説明

金属酸素電池

【課題】大きな電気エネルギーを得ることができる金属酸素電池を提供する。
【解決手段】金属酸素電池1は、酸素貯蔵材料14、導電助剤12、及び結着剤11を含む混合物からなるとともに酸素を活物質とする正極2と、金属リチウムを活物質とする負極3と、該正極2及び該負極3に挟持された電解質層4と、正極2内で酸素貯蔵材料14及び導電助剤12とともに三相界面を形成する電解液とを備える。結着剤11は、伸縮性を有するとともに該電解液に浸透可能な高分子からなり、正極2は、結着剤11に導電助剤12が分散された高分子複合体13からなるとともに酸素貯蔵材料14の表面を被覆する被覆膜15を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸素電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素を活物質とする正極と、金属を活物質とする負極と、該正極と該負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池が知られている。
【0003】
前記金属酸素電池では、前記酸素として空気中の酸素を用いると、電池内に正極活物質を充填する必要がないことから、電池の質量当たりのエネルギー密度を高くすることができる。また、前記金属として金属リチウムを用いると、金属リチウムは理論電圧が高く電気化学当量が大きいことから、大きな充放電容量を得ることができる。
【0004】
前記金属酸素電池に用いられる前記正極として、金属酸化物と、導電助剤と、結着剤とを混合し、得られた混合物を薄膜状に成形し、該薄膜を金属からなる集電体に圧着して真空乾燥したものが知られている(例えば特許文献1参照)。前記金属酸化物としては、例えば、二酸化マンガン、四酸化三コバルトを挙げることができる。前記導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック等のカーボンブラックを挙げることができる。前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−165615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記結着剤としてPTFEを用いる金属酸素電池では、電気エネルギーを十分に得ることができないという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、大きな電気エネルギーを得ることができる金属酸素電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、前記結着剤としてPTFEを用いる金属酸素電池では、電気エネルギーを十分に得ることができないのは、前記金属酸化物上で電池反応の場となる三相界面を形成できる領域が限定されることに起因することを知見した。
【0009】
すなわち、前記結着剤としてPTFEを用いる金属酸素電池では、放電時には、前記負極において金属が酸化されて金属イオンを生成し、生成した金属イオンが前記電解質層を透過して前記正極側に移動する。一方、前記正極では、酸素が還元されて酸素イオンを生成し、生成した酸素イオンが前記金属イオンと結合して金属酸化物が生成する。また、充電時には、前記正極において、前記金属酸化物から金属イオンと酸素イオンとが生成し、生成した酸素イオンは酸化されて酸素となる。一方、前記金属イオンは前記電解質層を透過して前記負極側に移動し、該負極で還元されて金属となる。上記の電池反応のうち前記正極で起きる反応は、前記金属酸化物と前記導電助剤と該正極に含まれる電解液とにより形成される三相界面で起きる。
【0010】
このとき、前記金属酸化物は、その表面の一部が前記PTFEにより被覆され、被覆されていない領域には前記導電助剤が凝集している。前記PTFEは、絶縁性を有するとともに、分子構造中にフッ素を含むことから前記電解液に対する親和性を有していない。このため、前記金属酸化物の表面において、前記導電助剤が凝集している領域には前記三相界面を形成することができるものの、前記PTFEにより被覆されている領域では前記三相界面を形成することができないものと考えられる。
【0011】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、前記目的を達成するために、酸素貯蔵材料、導電助剤、及び結着剤を含む混合物からなるとともに酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極及び該負極に挟持された電解質層と、前記正極内で前記酸素貯蔵材料及び前記導電助剤とともに三相界面を形成する電解液とを備える金属酸素電池において、前記結着剤は、伸縮性を有するとともに該電解液に浸透可能な高分子からなり、前記正極は、前記結着剤に前記導電助剤が分散された高分子複合体からなるとともに前記酸素貯蔵材料の表面を被覆する被覆膜を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の金属酸素電池では、放電時には、次の式に示すように、前記負極において、金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成し、生成したリチウムイオンは前記電解質層を透過して正極に移動する。一方、前記正極においては、前記電解質層を透過したリチウムイオンが、前記酸素貯蔵材料から放出された酸素イオン又は該酸素貯蔵材料から脱着され還元された酸素イオンと反応し、酸化リチウム又は過酸化リチウムを生成する。
【0013】
そして、前記負極と前記正極とを導線で接続することにより、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0014】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
