説明

金属表面処理剤

【課題】金属表面に発生した赤錆を短時間で効率よく除去することのでき、また金属表面に付着した塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等の塩を効率よく除去することのできる金属表面処理剤を提供する。
【解決手段】(A)リン酸及び/又はその塩、(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物、及び(C)シリカ含有化合物を含む金属表面処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面に発生した赤錆の除去や金属表面に付着した汚れや塩を除去するために使用される金属表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、腐食性鉄等の金属表面に発生した赤錆等の金属酸化物や水酸化物を除去する方法として、各種の除錆剤組成物を使用して除去する方法が知られている。
例えば、有機酸、弱酸性無機酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、酸化剤と、標準電極電位が−0.1V以下の金属とを必須成分とする除錆剤組成物(特許文献1参照)や、チオグリコール酸エタノールアミン等からなる群より選ばれた少なくとも1種のアンモニウム塩を含む錆取り剤(特許文献2参照)が知られている。特許文献1に記載の除錆剤組成物は特定の酸化剤や特定の標準電極電位を有する金属を用いるものであり、また、特許文献2に記載の錆取り剤は、特定のアミン化合物を用いるものであり、赤錆が多く発生した金属表面を処理するに当たっては、錆除去時間を長く要したり、錆の除去率が充分ではなかったりする場合がある。
【0003】
一方、リン酸及びポリオキシエチレン−ノニルフェノール−エーテルを含有する除錆剤(特許文献3参照)やリン酸を主成分として、更に、有機酸及び界面活性剤を配合した除錆剤(特許文献4参照)も知られているが、錆除去時間を長く要したり、錆の除去率が充分ではなかったりすることがあった。また、オルトリン酸とDL−りんご酸と、水とを必須成分とする錆取り・防錆剤(特許文献5参照)が知られている。しかしこの文献に記載の錆取り・防錆剤においても、赤錆が多く発生した金属表面から赤錆を除去するに際して、錆除去時間を長く要したり、錆の除去率が充分ではない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−202983号公報
【特許文献2】特開平9−241877号公報
【特許文献3】特開平6−330362号公報
【特許文献4】特開平9−78270号公報
【特許文献5】特開2007−182591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、赤錆が多く発生し、重度の発錆状態(赤錆平均厚みが0.5mm以上となっている状態)となっている腐食性鉄等の金属表面から該赤錆を短時間で効率よく除去することができ、また金属表面に付着した塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等の塩を効率よく除去することのできる金属表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を進めた結果、リン酸及び/又はその塩、2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物、及びシリカ含有化合物を含む金属表面処理剤により、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記の金属表面処理剤を提供するものである。
1.(A)リン酸及び/又はその塩、(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物、及び(C)シリカ含有化合物を含む金属表面処理剤。
2.(A)リン酸及び/又はその塩の含有量が20〜50質量%、(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物の含有量が7〜25質量%及び(C)成分のシリカ含有化合物の含有量が3〜25質量%である上記1に記載の金属表面処理剤。
3.(C)シリカ含有化合物が乾式シリカ、コロイダルシリカ及びシリカゲルから選ばれる少なくとも1種である上記1又は2に記載の金属表面処理剤。
4.(B)成分の2価アルコールがエチレングリコール及び/又はプロピレングリコールである上記1〜3のいずれかに記載の金属表面処理剤。
5.(B)成分の2価アルコールから誘導されるエーテル化合物がエチレングリコールモノブチルエーテルである上記1〜3のいずれかに記載の金属表面処理剤。
6.更に(D)塩化水素、硫酸及び蟻酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含む請求項1〜5のいずれかに記載の金属表面処理剤。
7.金属表面処理剤が除錆剤である上記1〜6のいずれかに記載の金属表面処理剤。
