説明

金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法

【課題】 表面処理などにより金属微粒子の表面に付着残留している脂肪酸の量を、熱分解ガスクロマトグラフィーを利用して定量する方法を提供する。
【解決手段】 キュリー点を持たないか若しくはキュリー点がパイロホイルのキュリー点以下の金属からなる円筒容器に金属微粒子と有機アルカリ溶液を投入混合し、予備加熱して溶媒を揮発除去させた後、円筒容器をパイロホイルで包埋し、誘導加熱により脂肪酸のアルキルエステル誘導体を生成させ、発生したガスをガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計に導入して脂肪酸のアルキルエステルを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の表面に存在する脂肪酸の定量方法、特に表面処理によって金属微粒子に付着した脂肪酸を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金や銅などの各種金属微粒子は、有機・無機複合材料である導電性接着剤や導電性ペーストなどの電子材料に幅広く利用されている。これらの金属微粒子は粒子径が10〜1000nm程度のナノ粒子であり、表面が活性なため、粒子同士が凝集しないように脂肪酸で表面処理されている場合が多い。そのため、表面処理された金属微粒子を導電性接着剤や導電性ペーストに適用した場合には、表面処理剤である脂肪酸の残留によって抵抗値が上昇する場合がある。従って、表面処理した金属微粒子に付着残留している脂肪酸を定量的に把握することが重要である。
【0003】
金属微粒子に付着している脂肪酸を定量する方法としては、金属微粒子を硝酸で溶かしてフーリエ変換核磁気共鳴分光法を用いる方法を適用することが考えられる(特許文献1参照)。しかし、この方法では、例えば脂肪酸が非水溶性の高級脂肪酸の場合には溶液と分離してしまうため、定量することができないという問題を有している。他の方法として金属微粒子中の全炭素量を分析する燃焼法の利用も考えられるが、脂肪酸以外の有機成分が存在した場合には、両者を分離できないという問題がある。
【0004】
一方、人の皮膚の構成成分である脂肪酸を定量する方法として、人の皮膚に有機アルカリ溶液を添加してパイロホイルに包埋した後、誘導加熱して皮膚中の脂肪酸を脂肪酸アルキルエステルに変え、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計で定量する方法が知られている(特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−322729号公報
【特許文献2】特開2009−204596号公報
【特許文献3】特開2008−224333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2及び特許文献3に記載された熱分解ガスクロマトグラフィーを利用する脂肪酸の定量方法は、人の皮膚の脂肪酸を定量する場合は有効な方法であるが、金属微粒子表面の脂肪酸の定量に利用すると、誘導加熱により脂肪酸から生成された脂肪酸アルキルエステルの測定値が測定ごとに変動してしまい、金属微粒子の脂肪酸を正確に定量することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、表面処理などにより金属微粒子の表面に付着残留している脂肪酸の量を、熱分解ガスクロマトグラフィーを利用して正確に定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、熱分解ガスクロマトグラフィーを利用して金属微粒子に付着している脂肪酸を定量する方法について鋭意研究を重ねた結果、金属微粒子に有機アルカリ溶液を添加してパイロホイルに包埋し、脂肪酸を脂肪酸のアルキルエステルに変えるため誘導加熱すると、金属微粒子の一部が飛散してしまうことを見出した。その結果、パイロホイルから飛散した金属微粒子は加熱されず、従って飛散した金属微粒子表面の脂肪酸がメチルエステルに定量的に誘導体化されないため、脂肪酸を正確に定量できないことが分かった。
【0009】
この問題を解決するため更に研究を重ねた結果、金属微粒子と有機アルカリ溶液を白金などの金属からなる円筒容器に投入し、予備加熱して有機アルカリ溶液の溶媒を揮発除去した後、パイロホイルに包埋した状態で誘導加熱すれば、金属微粒子の飛散がなくなり、全ての金属微粒子を誘導加熱できること、その結果、金属微粒子表面の脂肪酸はアルキルエステルに定量的に誘導体化され、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計で定量できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち、本発明が提供する金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法は、金属微粒子表面に付着している脂肪酸を定量する際に、キュリー点を持たないか若しくはキュリー点がパイロホイルのキュリー点以下の金属からなる円筒容器に金属微粒子と有機アルカリ溶液を投入して混合し、予備加熱して溶媒を揮発除去させた後、該円筒容器をパイロホイルで包埋し、不活性ガス雰囲気中で誘導加熱して脂肪酸のアルキルエステルを生成させ、発生したガスをガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計へ導入して、脂肪酸のアルキルエステルの量を測定することことを特徴とする。
