説明

金属成分の検査方法

【発明の課題】手間やコスト等の面でも、測定感度の面でも、より優れた金属成分の検査方法を提供する。
【解決手段】微粒子を含む液体中における金属成分の検査方法であって、被検液のpHを調整するpH調整工程と、pH調整工程で得られた被検液を、分離用基材に滴下する滴下工程と、滴下工程で滴下した被検液に対し、液体の移動相によりクロマトグラフィーを行うクロマトグラフィー工程と、クロマトグラフィー工程で分離された金属成分を分析する分析工程と、を有する金属成分の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成分の検査方法に係り、特に、濁質成分である微粒子を含有する液体中において、簡便な操作により感度良く金属成分を検出する金属成分の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターの高速化に伴って、コンピューターに用いられる半導体集積回路(IC)には、一段と高い集積度が求められるようになってきている。このようなICの高集積化に適合していくには、配線パターンの微細化と共に多層積層構造の採用が不可欠となってくる。
【0003】
多層積層構造を採用するには、基材となるウェーハそのものや多層積層構造の各層の凹凸をこれまで以上に小さくして、膜形成時の段差部での被覆性(ステップカバレッジ)の悪化やリソグラフィ工程におけるフォトレジストの塗布膜厚変動などの不具合を避ける必要がある。
【0004】
このような多層積層構造の各層の凹凸をなくするため、基材であるウェーハやこのウェーハ上に形成される各層表面を研磨用スラリーを用いて研磨することが行なわれている。
【0005】
また、タングステンWを用いてCVD法(化学蒸着法)によりコンタクトホールやビアホールを形成する際や、ダマシン構造にメッキ法により銅Cuを埋め込む際には、表面に形成されるタングステン被膜や銅被膜を、ホール部分やダマシン構造部分のみ残して表面に形成されたタングステン被膜や銅被膜を周りの絶縁膜と同一平面となるまで研磨されるが、この場合にも研磨用スラリーを用いた研磨が行われる。
【0006】
研磨工程を終えたウェーハは、超純水で洗浄され、使用済みの研磨用スラリーは、この洗浄液とともに、回収タンクに収容される。回収タンクに集められた使用済みの研磨用スラリーは、例えば、過剰の水をセラミックフィルターで除いて濃度が調整され、イオン成分がイオン交換樹脂等により除去され、元の組成に対して不足した成分が補充され、さらに粒度調整用フィルターを通して除去研磨屑等の過大な粒子が除去されて研磨用スラリーとして再使用される。このとき、研磨操作等により研磨用スラリー中に混入した金属は、イオン交換樹脂やキレート繊維等により除去される(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
このとき、金属がきちんと除去されているか否かは、液体中の金属(イオン)等の試料濃度を光学的に分析することにより行われ、その手段として、原子吸光法、発光分析法や、金属に配位子を結合させて特異的な呈色を起こさせ、その吸光度を測定する吸光光度法や、蛍光を測定する蛍光分析法等が用いられてきた。
【0008】
これにより、半導体用研磨スラリーの分野においては、使用済みの半導体用研磨スラリーを再利用しようとした場合に、金属に汚染された半導体用研磨スラリーが不純物の除去操作により、きちんと精製がなされ再利用が可能か否かを確認していた。
【0009】
一方、液体中に金属が含有しているか否かを分析するための簡便な測定手段の一つとして、呈色した溶液をろ紙上に滴下し、その色や大きさを目視判定するスポットテスト法が知られている。この方法は、滴下した溶液をろ紙上で展開し、溶液中に含まれる成分をその成分ごとに分離する簡易な操作で測定できるものである(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2005−262061号公報
【特許文献2】特開平9−203730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のような分光学的な測定方法は一般に高感度であり、元素や試料に対する特異性にも優れるものの、高価な専用機器が必要であったり、操作に熟練を要したりするなどの点で問題があった。さらに、半導体用研磨スラリーのような液体中に濁質成分である微粒子が含まれる場合には、そのままでは正確な測定ができないため、測定する前に、前処理を施して濁質成分を除去して行わなければならなかった。
【0011】
