説明

金属表面のスケール調整

【解決手段】 金属物体の表面上の酸化物スケールを処理する方法およびシステムが提供される。一実施形態では、システム(100)の温度制御装置(105)が、金属物体(106)の表面(112)の温度を、アルカリ性金属水酸化物の調整水溶液のライデンフロスト点より低い適用温度に制御する。適用装置(108)は、前記制御された温度において、前記酸化物スケールに付着する前記調整水溶液の薄層(111)で前記金属物体の表面を湿潤させ、加熱装置(113)は、溶融した前記アルカリ性金属水酸化物を前記酸化物スケールと反応させることにより前記酸化物スケールの調整を妥当な、ただし過剰ではない率でもたらすように選択される追加値を加算した、前記アルカリ性金属水酸化物の融点を超える最終調整温度に前記湿潤された金属物体を加熱する。前記システムは、付加的な調整を終了させて、前記調整された深さを超える付加的な酸化物スケールの生成を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年1月11日付で米国特許商標庁に出願されたMalloyらによる仮特許出願第61/293,821号「METAL SURFACE SCALE CONDITIONING」(金属表面スケールの調整)、確認番号第6931号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の継続出願であり、その優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、金属表面上の酸化物すなわちスケールの調整に関する。
【背景技術】
【0003】
金属表面上の酸化物面すなわちスケールの調整(conditioning)は、スケール除去または脱スケール(descaling)と呼ばれる場合もあり、ステンレス鋼および超合金金属ストリップ(帯状体)の生産に関連して所望される。本明細書の説明は主にストリップ形態の金属に主眼を置いたものであるが、本発明の応用性および価値は、金属ストリップ以外の種々の形状、幾何学的構造、またはアセンブリ(組み立て品)における酸化物表面すなわちスケールの調整にも有用であり、金属ストリップだけに利点を限定することは意図していない。ステンレス鋼は、耐腐食性および耐酸化性を強化する目的でクロムを約10%超含む鉄合金であり、ニッケル、モリブデン、シリコン、マンガン、アルミニウム、炭化物形成元素、および他の元素を含む場合もある。超合金群には、主な基本元素としてニッケルまたはコバルトを含めることができ、よりエキゾチックな合金元素、例えばタングステン、チタン、ニオブ、および他の元素を含めることもできる。これらの基本元素および添加元素は、すべて高温で高い酸素親和性を有し、化学的に安定した結合の強い酸化物を形成するため、その後、追加処理前または販売前に必要とされる各々の除去を複雑にする。
【0004】
非常に薄いスケールを伴う低合金鋼の一部のグレードに関する先行技術のスケール除去技術としては、無機酸、例えば硫酸、塩酸、フッ化水素酸、硝酸、またはこれらの混合物中における鋼ストリップの酸洗いなどがある。ただし、高合金鋼のストリップを処理する場合は、単なる酸洗い液では不十分なことが多い。スケール調整は、酸洗い前に必要とされる場合がある。スケール調整に使用される一般的な組成では、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属硝酸塩の苛性混合物に、他の種々の添加剤、例えばスケール除去塩またはスケール調整塩と呼ばれることの多いアルカリハロゲン化物炭酸塩および/または他の酸化剤を加えている。そのような組成を使う従来の技術は、高温、例えば427℃(800゜F)〜538℃(1000゜F)にした容器内の溶融無水塩浴で実施し、金属物体をまず浸漬させたのち、水で洗浄し、酸洗いする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
金属物体の表面上の酸化物スケールを処理する方法およびシステムが提供される。一実施形態において、システム(100)は温度制御装置(105)を含み、この温度制御装置(105)は、金属物体(106)の表面(112)の温度を、アルカリ性金属水酸化物を含有する調整水溶液のライデンフロスト点未満の適用温度に制御し、前記金属物体の表面は、当該表面を基準とした初期深さを有する酸化物スケールを有する。適用装置(108)は、前記制御された温度において、前記酸化物スケールに付着する前記調整水溶液の薄層(111)で前記金属物体の表面を湿潤させる。加熱装置(113)は、前記金属表面上の前記酸化物スケールの調整を妥当な、ただし過剰ではない率でもたらすように選択される追加値を加算した、無水形態の前記アルカリ性金属水酸化物の融点を超える最終調整温度に前記湿潤された金属物体を加熱し、この加熱された湿潤金属物体の表面は、前記調整水溶液に含まれる水を蒸発させ、前記無水形態の前記アルカリ性金属水酸化物を前記金属物体の表面上で溶融させるものであり、当該溶融したアルカリ性金属水酸化物は、前記付着した酸化物スケールと反応して、前記初期深さ未満である、前記金属物体の表面を基準とした調整された深さに前記酸化物スケールを減少させる。前記システムは、さらに、前記調整された深さを超える前記金属物体の表面の付加的な調整を終了させることにより、前記金属物体の表面を基準とした前記調整された深さを超える付加的な酸化物スケールの生成を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、鉄、クロム、ニッケル、および酸素の正規化した加重パーセントを、焼きなまししたタイプ304ステンレス鋼試料の表面からの距離(オングストローム(Å)単位)の関数としてグラフ表示した図である。
【図2】図2は、図1のタイプ304ステンレス鋼試料を、従来の時間枠で、従来先行技術の塩浴に浸漬したものにおける鉄、クロム、ニッケル、および酸素の正規化した加重パーセントをグラフ表示した図である。
【図3】図3は、図1のタイプ304ステンレス鋼試料を、延長した時間枠で、従来先行技術の塩浴に浸漬したものにおける鉄、クロム、ニッケル、および酸素の正規化した加重パーセントをグラフ表示した図である。
【図4】図4は、図1のタイプ304ステンレス鋼試料を、本発明に従って調整したものにおける鉄、クロム、ニッケル、および酸素の正規化した加重パーセントをグラフ表示した図である。
【図5】図5は、本発明に係るスケール調整工程を図式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
塩浴浸漬技術には種々の難点がある。塩浴は高温で保たなければならないため、エネルギーを大量に消費する。浸漬ロールを必要とする溶融苛性浴は維持管理が難しく、スケール除去するストリップ表面に損傷を生じるおそれがある。加熱した溶融組成物でのストリップ鋼処理については、「引きずり」問題および危険性もある。これは、ストリップが溶融組成物のるつぼから出る際、特にストリップが高速移動する場合、加熱された溶融組成物がストリップに一定量付着するためである。金属を拭くロールを導入して、化学物質が浴から引きずり出される上記の問題を軽減すると、繊細な金属面に引っかき傷または損傷を生じるなど複雑な問題が各工程セットに生じるおそれがある。これらの溶融浴組成物は長時間高温にさらされるため、作業浴に入れることのできる化合物は制限され、さらに工程の柔軟性も制限される。
【0008】
また、浸漬タイプの塩浴で調整を行うと、酸化物が過剰に生成されるだけでなく他の悪影響もあり、金属表面が過度に調整される結果を招く。図1は、鉄(Fe)12、クロム(Cr)14、ニッケル(Ni)16、および酸素18の走査型オージェマイクロプローブ(Scanning Auger Microprobe:SAM)プロファイルを示した図で、これらのプロファイルは、ガス燃焼炉において、酸素を3%過剰に含む酸素含有雰囲気下で、1925゜F(1052℃)の温度で120秒間焼きなまししたタイプ304のステンレス鋼試料の表面からの距離(横軸22、オングストローム(Å)単位)の関数として正規化した加重パーセント(縦軸20)を表している。前記酸素プロファイル18は、酸化クロムおよび酸化鉄の相対量を示している。酸素レベルの減少に対応して酸化クロムおよび酸化鉄の量も減少し、それに対応してクロムおよび鉄の量は増加する。この図によると、焼きなましタイプ304ステンレス鋼試料の表面(軸22に沿ってゼロ〜2000Å範囲の領域)は、主に酸化クロムから構成され、より深い領域は、約8000Å〜10000Åまで徐々に安定していき、10000Åで当該試料はタイプ304ステンレス鋼の組成に通常期待される約18%Crおよび8%Niの組成を有し、したがってスケール調整が不要となることが示されており、さらに、形成された酸化物を過剰に除去すると望ましくない表面作用を生じるだけでなく、不要でコスト高の追加酸洗い工程が必要になる可能性がある。
