説明

金属構造部材特に鉄構造部材のジルコニウムリン酸塩処理

本発明は鉄製金属表面を少なくとも部分的に有する金属構造部材の防食保護のために、ジルコニウム及び/又はチタンのフルオロ錯体とリン酸イオンとを特定比率で含むクロム非含有水性処理溶液を前処理に用いる方法。これによって前処理された金属構造部材、及びこれを防食保護被覆及び/又はラッカー系塗料の塗布のための使用(図1)に関する。前記方法は特に非閉鎖中空体形状の金属構造部材の電着塗装用前処理に好適である。従って本発明の目的は、クロム非含有水性処理溶液を用いる前処理を施し、次にこれを電着塗装することを含む非閉鎖金属中空体の被覆方法、本発明方法により被覆された金属中空体、及びラジエータ製造のための前記金属構造部材の使用を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム及び/又はチタンのフルオロ錯体とリン酸イオンとを互いに特定の比率で含有しクロムを含まない水性処理溶液を使用して、鉄から製造された金属表面を少なくとも部分的に含む金属構造部材を防食保護前処理する方法、このようにして前処理された金属構造部材、及びこれらの、さらなる防食保護被覆及び/又はラッカー系塗料の塗布のための使用に関する。本発明方法は、非閉鎖中空体の形状で提供される金属構造部材の電着塗装のための前処理として特に適している。従って本発明はまた、クロムを含有しない水性処理溶液を使用する前処理と以後の電着塗装の両方を包含する非閉鎖金属中空体を被覆する方法と、本発明の方法で被覆される金属中空体と、及びラジエーターの製造のためのこれらの使用とを提供する。
【背景技術】
【0002】
金属材料(特に鉄及び鉄鋼材)の不動態化は、主に亜鉛又は鉄のリン酸塩処理により確実に行われる。亜鉛又は鉄のリン酸塩処理においては、金属基材上に、主に結晶性無機被膜が形成され、この被膜は数マイクロメータの膜厚を有し、また、この被膜はその表面の細密形状に起因して、有機上塗り層、特に、電着法により塗布されたラッカー系塗装に対して、優れた接着性を有している。非膜形成性リン酸鉄処理においては、金属表面の化成処理は、通常リン酸媒体中において、かつ、促進剤及び湿潤剤の存在下で、高い浴温度において実施される。これらのリン酸鉄被膜は、1g/m2より大きい被覆質量を有することはめったになく、かつこのリン酸鉄被膜は、高被覆質量を有するリン酸塩処理とは異なり、非晶質である。古典的リン酸塩処理は、通常、構造部材を脱脂するための清浄化工程、活性化工程、及び最後に実際のリン酸塩処理工程からなる多段階法を構成し、この連続操作に、各工程用処理浴を分離させるための水洗工程が組み込まれる。この種の水洗操作は、少なくとも清浄化工程後に不可欠であり、このようにしてリン酸塩処理は少なくとも4つの個々の工程からなり、これらの工程は、それぞれの処理浴においてプロセス工学の観点から、モニターされ、制御されなければならない。これらの高度のプロセス工学要件とリン酸塩処理操作に伴う複雑さは、時に、自動車製造以外の低コスト用途における構造部材に、この種の不動態化を導入することの障害となっている。また別の技術的欠点は、重金属に汚染されたリン酸塩スラッジのような残渣の処理であり、これは不動態化用浸漬浴中の高リン酸塩含有量により避けられないことであり、またこれは、さらなるエネルギー及び物質の転換による処理によってのみ可能なことである。従って全体的に、上記高い浴温度が前記古典的リン酸塩処理を、回収処理のために高いエネルギーコストと、極めて多くの要求事項とを有する方法にしている。
【0003】
非膜形成性リン酸鉄処理以外の、1g/m2よりも著しく大きな被覆質量を与える標準的リン酸塩処理に対するさらなる他の代替法は、金属表面の化成処理であり、これは、ある場合には、200mg/m2未満の、はるかに小さい被覆重量を有する、純粋に非晶質の無機不動態層を形成するものである。
【0004】
前述のような非膜形成性(非結晶性)リン酸塩処理及び/又は化成処理をもたらすすべての金属表面用前処理方法は、表面の活性化が不要になり、従って前処理方法連鎖から切り離され得るという利点を有する。膜形成性リン酸亜鉛処理をこえる別の利点は、リン酸塩処理浴中のリン酸塩スラッジの減少である。
【0005】
