説明

金属線条体用リール

【課題】 胴部材とフランジ部材とに分割しボルトで固定した金属線条体用リールの側圧によるフランジ部材の変形を抑制し、ねじ山がつぶれたり変形したりしてボルトが外れなくなるのを防止する。
【解決手段】 フランジ部材13を内外両側から補強板14,15で挟み、各フランジ部材13と補強板14,15とをボルト16で連結し、胴部材12の内側を通る長尺ボルト17で両端のフランジ部材13および補強板14,15と胴部材12とを一体固定することにより、フランジ部材13のボルト固定部を補強し、側圧によるボルト固定部の変形を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線条体用リールに関し、特に、解線が容易でワイヤーソー用として好適なリールに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤソー用のリールは、伸線加工にて形成した極細金属線のソーワイヤをオンラインで巻き取り、ワイヤソーマシンの繰り出し部にセットして使用するもので、リールから繰り出してシリコン等を切断したソーワイヤは空リールに巻き取る。そして、その使用後のソーワイヤを巻き取ったリールはマシンから外し、解線してリールを空にし、再度そのリールに伸線加工にて極細金属線のソーワイヤを巻き取り、ワイヤソーマシンにセットして繰り返し使用するのが普通である。
【0003】
ところで、使用後のソーワイヤの取り外し、すなわち解線は、巻き戻すのでは時間がかかるため、一般には溶断による解線とされるが、溶断解線には、溶断に人手がかかるという問題があり、また、溶断熱にてリールが劣化、変形し、寿命が低下するという問題がある。
【0004】
そのため、ワイヤソー用リールとしては、図4に示すように、リール1を略円筒状の胴部材2と両端のフランジ部材3,3とからなる分割構造とし、フランジ部材3,3を取り外し可能なよう複数本のボルト4で固定したものが従来から使用されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0005】
ところが、このように胴部材2の両端にフランジ部材3,3をボルト4で固定したリール1は、極細金属線であるソーワイヤが図4に一点鎖線で示すように満巻き状態まで巻かれると、ワイヤ張力に起因して発生する側圧が極めて大きくなることにより、フランジ部材3,3が側圧で押し広げられ、図4に二点鎖線で示すように曲線状に曲がって、この曲がりによりボルト4で固定した部分(ボルト固定部)が変形し、ねじ山がつぶれるなどして、ボルトが外せなくなることがある。
【0006】
【特許文献1】特開2002−370152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フランジを取り外して解線できるよう、極細金属線のソーワイヤを巻くワイヤソー用リールのような金属線条体用リールを胴部材と両端のフランジ部材との分割構造とし、ボルトで固定したものでも、上記のように金属線条体を巻いたときの側圧でフランジ部材が曲がり、ねじ山がつぶれたり変形したりして、ボルトが外せなくなると、フランジが取り外せなくなり、フランジを取り外して解線することが不可能となる。
【0008】
そのため、こうした胴部材と両端のフランジ部材との分割構造でボルト固定式のリールの側圧によるフランジ部材の変形を抑制し、ねじ山がつぶれたり変形したりしてボルトが外れなくなるのを防止することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、略円筒状の胴部材の両端にフランジ部材をボルトで固定してなる金属線条体用リールであって、各フランジ部材のボルト固定部を含む軸心側部分を内外両側から補強板で挟み、各フランジ部材とその両側の補強板とをボルト連結により一体化することを特徴とする。
【0010】
このようにフランジ部材のボルト固定部を含む軸心側部分を内外両側から補強板で挟み、一体化して胴部材の両端にボルト固定して、金属線条体を巻いたときの側圧に対しフランジ部材のボルト固定部を補強することにより、フランジ部材の曲がりによるボルト固定部の変形を防止でき、ねじ山がつぶれたり変形したりしてボルトが外れなくなるのを防止することができ、解線時にフランジ部材を確実に取り外せるようになる。そして、ソーワイヤ等の金属線条体が満巻きになったリールのフランジ部材をボルトを外して取り外すことで、胴部材に巻かれた金属線条体をまとめて胴軸方向に取り外すようにできる。そして、このリールは補強板を用いた簡単な構成であるため、安価に製造できる。
【0011】
上記金属線条体用リールは、各フランジ部材とその両側の補強板とを複数箇所でボルト連結するとともに、上記胴部材の内側を通り両端のフランジ部材および各両側の補強板を貫通する複数の長尺ボルトによりそれら両端のフランジ部材および各両側の補強板と上記胴部材とを一体固定したものであってよい。
【0012】
また、上記金属線条体用リールは、各フランジ部材の内側の補強板を溶接により上記胴部材に固定し、各フランジ部材とその外側の補強板とを複数箇所で各内側の補強板とボルト連結したものであってもよい。この場合、長尺ボルトを省略することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、胴部材と両端のフランジ部材との分割構造でボルト固定式のリールの側圧によるフランジ部材の変形を抑制して、ねじ山がつぶれたり変形したりしてボルトが外れなくなるのを防止することができ、解線のためにフランジ部材を容易に取り外すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は第1の実施の形態のリール10(金属線条体用リール)を示している。このリール10は、例えば人工水晶、シリコン、セラミック等の硬質材料の切断に用いられる線径が例えば0.20mm以下の極細金属線のソーワイヤを巻くワイヤソー用リールで、例えばクロムモリブデン強じん鋼(SCM440)を素材とした略円筒状の胴部材12と、同じく例えばクロムモリブデン強じん鋼(SCM440)を素材とした両端の略円板状のフランジ部材13,13とからなる分割構造とし、各フランジ部材13を内外両側から補強板14,15で挟み、各フランジ部材13とその両側の補強板14,15とを複数箇所(例えば略同一円周上に略等間隔で4箇所)においてボルト16で連結することにより一体化するとともに、胴部材12の内側を通り、両端のフランジ部材13,13および各両側の補強板14,15を上記ボルト16による連結部より外側となる複数箇所(例えば略同一円周上に略等間隔で4箇所)において貫通する長尺ボルト17で、それら両端のフランジ部材13,13および各両側の補強板14,15と胴部材12とを一体固定したものである。補強板14,15は、各フランジ部材13のボルト固定部(長尺ボルト17を通して固定した部分)を含む軸心側部分を内外両側から挟んでいる。リール素材は、用途や使用条件等によって、SCM440以外のクロムモリブデン強じん鋼、その他の合金鋼あるいは炭素鋼、その他、様々な材料を使用してもよい。
