金属表面への微細構造皮膜形成液
【課題】金属製品を液に浸漬するか、金属製品に液を塗布・スプレーするだけで金属製品表面の錆を完全に除去することができるとともに、金属製品の表面に直径が1μm以下の結晶又は凹凸をもつ微細構造皮膜を形成して、表面積を増加させ、不純物が結晶内に入り込みにくく、さらに金属素地の変形に皮膜が追随しやすい微細構造皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液を提供すること。
【解決手段】金属表面への微細構造皮膜形成液は、リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を5〜60質量%、前記有機酸を0.02〜5質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.005〜0.2質量%含有することを特徴とする。
【解決手段】金属表面への微細構造皮膜形成液は、リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を5〜60質量%、前記有機酸を0.02〜5質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.005〜0.2質量%含有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面への微細構造形成液に関し、具体的には、金属表面に微細な凹凸構造の皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本全国では、1分間に1トン、即ち、1年間に約50万トンの鉄が錆びているものと推測されている。(増子 昇 著 東京大学名誉教授 日本規格協会発行)。
金属材料が使用されている機器、構造物、配管系等における故障の原因となる材料の劣化は大きく分けると、腐食、脆化、疲労の3種類であるが、「錆」によって誘発され、助長される原因は腐食脆化、腐食疲労が多く、金属材料が「錆びる」ことによって引き起こされる故障は、多くの連鎖反応を生み出し、より大きな損失につながることが多い。
【0003】
上記のような損失を防止するためには、金属に対して防錆加工をする必要があり、防錆対策の約60%が塗装である。屋内で行われる部材の塗装のほとんどの場合には前処理が施される。その方法としては、例えば特開平11−6076号公報(特許文献1)に、希塩酸などで錆除去を行い、洗浄、中和して行うパーカライジング法が代表的であり、また、現在は防錆方法として、「リン酸亜鉛の層間にアニリン又はその誘導体のポリマーをインターカレートさせた複合体を含有させて防錆組成物を構成する方法」などが開発されている。
【0004】
しかしながら、上述したような、金属の錆を除去した後に、防錆のメッキ加工を施すには、酸の除去工程、水での洗浄工程、中和工程、アルカリ処理工程を経る必要がある。また、塗装工程では、酸の除去工程、中和工程、アルカリ防錆処理工程、防錆処理工程、防錆液除去工程及び洗浄工程といった多くの工程を経る必要があり、その分、コストや時間がかかり、作業効率が非常に悪いという問題を有している。そして、このような状況は現在も改善されていない。
【0005】
また、洗浄に使用した希塩酸、希硫酸などを中和した溶液を廃棄する場合でも、それらの溶液は毒性を有しているため、水で大量に薄めないと廃棄することができないという問題を有している。さらに、通常の錆除去剤は毒性があるために、水洗いが必要であるが、金属表面に防錆処理をしないと洗浄に使用した水によってすぐに金属が錆びてしまう。また、金属の表面に防錆処理を施しても屋外では短期間に錆が発生してしまうという問題もある。
【0006】
なお、現在、鉄の「錆防止」の対策の約85%を塗装とメッキ等の表面処理が占める。錆防止として開発されたステンレスも現状ではモライ錆の防止に苦慮しているのが現状である。
金属の錆取りに用いられる錆取剤や防錆剤としては種々のものが知られているが、錆取りと防錆を同時に行うものとしては例えば特許第3858047号(特許文献2)に記載のものがある。特許文献2には、一液にて錆除去と防錆の効果を有する錆取り・防錆剤が開示されている。しかしながら、また酢酸や脂肪酸を用いているものであり、またその液によって金属表面上に形成される構造については何ら開示も示唆もされておらず、塗装下地処理として用いた場合の塗装性能および防錆効果も十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−6076号公報
【特許文献2】特許第3858047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、金属表面に微細な凹凸形状の皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液を提供することである。
さらに、錆が発生した金属部材から錆を除去することができるとともに、金属表面に微細構造の皮膜を形成することができる微細構造皮膜形成液を提供することである。
具体的には、金属製品を液に浸漬するか、金属製品に液を塗布・スプレーするだけで金属製品表面の錆を完全に除去することができるとともに、金属製品の表面に直径が1μm以下の結晶又は凹凸をもつ微細構造皮膜を形成して、表面積を増加させ、不純物が結晶内に入り込みにくく、さらに金属素地の変形に皮膜が追随しやすい微細構造皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リン酸と、有機酸と水の他に、非イオン性のフッ素系面活性剤を含み、これらを特定の配合割合とすることで、酢酸、脂肪酸、アルコールや珪素を含むことなく、上記課題が解決できることを見出したものである。
即ち、本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液は、リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を5〜60質量%、前記有機酸を0.02〜2質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.01〜0.15質量%含有することを特徴とする。
【0010】
好適には、上記本発明の金属表面への微細構造形成液は、更にリン酸二水素ナトリウム二水和物を0.02〜2質量%含有することを特徴とする。
【0011】
更に好適には、上記本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液は、該非イオン性のフッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(パーフルオロアルキルスルホン酸化合物及びパーフルオロアルキルオキサイド付加物)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0012】
なお、本発明において、「微細構造」とは、電子顕微鏡(例えば、高分解能電界放出型走査電子顕微鏡 S4800((株)日立製作所社製)、又は、三次元解析機能付高分解能走査電子顕微鏡 ERA−8900((株)エリオニクス社製))によるSEM撮影により、直径1μm以下の結晶又は凹凸を有する結晶構造のことをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液を金属部材に浸漬または塗布等の適用を行なうことにより、金属表面に、微細な結晶、凹凸構造を容易に形成することが可能となる。
また、本発明の微細構造皮膜形成溶液に適用する金属部材に錆が発生している場合には、該錆を除去することができるとともに、該金属製品の表面に微細構造を形成することができる。
このように、金属表面に微細構造の皮膜を形成することができるので、表面積が増大し、従って、微細構造が形成された皮膜を有する金属表面と、その上に塗布する材料、例えば塗料との接触面積が増加し、密着が強固になる。
また、微細構造を有することで、不純物が金属内部に入り込みにくくなる。
【0014】
具体的には、本発明の微細構造皮膜形成液により微細構造皮膜を形成した金属製品に、塗装を施すと、塗装が微細構造に入り込んで金属製品との密着性が高まる、いわゆるアンカー効果が得られるため、優れた塗装下地皮膜として適用できる。さらに、皮膜は微細であるため、薄い皮膜でも十分なアンカー効果が得られ、密着力が高まる。
また本発明により形成される微細構造は緻密な結晶構造であるため、結晶内部に結晶水などの異物が留まりにくく、ヒートサイクル性など優れた熱的耐性を有する塗装下地皮膜として適用できる。
【0015】
本発明により形成される皮膜は微細であり、薄くても十分な効果を発揮するため薄膜化を実現できる。そして、薄膜化により、金属製品が変形等しても十分に追随できるため、金属製品の変形や伸展等への耐性が高い。
本発明により形成される構造は微細であるため、金属の表面積は増加するので、本微細構造皮膜形成液により皮膜処理を施した金属製品は、通電特性にも優れることとなり、該皮膜は通電特性に優れるため、電着塗装を施す場合に、低い電圧で塗装を施すことができる。
そして、形成された皮膜はごく薄くても効果が得られるため、寸法精度が要求される場合や、皮膜により素材の厚みが増すことが制限される用途への適用が可能である。
【0016】
また、リン酸二水素ナトリウム二水和物を含む、金属表面への微細構造皮膜形成液は、上記効果に加え、極微細構造皮膜を形成する助剤としてより強力に働き、防錆機能・塗装下地皮膜としての効果・アンカー効果・通電特性の一層の向上が期待できる。
