子表面がプラスにもマイナスにも帯電しない場合もある。これが電荷ゼロ点(point of zero charge=pzc、または、zero charge point=zcp)であり、普通は対応する水素イオン指数(pH)で表する。この値は物質によっていろいろで、シリカ(SiO)では酸性側(pH=4附近)、アルミナ(Al)では塩基性側(pH=9〜10)にあることはよく知られている。その他、金属酸化物の材料の電荷ゼロ点を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
ナノ粒子や有機ナノチューブの表面電位は、酸又は塩基滴定溶液を用いて調整し、ゼータ電位測定機器を利用して表面電位の値を求める。表面電位が同じ電荷を持っているpH領域では、有機ナノチューブとナノ粒子がお互いに反発する力が強いので、ナノ粒子がチューブ内に内包させにくい。そして、表面電位が異なっても表面電位値の差が大きい際は、チューブの中に入った粒子がある深さで凝集して粒子が長く並べられなくなる問題が起きる。したがって、ナノ粒子がナノチューブの中に内包するための表面電位は有機ナノチューブと異なる表面電位を持って、その値が小さい必要がある。ナノ粒子が有機ナノチューブに内包されるのに必要な表面電位の差は、40mV以下であるが、好ましくは20mV以下である。
【0023】
図1(b)は、ナノ粒子の電荷ゼロの点と、ナノ粒子が内包された有機ナノチューブの製造との関係を示す図であって、ナノ粒子の電荷ゼロの点が、pH6.0付近にある場合の例を示している。
図に示すように、分散液のpHが、2〜3では、ナノ粒子及び有機ナノチューブの表面電位は、いずれも+であって、前述のとおり、有機ナノチューブとナノ粒子がお互いに反発する力が強いので、ナノ粒子がチューブ内に内包されにくい。
pHをあげていくと、有機ナノチューブの表面電位は−となり、反発がなくなるが、ナノ粒子との表面電位の差が大きいうちは、チューブの中に入った粒子がある深さで凝集して、入り口付近にとどまることとなる。
さらにpHをあげて、ナノ粒子の表面電位ゼロとなるpH6.0付近になると、ナノ粒子と有機ナノチューブとは異なる表面電位を持つが、その表面電位差が小さく、ナノ粒子は有機チューブの中空内に内包される。
さらにまたpHを上げると、ナノ粒子と有機ナノチューブの表面電位が同じ電荷を持つようになり、有機ナノチューブとナノ粒子がお互いに反発する力が強いので、ナノ粒子がチューブ内に内包されにくい。
【0024】
分散液のpH調整に用いられる電解質としては、一般に使用されているものであれば如何なるものでもよく、例えば硫酸、ホウ酸、塩酸、酒石酸、乳酸、酢酸等の酸、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、無機アンモニウム塩等の無機塩類、例えばスルホニウム塩、オキソニウム塩、有機アンモニウム塩等の有機塩類が挙げられ、代表的な具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、過炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトライソプロピルアンモニウム、過塩素酸テトラヘキシルアンモニウム、塩化アンモニウム、過塩素酸ルビジウム、過塩素酸セシウム、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ヘキサフルオロ燐酸アンモニウム、テトラフルオロ燐酸テトラメチルアンモニウム、フタル酸水素カリウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸二水素カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸セシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、テトラブリルアンモニウムヒドロキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、メタンスルホン酸ナトリウム、グリシン、クエン酸ナトリウム、ほう砂等が挙げられる。
【0025】
ナノ粒子の分散の手段としては、マグネチック攪拌、ホモジナイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、ボールミルなどが挙げられるが、より好ましくはアルティマイザー、超音波ホモジナイザーである。
ナノ粒子を内包した有機ナノチューブは、ナノ粒子分散液に有機ナノチューブを添加し、pHを調整し、攪拌することで得られる。
本発明において、ナノ粒子と有機ナノチューブの重量比は、分散液中で攪拌が出来る濃度であれば特に限定されないが、好ましくは、1:0.0001〜1:10である。
【0026】
さらに、本発明において、ナノ粒子として用いる金属又は金属酸化物は、市販のものを用いてもよいが、例えば、後述する実施例2のマグネタイトのように、公知の方法でナノ粒子を合成した後、得られた合成ナノ粒子の分散液に有機ナノチューブを混合することによっても、ナノ粒子が内包したピーポッド型有機ナノチューブを製造することできることはいうまでもない。
【0027】
また、本発明の方法により得られた、金属又は金属酸化物のナノ粒子が内包したピーポッド型有機ナノチューブの分散液は、従来のような凍結乾燥をすることなく、単に乾燥するだけで、金属又は金属酸化物のナノ粒子が内包した有機ナノチューブを得ることができる。
さらに、本発明の方法により得られた、金属又は金属酸化物のナノ粒子が内包したピーポッド型有機ナノチューブの分散液を、シリコンなどの基板上に滴下して、乾燥させた後、焼結することにより有機物質を除去し、基板上に、ナノ粒子の、異方性を有する一次元的な配列、いわゆるナノワイヤーを形成することが可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〈使用した有機ナノチューブ〉
