説明

金属酸素電池

【課題】大きな電池容量を得ることができる金属酸素電池を提供する。
【解決手段】金属酸素電池1は、酸素貯蔵材料を含み、酸素を活物質とする正極2と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極3と、正極2及び負極3に挟持された電解質層4とを備え、正極2、負極3及び電解質層4は筐体5に密封されて収容されている。前記酸素貯蔵材料は、放電開始時における酸素貯蔵量が富化されていて、複合金属酸化物を酸素雰囲気下に保持して加熱処理し、該複合金属酸化物に酸素を付着させることにより得られたものである。前記酸素貯蔵材料は、前記放電開始時において7〜60mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸素電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素を活物質とする正極と、金属を活物質とする負極と、該正極と該負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池が知られている。
【0003】
前記金属酸素電池では、放電時には、負極において、金属が酸化されて金属イオンが生成し、該金属イオンが正極側へ移動する。一方、正極においては、酸素が還元されて酸素イオンが生成し、該酸素イオンが前記金属イオンと結合して金属酸化物が生成する。また、前記金属酸素電池では、充電時には、負極及び正極において、前記反応の逆反応が起こる。
【0004】
前記金属酸素電池では、前記金属として金属リチウムを用いると、金属リチウムは理論電圧が高く電気化学当量が大きいことから、大きな充放電容量を得ることができる。また、酸素として空気中の酸素を用いると、電池内に正極活物質を充填する必要がないことから、電池の質量当たりのエネルギー密度を高くすることができる。
【0005】
ところが、空気中の酸素を正極活物質とするために、正極を大気に開放すると、空気中の水分、二酸化炭素等が電池内に侵入し、電解質層、負極等が劣化するという問題がある。そこで、前記問題を解決するために、密封ケース内に、受光により酸素を放出する酸素吸蔵材料を含む正極と、金属リチウムからなる負極と、電解質層とを配設すると共に、該酸素吸蔵材料に光を導く光透過部を備える金属酸素電池が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
前記金属酸素電池によれば、前記光透過部を介して前記酸素吸蔵材料に光を導くことにより、該酸素吸蔵材料から酸素を放出させることができ、前記正極を大気に開放することなく、正極活物質としての酸素を得ることができる。従って、空気中の水分、二酸化炭素等が電池内に侵入することによる電解質層、負極等の劣化を防止することができる。
【0007】
しかし、前記従来の金属酸素電池は、光線の照射が無いときには酸素の供給が不安定になると共に、密封ケースの他の部分に比較して脆弱である光透過部が破壊されて電解液が漏出する虞がある。
【0008】
そこで、前記金属酸素電池の正極材料として、光線の照射によらず、化学的に酸素を吸蔵、放出し、又は物理的に吸着、脱着することができる酸素貯蔵材料を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−230985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の金属酸素電池は、過電圧が大きく、十分な電池容量を得ることができないという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、大きな電池容量を得ることができる金属酸素電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記従来の金属酸素電池において、十分な電池容量を得ることができない理由について鋭意検討した結果、前記酸素吸蔵材料では吸蔵又は放出される酸素の量が不十分であることに起因することを知見した。
【0013】
そこで、まず、放電開始前の段階で前記酸素吸蔵材料の表面に付着している酸素の量を増やしておくことが考えられる。
【0014】
また、前記酸素吸蔵材料に代えて、酸素貯蔵材料を用いることが考えられる。前記酸素貯蔵材料は、酸素を吸蔵、放出する機能を備えるとともに、さらに、表面に酸素を吸着、脱着する機能を備える。前記酸素貯蔵材料の表面に吸着又は脱着される酸素は、吸蔵又は放出される酸素とは異なり該酸素貯蔵材料中で拡散するものではない。したがって、前記酸素貯蔵材料の表面に吸着又は脱着される酸素は、吸蔵又は放出される酸素と比較して、低エネルギーで前記電池反応に用いられることになり、該電池反応に優位に作用するものと考えられる。
【0015】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、前記目的を達成するために、酸素貯蔵材料を含み、酸素を活物質とする正極と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極と、該正極及び該負極に挟持された電解質層とを備えるとともに、該正極、該負極及び該電解質層は筐体に密封されて収容されている金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、放電開始時における酸素貯蔵量が富化されていることを特徴とする。
【0016】
本願において、前記負極では、充電時に、リチウムイオンから還元された金属リチウムが該負極上に析出されるか、或いは、リチウムイオンがそのまま該負極中に吸収される。また、放電時に、該負極上に析出した金属リチウムが酸化されてリチウムイオンになるか、或いは、該負極中に吸収されたリチウムイオンがそのまま放出される。
【0017】