特に、非イオン性のフッ素系界面活性剤として、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物及び/又はパーフルオロアルキルオキサイド付加物を好適に使用することで、上記効果を特に有効に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図2】実施例2の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図3】実施例3の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図4】実施例4の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図5】実施例5の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図6】実施例6のアルミニウム部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図7】実施例7マグネシウム合金部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図8】実施例8のSUS416部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図9】実施例9のSUS304部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図10】実施例10の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図11】実施例11の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図12】実施例12の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図13】実施例13の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図14】実施例14の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図15】実施例15の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図16】実施例16の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図17】比較例1の鉄部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図18】比較例2の鉄部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図19】比較例3の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図20】比較例4の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図21】実施例1の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図22】実施例2の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図23】実施例3の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図24】比較例1の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図25】比較例1の円筒屈曲試験結果(φ25mm円筒マンドレル)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について好適例を用いて詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の微細構造皮膜形成液は、リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を2〜60質量%、前記有機酸を0.02〜2質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.01〜0.15質量%含有するものである。
このような構成を有することにより、金属表面に微細構造皮膜を形成し、上記効量を発揮させることができる。さらに該金属部材に錆が発生している場合には、該金属部材の表面に発生した錆を除去すると共に、前記微細構造皮膜を形成するものである。なお、本発明の形成液には、酢酸、脂肪酸、アルコールや珪素は含まれない。
【0019】
本発明の微細構造皮膜形成液に用いるリン酸としては、特に限定されず、オルトリン酸、縮合リン酸、重合リン酸(ポリリン酸)を用いることができる。
該リン酸の配合量は、本発明の形成液中、2〜60質量%、好ましくは、40〜60質量%である。
リン酸の配合を多く配合する程、錆を除去するのに要する時間を短くすることができるが、リン酸の割合が2質量%未満の場合には、錆の除去に要する時間が長すぎて作業効率が悪くなり、60質量%を超えると、錆の除去に要する時間は短くなるものの、金属製品の表面が黒ずんでしまい好ましくない。
【0020】
また、本発明の微細構造皮膜形成液に用いる有機酸としては、リンゴ酸(DL−リンゴ酸)、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
該有機酸の配合割合は、該形成液中0.02〜5質量%、好ましくは、0.1〜0.5質量%である。
有機酸を多く配合する程、防錆効果をより発揮させることができるが、その割合が0.02質量%未満だと防錆効果を発揮しにくく、5質量%を超えると経済的効果に乏しく好ましくない。
本発明の微細構造皮膜形成液に、該有機酸を含むことにより、局所的に金属錯体を形成して金属の溶出を促進し、リン酸イオンは溶出したこの金属錯体と反応して微細な結晶構造を形成させる一因となるものと考えられる。
【0021】
また、本発明の微細構造皮膜形成液に用いる界面活性剤としては、非イオン性で、且つフッ素系界面活性剤を使用する。
なお、非イオン性のフッ素系の界面活性剤以外の界面活性剤を使用しても、金属表面に微細構造をほとんど形成することができない。
【0022】
フッ素系の界面活性剤とは、アルキル鎖中の水素原子をフッ素原子に置き換えたものであり、物理化学的に安定で、フッ素原子を含有しない界面活性剤に比べて表面張力が低く、また、非イオン性の界面活性剤とすることで、その親水部の構造に起因して、金属表面に微細構造を形成し、より良い防錆効果が発揮されると考えられ、本発明においては、かかる非イオン性のフッ素系界面活性剤を添加することで、浸透性を促進し、金属部材表面に微細構造皮膜を形成することができる。従って、長期に渡る防錆効果を奏することが可能となる。
本発明に用いるフッ素系界面活性剤は、(1)強酸、(2)少量で表面張力の低下効果を有し、(3)レベリング性があり、起泡性が低く、(4)液に添加した際に、均一に溶解でき、(5)金属に対して浸透性を有するという作用をそなえており、本発明において適切に用いることができる。
【0023】
非イオン性のフッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物及びパーフルオロアルキルオキサイド付加物)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物等が例示できる。
該非イオン性の界面活性剤として、市場で入手しうる化合物を用いることができ、例えば、例えばノべックFC−4430、FC−4432(何れも3M社)、サーフロンS241、S242、S243、S286(何れもAGCセイカケミカル社)、フタージェント251((株)ネオス)、メガファックF410、F444、EXP.TF−2066(何れもDIC社)、ユニダインDS401、DS403等が挙げられる。
【0024】
該非イオン性フッ素系界面活性剤の配合割合は、該形成液中0.005〜0.2質量%、好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
配合割合が0.005質量%未満だと効果が薄く、0.2質量%を超えると経済的効果に乏しいため好ましくない。
【0025】
さらに、本発明の微細構造皮膜形成液は、水溶液であり水を必須成分とするが、例えば水道水等の清水を使用することができ、好ましくは腐食発生防止の点から、電気伝導率が20μS以下であることが望ましい。
なお、水は、例えば、上記リン酸、有機酸、非イオン性フッ素系海面活性剤を薄めて水溶液として用いる場合には、該水溶液に含まれる水であってもよい。
【0026】
好適には、本発明の微細構造皮膜形成液には、リン酸二水素ナトリウム二水和物が含まれる。
リン酸二水素ナトリウム二水和物は、極微細構造皮膜を形成する助剤としてより強力に働き、防錆機能・塗装下地皮膜としての効果・アンカー効果・通電特性の一層の向上が期待でき、その好適な混合量は、本発明の形成液中0.01〜5質量%、好ましくは0.02〜0.5質量%である。
【0027】
本発明の微細構造皮膜形成液は、上記リン酸、有機酸、非イオン性フッ素系界面活性剤および水、更に必要に応じてリン酸二水素ナトリウム二水和物を配合して、該形成液を調製することができる。
該形成液は一液として形成することもでき、また別個の液を形成して用いることもできる、具体的には、リン酸液と、リンゴ酸液とを別個に準備する。非イオン性フッ素系界面活性剤はリン酸液に入れても、リンゴ酸液に入れても、双方に入れてもいずれの方法であってもよい。