【0009】
図2は、0.635ミリメートル(0.025インチ)ゲージタイプの304焼きなましステンレス鋼タイプ304(18/8クロムニッケル)の10.16センチメートル(4インチ)×15.24センチメートル(6インチ)パネルに従来先行技術の塩浴調整処理を行ったものについて、鉄42、クロム44、ニッケル46、および酸素48の正規化した加重パーセントの元素別SAM深さプロファイルをグラフで示したものである。前記塩浴は、本質的に無水組成のもので(すなわち、組成物またはそれに浸漬された金属物体の表面と反応するだけの十分な水を有さない)、約12重量%の硝酸ナトリウム、約10重量%の塩化ナトリウム、約15重量%の水酸化カリウム、および約63重量%の水酸化ナトリウムを有する。この塩浴組成は、1966年7月12日付でShoemakerらに付与された米国特許第3,260,619号で教示されており、本明細書での参照によりその開示全体を本明細書に組み込むものとするが、当該特許等に教示された塩浴の代替実施形態は、従来の浸漬塩浴による調整にも使用できることが理解されるであろう。プロファイル42、44、46、および48は、これら試料を従来の先行技術で30秒間、作用温度850゜F(454℃)に加熱した溶融塩浴に浸漬したのち、前記塩浴組成物がまだ前記試料に付着した状態で前記浴から取り出して前記塩浴組成物を数秒間滴らせ、室温(周囲温度)の水道水を入れたペールに前記試料をすばやく入れ、次いで風乾して得られたものである。
【0010】
図1に例示したプロファイルと対照的に、図2では、調整後も酸化鉄だけが残り、約4000〜約5000Åのスケールが残留していることを除き、元の表面の酸化クロムレベルがほぼ完全に除去され、それ以降(表面から約5000Å以上の深さ)はステンレス鋼試料の組成が安定することを示している。さらに興味深いのは、鉄プロファイル42の約ゼロ〜約2000Åにかけた「段部」領域50で、この領域では、鉄の正規化した加重パーセントが、全般的に深さが増すに伴い約55%〜58%の間で振動したのち、深さ2000Å後で徐々に上昇し始めている。この振動は、過度の調整工程が行われているため、その後除去しなければならない調整済み酸化物スケールの量が不要に増えていることを示唆しており、これは以下でさらに説明しているように図3を参照するといっそう明らかになる。
【0011】
ストリップ上のスケールに対する反応は、一般に、前記のような浴への浸漬時、すばやく完了するが、ストリップ処理の物品管理では、一般に、ストリップがすでに最適に調整された後も続けて浴に浸漬されたまま保たれる。前記調整反応は非常にすばやく進行するため、調整されたストリップが浸漬浴を出る前に過度な調整が必然的に起こり、適時なクエンチで過剰な調整を防ぐ機会が妨げられてしまう。図3は、図1のタイプ304焼きなましステンレス鋼(18/8クロムニッケル)の0.635ミリメートル(0.025インチ)ゲージ、10.16センチメートル(4インチ)×15.24センチメートル(6インチ)パネルを図2の先行技術塩浴に長時間すなわち約120秒間浸漬したものについて、鉄52、クロム56、ニッケル58、および酸素54の正規化した加重パーセントのSAMプロファイルをグラフで示したものである。ここでも図2と同様、試料を浸漬後に前記浴から取り出し、まだ前記試料に付着したままの塩浴の組成物を数秒間滴らせたのち、その試料を室温(周囲温度)の水道水を入れたペールに前記試料をすばやく入れ、次いで風乾した。図3は、塩浴調整を導入したストリップ連続工程ラインが停止または減速してステンレス鋼ストリップが長時間、例えば60または120秒間またはそれを超えて溶融浸漬工程に曝露したままになった場合に、長時間の浸漬調整が及ぼす有害な作用を明らかに示している。上記の鉄プロファイル52を酸素プロファイル54と照らし合わせると、表面から深さ10000Åまでのオージェ走査データ長全体で、許容されない高レベルの酸化鉄が安定して生じ、クロム56は元来の望ましい濃度のほぼ半分まで低下していることが示されている。これは、酸化鉄が溶融塩に溶解しない(これは、図2の短い段部領域50でも示されている)一方、アルカリ性クロム酸塩は溶融塩に溶解して、結果的に許容範囲外のクロム減少が金属表面に起こるためと考えられる。
【0012】
図4は、図1のタイプ304焼きなましステンレス鋼の別の0.635ミリメートル(0.025インチ)ゲージ、10.16センチメートル(4インチ)×15.24センチメートル(6インチ)パネルを本発明に従って調整したものについて、鉄62、クロム64、ニッケル66、および酸素68のSAMプロファイルを示したものである。この場合、焼きなまししたタイプ304のステンレス鋼にアルカリ性水溶液を周囲温度で薄く適用したのち、コーティングされた試料を水平な向きにして、約800゜F(427℃)に予熱した電気オーブン内で約120秒間加熱し、前記パネルを最終的な処理温度である約650゜F(343℃)にして、この試料が前記処理温度に達してから30秒以内に水道水で洗って風乾した。図4は、従来の時間および温度で浸漬処理した図2の結果プロファイルとは明らかに対照で、それより改善されていることを示している。当業者であれば、焼きなましステンレス鋼の調整における最終的な目標は元の表面クロム酸化物の除去であり、その下層の金属を損傷して悪影響を及ぼす(すなわち、元来のクロムレベルを減少させる)ことではなく、またさらに後で除去する必要のある新たな酸化鉄をラインの酸洗い部で不要に蓄積させることではないことが理解されるであろう。図4に示すとおり、クロム酸化物を含まない表面は、表面からの深さに関し比較的迅速かつ効率的に得られる。図2の酸化鉄段部50は回避され、代わりに鉄プロファイルのライン62が深さ2000Åの含有量レベルまで急激かつ着実に上昇し、さらに深さ2000ÅでCr 64が約18%およびNi 66が8%という望ましい組成に達し、図2に示した従来の浸漬調整実績に対し、表面酸化物の深さおよび度合いを低減する上で約60%の改善がもたらされる。
【0013】
本発明は、多種多様な金属、例示的にはステンレス鋼および超合金とその合金化元素、例えばマンガン、モリブデン、チタンを含み、かつこれらに限定されない金属での実施に適している。また、本発明は、上記の合金化元素等の酸化物と反応させて、より除去しやすい種、例えばアルカリ性の過マンガン酸塩、モリブデン酸塩、チタン酸塩を、合金化剤として他の合金に含有させる場合を含め、チタン合金、モリブデン合金などの調整において形成する場合にも適用できる。
【0014】
本発明によれば、酸化物スケールの調整に必要な時間は、最終的な処理温度閾値に達した時点で、実質的に瞬間的となる。ステンレス鋼の場合、最終処理温度は、約600゜F(315℃)〜650゜F(343℃)の範囲と考えられ、選択または決定される温度は、材料組成だけでなく寸法パラメータに応じても異なる。例えば、図1のタイプ304焼きなましステンレス鋼の別の0.635ミリメートル(0.025インチ)ゲージ、10.16センチメートル(4インチ)×15.24センチメートル(6インチ)パネルについては、650゜F(343℃)を最終処理温度と決定し、本発明に従って、片側をアルカリ性水溶液でコーティングしたパネルを水平面内に配置したのち、これを加熱した(以下の一例では、高温のホットエアガンにより、または抵抗加熱器コイル上に配置することによる)。コーティング面が最終処理温度650゜F(343℃)に達したことが微小直径の接触型熱電対で決定された時点で、前記パネルの中央領域が焼きなましした色から調整時特有のアルカリ性クロム酸塩の色へと急速に変化し、当該パネルの周辺領域が臨界温度に達するとともに、調整された領域が放射状外側へ広がった。このように、本発明に係る最終処理温度の達成とそれに伴う完全な酸化物処理は、焼きなまし鋼の目視検査により、例えば光沢のある溶融塩膜および独特の色変化といった外観を目安にして決定できる。また当業者であれば、焼きなましした金属表面を本発明に従ってアルカリ性水溶液でコーティングしたものが前記最終処理温度に達するのに必要な時間は、前記最終処理温度と加熱装置温度(熱流束)との間の温度差
【数1】

【0015】
の関数であることが理解されるであろう。本発明は、処理用の焼きなましパネル表面を薄くコーティングして金属面上の化学的シンクを制限することにより、前記最終処理温度に達し、その金属物体が前記最終処理温度で若干長く保たれても、追加反応がほとんど起きないようにする。
【0016】