本発明の金属酸素電池では、放電時には、前記負極において、該負極から放出されたリチウムイオンが、前記電解質層を透過して前記正極側へ移動する。一方、前記正極において、前記酸素貯蔵材料の表面から酸素分子が脱着され、該酸素分子が還元されて酸素イオンが生成する。或いは、前記酸素貯蔵材料中から酸素イオンが放出される。そして、前記酸素イオンと前記リチウムイオンとが結合し、リチウム酸化物が生成する。
【0018】
このとき、本発明の金属酸素電池では、前記酸素貯蔵材料は、放電開始時における酸素貯蔵量が富化されていることにより、放電時に該酸素貯蔵材料から脱着又は放出される酸素を十分に得ることができるので、正極でリチウム酸化物が生成する反応をより進行させることができる。
【0019】
したがって、本発明の金属酸素電池によれば、放電時に大きな電池容量を得ることができる。
【0020】
また、本発明の金属酸素電池によれば、前記正極等が前記筐体に密封されて収容されていることにより、前記酸素貯蔵材料は放電開始時における酸素貯蔵量を維持することができるので、高容量でのサイクル性能の向上を期待することができる。
【0021】
本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、複合金属酸化物を酸素雰囲気下に保持して加熱処理し、該複合金属酸化物の表面に酸素を付着させることにより得られたものである。
【0022】
前記酸素貯蔵材料は、複合金属酸化物を酸素雰囲気下に保持して加熱処理することにより、該複合金属酸化物に付着する水分子や一酸化炭素分子等が酸素分子に置換されるに加えて、該複合金属酸化物の表面に酸素分子が付着する。これにより、表面に多量の酸素分子が吸着した酸素貯蔵材料を得ることができる。
【0023】
本発明の金属酸素電池では、放電時に大きな電気容量を得るために、前記酸素貯蔵材料は、前記放電開始時において、7〜60mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備えることが好ましい。
【0024】
前記放電開始時における酸素貯蔵量が7mmol/g未満の場合には、放電時に前記酸素貯蔵材料から脱着又は放出される酸素を十分に得ることができず、放電時に十分に大きな電池容量を得ることができないことがある。一方、前記放電開始時における酸素貯蔵量が60mmol/gを超える前記酸素貯蔵材料は、製造が困難な場合がある。
【0025】
また、本発明の金属電池では、放電時に前記酸素貯蔵材料から脱着又は放出される酸素を十分に得るとともに製造を容易にするために、7〜35mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備えることが特に好ましい。
【0026】
また、本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、YとMnとを含む複合金属酸化物であることが好ましい。前記複合金属酸化物は、酸素吸蔵放出性能又は酸素吸着脱着性能に優れるので、該複合金属酸化物に付着する酸素の量を多くすることができる。したがって、前記酸素貯蔵材料がYとMnとを含む複合金属酸化物である本発明の金属酸素電池によれば、放電時にさらに大きな電池容量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の金属酸素電池の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の金属酸素電池の正極に用いる酸素貯蔵材料の酸素貯蔵量を示すグラフ。
【図3】実施例1,2の金属酸素電池の充放電容量とセル電圧との関係を示すグラフ。
【図4】実施例3の金属酸素電池の充放電容量とセル電圧との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態の金属酸素電池1は、酸素貯蔵材料を含む正極2と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極3と、正極2と負極3とに挟持された電解質層4とを備えるとともに、正極2、負極3及び電解質層4はケース5に密封されて収容されている。
【0030】
ケース5は、カップ状のケース本体6と、ケース本体6を閉蓋する蓋体7とを備え、ケース本体6と蓋体7との間にはリング状の絶縁樹脂8が介装されている。また、正極2は蓋体7の天面との間に正極集電体9を備えており、負極3はケース本体6の底面との間に負極集電体10を備えている。尚、金属酸素電池1において、ケース本体6は負極板として、蓋体7は正極板として作用する。
【0031】
金属酸素電池1において、正極2は、前記酸素貯蔵材料に加えて、導電材料と、結着剤とを含む。
【0032】
前記酸素貯蔵材料は、例えば、化学式YMnOで表される複合金属酸化物からなり、酸素を吸蔵、放出する機能を備えるとともに、その表面に酸素を吸着、脱着する機能を備える。前記酸素貯蔵材料は、酸素貯蔵量が富化されており、放電開始時において7〜60mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備えている。また、前記酸素貯蔵材料として、Gd0.700.26Ba0.042.96等のC型希土類構造複合金属酸化物、La9.33Si26、La8.33SrSiO25.5等のアパタイト構造複合金属酸化物、CuFeO、CuAlO、CuCrO、CuYO等のデラフォサイト構造複合金属酸化物、LaMnO、SrMnO、SrFeO等のペロブスカイト構造複合金属酸化物、ZrO、CeO等のホタル石構造金属酸化物等を用いることも可能である。
【0033】
前記導電材料としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソポーラスカーボン、カーボンファイバー等の炭素材料を挙げることができる。
【0034】
前記結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。
【0035】