また、充電時には、次の式に示すように、前記正極において、前記放電により生成した酸化リチウム又は過酸化リチウムが分解し、リチウムイオンと酸素イオンとが生成する。生成したリチウムイオンは、前記電解質層へ移動し、該電解質層を透過して前記負極に移動する。また、生成した酸素イオンは、そのまま前記酸素貯蔵材料へ吸蔵される。或いは、前記酸素イオンは、電子を放出して酸化され、酸素分子となって前記酸素貯蔵材料に吸着される。一方、前記負極では、該負極に移動した前記リチウムイオンが還元されて、金属リチウムとして析出する。
【0015】
(正極) 2Li → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li + 4e → 4Li
本発明の金属酸素電池において、上記の電池反応のうち前記正極で起きる反応は、前記酸素貯蔵材料と前記導電助剤と前記電解液とで形成される三相界面で起きる。
【0016】
本発明の金属酸素電池では、前記酸素貯蔵材料を被覆する被覆膜は、前記結着剤に前記導電助剤が分散されて複合化された構造の高分子複合体からなる。ここで、前記結着剤は、伸縮性を有するとともに該電解液に浸透可能な高分子からなるので、該結着剤には該電解液が浸透することができ、前記酸素貯蔵材料は該電解液と前記導電助剤とで覆われる。この結果、前記酸素貯蔵材料表面に、前記結着剤に妨げられることなく前記三相界面が形成される。すなわち、前記酸素貯蔵材料上で前記三相界面を形成できる領域を大きくすることができる。
【0017】
したがって、本発明の金属酸素電池によれば、大きな電気エネルギーを得ることができる。
【0018】
また、本発明の金属酸素電池では、前記被覆膜を構成する前記結着剤に前記導電助剤が分散するとともに、該結着剤に前記電解液が浸透している。このため、電子は、一の前記導電助剤から、前記結着剤に浸透している電解液を介して、他の前記導電助剤に移動することができる。このようにして、前記被覆膜において、電子の伝導経路を形成することができる。
【0019】
ところで、本発明の金属酸素電池において、放電及び充電を繰り返した際、前記三相界面の前記酸素貯蔵材料と前記導電助剤との間で、酸化リチウム又は過酸化リチウムの生成及び分解が繰り返される結果、該導電助剤が該酸素貯蔵材料から離脱し、前記三相界面が損なわれる虞がある。
【0020】
しかしながら、本発明の金属酸素電池では、前記導電助剤は、前記結着剤に分散し、該結着剤を介して前記酸素貯蔵材料に結着されている。これにより、本発明の金属酸素電池では、放電及び充電を繰り返しても、前記導電助剤が前記酸素貯蔵材料から離脱することが抑制され、前記三相界面及び前記電子の伝導経路を維持することができる。
【0021】
したがって、本発明の金属酸素電池によれば、放電及び充電を繰り返した際に優れたサイクル性能を得ることができる。
【0022】
さらに、本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、粒子状であり、各該酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜は、互いに連結していることが好ましい。前記被覆膜が連結する本発明の金属酸素電池によれば、電子は、一の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜中の前記導電助剤から、他の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜中の前記導電助剤へ移動することができる。これにより、前記被覆膜が連結する本発明の金属酸素電池によれば、電子がより容易に移動することができ、電気エネルギーをさらに効率よく得ることができる。
【0023】
ところで、本発明の金属酸素電池では、放電時に、酸化リチウム又は過酸化リチウムの生成に伴い、前記被覆膜が膨張する。このとき、前記結着剤が伸縮性を有することにより、前記被覆膜はその構造を維持したまま膨張することができる。しかしながら、本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料が粒子状であって各該酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜が互いに連結しているときは、一の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜で生じる膨張と、他の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜で生じる膨張とが互いに干渉してそれぞれの膨張が妨げられる結果、放電時における反応生成物の析出が抑制され放電過電圧が増加され、さらに充放電容量が低下するという不都合が生じる虞がある。
【0024】
そこで、前記被覆膜が連結する本発明の金属酸素電池において、前記正極は、一の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜と、他の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜とで囲まれた空隙を備えることが好ましい。前記空隙を備える本発明の金属酸素電池によれば、一の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜で生じる膨張と、他の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜で生じる膨張とを該空隙で吸収して、該それぞれの膨張に伴う前記干渉を防ぐことができ、この結果、前記不都合が生じることを防ぐことができる。
【0025】
