説明

金属層を少なくとも2層有する金属複合線

【課題】いろいろな用途で良好な電気特性と高い機械的強度、特に高い引張り強度を示しかつ逆曲げ応力下で高い疲労強度を満足させる金属複合線を提供する。
【解決手段】金属層を少なくとも2層有する金属複合線であって、1つの層、好適には内側の層は非鉄金属合金で構成され、そして2番目の層、好適には最も外側の層は銅で構成される。銅で構成させる層の、本複合線の総断面積に占める比率を好適には20−80%、より好適には65−70%にする。銅の面積比をそのような範囲内にすると、好ましい機械的特性と電気的特性の両方を達成することが可能になりかつまた上述したように本複合線にさらなる加工を受けさせることも容易になり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層を少なくとも2層有する金属複合線に関する。
【背景技術】
【0002】
いろいろな用途で良好な電気特性、即ち低い抵抗値と高い機械的強度、特に高い引張り強度を示しかつ逆曲げ応力下で高い疲労強度を示す導電体および線が要求されている。そのような導電体および線は追加的に耐食性も示すべきである。
【0003】
公知製品はCCS(銅覆鋼)複合線、CCA(銅覆アルミニウム)複合線、ACS(アルミニウム覆鋼)複合線、ICN(鉄覆ニッケル)複合線およびまたジュメット複合線(銅覆FeNi42/47)であるが、それらはしばしば充分な耐食性を示さずかつ必要な機械的特性も示さない。それらは、鋼、FeNi42/47、高純度のニッケルもしくはアルミニウムで作られた中心線を有しかつ銅、アルミニウムまたは鉄で作られた層で被覆されている複合線である。この種類の中心線は、腐食性媒体、例えば海水などにさらされると非常に急速に腐食を起こし、このことは、この種類の複合線をいろいろな用途で用いるのは不可能であることを意味する。CCA複合線は更に強度が低いと言ったさらなる欠点も有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、序論に示した要求をできるだけ有効に満足させる金属複合線を提供すると言った目的が基になっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に示す特徴を持たせた金属複合線で本目的を達成する。
【発明の効果】
【0006】
非鉄金属合金を少なくとも1つの層に使用しかつ2番目の層として好適には銅を用いると、序論で述べた要求を満足させる複合線を生じさせることができる。より具体的には、前記合金と2番目の層(好適には銅層)が互いに引張り強度、逆曲げ応力下の疲労強度およびまた導電性も充分に高いような様式で協調し得る。また、個々の層の間の良好な結合を達成することも可能であり、このことは、当該複合線が示す引張り特性にとって重要である。合金用成分を選択することで、また、腐食性媒体、例えば塩含有水性媒体など中で示す耐食性を高くすることも可能であり、その理由は、特に、その2つの個々の構成要素の各々が高い耐食性を示すばかりでなくまた両方の構成要素が電気化学系列の中で互いに近いことを確認することができ、従って、電解質の存在下でも腐食に対する感受性が非常に低いことにある。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の好適な態様では、そのような非鉄金属合金で構成させる1つの層を内側層にしそして1つの外側層を銅層にする。このような態様の利点は、導電体または線を銅線と接続する電気的接続部、ケーブルクランプなどとつなげる目的で用いられる技術を形態を変えないで更に用いることができる点にある。
【0008】
Cuで構成させる層の、本複合線の総断面積に占める比率を好適には20−80%、より好適には65−70%にする。Cuの面積比をそのような範囲内にすると、好ましい機械的特性と電気的特性の両方を達成することが可能になりかつまた上述したように本複合
線にさらなる加工を受けさせることも容易になり得る。
【0009】
本発明に従う金属複合線に持たせる断面を好適には円形にする、と言うのは、そのような断面形態が非常に頻繁に用いられるからである。この場合には、中心層を非鉄金属合金で構成させそして最も外側の層を銅で構成させるのが好適である。この種類の複合線を用いると前記要求を特に有効に満足させることができる。
【0010】
しかしながら、また、他の断面形態も考えられ、例えばフラットまたはプロファイルワイヤーおよびまたストリップなどの形態も考えられる。
【0011】
本発明に従う金属複合線を好適には自動車を製造する時の信号線として用い、従って、それの断面積を好適には0.05から0.5mmにする。
【実施例】
【0012】
