説明

金属被覆フレーク状ガラス、それを含む樹脂組成物、およびその製造方法

【課題】本発明の目的は、金属被覆層の腐食を可能な限り防止した金属被覆フレーク状ガラスを提供することにある。
【解決手段】本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、フレーク状ガラスと、該フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成された金属被覆層と、該金属被覆層の表面を被覆するようにして形成された酸化珪素質保護層とを含み、該酸化珪素質保護層は、該金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%の量となる窒素を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーク状ガラスの表面に金属被覆層等を形成した金属被覆フレーク状ガラス、それを含む樹脂組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、化粧品、建材等に金属調の外観を付与する目的で、アルミニウム、マイカ、アルミナ、ブロンズ等のフレーク状メタリック顔料が広く利用されている。扁平な形状と平滑な表面を有するフレーク状ガラスはこれらのフレーク状メタリック顔料の一種であり、独特の輝きとキラキラ感を呈するため、塗料やインキ等のコーティング剤や成形用樹脂などに配合されて広く用いられている。
【0003】
このフレーク状ガラスの表面に金属被覆層を形成すると、特有の金属光沢を帯びた金属被覆フレーク状ガラスが得られ、塗料や化粧品等に金属感やキラキラ感を付与する目的に使用されている(たとえば、実開昭62−175045号公報(特許文献1)、特開昭55−165970号公報(特許文献2)等)。
【0004】
また、上記のような金属被覆層の表面をさらに別の層で被覆した金属被覆フレーク状ガラスも知られている(特開平03−054126号公報(特許文献3)、特開平04−193725号公報(特許文献4))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−175045号公報
【特許文献2】特開昭55−165970号公報
【特許文献3】特開平03−054126号公報
【特許文献4】特開平04−193725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の金属被覆フレーク状ガラスは、フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成された金属被覆層が腐食環境にさらされた場合に、この金属被覆フレーク状ガラスを配合した塗膜が経時的に変色するという問題があった。このような問題は、特に金属被覆層を構成する金属が銀、銅、およびそれらの合金のいずれかである場合に顕著に発生する。
【0007】
すなわち、その構成金属が銀または銀合金の場合は、塗膜中に銀イオンが水分の影響で溶出した後、紫外線等により還元され、黄色のコロイドとなって該塗膜中に析出するため、塗膜の黄変が生じる。また、その構成金属が銅または銅合金の場合は、塗膜中に浸入した水分がこれらの金属と反応して、金属光沢の鈍い酸化銅を生成するため、金属光沢の低下が生じる。このような問題は、特に近年急速に増加しつつある水性塗料または水性インキにおいて顕著である。
【0008】
このような問題を解決するため、以下のような技術が開発されている。
たとえば、特許文献3は、シリコンアルコキシド、水およびアルコールを含有するアルカリ性の液中で銀コートガラスフレークを分散し保持した後、分離し、さらに加熱処理することにより、SiO2被膜を表面に形成した銀コート(銀を金属被覆層とする)フレーク状ガラスを提案している。
【0009】
また、特許文献4は、金属アルコキシド、水およびアルコールを含有するアルカリ性溶液中に、表面に金属被覆層を形成したフレーク状ガラスを保持した後分離し、得られたフレーク状ガラスを特定の温度および焼成時間の範囲で焼成することにより、pH6.8の純水100mlに該フレーク状ガラス5gを投入して10分間煮沸した後の上澄液のpH値が10未満であることを特徴とする、表面に緻密保護被覆層を形成したフレーク状ガラスを提案している。
【0010】
しかしながら、上記特許文献3および特許文献4のいずれのフレーク状ガラスにおいても、フレーク状ガラス上の金属被覆層の腐食を完全に防止することはできない。特に、特許文献4においては、緻密保護被覆層の表面をさらに窒素を含有するシランカップリング剤で処理したフレーク状ガラスも提案されているが、金属被覆層の腐食を完全に防止するには至っていない。
【0011】
また、上記特許文献3および特許文献4に記載の製造方法は、いずれの方法も加熱工程を伴うため消費電力が大きくなり、製造コストおよび地球温暖化防止という観点からその改善が求められていた。
【0012】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、金属被覆層の腐食を可能な限り防止した金属被覆フレーク状ガラスを提供することにある。
【0013】
また、本発明の別の目的は、エネルギーコストがかからず、簡略安価でかつ地球温暖化防止に貢献できる金属被覆フレーク状ガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、フレーク状ガラスと、該フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成された金属被覆層と、該金属被覆層の表面を被覆するようにして形成された酸化珪素質保護層とを含み、該酸化珪素質保護層は、該金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%の量となる窒素を含有することを特徴とする。
【0015】
ここで、上記金属被覆層は、銀、銅、およびそれらの合金のいずれかにより構成されることが好ましい。また、上記酸化珪素質保護層は、平均粒子径が10〜100nmである酸化珪素質粒子の集合体で構成されることが好ましく、30〜300nmである平均厚みを有し、かつ金薄膜を蒸着した場合に呈色するという特性を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明は、樹脂と、上記金属被覆フレーク状ガラスとを含む樹脂組成物にも係る。
【0017】
一方、本発明の金属被覆フレーク状ガラスの製造方法は、その表面が金属被覆層により被覆されているフレーク状ガラスを準備する工程と、珪素アルコキシドと、窒素含有化合物と、水と、親水性溶媒とを含有する混合液中に、該フレーク状ガラスを分散させることにより、該フレーク状ガラスの該金属被覆層上に酸化珪素質粒子および該窒素含有化合物を析出させて酸化珪素質保護層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
また、上記酸化珪素質保護層を形成する工程は、水と親水性溶媒とを含む溶液中に上記フレーク状ガラスを分散させながら、上記珪素アルコキシドと上記窒素含有化合物とを1〜20時間かけて少量ずつ滴下させることが好ましい。
【0019】
また、本発明の製造方法は、上記金属被覆フレーク状ガラスを、上記窒素含有化合物の揮発温度以下で乾燥させる工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、その金属被覆層の腐食が極めて抑制されているという優れた効果を有する。また、本発明の金属被覆フレーク状ガラスの製造方法は、エネルギーコストがかからず、簡略安価でかつ地球温暖化防止に貢献できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の金属被覆フレーク状ガラスのSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
<金属被覆フレーク状ガラス>
本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、フレーク状ガラスと、該フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成された金属被覆層と、該金属被覆層の表面を被覆するようにして形成された酸化珪素質保護層とを含み、該酸化珪素質保護層が金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%の量となる窒素を含有することを特徴とする。
【0023】
このような構成を有する本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、本発明の効果を有する限り、上記の各層以外の任意の層を含むことができる。本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、フレーク状メタリック顔料として用いられるものである。
【0024】
<フレーク状ガラス>
本発明で用いられるフレーク状ガラスは、従来この種の用途に用いられていたいずれのフレーク状ガラスをも用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、平均粒子径が10〜1000μm程度であり、平均厚みが0.1〜10μm程度であり、アスペクト比が5以上のものを好適に用いることができる。ここで、平均粒子径はレーザー回折法により測定することができ、平均厚みは断面観察により測定することができ、アスペクト比は、それらの平均粒子径と平均厚みとにより、平均粒子径/平均厚みとして決定される。
【0025】
また、フレーク状ガラスの組成も特に制限はなく、通常のガラス材料、たとえば一般板ガラス用ガラス、E−ガラス、鉛ガラス、耐酸性容器用ガラス等を採用することができる。
【0026】
<金属被覆層>
本発明の金属被覆層は、特有の金属光沢をフレーク状ガラスに付与することを目的として、フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成されるものである。フレーク状ガラス表面の被覆は、フレーク状ガラスの全面を被覆することが好ましいが、本発明の効果が示される限りフレーク状ガラスの表面の一部が金属被覆層により被覆されていない場合であっても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0027】
このような金属被覆層を構成する金属としては、従来この種の用途に用いられていたいずれの金属をも用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、金、銀、プラチナ等の貴金属、ニッケル、銅、クロム、亜鉛等の卑金属、およびそれらの合金を挙げることができる。
【0028】
なお、これらの金属の中でも、特に銀、銅、およびそれらの合金のいずれかにより構成されることが好ましい。これらの金属は、特に優れた金属光沢を付与することができるためである。従来においては、これらの金属は、このように優れた特性を有するにもかかわらず、容易に腐食するという理由からこの種の用途に用いることが制限されていたが、本発明の構成を採用することにより金属被覆層を構成する金属として好適に用いることができるようになったものである。
【0029】
ここで、上記における「それらの合金」とは、例示された金属を少なくとも一種含む合金を意味し、たとえば「銀、銅、およびそれらの合金」という場合の「それらの合金」は、銀を含む合金、銅を含む合金、および銀と銅の両者を含む合金を含むものとする。
【0030】
なお、本発明の金属被覆層は、1層のみで構成されていてもよいし、2層以上で構成されていてもよい。2層以上で構成される場合は、フレーク状ガラス表面と接するようにしてPd、Ni、Sn、Pt、Au、Zn等の単体あるいはそれらを含む化合物が前処理層として形成されていることが好ましい。
【0031】
このような本発明の金属被覆層の形成方法は、特に制限はなく、たとえば無電解めっき法等の化学めっき法や、蒸着法、スパッタリング法等を好適に採用することができる。そして、このような金属被覆層の平均厚みは、10〜300nm、より好ましくは50〜200nmであり、SEMにより任意の20個の金属被覆フレーク状ガラスの断面を観察し、各金属被覆フレーク状ガラスにつき金属被覆層の5箇所の厚みを測定することによりその算術平均値を求め、その算術平均値を平均厚みとする。金属被覆層の平均厚みが10nm未満の場合は、十分な金属光沢を付与することができず、300nmを超える場合には、金属被覆フレーク状ガラスの全体としての厚みが厚くなるため、隠蔽性の低下や塗膜の艶不足等の問題を生じる場合がある。
【0032】
<酸化珪素質保護層>
本発明の酸化珪素質保護層は、金属被覆層が腐食することを防止する目的で、金属被覆層の表面を被覆するようにして形成されるものである。金属被覆層表面の被覆は、金属被覆層の全面を被覆することが好ましいが、本発明の効果が示される限り金属被覆層の表面の一部が酸化珪素質保護層により被覆されていない場合であっても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0033】
このような酸化珪素質保護層は、SiOXで示される(Xは任意の正数)酸化珪素、珪素アルコキシドの加水分解によって生成するポリシロキサン、および珪素水和物等のいずれか1以上を主成分として構成されるものである。この点、本発明における「酸化珪素質」という用語は、このようにSiOXで示される(Xは任意の正数)酸化珪素、珪素アルコキシドの加水分解によって生成するポリシロキサン、および珪素水和物等のいずれか1以上を示すものとする。
【0034】
そして、本発明の酸化珪素質保護層は、該金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%(0.05質量%(500ppm)以上0.5質量%(5000ppm)以下)の量となる窒素を含有することを特徴とする。ここでいう「窒素」とは窒素原子(イオン化されているものも含む)の量をいうものとする(すなわち、窒素ガス(N2)の量ではない)。
【0035】
本発明は、酸化珪素質保護層がこのように特定量の窒素を含むことにより金属被覆層の腐食を極めて有効に防止し得ることを見出したものである。このような効果は、酸化珪素質保護層がその全体に亘って窒素を含有する場合に示される効果であって、酸化珪素質保護層の表面部のみを窒素含有化合物により処理したような場合(たとえば特許文献4のように酸化珪素質保護層の表面を窒素を含有するシランカップリング剤で処理したような場合)には決して奏されない効果である。
【0036】
酸化珪素質保護層がその全体に亘って窒素を含有する場合に限って、なぜこのような優れた効果を示すのかについて詳細なメカニズムは未だ不明ながら、窒素含有化合物が珪素アルコキシドに含まれるアルコキシル基と反応し、酸化珪素質保護層の珪素と酸素とからなる網目構造の中に取り込まれるためではないかと考えられる。
【0037】
このように酸化珪素質保護層に含まれる窒素量は、金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%であり、より好ましくは0.1〜0.3質量%が好適である。窒素量が0.05質量%未満の場合には、金属被覆層に対する十分な腐食抑制効果が得られず、0.5質量%を超える場合には後述の樹脂組成物に含まれる樹脂との密着性が低下し、金属被覆フレーク状ガラスが樹脂組成物中から剥離する等の問題を生じる。
【0038】
一方、このような酸化珪素質保護層は、平均粒子径が10〜100nm、好ましくは10〜50nmである酸化珪素質粒子の集合体で構成されることが好ましい。ここで、「酸化珪素質粒子の集合体」とは、酸化珪素質粒子が密集している状態であり、粒子同士が融合している場合をも含む。
【0039】
酸化珪素質保護層は、その形成方法にもよるが酸化珪素質粒子の集合体として形成される傾向を示すものであるところ、その粒子径が小さすぎると当該層の形成に時間がかかるため製造コストが高価となり好ましくなく、一方その粒子径が大きすぎると粒子間に隙間が生じるため金属被覆層に対する十分な腐食抑制効果が得られなくなるため好ましくない。したがって、その平均粒子径を10〜100nmの範囲とすることが好ましく、10nm未満では製造コストが高価となり、100nmを超えると腐食抑制効果を十分に得ることができない場合がある。
【0040】
なお、このように酸化珪素質保護層が酸化珪素質粒子の集合体で構成される場合、窒素(すなわち窒素含有化合物)は酸化珪素質粒子内に存在していてもよいし、酸化珪素質粒子間に存在していてもよい。
【0041】
なおまた、酸化珪素質粒子の平均粒子径は、SEMにより任意の100個の粒子(層表面の凹凸)を観察し、その短径を測定することによりその算術平均値を求め、その算術平均値を平均粒子径とする。
【0042】
また、本発明の酸化珪素質保護層は、30〜300nmである平均厚みを有し、かつ金薄膜を蒸着した場合に呈色するという特性を有することが好ましい。酸化珪素質保護層の平均厚みが30nm未満の場合は、十分な腐食抑制効果が得られず、300nmを超える場合には、金属被覆フレーク状ガラスの全体としての厚みが厚くなるため、隠蔽性の低下や塗膜の艶不足等の問題を生じる場合がある。
【0043】
なお、酸化珪素質保護層の平均厚みは、SEMにより任意の20個の金属被覆フレーク状ガラスの断面を観察し、各金属被覆フレーク状ガラスにつき酸化珪素質保護層の5箇所の厚みを測定することによりその算術平均値を求め、その算術平均値を平均厚みとする。
【0044】
また、酸化珪素質保護層の厚みは、金属被覆層に対する有効な腐食抑制効果を示すという観点から均一であることが好ましく、これが均一である場合には、金属被覆フレーク状ガラスの酸化珪素質保護層に100Å程度の厚みの金薄膜を蒸着すると、紫、青、緑、黄色、赤等に呈色することが認められるため、本発明の酸化珪素質保護層は金薄膜を蒸着した場合に呈色するという特性を有することが好ましい。
【0045】
このような本発明の酸化珪素質保護層の形成方法は、特に制限されるものではないが、後述の製造方法のように、珪素アルコキシドと窒素含有化合物とを用いて、該フレーク状ガラスの該金属被覆層上に酸化珪素質粒子および該窒素含有化合物を析出させることにより形成することが好ましい。
【0046】
上記のような構造を有する本発明の金属被覆フレーク状ガラスは、窒素を含む酸化珪素質保護層でその表面が被覆されているため、腐食性環境下における金属被覆層の腐食を顕著に抑制することができ、以って金属被覆フレーク状ガラスの変色が防止される。
【0047】
したがって本発明は、従来の窒素を含まない金属酸化物層では、耐水性および耐湿性が弱く、フレーク状ガラス上に形成される金属被覆層の変色を十分に防止することができなかったという問題を解決することに成功したものである。
【0048】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、樹脂と、上記金属被覆フレーク状ガラスとを含む。このような樹脂組成物は、これらを含む限り、他の任意の成分を含むことができる。このような樹脂組成物は、具体的には塗料、インキ、これらを使用して形成される塗膜や印刷物等(以上の各組成物を便宜的にコーティング組成物とも記す)、射出成形等による樹脂成形物等を包含する。
【0049】
ここで、本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、たとえばメラミン−アルキッド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、アクリルラッカー、ニトロセルロースラッカー、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂などを挙げることができる。また、本発明の樹脂組成物に含まれる他の任意の成分としては、たとえば各種の着色顔料、添加剤(分散剤、粘度調整剤、沈降防止剤、可塑剤、色別れ防止剤、消泡剤など)、溶剤などを挙げることができる。
【0050】
本発明の樹脂組成物における組成比率は、特に限定されず、各種用途において広範囲に設定することができる。たとえば当該樹脂組成物が塗料の場合、本発明の金属被覆フレーク状ガラスの配合量は、樹脂固形分100質量部に対して0.05〜20質量部とすることができる。金属被覆フレーク状ガラスの配合量が0.05質量部未満の場合、金属被覆フレーク状ガラスによる意匠性向上効果に欠ける場合があり、また20質量部を超えると樹脂組成物の光沢や強度、密着性等の物性に悪影響をもたらす場合がある。
【0051】
また、本発明の樹脂組成物がコーティング組成物(特に塗膜)である場合、該コーティング組成物の上にクリヤー層を設けてもよいし、またその下に中塗り層や下塗り層を設けてもよい。
【0052】
<製造方法>
本発明の金属被覆フレーク状ガラスの製造方法は、その表面が金属被覆層により被覆されているフレーク状ガラスを準備する工程と、珪素アルコキシドと、窒素含有化合物と、水と、親水性溶媒とを含有する混合液中に、該フレーク状ガラスを分散させることにより、該フレーク状ガラスの該金属被覆層上に酸化珪素質粒子および該窒素含有化合物を析出させて酸化珪素質保護層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0053】
このような製造方法を採用することにより、得られる金属被覆フレーク状ガラスは、酸化珪素質保護層に特定量(金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%)の窒素を含んだものとすることができる。
【0054】
ここで、フレーク状ガラスを準備する工程は、その表面が金属被覆層により被覆されている、各種市販のフレーク状ガラスを準備することにより実行することができるが、フレーク状ガラスに対して各種公知の方法により金属被覆層を形成したものを作製することにより実行することもできる。
【0055】
次に、酸化珪素質保護層を形成する工程において用いられる各種薬剤について説明する。
【0056】
まず、珪素アルコキシドとしては、たとえばテトラエトキシシラン、テトラエトキシシランの縮合物、テトライソプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランの縮合物等を挙げることができる。該珪素アルコキシドの使用量は、金属被覆層が形成されたフレーク状ガラス100質量部に対して、1〜50質量部程度とすることが好ましい。このような珪素アルコキシドは、1種または2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0057】
また、窒素含有化合物としては、たとえば酸アミド(尿素、ジメチルホルムアミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等)、アミノ酸(2−アミノ安息香酸、N−メチルグリシン、シスチン、フェニルアラニン等)、脂肪族アミン(2−エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等)、アルカノールアミン(2−ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、ニトロ化合物(2−ニトロプロパン、ニトロセルロース等)、アミノ基含有カップリング剤(アミノフェニルシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、N,N−メチルエチルアミノチタネート等)、ポリビニルピロリドン、ピペラジン、ポリエチレンイミン、ヘキサメチルジシラザン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセタミド等を挙げることができる。これらの窒素含有化合物のうち、アミノ基と酸素含有基を同時に含む、酸アミド、アミノ酸、アルカノールアミン、アミノ基含有カップリング剤等を用いることがより好ましい。窒素含有化合物がアミノ基と酸素含有基とを同時に含む場合の方が、樹脂組成物に含まれる樹脂との相互作用が強くなり、さらに優れた金属被覆層の腐食抑制効果が得られるためである。
【0058】
該窒素含有化合物の使用量は、金属被覆層が形成されたフレーク状ガラス100質量部に対して、0.1〜10質量部程度とすることにより、酸化珪素質保護層中に含有される窒素の量を該金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%の範囲とすることができる。このような窒素含有化合物は、1種または2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0059】
なお、これらの窒素含有化合物は、珪素アルコキシドの加水分解反応に対して触媒作用を有することにより、珪素アルコキシドが酸化珪素質粒子へと加水分解されることを促進する作用を有すると同時に、窒素含有化合物自体も酸化珪素質保護層に取り込まれることになる。なお、このような窒素含有化合物が上記のような触媒作用を有さない場合や、その触媒作用が弱い場合は、以下のような加水分解触媒をさらに添加することが好ましい。
【0060】
このような加水分解触媒としては、たとえばアンモニア、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、エチレンジアミン、燐酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。該加水分解触媒の使用量は、金属被覆層が形成されたフレーク状ガラス100質量部に対して、1〜10質量部程度とすることが好ましい。このような加水分解触媒は、1種または2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0061】
なお、上記の加水分解触媒のうち、アンモニア、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、エチレンジアミン等は、窒素を含むため上記の窒素含有化合物にも含まれ得るが、通常これらは容易に系外に揮散するため、酸化珪素質保護層に取り込まれることはない。
【0062】
また、親水性溶媒としては、たとえばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等を挙げることができる。
【0063】
該親水性溶媒の使用量は、金属被覆層が形成されたフレーク状ガラス100質量部に対して、500〜10000質量部程度とすることが好ましい。このような親水性溶媒は、1種または2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0064】
また、上記で用いられる水の量は、珪素アルコキシド1当量に対し、1〜10当量(好ましくは2〜5当量)程度とすることが好ましい。
【0065】
そして、酸化珪素質保護層を形成する工程の具体的反応条件は以下の通りである。
すなわち、珪素アルコキシドと窒素含有化合物と水と親水性溶媒とを含有する混合液中に、その表面が金属被覆層により被覆されているフレーク状ガラスを分散させる。この場合、該混合液は当初より珪素アルコキシドと窒素含有化合物と水と親水性溶媒とを含有する状態のものであってもよいが、好ましくは、水と親水性溶媒とを含む溶液中に上記フレーク状ガラスを分散させながら、珪素アルコキシドと窒素含有化合物とを1〜20時間(好ましくは3〜10時間)かけて少量ずつ滴下させることにより、珪素アルコキシドと窒素含有化合物と水と親水性溶媒とを含有する混合液中に、その表面が金属被覆層により被覆されているフレーク状ガラスを分散させることとすることが好適である。
【0066】
この操作により、該フレーク状ガラスの該金属被覆層上に酸化珪素質粒子および該窒素含有化合物を析出させて酸化珪素質保護層を形成する(すなわち酸化珪素質保護層の全体に窒素が含有されるようにする)ことができ、フレーク状ガラスと、該フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成された金属被覆層と、該金属被覆層の表面を被覆するようにして形成された酸化珪素質保護層とを含み、該酸化珪素質保護層が該金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%の量となる窒素を含有するという構成の金属被覆フレーク状ガラスを製造することができる。
【0067】
上記のような酸化珪素質保護層を形成する工程の温度は、10℃〜100℃程度(好ましくは30〜90℃程度)に設定することが好ましく、反応時間は0.5時間〜30時間程度(好ましくは3〜10時間程度)に設定することが好ましい。この反応時間は、珪素アルコキシドと窒素含有化合物とを少量ずつ滴下させる時間を含むものであるが、該滴下が終了した後もさらに0.5〜5時間程度反応を継続させ、該反応を完全に終了させることが好ましい。なお、該滴下時間が1時間未満では、均一な厚みの酸化珪素質保護層を形成することが困難となる場合があり、滴下時間が20時間を超えると、生産性が低下し製造コストが高くなる。
【0068】
なお、加水分解触媒を用いる場合は、珪素アルコキシドと窒素含有化合物とともに滴下してもよいし、該フレーク状ガラスとともに分散させられていてもよい。
【0069】
本発明の製造方法においては、上記のようにして製造された金属被覆フレーク状ガラスを固液分離した状態で、乾燥せずにそのまま使用してもよいが、固液分離した状態のものをさらに乾燥することにより粉体状(パウダー状)の状態として使用してもよい。
【0070】
すなわち、本発明の製造方法は、上記で得られた金属被覆フレーク状ガラスを、さらに窒素含有化合物の揮発温度以下で乾燥させる工程を含むことができ、この工程を経ることにより粉体状の金属被覆フレーク状ガラスを得ることができる。
【0071】
ここで、窒素含有化合物の揮発温度とは、乾燥を行なう雰囲気およびその圧力において、該窒素含有化合物が、沸騰、昇華、分解、酸化等により、気体となって系外に揮散する温度をいう。したがって、通常はその乾燥温度を60〜150℃、より好ましくは80〜140℃とすることができ、乾燥させる時間は、0.5〜24時間、より好ましくは3〜15時間程度とすることが好ましい。
【0072】
このように本発明の製造方法は、たとえば特許文献4が採用するような緻密保護被覆層を形成するための、500℃以上の高温が適用される焼成工程を含まないため、エネルギーコストがかからず、簡略安価でかつ地球温暖化防止に貢献できるという優れた効果を有する。さらに、上記のような焼成工程は、緻密保護被覆層が収縮することにもなるため、それによりクラックを発生し、腐食抑制効果が逆に低下するという問題をも有していたが、本発明の製造方法は、このような問題を一掃したものである。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
まず、その表面が銀からなる金属被覆層(平均厚み約1000nm)により被覆されている市販のフレーク状ガラス(商品名:メタシャイン2025PS、日本板硝子(株)製)を準備した。そして、この市販のフレーク状ガラス60gを、水溶性溶媒であるエチルアルコール600gに分散することによりスラリーを調製し、このスラリーにアンモニア水(25質量%)5gおよび水5gをさらに加えた。
【0075】
上記スラリーの温度を70℃に保ちながら、撹拌下(すなわち水と親水性溶媒とを含む溶液中に上記フレーク状ガラスを分散させながら)、珪素アルコキシドであるテトラエトキシシラン(TEOS)20gと窒素含有化合物であるγ−アミノプロピルトリメトキシシラン5gとをエチルアルコール20gに溶解させた溶液を3時間かけて少量ずつ滴下し、さらに0.5時間反応させた。
【0076】
次いで、エチルアルコールを用いてこのスラリーを洗浄し、濾過した後、その濾過物(金属被覆フレーク状ガラス)に対して130℃で3時間の乾燥処理を行なうことにより、本発明の構造を有する金属被覆フレーク状ガラスをパウダー状で得た。
【0077】
この金属被覆フレーク状ガラスの窒素量(すなわち酸化珪素質保護層(ポリシロキサンからなる層)に含有される窒素の量)を、(株)三菱化学アナリテック製「微量全窒素分析装置TN−110」を用いて測定(触媒酸化分解、化学発光方式(減圧法))した結果、金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.15質量%であった。
【0078】
また、この金属被覆フレーク状ガラスをSEM観察用のカーボン台に付着させ金薄膜を蒸着した結果、青色に呈色した。さらに、酸化珪素質保護層の平均厚みをSEMを用いて断面観察により測定すると、70nmであった。引き続き、この金属被覆フレーク状ガラスをSEMにより観察した結果、銀からなる金属被覆層の上に、酸化珪素質粒子の集合体が均一に付着しており、その表面凹凸から測定した酸化珪素質粒子の平均粒子径は20nmであった。この金属被覆フレーク状ガラスのSEM写真を図1に示す。写真前方の淡灰色の板状体が金属被覆フレーク状ガラスであり、その表面の粒状物が酸化珪素質粒子である。
【0079】
<実施例2〜9>
実施例1に対して、各材料の種類と添加量を表1のように変更した以外は、全て実施例1と同様にして、金属被覆フレーク状ガラスを作製した。ただし、実施例3では、テトラエトキシシラン20gと尿素10gとを、エチルアルコール20gの代わりに、水20gに溶解させた。また、実施例6では、実施例1で用いた市販のフレーク状ガラスに代えて、銅からなる金属被覆層により被覆されているフレーク状ガラス(平均粒子径:約25μm、平均厚み:約1000nm、銅被覆層の厚み:約30nmのもの)を用いた。
【0080】
【表1】

【0081】
<比較例1>
実施例1に対して、窒素含有化合物であるγ−アミノプロピルトリメトキシシラン5gを添加しないことを除き、他は全て実施例1と同様にして金属被覆フレーク状ガラスを作製した。すなわち、この金属被覆フレーク状ガラスは、酸化珪素質保護層において窒素を含有しないものである。ただし、以下の表2において窒素量が0.003質量%となっているのは、金属被覆フレーク状ガラスの表面に触媒として用いたアンモニアが僅かに吸着し残留しているためである。
【0082】
<比較例2>
実施例1に対して、窒素含有化合物としてγ−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、かつその添加量を30gとしたことを除き、他は全て実施例1と同様にして金属被覆フレーク状ガラスを作製した。得られた金属被覆フレーク状ガラスの窒素量(すなわち酸化珪素質保護層に含有される窒素の量)は、金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.8質量%であった。
【0083】
<比較例3>
テトラエトキシシラン60g、エチルアルコール500ml、および水200mlを混合して溶液の調製を行ない、この溶液中に実施例1と同じ市販のフレーク状ガラス60gを混合して撹拌器で撹拌しながら水酸化アンモニウム14gを添加した。
【0084】
このようにして3時間加水分解反応を行なわせた後、水洗、濾過、乾燥の順で処理を行なった。その後、550℃で1時間焼成した。この結果、表面にSiO2被膜が形成された銀を金属被覆層とする金属被覆フレーク状ガラスが得られた。
【0085】
この金属被覆フレーク状ガラスの窒素量を、実施例1と同様にして測定したところ、金属被覆フレーク状ガラス全体に対して0.001質量%含有されていた。また、この金属被覆フレーク状ガラスに金薄膜を蒸着した後、SEMにより観察したが、呈色は認められず、表面に厚みが不均一で一部クラックの入った膜が形成されていることを確認した。また、金属被覆フレーク状ガラスの表面に付着せず、独立して存在する酸化珪素質粒子が多数観察された。
【0086】
<比較例4>
比較例3で得られた金属被覆フレーク状ガラス30質量部を、エチルアルコール200質量部に分散したスラリーに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部および水1質量部を加えて、70℃にて30分間撹拌した。
【0087】
その後スラリーを固液分離し、120℃で8時間乾燥することにより金属被覆フレーク状ガラスを得た。得られた金属被覆フレーク状ガラスの窒素量を、実施例1と同様にして測定したところ、金属被覆フレーク状ガラス全体に対して0.03質量%含有されていた。
【0088】
なお、比較例3および比較例4の金属被覆フレーク状ガラスは、特許文献4の実施品に相当する。
【0089】
<比較例5〜6>
実施例1で用いた市販のフレーク状ガラスを何等処理せず比較例5とし、実施例6で用いた銅からなる金属被覆層を有するフレーク状ガラスを何等処理せず比較例6とした。
【0090】
<評価>
上記で得られた実施例1〜9および比較例1〜6の金属被覆フレーク状ガラスの性能を以下のようにして評価した。
【0091】
<水性塗料の調製>
アクリルディスパージョン(商品名:Setaqua6802、Neuplex社製)を31.48g、ポリウレタンディスパージョンA(商品名:バイヒドロールXP2621、住化バイエルウレタン社製)を18.89g、ポリウレタンディスパージョンB(商品名:バイヒドロールPT241、住化バイエルウレタン社製)を4.61g、メラミン化合物(商品名:Cymel327、三井サイテック社製)を2.1g、ブチルグリコールを2.79g、界面活性剤(商品名:Byk-347、ビッグケミー・ジャパン社製)を0.31g、増粘剤(商品名:ビスカレックスHV30、ニチゴー・モビニール社製)を0.56g、イオン交換水を13.96g、および10%ジメチルエタノールアミン水溶液を3.04g、30分以上攪拌混合したものを組成物Iとする。
【0092】
また、上記で各得られた金属被覆フレーク状ガラス1.12gを各々プラスチック容器に採取し、さらにブチルグリコール2.43gを添加し、ガラス棒により均一に分散させた。さらに、これに分散剤(商品名:Disperbyk190、ビッグケミー・ジャパン社製)2g、潤湿剤(商品名:Byk-011、ビッグケミー・ジャパン社製)0.08g、顔料湿潤分散剤(商品名:AQ320、楠本化成社製)0.12gを添加し10分以上攪拌混合させたものを組成物IIとする。
【0093】
そして、上記組成物Iと上記組成物IIとを10分以上攪拌混合した後、その混合物のpHが8以上となるように10%ジメチルエタノールアミン水溶液を加え、さらに10分以上攪拌混合した。その後、粘度が基準値(Ford cup No.4にてFlow Time 25秒)になるように適量のイオン交換水を加え、10分以上攪拌混合したものを水性塗料とした。
【0094】
一方、ポリアクリレート(商品名:デスモフェンA870BA、住化バイエルウレタン社製)51.15g、添加剤A(Baysilone Paint Additive OL17(商品名、Borchers社製)の10%キシレン溶液)0.53g、添加剤B(Modaflow(商品名、Monsanto社製)の1%キシレン溶液)0.53g、添加剤C(Tinuvin292(商品名、Ciba Spezialitatenchemie Lampertheim社製)の10%キシレン溶液)5.3g、添加剤D(Tinuvin1130(商品名、Ciba Spezialitatenchemie Lampertheim社製)の10%キシレン溶液)10.7g、希釈溶剤A(1−メトキシプロピルアセテート:ソルベントナフサ=1:1(質量比))10.17g、希釈溶剤B(ブチルグリコールアセテート)2.13gを30分以上攪拌混合した。
【0095】
その後、これにイソシアヌレート(商品名:スミジュールN3300、住化バイエルウレタン社製)とブチルアセテート:ソルベントナフサ=1:1(質量比)混合溶剤とを、9:1(質量比)で希釈したものを19.49g加え、30分以上混合攪拌を行なったものをクリヤーコートとした。
【0096】
<塗板の作製方法>
上記のようにして調製した水性塗料を金属板にスプレー塗装した。得られたスプレー塗装された塗板(以下、「スプレー塗板」と記す)を5分以上常温でセッティングした後、さらに該スプレー塗板を80℃にて3分間乾燥した。その後、スプレー塗板を10分以上常温でセッティングした後、さらに該スプレー塗板に対してクリヤーコートをスプレーにより塗布した。
【0097】
クリヤーコートを塗布後10分以上常温にてセッティングした後、130℃にて30分間焼き付けを行なうことにより、水性塗料とクリヤーコートとをスプレー塗装した塗板を得た。この塗板における塗膜の厚みは、水性塗料による塗膜が14〜18μm、クリヤーコートによる塗膜が35〜40μmとなるように上記スプレー塗装を行なう際に塗装条件を調整した。
【0098】
<促進耐候性試験>
上記で得られた塗板について、スガ試験機(株)製7.5kWスーパーキセノンウェザーメーター(商品名:スーパーキセノンウェザーメーターSX75)にて、促進耐候性試験(条件:キセノンランプ照射強度180W/m2、ブラックパネル温度63℃、降雨条件18分/2時間、試験時間2000時間)を行なった。該試験前後の塗板の色調は、変角測色計(商品名:X-Rite MA-68II、X-Rite社製)を用い、観測角45度(塗膜法線方向にて受光)における、L*45、a*45、b*45の値を測定し、該試験前後における塗膜の色調変化を、色差ΔE*45として算出することにより評価した。その結果を表2に示す。色差ΔE*45が小さい数値を示すもの程、金属被覆層の腐食が抑制されていることを示す。
【0099】
<塗膜の二次密着性試験>
上記で得られた塗板を40℃の温水に10日間浸漬した後、塗膜を取り出し、碁盤目試験(JIS K5400 8.5.2)により、密着性を評価した。その結果を表2に示す。評価は、塗膜の剥離が観察されなかったものを「A」とし、剥離が観察されたものを「B」とした。評価が「B」となるものは、評価が「A」のものに比し、樹脂組成物に含まれる樹脂と酸化珪素質保護層の相互作用が弱く、界面に水分が浸入しやすくなり、浸入した水分の付着阻害作用のために、塗膜が剥離したものと考えられる。
【0100】
【表2】

【0101】
なお、表2中「窒素量」は、酸化珪素質保護層(比較例3〜6においては金属被覆フレーク状ガラス)に含有される窒素の含有量(金属被覆フレーク状ガラスの全体に対するもの)を示す。酸化珪素質粒子の平均粒子径が「測定不可」とは、酸化珪素質粒子が合体して粒子の痕跡が見えなくなった状態(この状態では酸化珪素質保護層の一部にクラックが観察された)を示し、「−」は酸化珪素質保護層自体が形成されていないことを示す。また、酸化珪素質保護層の平均厚みが不均一なものについては「不均一」と表記した。
【0102】
表2より明らかなように、実施例の金属被覆フレーク状ガラスは、比較例の金属被覆フレーク状ガラスに比し、性能が優れていることは明らかである。
【0103】
すなわち、たとえば酸化珪素質保護層に含まれる窒素の量が本発明の規定値より少ない場合(比較例1)は、金属被覆層の腐食が顕著となり(ΔE*45が大きくなり)、また塗膜の密着性が不十分となる。逆に酸化珪素質保護層に含まれる窒素の量が本発明の規定値より多い場合(比較例2)は、金属被覆層の腐食がやや顕著となる一方(ΔE*45がやや大きくなる一方)、塗膜の密着性が不良となる。また、酸化珪素質保護層が全体に亘って窒素を含有せず、その表面部のみに窒素を含有する処理が施されている場合(比較例4)は、金属被覆層の腐食が顕著となる。
【0104】
これに対し、本発明の構成を有する金属被覆フレーク状ガラスは、特に酸化珪素質保護層において特定量の窒素を含有することにより、金属被覆層の腐食が顕著に抑制されていることが確認できた。
【0105】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状ガラスと、
該フレーク状ガラスの表面を被覆するようにして形成された金属被覆層と、
該金属被覆層の表面を被覆するようにして形成された酸化珪素質保護層と、
を含む金属被覆フレーク状ガラスであって、
前記酸化珪素質保護層は、前記金属被覆フレーク状ガラスの全体に対して0.05〜0.5質量%の量となる窒素を含有する、金属被覆フレーク状ガラス。
【請求項2】
前記金属被覆層は、銀、銅、およびそれらの合金のいずれかにより構成される、請求項1記載の金属被覆フレーク状ガラス。
【請求項3】
前記酸化珪素質保護層は、平均粒子径が10〜100nmである酸化珪素質粒子の集合体で構成される、請求項1または2に記載の金属被覆フレーク状ガラス。
【請求項4】
前記酸化珪素質保護層は、30〜300nmである平均厚みを有し、かつ金薄膜を蒸着した場合に呈色するという特性を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の金属被覆フレーク状ガラス。
【請求項5】
樹脂と、請求項1〜4のいずれかに記載の金属被覆フレーク状ガラスとを含む樹脂組成物。
【請求項6】
その表面が金属被覆層により被覆されているフレーク状ガラスを準備する工程と、
珪素アルコキシドと、窒素含有化合物と、水と、親水性溶媒とを含有する混合液中に、前記フレーク状ガラスを分散させることにより、前記フレーク状ガラスの前記金属被覆層上に酸化珪素質粒子および前記窒素含有化合物を析出させて酸化珪素質保護層を形成する工程と、
を含む、金属被覆フレーク状ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記酸化珪素質保護層を形成する工程は、前記水と前記親水性溶媒とを含む溶液中に前記フレーク状ガラスを分散させながら、前記珪素アルコキシドと前記窒素含有化合物とを1〜20時間かけて少量ずつ滴下させる、請求項6記載の金属被覆フレーク状ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記金属被覆フレーク状ガラスを、前記窒素含有化合物の揮発温度以下で乾燥させる工程を含む、請求項6または7に記載の金属被覆フレーク状ガラスの製造方法。

【図1】
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