また、本発明の前記空隙を備える金属酸素電池において、前記空隙は、前記正極全体に対して5〜90体積%の範囲であることが好ましい。これにより、本発明の金属酸素電池によれば、好適に、前記膨張に伴う前記干渉を防ぐことができる。
【0026】
前記空隙が5%未満では、前記被覆膜の膨張を吸収する効果を得られないことがある。一方、前記空隙が90%を超えると、前記正極としての構造を維持できないことがある。
【0027】
また、本発明の金属酸素電池は、前記酸素貯蔵材料は、0.1〜100μmの範囲の粒径を備える粒子からなり、前記導電助剤は、一次粒子が1〜100nmの範囲の粒径を備える粒子からなり、前記被覆膜は、0.1〜100μmの範囲の厚さを備えることが好ましい。これにより、本発明の金属酸素電池によれば、前記導電助剤を、前記結着剤に均一に分散させ、該結着剤を介して前記酸素貯蔵材料に確実に結着させることができるので、前記三相界面を確実に形成することができる。
【0028】
前記酸素貯蔵材料の粒径が0.1μm未満では、結晶性が低下し酸素吸蔵量が減少することにより、充放電容量が低下することがある。一方、前記酸素貯蔵材料の粒径が100μmを超えると、比表面積が小さくなり正極あたりの酸素吸蔵量が減ることにより、充放電容量が低下することがある。
【0029】
また、前記導電助剤の一次粒子の粒径が1nm未満では、再凝集性が大きくなり分散性が悪くなることにより、該導電助剤の利用率が低下したり充放電過電圧が増加したりすることがある。一方、前記導電助剤の一次粒子の粒径が100nmを超えると、前記酸素貯蔵材料の表面を均一に被覆することができないことがある。
【0030】
また、前記被覆膜の厚さが0.1μm未満であると、前記被覆膜において前記導電助剤が前記結着剤に分散されずに凝集してしまうことがある。その結果、前記三相界面を形成する領域を大きくすることができないことがある。また、前記被覆膜において、電子の伝導経路を十分に形成できなくなり、充放電容量が低下することがある。一方、前記被覆膜の厚さが100μmを超えると、リチウムイオンの拡散が阻害され、前記三相界面を形成する領域を大きくすることができず、充放電過電圧が増加して電池性能が低下することがある。
【0031】
また、本発明の金属酸素電池は、前記正極に対する前記酸素貯蔵材料の含有量は、40〜98質量%の範囲であることが好ましい。これにより、本発明の金属酸素電池は、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0032】
前記含有量が40%未満では、前記正極に対する活物質の割合が小さくなり、十分なエネルギー密度を得ることができないことがある。一方、前記含有量が98%を超えると、相対的に前記導電助剤の割合が低下することにより、前記三相界面を形成する領域を大きくすることができないことがある。また、相対的に前記結着剤の割合が低下することにより、前記導電助剤の結着を維持することができず、該導電助剤が前記酸素貯蔵材料から離脱し、前記三相界面を維持することができないことがある。
【0033】
また、本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、YMnOで表される複合金属酸化物であることが好ましい。前記YMnOは酸素吸蔵放出又は酸素吸着脱着に優れるので、本発明の金属酸素電池は前記正極の充放電容量を増加することができる。
【0034】
また、本発明の金属酸素電池において、前記結着剤は、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。前記カルボキシメチルセルロースは、親水性を有するとともに親油性を有する高分子であるので、前記電解液の種類を問わず、該電解液に浸透することができる。
【0035】
本発明の金属酸素電池の製造方法は、酸素貯蔵材料、導電助剤、及び結着剤を含む混合物からなるとともに酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極及び該負極に挟持された電解質層と、前記正極内で前記酸素貯蔵材料及び前記導電助剤とともに三相界面を形成する電解液とを備える金属酸素電池の製造方法において、前記結着剤として、伸縮性を有するとともに前記電解液に浸透可能な高分子を用い、該結着剤と該導電助剤と水とを混合し、スラリー状高分子複合体を得る工程と、該スラリー状高分子複合体と前記酸素貯蔵材料とを混合し、前記混合物を得る工程と、該混合物を基板に塗布する工程と、該基板に塗布された混合物を乾燥して前記正極を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0036】
本発明の製造方法によれば、まず、前記結着剤として、伸縮性を有するとともに前記電解液に浸透可能な高分子を用い、該結着剤と該導電助剤と水とを混合することにより、前記結着剤に前記導電助剤が分散されて複合化された構造のスラリー状高分子複合体を得る。次に、前記スラリー状高分子複合体と前記酸素貯蔵材料とを混合することにより、該スラリー状高分子複合体に該酸素貯蔵材料が分散するとともに、該酸素貯蔵材料の表面全体に該スラリー状高分子複合体が付着している前記混合物を得る。次に、得られた前記混合物を基板に塗布する。次に、前記基板に塗布された混合物を乾燥することにより、前記結着剤に前記導電助剤が分散された高分子複合体からなるとともに前記酸素貯蔵材料の表面を被覆する被覆膜を備える前記正極を形成することができる。
【0037】
また、本発明の製造方法において、前記スラリー状高分子複合体の粘度は、0.01〜100Pa・sの範囲であることが好ましい。これにより、前記被覆膜は、前記酸素貯蔵材料を均一に被覆することができるとともに、互いに確実に連結することができる。
【0038】