【0011】
上記本発明による金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法においては、前記円筒容器の材質は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、モリブデンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記金属微粒子は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、亜鉛から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0012】
上記本発明による金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法において、前記有機アルカリは、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルスルホニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチルフェニルアンモニウム、水酸化トリメチル(トリフルオロトリル)アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記有機アルカリ溶液の溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属微粒子と有機アルカリ溶液を円筒容器に投入した後、予備加熱により溶媒を揮発除去させるので、予備加熱後の円筒容器をパイロホイルに包埋した状態で誘導加熱する際に金属微粒子の飛散をなくすことができる。その結果、金属微粒子表面の脂肪酸を誘導加熱によって全てアルキルエステルに変え、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計で測定できるため、表面処理により金属微粒子表面に付着した脂肪酸の量を高感度且つ高精度に定量することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法は、試料となる金属微粒子、例えば脂肪酸で表面処理した金属微粒子を、所定量採取して円筒容器に投入し、それに有機アルカリ溶液を滴下して混合する第1工程と、この円筒容器を予備加熱して溶媒を揮発除去させる第2工程と、予備加熱した円筒容器をパイロホイルで包埋して、不活性ガス雰囲気中で誘導加熱する第3工程と、発生したガスをガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計へ導入し、脂肪酸のアルキルエステルの量を測定して、金属微粒子表面の脂肪酸を定量する第4工程とを備えている。
【0015】
一般に、脂肪酸類は分子内にカルボキシル基を持つため、ガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計で分析すると分離カラムへの吸着が起き、定量精度が著しく悪くなる。このため、ガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計で脂肪酸を分析する場合には、脂肪酸の末端のカルボキシル基をアルキルエステルに変えて分離カラムへの吸着がないようにする必要がある。
【0016】
そのため、本発明においては、脂肪酸を有機アルカリと反応させることによって、脂肪酸を脂肪酸アルキルエステルに変えて沸点を下げ、揮発させてガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計へ導入することにより、金属微粒子表面の脂肪酸を定量する。尚、測定可能な脂肪酸については、鎖状構造を有するモノカルボン酸であり、そのアルキルエステルがガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計で加熱できる400℃までの温度で揮発するものであれば特に制限はない。尚、金属微粒子の表面処理に使用される脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などが知られている。
【0017】
測定対象とする金属微粒子は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、亜鉛から選ばれる1種の金属、又は2種以上からなる合金であるが、これらに限定されるものではない。ただし、鉄、コバルト、ニッケルなど、キュリー点を持つ金属やそれらを含む合金の微粒子の場合は、第3工程の誘導加熱においてパイロホイルにより決定される加熱温度よりも試料の加熱温度が高くなり、脂肪酸から所定のアルキルエステルのみを生成できなくなる場合があるため、正確な脂肪酸の定量が難しくなることがある。
【0018】