本発明に係るアルカリ性水溶液は、共晶水酸化物を有し、液体のウェットアウト性能に資するため、またコーティング寸法を薄く保つ一助とするため、少なくとも1つの界面活性剤をある割合で含む。一部の実施例は、さらに任意選択で、液体の酸化能力を促進する酸化剤を有し、本発明に係る組成は、調整すべき鋼に存在しうる酸化物のタイプおよび量に応じてカスタム混合が可能である。図4に例示した調整用に使用される本発明に係るアルカリ性水溶液の一実施形態は、約33重量%の水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム共晶混合物であり(より具体的には、水酸化カリウム18%および水酸化ナトリウム12%)、酸化促進剤としての硝酸ナトリウムが3重量%、水が67重量%、そしてこれにNonidet(登録商標)SF−5およびMirataine(登録商標)ASCをそれぞれ3滴加えた(NONIDET SF−5は米国等のAir Products and Chemicals,Inc.の商標。MIRATAINEは米国等のRhodia商標である)。Nonidet(登録商標)SF−5は、直鎖アルコールから生成される低発泡性のアルコキシ化非イオン性界面活性剤で、Mirataine(登録商標)ASCの化学名は、コカミドプロピルヒドロキシスルタインである。
【0017】
本発明によれば、反応生成物(例えば、アルカリ性クロム酸塩)の溶解度は、界面活性剤を混合した薄い軽量のアルカリ性水溶液にすばやく到達できる。コーティング層を薄く保つことにより、前記アルカリ性水溶液に含まれる反応性の化学物質は、コーティングした対象物に反応物質が残留しており、処理済みの金属物体に対して酸化物による追加調整または他の反応がまだ可能な状態で前記最終処理温度に達すると、実質的に即時消費される。そのため、調整が完了した後、クエンチングまたは水洗いに時間的な遅延があっても、一般に、その工程の性能に大きな影響はなく、より具体的にいうと、図3に例示したように長時間の浸漬処理に見られる過度の調整による害が金属基板に生じることはない。また、本発明は、処理する対象物を薄くコーティングする上で十分なアルカリ性水溶液を必要とするのみで、それ以上大量に溶融塩浴を用意する必要性を回避できるため、先行技術の浸漬工程と比べて材料コストを大幅に節約でき、取り扱い効率も向上することは明らかである。さらに、スケール除去膜の化学成分は、温度について非常に短い時間安定したものであればよいため、高温で長時間安定なことが必要とされる従来の浸漬化学製剤で可能なものより新規性のある、または反応性の高い化学化合物を使用することができる。
【0018】
本発明は、従来の浸漬工程と比べ、優れたエネルギー効率も提供する。その一態様では、前記最終処理温度または本発明の実施(実装)範囲を十分超えた温度で、浸漬工程の塩浴るつぼを操作する必要がある。上述の例示的な最終処理温度範囲(約600゜F(315℃)〜約650゜F(343℃))において従来の浸漬工程に適したより高密度の無水塩浴溶液の粘性は高すぎるため、対象物引き上げ時に過剰な塩が付着しないようこの温度範囲内で塩浴を運用するには障害が大きく、材料の引きずりを防ぐには、約752゜F(400℃)〜約932゜F(500℃)など著しく高い温度で塩浴るつぼを運用および維持する必要がある。また、他の先行技術では、アルカリ性溶液で対象物をコーティングしたのちコーティングした対象物を焼きなまし炉で加熱する金属物体調整について開示しているが、これらの焼きなまし工程では、一般に1850゜F(1010℃)を超える著しい高温を要し、さらに図4で達成された効率的な調整プロファイル(すなわち、表面スケールの深さを低減し、その結果深さ2000ÅにおいてCr約18%およびNi8%という望ましい組成を生じる)をもたらせないことも特筆される。
【0019】
さらに、従来の浸漬工程は、絶えず反応生成物を受け入れて新たな化学反応物質を調整中の金属物体に提供する「無限」の化学的シンクを提供する。例えば、処理ラインで調整中のステンレス鋼ストリップは、過度の酸化物形成を最低限に抑える最適温度を超える温度で浸漬浴を出ると、本質的に過剰な調整が行われる結果となり、さらに浸漬浴を出てからクエンチまたは洗浄水用の容器に入るまでの時間遅延により調整がいっそう過剰に行われるが、これはラインの幾何学的構成およびストリップライン速度の関数として起こることが多い。一部の先行技術浸漬システムでは、放射冷却または強制冷却を強化し、例えばファンを使って、この問題の改善を試みているが、そのような取り組みは冷却が不均一になり、または調整済み金属上とその付近で溶融塩液滴が飛散するという安全面での問題を呈すほか、図2のプロファイル42、44、46、および48と、図4のプロファイル62、64、66、および68を比べると明らかなように、一般に、浸漬工程で最適な調整状態に達した金属物体を十分高速にクエンチまたは冷却することは実質的に不可能なため、過度の調整は十分回避できない。
【0020】
加熱され湿潤された金属物体の最終処理温度は、その対象物の材料、仕上げ、および寸法のほか、アルカリ性水溶液の特性(水含有量パーセントなど)に応じても異なる。一般に、達成される最終処理温度は、化学混合物中における調整塩の融点に、金属表面上の酸化物スケールの調整作用を妥当な、ただし過剰ではない率でもたらす値を加えたものである。調整をもたらす上で必要な時間および熱は、調整するストリップの厚さおよび材料含有量に応じて異なり、場合によっては、通常であれば金属表面とその上に適用される調整溶液の温度を上昇させる熱を吸収するヒートシンクのような作用を果たすことができる。例えば、本発明によると有用なNaOH/KOH共晶塩溶液の場合、この溶液を約170℃(338゜F)に加熱すれば塩の溶融に十分であるが、薄い金属ストリップ表面について条件を満たす調整を行うには、それを超える約232℃(450゜F)の温度にし、その温度に達した時点でほぼただちに調整が起こるようにする必要があり、より厚みのある別のストリップ例では、許容される鋼表面の調整結果を得るため、より高い約288℃〜315℃(550゜F〜600゜F)の温度にして数秒間保たなければならない。
【0021】
そのため、本発明に係るいくつかの処理システム実施形態では、対象物の材料、仕上げ、および寸法と、アルカリ性水溶液の特性とを考慮する。特定の若しくは望ましい対象物表面の最終処理温度に関する課題を解決し、これを達成し、また一部の例では最終処理温度を保つ時間に関する課題を解決する有用な他のパラメータも、当業者であれば明確に理解されるであろう。より具体的にいうと、特定の若しくは望ましい量の酸化物による調整後に、過剰なスケール除去用化学物質が処理済みの表面上に残留する応用形態の場合、前記金属表面は、最終処理温度が達成された直後にその最終処理温度以下まですばやく、一部の実施形態では3秒以下以内に冷却され、これにより残留反応物質による洗浄前の過剰な調整が防止される。そのような要因の具体的な、ただしすべてを網羅しているわけではない例としては、工程ラインの観察および事象、焼きなまし炉内での時間および温度(ライン速度を左右する)の観点から金属物体に必要な冶金特性、対象物の加熱率、温度持続時間、および支配的な焼きなましライン速度要件などがある。そのため、処理システムの諸実施形態では、焼きなましその他のライン機能の変化に応答し、それに従属してオンザフライの(すばやい)最適化が可能であり、加熱温度、持続時間、およびアルカリ性水溶液の組成と適用量と適用率を変更できるが、これは従来の大型高温浸漬工程では不可能な能力である。
【0022】
ここで各図および特に図5を参照すると、本発明に係るスケール調整部の工程またはシステム100がやや図式的に表示されている。ライン工程100は、鋼104のコイルを支持し、その巻きを伸ばして焼きなまし中に形成されたスケールを除去するようなっているアンコイラー102を有する。前記アンコイラー102は、本発明に係る上述のアルカリ性水溶液(例えば、アルカリ金属水酸化物、またはアルカリ金属水酸化物および界面活性剤の混合物を含有する)の薄いコーティング110を前記鋼ストリップ106の頂面および底面112に施すよう構成された調整溶液アプリケータ108に引かれて前記コイル104から鋼ストリップ106として送られてくる前記鋼の巻きを伸ばす。当該システム100の種々の点において、前記伸ばされたストリップ106は、前記ストリップ106を軌道上に保って当該ストリップ106の張力を適切に維持するよう構成された従来のトラッキングロールおよびブライドルロールのセット107に引かれて誘導される。この図では水平な平面内で前記ラインを例示しているが、前記ラインの構成を単一平面内に限定するよう意図されたものではない。特定の要素、例えば前記溶液アプリケータ108を容易に垂直平面内に構成し、続けて他の垂直要素または水平要素または傾斜要素で、必要に応じて本工程を行い、および/または物理的なラインの制約に対応することもできる。一部の実施形態において、前記システムまたは工程100は連続した焼きなましおよび酸洗いラインであり、前記アンコイリング要素102は、鋼ストリップを加熱および/または焼きなましするための予熱および焼きなまし炉の要素も提供することが当業者であれば理解されるであろう。図5は、定置式の適用ノズル108と相対的に移動する金属ストリップ106を例示したものであるが、ストリップ以外の金属形状が、定置された金属物体に対し移動可能な適用装置の有益性を享受する他の構成も予測される。