正極2は、次のようにして製造される。まず、前記複合金属酸化物を、0.1〜2MPaの範囲の圧力の酸素雰囲気(酸素濃度は約100体積%)下、200〜600℃の範囲の温度に1〜100時間の範囲の時間保持して加熱処理を行う。前記加熱処理により、前記複合金属酸化物の表面に酸素が付着される結果、放電開始時において7〜60mmol/g、特に好ましくは、7〜35mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備える前記酸素貯蔵材料を得ることができる。
【0036】
次に、得られた前記酸素貯蔵材料と、前記導電材料と、前記結着剤とを混合し、得られた混合物を、正極集電体9の片面に塗布し、0.1〜5MPaの範囲の圧力で圧着する。以上により、薄膜状の正極2を得ることができる。
【0037】
負極3は、リチウムイオンを吸収放出可能な材料からなり、例えば、金属リチウム、リチウム合金、グラファイト等のリチウムイオンを吸収放出可能な炭素質材料を挙げることができる。本実施形態では、負極3に金属リチウムを用いる。
【0038】
電解質層4は、例えば、非水系電解質溶液をセパレータに浸漬させたものであってもよく、固体電解質であってもよい。
【0039】
前記非水系電解質溶液は、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解したものを用いることができる。前記リチウム塩としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。また、前記非水系溶媒としては、例えば、炭酸エステル系溶媒、エーテル系溶媒、イオン液体等を挙げることができる。
【0040】
前記炭酸エステル系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができる。前記炭酸エステル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0041】
前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、ジメチルトリグラム、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。前記エーテル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0042】
前記イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム等のカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TTSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミド(BETI)、テトラフルオロボレート、パークロレート、ハロゲンアニオン等のアニオンとの塩を挙げることができる。
【0043】
前記セパレータとしては、例えば、ガラス繊維、ガラス製ペーパー、ポリプロピレン製不織布、ポリイミド製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布、ポリエチレン製多孔フィルム等を挙げることができる。
【0044】
また、前記固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等を挙げることができる。
【0045】
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、リチウム、ランタン、ジルコニウムの複合酸化物であるLiLaZr12、リチウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、リンを主成分とするガラスセラミックス等を挙げることができる。前記LiLaZr12は、リチウム、ランタン、ジルコニウムの一部を、それぞれストロンチウム、バリウム、銀、イットリウム、鉛、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、ニオブ等の他の金属で置換されたものであってもよい。
【0046】
次に、集電体9,10としては、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等のメッシュからなるものを挙げることができる。
【0047】
本実施形態の金属酸素電池1では、放電時には、次の式に示すように、負極3において、金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが放出される。前記リチウムイオンは電解質層4を透過して正極2側へ移動する。一方、正極2において、前記酸素貯蔵材料の表面から脱着された酸素分子が還元されて酸素イオンが生成する。或いは、前記酸素貯蔵材料中から酸素イオンが放出される。そして、前記酸素イオンと前記リチウムイオンとが結合し、リチウム酸化物(酸化リチウム又は過酸化リチウム)が生成する。
【0048】
さらに、負極3と正極2とを導線で接続することにより、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0049】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
また、充電時には、次の式に示すように、正極2において、前記放電により生成したリチウム酸化物が分解し、リチウムイオンと酸素イオンとが生成する。生成したリチウムイオンは、電解質層4を透過して負極3側へ移動する。また、生成した酸素イオンは、そのまま前記酸素貯蔵材料中へ吸蔵され、或いは電子を放出して酸化され、酸素分子となって前記酸素貯蔵材料の表面に吸着される。一方、負極3では、該負極3側へ移動した前記リチウムイオンが還元されて金属リチウムとなり、該負極3上に析出する。
【0050】
(正極) 2Li → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li + 4e → 4Li