前記粘度が0.01Pa・s未満では、前記スラリー状高分子複合体の前記酸素貯蔵材料に対する結着性が低く、前記被覆膜を形成することができないことがある。一方、前記粘度が100Pa・sを超えると、前記スラリー状高分子複合体が前記酸素貯蔵材料の表面の一部に付着し、前記被覆膜が表面全体を被覆することができないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の金属酸素電池の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の金属酸素電池の正極の模式図。
【図3】実施例の金属酸素電池の正極の断面画像。
【図4】実施例の金属酸素電池における容量密度とセル電圧との関係を示すグラフ。
【図5】比較例の金属酸素電池の正極の模式図。
【図6】比較例の金属酸素電池における容量密度とセル電圧との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0041】
図1に示すように、本実施形態の金属酸素電池1は、酸素を活物質とする正極2と、金属リチウムを活物質とする負極3と、正極2と負極3との間に配設された電解質層4とを備え、正極2、負極3及び電解質層4は、ケース5に密封して収容されている。
【0042】
ケース5は、カップ状のケース本体6と、ケース本体6を閉蓋する蓋体7とを備え、ケース本体6と蓋体7との間にはリング状の絶縁樹脂8が介装されている。また、正極2は蓋体7の天面との間に正極集電体9を備えており、負極3はケース本体6の底面との間に負極集電体10を備えている。尚、金属酸素電池1において、ケース本体6は負極板として、蓋体7は正極板として作用する。
【0043】
金属酸素電池1は、次のようにして製造される。まず、ケース本体6の内部に、負極集電体10を配置し、該負極集電体10上に負極3を重ね合わせる。次に、負極3上に電解質層4を形成し、該電解質層4上に正極2と正極集電体9を、正極2が該電解質層4に接するように重ね合わせる。次に、ケース本体6に収容された負極集電体10、負極3、電解質層4、正極2、正極集電体9からなる積層体を、蓋体7で閉蓋する。ケース本体6と蓋体7との間に、リング状の絶縁樹脂8を配設することにより、図1に示す金属酸素電池1を得ることができる。
【0044】
金属酸素電池1において、正極2は、粒子状の酸素貯蔵材料と、導電助剤と、結着剤とを含む混合物からなる。正極2は、図2に示すように、結着剤11に導電助剤12が分散されて複合化された構造の高分子複合体13からなるとともに、各酸素貯蔵材料14の表面を被覆する被覆膜15を備える。被覆膜15は、0.1〜100μmの範囲の厚さを備えている。一の酸素貯蔵材料14を被覆する一の被覆膜15と、他の酸素貯蔵材料14を被覆する他の被覆膜15とは、互いに連結している。そして、正極2には、前記一の被覆膜15と前記他の被覆膜15とで囲まれた空隙16が形成されている。空隙16は、正極2全体に対して5〜90体積%の範囲となっている。
【0045】
また、正極2においては、電解液と酸素貯蔵材料14と導電助剤12とからなる三相界面が、該正極2の表面に形成されている。
【0046】
結着剤11としては、伸縮性を有するとともに前記電解液に浸透可能な高分子を用いることができる。結着剤11としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)を挙げることができる。
【0047】
導電助剤12は、電子伝導性を有し、1〜100nmの範囲の粒径を備える粒子からなる。導電助剤12としては、例えば、ケッチェンブラック等のカーボンブラックを挙げることができる。導電助剤12は、結着剤11への前記電解液の浸透性を向上するとともに、被覆膜15における構造強度を補強するために、例えば、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等をさらに含んでもよい。
【0048】
酸素貯蔵材料14は、その表面に酸素を吸蔵放出、又は、吸着脱着する機能を備えている。酸素貯蔵材料14は、例えばYMnOで表される複合金属酸化物からなり、0.1〜100μmの範囲の粒径を備える粒子からなる。酸素貯蔵材料14は、正極2全体に対する含有量が40〜98質量%の範囲である。
【0049】
正極2は、次のようにして製造される。まず、結着剤11と導電助剤12と水とを混合することにより、結着剤11に導電助剤12が分散されて複合化された構造のスラリー状高分子複合体を得ることができる。このとき、前記スラリー状高分子複合体は、0.01〜100Pa・sの範囲の粘度を備えている。
【0050】
次に、前記スラリー状高分子複合体と酸素貯蔵材料14とを混合することにより、該スラリー状高分子複合体に酸素貯蔵材料14が分散するとともに、該酸素貯蔵材料14の表面全体に該スラリー状高分子複合体が付着している前記混合物を得る。次に、得られた前記混合物を、正極集電体9の片面に塗布し、乾燥する。或いは、得られた前記混合物を、基板の片面に塗布し、乾燥した後に、正極集電体9の片面に転写する。以上により、薄膜状の正極2を得ることができる。
【0051】
このとき、前記スラリー状高分子複合体が前記範囲の粘度を備えることにより、被覆膜15は、酸素貯蔵材料14を均一に被覆することができるとともに、互いに確実に連結することができる。
【0052】
負極3としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金を挙げることができる。
【0053】
電解質層4は、例えば、電解液としての非水系電解質溶液をセパレータに浸漬させたものや、固体電解質を挙げることができる。
【0054】
