説明

釣り用リールのハンドル把手及びハンドル組立体

【課題】弾性体製のカバー部が一体成形されたハンドル把手において、カバー部の成形時に把手内にカバー部の原料が流れ込まないようにする。
【解決手段】ハンドル把手9は、装着部90と、第1把手92と、第2把手93と、カバー部と、を備えている。装着部は、把手軸の外周側に回転自在に装着可能なものである。第1把手は、装着部に設けられ、装着部から離反する端部に形成された第1開口部92aと、第1開口部の外周側の縁部に凹んで形成された第1嵌合部92bと、を有する中空のものである。第2把手は、第1把手の第1開口部と対向して配置される第2開口部93aと、第2開口部の内周側の縁部に凹んで形成され第1嵌合部の外周面にはめ合い可能な第2嵌合部93bと、を有する中空のものである。カバー部は、少なくとも第1把手と第2把手とを覆うように形成された弾性体製のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用リールのハンドルアームの先端に固定された把手軸に回転自在に装着可能なハンドル把手及びそれを用いたハンドル組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
スピニングリールや、両軸受リール等の釣り用リールのハンドル軸の先端には、ハンドル組立体が固定されている。ハンドル組立体は、ハンドル軸の先端に回転不能に装着されたハンドルアームと、ハンドルアームの先端に固定された把手軸と、把手軸に回転自在に装着されたハンドル把手とを有している。このようなハンドル把手において、外形が全体を掌で握持可能な形状、たとえば外形が略卵状になるように形成され、外周部を合成ゴムなどの弾性体で被覆されたものが従来知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のハンドル把手は、把手軸に回転自在に装着された装着部と、装着部と一体成形された中空の第1把手と、第1把手にねじ止めされた第2把手と、第1及び第2把手の外周部を覆うように形成された軟質の弾性体製のカバー部と、を備えている。第1把手と第2把手とは把手軸と直交する面で突き合わされており、その内周側に形成された筒状のボス部同士が凹凸嵌合している。このボス部を貫通するねじ部材により第1及び第2把手は固定されている。
【0004】
このような構成のハンドル把手は、装着部を含む第1把手と第2把手とをそれぞれ型成形により製作し、製作された第1及び第2把手をねじ部材により固定した後にカバー部をインサート成形する。この場合、一般的に、第1及び第2把手が固定された把手組立体を型の移動型に装着し、固定型側からカバー部となる原料の流体を第2把手側から型の内部に流し込んで硬化させる。これにより、カバー部が把手組立体と一体成形されている。
【0005】
このような構成の従来のハンドル把手では、軟質の弾性体製のカバー部で外周部が覆われている。このため、滑りにくくなり握った時の感触が良好になるとともに、強い力で握りやすくなる。
【特許文献1】特開平11−220985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のハンドル把手では、第1把手と第2把手が突き合わされているので、カバー部を第1及び第2把手の外周面にインサート成形する際に、型内部の圧力の上昇により突き合わせ部分が開くおそれがある。突き合わせ部分が開くと、開いた突き合わせ部分から原料が内部に流れ込むおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、弾性体製のカバー部が一体成形されたハンドル把手において、カバー部の成形時に把手内にカバー部の原料が流れ込まないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明1に係る釣り用リールのハンドル把手は、釣り用リールのハンドルアームの先端に固定された把手軸に回転自在に装着可能な把手であって、装着部と、第1把手と、第2把手と、カバー部と、を備えている。装着部は、把手軸の外周側に回転自在に装着可能なものである。第1把手は、装着部に設けられ、装着部から離反する端部に形成された第1開口部と、第1開口部の外周側の縁部に凹んで形成された第1嵌合部と、を有する中空のものである。第2把手は、第1把手の第1開口部と対向して配置される第2開口部と、第2開口部の内周側の縁部に凹んで形成され第1嵌合部の外周面にはめ合い可能な第2嵌合部と、を有する中空のものである。カバー部は、少なくとも第1把手と第2把手とを覆うように形成された弾性体製のものである。
【0009】
このハンドル把手では、製作の際には、装着部と第1把手とを一体成形したり、装着部に第1把手とを別体で製作して両者を固定したりする。そして第1把手と第2把手とを第1及び第2嵌合部で凹凸嵌合する。凹凸嵌合後は、ねじ部材を利用してねじ止めや弾性係合や接着等の適宜の固定手段で第1把手と第2把手とを固定する。第1把手と第2把手との組み立てが完了すると、カバー部を成形するための型の中に組立体を入れてカバー部を組立体と一体成形する。この成形時には、第2把手側から第1把手側にカバー部となる原料の流体が流れる。
【0010】
ここでは、第1嵌合部が第1開口部の外周側の縁部に凹んで形成され、第2嵌合部が第2開口部の内周側の縁部に凹んで形成され、第1嵌合部の外周面にはめ合い可能である。このため、第2嵌合部は、第1嵌合部の外周側に配置され、第2嵌合部は第1嵌合部の外周側に突出して形成され、第1及び第2嵌合部は、外周部から内周部に向けて第1把手から第2把手に向かって階段状に形成されている。このため、第1及び第2嵌合部は外周部から内周部に向けて流体の流れ方向に対して逆方向に階段状に形成され、型の内部の圧力が上昇しても第1把手と第2把手との嵌合部分から流体が内部に入りにくくなる。
【0011】
発明2に係る釣り用リールのハンドル把手は、発明1に記載の把手において、第1及び第2開口部は、把手軸と直交する平面に平行に形成されている。この場合には、第1把手と第2把手の嵌合部分が把手軸と直交する平面に平行に形成されているので、第1及び第2把手を嵌合しやすくなる。
【0012】
発明3に係る釣り用リールのハンドル把手は、発明1又は2に記載の把手において、第1把手と第2把手とは実質的に最大外径位置で接合されている。この場合には、第1及び第2把手が最大外形位置で接合されているので、第1及び第2把手を型成形で成形しやすくなる。
【0013】
発明4に係る釣り用リールのハンドル把手は、発明1から3のいずれかに記載の把手において、第1把手は合成樹脂製であり、装着部は金属製であり、第1把手は、装着部に型成形により一体成形されている。この場合には、第1把手は、金属製の装着部の少なくとも一部を型の中に入れて型成形され、装着部に一体形成される。このため、装着部に第1把手を強固に固定できる。
【0014】
発明5に係る釣り用リールのハンドル把手は、発明1から4のいずれかに記載の把手において、第2把手は、把手軸を中心に配置された複数のねじ孔を有し、第1把手側から挿入されて複数のねじ孔に螺合する複数の第1ねじ部材により第1把手に固定されている。この場合には、第2把手が第1把手側から挿入された第1ねじ部材により第1把手と固定されているので、第2把手側に第1ねじ部材が露出しない。