また、特許文献2記載のようなスポットテスト法は、簡便な操作で金属を検出することができるものの、濁質成分である微粒子が含まれるような場合には、測定対象となる金属が微粒子表面に吸着される等により実際に含有される金属と、測定結果とにずれが生じてしまうことがあった。
【0012】
すなわち、濁質成分を含有する被検液においては、測定する前に前処理操作を行って濁質成分を除去しなければならず、操作が煩雑で、試験器具や薬品等も余計に用いることとなったり、測定対象となる金属が十分に測定結果に反映されなくなったりしていた。そのため、手間やコスト等の面でも、測定感度の面でも、より優れた検査手法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、被検液中に含まれる金属の測定を、スポットテスト法を応用して、簡便な操作で行うことができることとし、さらに、含有する金属をより正確に測定できる方法を見出し、本発明を完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明の金属成分の検査方法は、微粒子を含む液体中における金属成分の検査方法であって、被検液のpHを調整するpH調整工程と、pH調整工程で得られた被検液を、分離用基材に滴下する滴下工程と、滴下工程で滴下した被検液に対し、液体の移動相によりクロマトグラフィーを行うクロマトグラフィー工程と、クロマトグラフィー工程で分離された金属成分を分析する分析工程と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属成分の検査方法によれば、濁質成分である微粒子を含有する被検液であっても、除濁操作のような前処理を行うことなく、簡便な操作で感度良く、測定対象である金属の有無を検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明について説明する。
本発明において、金属成分を検査対象とする被検液は、濁質成分である微粒子を含有する液体であり、従来、安定、かつ正確に検査を行うためには前処理操作を必要としていたものである。ここで濁質成分である微粒子は、その直径が1〜500nm程度の大きさのものが挙げられ、例えば、ヒュームドシリカやコロイダルシリカ、アルミナ、セリア等が挙げられ、被検液としてはこれらを使用した半導体用研磨スラリー等が挙げられる。
【0017】
次に、本発明のpH調整工程は、測定対象である金属が微粒子表面に吸着されるのを防止又は吸着された金属を改めて脱離させるための操作であり、用いる被検液の性状(特に、酸性かアルカリ性か)、被検液に含まれる微粒子の性状、測定対象物の性状等により適宜調整されるものである。
【0018】
一般的には、測定対象である金属は、溶液中でイオンとなって正に帯電しており、このとき被検液がアルカリ性であると、被検液に含まれる微粒子表面は負に帯電し、金属イオンが微粒子表面に吸着しやすい条件となる。
【0019】
例えば、アルカリ性の半導体用研磨スラリーを被検液として用いた場合、含有されるシリカ砥粒の表面は負に帯電した状態(Si−O)で存在する。このとき、スラリー中に含有されることとなる金属は、こちらもイオン(M)となって存在し、このとき正に帯電していることから、金属イオンは砥粒表面に電気的に引き付けられSi−OMのような形で吸着することとなる。
【0020】
また、被検液がアルカリ性の場合には、一般に、含有する金属イオンが水酸化物イオンと結合し、金属水酸化物(M(OH);nは1〜3の整数である。)として沈澱する。
【0021】
以上のように、金属イオンが微粒子表面に吸着されたり、沈澱してしまったりすると、被検液中の金属イオンの数が、実際に含まれていたものとは異なることとなり、また、このような条件では、測定ごとに数値のバラつきが出やすくなり、安定した測定を行うことが難しくなる。
【0022】
このような場合に、被検液のpHを酸性側にすることで、シリカ砥粒表面に吸着されていた金属イオン、金属水酸化物として沈澱していた金属イオンを、共に遊離させることができる。このとき、pHを0〜5.0の範囲に調整することが、上記のように金属イオンを十分に遊離させることができる点で好ましく、0.5〜2.0の範囲であればより好ましい。
【0023】
また、被検液が酸性の場合には、上記のような分析に不具合を生じることはないが、金属イオンの種類によっては加水分解を容易に受け、金属水酸化物として沈殿するものがあるため、アルカリ性試料と同様にpHを調整する工程を含むことが望ましい。例えば、Al3+、Fe3+、Sn4+などを含む場合にはこのような影響を受けやすい。
【0024】
