説明

金属溶解方法

【課題】 シャフト炉などの金属溶解炉を用いた金属原料の溶解において、大きな設備投資コストなしに、多くの面倒な加工に伴う多くの費用と時間を必要とせず、従来法に比べ
製品製造コストを低減させ、生産性を向上させた金属溶解方法を提供する。
【解決手段】 金属溶解炉内に金属原料を投入して溶解させるに際し、V型またはU型に折り曲げた金属原料を投入し、溶解させる金属溶解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶解方法に関し、詳しくは、シャフト炉などを用いた地金、スクラップ等の金属原料の溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャフト炉などを用いて、金属原料、例えば電気精錬銅及びスクラップ銅を、コンベアまたはバケットによりシャフト炉上部に設けられた装入口から1〜3トン(t)程度をまとめて炉内に投入し、LPGやLNG等の燃料によって得られた熱で該金属原料を溶解する金属溶解方法が行われてきた。
シャフト炉内は上部およそ3/4にあたる予熱ゾーンと称される部分と、下部およそ1/4にあたる溶融ゾーンと称される部分にわかれ、金属原料は上部の予熱ゾーンで炉の燃焼排ガスの熱で予熱され、下部の溶融ゾーンで溶解されていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−14263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、シャフト炉などを用いた金属溶解方法においては、まとめて炉内に投入した金属原料同士は、炉内の同じ位置に落下し水平に積み重なり、1)炉内で金属原料同士がお互いに密着する、2)炉内で上から下までまったく金属原料がない大きな未占有空間が生じる、などの現象が起こっていた。上記1)に関しては、金属原料は、熱伝導を行う接触表面積が小さいため、予熱ゾーンでの金属原料の燃焼排出ガスによる予熱が非効率的になり、それを補う為、より多量の燃料を要する問題が生じていた。また、上記2)に関しては、炉内空間に未使用空間が生じること生産性を低下させる問題が生じていた。
【0004】
1)の問題を解決するため、炉長を30から40%アップして、予熱ゾーンを長くする方法が行われていたが、大きな設備投資コストが必要であった。また、1)の問題を解決するため、波型(コルゲート型)に加工した金属原料を用いる方法が行われていたが、まとめて投入する金属原料のうちの多くの原料について、この面倒な加工を施す必要があり、その多くの面倒な加工に多くの費用と時間を必要とした。
2)に対しては、金属原料を投入する際に落下する方向を前後左右に機械的に振り分ける方法があるが、既に稼動中の炉に対してはスペースなどの問題により設置が難しい場合が多く、また可能であっても多くの設備投資を要していた。さらに装入口で振り分けられた原料が炉の壁面に当たりながら落下するため炉壁を構成するレンガ等の損耗を早めるという欠点もあった。
【0005】
本発明の目的は、シャフト炉などを用いた金属原料の溶解において、上記問題を解決し、大きな設備投資コストなしに、多くの面倒な加工に伴う多くの費用と時間を必要とせず、製品製造コストを低減させ、生産性を向上された金属溶解方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)金属溶解炉内に金属原料を投入して溶解させるに際し、V型またはU型に折り曲げた金属原料を投入し、溶解させる金属溶解方法、
(2)前記V型に折り曲げた金属原料が、2つの斜面部によって形成される角度が50〜130度である一対の斜面部を有する(1)項記載の金属溶解方法、
(3)前記V型に折り曲げた金属原料が、前記金属原料の全体の長さの80%以上の長さの一対の斜面部を有する(1)または(2)項記載の金属溶解方法、
(4)前記U型に折り曲げた金属原料が、少なくとも1つの曲面部を有する(1)項記載の金属溶解方法、
(5)前記曲面部の曲げ半径が前記金属原料の全体の長さの50%以下である(4)項記載の金属溶解方法、