前記非水系電解質溶液は、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解したものを用いることができる。前記リチウム塩としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。また、前記非水系溶媒としては、例えば、炭酸エステル系溶媒、エーテル系溶媒、イオン液体等を挙げることができる。
【0055】
前記炭酸エステル系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができる。前記炭酸エステル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0056】
前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、ジメチルトリグラム、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。前記エーテル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0057】
前記イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ペリジウム等のカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TTSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミド(BETI)、テトラフルオロボレート、パークロレート、ハロゲンアニオン等のアニオンとの塩を挙げることができる。
【0058】
前記セパレータとしては、例えば、ガラス繊維、ガラス製ペーパー、ポリプロピレン製不織布、ポリイミド製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布、ポリエチレン製多孔フィルム等を挙げることができる。
【0059】
また、前記固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、ポリマー系固体電解質等を挙げることができる。
【0060】
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、リチウム、ランタン、ジルコニウムの複合酸化物であるLiLaZr12、リチウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、リンを主成分とするガラスセラミックス等を挙げることができる。前記LiLaZr12は、リチウム、ランタン、ジルコニウムの一部を、それぞれストロンチウム、バリウム、銀、イットリウム、鉛、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、ニオブ等の他の金属で置換されたものであってもよい。
【0061】
次に、集電体9,10としては、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等のメッシュからなるものを挙げることができる。
【0062】
本実施形態の金属酸素電池1では、放電時には、次の式に示すように、負極3において、金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成し、生成したリチウムイオンは電解質層4を透過して正極2に移動する。一方、正極2においては、電解質層4を透過したリチウムイオンが、酸素貯蔵材料14から放出された酸素イオン又は該酸素貯蔵材料14から脱着され還元された酸素イオンと反応し、酸化リチウム又は過酸化リチウムを生成する。
【0063】
そして、負極3と正極2とを導線で接続することにより、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0064】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
また、充電時には、次の式に示すように、正極2において、前記放電により生成した酸化リチウム又は過酸化リチウムが分解し、リチウムイオンと酸素イオンとが生成する。生成したリチウムイオンは、電解質層4へ移動し、該電解質層4を透過して負極3に移動する。また、生成した酸素イオンは、そのまま酸素貯蔵材料14へ吸蔵される。或いは、前記酸素イオンは、電子を放出して酸化され、酸素分子となって酸素貯蔵材料14に吸着される。一方、負極3では、該負極3に移動した前記リチウムイオンが還元されて、金属リチウムとして析出する。
【0065】
(正極) 2Li → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li + 4e → 4Li
本実施形態の金属酸素電池1において、上記の電池反応のうち正極2で起きる反応は、酸素貯蔵材料14と、導電助剤12と、前記電解液とで形成された前記三相界面で起きる。
【0066】
本実施形態の金属酸素電池1では、酸素貯蔵材料14を被覆する被覆膜15は、結着剤11に導電助剤12が分散されて複合化された構造の高分子複合体13からなる。ここで、結着剤11は伸縮性を有するとともに前記電解液に浸透可能な高分子からなるので、該結着剤11には該電解液が浸透することができ、酸素貯蔵材料14は該電解液と導電助剤12とで覆われる。この結果、酸素貯蔵材料14表面に、結着剤11に妨げられることなく前記三相界面が形成される。すなわち、酸素貯蔵材料14上で前記三相界面を形成できる領域を大きくすることができる。
【0067】
したがって、本実施形態の金属酸素電池1によれば、大きな電気エネルギーを得ることができる。
【0068】
また、本実施形態の金属酸素電池1では、被覆膜15を構成する結着剤11に導電助剤12が分散するとともに、該結着剤11に前記電解液が浸透している。このため、電子は、一の導電助剤12から、結着剤11に浸透している前記電解液を介して、他の導電助剤12に移動することができる。このようにして、被覆膜15において、電子の伝導経路を形成することができる。