【0023】
前記調整溶液アプリケータ108により前記アルカリ性水溶液の前記薄いコーティング110を施す際の前記鋼ストリップ表面112の表面温度は、前記アルカリ性水溶液のライデンフロスト温度未満であり、一部の実施形態では、前記調整溶液中のアルカリ金属水酸化物の融点未満でもある。センサー105/115/116は、当該工程またはシステム100内の種々の点で必要に応じて前記ストリップ106の温度を測定して、前記調整溶液アプリケータ108による溶液適用前に105で望ましい温度が達成されたことを確認するよう構成された温度検出装置を有するもの(例えば、赤外温度センサー、接触型熱電対)を設けることができる。周囲環境温度は、一般に沸点およびライデンフロスト温度未満であり、そのため焼きなまし炉の要素または工程なしでアンコイラー102により伸ばされた鋼ストリップ106は、通常、前記調整溶液アプリケータ108による前記アルカリ性水溶液の適用に適した温度になる。
【0024】
ただし、前記アンコイラー102が前記ストリップ106に焼きなましを行う場合は、焼きなましした前記ストリップ106をまずクエンチあるいは冷却して調整溶液アプリケータ108による適用を行うにライデンフロスト温度未満の温度に前記ストリップ表面112を冷却しなければならない。一部の応用では、鋼ストリップ106のラインが停止可能であり、または前記ストリップ表面112の温度が溶液適用時の許容温度に下がるまで冷却時間を経過させなければならない。他の例では、前記ストリップ表面112を望ましい温度に冷却するため、1若しくはそれ以上の可変速ファン、流量制御ダンパー、通気口などを含む温度冷却部を、105において前記システムまたは工程100にさらに導入でき、前記温度は、前記温度センサー105により確認される。
【0025】
また、前記最終処理温度の設定または達成では、前記金属ストリップ表面112の温度の均一な制御が難しいことを考慮すべき可能性がある。例えば、連続した焼きなましおよび酸洗いライン内などで、前記構成要素102が前記ストリップ106を焼きなましする際、前記焼きなまし炉要素102または空気冷却器105を出たストリップは、異なる領域間、例えば異なる縁部領域間および/または頂面と底面との間で温度差を有する場合がある。そのような差の値は、ストリップの寸法(ゲージ、幅、厚さ)および金属組成(炭素、ステンレス鋼など)に応じ、100゜F(38℃)〜200゜F(93℃)の範囲の場合がある。そのため、前記ストリップ106の一部の領域は望ましい最終処理温度になっても、他の領域は温度が高すぎて処理時にライデンフロスト作用が生じ、加熱要素113において最終処理温度まで適切に加熱できず、調整が不完全になるおそれがある。(このような懸念は、一般に、溶融塩浴で加熱温度が十分長時間適用されてストリップが均一温度になるため、従来の浸漬塩浴では問題にはならない。)
そのため、一部の実施形態では、前記冷却要素105が前記調整溶液のライデンフロスト温度未満に前記ストリップ表面112を冷却し、さらに前記ストリップ表面112でライデンフロスト温度を超える領域が確実になくなるよう、余分な冷却値(例えば、100゜F(38℃)〜200゜F(93℃))が追加される。さらに、一部の加熱要素113は、前記最終処理温度に余裕をもたせた追加加熱値(例えば、100゜F(38℃)〜200゜F(93℃))まで前記ストリップ表面112を加熱して、前記ストリップ表面112の全領域を確実に前記最終処理温度にする。そのような局所差に対応するため提供される付加的な冷却幅または加熱幅は、一部の非常に軽量の鋼ストリップの場合、小さく、または場合により省略されるが、これはそれらの局所差が小さく、または無視できる程度であるためで、一態様ではストリップが軽量であるほどヒートシンクおよび保温性も低いためである。
【0026】
前記調整溶液アプリケータ108による薄いアルカリ性水溶液コーティング111の形成は、種々の方法、すなわち前記調整溶液110で前記ストリップ表面112に均一なコーティングまたは完全な湿潤を形成する任意の方法またはシステムにより達成される。調整溶液アプリケータ108の要素および機器の具体的な、ただしすべてを網羅しているわけではない例としては、ダンカーローラー(dunker roller)あるいはロールコーターまたはローラーコーター109のほか、スプレーノズル、カーテンコーターおよびアプリケータ、浸漬方法およびシステム、またはこれらの組み合わせなどがある。溶液計測要素または流量制御要素を利用してもよいが、一般に必要ではなく、調整溶液アプリケータ108は、特定の最大厚さ値111に前記ストリップ表面112を確実かつ完全に湿潤させる単純な適用制限手段を内蔵すればよい。例えば、エアナイフまたはワイパーローラーを設けて過剰な調整溶液110を除去し、特定の最小および/または最大の溶液厚さ値111をもたらし、余分な溶液を除去および回収してその後再使用することができる。また、当業者であれば、前記ストリップ表面112に適用される前記調整溶液110の、十分な、および/または制限された合計の厚さ値111を確実にする際の使用に適した他の方法およびシステムが理解されるであろう。
【0027】
次いで、前記コーティングされたストリップ106が加熱部113内へと駆動され、前記コーティングされたストリップ表面112が無水形態の前記溶液アルカリ金属水酸化物の融点を超える特定の最終処理温度または温度範囲に妥当な、ただし過剰ではない率で金属表面上で酸化物スケールの調整をもたらすよう追加値を加えた温度まで加熱される。前記特定の最終処理温度は、対象である酸化物スケールを完全に調整する上で十分な時間、一部の実施形態では上述の指定時間を超えず、それ未満でもない時間だけ、維持する必要があり、その時間が終了する際は、冷却または洗浄部114における冷却またはクエンチにより、加熱されたストリップ温度を前記調整温度または温度範囲より低くし、前記冷却またはクエンチにより、一般に、消費されなかった過剰な調整溶液アルカリ性生成物も洗浄できる。
【0028】
また上述のように、前記指定される最終温度または範囲および時間としては、前記ストリップ106に好適なスケール調整をもたらすよう、より具体的には、ストリップ表面112のスケール調整を完了するため十分な温度および時間長の双方が選択されるが、前記ストリップ表面112が過度に調整されないよう時間長も高温値も制限される。一部の実施形態において、望ましい調整レベルは、酸化物スケール形成の厚さおよび度合いを最小限に抑えながら鋼表面を適切に調整するようストリップの材料パラメータおよび寸法パラメータの関数として選択される、特定のレベルの酸洗い調整用最小酸化物量と、最小卑金属作用レベルとである。
【0029】
本発明に係る調整機構は、全体として従来の溶融酸化浴と同等のものと考えられる。その場合、金属酸化物は、調整塩とそれに続く洗浄水とに一部溶解し、残りの部分は酸洗いでより除去しやすい、より高い酸化状態へと変換される。ただし、本発明において金属表面の調整が起こるのは、金属表面が溶液で完全に湿潤したのち水が蒸発し、前記塩が溶融してストリップ表面上の酸化物と反応するまで加熱されたときであり、これはすばやく、多くの場合数秒以内に生じる。一部の実施形態において、前記調整工程は、特定の調整時間の終了時までに(すなわち、効果的な調整が起こった後、残留反応物質により過剰な酸化物形成が生じる前に)前記洗浄ステーション114内で前記ストリップ106を洗浄して冷却またはクエンチし、前記ストリップ表面112の温度を調整温度未満に冷却し、また例えば水スプレーノズルのアレイ(図示せず)に、場合によりポンプを使うなどしてスプレー領域114下の回収サンプから供水して、前記調整溶液110を前記ストリップ表面112から洗い流すことにより終了するが、当業者であれば、さらに他の洗浄ステーション114システムおよび方法も可能であることが理解されるであろう。前記加熱部113と洗浄部114との間に介設された温度検出または冷却要素115を使うと、前記ストリップ表面112の温度が確実に調整温度未満までクエンチされるようにできる。
【0030】
前記洗浄ステーション114の後は、調整されたストリップ118を酸洗い部120へと駆動できる。先行技術工程と比べ、本発明では、酸化物形成の度合いを最小限に抑えることにより、その後必要な表面酸洗いの量を適宜軽減して、それに伴う酸洗い工程を低減するとともに、酸洗いによる表面の曇りおよび粗面化を低減する。これと対照的に、溶融酸化浴を使った先行技術の浸漬浴工程では、ストリップ上のスケールを過度に調整して卑金属と酸化鉄の溶融界面層と、その下層のクロム枯渇ゾーンとを形成するため、より積極的な酸洗いが必要になり、酸洗いコストおよび表面粗さの双方が増大するだけでなく、除去される金属が増加して産出高も減少する。