前記酸素貯蔵材料は、前記複合金属酸化物を酸素雰囲気下に保持して加熱処理し、該複合金属酸化物に酸素を付着させることにより、酸素貯蔵量が富化されていて、放電開始時において7〜60mmol/g、好ましくは7〜35mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備えている。これにより、本実施形態の金属酸素電池1は、放電時に前記酸素貯蔵材料から脱着又は放出される酸素を十分に得ることができるので、正極でリチウム酸化物が生成する反応をより進行させることができる。
【0051】
したがって、本実施形態の金属酸素電池1によれば、放電時に大きな電池容量を得ることができる。
【0052】
また、本実施形態の金属酸素電池1によれば、正極2等がケース5に密封されて収容されていることにより、前記酸素貯蔵材料は放電開始時における酸素貯蔵量を維持することができるので、高容量でのサイクル性能の向上を期待することができる。
【0053】
金属酸素電池1において、前記放電開始時における酸素貯蔵量が7mmol/g未満の場合には、放電時に前記酸素貯蔵材料から脱着又は放出される酸素を十分に得ることができず、放電時に十分な電池容量を得ることができないことがある。一方、前記放電開始時における酸素貯蔵量が60mmol/gを超える前記酸素貯蔵材料は、製造が困難な場合がある。
【0054】
次に、実施例及び比較例を示す。
【実施例1】
【0055】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:1:6のモル比となるようにして、粉砕混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得た。次に、得られた複合金属酸化物材料の混合物を250℃の温度で30分間反応させ、さらに、300℃の温度で30分間反応させた後、350℃の温度で1時間反応させた。次に、得られた反応生成物の混合物を粉砕混合した後、1000℃の温度で1時間焼成して、化学式YMnOで表される複合金属酸化物を得た。
【0056】
次に、前記複合金属酸化物を、0.1MPaの酸素雰囲気(酸素濃度は約100体積%)下、300℃の温度に3時間保持して加熱処理することにより、酸素貯蔵材料を得た。
【0057】
次に、得られた前記酸素貯蔵材料を、直径12mmの石英製サンプル管に収容し、該サンプル管を管状炉内に設置した。前記サンプル管の入り口側から10体積%のHを含むHeガスを40ml/分の流量で該サンプル管に導入した。そして、前記サンプル管の出口側でHガス濃度を測定し、Hガス濃度が一定になるまで保持した。
【0058】
次に、前記サンプル管に前記Hを含むHeガスを導入しながら、前記管状炉を5℃/分の速度で800℃まで昇温し、昇温中に該サンプル管の出口側から放出されるガス中のHO濃度を計測した。そして、計測されたHO濃度から、前記酸素貯蔵材料の酸素貯蔵量を定量したところ、8.8mmol/gであった。結果を図2に示す。尚、前記酸素貯蔵量は、放電開始時における酸素貯蔵量に相当する。
【0059】
次に、本実施例で得られた前記酸素貯蔵材料20質量部と、導電材料としてのケッチェンブラック(ライオン株式会社製)20質量部と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、ダイキン工業株式会社製)10質量部とを混合し、正極混合物を得た。そして、得られた正極混合物を、チタンメッシュからなる正極集電体9の片面に塗布し5MPaの圧力で圧着することにより、直径15mm、厚さ1mmの正極2を形成した。
【0060】
次に、内径15mmの有底円筒状のSUS製ケース本体6の内部に、直径15mmのアルミニウムメッシュからなる負極集電体10を配置し、負極集電体10上に、直径15mm、厚さ0.1mmの金属リチウムからなる負極3を重ね合わせた。
【0061】
次に、負極3上に、直径15mmのガラス繊維セパレータ(日本板硝子株式会社製)からなるセパレータを重ね合わせた。次に、前記セパレータ上に、前記のようにして得られた正極2及び正極集電体9を、正極2が該セパレータに接するように重ね合わせた。次に、前記セパレータに非水系電解質溶液を注入し、電解質層4を形成した。
【0062】
前記非水系電解質溶液としては、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートとを30:70の質量比で混合した混合溶液に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0063】
次に、ケース本体6に収容された負極集電体10、負極3、電解質層4、正極2、正極集電体9からなる積層体を、内径15mmの有底円筒状のSUS製蓋体7で閉蓋した。このとき、ケース本体6と蓋体7との間に、外径32mm、内径30mm、厚さ5mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるリング状の絶縁樹脂8を配設することにより、図1に示す金属酸素電池1を得た。金属酸素電池1において、正極2、負極3、及び電解質層4は、ケース5内に密閉されている。
【0064】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着して、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した後に、0.05mA/cmの電流を印加し、セル電圧が4.5Vになるまで充電することを、2サイクル繰り返した。得られた充放電容量とセル電圧との関係を図3(a)に示す。
【0065】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1と全く同一にして、前記複合金属酸化物を得た。そして、前記複合金属酸化物を、600℃の温度で加熱処理した以外は、実施例1と全く同一にして、前記酸素貯蔵材料を得た。