【0015】
発明6に係る釣り用リールのハンドル把手は、発明1から5のいずれかに記載の把手において、第2把手は、把手軸の端部に対向する部分に形成された第3開口部をさらに有し、第3開口部を塞ぐキャップ部材をさらに備える。この場合には、ハンドル把手を把手軸に抜け止めするためのねじ部材を第2把手側から把手軸の先端に装着しても、キャップ部材を外すことにより第3開口部が露出してねじ部材を着脱することができ、ハンドル把手を交換可能になる。
【0016】
発明7に係る釣り用リールのハンドル把手は、発明6に記載の把手において、キャップ部材は、キャップ部材側から装着され複数のねじ孔に螺合する複数の第2ねじ部材により第2把手に固定されている。この場合には、第1ねじ部材に螺合するねじ孔に第2ねじ部材も螺合するので、1種類のねじ孔に2種類のねじ部材を螺合させることができねじ孔の数を減らすことができ、加工コストを削減できる。
【0017】
発明8に係る釣り用リールのハンドル組立体は、釣り用リールのハンドル軸の先端に装着される組立体であって、ハンドル軸の先端に基端が装着され、ハンドル軸と交差する方向に延びるハンドルアームと、ハンドルアームの先端に固定され、ハンドル軸に沿う方向に延びる把手軸と、発明1から7のいずれかに記載のハンドル把手と、を備えている。
【0018】
このハンドル組立体では、上記ハンドル把手と同様な作用及びそれによる効果とを期待できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1嵌合部が第1開口部の外周側の縁部に凹んで形成され、第2嵌合部が第2開口部の内周側の縁部に凹んで形成され、第1嵌合部の外周面にはめ合い可能である。このため、第2嵌合部は、第1嵌合部の外周側に配置され、第2嵌合部は第1嵌合部の外周側に突出して形成され、第1及び第2嵌合部は、外周部から内周部に向けて第1把手から第2把手に向かって階段状に形成されている。このため、第1及び第2嵌合部は外周部から内周部に向けて流体の流れ方向に対して逆方向に階段状に形成され、型の内部の圧力が上昇しても第1把手と第2把手との嵌合部分から流体が内部に入りにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔全体構成及びリール本体の構成〕
図1及び図2において、本発明の一実施形態を採用したスピニングリールは、ハンドル組立体1を回転自在に支持するリール本体2と、ロータ3と、スプール4とを備えている。ロータ3は、スプール4に釣り糸を巻き付けるものであり、リール本体2の前部に回転自在に支持されている。スプール4は、外周面に釣り糸を巻き取るものであり、ロータ3の前部に前後移動自在に配置されている。なお、ハンドル組立体1は、図1に示すリール本体2の左側と、リール本体2の右側とのいずれにも装着可能である。
【0021】
ハンドル組立体1は、図1,図2及び図3に示すように、ハンドル軸8a(図2)の先端に装着され、ハンドル軸8aと交差する方向に延びるハンドルアーム8と、ハンドルアーム8の先端に固定され、ハンドル軸8aに沿う方向に延びる把手軸18(図3)と、把手軸18に回転自在に装着されたハンドル把手9とを備えている。把手軸18は、図3に示すように、ハンドルアーム8の先端にカシメ固定されている。
【0022】
〔ハンドル把手の構成〕
ハンドル把手9は、図3及び図4に示すように、概ねT字状の部材である。ハンドル把手9は、把手軸18に回転自在に装着されている。把手軸18の基端側には、把手軸18の軸方向の位置決め及びハンドル把手9を固定するための大径部18aが形成されている。
【0023】
ハンドル把手9は、把手軸18の外周側に回転自在に装着可能な装着部90と、装着部90の外周面に一体成形により固定された略卵形断面形状の把手部91とを有している。装着部90は、たとえば、ステンレス合金やアルミニウム合金等の金属製の筒状の部材である。装着部90の内周部には、ハンドル把手9を把手軸18で回転自在に支持するための1対の軸受96a,96bが軸方向に間隔を隔てて装着されている。把手軸18の先端には、ハンドル把手9を把手軸18に抜け止めするための抜け止めボルト97がねじ込まれている。抜け止めボルト97は、装着部90の先端側に形成された軸受96b装着用の装着穴90a内で軸受96bを介して装着部90を把手軸18に対して抜け止めしている。装着部90の把手部91の外周面には、把手部91を一体成形する際に把手部91との結合を強固にするための2つの環状溝90b,90cが軸方向に間隔を隔てて形成されている。環状溝90b,90cが形成された部分には、カバー部94及び後述する第1把手92を一体成形するために他の部分より小径の小径部90dが形成されている。
【0024】
把手部91は、たとえば、ポリアミド系樹脂などの合成樹脂製の第1及び第2把手92,93と、第1及び第2把手92,93の外周部を覆う弾性体製のカバー部94と、第2把手93に装着されたキャップ部材95と、を有している。
【0025】
第1把手92は、装着部90に設けられ、装着部90から離反する端部に形成された第1開口部92aと、第1開口部92aの外周側の縁部に凹んで形成された第1嵌合部92bと、を有する中空の部材である。第1把手92は、たとえばインサート成形等の成型用の型の内部に装着部90の少なくとも一部を入れる型成形により金属製の装着部90の外周面に一体成形されている。これにより、装着部90に第1把手92を強固に固定できる。第1把手92には、把手軸18を中心に配置され、第2把手93を締結するための複数(たとえば、2本)の第1固定ボルト(第1ねじ部材の一例)98が貫通可能な複数(たとえば、2つ)の貫通穴92cが把手軸18を中心に把手軸18と平行に形成されている。複数の第1固定ボルト98は、第1把手92側から挿入されて第2把手93に螺合する。これにより、第1固定ボルト98が第2把手93側に露出しない。
【0026】
第2把手93は、第1把手92と凹凸嵌合される第2開口部93aと、第2開口部93aの内周側の縁部に凹んで形成され、第1嵌合部92bの外周面にはめ合い可能な第2嵌合部93bと、第2開口部93aと逆側に形成された第2開口部93cと、を有する中空の部材である。ここで、第1から第3開口部92a,93a,93cは、把手軸18と直交する平面に平行に形成されている。これにより、第1及び第2把手92,93を嵌合しやすくなる。また、第1把手92と第3把手93とは、最外径位置で接合されている。これにより、第1及び第2把手92,93を型成形で成形しやすくなる。
【0027】
ここで、図3に拡大して示すように、第1把手92の第1嵌合部92bと、第2把手93の第2嵌合部93bとにおいて、第1嵌合部92bが第1開口部92aの外周側の縁部に凹んで形成され、第2嵌合部93bが第2開口部93aの内周側の縁部に凹んで形成され、第1嵌合部92bの外周面にはめ合い可能である。このため、第2嵌合部93bは、第1嵌合部92bの外周側に配置され、第2嵌合部93bは第1嵌合部92bの外周側に突出して形成され、第1及び第2嵌合部92b,92bは、外周部から内周部に向けて第1把手92から第2把手93に向かって階段状に形成されている。
