説明

金属検出器用磁気シールドボックス

【課題】検査対象物の搬出入口からの磁気ノイズの侵入を効率的に低減できる金属検出器用磁気シールドボックスを提供する。
【解決手段】金属検出器用磁気シールドボックス80の開口部81の内壁と外壁から外側に向けて、それぞれ内壁張り出しダクト87と外壁張り出しダクト88とが設けられている。本実施の形態では内壁張り出しダクト87が設けられていることに特徴がある。外壁張り出しダクト88は必ずしも設けられなくても、内壁張り出しダクト87により外部からの磁気の遮蔽がある程度効率的に行われる。内壁張り出しダクト87と外壁の外側のパーマロイ層83とは接触せずその間に間隙が設けられている。また外壁張り出しダクト88が設けられている場合にも、内側張り出しダクト87と外側張り出しダクト88とが重なり合わない。外側張り出しダクト88があった方が遮蔽効果は高くなるので両ダクトが設けられることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属検出器用磁気シールドボックスに関し、特に開口部に張り出しダクトを設けた金属検出器用磁気シールドボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製品、特に食品の安全確保のためには、製品内の金属異物を検出することは重要であり、その検出方法および装置の開発が進められている。一般的には特許文献1(特開平7−198860)に開示されるような誘導コイル型の磁気式検出装置が広く用いられてきた。
【0003】
しかし、検出対象によっては、磁気式検出装置のディップ位相角と感度設定が難しく、検知精度を上げるために2台の磁気式検出装置を用いて検査対象物を異なった角度で通過させるといったことも行われており、より精度の高い磁気検出装置が求められてきた。
【0004】
一方、超伝導材料にはジョセフソン効果や磁束の量子化といった特性があり、これらの性質を利用して高感度の磁気センサである超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconductive Quantum Interference Device、)を作製することができるようになったことから、本出願の発明者はこの要求に対応するための特許文献2(特開2004−151064)に開示の食肉用超伝導型金属検出装置を開発し、食肉用のみならず食品から一般製品用の金属検出装置としても実用化されている。
【特許文献1】特開平7−198860号公報
【特許文献2】特開2004−151064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般の製品においても、例えばパソコン用リチウムイオン電池内に混入した微少金属異物が原因となって、火災事故にまで発展するなどのことがあり、工業製品についても微少な金属異物を検出することが大きな課題となっている。工業用では食品用に比べてより小さな金属が問題となるので、100マイクロメートル以下の異物を高感度で検出することが必要である。
【0006】
高感度での検出を行う場合、一般的には、異物が混入したと思われる被検査物を強力な磁石で磁化(帯磁)し、その後、超伝導量子干渉素子(SQUID)などの高感度磁気センサを用いて、被検査物内の金属異物の残留磁化を測定する方法が行われている。この場合、磁気センサが高感度であるため、地磁気や周辺機器からの磁場によってノイズが混入し、計測したい信号がノイズに埋もれてしまうという問題がある。そこで、一般的にはパーマロイと呼ばれる高透磁率材料で2重あるいは3重にした磁気シールドボックスを作り、その中にセンサを格納して異物を検査する。これによって外部からの磁気ノイズの侵入を防止することができる。
【0007】
図5は従来の超伝導型金属検出装置の模式的斜視図であり、図6は従来の超伝導型金属検出装置の磁気シールドの模式的断面図である。図5に示す超伝導型金属検出装置1は、磁気検出のための超伝導量子干渉素子10と、冷却装置20と、磁気シールド30と、コンベア40と、排除機構46と、帯磁装置50と、制御部70と、架構78とを備えている。磁気シールド30は高透磁率材料であるパーマロイ層34の2層構造となっており、コンベヤ40の出入り口となる開口部31が前後に設けられている。
【0008】