【0069】
そして、本実施形態の金属酸素電池1では、導電助剤12が、結着剤11に分散し、該結着剤11を介して酸素貯蔵材料14に結着されている。これにより、本実施形態の金属酸素電池1では、放電及び充電の繰り返しに伴い、前記三相界面の酸素貯蔵材料14と導電助剤12との間で、酸化リチウム又は過酸化リチウムの生成及び分解が繰り返されても、導電助剤12が酸素貯蔵材料11から離脱することを抑制することができる。
【0070】
したがって、本実施形態の金属酸素電池1によれば、放電及び充電を繰り返しても前記三相界面及び前記電子の伝導経路を維持することができるので、放電及び充電を繰り返した際に優れたサイクル性能を得ることができる。
【0071】
また、本実施形態の金属酸素電池1では、一の酸素貯蔵材料14を被覆する一の被覆膜15と、他の酸素貯蔵材料14を被覆する他の被覆膜15とが互いに連結していることにより、電子が、一の被覆膜15中の導電助剤12から、他の被覆膜15中の導電助剤12へ移動することができる。これにより、本実施形態の金属酸素電池1によれば、電子がより容易に移動することができ、電気エネルギーを効率よく得ることができる。
【0072】
また、本実施形態の金属酸素電池1では、被覆膜15が高分子複合体13からなるので、放電時に、酸化リチウム又は過酸化リチウムの生成に伴い、該被覆膜15が膨張したときに、該被覆膜15はその構造を維持したまま膨張することができる。
【0073】
さらに、本実施形態の金属酸素電池1では、一の酸素貯蔵材料14を被覆する一の被覆膜15と、他の酸素貯蔵材料14を被覆する被覆する他の被覆膜15とが互いに連結しているとともに、一の被覆膜15と他の被覆膜15とで囲まれた空隙16が形成されている。また、空隙16は、正極2全体の5〜90体積%の範囲となっている。これにより、本実施形態の金属酸素電池1では、一の被覆膜15で生じる膨張と他の被覆膜15で生じる膨張とを空隙16で吸収することができる。この結果、本実施形態の金属酸素電池1によれば、一の被覆膜15で生じる膨張と他の被覆膜15とで生じる膨張とが互いに干渉することを防ぎ、該干渉に伴って反応生成物の析出が抑制され容量が低下するという不都合が生じることを防ぐことができる。
【0074】
また、本実施例の金属酸素電池1は、酸素貯蔵材料14は、0.1〜100μmの範囲の粒径を備える粒子からなり、導電助剤12は、1〜100nmの範囲の粒径を備える粒子からなり、被覆膜15は、0.1〜100μmの範囲の厚さを備えている。これにより、本実施形態の金属酸素電池1では、導電助剤12を結着剤11に均一に分散させ、該結着剤11を介して酸素貯蔵材料14に確実に結着させることができるので、前記三相界面を確実に形成することができる。
【0075】
また、本実施形態の金属酸素電池1は、正極2に対する酸素貯蔵材料14の含有量は、40〜98質量%の範囲であるので、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0076】
また、本実施形態の金属酸素電池1において、酸素貯蔵材料14は、YMnOで表される複合金属酸化物であり、該YMnOは酸素吸蔵放出又は酸素吸着脱着に優れるので、正極2の充放電容量を増加することができる。
【0077】
また、本実施形態の金属酸素電池1において、結着剤11は、カルボキシメチルセルロースであり、該カルボキシメチルセルロースは、親水性を有するとともに親油性を有する高分子であるので、前記電解液の種類を問わず、該電解液に対する親和性を得ることができる。
【0078】
次に、実施例及び比較例を示す。
【0079】
〔実施例〕
本実施例では、導電助剤12としてのケッチェンブラック(商品名:EC600JD、ライオン株式会社製、粒径34nm(1次粒子))50質量部と、結着剤11としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、商品名:MAC350HC、日本製紙ケミカル株式会社製)10質量部と、純水500質量部とを混合し、スラリー状の高分子複合体13を得た。高分子複合体13の粘度を、振動式粘度計(エー・アンド・デイ株式会社製)を用いて測定したところ、1.39Pa・sであった。
【0080】
次に、酸素貯蔵材料14を製造した。まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:1:6のモル比となるようにして、粉砕混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得た。次に、得られた複合金属酸化物材料の混合物を250℃の温度で30分間反応させ、さらに、300℃の温度で30分間反応させた後、350℃の温度で1時間反応させた。次に、得られた反応生成物の混合物を粉砕混合した後、1000℃の温度で1時間焼成して、化学式YMnOで表される複合金属酸化物からなる酸素貯蔵材料14を得た。
【0081】
酸素貯蔵材料14は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製)を用いて粒径を測定したところ、平均粒径は1.9μmであった。
【0082】
次に、50質量部の導電助剤12、10質量部の結着剤、及び500質量部の純水を混合してなるスラリー状の高分子複合体13と、40質量部の酸素貯蔵材料14とを、遊星ボールミルを用いて混合した。
【0083】
次に、得られた混合物を、アルミニウムメッシュからなる正極集電体9に塗布し、乾燥することにより、直径15mm、厚さ0.2mmの正極2を形成した。正極2に対する酸素貯蔵材料14の含有量は、40質量%であった。
【0084】