【0028】
第2把手93には、第1固定ボルト98が螺合する雌ねじ孔(ねじ孔の一例)93dが貫通孔92cと同芯に配置されるように形成されている。第2把手93は、第1把手92側から挿入された複数の第1固定ボルト98により第1把手92に固定されている。第1及び第2把手92,93の外周面には、カバー部94との結合を高めるための凹み部92d,93eが複数形成されている。第3開口部93cは、キャップ部材95により塞がれている。このようにキャップ部材95を配置すると、キャップ部材95を第2把手93から外すことにより、第3開口部93cを露出して抜け止めボルト97を把手軸18に対して着脱することができ、ハンドル把手9の抜け止めが解除されてハンドル把手9を交換可能になる。
【0029】
キャップ部材95は、合成樹脂製の部材であり、長円形に形成されている。キャップ部材95の外側面は、カバー部94に連なるように3次元的に湾曲して形成されている。キャップ部材95は、第2把手の第3開口部93cの外周側でカバー部94に長円形に凹んで形成されたキャップ取付部94aにはまり込んでいる。キャップ部材95は、キャップ部材95側から挿入され、ねじ孔93dに螺合する第2固定ボルト(第2ねじ部材の一例)99により第2把手93に固定されている。これにより、1種類のねじ孔93dに第1固定ボルト98と第2固定ボルト99の2種類のねじ部材を螺合させることができ、ねじ孔93dの数を減らすことができ、加工コストを削減できる。
【0030】
カバー部94は、たとえば、アクティマー(商標)等の軟質の弾性体製の部材である。カバー部94は、装着部90に一体成形された第1把手92に第2把手93を第1固定ボルト98により固定した状態で、それらの組立体の外周面に略一定の厚みでインサート成形により一体成形される。また、カバー部94は、装着部90の環状溝90bが形成された小径部90dの外周面に隣接する大径部90eと面一な外周面となるように筒状に形成されている。カバー部94を一体成形する際には、カバー部94となる原料の流体は、たとえばキャップ部材95が嵌め込まれる面の内周部から供給される。これにより、原料の流体の供給口の痕跡がキャップ部材95により塞がれて外部に露出しなくなる。
【0031】
ここでは、第2嵌合部93bは、第1嵌合部92bの外周側に配置され、第2嵌合部93bは第1嵌合部92bの外周側に突出して形成され、第1及び第2嵌合部92b,92bは、外周部から内周部に向けて第1把手92から第2把手93に向かって階段状に形成されている。このため、第1及び第2嵌合部92b,93bは外周部から内周部に向けて流体の流れ方向に対して逆方向に階段状に形成され、型の内部の圧力が上昇しても第1把手92と第2把手93との嵌合部分から流体が内部に入りにくくなる。
【0032】
〔リール本体の構成〕
リール本体2は、図5に示すように、開口2dを有する、例えばアルミニウム合金製のリールボディ2aと、開口2dを塞ぐようにリールボディ2aに着脱自在に装着された、例えばアルミニウム合金製の蓋部材2bと、リールボディ2aから斜め上前方に延びる竿取付脚2cと、を有している。リールボディ2aは、内部に空間を有しており、その空間内には、ロータ3をハンドル組立体1の回転に連動して回転させるロータ駆動機構5と、スプール4を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取るためのオシレーティング機構6とが設けられている。リールボディ2a及び蓋部材2bには、フランジ部2eが形成されているとともに、リールボディ2aには、フランジ部2eからさらに前方に突出する円筒部2fが形成されている。リール本体2の後部は、ガード部材17により覆われている。
【0033】
〔ロータ駆動機構の構成〕
ロータ駆動機構5は、図2に示すように、ハンドル組立体1のハンドル軸8aが固定されたメインギア軸10、メインギア軸10とともに回転するメインギア11と、メインギア11に噛み合うピニオンギア12とを有している。メインギア軸10は、たとえば、ステンレス合金製の筒状の軸であり、図5及び図6に示すように、リールボディ2a及び蓋部材2bに装着された軸受26a,26bにより両端支持されている。メインギア軸の内周面には、右端に右ねじの第1雌ねじ部10aが形成され、左端に左ねじの第2雌ねじ部10bが形成されている。メインギア軸10の軸受26b側には、メインギア11を装着するための円形の取付フランジ10cが一体形成されている。
【0034】
メインギア11は、メインギア軸10の外周側に一体回転可能に装着されている。メインギア11は、外周側側面にフェースギアの形態のギア部11aを有しており、内周部には、メインギア軸10に嵌合し軸受26a側に突出する筒状部11cが形成されている。筒状部11cの外周面には、後述する第2ワンウェイクラッチ52を構成するばね部材64が摩擦係合した状態で装着される環状溝11dが形成されている。
【0035】
メインギア11と取付フランジ10cとの間には、メインギア11を補強するための補強円板11bが取り付けられている。補強円板11bは、取付フランジ10cより大径の、たとえばステンレス合金製の部材であり、メインギア11の補強円板11b側への倒れを防止するために設けられている。補強円板11bは、メインギア11とともに複数(たとえば、6本)の取付ボルト27aにより取付フランジ10cに固定され、メインギア11は、さらに取付フランジ10cの径方向外方で補強円板11bに複数(たとえば、6本)の取付ボルト27bにより固定されている。
【0036】
ピニオンギア12は、たとえば、ステンレス合金製の筒状の部材であり、図2に示すように、その前部12aはロータ3の中心部を貫通しており、ナット13によりロータ3と一体回転可能に固定されている。ピニオンギア12は、その軸方向の中間部と後端部とが、リールボディ2aに間隔を隔てて装着された軸受14a,14bによりリールボディ2aに回転自在に支持されている。
【0037】
〔オシレーティング機構の構成〕
オシレーティング機構6は、スプール4の中心部にドラグ機構60を介して連結されたスプール軸15を前後方向に移動させてスプール4を同方向に往復移動させるための機構である。オシレーティング機構6は、図2及び図5に示すように、スプール軸15の下方に平行に配置された螺軸21と、螺軸21に沿って前後方向に移動するスライダ22と、螺軸21の先端に固定された中間ギア23とを有している。螺軸21は前後方向に配置されており、その後端部は、図7に示すように、リールボディ2aの後部壁面2gに装着された軸受35により回転自在に支持されている。軸受35の外輪は、後部壁面2gの外側面2hに固定された押さえ板29bにより抜け止めされている。押さえ板29bは、外輪より小径の外輪規制用の押さえ孔29eを有している。また、押さえ板29bと外側面2hとの間には、板状のシール部材29aが配置されている。シール部材29aは、軸受35の外輪より大径の通過孔29fを有している。押さえ板29bの外側には、カバー板29cが装着されている。これらの部材29a〜29cは、後部壁面2gにねじ込まれた2本のねじ部材29dにより固定されている。これにより、シール29bに外輪が接触しなくなり、螺軸21ががたつきにくくなり、スライダ22の前後移動が安定する。
