説明

金属材料の酸洗処理方法および酸洗処理設備

【課題】金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得る金属材料の酸洗処理方法および酸洗設備を提供する。
【解決手段】(1) 金属材料を酸洗処理した後、水洗処理する金属材料の酸洗処理方法において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去し、これを酸洗処理用の酸として循環させながら再使用することを特徴とする金属材料の酸洗処理方法、(2) 前記酸洗処理方法において、水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去し、これを水洗処理用の水として循環させながら再使用するもの、(3) 前記酸洗処理方法において、金属材料が鋼線材コイルであるもの等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の酸洗処理方法および酸洗処理設備に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料の酸洗処理としては、例えば、表面にスケールを有する鋼線材コイル(コイル状の鋼線材)の酸洗処理があり、これは脱スケールを目的とするものである。この鋼線材コイルの酸洗処理は、図1に示すような方法により行われている。即ち、硫酸や塩酸等の酸液が入った槽(酸洗槽)に鋼線材コイルを一定時間浸漬させて酸洗処理して鋼線材コイル表面のスケールを除去する。酸洗処理の後、水洗槽にて水で洗浄(水洗処理)する。なお、酸洗処理用の酸としては、硫酸、塩酸、弗硝酸などが用いられる。硫酸は一般的には60〜80℃程度の高温で用いられ、反応速度が速く処理時間が短時間であるが、管理によっては過酸洗による地鉄表面の肌あれを起こす恐れがある。塩酸はヒュームが発生するため低温(20〜40℃)で使用され、反応速度が硫酸に比べて長く処理時間が長くかかるが、きれいな仕上がり肌が得られる。脱スケールのメカニズムは、スケールのひび割れから酸が浸入し、溶解されると同時に発生する水素ガスによりスケールが剥離されるものである。
【0003】
多数の鋼線材コイルを連続して酸洗し続けると、酸洗槽内の酸液の濃度は低下し、鉄分濃度は増加する。規定の酸濃度、鉄分濃度になると著しく酸洗能力が低下するため、酸洗槽内の酸液を交換する。その際、使用済みの廃酸液は酸洗設備系外へ廃棄される。ここで発生する廃酸は水処理設備で中和処理され、基準値を満たした排水として放流される。
【0004】
酸洗後の鋼線材コイルは酸やスケールが付着しているため、工業用水により洗浄している。ここで発生する廃水も水処理設備にて基準を満足する水質にして放流される。
【0005】
このように酸洗設備から排出される廃酸や廃水は水処理設備で中和処理し排水として放流して処分しているが、酸洗処理量に伴って排水量が増える傾向にある。しかしながら、排水量には法的規制があり制限されている。また、今後環境重視の観点からも排水量を最小限に抑制させることは不可避となってくる。
【0006】
特開2003−144858号公報、特開平09−201516号公報、特開平09−010557号公報には、廃酸の回収について提案されている。これらの公報に記載の技術は、廃酸から金属を除去して再生するための方法や装置に関するものであり、酸洗処理設備や水処理設備との係わりや酸洗処理方法については具体的記述がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−144858号公報
【特許文献2】特開平09−201516号公報
【特許文献3】特開平09−010557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得る金属材料の酸洗処理方法および酸洗設備を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0010】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、金属材料の酸洗処理方法および酸洗処理設備に係わり、請求項1〜4記載の金属材料の酸洗処理方法、請求項5記載の金属材料の酸洗処理設備であり、それは次のような構成としたものである。
【0011】
即ち、請求項1記載の金属材料の酸洗処理方法は、金属材料を酸洗処理した後、水洗処理する金属材料の酸洗処理方法において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去し、これを酸洗処理用の酸として循環させながら再使用することを特徴とする金属材料の酸洗処理方法である〔第1発明〕。
【0012】
請求項2記載の金属材料の酸洗処理方法は、水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去し、これを水洗処理用の水として循環させながら再使用する請求項1記載の金属材料の酸洗処理方法である〔第2発明〕。請求項3記載の金属材料の酸洗処理方法は、前記金属材料が鋼線材コイルである請求項1または2記載の金属材料の酸洗処理方法である〔第3発明〕。請求項4記載の金属材料の酸洗処理方法は、前記酸洗処理により金属材料の表面のスケールを除去する請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料の酸洗処理方法である〔第4発明〕。
【0013】