この場合には、金属を、該リン酸水溶液に浸漬等後に該有機酸水溶液に浸漬等することでも、金属を該有機酸水溶液に浸漬等した後に該リン酸水溶液に浸漬等することでも、本発明の微細構造皮膜は形成される。
【0028】
本発明の微細構造皮膜形成液に適用することができる金属としては、特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ステンレスやその合金、マグネシウム合金等が挙げられる。
これらの金属を本発明の形成液(室温〜60℃)に浸漬、または塗布・スプレー、浸漬等することで、金属部材表面に微細な結晶凹凸構造を形成することができる。
特に好ましくは、まず非イオン性フッ素系界面活性剤を含む有機酸水溶液を金属に塗布、スプレー、浸漬等し、次いで、非イオン性フッ素系界面活性剤を含むリン酸を適用する。これは、かかる方法により、極微細な結晶凹凸構造皮膜が得られるからである。
本発明の形成液に金属部材を浸漬等した後は、水洗等の後処理は特に必要ではなく、そのまま乾燥、例えば自然乾燥や温風乾燥等を行なって乾燥させるか、布等で残存液をふき取れば十分である。
また適用する金属に錆が発生している場合には、錆が発生している金属部材を該形成液に適用することで、該金属部材に発生した錆が完全に除去でき、その後金属表面に微細構造の皮膜を形成する。
また錆の発生状況等により、本発明の形成液を希釈して用いたり、加温して用いたりすることも適宜可能であり、例えば液の希釈倍率は2〜10倍、液温は室温〜60℃で用いることができる。
【0029】
このように、本発明の微細構造皮膜形成液は、金属製品に使用することにより、金属表面に発生した錆を除去し、それと同時に金属表面に微細構造皮膜を形成し、長期間に渡って強力な防錆機能を発揮し続けることになる。
なお、本発明において形成される微細構造は、上記したように、直径1μm以下の結晶又は凹凸を持つ結晶構造であり、以下の従来例と比してきわめて微細な構造を有することで、本発明の上記種々の効果が発揮される。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例および比較例により説明するが、これらに限定されるものではない。
(使用材料)
・リン酸水溶液:日本化学工業株式会社製 オルトリン酸 85%燐酸
・有機酸(リンゴ酸):扶桑化学株式会社製 食品添加物リンゴ酸フソウ
・有機酸(酒石酸):昭和化工株式会社製 試薬
・有機酸(クエン酸):田辺製薬株式会社製 試薬
・リン酸亜鉛溶液:パルテック株式会社製 リン酸亜鉛系処理鋼板
・非イオン性フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物):DIC株式会社製 メガファックF−444
・非イオン性フッ素系界面活性剤(含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー):DIC株式会社製 メガファックF−444
・リン酸二水素ナトリウム水和物:日本化学工業株式会社製 試薬
・アニオン性フッ素界面活性剤:DIC株式会社製 メガファックF−114
・水:水道水
・鋼部材: JIS G3141 100×70×0.8mmt
・銅部材: JIS C1100 100×70×0.8mmt
・アルミ部材:JIS H4000、A1050 100×70×0.8mmt
・マグネシウム合金部材:JIS H4201、AZ31 100×70×0.8mmt
・ステンレス部材A:JIS G4305,SUS410 100×70×0.8mmt
・ステンレス部材B:JIS G4305、SUS304 100×70×0.8mmt
【0031】
実施例1
上記リン酸水溶液を10質量%、上記リンゴ酸を0.1質量%、上記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素系界面活性剤)を0.03質量%、水を残分として配合し、これらを混合して皮膜形成液を調製した。
次いで、上記鋼部材でその表面に錆が発生している部材を、得られた皮膜形成液(40℃)に20分間浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
該皮膜を有する鋼部材の表面を、高分解能電解放出型走査電子顕微鏡Model ERA−8900(エリオニクス社製)を用いて3000倍、1万倍でSEM撮影し、その結果をそれぞれ図1(a)および図1(b)示す。
得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0032】
実施例2
前記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素界面活性剤)の代わりに、上記含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(非イオン性フッ素系界面活性剤)を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
該皮膜を有する鋼部材の表面を、高分解能電解放出型走査電子顕微鏡Model S―4800(日立製作所社製)を用いて3000倍、1万倍でSEM撮影し、その結果をそれぞれ図2(a)および図2(b)示す。
得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0033】
実施例3
前記リンゴ酸の代わりに、上記酒石酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図3(a)および図3(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0034】
実施例4
前記リンゴ酸の代わりに、上記クエン酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図4(a)および図4(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0035】
実施例5
上記鋼部材の代わりに、上記銅部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該銅材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図5(a)および図5(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0036】
実施例6
上記鋼部材の代わりに、上記アルミ部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該アルミ部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図6(a)および図6(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0037】
実施例7
上記鋼部材の代わりに、上記マグネシウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、該マグネシウム合金部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図7(a)(但し、5000倍)および図7(b)(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0038】
実施例8
上記鋼部材の代わりに、上記SUS410部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該SUS410部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図8(a)および図8(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0039】
実施例9
上記鋼部材の代わりに、上記SUS304部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該SUS304部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図9(a)および図9(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0040】
実施例10
実施例1の皮膜形成液に、さらに上記リン酸二水素ナトリウム二水和物を0.1質量%配合した以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図10(1万倍)に示す。得られた極微細構造は、約1μmの凹凸形状を有し、実施例1より微細な構造を有することがわかる。
【0041】
実施例11
実施例1の皮膜形成液を2液で構成した以外は実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
具体的には、実施例1の上記リン酸水溶液に非イオン性フッ素系界面活性剤を半分配合したリン酸水溶液と、実施例1の上記リンゴ酸に非イオン性フッ素系界面活性剤を半分配合したリン酸水溶液を配合したリンゴ酸液を別個に調製した。実施例1で用いたと同様の鋼部材を、まず、前記リン酸水溶液に20分浸漬した後、リンゴ酸に1分浸漬して、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図11(1万倍)に示す。得られた極微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0042】