8.金属表面処理剤が脱塩剤である上記1〜6のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属表面処理剤によれば、赤錆が多く発生し、重度の発錆状態(赤錆平均厚みが0.5mm以上となっている状態)となっている、腐食性鉄等の金属表面から該赤錆を短時間で効率よく除去することができ、また金属表面に付着した汚れや塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等の塩を効率よく除去することができる。そして、本発明の金属表面処理剤は、外気温が10℃以下の低温であっても十分に効果を発揮するものであり、季節等の温度条件に左右されず使用することができる。また、金属壁面に塗布、散布処理した場合、垂れ落ちたりしないで金属処理面に残存するため、金属表面処理剤を効率的に使用することができ、その使用量を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の金属表面処理剤は、(A)リン酸及び/又はその塩、(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物、及び(C)シリカ含有化合物を含む金属表面処理剤である。以下、本発明の金属表面処理剤を構成する各成分及びその他添加し得る成分について説明する。
【0009】
〔(A)リン酸及び/又はその塩〕
本発明に使用される(A)成分のリン酸としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種の化合物である。本発明の金属表面処理剤として使用されるリン酸は、赤錆の発生した金属表面、特に鉄金属表面に速やかに浸透し、リン酸が鉄と反応してリン酸鉄II〔Fe2(PO42〕を形成する。腐食性鉄等の金属表面に発生した赤錆(Fe23)は、極めて多孔質であり、かつもろいので、生成したリン酸鉄(II)は赤錆の内部、赤錆と非錆部分との境界面で大きな容積を形成するため、金属表面に発生した赤錆を押し広げて効率的に該表面から離脱分離させる作用を有する。
また、(A)成分として使用されるリン酸塩は、上記リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等のアンモニウム塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらのリン酸塩は、リン酸と同様の作用を有し、金属表面に発生した赤錆を効率的に該表面から離脱分離させる作用を有する。リン酸とそのリン酸塩は、それぞれリン酸単独で使用してもよいし、リン酸塩単独で使用してもよいし、リン酸とそのリン酸塩とを混合して使用してもよい。特に好ましい(A)成分は、リン酸(化学式H3PO4で示される化合物)である。
【0010】
〔(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物〕 本願発明で使用される(B)成分の2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物は、本発明の金属表面処理剤において、(A)成分のリン酸及び/又はその塩と併用して用いることにより、金属表面に発生した赤錆を該表面から離脱分離させる作用を促進するとともに、低温下での金属表面処理を効率的に行うことを可能とするものである。
(B)成分として使用される2価アルコールとしては、特に限定されるものではないが、通常は炭素数2〜5の2価アルコールを用いることができ、具体的にはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0011】
また、該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物としては、上記の2価アルコールと1価アルコールとから得られるエーテル化合物が挙げられる。1価アルコールは特に限定されないが通常は、炭素数2〜5の1価アルコールを用いることができ、例えば2価アルコールをエチレングリコールとした場合、それから誘導されるエーテル化合物としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル等を挙げることができる。なお、2価アルコールがエチレングリコール以外の他の2価アルコールについても、同様に炭素数2〜5の1価アルコールとのエーテル化合物を例示することができる。
【0012】
上記(B)成分の2価アルコールとしては、好ましくはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも一種が好ましく、特にエチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも一種が特に好ましい。また、該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物としては、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0013】
〔(C)シリカ含有化合物〕
本願発明で使用される(C)成分のシリカ含有化合物は、本発明の金属表面処理剤において、使用される(A)リン酸及び/又はその塩と併用して用いることにより、金属表面に発生した赤錆を該表面から離脱分離させる作用を促進するとともに、かつ本発明の金属表面処理剤の粘度を適切に調整することができる。金属表面処理剤の粘度を適切に調整することにより、粘稠状とすることができ、金属壁面に塗布、散布等により処理された本発明の金属表面処理剤は金属表面から垂れ落ちたりせずに、処理面に残存することとなる。従って、金属表面処理剤を効率的に使用することができるため、金属表面処理剤の使用量を低減できる。また、シリカ含有化合物は研磨作用も有しており、特に、金属配管内部表面に発生した赤錆を除去し、洗浄する際に効果的である。