【0031】
本工程100の120における酸洗いでは、通常、前記ストリップ106を浸漬するための硫酸および/または硝酸かフッ化水素酸か他の酸かの混合物を収容する1若しくはそれ以上の酸タンクを使用するが、酸スプレーを使用することもできる。一部の実施形態では、複数の酸洗い液が利用され、任意の所与のステンレス鋼ストリップ110に対し、鋼の組成、酸化物の厚さ、および当該技術分野で知られた他の要因を含む多くの要因に基づき、必要に応じて1若しくはそれ以上のそのような酸洗いタンクを使用することもできる。有機酸、例えばクエン酸またはより環境上魅力的な過酸化物などの酸化剤を含む酸混合物を取り入れた新規性のある酸洗い組成を本発明と併用しても、性能を強化できる可能性がある。酸洗いおよび洗浄後、スケール除去工程が完了すると、スケール除去済みのストリップ122は、リコイラー126上の完成した鋼コイル124に再度巻き取る準備が整う。
【0032】
表面分析装置は、一般に、前記システムまたは工程100の内部に、またはそれに隣接して、例えば前記洗浄ステーション114内、前記温度検出または冷却要素105/115/116内、前記酸洗い部120内などに設けられ、この表面分析装置は、前記ストリップ表面112を監視し、前記ストリップの表面上に形成された調整すべきスケールの量、調整済みの前記ストリップに関する調整の欠如または過度の調整などを検出および/または決定し、あるいは当該システムまたは工程100の調整性能のフィードバックおよび監視を、1若しくはそれ以上のライン動特性操作構成要素、システム、または他の管理要素128に提供するよう構成される。また、前記ライン動特性システム構成要素128は、当該システムまたは工程100の全体にわたり(例えば、温度検出または冷却要素105/115/116、前記調整溶液アプリケータ108、前記加熱部113、前記洗浄ステーション114、および/または前記酸洗い部120で)設けられる種々の温度検出または冷却要素と通信でき、それにより前記調整溶液の適用、調整、洗浄、および酸洗いの作業中に特定のストリップ温度が確実に実現されるようにするほか、前記温度監視に対応して当該システム100の性能を最適化できるようにする。前記ライン動特性操作システム128への入力には、本システムの状態、例えば周囲温度、調整溶液タンクレベルセンサー、流量コントローラおよび分布センサー、ならびにタンク温度センサーを含めることもできる。一部の実施形態では、前記洗浄ステーション114の洗浄水中でクロム濃度を監視することにより、スケールから前記ライン動特性システム構成要素128または他の操作要素へと除去されたクロムの直接的な指標を提供するが、当業者であれば、他の入力値も理解されるであろう。
【0033】
前記ライン動特性操作システム128は、ストリップ変数、例えばストリップ材料組成、ゲージ、幅、および本明細書の上記および他の部分で説明した他の任意の特殊処理情報を受け取ると、それに応じ、処理中の特定の鋼ストリップ106について指定すべき調整の温度および時間を決定し、あるいは調整スケジュールまたはシステム100の他のパラメータを制御する。一部の実施形態において、前記ライン動特性操作システム128は、メモリと通信可能なコンピュータを含み、前記メモリには、時間、温度、および複数タイプの鋼をそれぞれ調整する上で必要な、また組成、ゲージ、幅、ライン動特性などに基づき必要な他のパラメータが格納される。
【0034】
前記表面分析装置要素は、前記ストリップ106の状態を連続的に監視することができ、前記ストリップ表面112の状態が所定のパラメータ外になると、前記ライン動特性操作システム128がシステムまたは工程100パラメータを調整して、監視対象の表面状態を必要な性能閾値以内に戻すことが可能である。前記ライン動特性操作システム128により制御できる例示的な、ただしすべてを網羅しているわけではないパラメータとしては、前記アンコイリングまたは焼きなましまたは予熱要素102あるいは前記加熱部113がもたらす温度上昇により若しくはその量により前記ストリップ106で費やされ、そこへ送られるエネルギー量または熱量、前記システム要素108/113/115/114/116/120のいずれかに対する前記ストリップ106の駆動スピード、114、115、または116で冷却要素がもたらす冷却空気の量、温度上昇の温度または量などがあり、システム100の他のパラメータも前記ライン動特性操作システム128で制御できる。
【0035】
本発明では、(1)最終的な調整温度または温度範囲、(2)化学組成成分、(3)利用する反応物質の量(例えば、108で前記ストリップ表面106上のスケールに適用する化学物質の量)、および(4)反応時間またはその範囲(例えば、調整反応のクエンチに望ましい位置で前記ストリップを可変冷却することにより)のうち1若しくはそれ以上を変化させることにより、オンザフライの(すばやい)スケール調整最適化が可能である。先行技術の塩浴浸漬工程では、塩浴中における大きな塩質量の熱慣性と、ライン速度に依存する化学物質への露出時間と、前記浴の静的な化学組成とのため、そのような目的を達成することはできない。
【0036】
また、最適なスケール調整量は、所与の金属物体の材料パラメータおよび寸法パラメータに関する酸洗い調整用最小酸化物量の指定または監視のほか、最小卑金属作用について定義される。一態様では、種々の工程またはシステム100の要素のいずれにおいても、最終的な酸洗い表面の外観および生産コストがスケール調整変数の変更値の指標となる。例えば一部の実施形態において、最適な調整は、3XXまたは304ステンレス鋼ストリップ表面にクロム酸化物がまったく形成されず、あるいは鉄酸化物がわずかに最低限または微量形成されたことを決定する工程を有することができ、その場合、より多い鉄酸化物またはニッケル酸化物の形成が観察されると、108で適用される溶液中の調整塩が前記ストリップ表面に接触した時間が長すぎ、または処理温度が高すぎたことが示される。次いで、114での洗浄またはクエンチを早めることにより調整時間を短縮し、あるいは113で達成される前記ストリップ調整温度を下げて調整の度合いおよび/または率を低下させることにより、一態様では、前記ストリップ表面の曇りを防ぎ、仕上がり表面を実現するため120で必要な酸洗いの量を減らすことができる。処理中の特定の合金と、その合金固有のスケール組成反応性とに応じ、調整のためスケールに適用される化学組成を調整して、調整の温度および時間の制御と協動的または独立に、酸化物反応性をより高く若しくは低くすることも考えられる。
【0037】
一般に、調整は、表面条件が良好かつ厳密でゲージがより薄い場合、金属ストリップ上でより急速に起こり、調整の度合いは、より表面が曇った金属物体と比べ、また、より厚いストリップ材料のものと比べ、時間および温度パラメータを調整することで、より優れた許容誤差または正確度で微調整できるため、本発明に係る工程およびシステムは、前記ゲージがより薄く若しくは表面が良好で厳密な対象物の調整において、先行技術の浸漬システムを超える省エネルギーと性能および効率強化との機会を提供する。このスケール除去システムは、光沢または曇りがある金属表面のさまざまな吸収率および放射率にも対応可能である。
【0038】
調整溶液の適用中、鋼のコイルまたはストリップの表面温度を当該溶液の沸点およびライデンフロスト温度またはライデンフロスト点より低く保つことにより、ライデンフロスト作用に関する問題は回避される。金属ストリップに関する「ライデンフロスト作用」は、スケール調整が不完全な斑または斑点を呈する斑状または斑点状の外観をストリップ表面にもたらし、化学物質水溶液の適用中にストリップの表面温度がライデンフロスト温度またはライデンフロスト点として知られる温度を超えると、化学物質水溶液のライデンフロスト作用により起こると考えられる。ストリップが、調整溶液の適用時にその調整溶液のライデンフロスト温度(通常、調整水溶液の沸点以上)を超えると、その溶液の薄膜は前記金属ストリップ表面と適用される溶液との間で気相の障壁へと変換されてしまい、調整溶液は、前記ストリップの表面に接触して蒸発することで調整用の化学物質を金属表面に定着させることができなくなり、前記表面の一部を調整できず、調整された領域と未調整の領域とのコントラストにより斑状の外観を生じてしまう。そのため、本明細書における用語「ライデンフロスト作用が現れる温度未満の温度」とは、本発明に係るスケール調整後に暗色斑点の形態をしたスケールが認められない温度をいう。ライデンフロスト作用はよく知られており、多数の出版物で説明されている。これに関する詳細は、2002年9月17日付でColeらに付与された米国特許第6,450,183号「Composition, apparatus, and method of conditioning scale on a metal surface」(金属表面のスケールを調整する組成、機器、および方法)のほか、「Disk Model of the Dynamic Leidenfrost Phenomenon」(動的ライデンフロスト現象のディスクモデル)(Martin Rein、DFD96 meeting of American Physical Society)および「Miracle Mongers and Their Methods」(奇跡屋と彼らの方法)(122〜124ページ、Harry Houdini、1920年E.P.Dutton刊)の2文献で参照できる。