また、使用する円筒容器の材質は、キュリー点を持たない金属か若しくはキュリー点がパイロホイルのキュリー点以下の金属であることが必要である。その理由は、第3工程の誘導加熱による試料の加熱温度は用いるパイロホイルにより決定されるが、円筒容器の方がパイロホイルよりもキュリー点が高くなると、試料の加熱温度が想定した温度よりも高くなってしまい、脂肪酸の誘導体化で生じる脂肪酸エステルが分解を起こし、メタン、エチレンあるいはエタンなどの低級炭化水素類などを生じてしまい、定量的な分析が困難となるからである。
【0019】
そのため、円筒容器の材質としては、キュリー点を持たないか若しくはキュリー点がパイロホイルの金属、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、モリブデンから選ばれる1種の金属又は2種以上の合金であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、試料を急速加熱するためには、円筒容器自体の熱伝導性が優れていることや耐食性に優れていることが望ましい。
【0020】
円筒容器の大きさや形状は、第3工程において誘導加熱する際に、パイロホイルに包埋した状態で熱分解装置の試料管に挿入できる大きさ及び形状であればよい。好ましい円筒容器としては、有底円筒形状であって、内径が3.0mm程度、外径が3.6mm程度、及び高さが10.0mm程度のものであれば、市販されている主な熱分解装置の試料管に挿入可能であり、且つ発生したガスをガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計に導入できるため好ましい。
【0021】
次に、本発明による金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法を、工程に従って具体的に説明する。まず、第1工程では、試料となる金属微粒子、例えば脂肪酸で表面処理した金属微粒子を、所定量採取して円筒容器に投入し、それに有機アルカリ溶液を滴下して混合する。
【0022】
上記有機アルカリとしては、後の第3工程での誘導加熱により、脂肪酸のカルボキシル基と反応してアルキルエステルを形成できるものであればよい。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルスルホニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチルフェニルアンモニウム、水酸化トリメチル(トリフルオロトリル)アンモニウムから選ばれる1種又は2種以上を好適に用いることができる。
【0023】
また、上記有機アルカリとしての水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルスルホニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチルフェニルアンモニウム、水酸化トリメチル(トリフルオロトリル)アンモニウムは、NaOHやKOH等に匹敵する強アルカリ試薬であるため、脂肪酸の金属塩に対する加水分解試薬として作用するだけでなく、脂肪酸のアルキル化試薬としても機能する。更に、高温に加熱するとトリメチルアミンとメタノールに分解するため、ガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計の分離カラムを劣化させず、質量分析計内での過剰のアルカリ成分の残留がないため好ましい。
【0024】
上記有機アルカリ溶液の溶媒としては、有機アルカリを溶解できればよく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0025】
ただし、本発明においては第2工程の予備加熱によりほぼ全ての溶媒を除去する必要があり、その際に短時間で効率よく溶媒を除去できることが望ましい。従って、上記有機アルカリを溶解する溶媒は、揮発しやすいことが望ましく、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトンから選ばれる1種の溶媒、若しくは2種以上の混合溶媒が特に好ましい。
【0026】
次の第2工程では、上記第1工程で金属微粒子と有機アルカリ溶液を投入混合した円筒容器を予備加熱することにより、円筒容器内の有機アルカリ溶液の溶媒をほぼ全て揮発除去させる。
【0027】
この予備加熱によって円筒容器内の溶媒がほぼ全て揮発除去されず、円筒容器内に溶媒が残留していると、次の第3工程で誘導加熱した際に突沸することがあり、この突沸によって金属微粒子が円筒容器から飛散して正確な測定ができなくなる。尚、予備加熱に用いる加熱手段としては、円筒容器を加熱できる装置であればよく、例えばホットプレートを用いることも可能である。
【0028】
予備加熱の温度と時間は、使用する溶媒の種類によっても異なるが、突沸を起こさず且つ溶媒の除去に時間がかからないように調整することが望ましい。例えば、上記したメタノールやエタノール、アセトンなどの好ましい溶媒の場合、予備加熱温度は150〜250℃、好ましくは160〜200℃、及び予備加熱時間は30分以上、好ましくは10〜30分の範囲にあれば、溶媒をほぼ完全に除去することができる。
【0029】