次に、pH調整が終わった被検液については、これを分離用基材に滴下する滴下工程を行う。この滴下工程は、分離用基材に試料である被検液を供給するものであり、後述するクロマトグラフィー工程を行う準備のための工程である。
【0025】
また、この滴下工程を行う前に、pH調整工程により得られた被検液に、錯体形成剤を添加して、被検液中に存在する金属イオンと錯体形成剤とを反応させる錯体形成工程を行ってから、滴下工程を行うことが好ましい。金属イオンの錯体は、それ自体が発色する性質のものが多く、金属イオンを分光学的に分析することができ、有利である。
【0026】
ここで用いられる錯体形成剤としては、測定する対象となる金属イオンと錯体を形成するものであれば特に限定されることなく用いることができ、例えば、5−Br−PAPSをはじめとするピリジアルアゾ化合物、DHABおよびその類縁体、キシレノールオレンジおよびその類縁体、フラボノール誘導体、ポルフィリン群、TARおよびその類縁体、ジンコンおよびその類縁体、ビピリジンおよびそれを基本骨格とする化合物、ピロカテコールバイオレッドおよびその類縁体、クロマズロールSおよびその類縁体、フタレインコンプレクソンおよびその類縁体、タイロン、クペロン、b−ジケトン類、N−ベンゾイル−N−フェニルヒドロキシルアミンおよびその誘導体、クラウンエーテルおよびその類縁体、カリックスアレーンおよびその類縁体、スチルバゾ、アルセナゾおよびその類縁体、ホスホナゾおよびその類縁体、スルホナゾおよびその類縁体、SULFARSAZENEおよびその誘導体、アゾキシ化合物、カルセインおよびその類縁体、カルセインブルーおよびその類縁体、Quin2およびその類縁体、アリザリンコンプレクソンおよびその誘導体、オキシンおよびその誘導体、シッフ塩基、ジフェニルカルバジドおよびその類縁体、ムレキシド、ニトロソフェノールおよびその類縁体、a−ジオキシム化合物、ジチゾンおよびその誘導体、ジエチルジチオカルバメートおよびその類縁体、トルエンジチオールおよびその類縁体、ビスムチオールおよびその類縁体、チオテノイルトリフルオロアセトンおよびその類縁体、THIO−MICHLERケトン等が好ましく挙げられる。
【0027】
ここで、5−Br−PAPSは、特に、Zn2+、Cu2+、Fe2+、Ni2+、Co2+、Rh3+、Pd2+、Ru3+、Pt2+と安定した錯体を形成するため、本発明の測定に適したものである。
【0028】
なお、金属錯体を形成する場合には、被検液に緩衝液を添加することで、金属錯体を安定化させ、その後の操作を簡便に行うようにすることができる。ここで用いられる緩衝液としては、CHES緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液、TAPS緩衝液、Tris緩衝液、ADA緩衝液、PIPES緩衝液、ACES緩衝液、MOPSO緩衝液、BES緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPES緩衝液、DIPSO緩衝液、TAPSO緩衝液、POPSO緩衝液、HEPPSO緩衝液、EPPS緩衝液、Tricine緩衝液、Bicine緩衝液、CAPSO緩衝液、CAPS緩衝液、酢酸緩衝液、りん酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、等が好適に用いられる。
【0029】
そして、被検液が滴下された分離用基材は、被検液の溶媒が蒸発するように乾燥させた後、クロマトグラフィー工程に付される。ここで、クロマトグラフィー工程は、分離用基材を形成する固定相の内部を、液体である移動相が移動する過程で物質が分離されていくことを利用して行われる。
【0030】
クロマトグラフィーによる分離は、測定対象の物質の大きさ、吸着力、電荷、質量、親水性、疎水性、分離過程での錯体の組成変化、移動相と固定相の界面との親和性等の性質の違いを利用して、物質を成分ごとに分離するものであるが、このような性質は、測定対象物と、固定相及び移動相との相対的な関係に依存するため、複数の測定対象物が含有される場合には、それぞれをうまく分離するために、適した組み合わせの固定相及び移動相の組み合わせが適宜選択されることとなる。なお、本発明においては薄層クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー等を固定相とし、毛細管現象によって流動する液体を移動相として用いることが、簡易な構成で実施でき、識別も容易である点で好ましい。
【0031】
薄層クロマトグラフィーの形態でクロマトグラフィー工程を実施する場合には、展開用チャンバー内を移動相(展開溶媒)で満たして飽和した後、被験試料を負荷した分離用基材をチャンバー内にセットして適当な部位まで移動相を展開させて錯体を分離した上、チャンバーから分離用基材を取り出し、乾燥することができる。