本実施例では、有機ナノチューブとして、1−アミノグルコピラノシドとオレイン酸がアミド結合により連結した次式
【化1】

で表される化合物を60℃のメタノールに溶かし、自己集合させた後、真空でメタノールを蒸発させることにより得られた、内径80〜200nm、長さ200〜60μmの有機ナノチューブ(有機ナノチューブ1とする。)を用いた。
【0029】
(実施例1:マグネタイトが内包した有機ナノチューブの作製)
市販のマグネタイト粒子(Aldrich製、一次粒子として粒径約20nm)を0.01gはかり取り、蒸留水10mLを加えて超音波ホモジナイザーを用いて分散した。それに、上記有機ナノチューブ1を0.1gはかり取り、均一にしてからアンモニアを添加してpHを6に調整した。水分散液を3日間攪拌し、マグネタイトが内包したピーポッド型有機ナノチューブの水分散液を得た。
透過型電子顕微鏡の観察より、マグネタイトのナノ粒子が有機ナノチューブ内に内包されたことを確認した。
【0030】
(実施例2:マグネタイトの合成からなるマグネタイトが内包した有機ナノチューブの作製)
100mLのフラスコに塩化第一鉄0.5mmol、塩化第二鉄1mmolをはかり取り、蒸留水5mLを加えて溶解し、フラスコ中の空気を窒素で置換した。それに、1.5Mのアンモニア水溶液50mLを約30分間ゆっくり添加した。アンモニアの添加後、反応溶液を50℃に加熱した後、上記有機ナノチューブ1を0.4gはかり取り、フラスコに添加した。約30分攪拌後、0.1Mの塩酸を加えてpHを6まで下げた。この水分散液を3日間攪拌し、マグネタイトが内包したピーポッド型有機ナノチューブの水分散液を得た。
図2に示すように、透過型電子顕微鏡の観察より、ナノ粒子が有機ナノチューブ内に内包されたことを確認した。
【0031】
(比較例1:pH8で実施例2の実験を行った場合)
100mLのフラスコに塩化第一鉄0.5mmol、塩化第二鉄1mmolをはかり取り、蒸留水5mLを加えて溶解し、フラスコ中の空気を窒素で置換した。それに、1.5Mのアンモニア水溶液50mLを約30分間ゆっくり添加した。アンモニアの添加後、反応溶液を50℃に加熱した後上記有機ナノチューブ1を0.4gはかり取り、フラスコに添加した。約30分攪拌後、0.1Mの塩酸を加えてpHを8まで下げた。3日後、透過型電子顕微鏡の観察より確認したところ、マグネタイトのナノ粒子は、チューブの開口端部に集まっており、ナノ粒子がチューブの中空内に内包されたピーポッド型有機ナノチューブは見つからなかった。(図3)
【0032】
(比較例2:pH5で実施例2の実験を行った場合)
100mLのフラスコに塩化第一鉄0.5mmol、塩化第二鉄1mmolをはかり取り、蒸留水5mLを加えて溶解し、フラスコ中の空気を窒素で置換した。それに、1.5Mのアンモニア水溶液50mLを約30分間ゆっくり添加した。アンモニアの添加後、反応溶液を50℃に加熱した後上記有機ナノチューブ1を0.4gはかり取り、フラスコに添加した。約30分攪拌後、0.1Mの塩酸を加えてpHを5まで下げた。
3日後、透過型電子顕微鏡の観察より確認したところ、ナノ粒子が内包された有機ナノチューブは見つかったが、内包されたナノ粒子の量が多くはなかった。(図4)
【0033】
(応用例:実施例2の有機ナノチューブからなるナノワイヤーの作製)
実施例2で得られた、マグネタイトのナノ粒子が内包された有機ナノチューブの分散液を、シリコンウェハーに滴下し、乾燥させた後、約300℃で30分間焼成した。
その結果、図5に示すとおり、走査型電子顕微鏡により、ナノ粒子の、異方性を有する、一次元的な配列(ナノワイヤー)が観察された。なお、図中、左上の図は、四角で囲んだ中央部の拡大図である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
金属又は金属酸化物のナノ粒子は、量子ドット、DDS、磁気医療やバイオセンサ材料として有望であり、これらの粒子を一次元に配列することで材料光学、医療分野で適用範囲が大きく広がると期待できる。本発明により、ソフトの有機ナノチューブ内に金属又は金属酸化物のナノ粒子の内包がしやすくなり、電子材料や電池電極材料や水素吸蔵などの次世帯ナノデバイス材料および、DDS、磁気医療やバイオセンサ材料への実用化が高くなると期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に、金属又は金属酸化物のナノ粒子、及び下記の一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質からなる有機ナノチューブを分散させた後、該分散液のpHをナノ粒子の表面電荷ゼロ点の付近に調整し、撹拌することにより、該ナノ粒子をチューブの中空内に内包させることを特徴とする、金属又は金属酸化物を内包するピーポッド型有機ナノチューブの製造方法。
【請求項2】
水に、金属又は金属酸化物のナノ粒子、及び下記の一般式(1)
G−NHCO−R (1)
(式中、Gは糖のアノマー炭素原子に結合するヘミアセタール水酸基を除いた糖残基を表し、Rは炭素数が10〜24の炭化水素基を表す。)
で表わされるN−グリコシド型糖脂質からなる有機ナノチューブを分散させた後、該分散液のpHをナノ粒子の表面電荷ゼロ点の付近に調整し、撹拌することにより製造された、金属または金属酸化物のナノ粒子が内包されたピーポッド型有機ナノチューブ。
【請求項3】
請求項2に記載の金属または金属酸化物のナノ粒子が内包されたピーポッド型有機ナノチューブを、液中に分散させたピーポッド型有機ナノチューブの分散液。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40631(P2012−40631A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182676(P2010−182676)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】