(C)成分のシリカ含有化合物としては、特に限定されず、例えば、合成品及び天然品の非晶質シリカや合成品及び天然品の結晶質シリカを用いることができる。特に合成品である非晶質シリカは比較的均一な粒子径を有し、工業的に入手が容易なことから合成品である非晶質シリカを用いることが好ましい。
【0014】
合成品の非晶質シリカには、乾式法と湿式法で製造された非晶質シリカを挙げることができ、乾式法で製造された非晶質シリカは、例えば四塩化珪素を酸素・水素炎中で燃焼させた乾式シリカがあり、また金属シリコン製造時の副生成物として得られるシリカヒューム等を挙げることができる。また、湿式法で製造された非晶質シリカとしては、ケイ酸ナトリウムを鉱酸で中和することにより得られる湿式シリカ(沈降法)、ケイ酸ナトリウムを鉱酸で中和することにより得られるシリカゲル(ゲル法)及びアルコキシシランを加水分解して得られるコロイダルシリカ(ゾルゲル法)等を挙げることができる。
また、上記記載のシリカと他の無機粒子とを複合化させて得られる複合粒子、例えばシリカ−炭酸カルシウム複合粒子、シリカ−二酸化チタン複合粒子等のものを用いることもできる。本発明では、上記非晶質シリカの中でも乾式シリカ、コロイダルシリカ及びシリカゲルを用いることが好ましい。
【0015】
本発明で使用される(C)成分のシリカ含有化合物は、本発明の金属表面処理剤を調整した際に、(C)成分のシリカ含有化合物の粒子径やその比重が大きいため、沈降して相分離しない程度の粒子径や比重を有するものを使用することが望ましい。粒子径としては通常は、1nm〜50μmの範囲で使用することができる。例えば乾式シリカを用いる場合は、平均一次粒子径が1〜100nmのものを用いることができる。このような乾式シリカとしては、超微粒子高熱法シリカとして市販されている日本アエロジル株式会社製のアエロジルを挙げることができる。アエロジルは、見掛け比重が小さいので比較的少量の使用で本発明の金属表面処理剤を粘稠状とするのに効果的である。また、コロイダルシリカとしては、粒子径が10〜50nmを有するアンモニアで安定化された中粒子径シリカゾルとして市販されている日産化学株式会社製のスノーテックス等を挙げることができる。また、これらの1〜100nmの微粒子径を有するシリカを用いることにより、本発明の金属表面処理剤を使用後、洗浄水等で洗浄した後、使用したシリカが残存し白化現象等を起こすことがないので好ましい。
【0016】
〔(D)酸〕
本発明の金属表面処理剤は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外に、更に(D)成分として(A)成分以外の酸を添加することができる。使用される酸としては、特に限定されるものではないが、塩化水素(塩酸)、硫酸及び蟻酸から選ばれる少なくとも1種の酸を添加することが望ましい。(D)成分として添加される酸は、本発明の金属表面処理剤におけるpHを調整するために添加されるものであり、これらの酸を添加することにより、pHを0.5〜5、好ましくは0.7〜3に調整することが望ましい。本発明の金属表面処理剤におけるpHを上記の記載範囲内に調整することにより、赤錆が多く発生し、重度の発錆状態となっている、腐食性鉄等の金属表面から赤錆を短時間で効率よく除去することができる。
【0017】
〔各成分の含有量〕
本発明の金属表面処理剤において、(A)成分のリン酸の含有量は、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは30〜40質量%であることが望ましい。この範囲内であると重度の発錆状態となっている腐食性鉄等の金属表面から赤錆を短時間で効率よく除去することができる。また、(B)成分の2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物の含有量は、好ましくは7〜25質量%、より好ましくは9〜20質量%である。この範囲内であると、本発明の金属表面処理剤を使用した際に、金属表面に発生した赤錆を効率的に該表面から分離する作用を促進するとともに、10℃以下であっても短時間で効率よく処理することができる。特に外気温が0℃以下となるような条件下であっても、本発明の金属表面処理剤は、凍結等で固まることがなく、厳しい低温下であっても金属表面を処理することができる。また、(C)成分のシリカ含有化合物は、3〜25質量%、好ましくは、4〜20質量%含むことが望ましい。この範囲内であると、本発明の金属表面処理剤を調整した際に、金属表面に発生した赤錆を効率的に該表面から分離する作用を促進するとともに、かつ本発明の金属表面処理剤の粘度を調整することにより、金属壁面に塗布、散布等により処理された本発明の金属表面処理剤が金属表面から垂れ落ちたりしないで、塗布、散布された処理面に保持されて残存する。従って、本発明の金属表面処理剤を効率的に使用することができるため、金属表面処理剤の使用量を低減できる。
そして、必要に応じて使用される(D)成分の酸は、本発明の金属表面処理剤のpHを前述したように、好ましくは0.5〜5、より好ましくは0.7〜3に調整するために添加されるものであり、そのpHの範囲内で適宜調整して添加量を調節することができる。
