説明

釣り用リールのワンウェイクラッチ

【課題】 釣り用リールのワンウェイクラッチにおいて、カム機構の耐摩耗性を向上させながら、カム機構の摩擦力を増大させる。
【解決手段】 第2ワンウェイクラッチ10は、機構装着軸75に回転不能に装着された爪車81と、爪車81に対して接離する揺動爪82と、揺動爪82を爪車81に向けて付勢する捩じりコイルばね83と、モータの糸巻取方向の正転時に揺動爪82を制御する爪制御機構84とを有している。爪制御機構84の静音カム85は、外周に押圧部85aを有するカム本体部85bと、カム本体部85bを機構装着軸75に圧接するC型のばね部材85cとを有している。カム本体部85bは、機構装着軸75の外周面に回動自在に装着され、周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片85f及び第2分割片85gを有する金属製のリング部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイクラッチ、特に、釣り用リールのリール本体に回転自在に装着された回転軸の一方向の回転を禁止する釣り用リールのワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動リールは、モータにより少なくともスプールを糸巻取方向に回転駆動可能なリールであり、50m以上の水深の魚を船から釣る場合に広く使用されている。従来の電動リールは、ハンドルが装着されたリール本体と、リール本体に回転自在に装着されたスプールと、スプールを回転させるモータと、モータの回転をスプールに伝達する遊星歯車機構を含む回転伝達機構とを備えている。また、スプールを自由回転可能状態と糸巻取可能状態とにオンオフ可能なクラッチ機構と、クラッチ機構をクラッチオフ状態とクラッチオン状態とに切り換えるクラッチ切換機構と、クラッチ切換機構を動作させるクラッチ操作部材とを備えている。ハンドルが装着されたハンドル軸及びモータは、糸繰り出し方向の回転(逆転)がそれぞれ禁止されている。
【0003】
この種の電動リールにおいて、モータの逆転により、クラッチ機構をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に復帰させる電動リールが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなモータによりクラッチ機構をクラッチオン状態に復帰させる従来の電動リールは、モータの逆転を禁止する逆転禁止状態と許可する逆転許可状態とに切換可能なワンウェイクラッチと、クラッチ切換機構に連動して第1位置と第2位置とに移動する連動機構と、モータの出力軸にワンウェイクラッチを介して装着された押圧部材とを有している。連動機構は、クラッチオン状態の時に第1位置に位置し、クラッチ操作によりクラッチオフ状態になると第2位置に移動する。また第2位置に移動するとその移動によりモータの逆転禁止用のワンウェイクラッチを逆転許可状態に切り換える。押圧部材はモータの出力軸にクラッチ復帰用のワンウェイクラッチを介して装着されている。押圧部材は、モータが逆転すると、連動機構を押圧して第2位置からクラッチオンさせるための第1位置に移動させる。
【0005】
このような構成の電動リールでは、クラッチレバーをクラッチオフ操作すると、クラッチ切換機構がクラッチ機構をクラッチフ状態に切り換えるとともに、クラッチ切換機構に連動して連動機構によりワンウェイクラッチが逆転許可状態になる。この状態でモータを逆転させると、連動機構が押圧部材により押圧されてクラッチ切換機構がクラッチオン状態に戻り、クラッチ機構がクラッチオン状態に戻る。これにより、釣り糸の繰り出しを停止できる。
【0006】
この種の構成の電動リールに用いられるワンウェイクラッチは、モータの出力軸に回転不能に装着されたラチェットホイールと、ラチェットホイールに対して接離するラチェット爪と、ラチェット爪をラチェットホイールに向けて付勢する捩じりコイルばねと、モータの糸巻取方向の正転時にラチェット爪をラチェットホイールからかわす位置まで揺動させるカム機構とを有している。カム機構は、モータの出力軸の外周面に圧接して装着される針金状のクエスチョンマーク型のばね部材と、ばね部材の先端部に連結されラチェット爪を揺動させる押圧カムとを有している。ここでは、ばね部材をモータの出力軸に圧接することによって生じる摩擦力によって、モータの糸巻取方向の正転時に押圧カムをラチェットホイールからかわす位置まで揺動させている。
【特許文献1】特開平11−341939号公報(図20)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来のモータによりクラッチ機構をクラッチオン状態に復帰させる電動リールでは、たとえばクラッチ機構のグリスが少なくなったり、クラッチ機構が塩噛みした状態でもクラッチ機構をクラッチオン状態に復帰できるようにするために、押圧カムの作動力を大きくすることが要請されている。このような電動リールに使用されるワンウェイクラッチは、針金状のクエスチョンマーク型のばね部材をモータの出力軸に巻き付けて圧接することにより、摩擦力を発生させている。このため、押圧カムの作動力を大きくするには、ばね部材のモータの出力軸に対する摩擦力を大きくする必要が生じる。
【0008】
しかし、一般に、針金状のばね部材は、モータの出力軸との接触面積が小さいので、大きな摩擦力を得ることが困難である。さらに、モータの回転軸は高速に回転するので、クエスチョンマーク型のばね部材が回動を繰り返すと、モータの出力軸に装着した内周部分が磨耗してしまい、モータの出力軸に対する摩擦力が低下するおそれが生じる。
【0009】
本発明の課題は、釣り用リールのワンウェイクラッチにおいて、カム機構の耐摩耗性を向上させながら、カム機構の摩擦力を増大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明1に係るワンウェイクラッチは、釣り用リールのリール本体に回転自在に装着された回転軸の一方向の回転を禁止する釣り用リールのワンウェイクラッチであって、ラチェットホイールと、ラチェット爪と、第1付勢部材と、カム機構とを備えている。ラチェットホイールは、回転軸に連動し、外周に鋸歯状の歯部が周方向に間隔を隔てて形成されている。ラチェット爪は、リール本体に揺動自在に装着され、先端が歯部に接触して回転軸の一方向の回転を禁止する。第1付勢部材は、ラチェット爪を歯部に接触する方向に付勢している。カム機構は、回転軸の外周面に回動自在に装着され周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片及び第2分割片を有する金属製のリング部と、リング部の外周に装着され第1分割片及び第2分割片を回転軸に圧接する第2付勢部材と、第1分割片の外周部に突出して設けられラチェット爪を歯部から離反するように持ち上げる突出部とを有し、回転軸の他方向の回転に連動してラチェット爪を第1付勢部材の付勢力に抗して歯部から離反させるためのものである。
【0011】
このワンウェイクラッチでは、カム機構のリング部は金属により形成されているので、従来のカム機構として針金状のクエスチョンマーク型のばね部材を用いる場合や、リング部を合成樹脂により形成する場合に比して、耐摩耗性を著しく向上させることができる。また、リング部は周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片及び第2分割片を有しているので、リング部の装着が容易になるとともに、外周に装着される第2付勢部材の圧接によって、回転軸に対する摩擦力を大きくすることができる。
【0012】
発明2に係るワンウェイクラッチは、発明1のワンウェイクラッチにおいて、リング部は、外周部の周方向に沿って形成され、第2付勢部材が装着される環状の装着溝を有している。この場合、第2付勢部材の装着が容易になるとともに、第2付勢部材の抜け止めを行うことができる。
【0013】
発明3に係るワンウェイクラッチは、発明2のワンウェイクラッチにおいて、第2付勢部材は、装着溝に装着可能なC型のばね部材である。この場合、第2付勢部材として金属製のC型のばね部材を用いることにより、簡素な構成で大きな付勢力が得られるので、安価な構成で回転軸に対する摩擦力を大きくすることができる。
【0014】
発明4に係るワンウェイクラッチは、発明3のワンウェイクラッチにおいて、第2付勢部材は、外周部が装着溝の内部に位置するように装着されている。カム機構は、第2付勢部材の外周部に装着される筒状部材をさらに有している。この場合、第2付勢部材の外周部に装着される筒状部材を装着することにより、第2付勢部材の抜け止めを確実に行うことができる。
【0015】
発明5に係るワンウェイクラッチは、発明1から4のいずれかのワンウェイクラッチにおいて、第1分割片及び第2分割片は、回転軸の軸芯を通過する位置で分割されている。この場合、第1分割片及び第2分割片のリング部分を対称形状に形成できるので、第1分割片及び第2分割片の形成が容易になる。
【0016】
発明6に係るワンウェイクラッチは、発明1から4のいずれかのワンウェイクラッチにおいて、第1分割片及び第2分割片は、回転軸の軸芯から第2分割片側に偏芯した位置で分割されている。この場合、第1分割片のリング部分は第2分割片のリング部分より長くなるように形成されるので、第1分割片に形成された突出部がラチェット爪を持ち上げるときの衝撃によって第1分割片が移動する量を規制することができる。