【0039】
本発明の一部の実施形態では、ライデンフロスト作用を避けるため、まずスケール除去を行う金属表面の温度がアルカリ性金属水酸化物調整水溶液のライデンフロスト温度未満のとき、そのストリップ表面を前記調整溶液で完全に湿らせて湿潤層を形成したのち、前記層の溶液(例えば、111)と、前記ストリップ表面の温度(例えば、112)とを、前記調整溶液に含まれる前記アルカリ性金属水酸化物材料の本質的に無水形態の材料の融点に上述の追加値を加算した温度以上に加熱して、十分な時間、前記最終処理温度に到達させることにより、前記金属ストリップ表面を調整する(例えば、112)。本明細書における用語「本質的に無水形態の材料」とは、溶液中の水が蒸発した後をいい、水和による水分が材料中に若干残っていてもよい。この態様では、ライデンフロスト作用を起こすことが知られている蒸気障壁の形成、ひいては調整されるストリップ表面(例えば、118または122)でのライデンフロスト作用が回避される。
【0040】
苛性調整水溶液の沸点およびライデンフロスト点(ライデンフロスト温度)は、苛性濃度の関数である。例えば、アルカリ性水酸化物の濃度が低い(40重量%以下)調整溶液実施形態で、沸点およびライデンフロスト点の双方より低い表面温度での適用が望ましい場合、調整溶液の適用範囲における前記鋼ストリップ表面112またはコイル104の温度は、約180゜F(82℃)〜約260゜F(127℃)を超えるべきではないが、アルカリ性水酸化物の濃度がより高い(47%以上)溶液の場合、前記鋼ストリップ表面112またはコイル104の温度は、適用中、より高くして290゜F(143℃)か場合によりそれを超える温度にしてもよい。
【0041】
鋼コイルまたはストリップが調整溶液の沸点およびその溶液の塩溶融温度より高温で、かつ、前記調整溶液のライデンフロスト温度付近でそれ以下の温度である間に苛性調整水溶液を適用すると、さらにエネルギーを節約できる。そのため、適用温度400゜F(204℃)が調整溶液の沸点および塩溶融点の双方を超える一例では、炉または加熱ステーション113で550゜F(288℃)〜600゜F(316℃)範囲の最終処理温度にするための温度上昇を比較的小さくすることが要求される。これにより、より低い適用温度(例えば、前記沸点および/または塩溶融点より低い温度)が選択される場合の熱エネルギー消費要件と比べると、炉または加熱ステーション113で、および/またはより短い時間にわたり、より少ない熱エネルギーが費やされる。
【0042】
本発明に係るスケール除去は、種々の組成を使用してもたらすことができる。一実施形態では、水酸化ナトリウム(NaOH)約42%および水酸化カリウム(KOH)約58%の共晶で塩基性(アルカリ性)水酸化物組成が提供される。これは、本質的に無水状態において低融点(170℃、338゜F)の組成であり、その水溶液中の水が蒸発して残された水酸化物が溶融すると、効果的なスケール調整が行われる。また、他の材料を前記溶液に加えると、当該溶液の特性または組成、ならびに他の情報を修飾でき、例えば本発明と同一出願人による、2002年9月17日付でColeらに付与された米国特許第6,450,183号「Composition, apparatus, and method of conditioning scale on a metal surface」(金属表面上のスケールを調整する組成、機器、および方法)では、添加剤、例えば炭酸カリウム、塩素酸カリウム、硝酸ナトリウム、過マンガン酸ナトリウム、および過マンガン酸カリウムが、例えば約1重量パーセント(1%)〜約5重量パーセント(5%)で有益であることが開示されており、この開示全体は参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0043】
スケール除去の性能およびコストは、本発明に係る調整溶液中の塩基性(アルカリ性)水酸化物組成パーセンテージに直接関係する。スケール調整は、一般に、広範囲のアルカリ性水酸化物濃度にわたり達成されるが(例えば、約5重量%〜約65重量%)、システム性能への影響はパーセント値に応じて異なる。アルカリ性水酸化物がより希釈された場合、すなわちパーセント値が低い場合は(約5%〜約20%未満)、それに比例して表面張力が下がり、より高濃度の場合と比べて表面の湿潤特性が改善されるが、溶融水酸化物によるスケール調整のため加熱して蒸発させなければならない溶液中の水分が濃度低下とともに増すため、加熱エネルギーも比例的に増して不利になる。また、より希釈された溶液のライデンフロスト作用を(または任意選択で、沸点も)防ぐには、入来するストリップの温度を下げる必要がある。より高濃度の溶液(約20%〜約50%未満)の方が、固体含有物の妥当な溶解とエネルギー要件の許容範囲とのバランスが良好であると見られる。さらに、米国特許第6,450,183号では、溶液中の塩濃度が増すに伴い、ライデンフロスト作用が生じることなく使用できる上限温度も高まり、例えば約700゜Fになることを開示している。例えば、47%溶液を金属表面に適用して加熱する場合、当該溶液に含まれるアルカリ性水酸化物を前記金属表面で十分溶融状態にするには、適用された溶液1グラムあたり2イギリス熱単位(British Thermal Units:BTU)のエネルギーを要する。無視できる程度ではないが、適用された化学物質を脱水および溶融するための入熱要件は、当該工程に必要な全熱エネルギーのわずか約10%である。他の約90%のエネルギーは、前記金属の温度が本質的に周囲温度から(例えば、前記加熱部113の)約600゜Fに上昇する際、金属自体に吸収される。
【0044】
調整溶液の苛性濃度は高くしたほう(例えば、48%以上)が好ましいように見えるかもしれないが、アルカリ性水酸化物濃度を高めた調整溶液は、他の問題および困難を呈する。約47重量パーセントをはるかに超える濃度では、溶解した化学物質の一部に周囲温度での過飽和および結晶化が起こる。そのため、混合・輸送・貯蔵タンク、および適用装置をすべて加熱して溶液を均一に保つ必要がある。このような溶液では、より低濃度の溶液と比べて固体濃度が高まるほど、製造、輸送、貯蔵、および配達上の難度とそれに伴うコストが高まるほか、鋼表面を完全に湿潤させる上でも問題が生じる。表面張力が高まるほど調整すべき金属表面のコーティングおよび湿潤は不完全なものになり、特にアルカリ性水酸化物を(例えば、前記加熱部113により)加熱して脱水および溶融している間は、スケール調整が不完全になるおそれがある。ウェットアウトおよび流動性の特性は金属表面属性の関数でもあり、これらの問題は、より高価なステンレス鋼および超合金鋼ストリップにおいて滑らかなミラー仕上げ表面を調整する場合、より顕著になる。調整が不完全な領域は、(例えば、前記酸洗い部120で)完全に酸洗いされず、全領域面積の0.01%が調整不良となっても、特にステンレス鋼の場合は許容されない。より高濃度の苛性溶液、例えば上述のように約25%〜約50%のものを使用しやすくするため、本発明の実施形態の一部では、水酸化ナトリウム約42%および水酸化カリウム約58%の塩基性(アルカリ性)水酸化物組成に、小量の界面活性剤を混合して、溶液中に比較的高い割合の苛性固体が溶解しているため生じる表面張力を軽減するとともに、その調整溶液の起泡特性を低めている。
【0045】
別の態様において、本発明に係るスケール調整は、酸化剤の存在下、一般に酸素含有雰囲気下で起こる。前記酸化剤はアルカリ性水溶液に含まれる必要はなく、前記薄膜111が表面酸化物に対する酸化作用を有し、前記湿潤溶液により雰囲気中の酸素を吸収し、および/または前記溶融塩膜111により雰囲気中の酸素を拡散させることで、その酸化物の酸化状態を望ましく高め、その場合、前記加熱部113は、酸素含有雰囲気下で前記湿潤されたストリップを加熱する。その一例では、304焼きなましステンレス鋼タイプ304(18/8クロムニッケル)の0.635ミリメートル(0.025インチ)ゲージ、10.16センチメートル(4インチ)×15.24センチメートル(6インチ)パネルの表面を、界面活性剤と、水酸化ナトリウム(NaOH)約42%および水酸化カリウム(KOH)約58%の共晶を含む塩基性(アルカリ性)水酸化物組成とを含有するアルカリ性水溶液で湿潤させ、炉内において約399℃(700゜F)の酸素含有環境雰囲気下で約90秒間加熱し、前記湿潤させた鋼の表面温度を約232℃(450゜F)の最終処理温度に熱した。このパネルの冷却時、顕著なスケール変換が起こったことが目視検査で明確にわかり、次の水洗浄後には表面が十分に調整されていることが明らかであった。このパネル酸洗いの成功は、前記水洗浄後の目視評価で確認された。