実施例12
前記リン酸水溶液に20分浸漬した後、リンゴ酸に1分浸漬する代わりに、前記リンゴ酸に1分浸漬した後にリン酸水溶液に20分浸漬した以外は、実施例11と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図12(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有し、実施例11よりも微細な構造を有することがわかる。
【0043】
実施例13
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.02質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図13(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0044】
実施例14
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.05質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図14(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0045】
実施例15
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、5質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図15(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0046】
実施例16
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、10質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図16(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0047】
比較例1
上記リン酸亜鉛溶液を皮膜形成液として用い、錆びていない上記鋼部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、皮膜を鋼部材表面に形成させ、その表面をSEM撮影した。その結果をそれぞれ図17(a)および図17(b)に示す。
鋼部材表面に形成される構造の厚さは2〜8μmであり、構造の粒度がかなり大きいことがわかる。
なお、リン酸亜鉛処理液は、環境負荷の高い亜鉛イオンが多く含まれ、またリン酸亜鉛自体が急性毒性物質に相当するため、リン酸亜鉛を用いることは環境保護の観点からも問題がある。
【0048】
比較例2
上記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素界面活性剤)の代わりに、アニオン性フッ素界面活性剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、その表面をSEM撮影した。その結果をそれぞれ図18(a)および図18(b)に示す。鋼部材表面には、凹凸構造や結晶等の微細な構造を有する皮膜が形成されていないことがわかる。
【0049】
比較例3
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.01質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、SEM写真を撮影し、その結果を図19(1万倍)に示す。鋼部材表面に形成される結晶構造は、不明瞭であり、結晶は崩れて形成されており、微細な皮膜構造は得られないことがわかる。
【0050】
比較例4
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、3質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、SEM写真を撮影し、その結果を図20(1万倍)に示す。鋼部材表面に結晶構造がうまく成長していないことがわかる。
【0051】
試験例
上記実施例1および比較例1で処理して得られた皮膜形成金属部材をそれぞれ用いて機械的性質の性能を評価した。また上記実施例1〜3及び比較例1で得られた皮膜形成金属部材をそれぞれ用いて、ヒートサイクルに対する性能を評価及び導電性性能を評価した。
(機械的性質評価試験)
実施例1及び比較例1で得られた鋼部材に、関西ペイント製のポリエステル樹脂粉体塗料(製品名ビリューシア)を、それぞれ1コートし、耐カッピング性能について、以下の表1の試験方法により、試験を行った。なお、各例について、鋼部材のサンプル数を2個とした。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表1より、変形による付着性を評価する耐カッピング性について、実施例1による皮膜のほうが、比較例1より優れていることがわかる。従って、変形に対する耐性及び付着性(密着性)については、実施例1のほうが比較例1より優れていることは明らかである。
【0054】
(ヒートサイクルに対する耐性試験)
一般に、素地金属と塗膜では熱膨張率が異なるため、塗装下地皮膜に大きな負荷を強いることになり、塗装品が用いられる通常の環境では、必ず温度変化が伴う。塗装の性能を評価するにはヒートサイクルによるストレスが加わっても、金属表面に形成された皮膜は塗膜と良好な付着性を保持できるかが重要である。
従って、実施例1〜3及び比較例1で得られた鋼部材に、関西ペイント製のポリエステル樹脂粉体塗料(製品名ビリューシア)を、それぞれ1コートし、ヒートサイクル耐性性能について、以下の試験方法により、試験を行った。
【0055】
試験方法
(1)ステップ1:ヒートサイクル負荷
80℃ ⇔ −20℃×33サイクル192時間30分(板橋理化工業株式会社・プログラムヒートサイクル試験装置)
1サイクル350分:−20℃から80℃まで47分かけて温度を上昇させた。次いで80℃で165分保持した。その後80℃から−20℃まで13分で温度を下げた。その後−20℃で125分保持した。
上記1サイクルを33サイクル繰り返した。
(2)ステップ2:円筒屈曲試験
JIS K5600−5−1(ISO 1519) 耐屈曲性(円筒形マンドレル)に準じて試験を行った。試験結果を以下の表2及び図21〜図25に示す。
但し、使用機器はTQC製マンドレル屈曲試験器、No.KT−SP1800(ISO 1519/JIS K5600−5−1適合品)、使用円筒はφ20mm円筒マンドレルである(図21〜24)。
また、使用円筒はφ25mm円筒マンドレルの場合を図25に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1の微細構造皮膜の耐ヒートサイクル性は、比較例1のものより優れていることがわかる。
【0058】
(導電性試験)
溶液中における各皮膜形成部材の導電性試験の条件は以下のとおりである。
溶液:硫酸ナトリウム7%溶液
皮膜形成部材の寸法:70×150mm
直径150mmで深さ80mmのガラス容器に上記溶液を深さ50mmまで入れる。次いで、大きさ100×200mmの銅板と、実施例1〜3及び比較例1の各皮膜形成部材(処理板)を該液中に垂直(立てた状態)て浸漬した。そのとき、該銅板と該皮膜形成部材(処理板)間の距離を30mmとした。
該銅板と各処理板間の抵抗値を測定し、その結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
微細な結晶構造を有するものは、液中での導電性が高い値を示し、上記表3より、本発明の微細構造形成皮膜は、液中での導電性が、比較例のものより高い値を示すことがわかる。
【0061】
本発明の微細構造皮膜形成液は、かかる微細構造によって、表面積が増え、不純物が結晶内に入り込みにくく、さらに金属素地の変形に皮膜が追随しやすいため、塗装する際にアンカー効果を発揮し、優れた塗装下地皮膜として活用できる。
【0062】
以上、本発明の実施例及びその効果について説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。例えば、本実施例においては全ての原料を一液の中に配合することを前提としたが、リン酸と有機酸を別々の液にする等、二液以上に分離して使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液は、上記効果を有し、塗膜との密着性に優れるため、塗装下地皮膜の形成液として有効に適用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面への微細構造形成液に関し、具体的には、金属表面に微細な凹凸構造の皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本全国では、1分間に1トン、即ち、1年間に約50万トンの鉄が錆びているものと推測されている。(増子 昇 著 東京大学名誉教授 日本規格協会発行)。
金属材料が使用されている機器、構造物、配管系等における故障の原因となる材料の劣化は大きく分けると、腐食、脆化、疲労の3種類であるが、「錆」によって誘発され、助長される原因は腐食脆化、腐食疲労が多く、金属材料が「錆びる」ことによって引き起こされる故障は、多くの連鎖反応を生み出し、より大きな損失につながることが多い。
