説明

金属帯のエッジ処理方法

【課題】スリット時に形成されたバリや角を、金属帯の幅にバラツキがあっても常に金属ロールを任意の一定な圧力で金属帯に当てることにより、安定して除去する方法を提供する。
【解決手段】スリッターによりスリットした金属帯を一対の金属ロールの間を通して金属帯の長手方向全域の板両側エッジ部を板幅方向に圧下することによりスリット時に形成されたバリや角を潰す処理を施す際に、一対の金属ロールの一方に加圧手段を設け、前記金属ロールを常に一定な圧力で被処理金属帯の両側に押し当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板その他の金属帯の切断およびせん断により発生した角およびバリを、ロールを用いて角およびバリのない端面にするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、冷延鋼板等、冷間圧延された幅広の金属帯1は、スリッター2により所定幅にスリットされ(図1参照)、また不用な端部が取り除かれて、各種用途に供されている。
金属帯1をスリッター2によりせん断した場合、図1に見られるように、長手方向全域の両側端エッジ部に鋭利なバリ3や角4が発生する。このバリや角は素手で触れる可能性がある場合には危険である。また、ゴムや樹脂などの軟質な材料と接しているような使用形態の製品では、上記バリや角がゴムや樹脂を傷付けたり破断させたりして、当該製品の機能低下や破壊を招いている。さらに、例えば電磁鋼板では、バリは積層鉄心を電気的に短絡させ、磁気的特性を低下させる原因にもなっている。
【0003】
このため、バリや角そのものの発生を抑制したせん断方法の開発や、スリット後の側端部にグラインダー等による研削やロール成形等の後処理を施すことによりバリや角を除去する作業が行われている。
例えば、特許文献1では、バリを出さないせん断方法として、せん断を行おうとする金属帯を一段のせん断変形で切り離してしまわず、互いに逆方向の二段のせん断変形で切り離す方法が提案されている。
特許文献2では、溝を設けたロールを幅方向から押し当ててエッジ部を加工しバリや角を無くす方法が提案されている。
また、特許文献3では、2個一組のV型溝を設けたロールを複数組配置し、各組のロールの両側に加圧機構を設けたエッジロール加工装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2857287号公報
【特許文献2】特開平7−251224号公報
【特許文献3】特公平8−2473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された手段でせん断した場合、バリの発生は抑えられるが、素材の材料特性や板厚によってはせん断端面には角が発生してしまい、ゴムや樹脂などと接しているような形態の製品に用いると、前記したようなゴムや樹脂に疵を付けるといった問題点は解消できない。
一般的にスリットされた金属帯のエッジ部のバリや角を処理する方法として、一対の金属ロールを金属帯に圧下する方法が多く用いられる(図2)が、金属帯の板幅がスリットによりバラツキがある場合、板幅が狭いところでは金属ロールが金属帯に接せず、バリや角の処理が不十分となる。また板幅が広いところでは金属ロールの圧下が大きくなり、金属帯の板厚方向に曲がりが生じてしまう(図3)。
【0006】
また特許文献2で提案された方法は、金属帯エッジに金属ロールを両エッジからバネで押し付けているため、金属帯の板幅のバラツキに金属ロールが追従するが、バネの強度によって金属ロールの圧下力が決められているため、圧下力の微調整を行うことができない。また金属帯を通板中に圧下力を変化させることもできないなどの問題がある。
特許文献3で提案された装置は、2個一組のV型溝を設けたロールを複数組配置し、各組のロールの両側に加圧機構(油圧シリンダー)を設けているため、圧下力の微調整も行え、金属帯を通板中に圧下力を変更することも可能である。しかし、金属帯の両側エッジに圧下する一対のロールを圧下方向に作動させる油圧シリンダーが同時にかつ同じ速度で動かない場合、金属帯の中心がラインの中心から外れ、エッジ加工後の金属帯に板幅方向の曲がりが発生してしまう。さらにロールが複数段ある場合は複数段のロールが全て金属帯を圧下した状態で、金属帯の中心が走行ラインの中心になるように、油圧シリンダーが作動しなければ、通板中に金属帯が幅方向に蛇行することになる。油圧サーボ機構を設けることで各油圧シリンダーを制御することも可能であるが、設備コストが増大し、維持管理にも多大な労力が必要となる。