【0016】
このリール10は、ソーワイヤが図1に一点鎖線で示すように満巻き状態となっても、フランジ部材13,13のボルト固定部(長尺ボルト17を通して固定した部分)が補強板14,15で補強されることにより、フランジ部材13,13の外周側部分は側圧によって図1に二点鎖線で示すように多少外側へ曲がるが、ボルト固定部は変形が小さく、ねじ山がつぶれたり変形したりしてボルトが外せなくなるのを防止できる。
【0017】
図2は第2の実施の形態のリール20(金属線条体用リール)を示している。このリール20は、上記第1の実施の形態のリール10と同様、略円筒状の胴部材22と両端の略円板状のフランジ部材23,23とからなる分割構造のワイヤソー用リールで、各フランジ部材23を内外両側から補強板24,25で挟む配置とし、各フランジ部材23の内側の補強板24を溶接により胴部材22に固定し(図2においてwは溶接箇所を示す)、各フランジ部材23と外側の補強板25とを、各内側の補強板24と複数箇所(例えば略同一円周上に略等間隔で4箇所)においてボルト26で連結し一体固定したものである。このリール20は長尺ボルトを省略できる。ボルト固定部の変形を防止する効果は、上記第1の実施の形態の場合と同様である。
【0018】
図3は第3の実施の形態のリール30(金属線条体用リール)を示している。このリール30は、上記第1の実施の形態のリール10と同様に、略円筒状の胴部材32と両端の略円板状のフランジ部材33,33とからなる分割構造のワイヤソー用リールで、各フランジ部材33のボルト固定部を含む軸心側部分を内外両側から補強板34,35で挟み、各フランジ部材33とその両側の補強板34,35とを複数箇所(例えば略同一円周上に略等間隔で4箇所)においてボルト36で連結することにより一体化するとともに、胴部材32の内側を通り、両端のフランジ部材33,33および各両側の補強板34,35を上記ボルト36による連結部より外側となる複数箇所(例えば略同一円周上に略等間隔で4箇所)において貫通する長尺ボルト37で、それら両端のフランジ部材33,33および各両側の補強板34,35と胴部材32とを一体固定している。
【0019】
そして、胴部材32の外面にリール軸方向に延びる溝39を略等間隔で複数本(図の例では4本)設け、それらの溝39に合わせて両端のフランジ部材33,33に複数個の貫通穴40を設けて、リール使用時にはそれらフランジ部材33,33の貫通穴40を通して胴部材32外面の溝39に棒状部材41を予めはめ込んで、その上にソーワイヤを巻き、解線時にはフランジ部材33,33を取り外したあと、棒状部材41を抜き取ることで、胴部材32とソーワイヤとの間に緩みができて、ソーワイヤを簡単に抜けるようにしている。
この場合もボルト固定部の変形を防止する効果は、上記第1の実施の形態の場合と同様である。
【0020】
以上、ワイヤソー用リールの例を説明したが、本発明はそれ以外の金属線条体用リールにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態のリールの縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態のリールの縦断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態のリールの縦断面図(a)及びそのA−A断面図である。
【図4】従来のリールの縦断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10、20、30 リール(金属線条体用リール)
12、22、32 胴部材
13、23、33 フランジ部材
14、24、34 補強板(内側)
15、25、35 補強板(外側)
16、26、36 ボルト
17、37 長尺ボルト
39 溝
40 貫通穴
41 棒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状の胴部材の両端にフランジ部材をボルトで固定してなる金属線条体用リールであって、各フランジ部材のボルト固定部を含む軸心側部分を内外両側から補強板で挟み、各フランジ部材とその両側の補強板とをボルト連結により一体化したことを特徴とする金属線条体用リール。
【請求項2】
各フランジ部材とその両側の補強板とを複数箇所でボルト連結するとともに、上記胴部材の内側を通り両端のフランジ部材および各両側の補強板を貫通する複数の長尺ボルトによりそれら両端のフランジ部材および各両側の補強板と上記胴部材とを一体固定したことを特徴とする請求項1記載の金属線条体用リール。
【請求項3】
各フランジ部材の内側の補強板を溶接により上記胴部材に固定し、各フランジ部材とその外側の補強板とを複数箇所で各内側の補強板とボルト連結したことを特徴とする請求項1記載の金属線条体用リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−182529(P2006−182529A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379919(P2004−379919)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】