正極集電体9と正極2の複合体について寸法から嵩密度を算出し、He置換のピクノメーター装置(Quanta chrome. Co製)を用いて正極2の空隙率を測定したところ、正極2は約70%の空隙を備えていた。
【0085】
次に、正極2に対して、電子顕微鏡(SEM)を用いて断面画像を撮影した。図3に正極2の断面画像を示す。図3に示すように、結着剤11に導電助剤12が分散された高分子複合体13により、酸素貯蔵材料14の表面を被覆する被覆膜15が形成されているとともに、一の酸素貯蔵材料14を被覆する一の被覆膜15と、他の酸素貯蔵材料14を被覆する他の被覆膜15とが互いに連結していることが明らかである。また、一の被覆膜15と他の被覆膜15とで囲まれた空隙16が形成されていることが明らかである。したがって、本実施例の正極2は、図2に示す構造を備えることが明らかである。
【0086】
また、被覆膜15は、前記断面画像を用いて厚さを測定したところ、1〜10μmの厚さを備えていた。
【0087】
次に、内径15mmの有底円筒状のSUS製ケース本体6の内部に、直径15mmの銅メッシュからなる負極集電体10を配置し、負極集電体10上に、直径15mm、厚さ0.1mmの金属リチウムからなる負極3を重ね合わせた。
【0088】
次に、負極3上に、直径15mmの不織布(タピルス株式会社製、平均繊維径15μm)からなるセパレータを重ね合わせた。次に、前記セパレータ上に、前記のようにして得られた正極2及び正極集電体9を、正極2が該セパレータに接するように重ね合わせた。次に、前記セパレータに非水系電解質溶液を注入し、電解質層4を形成した。
【0089】
前記非水系電解質溶液としては、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートとを30:70の質量比で混合した混合溶液に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0090】
次に、ケース本体6に収容された負極集電体10、負極3、電解質層4、正極2、正極集電体9からなる積層体を、内径15mmの有底円筒状のSUS製蓋体7で閉蓋した。このとき、ケース本体6と蓋体7との間に、外径32mm、内径30mm、厚さ5mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるリング状の絶縁樹脂8を配設することにより、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0091】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着して、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した後に、0.05mA/cmの電流を印加し、セル電圧が4.5Vになるまで充電することを、4サイクル繰り返した。得られた複合金属酸化物単位質量当たりの充放電容量(容量密度)とセル電圧との関係を、図4に示す。
【0092】
〔比較例〕
本比較例では、まず、実施例と全く同一にして、化学式YMnOで表される複合金属酸化物からなる酸素貯蔵材料を得た。本比較例の酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例と全く同一にして、粒径を測定したところ、平均粒径は1.9μmであった。
【0093】
次に、本比較例で得られた酸素貯蔵材料40重量部と、導電助剤としてのケッチェンブラック(商品名:EC600JD、ライオン株式会社製、粒径34nm(1次粒子))50質量部と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、商品名:6C−J、三井−デュポン・フロロケミカル社製)10重量部とを混合し、混合物を得た。
【0094】
次に、本比較例で得られた前記混合物を、アルミニウムメッシュからなる正極集電体に5MPaの圧力で圧着することにより、直径15mm、厚さ0.5mmの正極を形成した。前記正極に対する前記酸素貯蔵材料の含有量は、40質量%であった。
【0095】
次に、本比較例で得られた正極を用いた以外は、実施例と全く同一にして、断面画像を撮影した。得られた断面画像から、本比較例の正極は、図5に示す構造を備えることがわかった。すなわち、本比較例の正極は、酸素貯蔵材料21の表面に、結着剤22と導電助剤23とからなる被覆膜24が形成されているものの、該被覆膜24において導電助剤23は結着剤22に分散されずに、凝集し偏在している。また、被覆膜24に被覆された各酸素貯蔵材料21は、互いに独立し離間して存在している。
【0096】
次に、本比較例で得られた正極を用いた以外は、実施例と全く同一にして、金属酸素電池を得た。
【0097】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池を用いた以外は、実施例と全く同一にして、充放電を行った。得られた複合金属酸化物単位質量当たりの充放電容量(容量密度)とセル電圧との関係を、図6に示す。
【0098】
図4から、実施例の金属酸素電池1によれば、1〜4サイクル目において、放電時の容量密度は、920〜1080mAh/gの範囲であり、充電時の容量密度は、750〜1060mAh/gの範囲であることが明らかである。
【0099】
一方、図6から、比較例の金属酸素電池1によれば、1〜4サイクル目において、放電時の容量密度は、110〜365mAh/gの範囲であり、充電時の容量密度は、100〜480mAh/gの範囲であることが明らかである。
【0100】
したがって、図4及び図6から、実施例の金属酸素電池1によれば、比較例の金属酸素電池と比較して、放電及び充電のいずれにおいても、大きな電気エネルギーを得ることができることが明らかである。
【0101】