【0046】
また、当業者であれば、望ましいスケール除去反応を完了させるには、雰囲気中の二酸化炭素と苛性アルカリとが同時に中和反応を起こして無効なアルカリ性炭酸塩を形成するなど前記アルカリ性水酸化物と雰囲気中の酸素との間に可能性として競合しあう反応があることも理解しなければならない。加熱率が緩慢な場合、および/またはコーティングすべき金属が曝露する雰囲気に二酸化炭素が多く含まれる場合(炭素ベースの燃料、例えば天然ガスまたはプロパンで加熱され、燃焼生成物として二酸化炭素を生じる炉のように)、望ましいスケール調整反応は、すべて減速し、または妨げられる。
【0047】
本発明の利点の1つは、従来の無水溶融塩浴では大量の物質が前記表面を取り囲んで雰囲気中への酸素拡散を妨げるため有効に使用できない調整組成が利用可能になることである。また、その溶液には、通常の無水溶融塩浴温度では不安定な添加剤を利用できる。さらに、本発明では適用される塩の反応生成物を排除できるため、金属表面における塩の化学反応を完全に制御することができる。さらに、表面を直接湿潤させる本発明の実施形態では、消費される塩の量が指定量になるよう制御されるが、これは金属が溶融浴から引き出される際その金属表面に付着する塩の量に塩消費量がおおむね左右される浸漬システムと対照的である。また、異なる金属を処理する場合は、異なる塩化学反応を使用することが望ましいこともあり、その場合、溶液は容易に切り替えることができ、各溶液の大型浴を加熱する必要はない。従来の浸漬技術では、数十または数千ポンドの高温液状化学物質を収容する溶融塩浴またはタンクが必要とされる。溶融塩は、一般に優れた蓄熱媒体であり、その冷却または加熱に長時間(数時間以上)を必要とする。そのため、工程温度を「オンザフライで」(すばやく)変更する能力は著しく制限され、スケール除去をリアルタイムで最適化することは困難である。工程可変量である化学組成、適用率、反応時間、および反応温度が変更できるようになったため、スケール除去性能の完全、精確かつ動的な最適化が初めて可能になった。
【0048】
なお、以上説明した諸実施形態では、アルカリ性水溶液である調整溶液中のナトリウムまたはカリウムの陽イオンを使用するが、代替溶液では種々の陽イオンを利用でき、それに伴うスケール除去パラメータおよび作用は、主に、存在する特定の陰イオンに応じて異なることに注意すべきである。一態様における代替調整溶液の諸組成は、陽イオンが異なっても、他の因子、例えば溶解度および相溶性が等しければ、ほぼ同程度有効に作用する。例えば、本発明に係る調整溶液中では硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムも効果的であり、全体として同程度の結果をもたらせるが、通常、塩基組成への溶解性ははるかに低いため、相対的に異なる陽イオンおよび/または界面活性剤の濃度が必要とされる可能性がある。米国特許第6,450,183号に開示された他の例としては、重硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ギ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、およびリン酸一ナトリウムなどがある。場合により、利用する添加剤または苛性化合物の陽イオン選択は、可用性に左右される。また、界面活性剤の使用も、溶液の添加剤または塩基性陽イオンの相溶性に応じて異なる。例えば、過マンガン酸塩化合物と相溶性のない界面活性剤が、実施形態から除外される場合もある。
【0049】
単独のスケール除去剤として使用される代替化合物の性能は目視で容易に判断でき、調整の無効性は、それに続く酸洗い後、元のスケールがそのままの形態で存在することにより確認できる。適切な調整溶液と、指定すべき時間および温度を選択する際の評価基準としては、調整済み酸化物の例えば、色、不透明度、および均一性に関する外観、洗浄、拭き取り、または後続の酸洗いによる調整済み酸化物の除去の容易さ、スケール除去された金属表面の例えば、色、明るさ、均一性、および残留酸化物の有無に関する最終的な外観などがある。言うまでもなく、これらいくつかの基準の度合いおよび相互方向は独立に異なるため、スケール除去剤または添加剤の有害または有益な影響に関する定量的な割り当てには特定の主観的要素が入る。
【0050】
以上、本発明についてその実施形態を詳しく説明し例示したが、これらの実施形態に関する詳述は、決して添付の請求項の範囲を制限または限定するよう意図されたものではない。当業者であれば、付加的な利点および変更(修正)形態が容易に理解されるであろう。したがって、本発明は、その最も広い範囲の態様において、本明細書に示し説明した具体的な詳細事項、代表的な機器、または具体例に限定されるものではない。したがって、そのような詳細事項からの逸脱は、本出願人の進歩性ある概念全般の要旨を逸脱しない範囲で可能である。
【0051】
本明細書で使用した単位のうち、メートル法に基づかないものは、次式でメートル単位に変換できる。1℃=(゜F−32) 5/9、1インチ = 2.54×10−2 m、および1 F.p.m. (foot per minute:フィート/分) = 5.08×10−3 m/sec。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属物体の表面上の酸化物スケールを処理するシステム(100)であって、
金属物体(106)の表面(112)の温度を、アルカリ性金属水酸化物を含有する調整水溶液のライデンフロスト点未満の適用温度に制御する温度制御装置(105)であって、前記金属物体の表面は当該表面を基準とした初期深さを有する酸化物スケールを有するものである、前記温度制御装置(105)と、
前記制御された温度において前記金属物体の表面を前記調整水溶液の薄層(111)で湿潤させる適用装置(108)であって、前記調整水溶液の薄層は前記酸化物スケールに付着するものである、前記適用装置(108)と、
前記湿潤された金属物体を最終調整温度に加熱する加熱装置(113)であって、当該最終調整温度は、前記金属表面上の前記酸化物スケールの調整を妥当な、ただし過剰ではない率でもたらすように選択される追加値を加算した、無水形態の前記アルカリ性金属水酸化物の融点を超える温度であり、前記最終調整温度に加熱された前記湿潤された金属物体の表面は、前記調整水溶液に含まれる水を蒸発させ、前記無水形態のアルカリ性金属水酸化物を前記金属物体の表面上で溶融させるものであり、当該溶融したアルカリ性金属水酸化物は、前記付着した酸化物スケールと反応して、前記初期深さ未満である、前記金属物体の表面を基準とした調整された深さに前記酸化物スケールを減少させるものである、前記加熱装置(113)と
を有し、
当該システムは、前記調整された深さを超える前記金属物体の表面の付加的な調整を終了させ、これより、前記金属物体の表面を基準とした調整された深さを超える付加的な酸化物スケールの生成が防止されるものである
システム(100)。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、当該システムは、前記適用装置によって前記調整水溶液の薄層を一定量適用することにより、前記調整された深さを超える前記金属物体の表面の付加的な調整を終了させ、前記溶融したアルカリ性金属水酸化物の前記付着した酸化物スケールとの反応により、前記金属物体の表面上の前記薄層内の前記溶融したアルカリ性金属水酸化物が十分消費され、前記金属物体の表面の付加的な調整が防止されるものであるシステム。
【請求項3】
請求項1記載のシステムにおいて、さらに、
前記金属物体の材料パラメータおよび寸法パラメータの関数として前記付加的な調整を終了させるように選択される調整時間の終了時において、前記最終調整温度未満の温度に前記金属物体の表面をクエンチ(quench)する冷却装置(114)を有するものであるシステム。
【請求項4】
請求項3記載のシステムにおいて、前記冷却装置は、前記金属物体の表面から前記アルカリ金属水酸化物を洗浄するものであるシステム。
【請求項5】
請求項3記載のシステムにおいて、前記最終調整温度および前記調整時間は、前記金属物体の表面のスケールに、特定の度合いの調整をもたらすように選択されるものであるシステム。
【請求項6】
請求項5記載のシステムにおいて、前記酸化物スケールの調整をもたらす前記追加値は、ゼロ〜約200゜F(94℃)の範囲から選択されるものであるシステム。
