説明

金庫

【課題】金庫の防盗性を向上させる。
【解決手段】金庫は、本体1とその一側縁に蝶番装置2にて水平回動自在に取付けられた扉とで構成されている。扉は、前面板14と周壁板23とを有する中空の殻体を備えており、内部には耐火材が充填されている。蝶番装置の可動部材5は、扉の前面に露出する基部5bと、扉の内部に入り込む嵌入部5cと、取付け穴27を塞いだ状態で扉の前面に重なるフランジ部5dとを備えている。バールで可動部材5をこじ上げようとしても、フランジ部5dが突っ張り作用を果たすことにより、高い防盗性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本体は金庫に関するものである。なお、本願にいう金庫は耐火庫や防盗性保管庫を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
金庫は前向きに開口した本体に水平回動式の扉を備えて構造になっており、扉は蝶番装置によって本体に取付けられている。蝶番装置は、一般に、本体に固着された固定部材と、扉に固着される可動部材と、両者を連結するピンとからなっている。金庫用の蝶番装置は壊されにくいという要請から単純な形態のものが一般的であり、例えば特許文献1に記載されているように、可動部材は扉の前面に重ね合わせてボルトで締結したり溶接したりしている。
【0003】
また、特許文献1の図6に現されているように、蝶番装置の可動部材と本体の前面との間には多少ながら隙間が空いている。これは、加工誤差を吸収して円滑な回動を確保するために他ならない。
【特許文献1】特許第2547300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、賊が金庫を開く手口には色々あるが、一つの方法として蝶番装置の破壊がある。すなわち、既述のように蝶番装置の可動部材と本体との間に隙間が空いていることを利用して、この隙間にバールの先端を差し込み、そしてテコの原理で蝶番装置の可動部材をこじ上げることで扉を開こうとするものである。
【0005】
そして、蝶番装置の可動部材を扉の前面に固着しているに過ぎない場合は、扉は可動部材との固着強度を十分に高くできないため、賊による蝶番装置の破壊行為に対して効果的でないという問題があった。この点に対して本願出願人は、改良技術として、扉の前面板に取付け穴を形成して、蝶番装置の可動部材を前記取付け穴から扉の肉厚部内に入り込ませたものを実用化しており、この改良技術は特許文献に比べると防盗性を向上できる。
【0006】
本願発明は、前記した改良技術の考え方を一部で踏襲しつつより防盗性を向上させること課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明に係る金庫は、基本的な構成は従来と同様であり、前向きに開口した本体と、前記本体の開口縁の一側部に蝶番にて水平回動自在に取付けた扉とを備えており、前記扉は、前面板とその周囲に連続した周壁板を含む中空状殻体の内部に耐火材を充填した構造になっている一方、前記蝶番装置は、本体の前面に固着された固定部材と扉に固着された可動部材とを備えており、固定部材と可動部材とはピンで連結されている。
【0008】
そして、特徴として、「前記蝶番装置の可動部材は、扉の前面板から露出した基部と、前記基部と連続すると共に扉の前面板に形成した取付け穴から扉の殻体内部に入り込む嵌入部とを備えており、前記嵌入部は前記周壁板か又は殻体の内面に設けた補強板に固着されている一方、前記基部には、前記取付け穴を挟んで固定部材と反対側に延びて扉の前面に重なるフランジ部が一体に形成されている、」という構成になっている。
【発明の効果】
【0009】
蝶番装置の可動部材と本体との間の隙間にバールを差し込んでこじた場合、蝶番装置の可動部材に対するバールの当たり具合により、可動部材には、本体の内部に向けて押しやられる外力が作用する場合と、手前に引き起こすように外力が作用する場合とがある(なお、いずれにしてもピンにせん断力が作用するが、ピンは一般に特殊鋼からなっていて熱処理されているためせん断破壊することはまずない。)。
【0010】
そして、可動部材にこれを本体の奥側に押しやる外力が作用した場合は、可動部材に形成したフランジ部が扉の前面を強く押圧するように作用し、このため、バールによって可動部材をこじ上げようとする力は扉全体を本体に対して押さえるように作用するに過ぎず、このため、蝶番装置の可動部材を破壊して取り外すといったことはまず無理である。
【0011】
他方、可動部材に手前に引き起こす外力が作用した場合は、嵌入部が扉の内部に入り込んでいてこれが扉を構成する板材に固着されているため、蝶番装置の固定部材が扉から離脱することはない。
【0012】
このように、本体発明では、蝶番装置の可動部材をバールでこじる行為に対して強い抵抗を示すことができ、このため防盗性を格段に向上させることができる。特に、実施形態のように外周のうち回動中心の側の部分に補助閂を形成して本体には前記補助閂が嵌まる補助係合穴を設けると、扉を手前に起こす力に対しても扉を奥側に押し込む力に対しても閂が抵抗として作用するため、防盗性をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1のうち(A)は金庫の斜視図であり、金庫は、前向きに開口した本体1と、本体1の縦長一側縁に蝶番装置2にて水平回動自在に取付けられた扉3とを主要部材としている。