例えば、US5,356,490号及びWO04/063414号は、ジルコニウム及び/又はチタン化合物を含有する、リン酸塩非含有、クロム非含有水性処理溶液を教示しており、これらのジルコニウム及び/又はチタン化合物が、酸性媒体内において、酸洗作用による、いわゆる不動態化化成被膜として、金属構造部材上に沈着する。上記両文献は、防食保護及び塗料接着性の点において、所望の効果を達成するために、分散された水不溶性無機化合物をさらに含有しなければならないことを教示しており、WO04/063414号は、シリカを主成分とする酸安定性のナノ分散した化合物の存在が明らかに必要であることを教示し、これに対してUS5,356,490号は、有機ポリマーの添加無しで成功している。
【0006】
また、DE1933013号は、3.5より大きいpH値を有するリン酸塩非含有処理浴を開示しており、この処理浴は、金属に換算して0.1〜15g/リットルのホウ素、チタン、又はジルコニウムのフッ化物錯体に加えて、0.5〜30g/lの酸化剤、具体的にはm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、をさらに含有するものである。DE1933013号の教示に従って、酸化剤として用いられるm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムには、金属表面の処理時間を、特に大幅に変化させる機能が割り当てられている。
【0007】
これに対して、WO03/002781号は、リン酸以外に、ジルコニウム及び/又はチタンのフルオロ錯体と、ビニルピロリドンのホモ−もしくはコポリマーも含有している前処理溶液を開示している。このような前処理溶液は、電着塗装により得られる低被覆重量のアモルファス混合有機/無機不動態化を与える。
【0008】
DE2715292号は、アルミニウム缶のクロム非含有前処理のための処理浴を開示しており、この処理液は、少なくとも10ppmのチタン及び/又はジルコニウム、10〜1000ppmのリン酸塩、及び存在するチタン及び/又はジルコニウムの複合フッ化物を生成するのに充分な量の、但し少なくとも13ppmのフッ化物を含み、かつ1.5乃至4のpH値を有する。
【0009】
特許出願公開公報US2007/0068602号は、ジルコニウムのフルオロ錯体、及びリン酸塩陰イオンに加えて、バナジウムのオキソアニオンも含有する不動態化前処理溶液を開示しており、前記含有成分の含有量は、有効な防食保護を達成するためには、互いに特定の比率範囲内になければならない。
【0010】
しかし、ジルコニウム及び/又はチタンの化合物及びリン酸塩を含有する組成物による不動態化前処理に関する先行技術からは、先行技術の前処理溶液のいずれの具体的な組成が、アモルファス不動態化層の最適電着塗装による最適な防食保護を保証するかについては、何の教示も得ることができない。特に、元々の装置製造業者にとっては、被覆された金属構造部材の良好な塗料の均一電着性及び、被覆された金属構造部材の均一な防食性とともに、塗料消費が比較的少ないことが経済的に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の目的は、膜形成リン酸塩処理のコストが高くかつエネルギー集約的な方法工程を使用することなく、先行技術において既知の非膜形成性処理法と比較して、防食保護及び電着塗料の消費に関しては、少なくとも同等かもしくは改良された結果を与える、少なくとも部分的に鉄からなる金属構造部材の化成処理方法を提供することである。この従来方法に代る方法は、一方で、防食保護された金属表面、特に鉄表面を、できるだけ少なく、かつ容易にモニターできる方法工程で提供するものでなければならず、また他方では処理することが困難な残渣(例えばリン酸塩スラッジ)の発生を避けつつ、できるだけ最大に資源を保存しつつ実施することが可能なことができるものでなければならない。さらにこの代替法は、前記処理された金属構造部材の、好ましくは非閉鎖中空体の形状にあるものの、次工程における、電着塗装を適確に行えるようにして、原則的に塗料均一電着性を最適にして、使用される塗料の消費量を最少にすることをめざすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的はまず、防食保護前処理法によって達成される。この方法において、鉄から製造された金属表面を少なくとも部分的に含む、処理されるべき構造部材を、下記成分:
(i)フルオロ錯体の形の、50ppm以上、1000ppm以下のジルコニウム及び/又はチタン、及び
(ii)10ppm以上、1000ppm以下のリン酸イオン、
を含有し、ジルコニウム及び/又はチタンと、リン酸イオンとのモル比が10:1以下、1:10以上であり、クロムを含まない水性処理溶液に、3.5以上、6.0以下のpHにおいて接触させる。
【0013】
ここで前記金属構造部材は、好ましくは、完全に鉄からなるか、及び/又は鉄含量が50原子%を超える鉄合金からなるものであるか、或は、鉄の比率が50原子%を超える表面を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
(原文記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記処理溶液はクロム化合物の添加を必要とせず、従って生態学的(ecological)理由から、及び高レベルの工業的安全性を保証するために、クロムを含まないものである。しかしクロムイオンが、容器材料又は処理される表面(例えば、鋼鉄合金)から、低濃度で前処理溶液に入る可能性は否定できない。しかし実際には、すぐ使用できる処理溶液中のクロムの濃度は、約10ppm以下、好ましくは1ppm以下であると予測される。
【0016】
前記処理溶液のpHは、希硝酸又はアンモニア性溶液を添加することにより一定の範囲内に任意に調整することができる。しかし処理溶液のpHは、5.5未満、特に5.0未満であることが特に好ましい。
【0017】
処理溶液中に存在するジルコニウム及び/又はチタンのリン酸塩に対するモル比を利用することにより、処理される構造部材の防食性及び、その後の電着塗装中の均一電着性に関する前処理性能を調整することができる。驚くべきことに、処理溶液中に存在するジルコニウム及び/又はチタン対リン酸塩の含有比率が過剰に高い場合も、相対的にジルコニウム及び/又はチタンの含有量が低すぎる場合も、均一電着特性に、極めて悪い影響を及ぼすことが示されている。最適の結果、すなわち塗料沈着中の最大均一電着性は、特にジルコニウム及び/又はチタンとリン酸イオンとのモル比が1:1以上に調整されたときに達成される。若し、この比率が10:1よりもジルコニウム及び/又はチタン側に増大すると、次工程の塗料沈着中の均一電着性が顕著に低下するため、ジルコニウム及び/又はチタンベースのリン酸塩不動態化処理は有効に達成されない。同じことが、前記前処理の防食性にも適用され、これは、ジルコニウム及び/又はチタンと、リン酸イオンとのモル比について記載された好ましい範囲において特に顕著である。
【0018】
本発明の他の実施態様におけるジルコニウム化合物の使用は、チタン化合物の使用よりも技術的に良好な結果を与えるので、従って好ましいものである。例えばジルコニウムの複合フルオロ酸又はその塩を使用することができる。
【0019】
さらに、本発明の方法において、成分(i)として少なくとも150ppm、好ましくは少なくとも200ppmの、しかし350ppm以下、好ましくは300ppm以下のジルコニウムをフルオロ錯体の形で含有する処理溶液が好ましい。
【0020】
処理溶液の本発明のリン酸塩含量は、先行技術に記載された亜鉛又はリン酸鉄処理浴に比較して極端に低い。少なくとも10ppmの低い濃度のリン酸イオンでも、ジルコニウム及び/又はチタンのフルオロ錯体と組合せると、ジルコニウム及び/又はチタンの薄いアモルファスリン酸塩層が形成され、従って金属表面、特に鉄表面の所望の不動態化が行われる。すなわち均一な不動態化は、すでに、リン酸塩含量が好ましくは30ppm、特に好ましくは少なくとも60ppmで起きている。しかし処理上の経済的理由で、また処理浴中のリン酸塩スラッジ生成を避けるために、リン酸塩含量は、1000ppmを超してはならず、好ましくはリン酸イオン濃度が180ppm以下であり、特に好ましくは120ppm以下である。
【0021】
