説明

金属用水溶性加工油剤

【課題】水に溶解または分散して水溶液または分散液を形成し、マグネシウムを含む金属の加工用に使用しても安定な水溶液または分散液を維持し、経時的劣化の少ない金属用水溶性加工油剤を提供する。
【解決手段】オキシエチレン基の平均付加モル数が4〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩を1〜30重量%含む金属用水溶性加工油剤。また、加工対象物がマグネシウム含有金属である、金属用水溶性加工油剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属用水溶性加工油剤に関する。さらに詳細には、水に溶解または分散して水溶液または分散液を形成し、特にマグネシウムを含有する金属の加工油剤として好適に使用できる金属用水溶性加工油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を加工する際には、主に潤滑性の向上および冷却効果を目的として、その工程に応じて切削油、研削油、プレス油および圧延油などの加工油剤が使用される。前記加工油剤は、主に不水溶性加工油剤と水溶性加工油剤に大別され、優れた冷却性と安全性の点から水溶性の加工油剤が主流になりつつある。
【0003】
水溶性加工油剤は、通常、水で1〜50重量%程度の濃度に希釈し(得られた希釈液の全量が100重量%)、この希釈液がクーラントとして使用される。このように水で希釈するため、クーラントは微生物や加工金属の切屑の影響を受けて、経時的に劣化していく。とくに加工金属の切屑が混入すると、この切屑に油剤成分の一部が吸着され、油剤成分の濃度低下の原因となり、また切屑から溶出した金属イオンが、油剤成分である脂肪酸類と反応して水に不溶ないわゆる金属セッケンを形成し、クーラントの液相分離および不安定化を引き起こす。
【0004】
ところで、近年、自動車分野などにおいて車体の軽量化が進められており、使用される材料として、鉄からアルミニウム合金やマグネシウム合金などへシフトしてきている。マグネシウムを含有するアルミニウム合金やマグネシウム合金を加工する際にも前記水溶性加工油剤が使用されているが、マグネシウムは、鉄およびアルミニウムに比較してイオン化傾向が高いため、加工油剤にマグネシウムイオンが溶出しやすい。たとえば、通常、クーラントの硬度は40〜50mgCaCO3/L程度であるが、マグネシウム合金を加工した場合には2000mgCaCO3/Lにまで上昇する。そのため、マグネシウムを含有する金属加工の場合に、とくに前記したクーラントの液相分離および不安定化が問題となる。
【0005】
特許文献1には、スルホン酸塩を含むことを特徴とするマグネシウム合金用の水溶性加工油剤が開示されている。しかし、この水溶性加工油剤では、マグネシウムによるクーラントの液相分離および不安定化を解消するには不十分である。
【0006】
【特許文献1】特開平7−113096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マグネシウムを含有する金属の加工用に使用しても安定な水溶液または分散液を維持し、経時的劣化の少ない金属用水溶性加工油剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、金属用水溶性加工油剤に配合する界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩を使用することにより、水溶液または分散液の金属イオン濃度が高くなった場合でも、液相分離および凝集が起こらずに、安定な水溶液または分散液を維持することができることを見出してなされたものである。すなわち請求項1の発明は、加工油剤の全量を100重量%とした場合に、オキシエチレン基の平均付加モル数が4〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩を1〜30重量%含む金属用水溶性加工油剤を提供する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明にかかる金属用水溶性加工油剤であって、加工対象物がマグネシウム含有金属であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マグネシウムを含有する金属の加工用に使用しても安定な水溶液または分散液を維持し、経時的劣化の少ない金属用水溶性加工油剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の金属用水溶性加工油剤は、水で希釈したときに溶解または分散して水溶液または分散液を形成するものであり、前記金属用水溶性加工油剤の全量を100重量%とした場合、オキシエチレン基の平均付加モル数が4〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩を1〜30重量%含んでいる。
【0012】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩の含有量は、1〜30重量%であることが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩の含有量が1重量%より少ないと、クーラントの液相分離抑制効果が不十分となり、30重量%をこえると、この界面活性剤を処方した水溶液または分散液の泡立ちが多くなり、作業が困難となる。金属加工油剤に配合する界面活性剤としてこの化合物を使用することにより、極めて少ない量で水溶液または分散液を安定化することができる。