【0003】
上記のような損失を防止するためには、金属に対して防錆加工をする必要があり、防錆対策の約60%が塗装である。屋内で行われる部材の塗装のほとんどの場合には前処理が施される。その方法としては、例えば特開平11−6076号公報(特許文献1)に、希塩酸などで錆除去を行い、洗浄、中和して行うパーカライジング法が代表的であり、また、現在は防錆方法として、「リン酸亜鉛の層間にアニリン又はその誘導体のポリマーをインターカレートさせた複合体を含有させて防錆組成物を構成する方法」などが開発されている。
【0004】
しかしながら、上述したような、金属の錆を除去した後に、防錆のメッキ加工を施すには、酸の除去工程、水での洗浄工程、中和工程、アルカリ処理工程を経る必要がある。また、塗装工程では、酸の除去工程、中和工程、アルカリ防錆処理工程、防錆処理工程、防錆液除去工程及び洗浄工程といった多くの工程を経る必要があり、その分、コストや時間がかかり、作業効率が非常に悪いという問題を有している。そして、このような状況は現在も改善されていない。
【0005】
また、洗浄に使用した希塩酸、希硫酸などを中和した溶液を廃棄する場合でも、それらの溶液は毒性を有しているため、水で大量に薄めないと廃棄することができないという問題を有している。さらに、通常の錆除去剤は毒性があるために、水洗いが必要であるが、金属表面に防錆処理をしないと洗浄に使用した水によってすぐに金属が錆びてしまう。また、金属の表面に防錆処理を施しても屋外では短期間に錆が発生してしまうという問題もある。
【0006】
なお、現在、鉄の「錆防止」の対策の約85%を塗装とメッキ等の表面処理が占める。錆防止として開発されたステンレスも現状ではモライ錆の防止に苦慮しているのが現状である。
金属の錆取りに用いられる錆取剤や防錆剤としては種々のものが知られているが、錆取りと防錆を同時に行うものとしては例えば特許第3858047号(特許文献2)に記載のものがある。特許文献2には、一液にて錆除去と防錆の効果を有する錆取り・防錆剤が開示されている。しかしながら、また酢酸や脂肪酸を用いているものであり、またその液によって金属表面上に形成される構造については何ら開示も示唆もされておらず、塗装下地処理として用いた場合の塗装性能および防錆効果も十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−6076号公報
【特許文献2】特許第3858047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、金属表面に微細な凹凸形状の皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液を提供することである。
さらに、錆が発生した金属部材から錆を除去することができるとともに、金属表面に微細構造の皮膜を形成することができる微細構造皮膜形成液を提供することである。
具体的には、金属製品を液に浸漬するか、金属製品に液を塗布・スプレーするだけで金属製品表面の錆を完全に除去することができるとともに、金属製品の表面に直径が1μm以下の結晶又は凹凸をもつ微細構造皮膜を形成して、表面積を増加させ、不純物が結晶内に入り込みにくく、さらに金属素地の変形に皮膜が追随しやすい微細構造皮膜を形成することができる、金属表面への微細構造皮膜形成液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リン酸と、有機酸と水の他に、非イオン性のフッ素系面活性剤を含み、これらを特定の配合割合とすることで、酢酸、脂肪酸、アルコールや珪素を含むことなく、上記課題が解決できることを見出したものである。
即ち、本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液は、リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を5〜60質量%、前記有機酸を0.02〜2質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.01〜0.15質量%含有することを特徴とする。
【0010】
好適には、上記本発明の金属表面への微細構造形成液は、更にリン酸二水素ナトリウム二水和物を0.02〜2質量%含有することを特徴とする。
【0011】
更に好適には、上記本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液は、該非イオン性のフッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(パーフルオロアルキルスルホン酸化合物及びパーフルオロアルキルオキサイド付加物)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0012】
なお、本発明において、「微細構造」とは、電子顕微鏡(例えば、高分解能電界放出型走査電子顕微鏡 S4800((株)日立製作所社製)、又は、三次元解析機能付高分解能走査電子顕微鏡 ERA−8900((株)エリオニクス社製))によるSEM撮影により、直径1μm以下の結晶又は凹凸を有する結晶構造のことをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液を金属部材に浸漬または塗布等の適用を行なうことにより、金属表面に、微細な結晶、凹凸構造を容易に形成することが可能となる。
また、本発明の微細構造皮膜形成溶液に適用する金属部材に錆が発生している場合には、該錆を除去することができるとともに、該金属製品の表面に微細構造を形成することができる。
このように、金属表面に微細構造の皮膜を形成することができるので、表面積が増大し、従って、微細構造が形成された皮膜を有する金属表面と、その上に塗布する材料、例えば塗料との接触面積が増加し、密着が強固になる。
また、微細構造を有することで、不純物が金属内部に入り込みにくくなる。
【0014】
具体的には、本発明の微細構造皮膜形成液により微細構造皮膜を形成した金属製品に、塗装を施すと、塗装が微細構造に入り込んで金属製品との密着性が高まる、いわゆるアンカー効果が得られるため、優れた塗装下地皮膜として適用できる。さらに、皮膜は微細であるため、薄い皮膜でも十分なアンカー効果が得られ、密着力が高まる。
また本発明により形成される微細構造は緻密な結晶構造であるため、結晶内部に結晶水などの異物が留まりにくく、ヒートサイクル性など優れた熱的耐性を有する塗装下地皮膜として適用できる。
【0015】
本発明により形成される皮膜は微細であり、薄くても十分な効果を発揮するため薄膜化を実現できる。そして、薄膜化により、金属製品が変形等しても十分に追随できるため、金属製品の変形や伸展等への耐性が高い。
本発明により形成される構造は微細であるため、金属の表面積は増加するので、本微細構造皮膜形成液により皮膜処理を施した金属製品は、通電特性にも優れることとなり、該皮膜は通電特性に優れるため、電着塗装を施す場合に、低い電圧で塗装を施すことができる。
そして、形成された皮膜はごく薄くても効果が得られるため、寸法精度が要求される場合や、皮膜により素材の厚みが増すことが制限される用途への適用が可能である。
【0016】
また、リン酸二水素ナトリウム二水和物を含む、金属表面への微細構造皮膜形成液は、上記効果に加え、極微細構造皮膜を形成する助剤としてより強力に働き、防錆機能・塗装下地皮膜としての効果・アンカー効果・通電特性の一層の向上が期待できる。
特に、非イオン性のフッ素系界面活性剤として、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物及び/又はパーフルオロアルキルオキサイド付加物を好適に使用することで、上記効果を特に有効に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図2】実施例2の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図3】実施例3の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図4】実施例4の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図5】実施例5の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図6】実施例6のアルミニウム部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図7】実施例7マグネシウム合金部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図8】実施例8のSUS416部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図9】実施例9のSUS304部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図10】実施例10の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図11】実施例11の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図12】実施例12の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図13】実施例13の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図14】実施例14の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図15】実施例15の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図16】実施例16の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図17】比較例1の鉄部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図18】比較例2の鉄部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図19】比較例3の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図20】比較例4の鋼部材表面のSEM(電子顕微鏡)写真である。