請求項5記載の金属材料の酸洗処理設備は、金属材料を酸洗処理する酸洗槽と該槽で酸洗処理された金属材料を水洗処理する水洗処理装置を有する金属材料の酸洗処理設備において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去する金属分除去手段と、該手段で金属分が除去された酸を前記酸洗槽に循環させる酸循環手段を備えたことを特徴とする金属材料の酸洗処理設備である〔第5発明〕。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る金属材料の酸洗処理方法によれば、金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得るようになる。本発明に係る金属材料の酸洗処理設備によれば、本発明に係る金属材料の酸洗処理方法を遂行し得、ひいては、金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の鋼線材コイルの酸洗処理技術(処理設備、処理フロー)の概要を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1に係る鋼線材コイルの酸洗処理技術(処理設備、処理フロー)の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施例2に係る鋼線材コイルの酸洗処理技術(設備、処理フロー)の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る金属材料の酸洗処理方法は、前述のように、金属材料を酸洗処理した後、水洗処理する金属材料の酸洗処理方法において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去し、これを酸洗処理用の酸として循環させながら再使用することを特徴とする金属材料の酸洗処理方法である。
【0017】
このように酸洗に用いた酸は、これを中和処理して排水とするのではなく、金属分を除去し、酸洗処理用の酸として循環させながら再使用する。従って、廃酸に起因する排水の量を大幅に低減し得るようになる。
【0018】
従って、本発明に係る金属材料の酸洗処理方法によれば、金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得るようになる。
【0019】
酸洗処理された金属材料、例えば、酸で脱スケールされた線材は、水洗槽にて表面に付着した酸や付着物を、きれいな水(工水:工業用水)により洗い流す。水洗に使用した廃水には酸に起因する塩素イオンや硫酸イオンが含まれており、これらは酸洗後の線材表面に錆を発生させやすくするため、そのまま循環使用することはできない。従って、水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去し、これを水洗処理用の水として循環させながら再使用するとよい〔第2発明〕。そうすると、廃水に起因する排水の量を大幅に低減し得るようになる。
【0020】
本発明に係る金属材料の酸洗処理設備は、前述のように、金属材料を酸洗処理する酸洗槽と該槽で酸洗処理された金属材料を水洗処理する水洗処理装置(水洗槽、シャワー等)を有する金属材料の酸洗処理設備において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去する金属分除去手段と、該手段で金属分が除去された酸を前記酸洗槽に循環させる酸循環手段を備えたことを特徴とする金属材料の酸洗処理設備である。なお、上記水洗処理装置は、例えば、水洗槽、シャワー等である。
【0021】
本発明に係る金属材料の酸洗処理設備によれば、本発明に係る金属材料の酸洗処理方法を遂行し得る。従って、廃酸に起因する排水の量を大幅に低減し得る。
【0022】
本発明に係る金属材料の酸洗処理方法において、金属材料としては特には限定されず、種々のものを用いることができ、例えば、鋼線材コイルを用いることができる〔第3発明〕。酸洗処理の目的としては特には限定されず、本酸洗処理は種々の目的に用いることができ、例えば、金属材料の表面のスケールを除去するために用いることができる〔第4発明〕。
【0023】
本発明において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去する方式としてはイオン交換樹脂法、逆浸透膜法、冷却法、蒸留法などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、種々の方式を用いることができる。水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去するに際しては、通常、中和した後、濾過する方法による。この濾過の方式としては、イオン交換樹脂法、逆浸透膜法などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、種々の方式を用いることができる。
【0024】
廃酸の再生効率(酸洗処理に用いた酸から金属分を除去する頻度、そうして得られる酸を酸洗処理用の酸として循環させて再使用する際の酸量、その再使用の頻度等)により、新酸の補充を行う。また、廃水の再生効率(水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去する頻度、そうして得られる水を水洗処理用の水として循環させて再使用する際の水量、その再使用の頻度等)により、新水の補充を行う。酸洗槽内の酸は濃度10〜22%、鉄分濃度は30〜80%に維持することが理想的である。また、水洗槽内の水は塩化物イオンや硫化物イオンが一般の工業用水並みの濃度(0〜20ppm 程度)に維持されることが理想的である。
【0025】
酸洗処理に用いた酸から金属分を除去し、これを酸洗処理用の酸として循環させながら再使用すると共に新酸を追加調整することで、酸濃度と鉄分濃度が安定した状態を維持でき、これにより、酸洗品質(金属材料の表面性状等)を安定させることができる。
【実施例】
【0026】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0027】
〔実施例1〕
