説明

金属板位置決め装置

【課題】一方の金属板である平板の端面に他方の金属板であるフェース材を取り付ける場合において、フェース材を保持する側に過大な負荷をかけることなく、フェース材を平板の端面に確実に押し付けることが可能な金属板位置決め装置を提供する。
【解決手段】クレーン1に回転可能に支持されて、水平方向及び鉛直方向に移動可能とした装置基部11と、この装置基部11に対して該装置基部11の回転軸と直交する方向の軸14回りに回動可能に支持されて、フェース材Fを保持解放するハンド12と、このハンド12で保持したフェース材FをベースパネルBPに押し当てる段階で、ハンド12の押し当て方向とは反対方向への移動を許容する逃げ機構20を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鋼板等の金属板の端面や、この金属板に形成された孔部や切欠き部の縁の面に、これを覆う他の金属板(いわゆるフェース材)を金属板に対してほぼ垂直に取り付ける際に用いられる金属板位置決め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、造船の生産ラインでは、鋼板からの板材の切り出し工程、加工工程、小組立て工程及び大組立て工程を経てブロックを製作するブロック建造法が広く採用されている。
溶接による小組立て工程において、ブロックを構成するサブ材は、主に、平板状を成すベースパネル上に補強部材であるウェブ材を取り付けたり、ベースパネルの側端面に同じく補強部材であるフェース材を取り付けたりすることで製作される。
【0003】
この小組立て工程において、ウェブ材やフェース材などの金属板を所定の溶接位置に運ぶ配材装置としては、例えば、特許文献1に開示されているように、門型クレーン上に6軸多関節型のハンドリングロボットを設置し、このハンドリングロボットによりベースパネル近傍に搬送すると共に、ベースパネルに対するウェブ材及びフェース材の各位置決めを行うようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-1979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した配材装置では、ベースパネルの側端面にフェース材を取り付けるに際して、ハンドリングロボットによりフェース材をほぼ垂直に立てた状態で保持しつつ治具上に載置したベースパネルに押し当てるようにしているが、ロボットが剛構造である場合には、ベースパネルやロボットハンドの僅かな位置誤差や姿勢誤差によって、配材装置全体に過大な負荷がかかる虞がある。
【0006】
そこで、これに対処するべく、ハンドリングロボット側にロードセルなどのセンサを設け、このセンサの出力に応じてハンドリングロボットによるフェース材の押し付け力を制御する手法が考えられているが、このような力の制御は通常演算に多大な時間がかかることから、タクトタイムが長くなってしまうという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0007】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、一方の金属板である平板の端面に他方の金属板であるフェース材を取り付ける場合において、平板に位置誤差が生じていたとしても、この位置誤差を吸収することができ、その結果、フェース材を保持する側に過大な負荷をかけることなく、フェース材を平板の端面に確実に押し付けることが可能であり、この際、力の制御の演算を必要としない分だけ、タクトタイムが増大することをも回避することができる金属板位置決め装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、鋼板等の一方の金属板に、鋼板等の他方の金属板を取り付ける際の該他方の金属板の位置決め装置であって、クレーンや6軸多関節ロボットなどの移送手段に支持されて、水平方向及び鉛直方向に移動可能とした装置基部と、この装置基部に支持されて、前記他方の金属板を保持解放する金属板保持部と、この金属板保持部で保持した前記他方の金属板を前記一方の金属板に押し当てる段階で、該金属板保持部の押し当て方向とは反対方向への移動を許容する逃げ機構を備えている構成としたことを特徴としており、この金属板位置決め装置の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る金属板位置決め装置において、前記逃げ機構による前記金属板保持部の移動を規制するロック機構を備えている構成としている。
さらに、本発明の請求項3に係る金属板位置決め装置は、前記金属板保持部の押し当て方向とは反対方向への移動を検出するセンサを備えている構成としている。
この場合、金属板保持部には、マグネット吸着タイプのものや、吸引タイプのものや、クランプタイプのものなど、様々なタイプのものを用いることができ、特に限定しない。
【0010】
本発明に係る金属板位置決め装置において、他方の金属板を一方の金属板に偏りなく押し当てることができるようにするために、逃げ機構に、金属板保持部に対して常時押し付け方向の力を付与するばねの機能を持たせることが望ましい。
ここで、金属板保持部の移動を規制するロック機構としては、空圧や油圧などの流体圧を用いたものや、ソレノイドなどの磁力を用いたものなどを採用することができるが、空圧シリンダや油圧シリンダを用いてロック機構を構成すれば、圧力を制御することでこのロック機構を上記したばねとしても機能させることができる。
【0011】