【0038】
スライダ22にはスプール軸15の後端が回転不能に固定されている。スライダ22は、リールボディ2aに前後方向に沿って配置された2本のガイド軸28a,28bにより前後方向に案内されている。中間ギア23は、ピニオンギア12に噛み合っている。
【0039】
スプール軸15は、ピニオンギア12の中心部を貫通して配置されている。スプール軸15は、ピニオンギア12の内部をオシレーティング機構6により前後に往復移動する。スプール軸15は、中間部がナット13内に装着された軸受16により、後部がピニオンギア12の後部内周面により、回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。スプール軸15がピニオンギア12と相対回転しながら前後移動するときに、ピニオンギア12にスプール軸15がかじりつくのを防止するために、スプール軸15の表面には、無電解Niメッキが施されている。スプール軸15の先端には、互いに平行な面で構成された回り止めのための係止面15aと、ドラグ調整用の雄ねじ部15bとが形成されている。
【0040】
〔ロータの構成〕
ロータ3は、図2に示すように、ピニオンギア12に一体回転可能に連結されたロータ本体33と、ロータ本体33に揺動自在に装着されたベールアーム34と、を有している。ロータ本体33は、ピニオンギア12に連結される筒状の連結部30と、連結部30の後端部の第1側から連結部と間隔を隔てて前方に延びる第1ロータアーム31と、連結部30の後端部の第1側と対向する第2側から連結部と間隔を隔てて前方に延びる第2ロータアーム31と、を有している。連結部30と両ロータアーム31,32と有するロータ本体33は、たとえばアルミニウム合金製であり一体成形されている。
【0041】
連結部30の中間部には、壁部30aが形成されており、壁部30aの中央部にはボス部30bが形成されている。ボス部33bの中心部には貫通孔30cが形成されており、この貫通孔30cをピニオンギア12の前部12a及びスプール軸15が貫通している。壁部30aの前部にロータ3をピニオンギア12に固定するためのナット13が配置されておる。
【0042】
第1ロータアーム31は、連結部30から外方に凸に湾曲して前方に延びており、連結部30の周方向に広がり湾曲している。第2ロータアーム32は、連結部30から外方に凸に湾曲して前方に延びており、連結部30との接続部は連結部30の周方向に広がり湾曲している。なお、第2ロータアーム32には、軽量化のために開口(図示せず)が形成されている。
【0043】
また、ロータ3は、図8及び図9に示すように、第1及び第2ロータアーム31,32の外方を各別に覆う第1及び第2カバー部材36a,36bと、連結部30の後端部を覆う第3カバー部材37と、第1及び第2カバー部材36a,36bと第3カバー部材37とを接合するためにロータ本体33に設けられた第1及び第2接合突起38a,38bと、をさらに有している。
【0044】
第1カバー部材36aは、外方に凸に湾曲する3次元曲面で構成された外側面を有しており、第1ロータアーム31にねじ55aにより固定されている。第1カバー部材36aの第1接合突起38aとの接合面36cは平面で構成されている。
【0045】
第2カバー部材36bは、外方に凸に湾曲する3次元曲面で構成された外側面を有しており、第2ロータアーム32にねじ55bにより固定されているとともに、連結部30の後面に第3カバー部材37とともにねじ55cにより固定されている。ねじ55cにより固定するために、第2カバー部材36bには、内方に突出する板状の取付部36eが形成されている。第2カバー部材36bの第2接合突起38bとの接合面36fは平面で構成されている。
【0046】
第3カバー部材37は、リール本体2のフランジ部2eが配置可能に中心に形成された円形の開口37aと、第1及び第2接合突起38a,38bに接触可能に両側に形成された接合面37b,37cと、を有している。第3カバー部材37は、2本のねじ55c,55dにより連結部30の後面に固定されている。
【0047】
第1接合突起38aは、第1カバー部材36aと接合する平面で構成された接合面38cと、第3カバー部材37と接合する平面で構成され接合面38dと、を有している。接合面38cは、第1カバー部材36aの接合面36cに接合し、接合面38dは、第3カバー部材37の接合面37bに接合する。第1接合突起38aは接合面38c,38dの間の端面が外部に露出するものである。第1接合突起38aは、連結部30と第1ロータアーム31との境界部分に設けられ、厚みが一定の板状に形成されている。第1接合突起38aは、第1カバー部材36aと第3カバー部材37との接合部分に向けて斜め外方に突出している。第1接合突起38aの外部に露出する端面は、第1カバー部材36a及び第3カバー部材37の外側面と面一になるように湾曲して形成されている。
【0048】
第2接合突起38bは、第2カバー部材36bと接合する平面で構成された接合面38eと、第3カバー部材37と接合する平面で構成され接合面38fと、を有している。接合面38eは、第2カバー部材36bの接合面36fに接合し、接合面38fは、第3カバー部材37の接合面37cに接合する。第2接合突起38bは接合面38c,38dの間の端面が外部に露出するものである。第2接合突起38bは、連結部30と第1ロータアーム31との境界部分に設けられ、厚みが一定の板状に形成されている。第2接合突起38bは、第2カバー部材36bと第3カバー部材37との接合部分に向けて斜め外方に突出している。第2接合突起38bの外部に露出する端面は、第2カバー部材36b及び第3カバー部材37の外側面と面一になるように湾曲して形成されている。
【0049】
ここでは、第1及び第2カバー部材36a,36bと第3カバー部材37との接合部分は、第1及び第2接合突起38a,38bの平面で構成された接合面38c,38eと接合面38d,38fとに各別に接合されるので、第1及び第2カバー部材36a,36b及び第3カバー部材37が第1及び第2接合突起38a,38bと平面で接合される。このため、いずれかのカバー部材に力が作用してもその力を平面で構成された接合面36cから36fのいずれかで受けることができ、他方のカバー部材に影響を及ぼさない。このため、一方のカバー部材に力が作用しても他方のカバー部材の変形や損傷を防止できる。
【0050】
またカバー部材36a,36b,37と第1及び第2接合突起38a,38bとの接合面が平面である。このため、接合部分の形状が簡素化し、第1及び第2カバー部材36a,36bと第3カバー部材38を型成形などにより形成しても、接合部分を合わせやすくなる。
【0051】
〔ベールアームの構成〕
釣り糸案内機構であるベールアーム34は、図2に示すように、第1及び第2ロータアーム31,32の先端に糸解放姿勢と糸巻き取り姿勢との間で揺動自在に装着されている。ベールアーム34は、ベール反転機構39(図8)により糸解放姿勢と糸巻き取り姿勢とに振り分けて付勢されている。
