説明

金属箔用スリット加工装置

【課題】集電体シート切断面に存在する付着物の効果的な除去を行えると共に、スリット刃の後段に設置する粘着ロールの集電体シート切断面近傍に位置する部分の局部的な汚れを無くして粘着ロールの寿命を延ばすことができる金属箔用スリット加工装置を提供する。
【解決手段】金属箔2をスリット刃で所定幅に切断して電池用集電体シート1を製造する金属箔用スリット加工装置100において、切断時に切断部へ液体16を供給するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔、特に、材質が銅やアルミニウムの金属箔を切断して集電体シートを製造する際に、その集電体シート切断面に付着する切粉を効率良く除去するための金属箔用スリット加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池用集電体シート(以下、集電体シートと称する)を製造すべく、金属箔をスリット刃で切断(スリット)すると、集電体シート切断面(スリット面)から切粉が飛散するため、スリット刃近傍に設置した吸引装置で除去することが一般的である。
【0003】
吸引装置で捕捉できなかった切粉の一部は、集電体シート表面に付着したり、切断装置周辺に付着したりする。集電体シート表面に付着する飛散切粉は、集電体シート切断面近傍に多く、集電体シート切断面から離れた集電体シート中央部付近では少なくなる。
【0004】
このような飛散切粉や製造過程で集電体シート表面に堆積した付着物を除去するために粘着ロールが使用される。
【0005】
集電体シートの次の工程として電池用電極を製造する工程に適用した粘着ロール装置の構造は特許文献1に開示されている通りであり、図4に示すように、上下の粘着ロール41,41の間に搬送される電池用電極42を挟みながら粘着ロール41,41を押し当てることで、電池用電極表面の付着物43を除去する構造となっている。
【0006】
この粘着ロール装置を集電体シートに適用する場合は、粘着ロール装置を切断後に設置し、集電体シート表面の飛散切粉やその他の付着物を除去する。このようにして製造した集電体シートはコイル状に巻き出荷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−353513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粘着ロールでの付着物除去は、集電体シート表面に対して大きな効果を発揮する。しかし、次の電池用集電体を製造する装置に、前述したコイルを通過させると、パスラインロールの切断面近傍が切粉の付着で汚れ、電池用集電体の工程を切粉で汚染することが大きな問題となった。
【0009】
切断後に集電体シートをコイル状に巻いた状態でコイル端面の付着物を調査すると、粘着ロールの有無にかかわらず付着物の量は改善されなかった。これは、集電体シート切断面に対しては粘着ロールが接触しないため、集電体シート切断面に付着した切粉の除去ができないためであった。
【0010】
更に、集電体シート切断面近傍の集電体シート表面には飛散切粉が多いため、粘着ロールの汚れも集電体シート切断面近傍に位置する部分が局部的に激しくなり、粘着ロールの寿命が短くなる。
【0011】
このように、集電体シート切断面及び集電体シート切断面近傍表面の切粉除去が集電体シートの切断工程及び次の電池用集電体工程にとって重要な課題となっている。
【0012】
そこで、本発明の目的は、集電体シート切断面に存在する付着物の効果的な除去を行えると共に、スリット刃の後段に設置する粘着ロールの集電体シート切断面近傍に位置する部分の局部的な汚れを無くして粘着ロールの寿命を延ばすことができる金属箔用スリット加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために創案された本発明は、金属箔をスリット刃で所定幅に切断して電池用集電体シートを製造する金属箔用スリット加工装置において、切断時に切断部へ液体を供給する金属箔用スリット加工装置である。
【0014】
前記液体を保持することができるスポンジ体を前記スリット刃に押し当て、切断時に切断部へ液体を供給すると良い。
【0015】
前記液体がエタノール又は鉱物油であると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、集電体シート切断面に存在する付着物の効果的な除去を行えると共に、スリット刃の後段に設置する粘着ロールの集電体シート切断面近傍に位置する部分の局部的な汚れを無くして粘着ロールの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置を示す構造図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置を示す構造図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置を示す構造図である。
【図4】粘着ロールによって付着物を除去する粘着ロール装置を示す構造図である。