【0017】
発明7に係るワンウェイクラッチは、発明1から6のいずれかのワンウェイクラッチにおいて、釣り用リールは、リール本体に回転自在に支持されたスプールをモータで回転させる電動リールである。回転軸は、モータの出力軸である。この場合、電動リールのカム機構の耐摩耗性を向上させながら、モータの出力軸に対する摩擦力を増大させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、釣り用リールのワンウェイクラッチにおいて、カム機構のリング部は、金属により形成され、周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片及び第2分割片を有しているので、カム機構の耐摩耗性を向上させながら、カム機構の摩擦力を増大させることができる。
【0019】
〔全体構成〕
本発明の一実施形態による電動リールは、図1に示すように、主にハンドル1が装着されたリール本体2と、リール本体2に回転自在に装着されたスプール3と、スプール3内に装着されたモータ4とを備えている。リール本体2の上部には、水深表示等を行うためのカウンタ5が装着されている。リール本体2の内部には、図2に示すように、ハンドル1の回転をスプール3に伝達するとともにモータ4の回転をスプール3に伝達する回転伝達機構6と、回転伝達機構6の途中に設けられたクラッチ機構7と、クラッチ機構7を切り換えるクラッチ切換機構8(図4参照)と、ハンドル1の糸繰り出し方向の逆転を禁止する第1ワンウェイクラッチ9と、モータ4の糸繰り出し方向の逆転を禁止する第2ワンウェイクラッチ10と、モータ4の逆転によりクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す第1クラッチ戻し機構11と、ハンドル1の糸巻取方向の回転によりクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す第2クラッチ戻し機構12(図4参照)とを備えている。
【0020】
〔リール本体の構成〕
リール本体2は、図2に示すように、フレーム13と、フレーム13の両側方を覆う第1側カバー14及び第2側カバー15とを有している。フレーム13は、図2に示すように、アルミニウム合金ダイカストの一体成形された部材であり、左右1対の第1側板16及び第2側板17と、第1側板16及び第2側板17を複数箇所で連結する連結部材18とを有している。下部の連結部材18には、釣竿を装着するための竿装着脚19が装着されている。
【0021】
第2側カバー15は、第2側板17にボルトにより締結されている。第2側カバー15には、回転伝達機構6などを装着するための固定フレーム20がボルトにより締結されている。したがって第2側カバー15を第2側板17から外すと、固定フレーム20も回転伝達機構6の一部や第2側カバー15とともに第2側板17から外れる。
【0022】
第1側カバー14は、第1側板16にボルトにより締結されている。第1側カバー14には、外部に設けられた蓄電池等の電源と接続するための電源ケーブル用のコネクタ部14a(図1参照)が前部に斜めに突出して設けられている。
【0023】
第1側板16は、周縁部にリブを有する合成樹脂製の板状部材であり、中心部には、モータ4を装着するための膨出部27が外方に突出して形成されている。膨出部27の第1側カバー14側外方には、モータ4の後述する出力軸30の突出部分を覆うためのカバー部材28が装着されている。
【0024】
カバー部材28は、合成樹脂製のキャップ部材であり、複数のねじ部材14cにより、膨出部27に着脱自在に装着されている。カバー部材28は、膨出部27に装着したとき、第1側カバー14の貫通孔14bを貫通して外方に突出するように形成されている。カバー部材28の内部には、出力軸30の突出部分に装着された後述する爪制御機構84やローラクラッチ90や押圧部材91等が配置されている。
【0025】
〔スプールの構成〕
スプール3は、内部にモータ4を収納可能な筒状の糸巻胴部3aと、糸巻胴部3aの外周部に間隔を隔てて形成された左右1対のフランジ部3bとを有している。スプール3の一端はフランジ部3bから外方に延びており、その延びた端部の内周面に軸受25が配置されている。スプール3の他端には、ギア板3cが固定されている。ギア板3cは、図示しないレベルワインド機構にスプール3の回転を伝達するために設けられている。ギア板3cのスプール中心側部において、ギア板3cと固定フレーム20との間には軸受26が装着されている。この2つの軸受25、26により、スプール3は、リール本体2に回転自在に支持されている。
【0026】
〔モータの構成〕
モータ4は、図3に示すように、スプール3の糸巻き取り用、糸繰り出し用及び第1クラッチ戻し機構11の動作用の駆動体として機能する。モータ4は、基端が開口する有底筒状のケース部材31と、開口を塞ぐためにケース部材31の基端に固定されたキャップ部材32と、ケース部材31とキャップ部材32とに回転自在に装着された出力軸30とを有している。ケース部材31は、有底筒状の部材であり、底部で出力軸30を回転自在に支持している。
【0027】
ケース部材31の内部には、図4に示すように、永久磁石を有する界磁67と、コイルを有する電機子68と、整流子69と、ブラシ70とが配置されている。ケース部材31は、深絞りプレス成形された金属製の部材であり、その底部に軸受76bを介して出力軸30が回転自在に支持されている。キャップ部材32は、円板状の金属製製の部材であり、ケース部材31にカシメ固定されている。キャップ部材32に、軸受76aを介して出力軸30が回転自在に支持されている。軸受76a、76bは、外周面が球面のたとえば真鍮製の滑り軸受である。
【0028】
出力軸30は、ケース部材31とキャップ部材32とに回転自在に装着されている。出力軸30の左端はキャップ部材32から突出しており、そこには、セレーション30aが形成され、機構装着軸75がたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。出力軸30の右端部30bは、図3に示すようにケース部材31の先端から突出している。この突出した先端には、回転伝達機構6を構成する2段減速の遊星歯車機構40が装着されている。
【0029】
界磁67は、図4に示すように、ケース部材31の内周面に固定されてりおり、希土類合金粉末をたとえば筒状に焼結して固めて得られた円筒状の異方性磁石である。
【0030】
電機子68は、界磁67の内周面に対向して配置されている。電機子68は、放射状に突出する、たとえば5つの極部を有する電機子鉄心77と、電気子鉄心77の極部に巻回されたコイル78とを有している。電機子鉄心77は、アモルファス珪素合金製の薄板を重ねて形成したものであり、ヒステリシスロスが少ない高い透磁率を有するものである。
【0031】
整流子69は、出力軸30に電気的に絶縁して固定された筒状の絶縁部材69aの外周面に周方向に5つ分割されて形成された導体である。整流子69は、ブラシ70に電気的に接続されている。
【0032】
ブラシ70は、キャップ部材32に装着された絶縁体製の取付部材70aに固定されており、整流子69の対向する周面で整流子69に電気的に接続されている。ブラシ70は、キャップ部材32の1対の取出溝32aを貫通して外部に突出するように配置された2つの端子70bに電気的に接続されている。この取出溝32aと端子70bの隙間は、たとえば瞬間接着剤により封止されている。これにより、モータ4内部への液体の浸入を阻止している。
【0033】
出力軸30は、図3に示すように、ケース部材31とキャップ部材32とに回転自在に装着されている。出力軸30の左端はキャップ部材32から突出しており、そこには、セレーション30aが形成され、機構装着軸75がたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。出力軸30の右端部30bは、図3に示すようにケース部材31の先端から突出している。この突出した先端には、回転伝達機構6を構成する2段減速の遊星歯車機構40が装着されている。
【0034】
機構装着軸75は、図8に示すように、基端側に断面が円形に形成された大径の第1軸部75aと、互いに平行な面取り部75cが形成され第1軸部75aより小径の第2軸部75bと、断面が円形に形成され第2軸部75bより小径の第3軸部75dとを有している。また、基端側には、さらに大径の軸受支持部75eが設けられている。軸受支持部75eは、膨出部27に装着された軸受24(図3参照)により回転自在に支持されている。
【0035】
〔カウンタの構成〕
カウンタ5は、釣り糸の先端に装着された仕掛けの水深を表示するとともに、モータ4を制御するために設けられている。カウンタ5には、図1に示すように、仕掛けの水深データLXや棚位置を水面からと底からとの2つの基準で表示するための液晶表示ディスプレイからなる水深表示部98と、水深表示部98の周囲に配置された複数のスイッチからなる操作キー部99とが設けられている。
【0036】