【0066】
次に、本実施例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、酸素貯蔵量を測定したところ、9.15mmol/gであった。結果を図2に示す。
【0067】
次に、本実施例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、金属酸素電池1を製造した。
【0068】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、放電及び充電を行った。得られた充放電容量とセル電圧との関係を、図3(b)に示す。
【0069】
〔比較例〕
本比較例では、実施例1と全く同一にして、前記複合金属酸化物を得た。そして、前記複合金属酸化物を酸素雰囲気下で加熱処理することを全くせずに、該複合金属酸化物自体を酸素貯蔵材料とした。前記酸素貯蔵材料は、酸素貯蔵量が富化されていない状態である。
【0070】
次に、本比較例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、酸素貯蔵量を測定したところ、6.65mmol/gであった。結果を図2に示す。
【0071】
次に、本比較例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、金属酸素電池を製造した。
【0072】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、放電及び充電を行った。得られた充放電容量とセル電圧との関係を、図3(c)に示す。
【0073】
図3(a)から、実施例1の金属酸素電池1は、1サイクル目の放電容量が0.70mAhであり、2サイクル目の放電容量が0.94mAhである。図3(b)から、実施例2の金属酸素電池1は、1サイクル目の放電容量が0.58mAhであり、2サイクル目の放電容量が1.6mAhである。図3(c)から、比較例の金属酸素電池は、1サイクル目の放電容量が0.35mAhであり、2サイクル目の放電容量が0.53mAhである。
【0074】
したがって、図3(a)〜図3(c)から、実施例1及び実施例2の金属酸素電池1は、比較例の金属酸素電池と比較して、放電時に大きな電池容量を得ることができることが明らかである。
【0075】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1と全く同一にして、前記複合金属酸化物を得た。
【0076】
次に、0.1MPaの水素−アルゴン混合雰囲気(水素濃度は約3体積%、アルゴン濃度は約97体積%)下、400℃の温度に3時間保持して加熱処理し、その直後に、0.1MPaの酸素雰囲気(酸素濃度は約100%体積%)下、600℃の温度に3時間保持して加熱することにより、酸素貯蔵材料を得た。
【0077】
次に、本実施例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、酸素貯蔵量を測定したところ、34.8mmol/gであった。結果を図2に示す。
【0078】
次に、本実施例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、金属酸素電池1を製造した。
【0079】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を用い、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した後に、0.05mA/cmの電流を印加し、セル電圧が4.0Vになるまで充電することを、2サイクル繰り返した以外は、実施例1と全く同一にして、放電及び充電を行った。得られた充放電容量とセル電圧との関係を、図4に示す。
【0080】
図4から、実施例4の金属酸素電池1は、実施例1及び実施例2の金属酸素電池1と比較して、放電時及び充電時に、非常に大きな電池容量を得ることができることが明らかである。
【符号の説明】
【0081】
1…金属酸素電池、 2…正極、 3…負極、 4…電解質層、 5…筐体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素貯蔵材料を含み、酸素を活物質とする正極と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極と、該正極及び該負極に挟持された電解質層とを備えるとともに、該正極、該負極及び該電解質層は筐体に密封されて収容されている金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、放電開始時における酸素貯蔵量が富化されていることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項2】
請求項1記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、複合金属酸化物を酸素雰囲気下に保持して加熱処理し、該複合金属酸化物に酸素を付着させることにより得られたものであることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、放電開始時において7〜60mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、放電開始時において7〜35mmol/gの範囲の酸素貯蔵量を備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の金属酸素電池において、
前記酸素貯蔵材料は、YとMnとを含む複合金属酸化物であることを特徴とする金属酸素電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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