本発明の金属表面処理剤は、水を含んだ粘稠状態とされて使用される。従って、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分及び必要に応じて添加される(D)成分以外の残余は、基本的に水となる。この水の含有率は、上記各成分の使用量により変わってくるが、通常は20〜50質量%程度に調整される。
【0018】
〔その他の添加成分〕
本発明の金属表面処理剤は、上記で説明した(A)〜(D)成分以外に、各種界面活性剤、有機溶媒等を必要に応じて添加することもできる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代表されるアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソトリデシルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ジ(ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム等のジポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩等が挙げられる。
【0019】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリル酸ジエタノールアミド等のアルキロールアマイド類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ジステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、モノカプリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリコールエーテル類等を挙げることができる。
【0020】
カチオン系界面活性剤としては、例えば塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩等のアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩類等を挙げることができる。
【0021】
両性界面活性剤としては、ヤシ油アルキルベタイン等のアルキルベタイン類、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルアミドベタイン類、Z−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリームベタイン等のイミダゾリン類、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン等のグリシン類を挙げることができる。
上記界面活性剤は単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの界面活性剤を添加することにより、金属表面に残存している機械油類などの油分をエマルジョン化して除去し錆の除去性を高め、鉄錆内部への浸透力を高める錆の除去効率を高めることができる。
【0022】
上記有機溶媒としては、上記(B)成分である2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物以外のものとなる。これらの有機溶媒との具体例としては、次のものがある:メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、活性アミルアルコール、ベンジルアルコール、フェノールなどの1価アルコール類;グリセリン、ペンタンジオール、ヘキシレングリコールなどの多価アルコール類;エチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、などのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、アセトフェノン、プロピオフェノンなどのケトン類;蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ジエチレングリコールモノメチル、酢酸ジエチレングリコールモノエチル、アセト酢酸エチル、ホルムアミド、モノメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド類;アセトニトリルなどのニトリル類などである。これらを単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの有機溶媒を用いることにより油分の付着した錆においても効率よく除去することができる。
本発明の金属表面処理剤は、上記にて説明した必須成分、必要に応じて添加されるその他の添加成分及び水を含み、粘稠状態として得られるものである。
【0023】
〔本発明の金属表面処理剤の使用方法〕
<錆除去剤としての使用方法>
本発明の金属表面処理剤は、金属酸化物や水酸化物等の赤錆の発生した鉄等の金属表面に本発明の金属表面処理剤を塗布又は散布することにより使用することができる。重度の発錆状態(赤錆平均厚みが0.5mm以上となっている状態)となっている、腐食性鉄等の金属表面には、本発明の金属表面処理剤が内部に十分に浸透するように、赤錆の厚みに応じて、その使用量を調整して塗布又は散布する。また、本発明の金属表面処理剤が塗布、散布された金属表面に対しては、金属表面処理剤が内部に十分に浸透するように樹脂フィルムやシートでその処理表面を被覆することにより養生して処理することもできる。通常、本発明の金属表面処理剤を金属表面に使用後、30分以内で重度の発錆状態となっている金属表面から赤錆を分離させることができる。