驚くべきことに、リン酸鉄処理又はリン酸亜鉛処理から既知の促進剤は、均一な不動態化の生成を促進することが示される。これらの促進剤の代表は酸化剤であり、これが金属表面に対する酸の攻撃作用の結果として生成する水素を直接酸化し、この過程で酸化剤自身は還元されるということにおいて、酸化剤はリン酸処理の「水素トラップ」の役割を果たす。材料表面における大量の水素発生の防止は、膜形成リン酸塩処理中の、数マイクロメートルの膜厚を有する結晶性リン酸塩層の形成を促進する。同じことが、非膜形成性リン酸鉄処理中に促進剤が存在する場合にも当てはまり、この場合には、形成されるリン酸鉄被膜の厚さは実質的に1マイクロメートル以下である。先行技術において既知の促進剤は、明らかに、ジルコニウム及び/又はチタンリン酸塩に基づくわずか数ナノメートルのアモルファス不動態層の均一な生成を支持することができる。しかし前記処理浴中の促進剤の活性度は、例えば亜鉛リン酸化の場合よりも実質的に低レベルに設定して、通常の酸化剤が1000ppm以下の含有量で使用されるようにするべきであるが、鉄鋼系金属表面のジルコニウム及び/又はチタンベースの不動態化を促進するためには、処理溶液中に、前記酸化剤が少なくとも10ppmの含有量で存在しなければならない。酸化剤の典型例は、塩素酸イオン、亜硝酸イオン、ニトログアニジン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、m−ニトロ安息香酸イオン、p−ニトロフェノール、m−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、遊離型又は結合型の過酸化水素、遊離型又は結合型のヒドロキシルアミン、及び還元性糖である。特にm−ニトロベンゼンスルホン酸塩を促進剤として用いることにより、20ppm以上、好ましくは50ppm以上、かつ500ppm以下、好ましくは300ppm以下の含有量において、処理溶液の、不動態化特性の明らかな改良が達成される。
【0022】
不動態層の特性及び次工程において塗布される塗料膜に対する接着性のさらなる改良は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、鉄、カルシウム、及び/又はマグネシウムの粒状の水不溶性無機化合物の添加により得られ、この場合、処理溶液中のこれらの化合物の含有量は、各元素を基準にして、少なくとも10ppmであり、粒状成分の凝集及び沈降により処理溶液が不安定化されないためには、200ppmを超えてはならない。上記元素の酸化性化合物は、好ましくはナノ粒子形状で使用される。
【0023】
ドイツ特許出願DE10005113号は、ビニルピロリドンのホモ−又はコポリマーが優れた腐食防御作用を示すという知見に基づくものである。従って本発明の方法では、クロム非含有処理溶液は、好ましくは50ppm以上、特に好ましくは200ppm、しかし1000ppm以下のビニルピロリドンのホモ−又はコポリマーを含む。
【0024】
本発明の他の特徴は、この方法が、好ましくはビニルピロリドンのホモ−又はコポリマーに基づくポリマー以外の有機ポリマーを添加することなしで実施できることである。すなわちヒドロキシル及び/又はカルボキシル官能基を有するポリマーは、しばしば、不動態化処理浴に、大量(>1g/リットル)に加えられて、無機不動態層中に取り込まれ、この層中で、次工程で塗布される有機被膜に対するバインダーとして作用する。しかし、他のポリマーの添加は、前記前処理溶液から浸漬被覆浴への前記ポリマー成分の「持ち出し」(drag over)機能により、浸漬被覆浴の安定性又は塗料被膜自体の品質が悪影響を受ける可能性があるため、この方法のコストが高くなる。従って、本発明の処理溶液中の、ビニルピロリドンのホモ−又はコポリマーではないポリマーの量は、1ppm以下であることが好ましい。
【0025】
次工程として電着塗装を伴う処理方法における処理溶液へのポリマーの添加は、本発明の前処理直後に少なくとも1回の集中水洗工程を必要とするので、水洗時間と水洗水の量を減少させるために、本発明の方法は、ジルコニウム及び/又はチタンとリン酸イオンのモル比を調整して、ポリマー添加を完全に排除できるようにするべきである。従って本発明はまた、上述の方法を包含し、これらの方法においては、ジルコニウム及び/又はチタンとリン酸イオンのモル比が1:1以上であり、処理溶液中の有機ポリマーの量は1ppm以下である。
【0026】
さらに本発明の方法は、金属(特に鉄)表面の充分な不動態化を達成するために、バナジウム、タングステン、及び/又はモリブデンのオキソ陰イオンから選択された追加の無機添加剤を必要としない。従って具体的態様において、前記処理溶液は、上記タイプのオキソ陰イオンを明らかに含まず、従って、これらの含有量は具体的には1ppm以下と定める。