【0032】
また、この分離用基材を、長方形、円形、台形、などの適当な形状に加工して移動相の流路を制御してもよい。例えば、展開溶媒が流れる方向へ向かって流路幅が小さくなるように加工すれば、分離基材上でのスポットが小さくまとまる濃縮効果が得られる。この他、二次元展開、同じ方向への複数回の展開、逆方向への展開、または円形展開、等を用いてもよい。
【0033】
薄層クロマトグラフィー工程を実施する際には、既知の分析対象である金属錯体を同じクロマトグラフィー装置で同時に負荷し分離することが好ましい。また、分離の正確性や精度を担保するために、被検液とともに既知のRf値の標準物質を同時に展開してRf値を確認してもよいし、各金属錯体が特徴的なスペクトル特性を有する場合には、各スポットの色から金属の種類を同定することも可能である。
【0034】
ここで用いられる分離用基材の固定相としては、クロマトグラフィーの固定相として通常用いられるものであればよく、例えば、セルロース系材料、金属酸化物系材料等が挙げられる。これら固定相は、通常、ガラスプレートやプラスチックプレート、アルミニウムシート上に薄い層状に形成されている。
【0035】
セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料から分離される天然セルロースのほか、人工セルロースやセルロースの水酸基にアセチル基やアルキル基などの官能基を導入した各種誘導体を用いることができる。セルロース系材料は、シート状等の層状、粒状、繊維状、粉状等のいずれかの形態であればよく、金属酸化物系材料と複合化されていてもよい。
【0036】
金属酸化物系材料としては、シリカ(SiO)やアルミナ(Al)などのメタロキサン結合を有する各種化合物が挙げられる。金属酸化物系材料中のメタロキサン結合を構成する金属種は、SiとAlなど2種類以上であってもよい。また、金属酸化物系材料は、メタロキサン骨格の主鎖や側鎖に有機基を導入したものなどを適宜用いることができる。有機基としては、アルキル基等の炭化水素基の他、アミノ基、シアノ基及びカルボキシル基、2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロピル基等であってもよい。金属酸化物系材料としては、シリカを含有していることが好ましい。金属酸化物系材料は、層状や粒子状の態様でセルロース系材料と複合化されていてもよいし、蛍光指示薬が塗布されていてもよい。逆相系の固定相の場合は、水を移動相として使用するための親水化処理が施されていてもよい。また、活性度の低い材料を用いる濃縮ゾーン等が組み合わされていてもよい。
【0037】
また、ここで用いられる移動相としては、クロマトグラフィーに通常用いられるものであれば用いることができ、水と相溶する有機溶媒(以下、高極性溶媒という。)を含有することが好ましい。高極性溶媒を含有することで、本発明における分離用基材により金属錯体を良好に、また迅速に分離できる。さらに、水溶性あるいは水と相溶する有機溶媒へ溶解性又は分散性を有する金属錯体に対して良好な分離度を確保できる。さらに、高極性溶媒を含有することで、移動相の揮発性が抑制されて、再現性に優れたクロマトグラムが得られる。
【0038】
こうした高極性溶媒は単独で移動相を構成することもできるが、2種類以上の高極性溶媒を組み合わせて移動相とすることもできる。本明細書において、溶媒を組み合わせた場合の「含有量」とは特にことわりのない限り、移動相を構成するのに用いた各溶媒の重量の割合に基づいている。
【0039】
ここで、高極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどの炭素数1〜5の直鎖状あるいは分岐状のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の炭素数2〜4のアルキレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール等の炭素数2〜4のポリエチレングリコール類などのグリコール類、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール等の1,2−ジオール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン(THF)等の含酸素飽和炭化水素環化合物、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類、トリエチルアミン、トリメチルアミン等のアミン類が挙げられる。