【0052】
ベールアーム34は、図8に示すように、第1ロータアーム31の先端の外周側に揺動自在に装着された第1ベール支持部材40と、第2ロータアーム32の先端の外周側に揺動自在に装着された第2ベール支持部材42と、第1ベール支持部材40の先端装着されたラインローラ41と、を有している。また、ベールアーム34は、第1ベール支持部材40の先端に固定され第1ベール支持部材40に片持ち支持された固定軸43と、固定軸43の先端側に配置された固定軸カバー44と、固定軸カバー44と第2ベール支持部材とを連結するベール45と、を有している。さらにベールアーム34は、固定軸43を第1ベール支持部材40に固定する固定ボルト56を含む固定構造46を有している。
【0053】
第1ベール支持部材40は、図10から図12に示すように、たとえばクロムメッキにより形成された金属皮膜により外側面が覆われたアルミニウム合金製の部材である。このクロムメッキにより表面が硬質になり、釣り糸の接触による外側面の傷付きを防止できる。第1ベール支持部材40の外側面の先端側には、固定ボルト56の頭部56aが収納される第1収納凹部40aが形成されている。また基端側には、第1ベール支持部材40を第1ロータアーム31に取り付けるための取付ボルト49の頭部49aが収納される円形の第2収納凹部40bが形成されている。
【0054】
第1収納凹部40aは、大径の円と軸対称に配置された2つの小径の円とをつないだような形状に非円形に凹んで形成されている。したがって、第1収納凹部40aは軸対称な形状に形成されている。第1収納凹部40aの大径の円の中心には、固定ボルト56が貫通する貫通孔40cが形成されている。また、小径の円の中心には、固定構造46を構成する2つの雌ねじ部59a,59bが形成されている。
【0055】
第1ベール支持部材40のラインローラ41が配置される内側面の釣り糸と接触しない位置には、釣り糸がラインローラ41の内側に入らないようにするための糸進入防止リブ40eが180度程度の範囲でラインローラ41の外周面を覆うように突出して形成されている。糸進入防止リブ40eの内周側には、軽量化を図るための環状の肉盗み部40fが形成されている。
【0056】
固定軸43は、固定軸カバー44と別体で形成されている。固定軸43は、固定軸カバー44を第1ベール支持部材40に固定するとともに、ラインローラ41を回転自在に支持するために設けられている。固定軸43は大径の頭部43aと、頭部43aに続いて頭部43aより小径に形成された第1係止部43bと、ラインローラ41を支持する支持部43cと、支持部43cの先端に形成された第2係止部43dと、を有している。固定軸43の先端部には、固定ボルト46が螺合する雌ねじ部43eが形成されている。第1係止部43bは、固定軸カバー44に係合し、第2係止部43dは、第1ベール支持部材40に係合し、これらの係合により固定軸カバー44と固定軸43と第1ベール支持部材40の回り止めがなされる。
【0057】
固定軸カバー44は、図8に示すように、略U状に湾曲させた形状のベール45と、たとえば鍛造により一体形成されている。固定軸カバー44には、固定軸43を装着可能な装着凹部44aが形成され、装着凹部44aの底部には、第1係止部43bが係合するスロット44bが形成されている。ベール45の先端は、第2ベール支持部材42にカシメ固定されている。
【0058】
ラインローラ41は、図10及び図12に示すように、軸方向に間隔を隔てて配置された2つの軸受48a,48bにより固定軸43に回転自在に支持されている。ラインローラ41は、軸方向の中心に形成された小径のガイド溝41aを挟んで第1筒部41bと第2筒部41cとが形成されている。第1筒部41bは、固定軸カバー44内に入り込んでおり、第2筒部41cより小径である。第2筒部41cは、第1ベール支持部材40の先端外周部と対向して配置されており、釣り糸と接触しない位置は、糸進入防止リブ40eに覆われている。ラインローラ41の内部には、軸受48a,48bを装着するためのカラーやスペーサやワッシャが装着されている。
【0059】
〔固定構造の構成〕
固定構造46は、外周面を有する非円形部としての頭部56aを有し、固定軸43を第1ベール支持部材40に固定する固定ボルト56と、頭部56aの外周側に少なくとも一部が配置されるカバー部材57と、カバー部材57を貫通して第1ベール支持部材40にねじ込み可能であり、カバー部材57を第1ベール支持部材40に固定する小ねじ58と、固定ボルト56の中心から同じ半径位置で小ねじ58をねじ込み可能な2つの雌ねじ部59a,59bと、小ねじ58及びカバー部材57の少なくともいずれかに設けられ、固定ボルト56を回り止めする回り止め部61と、を備えている。
【0060】
固定ボルト56は、非円形の頭部56aと、頭部56aより小径であり固定軸43の雌ねじ部43eに螺合するねじ部56bとを有している。また、頭部56aは、この実施形態では、8角形の各片を凹ませた8つの回り止め凹部56cを有している。回り止め凹部56cは、たとえば、中心が小径の円の中心に実質的に一致する円弧で形成されている。回り止め凹部56cは、小ねじ58の円形の頭部58aに接触して係合するように形成されている。したがってこの小ねじ58の頭部58aは回り止め部61として機能する。頭部56aの表面には、直径に沿ってドライバーなどの工具を係止するためのすり割り56dが形成されている。
【0061】
カバー部材57は、固定ボルト56の回り止め凹部56cに係合する回り止め部61としての第1係合面57aと、固定ボルト56の頭部56aの配置部分を除く第1収納凹部40aの内壁面に係合する第2係合面57bと、を有している。カバー部材57は、固定ボルト56の頭部56aの外周側に沿って長いに板状部材であり、長手方向の一方に小ねじ58が貫通する貫通孔57cが形成されている。カバー部材57は、2つの雌ねじ部59a,59bのうち小ねじ58がねじ込まれていない雌ねじ部(この実施形態では雌ねじ部59b)をカバー可能な形状である。第1係合面57aは、2つの雌ねじ部59a,59bの固定ボルト56の中心での中心角αの中心線Lに対して対称にならないように形成されている。これにより、第1係合面57aを回り止め凹部56cに係合させて固定ボルト56を回り止めするとき、カバー部材57を表裏反転させていずれで回り止めするのかによって、異なる位相で固定ボルト56を回り止めできる。
【0062】
ここでは、第1収納凹部40aが第1ベール支持部材40の外側面(表面)に形成されているので、固定ボルト56の頭部56aを第1ベール支持部材40の表面から突出しないように配置できる。また、小ねじ58で第1収納凹部40aに固定されるカバー部材57が第1収納凹部40aに係合する第2係合面57bを有しているので、カバー部材57が頭部56a以外の第1収納凹部40aを実質的にカバーすることができる。
【0063】
小ねじ58は、たとえば、すり割り58cを有する丸頭の頭部58aと、頭部58aより小径のねじ部58bと、を有する小ねじである。小ねじ58は、2つの雌ねじ部59a,59bのいずれかにねじ込まれる。
【0064】