【0013】
本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸は、R1−O−(CH2CH2O)n−CH2−COOHで示され、その塩であってもよい。前記R1は、炭素数8〜20、好ましくは10〜18の直鎖状または分岐しているアルキル基であって、特に炭素数12の直鎖状アルキル基であることが好ましい。炭素数が8より小さいと、臭気が強くなる傾向にあり、20をこえると、クーラントの液相分離抑制効果が不十分となる傾向にある。
【0014】
前記nは、オキシエチレン基の平均付加モル数であり、4〜20である。nは、好ましくは6〜18であり、より好ましくは8〜12であり、さらに好ましくは10である。平均付加モル数が4より小さいと、クーラントの液相分離抑制効果が不十分であり、20をこえると、この界面活性剤を処方した水溶液の泡立ちが多くなり、作業が困難になる。また、本発明の金属用水溶性加工油剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩のほかに、基油、アミン化合物および該ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸以外の脂肪酸類などを含んでいてもよい。
【0015】
前記基油としては、鉱油、油脂および合成油などがあげられ、とくに限定されない。鉱油としては、灯油、軽油、スピンドル油、マシン油、タービン油、シリンダー油、トランス油、ニュートラル油、ブライトストック油、プロセスオイルおよび流動パラフィン油などがあげられる。油脂としては、なたね油、大豆油、パーム油、ヒマシ油、ヌカ油およびヤシ油などの植物性油脂や、牛脂およびラード油などの動物性油脂などがあげられる。合成油としては、エーテル油、エステル油、ポリアルキレングリコール油、ポリアルファオレフィン、アルキルベンゼン油、シリコーンオイル、ポリペンタジエン油およびポリエーテルポリオール油などがあげられる。これらのなかでも、水に希釈した際の液安定性が良好である点で、マシン油が好ましい。
【0016】
前記基油の含有量は、本発明の金属用水溶性加工油剤の全量を100重量%とした場合、0〜90重量%であることが好ましく、0〜80重量%であることがより好ましい。基油の含有量が90重量%をこえると、水に希釈した際の液安定性に劣る傾向にある。
【0017】
前記アミン化合物は、脂肪酸類と塩を形成して乳化剤、防錆剤および防腐剤として作用するものであり、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンおよびN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミンなどがあげられ、とくに限定されない。これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0018】
前記アミン化合物の含有量は、本発明の金属用水溶性加工油剤の全量を100重量%とした場合、1〜80重量%であることが好ましく、1〜50重量%であることがより好ましい。アミン化合物の含有量が1重量%より少ないと、得られる水溶液または分散液の安定性、防錆性および耐腐敗性が低下する傾向にあり、80重量%をこえると、水溶液または分散液のpHが高くなり、肌荒れの原因となり好ましくない傾向にある。
【0019】
本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸以外の脂肪酸類およびそのエステルとしては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびアラキン酸や、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸およびマレイン化脂肪酸などの二塩基酸、ひまし油系縮合脂肪酸などの縮合脂肪酸およびそのエステルなどがあげられ、とくに限定されない。これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0020】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸以外の脂肪酸およびそのエステルの含有量は、本発明の金属用水溶性加工油剤の全量を100重量%とした場合、1〜80重量%であることが好ましく、5〜50重量%であることがより好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸以外の脂肪酸およびそのエステルの含有量が1重量%より少ないと、得られる水溶液または分散液の防錆性が低下する傾向にあり、80重量%をこえると、水溶液のpHが低くなり、腐敗の原因となり好ましくない傾向にある。
【0021】
さらに、本発明の金属用水溶性加工油剤には、金属加工油剤に通常配合されるその他の成分が含まれていてもよい。たとえば、その他の界面活性剤、極圧添加剤、防腐剤、金属腐食防止剤、消泡剤および分散剤などがあげられ、とくに限定されない。
【0022】