前記非鉄金属合金は好適には下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 3.0%から28%
Fe 1.5%から15%
Mn 1.5%から10%
Cu 残り
で含有しかつ前記選択した量の合計が100重量%である合金である、と言うのは、その指定した成分を指定した範囲で有する合金は序論に示した要求を特に有効に満足させるからである。
【0013】
前記非鉄金属合金は特に好適には下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 5.0%から20%
Fe 2.0%から12%
Mn 2.0%から8%
Cu 残り
で含有しかつ前記選択した量の合計が100重量%である合金である。
【0014】
前記非鉄金属合金は非常に特に好適には下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):Ni 6.0%から13%
Fe 2.1%から8%
Mn 2.5%から6%
Cu 残り
で含有しかつ前記選択した量の合計が100重量%である合金である。
【0015】
本発明の特に好適な典型的態様における非鉄金属合金は、下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 7.620%
Fe 3.570%
Mn 3.760%
C 0.002%
Si 0.023%
Mg 0.015%
Ti 0.310%
S 0.007%
P 0.002%
Cu 84.691%
で含有する合金である。
【0016】
この種類の複合線は下記の機械的値を示す:
− ソフトアニールを受けた(soft−annealed)状態で非常に良好な延性(焼きなましを700℃で受けた後の破壊時伸びA200=27%)を示すと同時に比較的低い強度(370MPa)および降伏強度(220MPa)を示し、
− 硬延伸を受けた(hard−drawn)状態で低い延性(A200=1%)を示すが、従って高い強度(640MPa)および降伏強度(600MPa)を示す。
【0017】
本複合線の2つの構成要素がソフトアニールされた状態または冷間加工硬化状態のいずれかの状態の時には達成不可能であるが、特に本複合線の外側に位置するCuのみがソフトアニールを受けていて内側の中心部が再結晶化を受けていない時に達成可能な良好な全体的腐食特性ばかりでなくまた機械的値も要求する用途が存在する。
【0018】
これは、固定式焼きなまし(T=200−500℃)またはインライン焼きなまし(伝導、誘導など)のいずれかを直径に応じた速度および温度で行うことで達成可能であり、これらの工程の両方を非酸化雰囲気中で行う。
【0019】
一方の構成要素が軟質でありかつもう一方の構成要素が硬質である前記例に従う構成要素を持たせた複合線は下記の機械的値を示す(外径0.40または0.50mm):
強度=450MPa、降伏強度=350MPa、A200=12%。
【0020】
それに必要な前提条件は、本複合線に含める2つの構成要素の間の金属接着が卓越していることにあるが、これは本発明を用いることで達成可能である。従って、前記2構成要素が「互いに助力」し得、従って、その2構成要素が示す機械的値の平均をもたらすことができることに加えて当該材料を選択しかつそれらの体積比を選択することでそれを目標様式で設定することも可能である。
【0021】
破壊時伸びは例えば逆曲げ応力下の疲労強度などと相互に関係していることから、硬質と軟質の構成要素を有する前記種類の複合線では、また後者も目標様式で設定することができる。この上に示した例では、直径が0.40または0.50mmの裸の複合線が破断を起こすまでの曲げ(10mmのマンドレル上で200gの負荷重量を用いて180゜まで1分当たり60回のサイクルで曲げる)の回数は大幅に>300であることで逆曲げ応力下で示す疲労強度は高い。
【0022】
2種類以上の構成要素を持たせる本複合体に含める構成要素の選択に応じて、これらの構成要素が示す再結晶化温度が充分に異なる限り、1つの内側の構成要素にもまた場合によりソフトアニールを受けさせてもよい一方でその他の構成要素は変形し難いままにする。
【0023】
この上に示した例に従う複合線が示す電気抵抗値は0.026オームmm/mであり、これは約38.5S.U.(ジーメンス単位)、従って約65%IACS、即ち銅が示す導電率の約65%に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この上に示した例に従って内部が硬質である変形の構成要素を持たせた本複合線は、そのような腐食特性、電気的特性および機械的特性の組み合わせを有することから、例えばケーブルおよび線に入れる導電体などとして使用可能であり、好適にはシグナル電流(低電流強度)を伝えかつ導電体が接触領域の中で攻撃性媒体(例えば噴霧塩水)にさらされることを排除することができない導電体として使用可能である。