操作キー部99は、図12に示すように、水深表示部98の右側に上下に配置された棚メモ用の棚メモボタンTBと、スプール3を最も高速で回転させる速巻用の速巻ボタンHBと、水深表示部98の下側に左右に並べて配置されたメニューボタンMBと、決定ボタンDBとを有している。棚メモボタンTBは、操作したときの仕掛けの水深を棚位置として設定するためのボタンである。速巻ボタンHBは、仕掛けを回収するときなどにスプール3を高速で巻き取り方向に回転させるときに使用するボタンである。メニューボタンMBは、水深表示部98内の表示項目を選択するために使用されるボタンである。決定ボタンDBは、選択結果を確定して設定するボタンである。また、決定ボタンDBをたとえば3秒以上長押しすると、そのときの水深データLXが水深0の基準位置としてセットされる0セット処理を行える。以降はセットされた基準位置からの糸長で水深データLXが表示される。なお、釣り人は通常、仕掛けが海面に着水したときに決定ボタンを長押しして0セットする。また、6m以下の水深で棚メモボタンTBと速巻ボタンHBとの同時長押し操作によりスプール回転数と糸長との関係を学習する糸巻学習モードに入ることができる。
【0037】
また、カウンタ5の内部には、図12に示すように、水深表示部98やモータ4を制御するためのマイクロコンピュータからなるリール制御部100が設けられている。リール制御部100には、操作キー部99と、第2側カバー15に揺動自在に装着されスプールの速度や釣り糸の張力を調整するための調整レバー101と、スプール3の回転数と回転方向とを、たとえば回転方向に並べて配置された2つのホール素子で検出するスプールセンサ102と、電動リールに接続される電源の電圧を検出する電源電圧センサ106と、各種の報知用のブザー103と、水深表示部98と、モータ4をパルス幅変調(PWM)したデューティ比で駆動するPWM駆動回路105と、他の入出力部とが接続されている。リール制御部100は、調整レバー101の操作量に応じてモータ4の速度やトルクを制御する。また、スプールセンサ102の出力により釣り糸の先端に取り付けられる仕掛けの水深を算出し、それを水深表示部98に表示する。さらに、操作キー部99の操作により底位置や棚位置が設定されると、算出された水深と設定された底位置や棚位置とが一致して仕掛けが棚位置や底位置に到達したときに、モータ4を逆転させて第1クラッチ戻し機構11を介してクラッチ切換機構8を動作させ、クラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す。これにより、仕掛けがその位置に配置される。
【0038】
なお、モータ4の逆転によるクラッチ戻し動作のとき、電流値が一定の値(たとえば、10A程度)になるようにデューティ比DR(たとえば、電源電圧が11Vの場合はデューティ比DR=50%)で制御している。なお、リチウム電池を使用して電源電圧PVが15ボルトになった場合、デューティ比は、電源電圧PVの上昇分を補正するように、たとえば11/15の値に補正する。これにより、リチウム電池やニッケル水素電池のように鉛電池より電源電圧が高い蓄電池を使用しても、逆転時にモータ4に印加される電流値は変動しにくくなる。
【0039】
〔回転伝達機構の構成〕
回転伝達機構6は、図2に示すように、ハンドル1が回転不能に装着されたハンドル軸33と、ハンドル軸33に回転自在に装着されたメインギア34と、メインギア34に噛み合うピニオンギア35と、ハンドル軸33の周囲に配置されたドラグ機構36と、モータ4の回転を2段階で減速する遊星歯車機構40とを有している。
【0040】
ハンドル軸33は、固定フレーム20に軸受37とハンドル軸33の糸繰り出し方向の回転を禁止するローラクラッチ38とにより回転自在に支持されている。ハンドル軸33の先端にハンドル1が回転不能に装着され、その内側にドラグ機構36のスタードラグ39が螺合している。
【0041】
メインギア34には、ドラグ機構36を介してハンドル軸33の回転が伝達される。ピニオンギア35は、第2側カバー15に立設されたピニオンギア軸47に回転自在かつ軸方向移動自在に装着されている。ピニオンギア軸47は、モータ4の出力軸30と同芯に配置されている。ピニオンギア35の図2左端には、係合凹部35aが形成され、右端にはメインギア34に噛み合う歯部35bが形成されている。またその間には小径のくびれ部35cが形成されている。係合凹部35aは、遊星歯車機構40の後述する第2キャリア46の先端(図2右端)に形成された係合凸部46aに回転不能に係合する。クラッチ機構7は、この係合凹部35aと、係合凸部46aとにより構成されている。ピニオンギア35は、くびれ部35cに係合するクラッチ切換機構8によりピニオンギア軸47の軸方向に移動する。
【0042】
ドラグ機構36は、スプール3の糸繰り出し方向の回転を制動するものであり、スタードラグ39と、スタードラグ39によりメインギア34に対する押圧力(ドラグ力)が変化するドラグディスク48とを有する公知の機構である。
【0043】
遊星歯車機構40は、図3に示すように、モータ4の図3右側の出力軸30に固定された第1太陽ギア41と、第1太陽ギア41に噛み合う、たとえば円周上に等間隔で配置された3つの第1遊星ギア43と、第1遊星ギア43を回転自在に支持する第1キャリア45と、第1キャリア45に固定された第2太陽ギア42と、第2太陽ギア42に噛み合うたとえば円周上に等間隔で配置された3つの第2遊星ギア44と、第2遊星ギア44を回転自在に支持する第2キャリア46とを備えている。第1遊星ギア43及び第2遊星ギア44は、スプール3の内周面に形成された内歯ギア3dに噛み合っている。第1キャリア45及び第2キャリア46は筒状軸となっており、内部をモータ4の出力軸30が貫通している。第2太陽ギア42及び第2キャリア46は出力軸30に対して相対回転可能に設けられている。また、第2キャリア46は、ギア板3cに回転自在に装着されている。第2遊星ギア44と、第1キャリア45との間には、滑りやすい性質の合成樹脂製のワッシャ部材29が装着されている。このようなワッシャ部材29を装着すると、第1キャリア45の遊びが減少して遊星歯車機構40の騒音の低下を図ることができる。
【0044】
〔クラッチ機構の構成〕
クラッチ機構7は、スプール3を糸巻取可能状態と自由回転可能状態とに切換可能な機構である。クラッチ機構7は、図2に示すように、前述したようにピニオンギア35の係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aと構成されている。ピニオンギア35が、左方に移動して係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aと係合した状態がクラッチオン状態でなり、離反した状態がクラッチオフ状態である。クラッチオン状態では、スプール3は糸巻取可能状態になり、クラッチオン状態では、スプール3は自由回転可能状態になる。なお、クラッチオフ状態でモータ4を糸巻取方向に回すと遊星歯車機構40の摩擦抵抗が小さくなる。この結果、スプール3の自由回転速度が増加し、仕掛けを素早く棚位置に下ろすことができる。これが糸送り処理である。
【0045】
〔クラッチ切換機構の構成〕
クラッチ切換機構8は、クラッチ機構7のオンオフ状態を切り換えるものである。クラッチ切換機構8は、図5及び図6に示すように、第2側カバー15に揺動自在に装着されたクラッチ操作レバー50と、クラッチ操作レバー50の揺動によりピニオンギア軸47回りに回動するクラッチカム51と、クラッチカム51の回動によりピニオンギア軸47方向に移動するクラッチヨーク52とを有している。
【0046】
クラッチ操作レバー50は、スプール3の後方かつ上方で第2側カバー15に揺動自在に装着されている。クラッチ操作レバー50は、図5に示すクラッチオン位置と図6に示すクラッチオフ位置との間で揺動自在である。
【0047】
クラッチカム51は、クラッチ操作レバー50の揺動によりピニオンギア軸47回りに回動する部材であり、回動によりクラッチヨーク52をスプール軸外方に移動させるものである。クラッチカム51は、ピニオンギア軸47回りに回動自在に装着された回動部55と、回動部55からクラッチ操作レバー50側に延びる第1突出部56aと、回動部55から前方に延びる第2突出部56bと、回動部55から後方に延びる第3突出部56cと、回動部55の側面に形成された傾斜カムからなる1対のカム突起57a、57bとを有している。このカム突起57a、57bに対向するクラッチヨーク52の両端には、カム突起57a、57bに乗り上げる図示しないカム受けが形成されている。
【0048】
回動部55は、リング状に形成されており、クラッチヨーク52と固定フレーム20との間に配置されている。回動部55は、固定フレーム20に回動自在に支持されている。
【0049】
第1突出部56aは、回動部55から上後方に延び、先端は二股に分かれてクラッチ操作レバー50に係合している。この第1突出部56aは、クラッチ操作レバー50の揺動に応じてクラッチカム51を回動させるために設けられている。
【0050】
第2突出部56bは、クラッチ切換機構8を第2クラッチ戻し機構12に連動させるために設けられている。第2突出部56bは、リールの前方に延びており、メインギア34と固定フレーム20との間に配置された第1ワンウェイクラッチ9のラチェットホイール62の外方側に延びている。第2突出部56bには、捩じりコイルばねからなる第1トグルばね65が係止されている。第1トグルばね65の他端は固定フレーム20に係止されている。この第1トグルばね65により、クラッチカム51は、図5に示すクラッチオン位置と、図6に示すクラッチオフ位置とに保持される。また、第2突出部56bには、揺動軸51aが装着されており、この揺動軸51aに第2クラッチ戻し機構12の係合部材61が揺動自在に装着されている。