【0027】
特殊な金属表面(特に特殊な鉄合金)の処理において、不動態化処理中におけるジルコニウム及び/又はチタンベースのリン酸塩層の欠陥を修復するために、本発明の方法における処理溶液中に追加の成分として、少量のこれらのオキソ陰イオン、具体的にはバナジウム酸塩及びモリブデン酸塩が存在してもよい。しかし、処理上の経済的理由のために、本発明の方法の処理溶液中のこれらの化合物の比率は、各元素に基づいて好ましくは50ppm未満、特に好ましくは10ppm未満である。
【0028】
本発明の方法において、前記処理溶液はキレート化物質をさらに含んでよい。驚くべきことに、キレート化物質、具体的には、α−ヒドロキシカルボン酸に基づくもの、の存在により、長期操作中の処理浴中の酸洗浄速度が安定化され、従って、金属表面の酸洗浄の結果として、浴中に入る金属イオンの含有量にほとんど関係なく、ジルコニウム及び/又はチタンベースのリン酸塩の堅固な層が形成することが示されている。さらに、キレート化物質を加えることによって、溶解度の低い金属水酸化物からなるスラッジの形成を大幅に減少させることができる。本発明方法における前記処理溶液への添加物としてのキレート化物質が、α−ヒドロキシカルボン酸、特に好ましくは8以下の炭素原子を有するポリヒドロキシ酸から選択されることが好ましく、グルコン酸が特に好ましい。本発明の方法の処理溶液中のキレート化物質の含有量は、少なくとも0.01質量%であることが好ましく、特に好ましくは、少なくとも0.05質量%であるが、2質量%以下であることが好ましく、特に好ましくは、1質量%以下である。
【0029】
本発明の方法で処理される金属構造部材は、必要に応じて、予じめ、その表面から不純物、特に潤滑油及び/又は防錆油が、清浄化工程において除去される。本発明の方法において、この清浄化を省略すると、前記構造部材の全金属表面を被覆する均一な不動態化層の達成が不可能になる。本発明の前処理前の清浄化工程を省くためには、本発明の方法の酸性処理溶液は少なくとも1つの表面活性物質を追加的に含有させて、成分の金属表面の有効な清浄化と不動態化が同時に行われるようにしてもよい。不動態化前処理溶液中における界面活性物質の使用は自明ではなく、従って、それは本発明の方法において驚くべきことである。例えばDE1933013号(Bonderite NT(登録商標))によれば、リン酸塩非含有処理浴中における非イオン性界面活性剤の存在下では、金属表面の適切な不動態化は起きない。原則的に、本発明の方法の処理溶液中で安定で、10-3mol/l未満、好ましくは10-4mol/l未満の低臨界ミセル化濃度を有するすべての一般的な界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤は、表面活性物質として使用することができる。
【0030】
本発明の不動態化前処理法は、好ましくは40℃以下の処理溶液の浴温度で行われる。前処理溶液が表面活性物質をさらに含む場合、処理される金属表面の充分な清浄化のための浴温度は、好ましくは少なくとも30℃であり、80℃より高い浴温度は一方で不要であり、他方でエネルギー効率に負の影響を有する。
【0031】
本発明の処理法において金属表面は、浸漬法又はスプレー法により前処理溶液と接触させられる。
【0032】
別の態様において、本発明はまた、鉄で製造された金属表面を少なくとも部分的に含む非閉鎖金属中空体の防食保護被覆法を包含し、本発明の上記防食保護前処理法の後には、中間水洗工程有り、又は無しで、電着塗装が行われる。驚くべきことに、電着塗装後に、本発明の前処理後に得られる極端に薄いジルコニウム及び/又はチタンベースのリン酸塩のアモルファスで極端に薄い不動態化層は、電着塗装結晶性リン酸塩層と比較して、許容される防食性と塗料密着性とを示す。一方、本発明の被覆法と、前処理工程でアモルファス不動態層を形成するが、しかし、それはジルコニウム酸化物含有化成被膜(Bonderite NT(登録商標))に基づくものである代替法とは、防食性と鉄もしくは鋼鉄への塗料密着性において、少なくとも同等である。しかしこれらの代替法に対する本発明の前処理の決定的な利点は、同一の均一電着特性において、電着塗装中に得られる塗料消費がより低いことである。
【0033】