【図21】実施例1の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図22】実施例2の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図23】実施例3の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図24】比較例1の円筒屈曲試験結果(φ20mm円筒マンドレル)の写真である。
【図25】比較例1の円筒屈曲試験結果(φ25mm円筒マンドレル)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について好適例を用いて詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の微細構造皮膜形成液は、リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を2〜60質量%、前記有機酸を0.02〜2質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.01〜0.15質量%含有するものである。
このような構成を有することにより、金属表面に微細構造皮膜を形成し、上記効量を発揮させることができる。さらに該金属部材に錆が発生している場合には、該金属部材の表面に発生した錆を除去すると共に、前記微細構造皮膜を形成するものである。なお、本発明の形成液には、酢酸、脂肪酸、アルコールや珪素は含まれない。
【0019】
本発明の微細構造皮膜形成液に用いるリン酸としては、特に限定されず、オルトリン酸、縮合リン酸、重合リン酸(ポリリン酸)を用いることができる。
該リン酸の配合量は、本発明の形成液中、2〜60質量%、好ましくは、40〜60質量%である。
リン酸の配合を多く配合する程、錆を除去するのに要する時間を短くすることができるが、リン酸の割合が2質量%未満の場合には、錆の除去に要する時間が長すぎて作業効率が悪くなり、60質量%を超えると、錆の除去に要する時間は短くなるものの、金属製品の表面が黒ずんでしまい好ましくない。
【0020】
また、本発明の微細構造皮膜形成液に用いる有機酸としては、リンゴ酸(DL−リンゴ酸)、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
該有機酸の配合割合は、該形成液中0.02〜5質量%、好ましくは、0.1〜0.5質量%である。
有機酸を多く配合する程、防錆効果をより発揮させることができるが、その割合が0.02質量%未満だと防錆効果を発揮しにくく、5質量%を超えると経済的効果に乏しく好ましくない。
本発明の微細構造皮膜形成液に、該有機酸を含むことにより、局所的に金属錯体を形成して金属の溶出を促進し、リン酸イオンは溶出したこの金属錯体と反応して微細な結晶構造を形成させる一因となるものと考えられる。
【0021】
また、本発明の微細構造皮膜形成液に用いる界面活性剤としては、非イオン性で、且つフッ素系界面活性剤を使用する。
なお、非イオン性のフッ素系の界面活性剤以外の界面活性剤を使用しても、金属表面に微細構造をほとんど形成することができない。
【0022】
フッ素系の界面活性剤とは、アルキル鎖中の水素原子をフッ素原子に置き換えたものであり、物理化学的に安定で、フッ素原子を含有しない界面活性剤に比べて表面張力が低く、また、非イオン性の界面活性剤とすることで、その親水部の構造に起因して、金属表面に微細構造を形成し、より良い防錆効果が発揮されると考えられ、本発明においては、かかる非イオン性のフッ素系界面活性剤を添加することで、浸透性を促進し、金属部材表面に微細構造皮膜を形成することができる。従って、長期に渡る防錆効果を奏することが可能となる。
本発明に用いるフッ素系界面活性剤は、(1)強酸、(2)少量で表面張力の低下効果を有し、(3)レベリング性があり、起泡性が低く、(4)液に添加した際に、均一に溶解でき、(5)金属に対して浸透性を有するという作用をそなえており、本発明において適切に用いることができる。
【0023】
非イオン性のフッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物及びパーフルオロアルキルオキサイド付加物)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物等が例示できる。
該非イオン性の界面活性剤として、市場で入手しうる化合物を用いることができ、例えば、例えばノべックFC−4430、FC−4432(何れも3M社)、サーフロンS241、S242、S243、S286(何れもAGCセイカケミカル社)、フタージェント251((株)ネオス)、メガファックF410、F444、EXP.TF−2066(何れもDIC社)、ユニダインDS401、DS403等が挙げられる。
【0024】
該非イオン性フッ素系界面活性剤の配合割合は、該形成液中0.005〜0.2質量%、好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
配合割合が0.005質量%未満だと効果が薄く、0.2質量%を超えると経済的効果に乏しいため好ましくない。
【0025】
さらに、本発明の微細構造皮膜形成液は、水溶液であり水を必須成分とするが、例えば水道水等の清水を使用することができ、好ましくは腐食発生防止の点から、電気伝導率が20μS以下であることが望ましい。
なお、水は、例えば、上記リン酸、有機酸、非イオン性フッ素系海面活性剤を薄めて水溶液として用いる場合には、該水溶液に含まれる水であってもよい。
【0026】
好適には、本発明の微細構造皮膜形成液には、リン酸二水素ナトリウム二水和物が含まれる。
リン酸二水素ナトリウム二水和物は、極微細構造皮膜を形成する助剤としてより強力に働き、防錆機能・塗装下地皮膜としての効果・アンカー効果・通電特性の一層の向上が期待でき、その好適な混合量は、本発明の形成液中0.01〜5質量%、好ましくは0.02〜0.5質量%である。
【0027】
本発明の微細構造皮膜形成液は、上記リン酸、有機酸、非イオン性フッ素系界面活性剤および水、更に必要に応じてリン酸二水素ナトリウム二水和物を配合して、該形成液を調製することができる。
該形成液は一液として形成することもでき、また別個の液を形成して用いることもできる、具体的には、リン酸液と、リンゴ酸液とを別個に準備する。非イオン性フッ素系界面活性剤はリン酸液に入れても、リンゴ酸液に入れても、双方に入れてもいずれの方法であってもよい。
この場合には、金属を、該リン酸水溶液に浸漬等後に該有機酸水溶液に浸漬等することでも、金属を該有機酸水溶液に浸漬等した後に該リン酸水溶液に浸漬等することでも、本発明の微細構造皮膜は形成される。
【0028】
本発明の微細構造皮膜形成液に適用することができる金属としては、特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ステンレスやその合金、マグネシウム合金等が挙げられる。
これらの金属を本発明の形成液(室温〜60℃)に浸漬、または塗布・スプレー、浸漬等することで、金属部材表面に微細な結晶凹凸構造を形成することができる。
特に好ましくは、まず非イオン性フッ素系界面活性剤を含む有機酸水溶液を金属に塗布、スプレー、浸漬等し、次いで、非イオン性フッ素系界面活性剤を含むリン酸を適用する。これは、かかる方法により、極微細な結晶凹凸構造皮膜が得られるからである。
本発明の形成液に金属部材を浸漬等した後は、水洗等の後処理は特に必要ではなく、そのまま乾燥、例えば自然乾燥や温風乾燥等を行なって乾燥させるか、布等で残存液をふき取れば十分である。
また適用する金属に錆が発生している場合には、錆が発生している金属部材を該形成液に適用することで、該金属部材に発生した錆が完全に除去でき、その後金属表面に微細構造の皮膜を形成する。
また錆の発生状況等により、本発明の形成液を希釈して用いたり、加温して用いたりすることも適宜可能であり、例えば液の希釈倍率は2〜10倍、液温は室温〜60℃で用いることができる。
【0029】
このように、本発明の微細構造皮膜形成液は、金属製品に使用することにより、金属表面に発生した錆を除去し、それと同時に金属表面に微細構造皮膜を形成し、長期間に渡って強力な防錆機能を発揮し続けることになる。
なお、本発明において形成される微細構造は、上記したように、直径1μm以下の結晶又は凹凸を持つ結晶構造であり、以下の従来例と比してきわめて微細な構造を有することで、本発明の上記種々の効果が発揮される。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例および比較例により説明するが、これらに限定されるものではない。