また、本発明に係る金属板位置決め装置において、逃げ機構は、移送手段に支持される装置基部の根元側に配置することも可能であるが、装置基部の剛性などを考慮すると、金属板保持部の近傍、例えば、装置基部の先端部と金属板保持部との間に配置することが望ましい。
さらに、本発明に係る金属板位置決め装置において、金属板保持部及び逃げ機構は、長尺状を成している他方の金属板の位置決めに対応するべく、他方の金属板の長手方向の複数箇所に配置するようにしてもよい。
【0012】
本発明に係る金属板位置決め装置では、例えば、一方の金属板の端面に他方の金属板を取り付ける場合、金属板保持部で他方の金属板を保持した後、移送手段により装置基部及び金属板保持部を移動させて他方の金属板を一方の金属板の近傍に運んで押し付けるようにすると、他方の金属板を保持した金属板保持部が、逃げ機構により一方の金属板の端面に倣うようにしてスライドするので、一方の金属板の端面に他方の金属板が密着することとなる。
【0013】
この際、一方の金属板に位置誤差が生じていたとしても、逃げ機構がこの位置誤差を吸収するので、装置基部及び金属板保持部側に過大な負荷がかかることが回避されることとなる。
加えて、力の制御の演算を必要としないので、その分だけ、タクトタイムが増大することをも阻止し得ることとなる。
【0014】
ここで、他方の金属板を保持した状態で金属板保持部を移動させる場合において、逃げ機構による金属板保持部の移動をロック機構により規制し、他方の金属板を一方の金属板に押し付ける段階でこの規制を解除するようになせば、他方の金属板の搬送時における安定性を確保し得ることとなる。
また、他方の金属板の押し付け時において、センサにより金属板保持部の押し当て方向とは反対方向への移動を検出するようになせば、他方の金属板の押し付けが完了したことを目視に頼ることなく確認し得ることとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る金属板位置決め装置では、上記した構成としているので、例えば、一方の金属板である平板の端面に他方の金属板であるフェース材を取り付ける場合において、平板の位置誤差の有無にかかわらず、フェース材を保持する側に過大な負荷をかけることなく、フェース材を平板の端面に確実に押し付けることができ、加えて、力の制御の演算を必要としない分だけ、タクトタイムの増大化をも回避することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0016】
また、本発明の請求項2に係る金属板位置決め装置では、上記した構成としたため、他方の金属板を安定した状態で搬送することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
さらに、本発明の請求項3に係る金属板位置決め装置では、上記した構成としているので、一方の金属板に対する他方の金属板の押し付けが完了したことを目視に頼らずに確認することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る金属板位置決め装置の一実施例を示す既存の門型クレーンに支持させた状況における正面説明図である。
【図2】図1に示した金属板位置決め装置の部分拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る金属板位置決め装置を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本発明に係る金属板位置決め装置の一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る金属板位置決め装置が移送手段としての門型クレーンに支持される場合を例に挙げて説明する。
図1に示すように、移送手段としての門型クレーン1は、金属板載置部2A,2Bの両側に沿って配置したレール3と、金属板載置部2A,2Bに跨って設けられてレール3上をモータ4の出力によりラック&ピニオン方式で走行する門型台車5と、この門型台車5の横梁5a上を往復移動するスライダ6と、このスライダ6に鉛直方向に移動可能に支持される昇降ポスト7を備えており、スライダ6及び昇降ポスト7も、それぞれモータ8,9の出力によりラック&ピニオン方式で移動するようになっている。
【0019】
金属板載置部2Aにはフェース材(他方の金属板)Fが寝かせた状態で載置され、金属板載置部2Bにはベースパネル(一方の金属板)BPが同じく寝かせた状態で載置される。
この門型クレーン1に支持される金属板位置決め装置10は、昇降ポスト7に支持された装置基部11と、金属板載置部2A上に載置されるフェース材Fを保持解放するマグネットタイプのハンド(金属板保持部)12を備えている。
【0020】
装置基部11は、昇降ポスト7の下端部に配置された鉛直方向に沿うモータ13の出力軸13aに接続してあり、一方、ハンド12は、図2にも示すように、装置基部11の先端部に水平方向の軸14回りに回動可能に支持されたハンドホルダ17に連結されていて、このハンドホルダ17は、歯車機構15を介して伝達される装置基部11内の図示しないモータの出力により回動する。
【0021】
この場合、ハンド12とハンドホルダ17との間には、ハンド12の押し当て方向とは反対方向(図示右方向)への移動を許容する逃げ機構20が配置してある。この逃げ機構20は、ハンドホルダ17に形成されたガイド用貫通孔21と、このガイド用貫通孔21に摺動自在に挿通したガイドピン22と、シリンダ本体23aがハンドホルダ17に固定され且つピストン23bがハンド12に固定されたシリンダ23を具備している。
【0022】
ガイド用貫通孔21は、ハンド12の押し当て方向に沿って形成されており、ガイドピン22は、その頭部22aをハンドホルダ17のハンド12とは反対側に位置させた状態でハンド12に固定してある。
