説明

釣り用リール

【課題】スプール軸の耐摩耗性を向上させ、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との摩擦抵抗を低減させる。
【解決手段】スプール12は、アルミニウム合金によって形成されており、スプール12の表層側にはアルマイト処理によるアルマイト層81が形成されている。スプール軸16は、スプール12の内周部に装着され、ステンレス合金により形成されており、スプール軸16の表層側にはPBID処理によるDLC層82が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用リール、特に、釣り糸を巻き取り及び繰り出す釣り用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
釣竿に装着されて釣り糸の巻き取り及び繰り出しを行う釣り用リールには、主にスピニングリールと、両軸受リールとがある。この種の釣り用リールは、釣竿に装着されるリール本体と、リール本体に支持されるスプール軸と、スプール軸に装着された糸巻き用のスプールとを有している。両軸受リールでは、スプールはリール本体に回転自在に支持され、スピニングリールでは、スプールはリール本体に前後移動自在に装着されている(たとえば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
このような釣り用リールでは、スプールは、たとえば、合成樹脂や、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属によって一体的に形成されている。スプール軸は、たとえば、ステンレス合金により形成され、リール本体に装着された軸受によって支持されている。あるいは、スプール軸は、ピニオンギアやスプールを支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−2679号公報
【特許文献2】特開平11−206287号公報
【特許文献3】特開2007−97474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の釣り用リールでは、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との間が高荷重あるいは高速で相対回転している。このように高荷重あるいは高速で相対回転すると、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との間で焼き付きが起こる可能性があるので、焼き付きを防止するために、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との間にオイルやグリスを充填している。しかし、オイルやグリスは海水の浸入や使用後の水洗等によって流出してしまうので、釣人は軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との間にオイルやグリスをこまめに補充する必要が生じる。
【0006】
本発明の課題は、スプール軸の耐摩耗性を向上させ、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との摩擦抵抗を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係る釣り用リールは、釣り糸を巻き取り及び繰り出す釣り用リールであって、スプールと、スプール軸と、DLC層とを備えている。スプールは、外周に釣り糸を巻き取る筒状の部材である。スプール軸は、スプールの内周部に装着される金属製の部材である。DLC層は、スプール軸の表層側にDLC成膜処理により形成されている。
【0008】
この釣り用リールでは、スプール軸の表層側にDLC(Diamond Like Carbon、ダイヤモンドライクカーボン)層が形成されているので、スプール軸の耐摩耗性を向上させ、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との摩擦抵抗を低減させることができる。したがって、釣人軸受がピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との間にオイルやグリスをこまめに補充しなくても、軸受やピニオンギアの内周面とスプール軸の外周面との間で焼き付きが起こりにくくなる。
【0009】
発明2に係る釣り用リールは、発明1の釣り用リールにおいて、スプールは、スプール軸に用いられる金属より比重の小さい材料により形成されている。この場合、スプールを軽量化できるので、スプールの慣性を低減させることができるために、スプールをさらに高速回転させることができる。
【0010】
発明3に係る釣り用リールは、発明2の釣り用リールにおいて、スプールは、合成樹脂製である。この場合、たとえば成形加工によりスプールを形成できるので、スプールの形成が容易になる。
【0011】
発明4に係る釣り用リールは、発明2の釣り用リールにおいて、スプールは、マグネシウム合金製である。この場合、マグネシウム合金によってスプールを軽量化・低慣性化することができる。
【0012】