好ましくは、これらの非閉鎖中空体は、少なくとも部分的に鉄表面を有し、この中空体において、殻内側表面積と、その開口部表面積との比が5以上であり、従ってこの非閉鎖中空体は、例えば、少なくとも立方体に形成されており、本発明方法により被覆されるべきである。
【0034】
均一電着性、すなわち対電極と反対の方向を向いている金属構造部材の表面上、或は金属中空体の内側面域(これは、ファラデー遮蔽によって沈着の開始時に、電界線からほとんど離れていて、沈着してくる塗膜の電気抵抗の増大によって膜形成の達成が可能になる)上における浸漬塗料の沈着性は、本発明の不動態化前処理により決定的に定まり、従って本発明の前処理又は本発明の被膜層の特徴的事項と考えることができる。
【0035】
すなわち、電着塗料の膜厚の、特有の限界は、塗料の均一電着性に決定的に依存する。その理由は、同じ量の電荷の場合、より低く制限された、又は最大の塗料膜厚は、必ず最良の均一電着性を有する塗料によって得られるからである。
【0036】
この意味で、本発明方法により被覆された中空体の殻の外側表面上の電着塗料の膜厚と、同一の未処理であるが洗浄され脱脂された中空体の同一の殻外側表面上の、前記前処理なしで同一の単独電着塗装後の膜厚さとの比のような具体的な膜厚さの制限事項は、本発明の方法の特徴として与えられる。本発明において上記膜厚さ比は、0.95以下、好ましくは0.9以下で、特に好ましくは0.8以下である。
【0037】
金属中空体を被覆するための本発明の方法は、本発明の前処理工程と電着塗装処理工程の間で、好ましくは脱イオン水又は水道水による水洗工程を施すようにして、実施することができる。
【0038】
本発明の被覆法の別の好ましい実施態様においては、本発明の前処理後で電着塗装処理工程の前に、金属中空体の乾燥は行われない。
【0039】
本発明はまた、本発明の前処理法と被覆法により直接処理された金属構造部材と非閉鎖金属中空体とを提供する。但し、処理されるべき金属構造部材及び中空体は、少なくとも部分的には鉄からできた金属表面を含むものである。
【0040】
さらに本発明は、少なくとも部分的には鉄から作られた金属表面を含む全表面が、さらなる防食保護被膜及び/又は有機ラッカー系の塗布のために、本発明の方法に従ってクロム不含処理水溶液で前処理されている金属構造部材の使用を包含する。
【0041】
本発明はまた、少なくとも部分的には鉄から作られた金属表面を含む全表面が、まず本発明の方法に従ってクロム不含処理水溶液で前処理され、次に中間水洗工程有りもしくは無しで電着塗装されている、ラジエータの製造のための、非閉鎖金属中空体の使用を包含する。
【実施例】
【0042】
下記に、鋼板(CRS:冷延鋼板(Cold Rolled Steel))の前処理について本発明の実施例と比較例とを、その後の電着塗装を含めて示す。
【0043】
比較例1「アルカリ清浄化」
CRS板を、3質量% Ridoline 1562(登録商標)と0.3質量%Ridosol 1270(登録商標)からなる清浄化水溶液中で、この清浄化溶液を攪拌しながら、50℃で5分間浸漬する方法で処理する。
【0044】
比較例2「Bonderite NT-1(登録商標)」
CRS板を、まず前記比較例「アルカリ洗浄」に従って浸漬方法で清浄化し、次に清浄化した板を脱イオン水(k<1μScm-1)を流しながら1分間水洗する。次にこれをBonderite NT-1(登録商標)(Henkel KGaA)(ジルコニウムを含有するがリン酸塩を含まない水溶液)を用いて浸漬方法により20℃で1分間処理する。こうして前処理した板を、次に脱イオン水(k<1μScm-1)を流しながら1分間水洗する。
【0045】
比較例3「リン酸Zn処理」
CRS板を、まず比較例1「アルカリ清浄化」に従って浸漬方法で清浄化し、次に清浄化した板を脱イオン水(k<1μScm-1)を流しながら1分間水洗する。次にこれを市販品Granodine 958(登録商標)(Henkel KGaA)を用いて説明書に従って浸漬方法で処理する。この処理は、実際のリン酸化の前に活性化工程を含む。こうして前処理した板を、次に脱イオン水(k<1μScm-1)を流しながら1分間水洗する。
【0046】
実施例1「リン酸Zr処理」
CRS板を、まず比較例1「アルカリ清浄化」に従って浸漬方法で清浄化し、次に清浄化した板を脱イオン水(k<1μScm-1)を流しながら1分間水洗する。次にこれを、スプレー法により、