磁気シールドは磁気遮蔽材料により構成され、磁気遮蔽材料としてはアモルファス合金なども用いられるが、機能とコストの面からパーマロイ製の磁気シールドが多く使用されている。しかし、パーマロイ製の磁気シールドはなお高コストであり、この原価低減が望まれている。
【0009】
図5、図6の超伝導型金属検出装置1では、磁気シールド30の前後の壁面にコンベヤ40の出入り口となる開口部31が設けられている。この開口部31から外部磁界がシールド30の内部に漏洩してシールド性能が低下するため、十分大きな磁気遮蔽効果が得られないという問題があった。その対策として開口部に筒状(角形あるいは円筒形)のダクトを設置することで開口部からの漏洩磁界を低減する方法が考案されている。従来技術ではシールドから外側に向けてダクトを設ける構造とすることが一般に行われていた。
【0010】
本発明の目的は、検査対象物の搬出入口からの磁気ノイズの侵入を効率的に低減できる金属検出器用磁気シールドボックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属検出器用磁気シールドボックスは、
磁気を検知して検査対象物の内部に残留している金属を検出する金属検出装置に取り付けられて、内部の磁気センサを外部の磁気ノイズから遮断するための磁気シールドボックスであって、外壁と内壁とが間隙を有するように配置された中空のボックス本体と、外壁および内壁のそれぞれに設けられた第1および第2の開口部と、第2の開口部に設けられていて、第1の開口部に向けて張り出す内壁張り出しダクトと、を備えたことを特徴とする。
【0012】
内壁張り出しダクトの先端と外壁の内側面との間には間隙が設けられていてもよく、外壁の第1の開口部からその外壁の外側に向けて張り出す外壁張り出しダクトを備えてもよく、外壁張り出しダクトの内面と、内壁張り出しダクトの外面とは重なり合わないことが望ましく、外壁張り出しダクトの外壁面からの張り出し長さは、開口部の高さと幅の乗数の平方根の値よりも短いことが望ましく、外壁と内壁を形成する壁面部材は、パーマロイ層、あるいはパーマロイ層とアルミ層および/または鋼板層との組み合わせであってもよい。
【0013】
金属検出器用磁気シールドボックスの開口部に、少なくとも内壁から外壁に向けて磁気遮蔽材料により構成された内壁張り出しダクトを設け、内壁張り出しダクトの先端と外壁面の内側との間には間隙が設けられ、外壁張り出しダクトの内面と、内壁張り出しダクトの外面とは重なり合わないように構成したので、開口部を経由して侵入する外部からの磁気ノイズの影響が効率的に抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、金属検出器用磁気シールドボックスの開口部に、壁部の内壁面から外壁面に向けて磁気遮蔽材料により構成された張り出しダクトを、外壁面に接触せず、またその壁面の開口部から外側に向けて張り出した張り出しダクトとも重ならないように設けたので、開口部を経由して侵入する外部からの磁気ノイズの影響を効率よく抑制できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックスの模式的断面図である。金属検出器用磁気シールドボックス80は「発明が解決しようとする課題」の項で図5、図6を参照して説明した超伝導型金属検出装置1の磁気シールド30の代替として使用される。
【0016】
金属検出器用磁気シールドボックス80は、内壁と外壁の二重壁構造を有する六面体の箱型に構成されており、金属検出装置の検査対象物を搬出入するための開口部81を対向する両面に有している。開口部81は外壁に設けられた第1の開口部81aと内壁に設けられた第2の開口部81bとからなる。ここではコンベアによって検査対象物を搬出入することとしているので両側に開口部が設けられているが、例えば手や道具で検査対象物を検査位置に設置する場合には片側だけでもよく、その場合にもこの実施の形態は適用できる。開口部81はそれぞれの内壁と外壁とに設けられている。
【0017】
この実施の形態では、内壁は内側のパーマロイ層82から構成され、外壁は内壁から空間部84を挟んで設けられた外側のパーマロイ層83から構成されており、空間部84を挟んだパーマロイ層の二層構成となっている。それぞれの板厚や空間部の幅は金属検出器用磁気シールドボックス80のサイズに対応して決められる。また、後述の応用例にあるように磁気遮蔽材料はパーマロイに限定されるものでもない。
【0018】