【0051】
第3突出部56cは、クラッチ切換機構8を第1クラッチ戻し機構11に連動させるために設けられている。第3突出部56cは、リールの後下方に延びており、その先端に第1クラッチ戻し機構11が連結されている。
【0052】
カム突起57a、57bは、クラッチヨーク52をスプール軸方向外方に押圧するために設けられている。すなわち、クラッチカム51が図5に示すクラッチオン位置から図6に示すクラッチオフ位置に回動すると、カム突起57a、57bにクラッチヨーク52が乗り上げてスプール軸方向外方(図5、図6紙面手前方向)に移動する。
【0053】
クラッチヨーク52は、ピニオンギア軸47の外周側に配置されており、2本のガイド軸53によってピニオンギア軸47の軸心と平行に移動可能に支持されている。また、クラッチヨーク52はその中央部にピニオンギア35のくびれ部35cに係合する半円弧状の係合部52aを有している。また、クラッチヨーク52を支持するガイド軸53の外周でクラッチヨーク52と第2側カバー15との間にはコイルばね54が圧縮状態で配置されており、クラッチヨーク52はコイルばね54によって常に内方(第2側板17側)に付勢されている。
【0054】
このような構成では、通常状態ではピニオンギア35は内方のクラッチ係合位置に位置しており、その係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aとが係合してクラッチ機構7がクラッチオン状態となっている。一方、クラッチヨーク52によってピニオンギア35が外方に移動した場合は、係合凹部35aと係合凸部46aとの係合が外れ、クラッチオフ状態となる。
【0055】
〔第1ワンウェイクラッチの構成〕
第1ワンウェイクラッチ9は、ハンドル軸33の糸繰り出し方向の回転を禁止することにより、モータ4駆動時にハンドル1が回転するのを防止するために設けられている。第1ワンウェイクラッチ9は、ハンドル軸33に回転不能に装着されたラチェットホイール62と、ラチェット爪71と、挟持部材72とを有している。
【0056】
ラチェットホイール62はメインギア34と固定フレーム20との間でハンドル軸33に回転不能に装着されている。ラチェットホイール62の外周側には鋸歯状のラチェット歯62aが形成されている。
【0057】
ラチェット爪71は第2側板17に回動自在に装着されている。また挟持部材72はラチェット爪71の先端に取り付けられ、ラチェットホイール62の外周面を挟持可能である。この挟持部材72とラチェットホイール62との摩擦によって、ラチェットホイール62の時計回り(糸巻取方向)の回転時にはラチェット爪71がラチェット歯62aと干渉しない位置まで離れられ、ラチェットホイール62の糸巻取方向の回転時にラチェット爪71が接触しなくなり静音化できる。一方、反時計回り(糸繰り出し方向)の回転時にはラチェット爪71がラチェット歯62aと干渉する位置まで引き込まれ、糸繰り出し方向の回転が禁止される。なお、この電動リールには、このような第1ワンウェイクラッチ9に加えて、ハンドル軸33の逆転を瞬時に禁止するローラクラッチ38が第2側カバー15とハンドル軸33との間に配置されている。
【0058】
〔第2ワンウェイクラッチの構成〕
第2ワンウェイクラッチ10は、ハンドル1の操作時にモータ4が逆転することにより遊星歯車機構40が動作するのを防止するために設けられている。第2ワンウェイクラッチ10は、図7及び図8に示すように、機構装着軸75の第2軸部75bに回転不能に装着された爪車81(ラチェットホイールの一例)と、爪車81に対して接離する揺動爪82(ラチェット爪の一例)と、揺動爪82を爪車81に向けて付勢する捩じりコイルばね83(第1付勢部材の一例)と、モータ4の糸巻取方向の正転時に揺動爪82を制御する爪制御機構84(カム機構の一例)とを有している。
【0059】
爪車81は、中心に機構装着軸75の第2軸部75bに形成された面取り部75cに回転不能に係合する小判孔81bを有している。また、外周に径方向に突出して形成された、たとえば2つの爪部81a(歯部の一例)を有している。
【0060】
揺動爪82は、第1側板16の膨出部27に立設された揺動軸80に揺動自在に基端が装着されている。揺動爪82の先端には、図8奥側に突出する突起部82aが形成されている。突起部82aは、爪車81の爪部81aに接触して爪車81(出力軸30)の逆転を阻止するとともに、爪制御機構84の後述する静音カム85に接触して爪部81aをかわす位置まで揺動爪82を揺動させるために設けられている。
【0061】
揺動爪82は、図9及び図10に示す爪部81aに接触可能な逆転禁止位置に常時配置されるが、図11に示すように、モータ4の正転時に爪車81の爪部81aをかわす位置まで僅かに時計回りに揺動する。揺動爪82には、後述する進退部材96をかわすための切欠き82bが形成されている。
【0062】
爪制御機構84は、モータ4が正転すると爪車81の爪部81aをかわす位置まで揺動爪82を逆転許可位置側に揺動させるための機構である。爪制御機構84は、機構装着軸75の第1軸部75aに回転自在に装着され、外周に揺動爪82を逆転禁止位置側に押圧するための突出した円弧状の押圧部85aを有する静音カム85と、静音カム85の回動範囲を規制する回動規制部86とを有している。
【0063】
静音カム85は、外周に押圧部85a(突出部の一例)を有する金属製のカム本体部85b(リング部の一例)と、カム本体部85bの外周に回転不能に装着されカム本体部85bを機構装着軸75の第1軸部75aに圧接するC型のばね部材85c(第2付勢部材の一例)と、ばね部材85cの外周部に装着される環状部材85e(筒状部材の一例)とを有している。
【0064】
カム本体部85bは、ばね部材85cが回転不能に収納される収納溝85dを端面及び後述する係止片86aに有しており、ばね部材85cを介して機構装着軸75に摩擦係合し、機構装着軸75の回動に連動して同じ方向に回動するとともに、回動規制部86によって静音カム85の回動が規制されても機構装着軸75は回転できるようになっている。押圧部85aは、カム本体部85bの外周面に後述する押圧部材91の突起部91bの間隔より広い押圧範囲で揺動爪82を押圧するように円弧状に形成されている。
【0065】
カム本体部85bは、図8、図16及び図17に示すように、機構装着軸75の外周面に回動自在に装着され、周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片85f及び第2分割片85gを有する金属製のリング部材である。第1分割片85f及び第2分割片85gは、第1分割片85f及び第2分割片85gを装着したときに機構装着軸75の軸芯を通過する位置に中心が位置するように分割されている。第1分割片85fの前端外周部には、押圧部85aが突出して設けられ、第2分割片85gの前端外周部には、押圧部85aの中心から偏芯した位置に中心が位置するように突出した係止片86aが設けられている。第1分割片85f及び第2分割片85gの後端外周部には、ばね部材85cが装着される収納溝85dが周方向に沿って形成されている。ばね部材85cは、外周部が収納溝85dの内部に位置するように装着されており、ばね部材85cの圧接力により第1分割片85f及び第2分割片85gが機構装着軸75を挟持することにより摩擦係合している。また、ばね部材85cの外周部には、環状部材85eが第1分割片85f及び第2分割片85gの後端外周部に圧入され、ばね部材85cを抜け止めしている。
【0066】
回動規制部86は、静音カム85のカム本体部85bに径方向に突出して一体形成された係止片86aと、カバー部材28の内部で膨出部27の外側面に設けられ係止片86aが係止される1対のボス部86b、86cとを有している。このボス部86bが逆転(図7反時計回り)側の規制部であり、ボス部86cが正転(図7時計回り)側の規制部である。図9に示すように、逆転側のボス部86bに係止片86aが接触するように静音カム85が配置されると、揺動爪82は爪車81に接触してモータ4を逆転禁止可能になる。また、図11に示すように、正転側のボス部86cに係止片86aが接触するように静音カム85が配置されると、揺動爪82は押圧部85aにより押圧され、押圧部材91の突起部91bの間隔より広い範囲で爪車81の爪部81aをかわす位置に配置される。静音カム85と爪車81との間には、ワッシャ87が装着されている。
【0067】
〔第1クラッチ戻し機構の構成〕
第1クラッチ戻し機構11は、モータ4の逆転によりクラッチ切換機構8を介してクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻すものである。第1クラッチ戻し機構11は、図5から図8に示すように、爪車81と並べて機構装着軸75に装着され少なくともモータ4の逆転に応じて回転する押圧機構88と、クラッチ切換機構8とともに動作する連動機構89とを有している。
【0068】