2ZrF6として300ppmのZr、
3PO4として100ppmのPO4
100ppmのm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(m-NBS)と
3000ppmのRidosol 2000(登録商標)(Henkel KGaAのクリーナー)と
からなる本発明の水溶液を用いて、そのpHをアンモニア性溶液でpH4.5に調整して、50℃で2分間処理する。こうして前処理した板を、次に脱イオン水(k<1μScm-1)を流しながら1分間水洗する。
【0047】
次に、すべての前処理した板をBASFのCathogard 500陰極浸漬塗料を用いて被覆し、180℃で30分間ベーキングする。
【0048】
平均塗料膜厚は、PosiTector 6000膜厚さ測定装置(DeFelsko Ltd., Canada)を使用して、板のアノードに面する側の異なる点で複数回測定することにより決定する。「リン酸Zn処理」された鋼板の塗料膜の厚さを測定するために、電着塗装の前に、リン酸亜鉛層の膜厚をまずPosiTector 6000を使用して複数回測定し、塗装後に測定した膜厚からこれ引いて算定する。
【0049】
本発明の前処理は、同じ電着塗装時間を有する「非膜形成性」前処理と比較して最も薄い膜厚を有することが、表1からわかる。フィルム形成性リン酸塩処理を施されたCRS板のみが、電着塗装後の、さらに薄い塗料膜厚を有する。
【0050】
これらの実験データは、本発明の前処理法により、先行技術の非膜形成性不動態化法と比較して、より少ない塗料消費が、従って自動的に改良された均一電着性が、達成されることを明らかにしている。
【0051】
【表1】

表1の註
*1:240Vの印加直流電圧で2分間電着塗装後の電荷の量
*2:前処理後及び電着塗装後に測定した膜厚の差から、リン酸亜鉛処理されたシート上の電着塗装被膜の厚さを測定した。
【0052】
上記実施例(「リン酸ジルコニウム処理」)の処方に従い、しかしリン酸ジルコニウム、リン酸塩、及びm−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムの比率を変動させて、前処理し、かつ上記実施例に従って電着塗装した板の防食性は、図1に記載されている。前述のように被覆されたCRSプレートを、塩水噴霧試験(DIN 50021 SS)に従って504時間かけてエージングした後に測定された、傷部でのさびによる剥離幅は、ジルコニウム対リン酸塩のモル比が1:10〜10:1である前処理溶液に対して、最適防食性が達成されたことを立証している。従って前記剥離幅は、504時間後にリン酸鉄塩処理後のさびの剥離幅について得られた値(これは通常には1.5mmである)に匹敵するか又はこれよりも良く、剥離幅0.9mmを与えるBonderite NT-1(登録商標)による前処理後のものよりわずかに大きい。
【0053】
同様に、本発明の対応するモル比を有する組成物で前処理したCRS板についても均一電着性が最適であることが確認できる(図2)。塗料付着性は、板のアノードに面する側の種々の点で複数回測定することにより決定され、平均される。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄から製造された金属表面を少なくとも部分的に含む金属構造部材の防食保護前処理するために、前記金属構造物を、下記成分:
(i)フルオロ錯体の形の50ppm以上、1000ppm以下のジルコニウム及び/又はチタン、及び
(ii)10ppm以上、1000ppm以下のリン酸イオン
を含有し、前記ジルコニウム及び/又はチタンと、前記リン酸イオンとのモル比が10:1以下、しかし、1:10以上であり、クロムを含有しない水性処理溶液に、3.5以上、6.0以下のpHにおいて、接触させること、
を特徴とする
鉄含有金属構造物の防食保護方法。
【請求項2】