【0040】
アルコール類としては、メタノール、エタノール及び2−プロパノールが好ましく、ポリアルキレングリコール類としては、トリエチレングリコールが好ましく、ケトン類としてはアセトンが好ましく、含酸素飽和炭化水素環化合物としてはテトラヒドロフランが好ましい。1,2−ジオール類としては、1,2−へキサンジオール及び1,2−ペンタンジオールが好ましい。
【0041】
また、移動相は水を含むことができる。水を含むことで移動相の揮発性を抑制することができる。また、水を含むことで移動相の極性を高めることができるが、固定相の種類によっては水の含有量は多すぎると分離能が低下することがある。したがって、併用する高極性溶媒との組み合わせにもよって、好ましい水の含有量の範囲は異なるが、例えば、親水化処理を施していないODSシリカを固定相として利用する場合には、アセトンと水とから移動相を構成するとき、水の含有量が0〜50%であることが好ましい。
【0042】
また、移動相は、水とは相溶しない非極性溶媒を含むことができる。非極性溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、キシレン、ヘキサンなどが挙げられる。
【0043】
また、移動相は、金属錯体の分離能向上のために、界面活性剤や塩を含むものであってもよい。例えば、陽イオン性界面活性剤として、ゼフィラミン、カプリコート、テトラブチルアンモニウムイオン等の第四級アンモニウムイオンが挙げられ、陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシル硫酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオンが挙げられる。このほか、フッ素系やシリコン系界面活性剤、エーテル型やエステル型の非イオン性界面活性剤などが挙げられる。塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩などが挙げられる。
【0044】
この移動相は、測定対象の金属種の形態や、複数種の金属種を測定する場合には、それらの金属種間の性質に応じて適宜選択することができる。
【0045】
好ましい組み合わせとしては、メタノール−水(水含有量として0〜20%)、エタノール−水(水含有量として0〜20%)、アセトニトリル−水(水含有量として0〜20%)、アセトン−水(水含有量として0〜20%)である。
【0046】
そして、クロマトグラフィー工程が終わると、金属はそれぞれの成分に分離して分離用基材上に展開されているため、このとき、個々の金属成分の有無、濃度等を測定する金属分析工程を行う。
【0047】
この金属分析工程では、まずは得られたクロマトグラムからクロマトグラムにおけるスポットやバンドの色調及びRf値に基づいて、被検液中の金属種を識別する。識別は、被検液中の金属が分析対象である金属とデータが一致するか否かを判定して行う。具体的には、被検液のクロマトグラムと分析対象となる金属の既知のクロマトグラムとを対比して、各クロマトグラムの全体から両者が同一の金属種と認められるかどうか、又は各クロマトグラム上の分離された個々のスポット又はバンド等の分離データから両者が同一の金属種と認められるかどうかを判定することで行う。
【0048】
この分析工程においては、クロマトグラフィー工程によって金属種が良好に分離されているため、クロマトグラム自体でもクロマトグラムから得た分離データによっても簡易にかつ明瞭に、分析対象たる金属を含むか否か(複数種の金属を含む場合には、それぞれの金属を含むか否か)を識別することができる。したがって、操作者の識別能力に関わらず簡易に短時間に分析が可能である。
【0049】
特に、薄層クロマトグラフィーの形態でクロマトグラフィー工程を実施した場合には、色調及びRf値はクロマトグラムから特別な検出手段を用いることなく目視によって容易に把握でき、クロマトグラムを視認するだけであっても測定対象とする金属の識別ができることが多い。また、薄層クロマトグラフィーによれば、簡易な構成でクロマトグラフィー工程を実施できるため、被検液を採取したその場において、クロマトグラフィー工程を実施しその場で分析することもできる。
【0050】