2つの雌ねじ部59a,59bは、小ねじ58の頭部58aが固定ボルト56の回り止め凹部56cに接触するように固定ボルト56の中心から同じ半径位置に形成されている。したがって、小ねじ58の頭部58aも回り止め凹部56cに接触して固定ボルト56を回り止めする。2つの雌ねじ部59a,59bは、固定ボルト56の中心での中心角αが、30度以上120以上であり、かつ固定ボルト56の辺の数(この実施形態では8)をN(Nは、3から10の整数が好ましく、この実施形態では8)とすると、360/(2×N)の奇数倍の角度となるように配置されている。このような位置に2つの雌ねじ部59a,59bを配置すると、正N角形の固定ボルト56を2つの雌ねじ部59a,59bのいずれかにねじ込んだ小ねじ58で回り止めする場合に、2つの雌ねじ部59a,59bのいずれにねじ込んだかで異なる位相で固定ボルト56を回り止めできる。しかも、2つの雌ねじ部59a,59bが120度以下の角度で配置されるので、比較的狭いスペースで2×N個の位相で固定ボルト56を回り止めできる。
【0065】
なお、この実施形態では、前述したように小ねじ58の頭部58aとカバー部材57の第1係合面57aとがともに回り止め部61として機能するが、少なくともいずれかが回り止め部として機能すればよい。
【0066】
〔固定ボルトによる固定軸の固定手順〕
固定ボルト56により固定軸43を固定する際には、固定軸43の第1係止部43bを固定軸カバー44に係合させるように固定軸43を固定軸カバー44から挿入する。そして、固定軸43の周囲にラインローラ41等の部品を装着する。部品の装着が完了すると、固定軸43の先端の第2係止部43dを第1ベール支持部材40の内側面に係合させて、固定軸カバー44と第1ベール支持部材40の位相を合わせる。この状態で、固定ボルト56の回り止め凹部56cが、たとえば雌ねじ部59aにねじ込む小ねじ58の頭部58aに係合可能な位置まで固定ボルト56を締め付ける。そして、カバー部材57を第1収納凹部40a内に配置する。これで固定ボルト56の位相があった場合には、小ねじを雌ねじ部59aにねじ込んでカバー部材57を小ねじ58で第1収納凹部40aに固定する。
【0067】
このとき、回り止め凹部56cの位相が小ねじ58の頭部58aに合わないときには、カバー部材57も配置できない。このような場合には、固定ボルト56を緩めるかさらにきつく締めつけて、小ねじ58を雌ねじ部59bにねじ込む小ねじ58の頭部58aに係合可能な位置に位相を合わせる。これで固定ボルト56の位相があった場合は、図11に示す状態とは、カバー部材57を裏返して第1収納凹部40aに配置し、小ねじ58で固定する。
【0068】
ここでは、小ねじ58がねじ込まれない雌ねじ部59a,59bがカバー部材57によりカバーされるので、小ねじ58がねじ込まれない雌ねじ部59a,59bへの異物の入り込みを防止できる。これにより、雌ねじ部59a又は59bへの異物の浸入による不具合を未然に防止できる。
【0069】
また、非円形の頭部56aを有する固定ボルト56により固定軸43が第1ベール支持部材40に固定されている。この固定軸43にラインローラ41が回転自在に支持され釣り糸をスプール4に案内している。ここでは、固定ボルト56の非円形の頭部56aの外周面には、回り止め部61が接触して固定ボルト56が回り止めされている。このため、固定軸43を第1ベール支持部材40に固定する固定ボルト56が緩みにくくなり、固定ボルト56の緩みに起因する不具合、たとえば、ラインローラ41のがたつきの発生を抑えることができる。スピニングリールの場合、ラインローラ41ががたついたり位置が不安定になったりすると、糸ヨレが生じる原因になったり糸噛みが生じる原因になったりする。
【0070】
さらに、2つの雌ねじ部59a,59bのいずれかに小ねじ58をねじ込むことにより、2×Nの位相で固定ボルト56を回り止めでき、回り止めできる位相が2倍になる。
【0071】
〔逆転防止機構の構成〕
図2に示すように、ロータ3の連結部30の内部にはロータ3の逆転を禁止するための逆転防止機構50が配置されている。逆転防止機構50は、内輪が遊転するローラ型の第1ワンウェイクラッチ51と、ピニオンギア12の外周側に配置された爪式の第2ワンウェイクラッチ52と、を有している。第1ワンウェイクラッチ51は、リールボディ2aの円筒部2f内に装着され、円筒部2fに回転不能に装着された外輪51aと、ピニオンギア12に回転自在に装着された内輪51bと、両輪51a,51bの間で内輪51bが糸繰り出し方向に回転すると両輪51a,51bの間にくい込む転動体51cと、を備えている。第1ワンウェイクラッチ51は、ローラ型のため、ロータ3の逆転を瞬時に禁止できる。しかし、ローラ型の第1ワンウェイクラッチ51は、許容伝達トルクが小さい。そこで、許容伝達トルクが大きい爪式の第2ワンウェイクラッチ52が設けられている。
【0072】
第2ワンウェイクラッチ52は、図2に示すように、ピニオンギア12のギア歯12cに近接して配置されている。第2ワンウェイクラッチ52は、ロータ3に糸繰り出し方向の強い負荷が作用した場合、第1ワンウェイクラッチ51が滑って逆転したときに作動する補助用のワンウェイクラッチである。
【0073】
第2ワンウェイクラッチ52は、図5に示すように、ピニオンギア12に配置されたラチェットホイール62と、ラチェットホイール62に噛み合う爪部材63と、糸巻取方向にピニオンギア12(ロータ3)が回転したときに、爪部材63をラチェットホイール62から離反させるばね部材64と、を備えている。
【0074】
ラチェットホイール62は、ピニオンギア12のギア歯12cの前方に一体回転可能に装着されている。ラチェットホイール62は外周に鋸歯状のラチェット歯62aを有し、内周部にピニオンギア12の外周面に形成された回り止め面12bに係合する略長円形のスロット62bと、を有している。この実施形態では、プレス成形でラチェットホイール62のラチェット歯62aを作成するために、薄板金属をプレス成形して形成された2枚のラチェットホイール62を用いている。切削加工やレーザ加工等の別の手段でラチェットホイールを製作する場合には、2枚分の厚みで製作すればよい。
【0075】
爪部材63は、図13に示すように、リールボディ2aにラチェットホイール62に噛み合う係合位置(図13二点鎖線)と、ラチェットホイール62から離反する離反位置(図13実線)との間で揺動可能に揺動範囲が規制されてリールボディ2aに装着されている。爪部材63は、図13及び図14に示すように、爪本体65と、爪本体65に一体揺動可能に係止されたカバー66と、爪本体65とカバー66とを一体的に揺動支持するための鍔付きカラー67と、爪部材63をリールボディ2aに固定するための固定ボルト68と、を有している。
【0076】
爪本体65は、固定ボルト68にカラー67を介して支持される金属製の円板状の支持部65aと、支持部65aから径方向に突出してラチェット歯62aに噛み合う爪部65bと、カバー66に係合するために支持部65aから径方向に突出する2つの係合突起65c,65dと、を有している。
【0077】