発明5に係る釣り用リールは、発明2の釣り用リールにおいて、スプールは、アルミニウム合金製である。この場合、比較的高強度かつ軽量のスプールを形成できる。
【0013】
発明6に係る釣り用リールは、発明4又は5の釣り用リールにおいて、釣り用リールは、両軸受リールである。スプール軸は、スプールの内周部に直接接触可能に固定されるステンレス合金製である。DLC層は、絶縁性を有している。この場合、マグネシウム合金製またはアルミニウム合金製のスプールと直接接触可能なステンレス合金製のスプール軸の表層側に絶縁性のDLC層が形成されているので、スプールとスプール軸との間で電解腐食が起こりにくくなる。
【0014】
発明7に係る釣り用リールは、発明6の釣り用リールにおいて、スプール軸の表層側に形成された陽極酸化被膜層をさらに備えている。この場合、スプールの表層側に陽極酸化被膜層を形成することによって、スプールの耐食性を向上することができる。
【0015】
発明8に係る釣り用リールは、発明7の釣り用リールにおいて、陽極酸化被膜層は、スプールにスプール軸を固定した後に行われる陽極酸化処理により形成されている。この場合、スプールにスプール軸を固定した後に、陽極酸化処理を行うとき、ステンレス合金製のスプール軸の表層側に絶縁性のDLC層が形成されているので、スプール軸をマスキングする必要がなくなる。
【0016】
発明9に係る釣り用リールは、発明1から8のいずれかの釣り用リールにおいて、DLC層は、DLC成膜処理であるプラズマイオン成膜処理により形成されている。この場合、PBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)によって、スプール軸の表層側にDLC層が形成される。PBID法は、PBII法と同時に行われる成膜処理であって、Cイオンを照射することよって第2部品本体の表層側にDLC層が形成される。ここでは、プラズマイオン成膜処理によって、スプール軸との密着性が高いDLC層を形成できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ステンレス合金製のスプール軸の表層側にDLC層が形成されているので、スプール軸の耐摩耗性を向上させ、軸受の内周部とスプール軸の外周部との摩擦抵抗を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を採用した両軸受リールの斜視図。
【図2】前記両軸受リールの断面図。
【図3】前記両軸受リールのスプール及びスプール軸の拡大断面図。
【図4】前記スプール及び前記スプール軸の表面処理工程を示す図。
【図5】前記表面処理のステップS1が行われたときの前記スプール軸の拡大模式図。
【図6】前記表面処理のステップS2が行われたときの前記スプール及び前記スプール軸の拡大模式図。
【図7】前記表面処理のステップS3が行われたときの前記スプール及び前記スプール軸の拡大模式図。
【図8】他の実施形態の前記スプール及び前記スプール軸の表面処理工程を示す図。
【図9】他の実施形態の前記表面処理のステップS11が行われたときの前記スプール軸の拡大模式図。
【図10】他の実施形態の前記表面処理のステップS12が行われたときの前記スプール及び前記スプール
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態による釣り用リールは、図1に示すように、ベイトキャスト用のロープロフィール型の両軸受リールである。この両軸受リールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用ハンドル2と、ハンドル2のリール本体1側に配置されたドラグ調整用のスタードラグ3とを備えている。
【0020】
リール本体1は、図2に示すように、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着された第1側カバー6a及び第2側カバー6bとを有している。また、リール本体1は、図1に示すように、前方を覆う前カバー7と、上部を覆うサムレスト8とを有している。リール本体1の内部には糸巻き用のスプール12が回転自在かつ着脱自在に装着されている。
【0021】
フレーム5は、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置された1対の第1側板5a、第2側板5bと、第1側板5aと第2側板5bと連結する図示しない複数の連結部とを有している。
【0022】
フレーム5内には、図2に示すように、釣竿と直交する方向に配置されたスプール12と、スプール12内に均一に釣り糸を巻くためのレベルワインド機構15と、サミングを行う場合の親指の当てとなるクラッチレバー17とが配置されている。このスプール12は、第1側板5aの開口5dを通過可能である。また、フレーム5と第2側カバー6bとの間には、ハンドル2からの回転力をスプール12及びレベルワインド機構15に伝えるためのギア機構18と、クラッチ機構13と、クラッチレバー17の操作に応じてクラッチ機構13の係脱及び制御を行うためのクラッチ係脱機構19と、ドラグ機構21と、スプール12の回転時の抵抗力を調整するためのキャスティングコントロール機構22とが配置されている。また、フレーム5と第1側カバー6aとの間には、キャスティング時のバックラッシュを抑えるための遠心ブレーキ機構23が配置されている。