このとき、金属の分析に金属錯体を利用する場合には、その錯体の分光学的性質に応じて、種々の分析方法を用いることができ、既に記載した目視による比色の他、吸収スペクトル分析、蛍光スペクトル分析、分光光度分析、蛍光光度分析、X線分析等を用いて行うこともできる。簡易に迅速に分析を行いたい場合には、目視比色が有利であり、より正確に金属の種類、含有量等を分析する場合には、吸収スペクトル分析、蛍光スペクトル分析、分光光度分析、蛍光光度分析、X線分析が有利である。これらの分析方法は、単独で行ってもよいし、複数手段を組み合わせて用いることもできる。また、これらの分析方法においては、含まれる金属種はある程度予測できるため、予めそれぞれデータを用意しておくことで、分析も容易に行うことができる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明について、実施例を参照しながら説明する。
【0052】
(実施例1、比較例1)
Feを含むアルカリ性コロイダルシリカスラリー(シグマアルドリッチ社製、商品名:Ludox TM50)1mLに希硝酸(1+3)を添加することでpHを0.9にして、コロイダルシリカ表面に吸着している金属や水酸化物コロイドとして存在する金属をスラリー中に再溶解させた。
【0053】
上記のpHが0.9であるコロイダルシリカスラリーに錯体形成剤として5×10−3Mの5−Br−PAPS(同仁化学株式会社製、商品名)水溶液1mLを加え、緩衝溶液(0.1mol/L 酢酸−NaOH(関東化学株式会社製、商品名))5mLと水酸化ナトリウムを加えpH5とし、エタノールを10mL加え、純水を用いて50mL定容としたものを試料溶液とした。
【0054】
また、比較例1として上記酸処理工程を含まない場合の溶液も作成した。すなわち、Feを含むアルカリ性コロイダルシリカスラリー(シグマアルドリッチ社製、商品名:Ludox TM50)1mLに錯体形成剤として5×10−3Mの5−Br−PAPS(同仁化学株式会社製、商品名)水溶液1mLを加え、緩衝溶液(0.1mol/L 酢酸−NaOH(関東化学株式会社製、商品名))5mLと希硝酸(1+3)を加えpH5とし、エタノールを10mL加え、純水を用いて50mL定容としたものを試料溶液とした。
【0055】
ODSシリカプレート(MERCK社製、商品名:HPTLC RP−18;縦5cm×横2cm)に、試料溶液(10μL)をスポットし、60℃で15分間蒸発乾燥させた。その後、展開溶媒にアセトニトリル/水混合溶媒(85:15 (w/w))を用いて約90秒間、スポット原点から1.5cm展開させた。金属の相互分離状況は、目視で確認した。
【0056】
その結果、酸処理を行わなかった試料は図1(a)のように鉄錯体のスポットが確認されなかったのに対し、酸処理の工程を含む実施例1の試料については、図1(b)のように濁質成分であるコロイダルシリカは試料導入位置から移動せず、過剰の5−Br−PAPS(黄色)およびその鉄錯体(紫色(乾燥後は褐色))はそれぞれスポット位置から移動して個々に分離された。
【0057】
また、下記(1)式で算出できるRf値を求めるとRf値の重なりも見られず、濁質成分であるコロイダルシリカを含む試料中の溶存Feの迅速な目視分析が可能であることが示された。
【0058】
Rf値(相対移動距離)=原線から測定対象成分のスポット中心までの距離/原線から展開溶媒の先端までの距離 …(1)
【0059】
【表1】

【0060】
このように、酸処理の工程を含まない場合は、図1(a)のように鉄錯体の褐色スポットは確認されず、上記のように硝酸を用いたpH調整工程による効果が確認された。
【0061】
また、Feの定量には、図2のように予め作成した標準試料((a)試薬ブランク、(b)1×10−6M、(c)2.5×10−6M、(d)5×10−6M、(e)1×10−5M)との比較によって行った。
【0062】
標準試料との比較の結果、実施例1における鉄錯体に相当するスポットの着色強度は5×10−6Mと同等であった。従って、コロイダルシリカスラリーでの濃度は2.5×10−4M(14mg/L)となり、ICP−AESによる測定結果(16mg/L)とほぼ一致した。
【0063】
(実施例2)
Cu、Ni、Co、Fe、Vを含むアルカリ性コロイダルシリカスラリー(シグマアルドリッチ社製、商品名:Ludox TM50)0.5mLに希硝酸(1+3)を添加することでpHを0.9にして、コロイダルシリカ表面に吸着している金属や水酸化物コロイドとして存在する金属をスラリー中に再溶解させた。
【0064】
上記pHが0.9であるコロイダルシリカスラリー1mLに錯体形成剤として5×10−3Mの5−Br−PAPS(同仁化学株式会社製、商品名)水溶液1mLを加え、緩衝溶液(0.1mol/L CHES−NaOH(同仁化学株式会社製、商品名))2.5mLと水酸化ナトリウムを加えpH9とし、恒温槽で70℃、30分間加熱した。溶液を室温になるまで放冷させた後、エタノールを5mL加え、純水を用いて25mL定容としたものを試料溶液とした。