【0007】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、スリット時に形成されたバリや角を、金属帯の幅にバラツキがあっても常に金属ロールを任意の一定な圧力で金属帯に当てることにより、曲がりなどが発生することなく安定して除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属帯のエッジ処理方法は、その目的を達成するため、スリッターによりスリットした金属帯を一対の金属ロールの間を通して金属帯の長手方向全域の板両側エッジ部を板幅方向に圧下することによりスリット時に形成されたバリや角を潰す処理方法であって、一対の金属ロールの一方に加圧手段を設け、前記金属ロールを常に一定な圧力で被処理金属帯の両側に押し当てることを特徴とする。
一定な圧力は、空気圧シリンダーもしくは油圧シリンダーにより調整することが好ましい。
そして、一対の金属ロールとしては、金属帯当接面にV型の溝を設けたものを用いることが好ましい。
さらに、複数段並べた一対の金属ロールの間を通すことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スリットされた金属帯の両端エッジ部に形成されているバリや角を、一対の金属ロールの一方に設けた加圧手段により、金属ロールの他方を金属帯の位置基準として一定な圧力に保持された一対のロール間を通して潰すことにより無くしている。それにより、スリットされた金属帯の板幅にバラツキがあっても、加圧手段を設けた一方の金属ロールが任意な一定の圧力で金属帯の幅のバラツキに追従しながら当たるため、ロールが複数段でもエッジ加工後の金属帯の板幅方向の曲がりや通板中の金属帯の蛇行が発生せず長手方向全域にわたってバリや角のないエッジ端面形状が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金属板をスリットする態様を説明する断面図
【図2】一対の金属ロールによるエッジ処理図
【図3】一対の金属ロールにおいてスリットされた金属帯にバラツキがある場合のエッジ処理図
【図4】一対の片側のみ油圧駆動の金属ロールによるエッジ処理図
【図5】インラインによる複数同時のエッジ処理図
【図6】複数段ロールによるエッジ処理図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等は、金属板をスリットするときに形成され、或いは導入されるバリや角を長手方向全域において、安定して無くす方策について種々検討を重ねてきた。
スリッターによりスリットした金属帯を、一対のロール間を通して金属帯の長手方向全域の帯両側エッジ部を板幅方向に圧下して突出部を押し潰すことによりバリや角を除去することはできる。しかし、スリットした金属帯の板幅が長手方向にバラツキがある場合、板幅が狭いところではロールの圧下力が小さくなり、エッジ部のバリや角が十分に取れない場合やロールが接触せずに全くエッジ部の処理が行われない場合が発生する可能性がある(図3(b))。また板幅が広い場合では圧下が大きくなるため、強くなった圧下力で金属帯が板厚方向に曲がってしまう可能性もある(図3(c))。どちらの場合にしてもスリットされた金属帯の板幅にバラツキがある場合、エッジ部のバリや角の取れ方が長手方向に一定ではなくなる。
【0012】
そこで、油圧シリンダーを用いて金属ロールを常に一定な圧力で金属帯のエッジ部に押し当てることとした。ただし、金属帯の両端を一対の油圧シリンダーによって金属ロールで圧下すると、シリンダーの圧下速度や設置位置のバラツキにより、走行ラインの中心から金属帯の中心が外れるため、一対の金属ロールのうち、一方は油圧シリンダーによる加圧手段を設け、他方はネジ式による固定とした。
ネジ式によるロールの位置は金属帯を押し当てて金属帯の板幅の中心が、走行ラインの中心となるように調整し、板幅の変動には油圧シリンダーで圧下しているため、金属帯の幅が変化してもロールが板幅方向に追従し、常に一定な圧力でロールがエッジ部に接触できるようになり、エッジ部のバリや角の取れ方が長手方向で一定になる。(図4参照)