(6)前記V型またはU型に折り曲げた金属原料を第一の金属原料とし、前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料を第二の金属原料として、前記第二の金属原料に対して前記第一の金属原料を所定の頻度で炉内へ投入する(1)〜(5)のいずれか1項に記載の金属溶解方法、および、
(7)前記所定の頻度は、前記第二の金属原料3〜10tに対して前記第一の金属原料を1つの頻度で炉内へ投入する(6)項記載の金属溶解方法、
を提供するものである。
本発明において「V型」および「U型」とは、それぞれ「略V型」および「略U型」をいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、シャフト炉などを用いた金属原料の溶解において、大きな設備投資コストなしに、多くの面倒な加工に伴う多くの費用と時間を必要とせずに、製品製造コストを低減し、生産性を向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の金属溶解方法は、金属溶解炉内に金属原料を投入して溶解させるに際し、V型またはU型に折り曲げた金属原料を投入し、溶解させるものである。本発明における金属溶解炉としては、それに限定されるものではないが、シャフト炉が好ましい。シャフト炉としては、通常のタフピッチ銅やりん脱酸銅の製造に用いられているシャフト炉をそのまま用いることができる。
【0009】
V型またはU型に折り曲げられる金属原料としては、V型またはU型に折り曲げ加工できるものならば特に限定されず、銅、鉄、アルミニウム等のスクラップや、地金等を用いることができる。好適に用いることができるものとしては、例えば、電気精錬銅及びスクラップ銅が挙げられる。また、折り曲げ加工前の金属原料の形状としては、例えば、矩形板、その他の多角形板、円板、角柱、円柱、棒、管などが挙げられる。また、V型またはU型への折り曲げ加工は常法により行うことができる。
【0010】
V型またはU型に折り曲げた金属原料の全体の長さ(例えば、矩形板状の金属原料では折り曲げていない辺の長さ)に特に限定はないが、800〜1100mmが好ましい。また、V型またはU型に折り曲げた金属原料の重量にも特に限定はないが、100〜200kgが好ましい。
【0011】
本発明の一つの好ましい実施態様では、矩形板状の金属原料を折り曲げ、一対の斜面部を有するV型に折り曲げた金属原料を用いるものである。V型とは、一対の斜面部が交差するV曲げ部が一つのもののみならず、V曲げ部が2つ、あるいはそれ以上連続したものを含み、また、V字の先端が平らになった、いわゆる台型の形状を含むものである。この一対の斜面部の各々の斜面部によって形成される角度は、好ましくは50〜130度、さらに好ましくは70〜110度である。この角度が小さすぎると金属原料の折り曲げ加工に多くのエネルギーを要するため経済的でなく、大きすぎると振り分け効果が小さくなってしまうからである。
【0012】
また、一対の傾斜部は、各々の斜面部の長さの合計が、金属原料の全体の長さの好ましくは80%以上、さらに好ましくは90〜100%である。各々の斜面部の長さの合計が少なすぎると振り分け効果が小さくなってしまうからである。
【0013】
本発明の別の好ましい実施態様では、少なくとも1つの曲面部を有するU型に折り曲げた金属原料を用いるものである。曲面部の曲げ半径は、金属原料の全体の長さの50%以下、好ましくは10〜20%である。曲げ半径が大きすぎると振り分け効果を生まないことがある。
【0014】
本発明ではV型またはU型に折り曲げた金属原料は、前記V型またはU型に折り曲げた形状と異なる金属原料とともに炉内に投入され、前記V型またはU型に折り曲げた形状と異なる金属原料とともに該炉内で溶解させられるものである。図1は、本発明の溶解方法の一例を断面により示す説明図である。シャフト炉1には予熱ゾーン2、溶解ゾーン3および装入口4が設けられている。1山の前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料5(ここでは折り曲げない金属原料)は装入口4から炉内に投入され、ある間隔で、V型に折り曲げた金属原料6も装入口4から炉内に投入される。投入された前記V型またはU型に折り曲げた形状と異なる金属原料5、およびV型に折り曲げた金属原料6は炉内で適度の空間部を有しつつ、予熱ゾーン2の上端付近まで炉内を占有する。ガスバーナ等で加熱された溶解ゾーンで、前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料5、およびV型に折り曲げた金属原料6は溶解され、一定量の溶湯が炉出される。続いて、炉出量に相当する前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料5、およびV型に折り曲げた金属原料6が装入され、上記の工程が繰り返される。