赤錆を除去するに際しては、高圧・中圧・低圧等の洗浄水を用いて洗い流してもよいし、氷片を高速エアーで噴射して洗浄するアイスブラスト洗浄を用いてもよい。
本発明の金属表面処理剤は、特に10℃以下の低温下でも十分に効果を発揮することができるので、季節等の温度条件に左右されることがなく、冬季の0℃以下となるような条件下であっても処理することができる。従って、本発明の金属表面処理剤は、海岸近くの重度の発錆状態となっている鉄塔等の金属構築物や船舶等の赤錆除去に効率的に使用することができる。
<脱塩剤としての使用方法>
また、本発明の金属表面処理剤は、海岸近くの金属構築物に付着した塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等の塩を効率よく除去することもできる。脱塩剤としての使用方法は、塩化ナトリウムや塩化マグネシウム等の塩が付着した金属表面に、上記に記載した錆除去剤としての使用方法と同様にして、本発明の金属表面処理剤を塗布又は散布等して、所定時間後に、高圧・中圧・低圧等の洗浄水を用いて洗い流して処理することができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔評価方法〕
<錆除去時間及び錆の残存状態>
金属表面処理剤について、赤錆の発生した金属試験片における錆除去時間及び錆の残存状態を以下の基準で評価した。
◎:30分以内で赤錆を除去でき、金属試験片に表面に赤錆は残存しない。
○:30分〜3時間で赤錆を除去でき、金属試験片に表面に赤錆は残存しない。
△:3〜6時間で赤錆をほぼ除去できるが、試験片の一部表面に赤錆が残存する。
×:6〜10時間でも赤錆をほとんど除去できない。
<塗布後の液垂れ状態>
◎:液垂れしない。
○:ほとんど液垂しない。
△:徐々に液垂する。
×:液垂し易い。
<錆除去後の金属表面の白化状態>
◎:白化状態は見られない。
○:ほとんど白化状態は見られない。
△:一部に白化状態が見られる。
×:全面が白化状態となる。
【0025】
実施例1
85%濃度のリン酸38質量%(リン酸32質量%含有)、エチレングリコール12質量%、乾式シリカ微粒子6質量%(日本アエロジル株式会社製:商品名、アエロジル#50:一次粒子径30nm)、混酸7質量%(35%濃度の塩酸3.3質量%、95%濃度の硫酸3.1質量%及び98%濃度の蟻酸0.6質量%)及び水37質量%の合計量100質量%を均一に混練して粘稠状の金属表面処理剤を得た。得られた金属表面処理剤のpHは、1.0であった。重度に赤錆の発生した冷間圧延鋼板(赤錆の平均厚みが2mm)の金属試験片(20cm×30cm×1.5cm)を垂直に設置し、この金属表面処理剤を処理温度条件が20℃において、赤錆発生面に塗布量1000g/m2で全面に塗布した。塗布した金属表面処理剤の液垂れ状態を観察したところ、液垂れはなかった。金属表面処理剤を塗布した30分後に高圧洗浄水(圧力:1500psi)を使用して、金属表面処理剤を塗布した表面に均一に洗浄した。目視にて観察したところ、金属試験片の表面から赤錆は全て除去されていた。使用した金属表面処理剤の構成成分、金属表面処理条件及び評価結果を表1に示す。
実施例2
実施例1において、処理温度条件を5℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
実施例3
実施例1において、処理温度条件を−5℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0026】
実施例4
85%濃度のリン酸30質量%(リン酸25.5質量%含有)、エチレングリコール18質量%、シリカ含有率が20質量%のコロイダルシリカ17質量%(シリカ3.4質量%含有)、混酸6質量%(35%濃度の塩酸3質量%及び95%濃度の硫酸3質量%)及び水29質量%の合計量100質量%を均一に混練して粘稠状の金属表面処理剤を得た。この得られた金属表面処理剤を用いて、実施例1と同様にして錆除去試験を行った。使用した金属表面処理剤の構成成分、金属表面処理条件及び評価結果を表1に示す。
【0027】
実施例5
85%濃度のリン酸32質量%(リン酸27.2質量%含有)、エチレングリコールモノブチルエーテル10質量%、シリカゲル粉体18質量%、混酸6質量%(35%濃度の塩酸3質量%及び95%濃度の硫酸3質量%)、界面活性剤としてポリオキシエチレン・アルキルフェニルエーテル3質量%及び水31質量%の合計量100質量%を均一に混練して粘稠状の金属表面処理剤を得た。この得られた表1に記載の構成成分を有する金属表面処理剤を使用して、重度に赤錆の発生した冷間圧延鋼板(赤錆の平均厚みが2mm)の金属試験片(20cm×30cm×1.5cm)を垂直に設置し、この金属表面処理剤を処理温度条件が20℃において、赤錆発生面に塗布量1000g/m2で全面に塗布した。塗布した金属表面処理剤の液垂れ状態を観察したところ、液垂れはなかった。次いで、金属表面処理剤が塗布された金属試験片をポリエチレンフィルムで被覆して、養生した。金属表面処理剤を塗布した30分後に高圧洗浄水(圧力:1500psi)を使用して、金属表面処理剤を塗布した表面に均一に洗浄した。その評価結果を表1に示す。