【図5】集電体シート切断面に付着している切粉を示す形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0019】
本発明者が集電体シート切断面に付着している切粉の形態を観察すると、図5の如く切粉として集電体シート切断面から分離した切粉が再度集電体シート切断面に再固着した形態の多いことが分かった。
【0020】
集電体シート切断面は新生面が露出しているため、切粉として飛散する以外に新生面に付着することが推察できる。また、スリット刃表面も上刃、下刃との接触及び集電体シートとの接触により生じた摩擦熱により活性化しているため、切粉をスリット刃表面に付着させると共に、スリット刃の切粉を再度集電体シート切断面に付着させていることも推察できた。
【0021】
図5に示すように、集電体シート切断面51に切粉の一部が形態A,Bの如く固着した場合には、下刃近傍に設置する吸引装置でも除去できず、粘着ロールで除去することになる。
【0022】
しかし、集電体シート切断面幅内で形態Cの如く固着した切粉は粘着ロールでも除去できず、切粉が除去されないまま製品として出荷されることになる。この形態Cの切粉の再付着防止のためには、集電体シート切断面51の新生面及びスリット刃活性面の対策が必要である。
【0023】
そこで、本発明者は対策として、集電体シート切断面51を液体で被覆し、更に、同じ液体でスリット刃の冷却効果を持たせることで、スリット刃表面の活性化を抑える方式を採用した。
【0024】
以下、この方式を実施するための金属箔用スリット加工装置の一例を説明する。
【0025】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置100は、電池用集電体シート(集電体シート)1を製造すべく銅やアルミニウムの金属箔2を所定幅に切断するための2つのスリット刃3と、金属箔2をスリット刃3で切断した際に飛散する切粉を吸引し排出するための吸引装置4とを備える。
【0026】
スリット刃3は、第一回転軸5によって回転自在に支持された上丸刃6と、第二回転軸7によって回転自在に支持されると共に上丸刃6に擦り合わされる下丸刃8とからなり、上丸刃6と下丸刃8が回転することで金属箔2を集電体シート1と切断屑9とに切断し分割するものである。
【0027】
上丸刃6は、上丸刃ホルダ10を介して刃の向きが可動に第一回転軸5に支持されており、スプリング11によって下丸刃8と擦り合わされるように下丸刃8側に押し付けられる。この刃組みは一般的にゲーベル式刃組み構造と呼ばれる。
【0028】
2つの下丸刃8の間には、その離間距離が一定に保たれるようにスペーサ12が設けられる。これにより、金属箔2を所定幅に一定して切断することができる。
【0029】
吸引装置4は、下丸刃8を受けると共に切粉及び後述する液体16を回収する下刃受け13と切粉を排出するダクト14とからなり、切断時に発生する切粉及び液体16を吸引し排出するためのものである。
【0030】
さて、第1の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置100においては、上丸刃近傍に洗浄液ノズル15を設置し、切断時に切断部へ液体(洗浄液)16を供給するようにした。
【0031】
液体16としては、エタノールや鉱物油等を用いると良い。これにより、蒸発熱によるスリット刃3の冷却化と共に集電体シート切断面の瞬間的な被膜が可能となり、また、集電体シート切断面に有害な物質が残留しないメリットがある。
【0032】
洗浄液ノズル15によって滴下された液体16は、上丸刃6の摩擦熱を奪うと共に集電体シート切断面近傍を濡らし液体16で被覆することにより、切粉の再付着を阻止する効果を発揮する。
【0033】
よって、金属箔用スリット加工装置100によれば、集電体シート切断面に存在する付着物の効果的な除去を行えると共に、スリット刃3の後段に設置する粘着ロールの集電体シート切断面近傍に位置する部分の局部的な汚れを無くして粘着ロールの寿命を延ばすことができる。
【0034】
次に、第2の実施の形態を説明する。
【0035】
図2に示すように、第2の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置200は、上丸刃6の刃先に液体16を保持することができるスポンジ体21を接触させ、そのスポンジ体21に洗浄液ノズル15から液体16を滴下することで、切断時に切断部へ液体16を供給するようにしたものである。
【0036】
この金属箔用スリット加工装置200によれば、前述した効果を得られるのは勿論のこと、上丸刃6に固着まではしていないが上丸刃6に付着しながら巻き上げられた切粉が集電体シート表面に飛散する前にスポンジ体21で捕捉することができる。なお、スポンジ体21が捕捉した切粉により汚れた場合には、新しいものに交換すると良い。
【0037】
次に、第3の実施の形態を説明する。
【0038】
図3に示すように、第3の実施の形態に係る金属箔用スリット加工装置300は、上丸刃31と下丸刃32が一定のクリアランスを持って金属箔2を切断するものであり、切断時の切断部への液体16の供給は金属箔用スリット加工装置100と同様の方法で行われる。この刃組みは一般的にギャング式刃組み構造と呼ばれる。