カバー66は、金属薄板をプレス成形して折り曲げた形状であり、支持部65aと同様な円板形状の本体部66aと、本体部66aから径方向に突出して係合突起65cの両側面に係合して爪本体65を揺動させる揺動連結部66bと、係合突起65dと同方向に突出してばね部材64を係止するばね掛け部66cと、を有している。ばね掛け部66cには、ばね部材64が係合するばね掛け孔66dが形成されている。
【0078】
カラー67は、大径の鍔部67aと、爪本体65を支持するとともに固定ボルト68が通過可能な筒部67bと、を有している。カラー67は、固定ボルト68により押圧されてカバー66を鍔部67aにより押圧し、爪本体65にカバー66を密着させている。
【0079】
固定ボルト68は、リールボディ2aにねじ込まれており、爪部材63を揺動自在に固定している。
【0080】
ばね部材64は、金属製のばね線材を折り曲げて形成されたものである。ばね部材64は、爪部材63を離反位置に配置するために設けられている。ばね部材64は、前述したように筒状部11cの環状溝11dに摩擦係合した状態で装着される。ばね部材64は、環状溝11dに摩擦係合するC字状の係合部64aと、係合部64aから径方向に延びた後にメインギア軸10と平行に折り曲げられた連結部64bと、連結部64bから折り曲げられてばね掛け孔66dに係止される係止部64cと、を有している。第1ワンウェイクラッチ51が滑ってマスターギア軸10が糸繰り出し方向に回転すると、ばね部材64が図13時計回りに回動し、爪部材63は離反位置からラチェットホイール62にかみ合う係合位置に揺動する。
【0081】
このような構成の第2ワンウェイクラッチ52では、ハンドル組立体1が糸巻取方向に回転し、メインギア軸10が同方向に回転すると、ばね部材64が図13の反時計回りに回転し、カラー67を介して爪本体65が揺動し、爪部材63を図13に二点鎖線で示す係合位置から実線で示す離反位置に揺動させる。これにより、ロータ3が糸巻取方向に回転したときに爪部材63がラチェットホイール62と衝突しなくなり、音が発生しないとともに回転抵抗を低減できる。
【0082】
一方、第1ワンウェイクラッチ51が滑ってロータ3が糸繰り出し方向に回転すると、マスターギア軸10が図13時計回りに回転し、ばね部材64が図13時計回りに回動し、爪部材63は離反位置からラチェットホイール62にかみ合う係合位置に揺動する。これにより、ロータ3の糸繰り出し方向の回転が止まる。
【0083】
この逆転防止機構50は、ロータ3の糸繰り出し方向の逆転を常時禁止しており、逆転を許可する状態をとることはない。
【0084】
〔スプールの構成〕
スプール4は、図2に示すように、ロータ3の第1ロータアーム31と第2ロータアーム32との間に配置されており、スプール軸15の先端に回転自在に支持されている。スプール4は、スプール軸15に装着され外周に釣り糸が巻かれる、たとえばアルミニウム合金製の糸巻き胴部4aと、糸巻き胴部4aの前部及び後部に一体で形成された前後のフランジ部4b,4cと、後フランジ部4cに一体形成された筒状のスカート部4dと、を有している。スプール4の内部には、設定されたドラグ力がスプール4に作用するようにスプール4を制動するドラグ機構60と、ドラグ作動時に発音するドラグ発音機構85と、が収納されている。
【0085】
〔ドラグ機構の構成〕
ドラグ機構60は、図2に示すように、スプール4の糸繰り出し方向への回転を制動してスプール4にドラグ力を作用させるための機構である。ドラグ機構60は、スドラグ力を手で調整するためのドラグつまみ組立体70と、ドラグつまみ組立体70によりにスプール4側に押圧されてドラグ力が調整される、前後の摩擦部71,72と、を備えている。ドラグつまみ組立体70は、スプール4の前部に配置されている。前摩擦部71は、スプール4の糸巻き胴部4aの内部に配置され、後摩擦部72は、後フランジ部4cの後方に配置されている。
【0086】
〔ドラグつまみ組立体の構成〕
ドラグつまみ組立体70は、図15に示すように、第1部材76及び第1部材76に対して相対回転する第2部材77を有するつまみ部73と、つまみ部73とスプール4との隙間をシールするシール部材74と、第1部材76と第2部材77との相対回転により発音するつまみ発音機構78と、を有している。
【0087】
つまみ部73は、第1及び第2部材76,77を軸方向移動不能かつ回転自在に連結すするための抜け止めばね79をさらに有している。
【0088】
第1部材76は、リング状の鍔部76aと、鍔部76aより小径の円筒部76bとを有する鍔付き筒状の、例えばアルミニウム合金等の金属製の部材である。第1部材76は、スプール軸15に回転不能かつ軸方向移動自在に設けられている。鍔部76aの前端面には、つまみ発音機構78を構成する多数の音出し凹部80が形成されている。
【0089】
円筒部76bの後部内周部には、スプール軸15の係止面15aに回転不能に係合する長円状の係止スロット76cが形成されている。円筒部76bの外周面のシール部材74が装着される環状溝76dが形成されている。この円筒部76bの後端面が前摩擦部71に当接する。
【0090】
第2部材77は、第1部材76に対向して配置され、第1部材76と相対回動自在に設けられている。第2部材77は、スプール軸15に螺合するとともに、鍔部76aを覆うように第1部材76に向けて筒状に突出する部材である。第2部材77は、つまみ体81と、つまみ体81に回転不能かつ軸方向移動自在に装着され、スプール軸15に螺合するナット部82と、ナット部82と第1部材76との間に圧縮状態で配置されたコイルばねからなるばね部材83とを有している。
【0091】
つまみ体81は、円板部81aと、円板部81aより小径の筒状の突出部81bと、円板部81aの前面に径方向に沿って固定された金属製の操作つまみ81cと、を有している。
【0092】
突出部81bは、第1部材76の鍔部76aを覆うように第1部材76に向けて筒状に突出している。突出部81bで覆われた第1部材76の鍔部76aは、突出部81bの内周面に装着された抜け止めばね79により抜け止めされている。これにより、第1部材76と第2部材77とが相対回転自在かつ軸方向移動不能に連結される。つまみ体81の内周部には、ナット部82が軸方向移動自在かつ一体回転可能に収納されるナット収納部81dが形成されている。
【0093】
抜け止めばね79は、弾性を有する金属線材を折り曲げて形成されたばね部材である。抜け止めばね79は、たとえば5角形の角が、つまみ体81の突出部81bの後端面に環状に突出して形成された環状突起81eに係合し、角部の間の片部が第1部材76の鍔部76aの後面に接触して第1部材76を抜け止めする。抜け止めばね79は、第2部材77の内部に配置された円板形状の銘板86によりカバーされており後方から見えなくなっている。
【0094】
ナット部82は、たとえば六角ナットであり、スプール軸15の先端外周面に形成された雄ねじ部15bに螺合し、つまみ体81の回動に応じてばね部材83を圧縮する。
【0095】