実施例6
実施例5において、金属表面処理剤が塗布された金属試験片をポリエチレンフィルムを使用しないで、養生を行わなかった以外は、実施例5と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0028】
比較例1〜4
表1に記載の構成成分を有する本発明に含まれない金属表面処理剤を調整し、同様に行った。結果を表1に示す。なお、比較例3は、−5℃の温度条件で行ったため、使用した金属表面処理剤が凍結し、金属表面に塗布することができなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
[注]表1において、
*1:乾式シリカ(日本アエロジル株式会社製 アエロジル#50:一次粒子径30nm)
*2:コロイダルシリカ(日産化学株式会社製 スノーテックス OL:粒子径40〜50nm:シリカ含有率20%)
*3:シリカゲル粉体(平均粒子径1.4μmを有する市販品)
*4:混合成分の合計が100質量%になる量で水を含有する。
【0031】
実施例7
冷間圧延鋼板の金属試験片(20cm×30cm×1.5cm)表面に海水を散布して、金属表面に塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムを主成分とする塩を0.5ミリ堆積して付着させた。この塩が付着した金属試験片の表面に、実施例1で使用した金属表面処理剤を使用して、塗布量500g/m2で全面に塗布した。塗布した30分後に、洗浄水を使用して洗い流したところ、金属試験片の表面から付着した塩は、全て除去することができた。
【0032】
〔評価結果〕
表1に示す実施例1〜5の金属表面処理剤は、比較例1〜4に示す金属表面処理剤と比較して、金属表面に発生した重度の赤錆に対して、短時間で該赤錆を除去することができる。また、金属表面処理剤の塗布・散布に当たっては、粘稠状であるため塗布液の液垂れがなく、金属表面処理剤を効率的に使用することができる。また、本発明の金属表面処理剤は、10℃以下の低温でも効率的に使用することができ、特に0℃以下の低温下でも凍結することがないので、冬季においても使用することができる。そして、また金属表面に堆積した塩に対しても容易に除去することができる。これに対して、比較例1ではリン酸とDL−リンゴ酸を併用した例であるが、重度の赤錆の除去に対して効果がないことが分かる。また、比較例2では、本発明の(B)成分を使用しない例であるが、錆除去時間において効果が良くないことが分かる。比較例3は、−5℃の低温下で行ったものであるが、使用した金属表面処理剤が凍結し、塗布できなかったことにより、評価できなかったものである。比較例4は、本発明の(C)成分を使用しない例であるが、塗布液が垂れ、また錆除去時間も効果が良くないことを示している。そして、実施例7は、本発明の金属表面処理剤が脱塩剤としても使用できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の金属表面処理剤は、金属表面に発生した赤錆の除去や金属表面に付着した塩化ナトリウム及び塩化マグネシウム等の塩の脱塩を短時間で効率よく除去することができ、特に海岸近くの重度の発錆状態にある金属構築物からの赤錆の除去や金属表面に塩害により付着した海水由来の塩を短時間で効率よく除去することができるので、除錆剤や脱塩剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リン酸及び/又はその酸塩、(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物、及び(C)シリカ含有化合物を含む金属表面処理剤。
【請求項2】
(A)リン酸及び/又はその塩の含有量が20〜50質量%、(B)2価アルコール及び/又は該2価アルコールから誘導されるエーテル化合物の含有量が7〜25質量%及び(C)シリカ含有化合物の含有量が3〜25質量%である請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項3】
(C)シリカ含有化合物が乾式シリカ、コロイダルシリカ及びシリカゲルから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の金属表面処理剤。
【請求項4】
(B)成分の2価アルコールがエチレングリコール及び/又はプロピレングリコールである請求項1〜3のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項5】
(B)成分の2価アルコールから誘導されるエーテル化合物がエチレングリコールモノブチルエーテルである請求項1〜4のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項6】
更に(D)塩化水素、硫酸及び蟻酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含む請求項1〜5のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項7】
金属表面処理剤が除錆剤である請求項1〜6のいずれかに記載の金属表面処理剤。
【請求項8】
金属表面処理剤が脱塩剤である請求項1〜6のいずれかに記載の金属表面処理剤。