押圧機構88は、爪車81と並べて機構装着軸75の第3軸部75dに配置され、モータ4の逆転に応じて回転するものである。押圧機構88は、第3軸部75dに装着されたローラクラッチ90と、ローラクラッチ90の外周側に回転不能に装着された押圧部材91とを有している。ローラクラッチ90は、外輪90aと、外輪90aに収納された複数のローラ90bとを有する外輪遊転型のワンウェイクラッチである。なお、内輪は機構装着軸75の第3軸部75dと一体化されている。ローラクラッチ90は、モータ4の逆転のみ押圧部材91に伝達するものである。ここで、押圧部材91にローラクラッチ90を装着したのは、クラッチオフ状態で連動機構89が押圧部材91に近接しモータ4を正転させる糸送りモードのとき、押圧部材91が連動機構89に接触しても問題が生じないようにするためである。
【0069】
押圧部材91は、モータ4が逆転するとその回転がローラクラッチ90を介して伝達されて回転する。押圧部材91は、ローラクラッチ90の外輪90aに回転不能に装着される筒状部91aと、筒状部91aの外周側に径方向に突出し周方向に間隔を隔てて形成された、たとえば5つの突起部91bとを有している。突起部91bは、連動機構89を押圧可能なたとえば鋸歯状に形成された突起である。なお、押圧部材91の突起部91bの数は、5つに限定されないが、爪車81の爪部81aの数より多いほうがよい。
【0070】
連動機構89は、クラッチ切換機構8の動作に連動して動作し、クラッチ切換機構8によりクラッチ機構7がクラッチオフ状態に切り換えられると、押圧機構88による押圧が不能な係止位置から押圧可能な押圧位置に移動する。また、連動機構89は、その状態でモータ4が逆転すると押圧機構88により押圧されて係止位置に戻る。
【0071】
連動機構89は、第1側板16及び第2側板17を貫通して第1側板16及び第2側板17に回転自在に装着された一端が固定フレーム20の外方に配置される連結軸93と、連結軸93の両端に回転不能に装着された第1レバー部材94(図5参照)及び第2レバー部材95と、第2レバー部材95の先端に連結された進退部材96とを有している。
【0072】
連結軸93は、第1側板16及び第2側板17に回転自在に装着され、一端が固定フレーム20の外方に突出し他端が第1側板16の外方に突出する軸部材である。連結軸93の突出した両端には、第1レバー部材94及び第2レバー部材95を回転不能に装着するための互いに平行な面取り部93a、93bが形成されている
第1レバー部材94は、基端が連結軸93の固定フレーム20側の面取り部93aに回転不能に装着された部材である。第1レバー部材94の先端は、クラッチ切換機構8を構成するクラッチカム51の第3突出部56cの先端に回動自在かつ所定距離移動自在に係止されている。これにより、クラッチカム51の回動が第1クラッチ戻し機構11に伝達されるとともに、第1クラッチ戻し機構11の戻し動作がクラッチカム51に伝達されクラッチ切換機構8を動作させることができる。
【0073】
第2レバー部材95は、基端が連結軸93の第1側板16側の面取り部93bに回転不能に装着された部材である。第2レバー部材95の先端は、進退部材96の基端に回動自在かつ所定距離移動自在に係止されている。これにより、クラッチ切換機構8の動作に連動して進退部材96が進退するとともに、進退部材96の後退動作により、クラッチ切換機構8がクラッチオフ方向に動作する。
【0074】
進退部材96は、膨出部27に形成された1対のガイド部22、23により揺動爪82及び押圧機構88に向けて直線移動自在に案内されている。進退部材96は、基端に第2レバー部材95が回転自在かつ所定範囲移動自在に連結された板状部材である。進退部材96は、先端から押圧部材91に向けて折り曲げられた接触部96aを有している。この接触部96aの前面が押圧部材91に押圧される押圧面96bである。進退部材96は、接触部96aが押圧部材91による押圧が可能となる、図10に示す押圧位置と、接触部96aが押圧部材91による押圧が不能な、図9に示す係止位置とに直線的に移動自在である。具体的には、クラッチ切換機構8がクラッチオフ位置からクラッチオン位置側に移動すると、第1レバー部材94及び第2レバー部材95が揺動して進退部材96は押圧位置に進出し、モータ4の逆転により押圧部材91により押圧されると、係止位置に後退する。これにより、第1レバー部材94及び第2レバー部材95を介してクラッチカム51がクラッチオン方向に回動し、クラッチ操作レバー50がクラッチオン位置に戻るとともにクラッチ機構7がクラッチオン状態になる。
【0075】
〔第2クラッチ戻し機構の構成〕
第2クラッチ戻し機構12は、ハンドル1の糸巻取方向の回転に応じて、クラッチオフ位置に配置されたクラッチカム51をクラッチオン位置に戻してクラッチ機構7をクラッチオン状態に復帰させるとともに、クラッチカム51によりクラッチ操作レバー50をクラッチオフ位置からクラッチオン位置に戻すものである。第2クラッチ戻し機構12は、前述した係合部材61と、ラチェット歯62aが外周に形成されたラチェットホイール62と、係合部材61を係合位置と非係合位置に向けて振り分けて付勢する第2トグルばね66とから構成されている。係合部材61は、前述したようにクラッチカム51の第2突出部56bに揺動自在に支持されており、その先端にラチェットホイール62のラチェット歯62aに係合する第1突起61aと、第1突起61aの図5左方に延びる第2突起61bとを有している。
【0076】
第1突起61aは、ラチェットホイール62の外方に向けて折り曲げられており、第2突起61bは、固定フレーム20側に逆側に折り曲げられている。固定フレーム20には、第2突起61bに係合する変形台形状のガイド突起20aが形成されている。ガイド突起20aは、第2突起61bに係合することで係合部材61の揺動方向を制御するために設けられている。
【0077】
係合部材61は係合位置に配置されると、ラチェットホイール62の外周より内周側に第1突起61aが位置してラチェット歯62aに係止し得る状態になり、非係合位置に配置されると、ラチェットホイール62の外周から若干離反した位置に第1突起61aが位置する。この係合部材61はラチェットホイール62の軸芯の前方かつ上方に配置されている。このため、ラチェットホイール62の後方に配置される従来例に比べてラチェットホイール62の後方側の空間が小さくて済む。係合部材61の第1突起61aはラチェット歯62aにより引っ張られて図6に示す係合位置から図5に示す非係合位置に回動する。
【0078】
なお、レベルワインド機構やキャスティングコントロール機構については、従来公知の電動リールと同様な構成のため説明を省略する。
【0079】
〔クラッチ切換動作〕
次に、電動リールのクラッチ切換動作について説明する。
【0080】
通常の状態では、クラッチヨーク52はコイルばね54によってピニオンギア軸方向内方に押されており、これによりピニオンギア35はクラッチオン位置に移動させられている。この状態では、ピニオンギア35の係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aとが噛み合ってクラッチオン状態となっている。
【0081】
仕掛けを投入する場合には、クラッチ操作レバー50を図6に示すクラッチオフ位置に揺動させる。クラッチ操作レバー50が、図5に示すクラッチオン位置から、図6に示すクラッチオフ位置に揺動すると、クラッチカム51が図5反時計回りに回動する。この結果、クラッチカム51のカム突起57a、57bにクラッチヨーク52が乗り上げ、クラッチヨーク52はピニオンギア軸方向外方に移動させられる。クラッチヨーク52はピニオンギア35のくびれ部35cに係合しているので、クラッチヨーク52が外方へ移動することによってピニオンギア35も同方向に移動させられる。この状態ではピニオンギア35の係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aとの噛み合いが外れ、クラッチオフ状態となる。このクラッチオフ状態では、スプール3は自由回転可能状態になる。この結果、仕掛けの重さにより釣糸がスプール3から繰り出される。
【0082】
そして、糸送りモードのときには、たとえば繰り出し量が所定量(たとえば、仕掛けの水深表示が6m)を超えたり、スプール3の回転速度が所定速度を超えたりすると、モータ4が糸巻取方向に回転する。このクラッチオフ状態では第2キャリア46が回転するため、モータ4を正転させても遊星歯車機構40は減速動作しないが、遊星歯車機構40とスプール3との摩擦が減少し、スプール3が自由回転状態より高速で糸繰り出し方向に回転する。
【0083】
また、クラッチカム51がクラッチオフ位置に回動すると、第2クラッチ戻し機構12の係合部材61がガイド突起20aに案内されて時計方向に揺動し、死点を超えた時点で第2トグルばね66によりラチェットホイール62の内方に付勢される。この結果、係合部材61はラチェット歯62aに係止される係合位置に配置される。
【0084】
さらに、クラッチカム51がクラッチオフ位置に回動すると、第1クラッチ戻し機構11の連動機構89の進退部材96が、図9に示す係止位置から図10に示す押圧位置に進出する。進退部材96が押圧位置に進出すると、押圧部材91の突起部91bが押圧可能な位置に接触部96aが配置される。
【0085】
ここでは、クラッチオフ操作時に進退部材96が開放位置から係止位置に移動するとき、その移動に連動して揺動爪82を逆転禁止状態から逆転許可状態にしていないので、クラッチオフ操作を軽い力で行えるようになる。