これらの成分を混合し、均一になるまで撹拌することにより、本発明の金属用水溶性加工油剤を得ることができる。具体的には、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸を含むすべての脂肪酸類およびそのエステルとアミン化合物とを30〜40℃に加熱しながら混合した後、基油を添加して均一に撹拌、ろ過することで得られる。もちろん、この工程に限定されるものではない。その他の成分も適宜添加、撹拌すればよい。
【0023】
本発明の金属用水溶性加工油剤を使用して加工される金属としては、特に限定されず、鉄およびその合金、アルミニウムおよびその合金、マグネシウムおよびその合金などがあげられる。なかでも、イオン化傾向の高いマグネシウムを含有する金属に対して使用されると、本発明の効果がより顕著に発揮されるため好ましい。
【0024】
また、その加工の種類もとくに限定されず、金属加工全般に適応できる。たとえば、本発明の金属用水溶性加工油剤は、切削油、研削油、圧延油、プレス油、引き抜き油および押出し油として使用することができる。なかでも、本発明の効果がより顕著に発揮できる点で、金属イオンが溶出しやすい切削加工および研削加工に使用する切削油剤として使用することが好ましい。
【0025】
本発明の金属用水溶性加工油剤は、水で希釈して水溶液または分散液として使用される。この水溶液または分散液の全量を100容量%とした場合に、前記金属用水溶性工油剤の濃度は0.1〜50容量%であることが好ましく、1〜15容量%であることがより好ましい。前記金属用水溶性加工油剤の濃度が0.1容量%より低いと潤滑性、防錆性および耐腐敗性が低下する傾向にあり、50容量%をこえると水溶液または分散液のpHが高くなり、肌荒れの原因となり好ましくない傾向にある。
【0026】
また、前記水溶液または分散液のpHは、7〜11であることが好ましく、7〜10であることがより好ましい。pHが7より小さいと、得られた水溶液が腐敗しやすくなる傾向にあり、11をこえると、肌荒れの原因となり好ましくない傾向にある。
【0027】
本発明の金属用水溶性加工油剤を含む水溶液または分散液は、そのマグネシウム硬度が2000mgCaCO3/L以上であっても、安定な水溶液または分散液を維持することができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜5、比較例1および2
表1に示す配合割合にしたがって、金属用水溶性加工油剤を調製した。まず、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸を含むすべての脂肪酸類およびそのエステルとアミン化合物とを30〜40℃に加熱しながら混合した後、基油およびその他の成分を添加して約40℃にて均一に撹拌した。得られた混合物をろ過して金属加工油剤を得た。表1における配合割合を示した数値は、金属用水溶性加工油剤全量を100重量%とした場合の重量%を示す。
【0030】
評価方法
乳化安定度はJIS K 2241 7.4に準じて評価する。すなわち、100mLのメスシリンダーにマグネシウム硬度2000mgCaCO3/Lの水溶液90mLを加えた後、得られた金属用水溶性加工油剤10mLを加える。よく振とうした後、室温で静置する。24時間後に浮上した油層およびクリーム層の量を測定する。
【0031】
この測定結果を表1に示す。
【0032】
マグネシウム硬度2000mgCaCO3/Lの水溶液は、JIS K 0101 15.3.2のマグネシウム量を炭酸カルシウム相当量に換算する場合の係数に基づき、1Lのメスフラスコに塩化マグネシウム6水和物4.063gを入れ、蒸留水を加えて1Lとし、マグネシウム硬度が2000mgCaCO3/Lとなるように調整する。
【0033】
【表1】

【0034】
*1:タイポールソフト(登録商標)ECA−390(泰光油脂化学工業株式会社製)
*2:タイポールソフト(登録商標)ECA−490(泰光油脂化学工業株式会社製)
*3:タイポールソフト(登録商標)ECA−1090(泰光油脂化学工業株式会社製)
*4:タイポールソフト(登録商標)ECA−2085(泰光油脂化学工業株式会社製)
*5:TEA−99(ジャパンケムテック株式会社製)
*6:オレイン酸DD(日本精化株式会社製)
*7:ミネラゾール(登録商標)RC−22(伊藤製油株式会社製)
*8:KF−3400(KFトレーディング株式会社製)
*9:ダイアナフレシア(登録商標)G−9(出光興産株式会社製)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工油剤の全量を100重量%とした場合に、オキシエチレン基の平均付加モル数が4〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸またはその塩を1〜30重量%含む金属用水溶性加工油剤。
【請求項2】
前記金属がマグネシウム含有金属である請求項1記載の金属用水溶性加工油剤。

【公開番号】特開2008−214510(P2008−214510A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54624(P2007−54624)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000228486)日本グリース株式会社 (8)
【Fターム(参考)】