【0013】
金属帯にロールを当てる圧力は圧下によって板厚方向に曲がらない圧力に設定する。
金属ロールの金属帯当接面は、全くフラットでも構わないが、被処理金属帯の板厚よりも幅広のV型の溝を設けたものが好ましい。そして溝の底形状は目的とする端面の形状に適した形状とされていることが望ましい。
【0014】
ところで、幅広の冷延金属板は、スリッターにより所定幅にスリットされ、多条の金属帯が同時に排出される。そこで、スリットされた金属帯のエッジ端面の角、バリを効率よく、また低コストで低減若しくは無くすためには、複数条にスリットされた金属条を1条ずつではなく、スリットされた条数分だけ同時にロールで圧下することが良いと考えられる。
【0015】
本発明者らも、特開2006−281227号公報で、金属帯を複数条の狭幅金属帯にスリットする工程に引続いて、それぞれの端面が隣り合うように並んだ複数の狭幅金属帯のそれぞれを長手方向に平行な軸を中心に90度の角度でねじることによって、前記複数条の狭幅金属帯をそれらの一端が同一平面上に揃うように並べた後、一対のラウンド加工装置で複数条の狭幅金属帯の両端面に同時にラウンド加工を施すことを提案している。
この方法においても、ロールにはスリットされた条数分の溝が設けられており、溝の底形状は目的とする端面の形状に適した形状とされていることが望ましい(図5参照)。
【0016】
本発明も、基本的に上記方法を用いることが好ましい。ただし、金属帯両側端エッジ部のバリや角を確実に無くすためには、一対のロールを少なくとも3段、好ましくは4段以上設置することが望ましい。この際、油圧シリンダーなどによる加圧手段とネジ式による固定の配置方向は、各段とも同一とする。(図6参照)
以上に説明した通り、スリットされた金属帯が一定な圧力に調整された3段以上の複数段のロールを通板されることにより、金属帯の板幅にバラツキがあっても長手方向全域において安定したエッジ加工を行うことができ、曲がりが発生することなくバリや角を安定的に無くした金属帯を得ることができる。
【実施例】
【0017】
幅120mm、板厚1.0mのSUS304材を10条にスリットするスリッターラインのアンコイラーにセットした。
アンコイラーにセットされた上記SUS304のコイルを、スリッターで幅10mmの10条にスリットし、鋼板をスリッターの出側にあるテンションパットで押さえて張力を付与した。張力は10条の合計が4kN程度で安定するように調整した。
【0018】
この10条の金属帯を90度捻って、ロールに通板し、コイラーに取り付けた。テンションパットからコイラーの中間にある端面を加工するためのロールは10条を同時に圧下する目的から10本の溝を設けたロールで上下から圧下するのを一対として5段で加工した。
ロールの圧下方法は、上側ロールはネジによる上下移動で、金属ロールの溝に金属帯を噛み込ませた状態でラインのレベルと合うように調整して固定した。下側ロールは油圧により4段とも8MPaの圧力で上昇するようにポンプを設定した。ロールの溝形状は鋼帯の端面に目的となる半円の断面形状を付与するため、溝底の断面形状はR0.5mmの半円とした。ライン速度は毎分30mで走行し、鋼板の端面を加工するため500m程度連続走行を行った。
その結果、10条ともバリが無くなり、曲がりが発生することなく長手方向全域に安定した端面形状の金属帯が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリッターによりスリットした金属帯を一対の金属ロールの間を通して金属帯の長手方向全域の板両側エッジ部を板幅方向に圧下することによりスリット時に形成されたバリや角を潰す処理方法であって、一対の金属ロールの一方に加圧手段を設け、前記金属ロールを常に一定な圧力で被処理金属帯の両側に押し当てることを特徴とする金属帯のエッジ処理方法。
【請求項2】
前記加圧手段が空気圧シリンダーもしくは油圧シリンダーである請求項1に記載の金属帯のエッジ処理方法。
【請求項3】
複数段並べた一対の金属ロールの間を通す請求項1又は2に記載の金属帯のエッジ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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