また、図4から、実施例の金属酸素電池1によれば、放電時において、容量密度が最小である4サイクル目は、容量密度が最大である1サイクル目と比較して、85%の容量密度を保持していることが明らかである。また、充電時において、容量密度が最小である1サイクル目は、容量密度が最大である3サイクル目と比較して、70%の容量密度を保持していることが明らかである。
【0102】
一方、図6から、比較例の金属酸素電池によれば、放電時において、容量密度が最小である4サイクル目は、容量密度が最大である2サイクル目と比較して、30%の容量密度しか保持していないことが明らかである。また、充電時において、容量密度が最小である4サイクル目は、容量密度が最大である2サイクル目と比較して、20%の容量密度しか保持していないことが明らかである。
【0103】
また、図4及び図6から、実施例の金属酸素電池1によれば、比較例の金属酸素電池と比較して、サイクルの後半(3又は4サイクル目)においても、サイクルの前半(1又は2サイクル目)と同程度の放電時の容量密度及び充電時の容量密度を保持していることが明らかである。したがって、実施例の金属酸素電池1によれば、比較例の金属酸素電池と比較して、放電及び充電を繰り返した際に優れたサイクル性能を得ることができることが明らかである。
【符号の説明】
【0104】
1…金属酸素電池、 2…正極、 3…負極、 4…電解質層、 11…結着剤、 12…導電助剤、 13…高分子複合体、 14…酸素貯蔵材料、 15…被覆膜、 16…空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素貯蔵材料、導電助剤、及び結着剤を含む混合物からなるとともに酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極及び該負極に挟持された電解質層と、前記正極内で前記酸素貯蔵材料及び前記導電助剤とともに三相界面を形成する電解液とを備える金属酸素電池において、
前記結着剤は、伸縮性を有するとともに該電解液に浸透可能な高分子からなり、
前記正極は、前記結着剤に前記導電助剤が分散された高分子複合体からなるとともに前記酸素貯蔵材料の表面を被覆する被覆膜を備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項2】
請求項1記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、粒子状であり、
各該酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜は、互いに連結していることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項3】
請求項2記載の金属酸素電池において、
前記正極は、一の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜と、他の前記酸素貯蔵材料を被覆する前記被覆膜とで囲まれた空隙を備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項4】
請求項3記載の金属酸素電池において、
前記空隙は、前記正極全体に対して5〜90体積%の範囲であることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、0.1〜100μmの範囲の粒径を備える粒子からなり、
前記導電助剤は、一次粒子が1〜100nmの範囲の粒径を備える粒子からなり、
前記被覆膜は、0.1〜100μmの範囲の厚さを備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の金属酸素電池において、
前記正極に対する前記酸素貯蔵材料の含有量は、40〜98質量%の範囲であることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、YMnOで表される複合金属酸化物であることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の金属酸素電池において、
前記結着剤は、カルボキシメチルセルロースであることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項9】
酸素貯蔵材料、導電助剤、及び結着剤を含む混合物からなるとともに酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極及び該負極に挟持された電解質層と、前記正極内で前記酸素貯蔵材料及び前記導電助剤とともに三相界面を形成する電解液とを備える金属酸素電池の製造方法において、
前記結着剤として、伸縮性を有するとともに前記電解液に浸透可能な高分子を用い、該結着剤と該導電助剤と水とを混合し、スラリー状高分子複合体を得る工程と、
該スラリー状高分子複合体と前記酸素貯蔵材料とを混合し、前記混合物を得る工程と、
該混合物を基板に塗布する工程と、
該基板に塗布された混合物を乾燥して前記正極を形成する工程と
を備えることを特徴とする金属酸素電池の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の金属酸素電池の製造方法において、
前記スラリー状高分子複合体の粘度は、0.01〜100Pa・sの範囲であることを特徴とする金属酸素電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−51092(P2013−51092A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187887(P2011−187887)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】