金属検出器用磁気シールドボックス80の内壁の第2の開口部81bおよび外壁の第1の開口部81aから外側に向けて、それぞれ内壁張り出しダクト87と外壁張り出しダクト88とが設けられている。従来の磁気シールドボックスでは外壁張り出しダクトだけが設けられている例もあるが、本実施の形態では内壁張り出しダクト87が設けられていることに特徴がある。外側張り出しダクト88は必ずしも設けられなくても、内側張り出しダクト87によって外部からの磁気の遮蔽がある程度行われる。
【0019】
本実施の形態の内壁張り出しダクト87と外壁のパーマロイ層83の内面とは接触せずその間に間隙が設けられている。また外壁張り出しダクト88が設けられている場合にも、内壁張り出しダクト87と外壁張り出しダクト88とが重なり合わないことに特徴がある。
【0020】
図2は本発明の実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックスの張り出しダクトのシミュレーション用モデルの形状図であり(a)は正面断面図、(b)は側面断面図であり、図3はシミュレーションの結果を示すグラフである。
【0021】
図2に示すシミュレーション用モデルと、張り出し部を有しないシミュレーション用モデルを作製し、張り出しダクトの長さを変えて遮蔽度を実測した。その結果が図3に示すグラフである。ここで、遮蔽度とはシールド外部磁気密度/内部磁束密度である。
【0022】
図3に示すグラフに見られるように、ダクトなしの場合に比べて外層ダクトのみであっても遮蔽度は向上するが、ダクト長さを延ばしても遮蔽度の上昇は少ないことがわかる。内層ダクトのみの方が外層ダクトのみよりも遮蔽度が高いが、このモデルの場合では張り出し長さが内外壁の間隔の約半分以上ではむしろ降下している。この場合ダクトの内壁と外壁の間隔は80mmに対しダクト長さ40mmが最高点となっており、従って外壁まで伸ばしたり、外層ダクトと重ねたりしてもその遮蔽効果は少ないことがわかる。外部に突出する外層ダクトの遮蔽効果よりも外部に突出しない内層ダクトの方の遮蔽効果が大きいので、装置全体との関係で内層ダクトのみを設けるか外層ダクトも設けるかを決めればよい。内層ダクトと外層ダクトとの両方を設ければ図3に示すように遮蔽効果は更に増加する。
【0023】
従来の図6の外壁部33と内壁部32との2層のパーマロイ層34で構成された磁気シールド30では、計測対象となる磁性体と高感度磁気センサとが開口部31の近傍にあったため、開口部31を経由して入力した環境から発生する磁気ノイズの磁気センサに及ぼす影響を除くことができなかったが、本実施の形態ではシールドボックスの内部と連通する内壁張り出しダクト87を第2の開口部81bに設けることによって遮蔽度を改善することができた。
【0024】
モデルを用いた計算値によれば、図3に示すように外壁張り出しダクトの張り出し長さが開口部の高さの約1/2で、全くダクトのない場合に比べて遮蔽度は約1.3倍となったが、それ以上長くしても遮蔽度に殆ど変化がなかった。従って外壁張り出しダクトの張り出し長さを単に長くしても比例した効果は得られない。シミュレーションの結果によれば、開口部の高さと幅の乗数の平方根の値よりも長くしても遮蔽効果は増加しない。
【0025】
本実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックス80では、地磁気や周辺機器からの磁場によって混入するノイズ以外にも、例えば携帯電話などが発生する電磁波によるノイズも有効に遮蔽できる効果がある。
【0026】
これまで説明した実施の形態とは異なった磁気遮蔽材料の構成を用いた応用例について説明する。図4は本発明の実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックスの応用例の模式的断面図である。
【0027】
図1の実施の形態では金属検出器用磁気シールドボックスの磁気遮蔽材料として2層のパーマロイ層のみを使用していたが、図4の応用例では金属検出器用磁気シールドボックス90では、内側のパーマロイ層92のさらに内側に第1の空間95を隔ててアルミ層93が設けられた三層複合構造となっている。底面部では開口部91の上辺と同じ位置となるようにアルミ層93が設けられており、アルミ層93が内部の超伝導量子干渉素子10と冷却装置20と断熱容器21を取り巻く形となっている。
【0028】