【0023】
スプール12は、図3に拡大して示すように、アルミニウム合金を切削加工することによって形成されており、外周に釣り糸が巻き付けられる筒状の糸巻胴部12bと、糸巻胴部12bの両端にそれぞれ径方向外方に突出して設けられたフランジ部12aと、糸巻胴部12bの内周部に形成され内周にスプール軸16に固定されるボス部12cとを有している。糸巻胴部12b、フランジ部12a及びボス部12cは、アルミニウム合金の部材によって一体成形されている。スプール12は、スプール軸16にたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。この固定方法はセレーション結合等の凹凸による固定法に限定されず、接着やインサート成形等、種々の結合方法を用いることができる。
【0024】
スプール軸16は、図2に示すように、ステンレス合金を切削加工することによって棒状に形成されており、第2側板5bを貫通して第2側カバー6bの外方に延びている。その延びた一端は、第2側カバー6bに形成されたボス部6cに軸受24aにより回転自在に支持されている。またスプール軸16の他端は、遠心ブレーキ機構23内で軸受24bにより回転自在に支持されている。これらの軸受24a、軸受24bはシールドボールベアリングである。スプール軸16の大径部分16aの右端は、第2側板5bの貫通部分に配置されており、そこにはクラッチ機構13を構成する係合ピン16bが固定されている。係合ピン16bは、直径に沿って大径部分16aを貫通しており、その両端が径方向に突出している。
【0025】
次に、スプール12及びスプール軸16の表面構造について説明する。
【0026】
スプール12の表層側にはアルマイト処理によるアルマイト層81(図7参照)が形成されている。スプール軸16は、スプール12の内周部に固定され、ステンレス合金により形成されており、スプール軸16の表層側にはPBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)処理によるDLC層82(Diamond Like Carbon、ダイヤモンドライクカーボン層、図5〜図7参照)が形成されている。
【0027】
次に、スプール12及びスプール軸16の表面処理工程を図4に示す。
【0028】
まず、図4に示すステップS1において、スプール軸16の表層側にDLC層82を形成する(図5参照)。DLC層82は、PBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)によって形成される。PBID法は、PBII法と同時に行われる成膜処理であって、Cイオンを照射することよってスプール軸16の表層側にDLC層82が形成される。
【0029】
次に、図4に示すステップS2において、スプール軸16の表層側にDLC層82が形成された状態で、スプール12の内周部にスプール軸16をセレーション結合により回転不能に固定する(図6参照)。なお、スプール12の内周部にスプール軸16が固定されていない部分(スプール12の両側方)のスプール軸16は外部に露出している。
【0030】
そして、図4に示すステップS3において、スプール12にスプール軸16を固定した後において、スプール12の表層側にアルマイト層81を形成する(図7参照)。アルマイト層81は、アルミニウム合金の陽極酸化処理(アルマイト処理)により形成される酸化膜であって、アルミニウム合金製のスプール12を陽極にして硫酸等の電解質溶液中で電解すると、陽極に発生する酸素のために酸化膜が形成される。アルマイト層81は、脱脂、エッチング、中和等の前処理と、電解処理等の陽極酸化処理と、封孔処理等の後処理との3つの工程により形成される。なお、陽極酸化処理を行うとき、スプール12にスプール軸16が固定された状態で電解質溶液に入れることになるため、スプール12の内周部にスプール軸16が固定されていない部分(スプール12の両側方)のスプール軸16が外部に露出し電解質溶液に曝されることになるが、ステンレス合金製のスプール軸16の表層側にDLC層82が形成されているので、ステンレス合金製のスプール軸16をマスキングする必要がない。
【0031】
以上の工程によって、スプール軸16の表層側には、DLC層82が形成され、スプール12の表層側には、アルマイト層81が形成される。
【0032】
ギア機構18は、図2に示すように、ハンドル軸30と、ハンドル軸30に固定されたメインギア31と、メインギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32とを有している。このギア機構18のハンドル軸30の上下位置は、サムレスト8の高さを低くするために、従来の位置より低い。このため、ギア機構18を収納する第2側板5b及び第2側カバー6bの下部は、第1側板5a及び第1側カバー6aの下部より下方に位置している。
【0033】