(使用材料)
・リン酸水溶液:日本化学工業株式会社製 オルトリン酸 85%燐酸
・有機酸(リンゴ酸):扶桑化学株式会社製 食品添加物リンゴ酸フソウ
・有機酸(酒石酸):昭和化工株式会社製 試薬
・有機酸(クエン酸):田辺製薬株式会社製 試薬
・リン酸亜鉛溶液:パルテック株式会社製 リン酸亜鉛系処理鋼板
・非イオン性フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物):DIC株式会社製 メガファックF−444
・非イオン性フッ素系界面活性剤(含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー):DIC株式会社製 メガファックF−444
・リン酸二水素ナトリウム水和物:日本化学工業株式会社製 試薬
・アニオン性フッ素界面活性剤:DIC株式会社製 メガファックF−114
・水:水道水
・鋼部材: JIS G3141 100×70×0.8mmt
・銅部材: JIS C1100 100×70×0.8mmt
・アルミ部材:JIS H4000、A1050 100×70×0.8mmt
・マグネシウム合金部材:JIS H4201、AZ31 100×70×0.8mmt
・ステンレス部材A:JIS G4305,SUS410 100×70×0.8mmt
・ステンレス部材B:JIS G4305、SUS304 100×70×0.8mmt
【0031】
実施例1
上記リン酸水溶液を10質量%、上記リンゴ酸を0.1質量%、上記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素系界面活性剤)を0.03質量%、水を残分として配合し、これらを混合して皮膜形成液を調製した。
次いで、上記鋼部材でその表面に錆が発生している部材を、得られた皮膜形成液(40℃)に20分間浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
該皮膜を有する鋼部材の表面を、高分解能電解放出型走査電子顕微鏡Model ERA−8900(エリオニクス社製)を用いて3000倍、1万倍でSEM撮影し、その結果をそれぞれ図1(a)および図1(b)示す。
得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0032】
実施例2
前記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素界面活性剤)の代わりに、上記含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(非イオン性フッ素系界面活性剤)を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
該皮膜を有する鋼部材の表面を、高分解能電解放出型走査電子顕微鏡Model S―4800(日立製作所社製)を用いて3000倍、1万倍でSEM撮影し、その結果をそれぞれ図2(a)および図2(b)示す。
得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0033】
実施例3
前記リンゴ酸の代わりに、上記酒石酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図3(a)および図3(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0034】
実施例4
前記リンゴ酸の代わりに、上記クエン酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図4(a)および図4(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0035】
実施例5
上記鋼部材の代わりに、上記銅部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該銅材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図5(a)および図5(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0036】
実施例6
上記鋼部材の代わりに、上記アルミ部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該アルミ部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図6(a)および図6(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0037】
実施例7
上記鋼部材の代わりに、上記マグネシウム合金を用いた以外は、実施例1と同様にして、該マグネシウム合金部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図7(a)(但し、5000倍)および図7(b)(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0038】
実施例8
上記鋼部材の代わりに、上記SUS410部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該SUS410部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図8(a)および図8(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0039】
実施例9
上記鋼部材の代わりに、上記SUS304部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、該SUS304部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果をそれぞれ図9(a)および図9(b)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0040】
実施例10
実施例1の皮膜形成液に、さらに上記リン酸二水素ナトリウム二水和物を0.1質量%配合した以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図10(1万倍)に示す。得られた極微細構造は、約1μmの凹凸形状を有し、実施例1より微細な構造を有することがわかる。
【0041】
実施例11
実施例1の皮膜形成液を2液で構成した以外は実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
具体的には、実施例1の上記リン酸水溶液に非イオン性フッ素系界面活性剤を半分配合したリン酸水溶液と、実施例1の上記リンゴ酸に非イオン性フッ素系界面活性剤を半分配合したリン酸水溶液を配合したリンゴ酸液を別個に調製した。実施例1で用いたと同様の鋼部材を、まず、前記リン酸水溶液に20分浸漬した後、リンゴ酸に1分浸漬して、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図11(1万倍)に示す。得られた極微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0042】
実施例12
前記リン酸水溶液に20分浸漬した後、リンゴ酸に1分浸漬する代わりに、前記リンゴ酸に1分浸漬した後にリン酸水溶液に20分浸漬した以外は、実施例11と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図12(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有し、実施例11よりも微細な構造を有することがわかる。
【0043】
実施例13
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.02質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図13(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0044】
実施例14
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.05質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図14(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0045】
実施例15
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、5質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図15(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0046】
実施例16
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、10質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れるとともに、該鋼部材表面に微細構造皮膜が形成させた。