前記ジルコニウム及び/又はチタンと前記リン酸イオンのモル比が、1:1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理溶液は、促進剤(iii)として、ニトロベンゼンスルホン酸を、20ppm以上、好ましくは50ppm以上で、かつ500ppm以下、好ましくは300ppm以下の含有量で含有する、請求項の1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理溶液が、成分(i)として、フルオロ錯体を構成しているジルコニウムを、好ましくは150ppm以上、特に好ましくは200ppm以上、しかし、好ましくは350ppm以下、特に好ましくは300ppm以下の含有量で含有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記処理溶液が、好ましくは30ppm以上、特に好ましくは60ppm以上、しかし、好ましくは180ppm以下、特に好ましくは120ppm以下の、リン酸イオンを含有する、請求項の1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記処理溶液が、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、鉄、カルシウム、及び/又は、マグネシウムの、ナノ粒子型の無機化合物を追加的に含有し、前記処理溶液中の前記無機化合物の含有量が、元素を基準にして、10ppm以上であるが200ppmを超えない、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記処理溶液が、α−ヒドロキシカルボン酸、好ましくは8以下の炭素原子を有するポリヒドロキシ酸、特に好ましくはグルコン酸から選択されたキレート化物質をさらに含有する、請求項2乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記処理溶液中のα−ヒドロキシカルボン酸から選択されたキレート化物質の含有量が、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上であり、しかし2質量%以下、好ましくは1質量%以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理溶液が、少なくとも1種の表面活性物質をさらに含有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
鉄から製造された金属表面を、少なくとも部分的に有する非閉鎖金属中空体を防食保護被覆するために、前記中空体を、先ず、
(A)前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法に従って前処理し、次に
(B)中間の水洗工程を施した後又は施さずに、電着塗装する、
ことを含む、鉄含有非閉鎖金属中空体の防食保護被覆方法。
【請求項11】
前記非閉鎖金属中空体の殻内側表面とその開孔表面の比が、5以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理工程(A)の後、かつ電着塗装処理工程(B)の前に、前記非閉鎖金属中空体の乾燥が行われることのない、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
処理工程(A)及び(B)によって被覆された前記非閉鎖金属中空体の殻外側表面上の電着塗装の膜厚と、それと同一の、未処理であるが清浄化され脱脂された前記非閉鎖金属中空体の殻外側表面上の、前記処理工程(B)に従い前記と同一であるが、単独で電着塗装のみが施された後の膜厚との比が、0.95以下、好ましくは0.9以下で、特に好ましくは0.8以下である請求項10乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
鉄から製造された金属表面を少なくとも部分的に含み、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法に従って被覆されている、非閉鎖金属中空体。
【請求項15】
請求項14の非閉鎖金属中空体のラジエーターの製造のための使用。

【公表番号】特表2011−504550(P2011−504550A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535354(P2010−535354)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066144
【国際公開番号】WO2009/068523
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】