【0065】
ODSシリカプレート(MERCK社製、商品名:HPTLC RP−18;縦5cm×横2cm)に、試料溶液10μLをスポットし、60℃で15分間蒸発乾燥させた。その後、展開溶媒にアセトニトリル/水混合溶媒(90:10 (w/w))を用いて約180秒間、スポット原点から3.5cm展開させた。金属の相互分離状況は、目視による確認またはフライングスポットスキャニングデンシトメーター(株式会社島津製作所製、商品名:CS−9300PC)を用いての固相反射吸光度測定による分析を行った。
【0066】
その結果、図3の様にCu、Ni、Co、Fe、Vの各錯体は相互に分離されて検出が可能であり、それぞれ発色も異なることがわかった。また、Cu錯体がスポット原点に残るという現象が確認された。なお、この図で、(1)はV錯体(青色)、(2)は遊離の配位子(黄色)、(3)はCo錯体(青紫色)、(4)はFe錯体(紫色)、(5)Ni錯体(赤色)、(6)Cu錯体(赤紫色)である。
【0067】
また、上記(1)式で算出できるRf値を求めるとRf値の重なりも見られず、Cu、Ni、Co、Fe、Vの同時定性分析が可能であることが示された。各金属のRf値は表2に示した。
【0068】
また、ODSシリカプレート上の色の濃淡を用いた金属の定量について検討したところ、Cu、Ni、Co、Feの濃度範囲0〜1000ppbにおいて目視で濃度が判定でき、各金属イオンの検出限界はCu:50ppb、Ni、Co、Fe:100ppbであった。また、デンシトメトリーによる固相反射吸光度測定による結果についても同じあった。
【0069】
【表2】

【0070】
さらに、同様の薄層クロマトグラフィーを用いて、金属との錯体形成剤や展開溶媒を変えることで、多種類の金属の検査に応用することができる。例えば、DHABを錯体形成剤としてエタノール−水(1+4)溶液を展開溶媒としてコロイダルシリカ中のアルミニウム(Al)を検出下限1ppbで検出することができる。
【0071】
このように、本発明では薄層クロマトグラフィーを用いることで、微粒子(濁質分)を含む液体中の金属の検査を除濁操作や溶解操作等の処理の必要がなく、被検液を直接滴下させることで検査することができる。さらに、色の濃淡を利用することで金属の定量も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1及び比較例1の結果を示した図である。
【図2】Fe濃度の定量のための標準試料の展開結果を示した図である。
【図3】実施例2の結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含む液体中における金属成分の検査方法であって、
被検液のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程で得られた被検液を、分離用基材に滴下する滴下工程と、
前記滴下工程で滴下した被検液に対し、液体の移動相によりクロマトグラフィーを行うクロマトグラフィー工程と、
前記クロマトグラフィー工程で分離された金属成分を分析する分析工程と、
を有することを特徴とする金属成分の検査方法。
【請求項2】
前記pH調整工程の後であって、前記滴下工程の前に、被検液中に測定対象である金属と錯体を形成する錯体形成剤を添加する錯体形成工程を行うことを特徴とする請求項1記載の金属成分の検査方法。
【請求項3】
前記pH調整工程で、前記被検液のpHを0〜5.0とすることを特徴とする請求項1又は2記載の金属成分の検査方法。
【請求項4】
前記分離用基材が、シリカ系材料及び/又はアルミナ系材料から構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の金属成分の検査方法。
【請求項5】
前記液体の移動相が、有機溶媒及び/又は水を主体とする溶媒であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の金属成分の検査方法。
【請求項6】
前記被検液の金属成分の分析を、目視比色、吸収スペクトル分析、蛍光スペクトル分析、分光光度分析、蛍光光度分析及びX線分析から選ばれる少なくとも1種の方法により行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の金属成分の検査方法。
【請求項7】
前記被検液が、半導体用研磨スラリーであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の金属成分の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate