説明

金属製充填補助材の分離方法

【課題】 触媒と金属製充填補助材の混合物を分離する際に、金属性充填補助材の形状に制限されることや触媒を破砕することがなく、効率よく触媒と金属製充填補助材とを分離する方法を提供する。
【解決手段】 触媒と着磁性金属製充填補助材の混合物から磁石により当該金属性充填補助材を捕集し、触媒と金属製充填補助材とを分離する方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒と金属製充填補助材の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業においては各種の化学反応で触媒が使用されている。例えば、気相接触酸化反応は発熱反応であるので、この反応を固定床用反応器で行うと触媒層で蓄熱が起きる。蓄熱の結果生じる局所的高温帯域はホットスポットと呼ばれ、この部分の温度が高すぎると過度の酸化反応を生じるので目的生成物の収率は低下する。酸化反応の工業的実施において、生産性を上げるために原料ガス中の原料濃度を高めた場合、ホットスポットの温度が上昇する傾向があることから、反応条件に関して大きな制約を強いられているのが現状である。
【0003】
このようなホットスポットの温度を抑える方法として、例えば、ホットスポットが発生する部分の触媒を充填補助材で希釈する方法が知られている。このような充填補助材の材質は様々で、例えば、セラミックスや金属等が知られている。また、その形状も様々で、例えば、球状やラシヒリング状等が知られている。例えば、特許文献1、特許文献2には充填補助材として金属製ラシヒリングが開示されている。充填補助材としての金属製ラシヒリングには、ホットスポットの温度抑制以外に、触媒を反応器へ落下投入する際の触媒の粉化または崩壊の低減による反応時の圧力損失の低減等の効果がある。
【0004】
一方、充填補助材は反応で劣化した触媒成分の再利用の際や、不活性材料そのものの再利用の理由から、触媒中から回収することが知られている。触媒と反応に実質的に不活性な成型体を分離する方法については、特許文献3にふるい分け法、形状分離法、破砕分級法を単独または組み合わせて使用する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−301912号公報
【特許文献2】特開平11−33393号公報
【特許文献3】特開2005−95874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した分離方法は作業効率的に好ましくない。さらに、充填補助材は触媒と混合し易くするために、同等の形状を用いることがあるが、ふるい分け法、形状分離法は触媒と充填補助材の粒径や形状が異ならないと使用できず、触媒と同等の形状の充填補助材の分離には適当でない。破砕分級法は触媒を破砕してしまうため、新品触媒をミス充填し再度充填する時など触媒を壊さずに充填補助材を分離する際には使用することができず好ましくない。
【0006】
本発明は、作業効率が良く、また、触媒と同等形状の充填補助材の分離にも使用でき、また、触媒を破砕する必要のない触媒と充填補助材との分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、触媒と着磁性金属製充填補助材の混合物から磁石により当該金属性充填補助材を捕集し、触媒と金属製充填補助材とを分離する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、触媒を破砕する必要なく、触媒と金属製充填補助材を作業効率よく分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳しく説明する。
【0010】
本発明の触媒と金属製充填補助材の分離方法は、着磁性の金属製充填補助材(以下、単に「金属性充填補助材」とも言う)を用い、磁石によりこれを捕集し分離操作を行う方法である。
【0011】
本発明の金属性充填補助材の分離方法は、種々の触媒と金属性充填補助材に適用されるが、固定床反応で使用される気相接触酸化反応用の触媒と金属製充填補助材との分離を例として以下に説明する。
【0012】
気相接触酸化反応としては、例えば、分子状酸素を用いてプロピレンからアクロレインおよびアクリル酸を合成する反応、分子状酸素を用いてイソブチレン、第三級ブチルアルコールまたはメチル第三級ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物からメタクロレインおよびメタクリル酸を合成する反応、分子状酸素を用いてアクロレインからアクリル酸を合成する反応、分子状酸素を用いてメタクロレインからメタクリル酸を合成する反応、プロパンからアクロレインおよびアクリル酸を合成する反応、イソブタンからメタクロレインおよびメタクリル酸を合成する反応等が挙げられる。
【0013】
気相接触酸化触媒の組成は特に限定されないが、本発明はモリブデンを含有する複合酸化物触媒の場合に好ましく適用できる。また、気相接触酸化触媒の形状も特に限定されないが、例えば、円柱状、円筒状(リング状)、球状、星型柱状等が挙げられる。
【0014】
分子状酸素を用いてプロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコールおよびメチル第三級ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物から不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を合成する気相接触酸化触媒としては、モリブデンおよび鉄を含む複合酸化物触媒が好適である。また、分子状酸素を用いて不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を合成する気相接触酸化触媒としては、モリブデンおよびバナジウムを含む複合酸化物触媒が好適である。
【0015】
固定床用反応器の形式は特に限定されないが、例えば、多管熱交換式、自己熱交換式、多段断熱式、断熱式等が挙げられる。工業的には固定床多管熱交換式反応器が好ましく使用される。
【0016】
固定床用反応器内における気相接触酸化触媒と金属製充填補助材の充填状態は特に限定されないが、例えば、次のような場合が挙げられる。
【0017】
(1)触媒層全体が触媒と金属製充填補助材の均一混合物の場合
(2)触媒層が複数の階層からなり、各階層で触媒と金属製充填補助材の混合割合が異なっている場合
(3)触媒層の一部だけが触媒と金属製充填補助材の混合物の場合
さらに次のような工夫がされる場合がある。
【0018】
(4)触媒層の原料ガス入口上流部に金属製充填補助材だけが充填されている場合
(5)触媒層の生成ガス出口下流部に金属製充填補助材だけが充填されている場合
本発明の分離方法は、上記のように充填された触媒と着磁性の金属製充填補助材を固定床用反応器から抜出した混合物について好適である。
【0019】
分離操作は磁石を使用すれば特に限定されず、例えばベルトコンベアー上を流れる触媒と金属製充填補助材の混合物を電磁式吊下げ磁選機を用いて分離する方法や、触媒と金属製充填補助材の混合物を落下させマグネットセパレーターを用いて分離する方法、磁石を用いて手で分離する方法が挙げられる。磁石を用いて手で分離する方法としては、触媒と金属製充填補助材の混合物を、平らなバットの上に広げ、磁石の吸着する面に薄い鉄板が付いていて、レバーを握るとその磁石と鉄板の距離が離れ、鉄板上に付いていたものが分離する仕組みになっている磁石(カネッテク株式会社製MAG−HAND)を用いる方法が挙げられる。なかでもマグネットドラムセパレーターを用いて分離する方法が捕集効率の点から好ましい。なお、マグネットドラムセパレーターとは、回転するステンレスドラム中に永久磁石が固定され、ドラム上を通過する触媒の成型体とSUSリング混合物は、ドラムの回転にそってマグネット上を通過し、SUSリングはマグネットによりドラム上面に吸着され、排出部まで来ると粉粒体は落下し、吸着された金属はそのまま進み、マグネットの無い部分で落下する仕組みとなっている。
【0020】
本発明で使用できる磁石は特に限定されず、例えば電磁石や永久磁石(アルニコ磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジウム磁石、KS鋼、MK鋼、ラバー磁石)が挙げられる。なかでもネオジウム磁石が磁気特性の高さの点から好ましい。
【0021】
本発明で使用できる金属製充填補助材の形状は特に限定されず、例えば、ボール状、ラシヒリング状、バネ状、サドル状、インタロックス状、ポールリング状、レッシングリング状やテラレッテパッキング状等が挙げられる。また、金属製充填補助材の材質は、気相接触酸化反応を阻害せず、着磁性のある材質であれば特に限定されず、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、合金鋼が挙げられる。なかでもステンレス鋼、例えばSUS405、SUS410L、SUS430、SUS430F、SUS434、SUS329J1、SUS403、SUS410、SUS410J1、SUS416、SUS420J1、SUS420J2、SUS420F、SUS431、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F、SUS630、SUS631、SUS304が錆び難さの点から好ましく、特に、SUS430ラシヒリングは、分離操作に適当な着磁性かつ、反応条件下でも錆びずに反応成績に悪影響を与えないことや、ホットスポットの温度抑制効果等が高いので好ましい。
【0022】
本発明の方法で分離された金属製充填補助材はグリース、オイル、カーボン、洗浄剤等の付着物を除去するために分子状酸素ガスと接触処理することが好ましい。分子状酸素含有ガスと金属製充填補助材とを接触させる温度(以下、熱処理温度という。)は、100℃以上であれば特に限定されないが、好ましくは100〜800℃である。熱処理温度は高いほど金属製充填補助材の付着物を十分除去でき、低いほど金属製充填補助材の変質が少なくなる。分子状酸素含有ガスと金属製充填補助材とを接触させる時間(以下、熱処理時間という。)は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜30時間である。
【0023】
金属製充填補助材を100℃以上の温度で分子状酸素含有ガスと接触させる処理(以下、熱処理という。)において、金属製充填補助材を熱処理温度にまで昇温する際の条件は特に限定されない。また、熱処理温度は熱処理の期間一定でも変化してもよい。
【0024】
熱処理に用いる分子状酸素含有ガス中の酸素含有量は特に限定されない。分子状酸素含有ガスとしては、工業的には空気が有利である。また、熱処理中の分子状酸素含有ガスの状態は特に限定されず、静止状態、移動状態、流通状態等、どのような状態であってもよい。
【0025】
金属製充填補助材の熱処理に用いる装置は前記の条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、管型焼成炉、箱型焼成炉、回転式焼成炉、移動式焼成炉等が挙げられる。なかでも、ガス流通型の移動式焼成炉が好ましい。
【0026】
グリース、オイル等が付着した金属製充填補助材は、熱処理前に予めトリクロロエタンや各種の脂肪族炭化水素、脂肪族エステル等の洗浄剤で洗浄しておくと、低温または短時間で熱処理できるので好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0028】
下記組成(ただし酸素を除く)のイソブチレンの気相接触酸化によるメタクロレインおよびメタクリル酸合成用触媒である複合酸化物粉末を調製した。
【0029】
Mo12Bi0.9Fe1.5Sb0.8CoZn0.2Cs0.4
得られた粉末4900質量部をグラファイト粉末100質量部とよく混合したあと、外径5mm、内径2mm、高さ5mmに打錠成型した。
【0030】
成型後、焼成炉にて空気気流中380℃で5時間焼成し、触媒の成型体を得た。
【0031】
触媒の壊れた割合の算出方法は以下のようにして算出した。
【0032】
(触媒の壊れた割合)=100−(B/A×100)
A・・・(金属製充填補助材と混合する前の)触媒500gを取り分け、その中の成型体の個数を目視で数える。
【0033】
B・・・金属製充填補助材と分離後の触媒500gを取り分け、壊れていない成型体の個数を目視で数える。
【0034】
(実施例1)
上記の触媒の成型体と着磁性の金属充填補助材である5mmφ×5mmH、厚さ0.4mmのSUSリング(SUS430製)とを、体積比率として60%及び40%の割合で混合した。その混合物10リットルを、平らなバットの上に広げ、磁石の吸着する面に薄い鉄板が付いていて、レバーを握るとその磁石と鉄板の距離が離れ、鉄板上に付いていたものが分離する仕組みになっている磁石(カネッテク株式会社製MAG−HAND)を用いてSUSリングを捕集した。捕集したSUSリングは別のバットの上で磁石から分離させた。この操作をSUSリングが無くなるまで繰り返した。SUSリング回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は0%、分離操作の所要時間は5分であった。
【0035】
(比較例1)
実施例1で得られた、触媒の成型体とSUSリング混合物10リットルを、SUS製の容器に入れ攪拌することにより、触媒粒子を粉砕した。
【0036】
粉砕後4mm×4mmの目開きの網目をもつふるいを用いて、電動ふるい機にてふるいわけ操作を行った。SUSリング回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は98%、分離操作の所要時間は30分であった。
【0037】
(比較例2)
実施例1で得られた、触媒の成型体とSUSリング混合物10リットルを、ピンセットを用いて手で分離操作を行った。SUSリング回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は0%、分離操作の所要時間は3時間であった。
【0038】
(実施例2)
上記の触媒の成型体と6mmφ×6mmH、線径1mm、隙間0.5mmのSUSバネ(SUS430)とを、体積比率として60%及び40%の割合で混合した。その混合物10リットルを、平らなバットの上に広げ、上記磁石(カネッテク株式会社製MAG−HAND)を用いてSUSバネを捕集した。捕集したSUSバネは別のバットの上で磁石から分離させた。この操作をSUSバネが無くなるまで繰り返した。SUSバネ回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は0%、分離操作の所要時間は5分であった。
【0039】
(比較例3)
実施例2で得られた、触媒の成型体とSUSバネ混合物10リットルを、SUS製の容器に入れ攪拌することにより、触媒粒子を粉砕した。
【0040】
粉砕後4mm×4mmの目開きの網目をもつふるいを用いて、電動ふるい機にてふるいわけ操作を行った。SUSバネ回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は98%、分離操作の所要時間は30分であった。
【0041】
(実施例3)
上記の触媒の成型体と5mmφのSUSボール(SUS430)とを、体積比率として60%及び40%の割合で混合した。その混合物10リットルを、平らなバットの上に広げ、上記磁石(カネッテク株式会社製MAG−HAND)を用いてSUSボールを捕集した。捕集したSUSボールは別のバットの上で磁石から分離させた。この操作をSUSボールが無くなるまで繰り返した。SUSボール回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は0%、分離操作の所要時間は5分であった。
【0042】
(比較例4)
実施例3で得られた、触媒の成型体とSUSボール混合物10リットルを、ピンセットを用いて手で分離操作を行った。SUSボール回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は0%、分離操作の所要時間は3時間であった。
【0043】
(実施例4)
実施例1で得られた、触媒の成型体とSUSリング混合物10リットルを、マグネットドラムセパレーター(株式会社小西製作所製)を使用し分離操作を行った。マグネットドラムセパレーターは、回転するステンレスドラム中に永久磁石が固定され、ドラム上を通過する触媒の成型体とSUSリング混合物は、ドラムの回転にそってマグネット上を通過し、SUSリングはマグネットによりドラム上面に吸着され、排出部まで来ると粉粒体は落下し、吸着された金属はそのまま進み、マグネットの無い部分で落下する。SUSリング回収率100%、触媒粒子の壊れた割合は3%、分離操作の所要時間は3分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒と着磁性金属製充填補助材の混合物から磁石により当該金属性充填補助材を捕集し、触媒と金属製充填補助材とを分離する方法。

【公開番号】特開2007−289810(P2007−289810A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117816(P2006−117816)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】