【0025】
本複合線は延性体または固体のいずれかであるばかりでなくまた両方の特性の組み合わせも有することから、これはまた個別の導電体の形態で断面積が比較的大きい網組Cu線の代替品として用いるにも適し、これは同時に要求される導電性、充分な延性(例えば逆曲げ応力下の疲労強度)および比較的大きな断面を有する網組Cu線のそれに匹敵する強度/降伏強度を維持する。
【0026】
このように、例として、0.50mmの外径/0.22mmの断面積を有する前記種類の複合線は、総断面積が0.50mmの網組Cu線の代替品として用いるに適し、0.40mmの外径/0.13mmの断面積を有する前記種類の複合線、または0.30mmの外径/0.07mmの断面積を有する前記種類の複合線でさえ、例えば総断面積が0.35mmの網組Cu線の代わりになり得る。
【0027】
それによって、材料、空間および重量を実質的に節約することが可能になり、これはいろいろな用途にとって利点になる。
【0028】
断面積が≦0.50mmの場合には、また、一般に網組Cu線もしくは網組線の接触末端部の所に長期の破壊的影響(連結/クリンプ連結の緩み)も起こる。個々の線を用いるとそのような影響は見られず、このことは、個々の線の方が網組線よりも更に大きく有利であることに相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層を少なくとも2層有する金属複合線であって、少なくとも1つの層が非鉄金属合金であることを特徴とする金属複合線。
【請求項2】
1つの外側層が銅で構成されていることを特徴とする請求項1記載の金属複合線。
【請求項3】
前記非鉄金属合金で作られている1つの層が内側層であることを特徴とする請求項1または2記載の金属複合線。
【請求項4】
前記銅で作られている層の、当該複合線の総断面積に占める比率が20−80%、好適には65−70%であることを特徴とする請求項1から3の1項記載の金属複合線。
【請求項5】
丸い断面を有することを特徴とする請求項1から4の1項記載の金属複合線。
【請求項6】
最も内側の層が非鉄金属合金で構成されておりかつ最も外側の層が銅で構成されていることを特徴とする請求項5記載の金属複合線。
【請求項7】
0.05から0.50mmの断面積を有することを特徴とする請求項1から6の1項記載の金属複合線。
【請求項8】
前記非鉄金属合金が下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 3.0%から28%
Fe 1.5%から15%
Mn 1.5%から10%
Cu 残り
で含有しかつ前記選択した量の合計が100重量%であることを特徴とする請求項1から7の1項記載の金属複合線。
【請求項9】
前記非鉄金属合金が下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 5.0%から20%
Fe 2.0%から12%
Mn 2.0%から8%
Cu 残り
で含有しかつ前記選択した量の合計が100重量%であることを特徴とする請求項8記載の金属複合線。
【請求項10】
前記非鉄金属合金が下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 6.0%から13%
Fe 2.1%から8%
Mn 2.5%から6%
Cu 残り
で含有しかつ前記選択した量の合計が100重量%であることを特徴とする請求項9記載の金属複合線。
【請求項11】
前記非鉄金属合金が下記の成分を以下に示す量(重量%で表す):
Ni 7.620%
Fe 3.570%
Mn 3.760%
C 0.002%
Si 0.023%
Mg 0.015%
Ti 0.310%
S 0.007%
P 0.002%
Cu 84.691%
で含有することを特徴とする請求項10記載の金属複合線。
【請求項12】
前記銅で作られている外側層がソフトアニールされているが、前記非鉄金属合金で作られている内側層が再結晶化を受けていないことを特徴とする請求項1から11の1項記載の金属複合線。

【公開番号】特開2009−289746(P2009−289746A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124392(P2009−124392)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(509143985)ゲバウアー・ウント・グリラー・メタルベルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (1)
【Fターム(参考)】