従来のパーマロイの2層構造と比較するためにモデルを想定してシミュレーションを行った結果では、導電率の高いアルミニウム層を含む三層複合構造モデルでは、磁気雑音の周波数が増加するにつれて渦電流による磁気遮蔽効果が大きくなり、高周波ノイズに対して遮蔽度が大きく上昇した。
【0029】
応用例の張り出しダクトの構成は図1の実施の形態と同じなので、張り出しダクトの構造と効果についての説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックスの模式的断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックスの張り出しダクトのシミュレーション用モデルの形状図であり(a)は正面断面図、(b)は側面断面図である。
【図3】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の金属検出器用磁気シールドボックスの応用例の模式的断面図である。
【図5】従来の超伝導型金属検出装置の模式的斜視図である。
【図6】従来の超伝導型金属検出装置の磁気シールドの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 超伝導型金属検出装置
10 超伝導量子干渉素子
20 冷却装置
30 磁気シールド
31、81 開口部
32 内壁部
33 外壁部
34 パーマロイ層
40 コンベア
46 排除機構
50 帯磁装置
70 制御部
78 架構
80、90 金属検出器用磁気シールドボックス
81、91 開口部
81a 第1の開口部
81b 第2の開口部
82 内側のパーマロイ層
83 外側のパーマロイ層
84 空間部
87、97 内壁張り出しダクト
88、98 外壁張り出しダクト
92 内側のパーマロイ層
93 アルミ層
94 外側のパーマロイ層
95 第1の空間
96 第2の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気を検知して検査対象物の内部に残留している金属を検出する金属検出装置に取り付けられて、内部の磁気センサを外部の磁気ノイズから遮断するための磁気シールドボックスであって、
外壁と内壁とが間隙を有するように配置された中空のボックス本体と、
前記外壁および前記内壁のそれぞれに設けられた第1および第2の開口部と、
前記第2の開口部に設けられていて、前記第1の開口部に向けて張り出す内壁張り出しダクトと、を備えたことを特徴とする金属検出器用磁気シールドボックス。
【請求項2】
請求項1に記載の金属検出器用磁気シールドボックスにおいて、
前記内壁張り出しダクトの先端と前記外壁の内側面との間には間隙が設けられている、金属検出器用磁気シールドボックス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属検出器用磁気シールドボックスにおいて、
前記外壁の前記第1の開口部から該外壁の外側に向けて張り出す外壁張り出しダクトを備える、金属検出器用磁気シールドボックス。
【請求項4】
請求項3に記載の金属検出器用磁気シールドボックスにおいて、
前記外壁張り出しダクトの内面と、前記内壁張り出しダクトの外面とは重なり合わない、金属検出器用磁気シールドボックス。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の金属検出器用磁気シールドボックスにおいて、
前記外壁張り出しダクトの前記外壁面からの張り出し長さは、前記開口部の高さと幅の乗数の平方根の値よりも短い、金属検出器用磁気シールドボックス。
【請求項6】
請求項1に記載の金属検出器用磁気シールドボックスにおいて、
前記外壁と前記内壁とを形成する壁面部材は、パーマロイ層、あるいはパーマロイ層とアルミ層および/または鋼板層との組み合わせである、金属検出器用磁気シールドボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−218729(P2008−218729A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54368(P2007−54368)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(598159997)アドバンスフードテック株式会社 (14)
【Fターム(参考)】