シール部材74は、たとえば合成ゴム製の円板状の部材である。シール部材74は、スプール4の内周面と第1部材76の円筒部76bの外周面との間に配置されている。シール部材74は、円筒部76bに嵌合する筒状部74aと、筒状部74aの内周面に環状溝66dに装着可能に突出して形成された係止部74bと、筒状部74aの外周面からスプール4の内周面に径方向に延びるシール部74cと、を有している。筒状部74aの前端は、抜け止めばね79を隠すための銘板86を押さえるように延びている。シール部74cの先端は先細りのリップ形状であり、スプール4の内周面との抵抗を少なくしている。
【0096】
〔リールの操作及び動作〕
釣りを行う前に魚の大きさや種類に合わせてドラグ力を調整する。ドラグ力を調整するには、ドラグつまみ組立体70を回す。ドラグつまみ組立体70をたとえば時計回りに回すと、スプール軸15に螺合するナット部82によりばね部材83を介して第1部材76が前後の摩擦部71,72側に押圧される。これによりドラグ力が大きくなる。このとき、第1部材76と第2部材77との相対回転によりつまみ発音機構78が歯切れがよい軽快なクリック音が発生する。
【0097】
キャスティング時には、ベールアーム34を糸開放姿勢に反転させる。これにより第1ベール支持部材40及び第2ベール支持部材42が揺動する。この状態で釣り竿を握る手の人差し指で釣り糸を引っかけながら釣り竿をキャスティングする。すると釣り糸は仕掛けの重さにより勢いよく放出される。この状態でハンドル組立体1を糸巻取方向に回転させると、ロータ駆動機構5によりロータ3が糸巻取方向に回転し、ベールアーム34がベール反転機構39により糸巻取位置に復帰し、釣り糸がベール45からラインローラ41に移動してスプール4に巻き付けられる。
【0098】
釣りを行っているときに、大きな魚がかかってラインローラ41への負荷が大きくなると、負荷の変動により第1ベール支持部材40に片持ち支持された固定軸53が僅かに傾いて振動することがある。このような場合に、本実施形態では、固定軸53を第1ベール支持部材40に固定するための固定ボルト56が小ねじ58及びカバー部材57により回り止めされているので、固定ボルト56が緩みにくくなる。また、雌ねじ部59a,59bのうち、小ねじ58がねじ込まれていない雌ねじ部がカバー部材57によりカバーされるので雌ねじ部に異物が侵入しなくなる。
【0099】
〔他の実施形態〕
(a)前記実施形態では、装着部90と把手部91の第1把手92とが別体であったが一体でもよい。
【0100】
(b)前記実施形態では、第2把手93に第3開口部93cを設けて、そこにキャップ部材95を装着したが、キャップ部材95を装着しなくてもよい。
【0101】
(c)前記実施形態では、キャップ部材を2本の第2固定ボルト99により第2把手93に固定したが、キャップ部材自体にねじ部を設け、第2把手又は装着部等に螺合させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一実施形態が採用されたスピニングリールの側面図。
【図2】その側面断面図。
【図3】ハンドル把手の断面図。
【図4】ハンドル把手の側面図
【図5】リール本体を含むスピニングリールの部分分解斜視図。
【図6】メインギアの断面図。
【図7】リール本体の後部の断面部分拡大図。
【図8】ロータの分解斜視図。
【図9】ロータ本体及び第1から第3カバー部材の断面側面図。
【図10】ベールアームの第1ベール支持部材回りの分解斜視図。
【図11】第1ベール支持部材の外側面の拡大部分図。
【図12】図11のXII−XII断面図。
【図13】第2ワンウェイクラッチの一部断面正面図。
【図14】第2ワンウェイクラッチの分解斜視図。
【図15】ドラグつまみ組立体の断面図。
【符号の説明】
【0103】
1 ハンドル組立体
8 ハンドルアーム
9 ハンドル把手
18 把手軸
90 装着部
92 第1把手
92a 第1開口部
92b 第1嵌合部
93 第2把手
93a 第2開口部
93b 第2嵌合部
93c 第3開口部
93d 雌ねじ孔(ねじ孔の一例)
95 キャップ部材
98 第1固定ボルト(第1ねじ部材の一例)
99 第2固定ボルト(第2ねじ部材の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り用リールのハンドルアームの先端に固定された把手軸に回転自在に装着可能なハンドル把手であって、
前記把手軸の外周側に回転自在に装着可能な装着部と、
前記装着部に設けられ、前記装着部から離反する端部に形成された第1開口部と、前記第1開口部の外周側の縁部に凹んで形成された第1嵌合部と、有する中空の第1把手と、
前記第1把手の第1開口部と対向して配置される第2開口部と、前記第2開口部の内周側の縁部に凹んで形成され前記第1嵌合部の外周面にはめ合い可能な第2嵌合部と、を有する中空の第2把手と、
少なくとも前記第1把手と前記第2把手とを覆うように形成された弾性体製のカバー部と、
を備えた釣り用リールのハンドル把手。
【請求項2】
前記第1及び第2開口部は、前記把手軸と直交する平面に平行に形成されている、請求項1に記載の釣り用リールのハンドル把手。
【請求項3】
前記第1把手と前記第2把手とは実質的に最大外径位置で接合されている、請求項1又は2に記載の釣り用リールのハンドル把手。
【請求項4】
前記第1把手は合成樹脂製であり、前記装着部は金属製であり、
前記第1把手は、前記装着部に型成形により一体成形されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の釣り用リールのハンドル把手。
【請求項5】
前記第2把手は、前記把手軸を中心に配置された複数のねじ孔を有し、前記第1把手側から挿入されて前記複数のねじ孔に螺合する複数の第1ねじ部材により前記第1把手に固定されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の釣り用リールのハンドル把手。
【請求項6】
前記第2把手は、前記把手軸の端部に対向する部分に形成された第3開口部をさらに有し、
前記第3開口部を塞ぐキャップ部材をさらに備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の釣り用リールのハンドル把手。
【請求項7】
前記キャップ部材は、前記キャップ部材側から装着され前記複数のねじ孔に螺合する複数の第2ねじ部材により前記第2把手に固定されている、請求項6に記載の釣り用リールのハンドル把手。
【請求項8】
釣り用リールのハンドル軸の先端に装着されるハンドル組立体であって、
前記ハンドル軸の先端に基端が装着され、前記ハンドル軸と交差する方向に延びる前記ハンドルアームと、
前記ハンドルアームの先端に固定され、前記ハンドル軸に沿う方向に延びる前記把手軸と、
請求項1から7のいずれか1項に記載の前記ハンドル把手と、
を備えた釣り用リールのハンドル組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−165462(P2009−165462A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262484(P2008−262484)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】