実施例2と同様にして、微細構造のSEM写真を撮影し、その結果を図16(1万倍)に示す。得られた微細構造は、約1μmの凹凸形状を有することがわかる。
【0047】
比較例1
上記リン酸亜鉛溶液を皮膜形成液として用い、錆びていない上記鋼部材を用いた以外は、実施例1と同様にして、皮膜を鋼部材表面に形成させ、その表面をSEM撮影した。その結果をそれぞれ図17(a)および図17(b)に示す。
鋼部材表面に形成される構造の厚さは2〜8μmであり、構造の粒度がかなり大きいことがわかる。
なお、リン酸亜鉛処理液は、環境負荷の高い亜鉛イオンが多く含まれ、またリン酸亜鉛自体が急性毒性物質に相当するため、リン酸亜鉛を用いることは環境保護の観点からも問題がある。
【0048】
比較例2
上記パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(非イオン性フッ素界面活性剤)の代わりに、アニオン性フッ素界面活性剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、その表面をSEM撮影した。その結果をそれぞれ図18(a)および図18(b)に示す。鋼部材表面には、凹凸構造や結晶等の微細な構造を有する皮膜が形成されていないことがわかる。
【0049】
比較例3
前記リンゴ酸の配合割合を0.1質量%とする代わりに、0.01質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、SEM写真を撮影し、その結果を図19(1万倍)に示す。鋼部材表面に形成される結晶構造は、不明瞭であり、結晶は崩れて形成されており、微細な皮膜構造は得られないことがわかる。
【0050】
比較例4
前記リン酸の配合割合を20質量%とする代わりに、3質量%とした以外は、実施例1と同様にして、錆が発生している該鋼部材を皮膜形成溶液に浸漬した。該鋼部材の表面の錆が取れた。また、該鋼部材表面には皮膜が形成された。
実施例2と同様にして、SEM写真を撮影し、その結果を図20(1万倍)に示す。鋼部材表面に結晶構造がうまく成長していないことがわかる。
【0051】
試験例
上記実施例1および比較例1で処理して得られた皮膜形成金属部材をそれぞれ用いて機械的性質の性能を評価した。また上記実施例1〜3及び比較例1で得られた皮膜形成金属部材をそれぞれ用いて、ヒートサイクルに対する性能を評価及び導電性性能を評価した。
(機械的性質評価試験)
実施例1及び比較例1で得られた鋼部材に、関西ペイント製のポリエステル樹脂粉体塗料(製品名ビリューシア)を、それぞれ1コートし、耐カッピング性能について、以下の表1の試験方法により、試験を行った。なお、各例について、鋼部材のサンプル数を2個とした。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表1より、変形による付着性を評価する耐カッピング性について、実施例1による皮膜のほうが、比較例1より優れていることがわかる。従って、変形に対する耐性及び付着性(密着性)については、実施例1のほうが比較例1より優れていることは明らかである。
【0054】
(ヒートサイクルに対する耐性試験)
一般に、素地金属と塗膜では熱膨張率が異なるため、塗装下地皮膜に大きな負荷を強いることになり、塗装品が用いられる通常の環境では、必ず温度変化が伴う。塗装の性能を評価するにはヒートサイクルによるストレスが加わっても、金属表面に形成された皮膜は塗膜と良好な付着性を保持できるかが重要である。
従って、実施例1〜3及び比較例1で得られた鋼部材に、関西ペイント製のポリエステル樹脂粉体塗料(製品名ビリューシア)を、それぞれ1コートし、ヒートサイクル耐性性能について、以下の試験方法により、試験を行った。
【0055】
試験方法
(1)ステップ1:ヒートサイクル負荷
80℃ ⇔ −20℃×33サイクル192時間30分(板橋理化工業株式会社・プログラムヒートサイクル試験装置)
1サイクル350分:−20℃から80℃まで47分かけて温度を上昇させた。次いで80℃で165分保持した。その後80℃から−20℃まで13分で温度を下げた。その後−20℃で125分保持した。
上記1サイクルを33サイクル繰り返した。
(2)ステップ2:円筒屈曲試験
JIS K5600−5−1(ISO 1519) 耐屈曲性(円筒形マンドレル)に準じて試験を行った。試験結果を以下の表2及び図21〜図25に示す。
但し、使用機器はTQC製マンドレル屈曲試験器、No.KT−SP1800(ISO 1519/JIS K5600−5−1適合品)、使用円筒はφ20mm円筒マンドレルである(図21〜24)。
また、使用円筒はφ25mm円筒マンドレルの場合を図25に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1の微細構造皮膜の耐ヒートサイクル性は、比較例1のものより優れていることがわかる。
【0058】
(導電性試験)
溶液中における各皮膜形成部材の導電性試験の条件は以下のとおりである。
溶液:硫酸ナトリウム7%溶液
皮膜形成部材の寸法:70×150mm
直径150mmで深さ80mmのガラス容器に上記溶液を深さ50mmまで入れる。次いで、大きさ100×200mmの銅板と、実施例1〜3及び比較例1の各皮膜形成部材(処理板)を該液中に垂直(立てた状態)て浸漬した。そのとき、該銅板と該皮膜形成部材(処理板)間の距離を30mmとした。
該銅板と各処理板間の抵抗値を測定し、その結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
微細な結晶構造を有するものは、液中での導電性が高い値を示し、上記表3より、本発明の微細構造形成皮膜は、液中での導電性が、比較例のものより高い値を示すことがわかる。
【0061】
本発明の微細構造皮膜形成液は、かかる微細構造によって、表面積が増え、不純物が結晶内に入り込みにくく、さらに金属素地の変形に皮膜が追随しやすいため、塗装する際にアンカー効果を発揮し、優れた塗装下地皮膜として活用できる。
【0062】
以上、本発明の実施例及びその効果について説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。例えば、本実施例においては全ての原料を一液の中に配合することを前提としたが、リン酸と有機酸を別々の液にする等、二液以上に分離して使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の金属表面への微細構造皮膜形成液は、上記効果を有し、塗膜との密着性に優れるため、塗装下地皮膜の形成液として有効に適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を5〜60質量%、前記有機酸を0.02〜5質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.005〜0.2質量%含有することを特徴とする、金属表面への微細構造皮膜形成液。
【請求項2】
請求項1に記載の金属表面への微細構造皮膜形成液において、更にリン酸二水素ナトリウム二水和物を0.02〜5質量%含有することを特徴とする、金属表面への微細構造皮膜形成液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属表面への微細構造皮膜形成液において、該非イオン性のフッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物及びパーフルオロアルキルオキサイド付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、金属表面への微細構造皮膜形成液。
【請求項1】
リン酸と、有機酸と、非イオン性のフッ素系界面活性剤と、水とを必須成分とし、前記リン酸を5〜60質量%、前記有機酸を0.02〜5質量%、前記非イオン性のフッ素系界面活性剤を0.005〜0.2質量%含有することを特徴とする、金属表面への微細構造皮膜形成液。
【請求項2】
請求項1に記載の金属表面への微細構造皮膜形成液において、更にリン酸二水素ナトリウム二水和物を0.02〜5質量%含有することを特徴とする、金属表面への微細構造皮膜形成液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属表面への微細構造皮膜形成液において、該非イオン性のフッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物及びパーフルオロアルキルオキサイド付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、金属表面への微細構造皮膜形成液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−241215(P2012−241215A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110912(P2011−110912)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(306001323)
【出願人】(511120990)
【出願人】(593002621)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(306001323)
【出願人】(511120990)
【出願人】(593002621)
【Fターム(参考)】
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