第3工程では、上記第2工程で予備加熱した円筒容器をパイロホイルで包埋して、不活性ガス雰囲気中で誘導加熱する。この誘導加熱によって、金属微粒子表面の脂肪酸は有機アルカリでエステル化され、脂肪酸のアルキルエステルが生成される。
【0030】
誘導加熱による加熱温度は、脂肪酸をアルキルエステルに誘導体化することが可能な温度(熱分解温度と称する)であって、脂肪酸を定量的に誘導加熱するためには300℃以上の温度が必要である。必要な熱分解温度を得るためには、その熱分解温度用のパイロホイルを使用すればよい。即ち、パイロホイルは強磁性体からなり、誘導加熱によって瞬時に発熱し、強磁性体のキュリー点に達すると磁性を失って一定温度となる。従って、脂肪酸の誘導体化に必要な熱分解温度のパイロホイルを用意し、そのパイロホイルで包埋した円筒容器を誘導加熱すれば、円筒容器内の試料を瞬時に所定の熱分解温度に加熱することができる。
【0031】
一般的に誘導加熱に用いるパイロホイルは、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの合金からなり、その組成によってキュリー点が変わるため、用いるパイロホイルの種類を選択することにより誘導加熱温度を適宜設定することができる。尚、後述する実施例では誘導加熱温度を358℃に設定しているが、これは一般に脂肪酸の熱抽出データの多くが358℃で取られているため、それに合わせて採用したものである。
【0032】
パイロホイルで包埋した円筒容器の誘導加熱には、一般にガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計に接続して使用されている熱分解装置を用いることが好ましい。具体的には、パイロホイルで包埋した円筒容器を熱分解装置の試料管に挿入し、熱分解装置の高周波電源を投入することで円筒容器内の試料を急速加熱して、脂肪酸の熱分解と同時にアルキルエステルへの誘導体化を行うことができる。尚、不活性雰囲気としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。
【0033】
この第3工程で発生した脂肪酸のアルキルエステルを含むガスは、引き続き第4工程において、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計へオンラインで導入して、脂肪酸アルキルエステルの量を計測する。
【0034】
脂肪酸アルキルエステルの計測に使用する装置としては、上記第3工程の誘導加熱を行うための熱分解装置の取り付けが可能なガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計を用いることが好ましい。また、金属微粒子表面の脂肪酸の定量は、上記測定方法で得られた脂肪酸アルキルエステルのピーク面積を用い、予め同一条件で測定した脂肪酸アルキルエステルのピーク面積から作成した検量線を用いて定量する。
【0035】
上記第1〜第4工程を含む本発明方法によれば、金属微粒子表面に付着残留している脂肪酸の全てを確実に離脱させて、ガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計で正確に定量することができる。実際に、既知量の脂肪酸が付着している金属微粒子を用い、上記第1〜第4工程を実施して脂肪酸の定量を行い、脂肪酸の回収率を確認したところ102%であった。この結果から、金属微粒子から脂肪酸が完全に脱離することが確認された。
【実施例】
【0036】
脂肪酸のステアリン酸を含む表面処理剤で表面処理した各種金属微粒子について、上記第1工程〜第4工程を有する本発明に従って金属微粒子表面に付着残留している脂肪酸の量を測定した。尚、熱分解装置には日本分析工業(株)製のJHP−3型を用い、誘導加熱による熱分解温度を358℃及び熱分解時間を15秒として測定した。また、ガスクロマトグラフ質量分析計は(株)島津製作所製のQP−5000型を用い、キャリヤーガス:ヘリウム、注入口温度:300℃、ガス注入方式:スプリット方式、測定質量範囲:33−650の条件で測定した。
【0037】
[実施例1]
上記脂肪酸で表面処理した銀微粒子(試料1)を10mg量り取り、白金製の円筒容器(内径3.0mm、外径3.6mm、高さ10.0mm)に投入し、水酸化テトラメチルアンモニウムのメタノール溶液を10μl添加した後、ホットプレート上において180℃で10分間予備加熱して溶媒を除去した。予備加熱後の円筒容器を、熱分解温度358℃のパイロホイル(日本分析工業(株)製、型番F358)で円筒状に包理した。
【0038】
このパイロホイルで包理した円筒容器を熱分解装置のガラス製の試料管に挿入した後、高周波電源を投入して誘導加熱(358℃×15秒)することにより、金属微粒子の脂肪酸をメチルエステルに誘導体化した。発生したガスを熱分解装置から連続的にガスクロマトグラフ質量分析計に導入して、ガス中の脂肪酸メチルエステルを測定した。この脂肪酸メチルエステルが与えるピーク面積を、予め作成した検量線を用いて定量し、得られた結果を試料1として下記表1に示した。尚、表1中の脂肪酸の定量値は、金属微粒子の重量(g)当たりの脂肪酸の重量(μg)で示した(下記表2も同じ)。
【0039】