【0039】
金属箔用スリット加工装置300によれば、金属箔用スリット加工装置100と同様の効果が得られる。
【0040】
これら実施の形態においては、液体16の供給方法として洗浄液ノズル15で液体16を滴下する方法を説明したが、これはライン速度60m/分程度の場合には好適であるが、ライン速度100m/分程度の場合には適さない。この場合は、液体16の供給方法を滴下から噴霧、吹き付け等の方法に変更することが本発明の原理から必要な処置となる。
【実施例】
【0041】
図1に示した金属箔用スリット加工装置100を用い、厚さ10μmの圧延銅箔をライン速度60m/分で所定幅に切断して集電体シートとした後、粘着ロール装置を通過させコイル状に巻き取った。
【0042】
この状態で、同一コイル内でエタノールを滴下した部分と滴下しなかった部分について、後述する評価方法で集電体シート切断面に付着した切粉の量を比較した。
【0043】
集電体シート切断面に付着した切粉の評価は以下の手順で実施した。
【0044】
切断が終了してコイル状に巻き取った集電体シート切断面に粘着テープを貼り付け、粘着テープ表面に付着した切粉を100倍の顕微鏡で観察し、20μm以上の大きさの切粉の数をカウントした。最終的には粘着テープの寸法から単位面積あたりの切粉数で比較して評価した。この比較実験は3コイル実施し平均した。
【0045】
その結果、エタノールを滴下しなかった部分の集電体シート切断面の切粉量は平均55個/cm2であったが、エタノールを滴下した部分の切粉量は平均12個/cm2と明らかに減少した。
【0046】
更に、本発明の他の効果確認として、粘着ロールの寿命を調査した。
【0047】
粘着ロール装置の詳細な構造は図4に示した通りで、集電体シート1に接触する粘着ロール41,41は一体構造であり、この一体構造の粘着ロール41,41の背面側に接触走行するように一体構造の粘着ロール41,41よりも粘着力の大きな高粘着ロール44,44が配置された構造となっている。
【0048】
高粘着ロール44,44は、所定長さの粘着シート45をロール状に巻き付けたものである。集電体シート1の付着物43は、粘着ロール41,41に付着後、高粘着ロール44,44の粘着シート45によって捕獲される。
【0049】
粘着シート45による付着物43の捕獲量が多くなると、粘着力が低下して粘着シート45の寿命となる。この場合は、寿命となった粘着シート45を剥がし、新しい粘着シートを使用することとなる。
【0050】
エタノールを滴下しないで切断を実施した場合は、長さ3000m付近で粘着シート45の集電体シート切断面近傍に位置する部分に切粉の付着量が増加し、明らかに粘着力の低下が確認された。
【0051】
一方、エタノールを滴下して切断を実施した場合は、10000mを過ぎても粘着シート45には集電体シート切断面近傍に位置する部分の局部的な付着量の増加が認められず、30000mで粘着シート45の全体的な汚れによる寿命を確認した。
【0052】
以上の結果から、金属箔の切断作業における集電体シート切断面の切粉再付着を大幅に減少させることができ、切断後に設置した粘着ロールによる集電体シート表面の付着物除去のみで付着量の少ない集電体シートの供給が可能となることが分かる。
【0053】
また、集電体シート切断面の切粉除去が容易となり集電体シート切断面近傍の吸引装置で切粉除去を行うため、粘着ロールの寿命を延ばすことができた。
【0054】
更に、スリット刃の先端が常に液体に浸されるため温度上昇による銅、アルミニウム等の構成刃先の成長が抑制されることが期待できる。
【符号の説明】
【0055】
1 電池用集電体シート(集電体シート)
2 金属箔
3 スリット刃
4 吸引装置
5 第一回転軸
6 上丸刃
7 第二回転軸
8 下丸刃
9 切断屑
10 上丸刃ホルダ
11 スプリング
12 スペーサ
13 下刃受け
14 ダクト
15 洗浄液ノズル
16 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔をスリット刃で所定幅に切断して電池用集電体シートを製造する金属箔用スリット加工装置において、切断時に切断部へ液体を供給することを特徴とする金属箔用スリット加工装置。
【請求項2】
前記液体を保持することができるスポンジ体を前記スリット刃に押し当て、切断時に切断部へ液体を供給する請求項1に記載の金属箔用スリット加工装置。
【請求項3】
前記液体がエタノール又は鉱物油である請求項1又は2に記載の金属箔用スリット加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115914(P2012−115914A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265092(P2010−265092)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】