【0014】
蝶番装置2は、本体1の前面に固着された固定部材4と、扉3に固着された可動部材5、両者を連結するピン6とで構成されている。扉3には、ハンドル7とダイアル錠8とシリンダ錠9とを設けている。なお、施錠装置として、ダイアル錠8に代えて又はこれに加えて、テンキー入力式の電気錠やリモコン操作される電気錠を設けることも可能である。なお、扉3の内面部には本体1の係合部に係脱する閂杆が配置されている。
【0015】
図2は図1の II-II視平断面図であり、このうち(A)は閉扉状態の図、(B)は開いた状態の部分図である。図2に示すように、本体1は、外箱11と内箱12とで中空の殻体を構成してその内部にコンクリート等の耐火材13を充填した基本構造になっている。また、扉3も、外面板14と内面板15とで形成された中空体に耐火材13を充填した構造になっている。
【0016】
扉3の外周には、前面側にずれた状態に形成された扉側第1段部16とその奥側に位置した扉側第2段部17とがそれぞれ形成されている一方、本体1の開口部には、扉側第1段部16が重なる(嵌まり込む)本体側第1段部18と、扉側第2段部17が重なる(密接する)本体側第2段部19とが形成されている。これら段部16〜19と扉3及び本体1の全周にわたって形成されている。
【0017】
扉3及び本体1の第1段部16,18は本体1の前面と略平行になっており、第2段部17,19は、正面視において内側は手前に位置し周囲の部分は奥側に位置するように緩い角度で傾斜している。また、扉3の外周のうち第2段部よりも奥側の部分は、奥に行くにしたがって間口の内側にずれる傾斜部20aになっており、また、本体1のうち扉3の傾斜面20と対向した部分も傾斜部20bになっている。
【0018】
本体1における開口部のうち、扉3が取付けられている縦長一側部の傾斜部20aに、ポケット状の補助係合穴21の箇所又は上下に適宜間隔を隔てて複数箇所形成されている一方、扉3には補助係合穴に21に嵌脱する固定式の補助閂22を突設している。扉3の周壁板23は、内面板15に一体に折り曲げ形成されているか、又は、外面板14に一体に折り曲げ形成しているか、或いは、専用の板材で構成している。
【0019】
扉3の周壁板23のうち補助閂22を設けている部分には縦長の第1補強枠24が溶接によって固着されており、補助閂22は内側補強枠24にボルト25で固着されている。補助係合穴21も鋼板21aで覆われている。扉3のうち回動中心の側に位置した内面部には、外面板14と周壁板23とに重なった平断面略コ字状の第2補強枠26が溶接によって固着されている。
【0020】
蝶番装置2の可動部材5は、固定部材4にピン6で連結された軸部5aと、軸部5aと一体に連続していて扉3の前面に露出した基部5bと、基部5bから扉3の内部に入り込むと共に第2補強枠26の内面に密着又は密接する平面視略L形の嵌入部5cと、嵌入部5aが嵌まる取付け穴27を塞いだ状態で回動中心の外側に延びるフランジ部5dとを備えている。嵌入部5cを第2補強枠26に溶接によって固着している。フランジ部5dは外面板14に溶接してもよい。
【0021】
本体1の外箱11は第1段部18まで延びており、外箱11のうち縦長一側部の内面には平面視コ字状の第3補強枠28が溶接によって固着されており、蝶番装置2の固定部材4はボルト29で第3補強枠28及び外箱11に固着されている。また、蝶番装置2の固定部材4は外箱11に溶接によっても固着されている。
【0022】
本体1の内箱12は本体側第1段部18まで延びており、そして、内箱12のうち本体側第1段部18を構成する先端縁部12aの内面と外面とに薄板状(テープ状)の断熱性ガスケット30,31を接着剤や両面粘着テープによって貼り付けており、更に、外箱11のうち本体第1段部18の箇所に位置した先端縁部11aを内側の断熱性ガスケット30に重ね合わせている。換言すると、外箱11の先端縁部11aと内箱12の先端縁部12aとで内側の断熱性ガスケット30を挟み付けている。なお、断熱性ガスケットの素材には限定はなく、耐火断熱性を備えておればよい。その性質から一般には無機質のものが選択される。
【0023】
内箱12における先端縁部12aの先端面は外箱11の第1壁部11bに当接又は近接しており、先端面の箇所を飛び飛びの状態で外箱11の第1壁部11bに溶接で固着している(溶接箇所を符号32で示す。)。外箱11の先端縁部11aの先端には、奥側に入り込んだ補助片11cが折り曲げ形成されている。補助片11cは先端縁部11aの形状安定性を得るための一種のリブ的なものである。
【0024】
なお、外箱11は1枚板で構成される必要はなく、一般には、複数枚の板材を溶接して構成されている。例えば、背面板用板材、天板部用板材、側板用板材、底板用板材の5枚の板材で構成することができる。小型の金庫の場合は、1枚板を展開した状態に打ち抜いてから折り曲げて突き合わせ箇所を溶接する、といった形態となすことも可能である。第1段部18から傾斜部20bまでの部分を独立した板材で構成する、といったことも可能である。
【0025】