また、上記試料1の場合と同様にして、いずれも上記脂肪酸で表面処理した金(試料2)、銅(試料3)、白金(試料4)、パラジウム(試料5)、亜鉛(試料6)及び金−銀合金(試料7)の各金属微粒子について、それぞれ金属微粒子の脂肪酸を定量した。得られた結果を下記表1に併せて示した。
【0040】
また、比較例として、上記試料1と同じ銀微粒子を用いたが、円筒容器を使用する予備加熱を行うことなく、銀微粒子を水酸化テトラメチルアンモニウムのメタノール溶液と共に直接パイロホイルに包埋して誘導加熱したこと以外は上記試料1の場合と同様にして、銀微粒子の脂肪酸を定量した。その結果を、比較例の試料8として下記表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
上記試料1〜7の結果から、本発明方法に従って、円筒容器に入れた金属微粒子と有機アルカリ溶液を予備加熱して溶媒を除去した後、この試料を通常のごとく熱分解装置を備えたガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計で測定することにより、各種の金属微粒子について表面に付着している脂肪酸を定量的に把握できることが分かる。尚、金属微粒子の種類によって脂肪酸の定量値が異なるのは、それぞれの微粒子の粒度分布、表面積あるいは酸・塩基度の違いなどにより脂肪酸が付着する度合いが異なるためである。
【0043】
しかし、比較例である試料8では、円筒容器を用いた予備加熱を行わずに、銀微粉末をパイロホイルに直接包埋した状態で誘導加熱したため、誘導加熱時に銀粉末が飛散してしまい、同じ銀微粒子を測定した本発明の試料1と比較して脂肪酸の定量値が大きく低下して正確な定量ができなかった。
【0044】
[実施例2]
上記実施例1の試料1と同じ銀微粒子を用い、予備加熱による溶媒の揮発除去の程度が脂肪酸の定量値に与える影響を調べた。即ち、予備加熱温度と予備加熱時間を下記表2の試料9〜14に示すように変化させた以外は上記実施例1と同様にして、表面処理した銀微粒子の脂肪酸を定量した。得られた結果を、上記実施例1の試料1の結果と共に、下記表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
上記の結果から、試料9〜11では、予備加熱の条件を150〜250℃で10〜30分の範囲内とすることによって溶媒をほぼ全て除去することができた結果、本発明の試料1とほぼ同等の脂肪酸の定量値が得られた。
【0047】
一方、試料12〜14においては、脂肪酸の定量値が本発明の試料1と比較して大きく低下している。この定量値の低下の理由は、試料12では予備加熱時間が短すぎるため、また試料13では予備加熱温度が低すぎるため、いずれも予備加熱で溶媒が残留してしまい、その結果として誘導加熱時に銀微粒子が飛散したためである。また、試料14では予備加熱温度が高すぎ、予備加熱の段階で有機アルカリ溶液の溶媒が突沸して銀微粒子が飛散したことによる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子表面に付着している脂肪酸の定量方法であって、キュリー点を持たないか若しくはキュリー点がパイロホイルのキュリー点以下の金属からなる円筒容器に金属微粒子と有機アルカリ溶液を投入して混合し、予備加熱して溶媒を揮発除去させた後、該円筒容器をパイロホイルで包埋し、不活性ガス雰囲気中で誘導加熱して脂肪酸のアルキルエステルを生成させ、発生したガスをガスクロマトグラフ又はガスクロマトグラフ質量分析計へ導入し、脂肪酸のアルキルエステルを測定して脂肪酸を定量することことを特徴とする金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法。
【請求項2】
前記円筒容器の材質が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、タングステン、モリブデンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法。
【請求項3】
前記金属微粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、亜鉛から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法。
【請求項4】
前記有機アルカリが、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルスルホニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチルフェニルアンモニウム、水酸化トリメチル(トリフルオロトリル)アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法。
【請求項5】
前記有機アルカリ溶液の溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の金属微粒子表面の脂肪酸の定量方法。

【公開番号】特開2012−32197(P2012−32197A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170068(P2010−170068)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)