シリンダ23は、そのシリンダ本体23aを図示しないコンプレッサに接続することで、空気圧により作動するものとなっており、シリンダ本体23aの内圧を高めることで、ピストン23bの動きを固定するロック機構として機能し、シリンダ本体23aの内圧をやや高めることで、ばねとして機能するようにしてある。
【0023】
また、ハンドホルダ17には、近接センサ18が配置してあり、ハンド12の押し当て方向とは反対方向への移動を検出するようになっている。
次に、上記した本実施例に係る金属板位置決め装置10の動作を説明する。
まず、図1に仮想線で示すように、門型台車5,スライダ6及び昇降ポスト7をそれぞれ動作させると共に、装置基部11及びハンド12自体を動作させて、金属板載置部2A上に寝かせた状態で載置されたフェース材Fをハンド12により保持する。
【0024】
この際、ロック機構を兼ねるシリンダ23がばねとして機能するようにしておけば、逃げ機構20によりハンド12の押し当て方向とは反対方向への移動が許容されるので、ハンド12側に過大な負荷がかかることなく、ハンド12がフェース材Fに密着することとなる。
続いて、フェース材Fを保持したハンド12を上昇させつつ装置基部11に対して回動させてフェース材Fを立てた後、門型台車5,スライダ6及び昇降ポスト7をそれぞれ動作させて、図1に示すように、装置基部11及びハンド12を移動させてフェース材Fを金属板載置部2B上のベースパネルBPの近傍に位置させる。
【0025】
この搬送の間、シリンダ23のシリンダ本体23aの内圧を高めて、ピストン23bの動きを固定するロック機構として機能させれば、逃げ機構20によるハンド12の押し当て方向とは反対方向への移動が規制されるので、フェース材Fを安定した状態で搬送することができる。
そして、ロック機構によるハンド12の動きの規制を解除したうえで、門型台車5により装置基部11及びハンド12を移動させて、フェース材FをベースパネルBPに押し付けるようにすると、図2に仮想線で示すように、ハンド12がフェース材Fとともに逃げ機構20によりベースパネルBPの端面に倣うようにしてスライドするので、ベースパネルBPにフェース材Fが密着することとなる。
【0026】
この際、ベースパネルBPに水平方向の位置誤差が生じていたとしても、逃げ機構20がこの位置誤差を吸収するので、装置基部11及びハンド12に過大な負荷がかかることが回避されることとなり、加えて、力の制御の演算を必要としないので、その分だけ、タクトタイムが増大することをも阻止し得ることとなる。
また、フェース材Fの押し付け時において、近接センサ18がハンド12の押し当て方向とは反対方向への移動を検出しているので、ベースパネルBPに対するフェース材Fの押し付けが完了したことを目視に頼ることなく確認し得ることとなる。
【0027】
なお、本実施例に係る金属板位置決め装置10では、ハンド12及び逃げ機構20を一つずつ配置した構成としているが、長尺状を成しているフェース材Fの位置決めに対応するべく、いずれもフェース材Fの長手方向の複数箇所に配置するようにしてもよい。
また、本実施例に係る金属板位置決め装置10では、移送手段としての門型クレーン1に支持される場合を例に挙げて説明したが、移送手段としての6軸多関節ロボットに支持される場合であってもよい。
【0028】
さらに、本実施例に係る金属板位置決め装置10では、一方の金属板であるベースパネルBPの端面に、他方の金属板であるフェース材Fを密着させるのに用いた場合を説明したが、これに限定されるものではなく、一方の金属板に他方の金属板を積層させるのに用いてもよい。
本発明に係る金属板位置決め装置の構成は、上記した実施例による金属板位置決め装置10の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0029】
1 門型クレーン
2A,2B 金属板載置部
3 レール
5 門型台車
6 スライダ
7 昇降ポスト
10 金属板位置決め装置
11 装置基部
12 ハンド(金属板保持部)
17 ハンドホルダ
18 近接センサ
20 逃げ機構
21 ガイド用貫通孔(逃げ機構)
22 ピン(逃げ機構)
23 シリンダ(逃げ機構:ロック機構)
BP ベースパネル(一方の金属板)
F フェース材(他方の金属板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板等の一方の金属板に、鋼板等の他方の金属板を取り付ける際の該他方の金属板の位置決め装置であって、
クレーンや6軸多関節ロボットなどの移送手段に支持されて、水平方向及び鉛直方向に移動可能とした装置基部と、
この装置基部に支持されて、前記他方の金属板を保持解放する金属板保持部と、
この金属板保持部で保持した前記他方の金属板を前記一方の金属板に押し当てる段階で、該金属板保持部の押し当て方向とは反対方向への移動を許容する逃げ機構を備えている
ことを特徴とする金属板位置決め装置。
【請求項2】
前記逃げ機構による前記金属板保持部の移動を規制するロック機構を備えている請求項1に記載の金属板位置決め装置。
【請求項3】
前記金属板保持部の押し当て方向とは反対方向への移動を検出するセンサを備えている請求項1に記載の金属板位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−264866(P2010−264866A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117552(P2009−117552)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)