【0086】
仕掛けが所定の棚に配置されると、モータ4を逆転させるか、ハンドル1を糸巻取方向に回転させるか、又はクラッチ操作レバー50をクラッチオン位置に揺動させスプール3の糸繰り出しを停止する。自動棚停止モードのときには、モータ4の逆転によりスプール3の糸繰り出しが自動的に棚位置で停止する。
【0087】
モータ4を逆転させてクラッチ機構7をクラッチオンさせる場合には、逆転前にモータ4を僅かに正転させる。モータ4をわずかに正転させると、図11に示すように、押圧部材91の突起部91bの背面91cが進退部材96の接触部96aの押圧面96bの裏面96cに接触し、押圧部材91の突起部91bが押圧面96bから大きく離反した位置に回転位相が位置決めされる。また、モータ4を僅かに正転させると、爪制御機構84の静音カム85がモータ4とともに正転し、回転規制部86により正転側に位置決めされる。静音カム85が正転すると、押圧部85aが揺動爪82を爪車81の爪部81aをかわす位置まで押圧される。また、静音カム85が正転側に位置決めされると、押圧部85aの押圧範囲は押圧部材91の突起部91bの間隔をより広いため、爪車81がいずれの回転位相にあってもモータ4が逆転により押圧部材91が進退部材96を押圧可能になる。
【0088】
この状態でモータ4を逆転させると、第1クラッチ戻し機構11によりクラッチオン状態に戻る。具体的には、モータ4を逆転させると、図10に示すように、押圧部材91が逆転(図10時計回りの回転)し、5つの突起部91bのいずれかが進退部材96の接触部96aの押圧面96bを押圧して進退部材96を押圧位置から係止位置に向けて後退させる。すると、第2レバー部材95、連結軸93を介して第1レバー部材94に連結されたクラッチカム51が図5時計回りに回動する。このとき、第1トグルばね65の死点を超えるとクラッチカム51がクラッチオン位置に戻り、これにより、進退部材96も係止位置に戻る。また、クラッチカム51が時計回りにクラッチオン位置に向けて回動すると、クラッチカム51のカム突起57a、57bに乗り上げていたクラッチヨーク52がカム突起57a、57bから下りて、コイルばね54の付勢力によりスプール軸方向内方に移動する。この結果、ピニオンギア35もスプール軸方向内方向に移動しクラッチオン位置に配置される。また、クラッチカム51が図6時計回りに回動すると、第1突起部56aに係止されたクラッチ操作レバー50もクラッチオン位置に揺動する。これにより、クラッチ操作レバー50を操作することなくクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態にすることができる。また、 モータ4が逆転すると、静音カム85が逆転側で規制され、押圧部85aによる押圧が解除され、捩じりコイルばね83により付勢された揺動爪82は逆転禁止位置に戻り、第1ワンウェイクラッチ9は逆転禁止状態になり、モータ4の逆転は禁止される。
【0089】
このモータ4の逆転時に、機構装着軸75にローラクラッチ90を介して装着された押圧部材91が進退部材96の接触部96aに衝突してそれを押圧する。このとき、押圧部材91に衝撃が作用し、それによるトルクが機構装着軸75と出力軸30との固定部分のセレーション30aに作用する。この部分は小径であるため、接線方向の力が大きくなり、最大電流値をそのままモータ4に印加するとその部分で空転するおそれがある。そこで、本実施形態では、モータ4の電流値が一定となるようにデューティ比DRを制御している。この結果、逆転開始時に押圧部材91が進退部材96に衝突するときのトルクが小さくなり、押圧部材91が装着された機構装着軸75などの出力軸30に装着された駆動部品が空転しにくくなる。
【0090】
また、この実施形態では、逆転前に正転動作を入れる。逆転時に、押圧部材91の突起部91bのいずれかが進退部材96の近くに配置されていると、慣性力を加味した十分な力で進退部材96を押圧することができず、クラッチオンへの復帰動作が不安定になるおそれがある。そこで、本実施形態では、逆転前にモータ4を短時間正転動作させ、図11に示すように、5つの突起部91bのいずれかの背面91cと異なる背面91dを進退部材96の接触部96aの押圧面96bの裏面96cに接触させて、逆転前の押圧部材91回転位相が一定となるように位置決めしている。これにより、進退部材96の接触部96aから大きく離反した位置に押圧部材91の突起部91bのいずれかが配置されるので、モータ4を逆転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材91が進退部材96を押圧できるようになる。このため、押圧部材91により連動機構89を慣性力が加味された充分な力で押圧することができ、復帰動作を確実に行えるようになる。なお、このモータ4の正転動作はたとえば0.03秒〜0.1秒程度のきわめて短い時間であり、かつモータ4のトルクが一定になるようにデューティ比を、電源電圧が11ボルトの場合10%〜30%の範囲で制御する。
【0091】
ハンドル1を糸巻取方向に回転させると、第2クラッチ戻し機構12によりクラッチオン状態に戻る。ハンドル1を糸巻取方向に回転させるとハンドル軸33が図6の時計回りに回転する。これにつれてハンドル軸33に回転不能に固定されたラチェットホイール62も時計回りに回転する。ラチェットホイール62が時計回りに回転すると、ラチェット歯62aに係合部材の第1突起61aが引っかかって係合部材61が引っ張られる。
【0092】
係合部材61が引っ張られると、係合部材61がガイド突起20aに案内されて反時計方向に揺動し、第2トグルばね66の死点を超えた時点で係合部材61がラチェットホイール62の外方に付勢される。そしてラチェットホイール62に係合しない非係合位置に向けて外方に係合部材61が揺動する。
【0093】
また、係合部材61が引っ張られると、係合部材61に連結されたクラッチカム51が図6時計回りに回動し、前述と同様にクラッチオン位置に戻る。これにより、ここでも、クラッチ操作レバー50を操作することなくクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態にすることができる。
【0094】
この第2クラッチ戻し機構12の係合部材61はハンドル軸33の上前方に配置されている。このハンドル軸33の上前方の位置は、カウンタ5を設ける場合には、空いたスペースとなっている。この空いたスペースに係合部材61を設けると、係合部材を従来のようにハンドル軸の後方かつ下方に配置する構成に比べてリール本体の膨らみを小さくすることができる。
【0095】
なお、第1クラッチ戻し機構11及び第2クラッチ戻し機構12は、クラッチ操作レバー50をクラッチオフ位置からクラッチオン位置に操作しても、進退部材96が係止位置に戻るとともに係合部材61が非係合位置に戻ることは言うまでもない。
【0096】
クラッチオン状態で仕掛けに魚がかかると、ハンドル1又はモータ4の回転駆動によりスプール3を糸巻取方向に回転させ、釣り糸を巻き取る。
【0097】
手動巻き取り時には、ハンドル1の糸巻取方向の回転(図5時計回りの回転)はハンドル軸33、メインギア34、ピニオンギア35及び遊星歯車機構40を介して、スプール3に増速して伝達される。このとき、モータ4の逆転(図3右側から見て反時計回りの回転)が第2ワンウェイクラッチ10により禁止されている。このため、遊星歯車機構40の第1太陽ギア41が逆転しなくなり、糸巻取方向(図3右側から見て時計回りの回転)に回転する第2キャリア46から第2遊星ギア44、第1キャリア、第1遊星ギア43を介して内歯ギア3dに回転が伝達され、スプール3が糸巻取方向に増速駆動される。
【0098】
また、モータ駆動時は、正転(図3右側から見て時計回りの回転)するモータ4の回転は遊星歯車機構40を介してスプール3に伝達される。このとき、第1ワンウェイクラッチ9によりハンドル軸33の糸繰り出し方向の回転(図3右側から見て反時計回りの回転)が禁止されているので、第2キャリア46の逆転(図3右側から見て時計回りの回転)が禁止されている。このため、減速された第2太陽ギア42の回転が第2遊星ギア44を介して内歯ギア3dに伝達されスプール3が減速駆動される。
【0099】
また、図11に示すように、クラッチオン状態でモータ4が正転(図11の反時計回りの回転)すると、爪制御機構84の静音カム85が同方向に回転し、回動規制部86によって揺動爪82の突起部82aを押圧部85aが押圧する位置に止まる。このとき、静音カム85は機構装着軸75に摩擦係合しているだけであるので、モータ4はそのまま回転する。この結果、揺動爪82が押圧部85aにより押圧されて爪車81の爪部81aをかわす位置まで逆転許可位置側に揺動し、爪車81が揺動爪82に接触しなくなる。このため、モータ4が正転すると、第1ワンウェイクラッチ9の揺動爪82が爪車81への接触を繰り返すことによるクリック音は発生しなくなり静音化を図ることができる。
【0100】
モータ4が逆転すると、静音カム85も同方向に回転し、図9に示すように、回動規制部86により押圧部85aが突起部82aから外れる位置で停止し、揺動爪82は捩じりコイルばね83により付勢されて逆転禁止位置に戻る。
【0101】