実施例1に係る酸洗処理技術(処理設備、処理フロー)を図2に示す。酸洗槽には酸洗液として硫酸が入っており、水洗槽には水洗液として工業用水が入っている。鋼線材コイルを酸洗槽にて酸洗処理した後、水洗槽にて水洗処理する。かかる酸洗処理および水洗処理を繰り返し行う。そうすると、次第に酸洗槽内の硫酸の濃度が低下し、鉄分濃度が増加し、やがて酸洗能力が低下する。酸洗処理に不具合となるほどに硫酸の酸洗能力が低下する前に、ポンプで酸洗槽から硫酸(廃酸)を抜き出し、酸リサイクル装置へ送る。この酸リサイクル装置は、酸洗処理に使用後の廃酸から金属分を除去して再生する廃酸の再生手段であり、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去する金属分除去手段の1種に相当する。
【0028】
酸リサイクル装置ではイオン交換樹脂にて廃酸から金属分を除去して廃酸を再生する。このようにして再生した酸(硫酸)の量は再生前の廃酸の量の約90%量であり、一方、除去された金属分は若干の廃酸と共存した状態(除去された金属分を含む廃酸の状態)であり、この量は再生前の廃酸の量の約10%量である。
【0029】
このようにして再生した酸(硫酸)を酸洗槽に導入する。このとき、酸洗槽内の酸の量が不充分であれば、新酸(硫酸)を補充する。しかる後、この酸洗槽にて鋼線材コイルの酸洗を行う。一方、除去された金属分を含む廃酸は水処理設備へ排出され、この水処理設備で中和処理される。
【0030】
一方、水洗槽にて発生する廃水は上記水処理設備へ送られ、中和処理される。ここで中和処理された水は、水洗槽での水洗液として使用できる水質でないため、水リサイクル装置へ送る。水リサイクル装置では逆浸透膜で濾過し、塩化物イオンや硫化物イオンを除去して再生する。なお、前記水処理設備と水リサイクル装置とで、廃水を中和し濾過して再生する廃水の再生手段が形成されている。即ち、前記水処理設備と水リサイクル装置とで形成されたものは、廃水を中和し濾過して再生する廃水の再生手段であり、水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去する手段の1種に相当する。
【0031】
このようにして再生した水を水洗槽に導入し、酸洗後の鋼線材コイルの水洗を行う。なお、この再生した水だけでは不充分の場合、工業用水を補う。一方、除去された塩化物イオンや硫化物イオンを含む水は汚水として水処理設備へ送り処理する。
【0032】
このような処理を連続的に行う。これにより、酸洗処理設備から排出される排水の量を大幅に低減し得る。また、水処理設備で処理する廃酸の量が低減するため水処理設備の負荷が軽減される。更に、酸の交換がなくなるため、交換時の処理停止時間がなくなり酸洗処理設備の処理能力が向上する。
【0033】
また、酸洗槽内の硫酸の濃度を約15%、鉄分濃度を約50%に安定して維持させることができ、安定した酸洗品質を得ることができる。即ち、従来の酸洗処理技術の場合、酸洗設備においては同じ酸で連続して酸洗するため、酸濃度が低下し、酸中鉄分濃度が増加する。この場合、酸洗可能な濃度まで使用するので、濃度の変化により酸洗の状況も変化する。特に、設定した時間機械的に酸に浸漬させる自動酸洗において、新酸建浴直後と廃酸寸前の酸では、前者は脱スケールが十分なのに対し、後者ではスケール残りが発生することがあり、表面品質に差異が見られた。これに対し、本発明の実施例1に係る酸洗処理技術の場合は、酸をリサイクル循環させると共に新酸を追加調整することで、酸濃度と鉄分濃度が安定した状態を維持でき、これにより、酸洗品質(線材の表面性状)も安定する。
【0034】
〔実施例2〕
実施例2に係る酸洗処理技術(処理設備、処理フロー)を図3に示す。元々の工業用水が地下水や河川水等の場合であって水洗槽での水洗液として必要な水質を満たさない場合、例えば塩化物イオン等を多量に含有する場合は、工業用水を水浄化設備(逆浸透膜設備)で処理してから水洗槽に供給する。
【0035】
そして、実施例1の場合と同様の処理を行う。これにより、実施例1の場合と同様の作用効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る金属材料の酸洗処理方法および酸洗処理設備は、金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得るので、金属材料の酸洗処理方法および酸洗処理設備として好適に用いることができ、金属材料の酸洗処理に際し、排出される排水の量を低減し得て有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を酸洗処理した後、水洗処理する金属材料の酸洗処理方法において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去し、これを酸洗処理用の酸として循環させながら再使用することを特徴とする金属材料の酸洗処理方法。
【請求項2】
水洗に用いた水から塩素イオンおよび/または硫酸イオンを含む不純物を除去し、これを水洗処理用の水として循環させながら再使用する請求項1記載の金属材料の酸洗処理方法。
【請求項3】
前記金属材料が鋼線材コイルである請求項1または2記載の金属材料の酸洗処理方法。
【請求項4】
前記酸洗処理により金属材料の表面のスケールを除去する請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料の酸洗処理方法。
【請求項5】
金属材料を酸洗処理する酸洗槽と該槽で酸洗処理された金属材料を水洗処理する水洗処理装置を有する金属材料の酸洗処理設備において、酸洗処理に用いた酸から金属分を除去する金属分除去手段と、該手段で金属分が除去された酸を前記酸洗槽に循環させる酸循環手段を備えたことを特徴とする金属材料の酸洗処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222602(P2010−222602A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68571(P2009−68571)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】