【請求項7】
請求項6記載のシステムにおいて、前記調整された深さは、前記材料パラメータおよび前記寸法パラメータの関数として前記最終調整温度を変更する前記加熱装置、前記材料パラメータおよび前記寸法パラメータの関数として前記調整水溶液の成分または前記調整水溶液に利用される反応物質の相対量を変更する前記適用装置、および前記材料パラメータおよび前記寸法パラメータの関数として前記調整時間を変更する前記冷却装置のうちの少なくとも1つにより最適化されるものであるシステム。
【請求項8】
請求項6記載のシステムにおいて、前記特定の度合いの調整は、前記金属物体の表面上のスケール酸洗い調整用最小酸化物量レベル、および最小卑金属作用であり、前記最終調整温度および前記調整時間は、前記金属物体の表面上のスケール量の関数として選択されるものであるシステム。
【請求項9】
請求項6記載のシステムにおいて、前記調整時間は、約30秒間を超えないものであるシステム。
【請求項10】
請求項9記載のシステムにおいて、前記調整時間は、約3秒間であるシステム。
【請求項11】
請求項6記載のシステムにおいて、前記加熱装置は、前記湿潤された金属物体を酸素含有雰囲気下で加熱するものであるシステム。
【請求項12】
請求項6記載のシステムにおいて、前記調整水溶液は、
水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの約30重量%の共晶混合物と、
約3重量%の硝酸ナトリウムと、
約67重量%の水と、
約1重量%未満の少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と
を含有するものであるシステム。
【請求項13】
請求項12記載のシステムにおいて、前記共晶混合物は、約18重量%の水酸化カリウムと約12重量%の水酸化ナトリウムとを含有するものであるシステム。
【請求項14】
請求項6記載のシステムにおいて、前記ライデンフロスト点は、前記調整水溶液の苛性濃度の関数として決定されるものであるシステム。
【請求項15】
請求項14記載のシステムにおいて、前記適用温度は、前記調整水溶液のライデンフロスト点付近の温度であり、前記調整溶液の沸点を超える温度であるシステム。
【請求項16】
請求項15記載のシステムにおいて、前記適用温度は、前記調整溶液の塩溶融温度を超えるものであるシステム。
【請求項17】
請求項16記載のシステムにおいて、前記最終調整温度は、前記適用温度を約150゜F(65℃)〜約200゜F(94℃)の範囲で上回るものであるシステム。
【請求項18】
金属物体の表面上の酸化物スケールを処理する方法であって、
金属物体の表面の温度を、アルカリ性金属水酸化物を含有する調整水溶液のライデンフロスト点未満の適用温度に制御する工程であって、前記金属物体の表面は当該表面を基準とした初期深さを有する酸化物スケールを有するものである、前記制御する工程と、
前記制御された温度において前記金属物体の表面を前記調整水溶液の薄層で湿潤させる工程であって、前記調整水溶液の薄層は前記酸化物スケールに付着するものである、前記湿潤させる工程と、
前記金属表面上の前記酸化物スケールの調整を妥当な、ただし過剰ではない率でもたらすように選択される追加値を加算した、無水形態の前記アルカリ性金属水酸化物の融点を超える最終調整温度に前記湿潤された金属物体を加熱する工程であって、この加熱により、前記調整水溶液に含まれる水が蒸発し、前記無水形態の前記アルカリ性金属水酸化物が前記金属物体の表面上において前記最終調整温度で溶融するものであり、当該溶融したアルカリ性金属水酸化物は前記付着した酸化物スケールと反応し、前記初期深さ未満である、前記金属物体の表面を基準とした調整された深さに前記酸化物スケールが減少するものである、前記加熱する工程と、
前記調整された深さを超える前記金属物体の表面の付加的な調整を終了する工程であって、これより、前記金属物体の表面を基準とした前記調整された深さを超える付加的な酸化物スケールの生成が防止されるものである、前記終了する工程と
を有する方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、前記付加的な調整を終了する工程は、前記溶融したアルカリ性金属水酸化物を前記付着した酸化物スケールと反応させる工程を有し、当該反応させる工程により、前記金属物体の表面上の前記溶融したアルカリ性金属水酸化物が十分消費され、前記金属物体の表面の付加的な調整が防止されるものである方法。
【請求項20】
請求項18記載の方法において、さらに、
前記金属物体の材料パラメータおよび寸法パラメータの関数として前記付加的な調整を終了させるように調整時間を選択する工程を有し、
前記付加的な調整を終了する工程は、前記調整時間の終了時において、前記最終調整温度未満の温度に前記金属物体の表面をクエンチする工程を有するものである方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、前記クエンチする工程は、前記金属物体の表面から前記アルカリ金属水酸化物を洗浄する工程を有するものである方法。
【請求項22】
請求項20記載の方法において、さらに、
前記最終調整温度および前記調整時間を選択して、前記金属物体の表面の前記スケールに特定の度合いの調整を提供する工程を有するものである方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、さらに、
ゼロ〜約200゜F(94℃)の範囲から前記追加値を選択して前記酸化物スケールの調整を提供する工程を有するものである方法。
【請求項24】
請求項22記載の方法において、さらに、
前記材料パラメータおよび前記寸法パラメータの関数として、前記最終調整温度と、前記調整水溶液の成分と、前記調整水溶液に利用される反応物質の相対量と、前記調整時間とのうち少なくとも1つを変更することにより、前記調整された深さを最適化する工程を有するものである方法。
【請求項25】
請求項22記載の方法において、前記特定の度合いの調整は、前記金属物体の表面上のスケール酸洗い調整用最小酸化物量レベル、および最小卑金属作用であり、当該方法は、さらに、
前記金属物体の表面の前記スケールの量の関数として、前記最終調整温度および前記調整時間を選択する工程を有するものである方法。
【請求項26】
請求項22記載の方法において、前記調整時間は、約30秒間を超えないものである方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法において、前記調整時間は、約3秒間である方法。
【請求項28】
請求項22記載の方法において、前記湿潤された金属物体を加熱する工程は、酸素含有雰囲気下で加熱を行う工程を有するものである方法。
【請求項29】
請求項22記載の方法において、前記調整水溶液は、
水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの約30重量%の共晶混合物と、
約3重量%の硝酸ナトリウムと、
約67重量%の水と、
約1重量%未満の少なくとも1つの非イオン性界面活性剤と
を有するものである方法。
【請求項30】
請求項29記載の方法において、前記共晶混合物は、約18重量%の水酸化カリウムおよび約12重量%の水酸化ナトリウムを含有するものである方法。
【請求項31】
請求項22記載の方法において、さらに、
前記調整水溶液の苛性濃度の関数として、前記ライデンフロスト点を決定する工程を有するものである方法。
【請求項32】
請求項31記載の方法において、さらに、
前記調整溶液のライデンフロスト点付近の、前記調整溶液の沸点を超える前記適用温度を選択する工程を有するものである方法。
【請求項33】
請求項32記載の方法において、さらに、
前記調整溶液の塩溶融温度を超える前記適用温度を選択する工程を有するものである方法。
【請求項34】
請求項33記載の方法において、さらに、
前記適用温度を約150゜F(65℃)〜約200゜F(94℃)の範囲で上回る前記最終調整温度を選択する工程を有するものである方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−516551(P2013−516551A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548143(P2012−548143)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/020479
【国際公開番号】WO2011/085172
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(501276429)コレン コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】