また、糸送りモードのようにクラッチオフ状態でモータ4が正転すると、やはり、静音カム85が同方向に回転して静音化を図ることができる。このとき、押圧部材91は、モータ4の逆転のみを伝達するローラクラッチ90を介して機構装着軸75に装着されているので、機構装着軸75の回転は押圧部材91に伝達されない。このため、クラッチオフ状態で進退部材96が押圧部材91に接触可能に近接して配置されていても、押圧部材91が進退部材96を押圧することがなく、それによる不具合は生じない。
【0102】
〔リール制御部の動作〕
次に、リール制御部100によって行われる具体的な制御処理を、図14以降の制御フローチャートに従って説明する。
【0103】
電動リールに外部電源が接続されると、図14のステップS1において初期設定を行う。この初期設定ではスプール回転数の計数値をリセットしたり、各種の変数やフラグをリセットしたり、変速段を1速にしたりする。ステップS2では、電源電圧センサ106で検出された電源電圧PVを取り込む。ステップS3では、電源電圧PVが11ボルトより高いか否か、つまり、鉛蓄電池と異なる電源電圧が高い種類の蓄電池がリールに接続されたか否かを判断する。電源電圧PVが高い種類の電池(たとえば、リチウム電池やニッケル水素電池など)が接続された場合は、ステップS3からステップS4に移行してモータ逆転時のデューティ比DRを検出された電源電圧PVに応じて補正する。具体的には、基本のデューティ比DRに11を電源電圧PVで除算した値(11/PV)を乗算したものを新たなデューティ比DRにする。これにより、電源電圧PVが変動しても逆転時にモータ4に印加される電流値が変動しにくくなる。なお、この実施形態では、電源が接続される初期設定に続いて1回だけ電源電圧の判定を行っているが、電源接続後に複数回の判定を行ってもよい。
【0104】
次にステップS5では表示処理を行う。表示処理では、水深表示等の各種の表示処理を行う。ステップS6では、操作キー部99のいずれかのスイッチや調整レバー101が操作されたか否かを判断する。またステップS7ではスプール3が回転しているか否かを判断する。この判断は、スプールセンサ102の出力により判断する。ステップS8では、スプールセンサ102の出力により算出された水深LXが6m以上か否かを判断する。ステップS9ではその他の指令や入力がなされたか否かを判断する。
【0105】
操作キー部99や調整レバー101によるキー入力がなされた場合にはステップS6からステップS10に移行してキー入力処理を実行する。このキー入力処理では、パワースイッチSWが操作されると、モータ4の正転をオンオフする。また、調整レバー101が操作されると、その揺動確度に応じてモータ4の増減速又はモータ4のトルクの増減を行う。さらに釣りモード設定スイッチLFが操作されると、糸送りモードや棚停止モード等が設定される。
【0106】
スプール3の回転が検出された場合にはステップS7からステップS11に移行する。ステップS11では後述する各動作モード処理を実行する。水深LXが6m以上のときは、ステップS8からステップS12に移行する。ステップS12では、その水深LXでの仕掛けの停止時間が6秒以上か否かを判断する。6秒以上の場合は、仕掛けが棚停止していると考えられるので、ステップS13に移行してその水深LXを棚位置Mにセットする。その他の指令あるいは入力がなされた場合にはステップS9からステップS14に移行してその他の処理を実行する。
【0107】
ステップS11の各動作モード処理では、図15のステップS21でスプール3の回転方向が糸繰り出し方向か否かを判断する。この判断は、スプールセンサ102のいずれのリードスイッチが先にパルスを発したか否かにより判断する。スプール3の回転方向が糸繰り出し方向と判断するとステップS21からステップS22に移行する。ステップS22では、スプールセンサ102から出力されるパルスの計数値が減少する毎に計数値に基づきリール制御部100内に記憶された水深と計数値との関係を示すデータを読み出し水深LXを算出する。この水深がステップS2の表示処理で表示される。
【0108】
ステップS23では、糸送りモードか否かを判断する。ステップS24では、棚停止モードか否かを判断する。ステップS25では、他のモードか否かを判断する。他のモードではない場合には、各動作モード処理を終わりメインルーチンに戻る。
【0109】
糸送りモードのときには、ステップS23からステップS26に移行する。ステップS26では、水深LXが6m以上か否かを判断する。糸送りモードでは、最初からモータ4を正転させるのではなく、釣り糸が確実に繰り出されていると判断できる水深まで釣り糸の繰り出しを待つ。水深LXが6m以上の場合には、ステップS27に移行してモータ4を正転させる。これにより、前述したように遊星歯車機構40とスプール3との摩擦が小さくなり、スプール3がより高速で糸繰り出し方向に回転する。水深LXが6m未満のときはステップS27をスキップする。
【0110】
棚停止モードと判断するステップS24からステップS28に移行する。ステップS28では、得られた水深LXが棚位置Mの手前の値(M−α)に一致したか、つまり、仕掛けが棚のαm手前に到達したか否かを判断する。数値αは、制御の応答時間や停止時間等を考慮して決定された値であり、通常は、0.5m〜1mの値である。棚位置Mは、前述した所定時間以上の停止による自動セットの他に、仕掛けが棚に到達したときに位置設定スイッチMSを押すことでセットされる。仕掛けが数値(M−α)に到達するとステップS28からステップS29に移行する。ステップS29では、仕掛けが棚にあることを報知するためにブザー103を鳴らす。
【0111】
ステップS30では、モータ4をデューティ比10%〜30%で所定時間正転させる。これにより、前述したように押圧部材の突起部91bの背面91dが進退部材96の接触部96aの押圧面96bの裏面96cに接触して回転位相が位置決めされる。これにより、押圧部材91の突起部91bと進退部材96の接触部96aとが大きく離反し、モータ4を逆転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材91が進退部材96を押圧できるようになる。このため、押圧部材91により連動機構89を慣性力が加味された充分な力で押圧することができ、クラッチ復帰動作を確実に行えるようになる。
【0112】
また、静音カム85がモータ4とともにボス部86cに係止片86aが接触するまで正転し、爪車81の爪部81aをかわす位置まで揺動爪82が静音カム85の押圧部85aにより押圧されて爪車から離反する。この結果、モータ4の逆転が許可される。このとき、爪車81が正転するので、揺動爪82が爪部81aに食い込んでいたとしても爪部81aから離反するため、揺動爪82を押圧部85aが容易に押圧できる。
【0113】
ステップS31では、モータ4を所定時間逆転させる。このとき、電流値が一定となるようにデューティ比DRを制御する。これにより、機構装着軸75に衝撃による過大なトルクが作用しにくくなり、モータ4の出力軸30に装着された機構装着軸75が空転しにくくなる。このモータ4の逆転により、前述した動作で第1クラッチ戻し機構11によりクラッチ切換機構8を介してクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す。これにより、スプールの糸繰り出し方向の回転が停止する。またモータ4が逆転すると、静音カム85がモータ4とともにボス部86cに係止片86aが接触するまで逆転し、押圧部85aによる押圧が解除され、捩じりコイルばね83の付勢力により爪車81の爪部81aに接触する位置に揺動爪82が戻る。この結果、第2ワンウェイクラッチ10によりモータ4の逆転が禁止される。
【0114】
水深LXが棚位置Mに到達していない場合はステップS29からS31をスキップする。他のモードと判断するとステップS25からステップS32に移行し、設定された他のモード処理を実行する。
【0115】
スプール3の回転が糸巻き取り方向と判断するとステップS21からステップS33に移行する。ステップS32では、スプールセンサ102の計数値が増加する毎にリール制御部100内に記憶されたデータを読み出し水深LXを算出する。この水深がステップS2の表示処理で表示される。ステップS34では、水深が船縁停止位置に一致したか否かを判断する。船縁停止位置まで巻き取っていない場合にはメインルーチンに戻る。船縁停止位置に到達するとステップS34からステップS35に移行する。ステップS35では、仕掛けが船縁にあることを報知するためにブザー103を鳴らす。ステップS36では、モータ4をオフする。これにより魚が釣れたときに取り込みやすい位置に魚が配置される。この船縁停止位置は、たとえば水深6m未満で所定時間以上スプール3が停止しているとセットされる。
【0116】
このような電動リールでは、爪制御機構84の静音カム85を構成するカム本体部85bは、金属により形成されているので、従来の爪制御機構として針金状のクエスチョンマーク型のばね部材を用いる場合に比して、耐摩耗性を著しく向上させることができる。また、カム本体部85bは、周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片85f及び第2分割片85gを有しているので、外周に装着されるばね部材85cの圧接によって、爪制御機構84の機構装着軸75に対する摩擦力を大きくすることができる。