外箱11のうち本体側第1段部18の手前側の第1壁部11bには、テープ状の熱膨張性断熱材33を貼着している。熱膨張性断熱材33はある程度の温度になると発泡して本体1と扉3との間の隙間をシールするものであり、セラミック系のものや黒鉛系のものなどを使用できる。
【0026】
以上の構成において、外箱11と内箱12とは溶接部32のみの僅かの面積で繋がっているに過ぎず、外箱11の先端縁部11aと内箱12の先端縁部12aとは断熱性ガスケット30で分断されているため、火災によって外箱11が加熱されても熱が内箱12に伝わることは著しく抑制され、このため、金庫の断熱性能を格段に向上できる。また、閉扉状態において扉3の第1段部16と本体1の第1段部18とで外側の断熱性ガスケット31が挟まれていることと、熱膨張性断熱材33を配置していることにより、火炎や熱風が庫内に入り込むことが阻止される。
【0027】
そして、金庫が賊にあった場合、破壊の手口の一つとして、固定部材5と本体2との間の隙間にバールを差し込んで手前に引いたり奥に押したりして扉3を空けようとすることがある。この場合、蝶番装置2における可動部材5の基部5bには、図2に黒抜き矢印Aで示すように奥側に押しやられる場合と、白抜き矢印Bで示すように手前に引かれる場合がある。
【0028】
そして、可動部材5が奥側に押しやられる場合は、フランジ部5dの存在により、可動部材5は扉3を強く押すように作用する過ぎず、このため、扉3は本体2の段部に対して強く当たって閉扉状態を強く保持しようとするに過ぎず、このため扉3が簡単に空くことはない。また、補助閂22は補助係合穴21の奥面に強く当たることになり、この点においても、扉3が破壊されることはない。
【0029】
他方、可動部材5が白抜き矢印Bのように手前に引かれる場合は、まず、嵌入部5cがその付け根部と先端部との両方において第2補強枠26に溶接されていることにより、可動部材5と扉3とは高い固着強度になっていて可動部材5が扉3から離脱することはなく、また、扉3が手前側に移動し勝手になると補助閂22が補助係合穴21の手前側の縁に当たることにより、扉3が手間側に移動することが阻止される。この面においても、扉3の破壊を効果的に阻止できる。
【0030】
外箱11と内箱12とを一体化する溶接部32は飛び飛びにしか存在しないため、ある程度の外力がかかると離脱し得る。従って、賊が蝶番装置2の可動部材5がバールで起こそうとすることで外箱11の第1壁部11bと第1段部11aとが奥側に移動する傾向を呈すると、図2に一点鎖線で示すように、溶接部32が破断して内箱12の第1段部16や第2段部17は元の状態のままとなり、このため、細いバールでこじ空けようとしても扉2と本体1とが離反することはない。また、バールは本体2の第1段部18に当たってそれ以上の浸入が阻止されるため、バールで強くこじ空けることは無理であり、この面においても防盗性が高められている。
【0031】
本願発明では、蝶番装置2における可動部材5は、基部5bの付け根からフランジ部5dの先端までの距離L(図2(B)参照)は、デザイン等の問題が許す限りできるだけ大きいほうがよいと言える。
【0032】
敢えて述べるまでもないが、本願発明において蝶番装置の具体的な形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、他にも様々に具体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(A)は金庫斜視図、(B)は蝶番装置の分離斜視図である。
【図2】図1(A)の II-II視断面図であり、(A)は閉扉状態での図、(B)は扉を少し開いた状態での図である。
【図3】扉の自由端部の部分的な平断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 本体
2 蝶番装置
3 扉
4 固定部材
5 可動部材
5a 軸部
5b 基部
5c 嵌入部
5d フランジ部
6 ピン
11 本体の外箱
12 本体の内箱
14 扉の外面板
23 扉の外周部
26 補強枠(補強板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前向きに開口した本体と、前記本体の開口縁の一側部に蝶番にて水平回動自在に取付けた扉とを備えており、前記扉は、前面板とその周囲に連続した周壁板を含む中空状殻体の内部に耐火材を充填した構造になっている一方、前記蝶番装置は、本体の前面に固着された固定部材と扉に固着された可動部材とを備えており、固定部材と可動部材とはピンで連結されている、
という金庫であって、
前記蝶番装置の可動部材は、扉の前面板から露出した基部と、前記基部と連続すると共に扉の前面板に形成した取付け穴から扉の殻体内部に入り込む嵌入部とを備えており、前記嵌入部は前記周壁板か又は殻体の内面に設けた補強板に固着されている一方、前記基部には、前記取付け穴を挟んで固定部材と反対側に延びて扉の前面に重なるフランジ部が一体に形成されている、
金庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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