【0015】
本発明においては、好ましくは前記V型またはU型に折り曲げた形状と異なる金属原料3〜10t、さらに好ましくは4〜6tに対して、V型またはU型に折り曲げた金属原料を1つの頻度で炉内へ投入される。V型またはU型に折り曲げた金属原料に対して前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料が少なすぎると十分な振り分けがなされず、多すぎると必要以上に空隙を生み、生産性が低下する可能性があるからである。また、V型またはU型に折り曲げた金属原料の1個当たりの重量は、特に限定されるものではないがこの場合も100〜200kgが好ましい。
【0016】
本発明においてはV型またはU型に折り曲げた金属原料とともに、金属溶解炉内に投入できる前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料は限定されるものではないが、好ましくは、折り曲げない形状、V型またはU型の以外の形状に若干折り曲げた形状、波型(コルゲート型)形状等の電気銅、またはプレス成型加工したスクラップ銅が挙げられる。また、本発明においては、炉内に投入される折り曲げない形状の金属原料の一部を投入前に振り分け、V型またはU型に折り曲げ加工し、折り曲げない形状の金属原料に対して所定の頻度で炉内に投入することも好ましい。
【0017】
本発明において、V型またはU型に折り曲げた金属原料の作用は、必ずしも明らかではないが以下のように推定される。すなわち、V型またはU型に折り曲げた金属原料は炉内に投入され落下し、上向き(曲げ頂点が上向き)、下向き(曲げ頂点が下向き)、もしくは横向き(曲げ頂点が炉壁方向を向く)に着床する。引き続き、炉内に投入された金属原料は、前記着床したV型またはU型に折り曲げた金属原料の曲げ頂点(上向きに着床した場合)、斜面部(上向き、または下向きに着床した場合)、もしくは縁部(上向き、下向き、または横向きに着床した場合)上に落下衝突して、ランダムな方向に跳ね飛ばされて分散する。一部の金属材料は該V型またはU型に折り曲げた金属原料の斜面に沿って滑って広い範囲に分散し、また、該傾斜に沿って立つ形で炉内に落ち着き、これにより炉内で原料が水平に積み重なる状態を防ぐことになる。この結果、炉内の金属原料間には適度の空間が創出され、熱伝導を行う接触表面積が拡大することから、予熱ゾーンでの原料の予熱効率を向上させる。また、前記のように引き続き炉内に投入された金属材料が分散されることから、適度の振り分け効果を生じ、炉内で上から下までまったく金属原料がない大きな未占有空間を防ぐ。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
実施例1
折り曲げない状態の電気精錬銅2トン程度を1山として、表1に示す頻度で図2に示す2つの斜面部8a、8bによって形成される角度(折り曲げ角度)が90度である一対の斜面部を有するV型に折り曲げた金属原料7(1m×1m×8mm)とともに、その1山を1度にシャフト炉に投入して溶解を行い、一定期間における溶解原単位を測定した。溶解原単位とは溶銅1トンを製出するのに使用したLPG量であり、その値が大きいほど製品製造コストのおよそ半分を占める燃料コストが高く、生産性が悪いことを意味する。結果を表1に示す。なお、表1におけるNo.3及び4は3山の前記折り曲げない状態の電気精錬銅に対して1個の頻度で前記V型に折り曲げた金属原料を投入して溶解した本発明例であり、No.5は2山の前記折り曲げない状態の電気精錬銅に対して1個の頻度で前記V型に折り曲げた金属原料を投入して溶解した本発明例である。また、No.1および2は前記V型に折り曲げた金属原料を投入せず、折り曲げない状態の電気精錬銅のみをシャフト炉に投入して溶解した比較例である。