【0117】
〔他の実施形態〕
(a) 前記実施形態では、電動リールのモータの出力軸の一方向の回転を禁止するワンウェイクラッチを例にあげて説明したが、たとえばスピニングリールのロータの逆転を禁止するワンウェイクラッチにも本発明を適用できる。
【0118】
(b) 前記実施形態では、電動リールのスプール回転用のモータ4を逆転する前に正転させた。しかし、逆転前に正転させることなく逆転するようにしてもよい。この場合、モータとしてステッピングモータ等を用い、爪部81aが揺動爪82の係止位置から最も離れた位置となるようにモータを停止させるようにするのが好ましい。
【0119】
(c) 前記実施形態では、スプール3内にモータ4を配置したが、スプール3外にモータ4が配置される電動リールにも本発明を適用できる。この場合も前記実施形態と同様に、クラッチオフ操作を軽い力で行えるようになる。
【0120】
(d) 前記実施形態では、静音カム85のカム本体部85bは、第1分割片85fに押圧部85aが設けられ、第2分割片85gに係止片86aが設けられていたが、押圧部85a及び係止片86aの形状及び位置は任意の位置に設定でき、たとえば第1分割片85f及び第2分割片85gの一方または両方に押圧部85a及び係止片86aの両方を設ける構成にしてもよい。
【0121】
(e) 前記実施形態では、第1分割片85f及び第2分割片85gは、第1分割片85f及び第2分割片85gを装着したときに機構装着軸75の軸芯を通過する位置に中心が位置するように分割されていたが、図18に示すように、機構装着軸75の軸芯から第2分割片85g側に偏芯した位置で分割するようにしてもよい。
【0122】
(f) 前記実施形態では、第1分割片85f及び第2分割片85gは、C型のばね部材85cによって機構装着軸75に圧接されていたが、第1分割片85f及び第2分割片85gを圧接する手段はこれに限定されるものではない。
【0123】
(g) 図19に示すように、第1ワンウェイクラッチ9は、金属製のラチェット爪120と、ラチェット爪120をラチェットホイール62方向に付勢する金属製の第1ばね部材121とを備え、第1ばね部材121の先端を延出してボルト部材123で固定することにより、ラチェット爪120を第1ばね部材121によって抜け止めするようにしてもよい。また、カウンタ5の底部分に設けられたアルミニウム合金製の裏蓋部5aと第1ばね部材121とを連結する金属製の第2ばね部材122をさらに設け、カウンタ5内部の電気部品からアースされた裏蓋部5aからハンドル1に静電気を逃がす構成にしてもよい。ここでは、カウンタ5の裏蓋部5a、第2ばね部材122、第1ばね部材121、ラチェット爪120、ラチェットホイール62、メインギア34、ハンドル軸33、ハンドル1の順に電気的に接続されるので、固定フレーム20等が合成樹脂によって形成されている場合においても、安価な構成で容易に静電気を逃がすことができる。なお、第1ばね部材121及び第2ばね部材122の先端部は、鉤状に折れ曲がって形成されており、第1ばね部材121及び第2ばね部材122の鉤状部分が1本のボルト部材123によって共締めされているので、全体の部品点数を減少できる。
【0124】
(h) 図20に示すように、カバー部材28は、側部の一部が開口する第1開口部28aと、第1開口部28aの端部に形成され膨出部27側に突出する突出部28bと、突出部28bを挟んで第1開口部28aと逆側に側部の一部が開口する第2開口部28cとを有し、膨出部27は、先端面が突出部28bの少なくとも一部の端面と第2開口部28cの内側面とに対向するようにカバー部材28側に突出するリブ27aを有し、モータ4に電気的に接続されるリード線110をリブ27aと突出部28bとが囲む空間から第2開口部28cを通してカバー部材28の外部へ配線するようにしてもよい。この場合、リブ27aと突出部28bとによってリード線110を案内することによって、リード線110がカバー部材28の内部に配置された爪制御機構84やローラクラッチ90や押圧部材91等の各部材に接触するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の一実施形態による電動リールの斜視図。
【図2】その縦断面図。
【図3】モータ装着部分の断面拡大図。
【図4】モータの分解斜視図。
【図5】クラッチオン時のハンドル側の側カバーを外した状態の側面図。
【図6】クラッチオフ時のハンドル側の側カバーを外した状態の側面図。
【図7】クラッチオン時のハンドルと逆側の側カバーを外した状態の側面図。
【図8】第1クラッチ戻し機構を中心とした分解斜視図。
【図9】クラッチオン時の第1ワンウェイクラッチ及び第1クラッチ戻し機構を中心とした側面拡大図。
【図10】クラッチオフ時の第1ワンウェイクラッチ及び第1クラッチ戻し機構を中心とした側面拡大図。
【図11】モータ正転時の第1ワンウェイクラッチ及び第1クラッチ戻し機構を中心とした側面拡大図。
【図12】カウンタの平面拡大図。
【図13】リールの制御系の構成を示すブロック図。
【図14】リール制御部のメインルーチンの制御フローチャート。
【図15】リール制御部の各動作モード処理の制御フローチャート。
【図16】爪制御機構の正面図。
【図17】前記爪制御機構の側面図。
【図18】他の実施形態の図16に相当する図。
【図19】他の実施形態の図5に相当する図。
【図20】他の実施形態の図3に相当する図。
【符号の説明】
【0126】
1 ハンドル
2 リール本体
3 スプール
4 モータ
7 クラッチ機構
8 クラッチ切換機構
9 第1ワンウェイクラッチ
10 第2ワンウェイクラッチ
11 第1クラッチ戻し機構
12 第2クラッチ戻し機構
30 出力軸
75 機構装着軸
81 爪車
81a 爪部
82 揺動爪
84 爪制御機構
85 静音カム
85a 押圧部
85b カム本体部
85c ばね部材
85d 収納溝
85e 環状部材
85f 第1分割片
85g 第2分割片
86 回動規制機構
86a 係止片
86b、86c ボス部
88 押圧機構
89 連動機構
91 押圧部材
91b 突起部
93 連結軸
94 第1レバー部材
95 第2レバー部材
96 進退部材
96a 接触部
98 水深表示部
100 リール制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り用リールのリール本体に回転自在に装着された回転軸の一方向の回転を禁止する釣り用リールのワンウェイクラッチであって、
前記回転軸に連動し、外周に鋸歯状の歯部が周方向に間隔を隔てて形成されたラチェットホイールと、
前記リール本体に揺動自在に装着され、先端が前記歯部に接触して前記回転軸の前記一方向の回転を禁止するラチェット爪と、
前記ラチェット爪を前記歯部に接触する方向に付勢する第1付勢部材と、
前記回転軸の外周面に回動自在に装着され周方向に間隔を隔てて分割された第1分割片及び第2分割片を有する金属製のリング部と、前記リング部の外周に装着され前記第1分割片及び前記第2分割片を前記回転軸に圧接する第2付勢部材と、前記第1分割片の外周部に突出して設けられ前記ラチェット爪を前記歯部から離反するように持ち上げる突出部とを有し、前記回転軸の他方向の回転に連動して前記ラチェット爪を前記第1付勢部材の付勢力に抗して前記歯部から離反させるカム機構と、
を備えた釣り用リールのワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記リング部は、外周部の周方向に沿って形成され、前記第2付勢部材が装着される環状の装着溝を有している、請求項1に記載の釣り用リールのワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記第2付勢部材は、前記装着溝に装着可能なC型のばね部材である、請求項2に記載の釣り用リールのワンウェイクラッチ。
【請求項4】
前記第2付勢部材は、外周部が前記装着溝の内部に位置するように装着され、
前記カム機構は、前記第2付勢部材の外周部に装着される筒状部材をさらに有している
、請求項3に記載の釣り用リールのワンウェイクラッチ。
【請求項5】
前記第1分割片及び前記第2分割片は、前記回転軸の軸芯を通過する位置で分割されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の釣り用リールのワンウェイクラッチ。
【請求項6】
前記第1分割片及び前記第2分割片は、前記回転軸の軸芯から前記第2分割片側に偏芯した位置で分割されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の釣り用リールのワンウェイクラッチ。
【請求項7】
前記釣り用リールは、前記リール本体に回転自在に支持されたスプールをモータで回転させる電動リールであり、
前記回転軸は、前記モータの出力軸である、請求項1から6のいずれか1項に記載の釣り用リールのワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−149224(P2006−149224A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340662(P2004−340662)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】