【0020】
【表1】

【0021】
表1より明らかに、V型に折り曲げた金属原料を投入しない比較例No.1,2に対し、V型に折り曲げた金属原料を折り曲げない金属原料とともに投入した本発明例No.3〜5では、溶解原単位は低くなり、よって製造コストが低減され、生産性が向上したことが確認された。これは炉内にV型に折り曲げた金属原料を投入し、溶解させたので、一部の金属原料間に空間を創出し、熱伝導を行う接触表面積を大きくし、予熱ゾーンでの金属材料の燃焼排出ガスによる予熱効率をアップさせ、燃料の使用量を低減させたためであり、ならびに金属原料を炉内に適度に振り分け、炉内で上から下までまったく金属原料がない大きな未占有空間が生じることを防いだためと考えられる。
【0022】
実施例2
実施例1において、折り曲げた金属原料を、図3の側面図で示される、一対の斜面部9a、9bと先端に平坦部10を有するV型に折り曲げた金属原料11、一対の斜面部12a、12bと先端に2つのV曲げ13a,13bを有するV型に折り曲げた金属原料14、およびU型に折り曲げた金属原料15にそれぞれ変更し、同様に金属の溶解を行ったところ、いずれも実施例1と同様の効果が得られた。
【0023】
実施例3
実施例1において、折り曲げない状態の電気精錬銅を、多少折り曲げた形状(折り曲げ角度約170度)、従来の波型(コルゲート型)形状の電気精錬銅、及び立方体形状(1片数十cm)にプレス成型加工したスクラップ銅にそれぞれ変更して、同様に金属の溶解を行ったところ、いずれも実施例1と同様の効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の概念を断面で示す説明図である。
【図2】実施例1で用いたV型に折り曲げられた金属原料を示す斜視図である。
【図3】実施例2で用いたV型またはU型に折り曲げられた金属原料を示す側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 シャフト炉
2 予熱ゾーン
3 溶解ゾーン
4 装入口
5 金属原料
6 V型に折り曲げた金属原料
7 V型に折り曲げた金属原料
8a、8b 斜面部
9a、9b 斜面部
10 平坦部
11 V型に折り曲げた金属原料
12a、12b 斜面部
13a、13b V曲げ
14 V型に折り曲げた金属原料
15 U型に折り曲げた金属原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶解炉内に金属原料を投入して溶解させるに際し、V型またはU型に折り曲げた金属原料を投入し、溶解させる金属溶解方法。
【請求項2】
前記V型に折り曲げた金属原料が、2つの斜面部によって形成される角度が50〜130度である一対の斜面部を有する請求項1記載の金属溶解方法。
【請求項3】
前記V型に折り曲げた金属原料が、前記金属原料の全体の長さの80%以上の長さの一対の斜面部を有する請求項1または2記載の金属溶解方法。
【請求項4】
前記U型に折り曲げた金属原料が、少なくとも1つの曲面部を有する請求項1記載の金属溶解方法。
【請求項5】
前記曲面部の曲げ半径が、前記金属原料の全体の長さの50%以下である請求項4記載の金属溶解方法。
【請求項6】
前記V型またはU型に折り曲げた金属原料を第一の金属原料とし、前記V型またはU型に折り曲げた形状とは異なる形状の金属原料を第二の金属原料として、前記第二の金属原料に対して前記第一の金属原料を所定の頻度で炉内へ投入する請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属溶解方法。
【請求項7】
前記所定の頻度は、前記第二の金属原料3〜10tに対して前記第一の金属原料を1つの頻度で炉内へ投入する請求項6記載の金属溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−131932(P2007−131932A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328098(P2005−328098)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】