ピニオンギア32は、図2に示すように、第2側板5bの外方から内方に延び、中心にスプール軸16が貫通する筒状部材であり、スプール軸16に軸方向に移動自在に装着されている。また、ピニオンギア32の図2左端部は、軸受43により第2側板5bに回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。この図2に示すように、もシールドボールベアリングである。
【0034】
ピニオンギア32は、図2右端側外周部に形成されメインギア31に噛合する歯部32aと、他端側に形成された噛み合い部32bと、歯部32aと噛み合い部32bとの間に形成されたくびれ部32cとを有している。噛み合い部32bは、ピニオンギア32の端面に直径に沿って形成された凹溝からなり、そこにスプール軸16を貫通して固定された係合ピン16bが係止される。ここではピニオンギア32が外方に移動してその噛み合い部32bとスプール軸16の係合ピン16bとが離脱すると、ハンドル軸30からの回転力はスプール12に伝達されない。この噛み合い部32bと係合ピン16bとによりクラッチ機構13が構成される。係合ピン16bと噛み合い部32bとが係合すると、スプール軸16より大径のピニオンギア32からスプール軸16にトルクが直接伝達されるので、ねじれ変形がより少なくなり、トルク伝達効率が向上する。
【0035】
クラッチレバー17は、図2に示すように、1対の第1側板5a及び第2側板5b間の後部でスプール12後方に配置されている。
【0036】
クラッチ係脱機構19は、図2に示すように、クラッチヨーク40を有している。クラッチヨーク40は、スプール軸16の外周側に配置されており、2本のピン41(一方のみ図示)によってスプール軸16の軸心と平行に移動可能に支持されている。またクラッチヨーク40はその中央部にピニオンギア32のくびれ部32cに係合する係合部40aを有している。またクラッチヨーク40を支持する各ピン41の外周で、クラッチヨーク40と第2側カバー6bとの間にはスプリング42が配置されており、クラッチヨーク40はスプリング42によって常に内方に付勢されている。
【0037】
このような構成で、通常状態では、ピニオンギア32は内方のクラッチ係合位置に位置しており、その噛み合い部32bとスプール軸16の係合ピン16bとが係合してクラッチオン状態となっている。一方、クラッチヨーク40によってピニオンギア32が外方に移動した場合には、噛み合い部32bと係合ピン16bとの係合が外れクラッチオフ状態となる。
【0038】
ドラグ機構21は、メインギア31に押圧される摩擦プレート45と、スタードラグ3の回転操作によって摩擦プレート45をメインギア31に所定の力で押圧するための押圧プレート46とを有している。
【0039】
キャスティングコントロール機構22は、スプール軸16の両端を挟むように配置された複数の摩擦プレート51と、摩擦プレート51によるスプール軸16の挟持力を調節するための制動キャップ52とを有している。左側の摩擦プレート51は、ブレーキケース65内に装着されている。
【0040】
遠心ブレーキ機構23は、図2に示すように、ブレーキケース65に固定された制動部材68と、制動部材68の内周側に同芯に配置されスプール軸16に固定された回転部材66と、回転部材66に径方向に移動自在に装着された6つの移動部材67とを備えている。
【0041】
このような構成の両軸受リールでは、ステンレス合金製のスプール軸16の表層側にDLC層82が形成されているので、スプール軸16の耐摩耗性を向上させ、軸受24a、軸受24bの内周部とスプール軸16の外周部との摩擦抵抗を低減させることができる。さらに、ここでは、スプール12の表面にアルマイト処理をするときに、スプール軸16の外周にマスキングする必要がなくなるので、スプール12の表面処理工程を簡素化することができる。
【0042】
〔他の実施形態〕
(a) 本発明に係る釣り用部品は、両軸受リールのスプール12及びスプール軸16を例にあげて説明したが、これらに限定されるものではなく、スピニングリールのスプール及びスプール軸に本発明を適用できる。
【0043】
(b) 前記実施形態では、リール本体1が非円形の両軸受リールを例にあげて説明したが、リール本体1が円形の両軸受リールにも本発明を適用できる。
【0044】
(c) 前記実施形態では、DLC層82は、PBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)によって形成されていたが、他の成膜処理によって形成する構成にしてもよい。
【0045】
(d) 前記実施形態では、スプール12は、アルミニウム合金により形成されていたが、これに限定されるものではなく、ステンレス合金より比重の小さいマグネシウム合金等の軽金属や合成樹脂によりスプール12を形成してもよい。
【0046】
スプール12をマグネシウム合金によって形成する場合には、前記実施形態のアルミニウム合金をマグネシウム合金に読み替え、アルマイト処理を陽極酸化処理に読み替えることにより、他の構成は同様であるので説明を省略する。
【0047】
この場合には、ステンレス合金製のスプール軸16の表層側に絶縁性を有するDLC層82が形成されている。ここでは、マグネシウム合金製のスプール12にスプール軸16を固定したとき、マグネシウム合金製のスプール12はDLC層82と接触し、マグネシウム合金製のスプール12がステンレス合金製のスプール軸16と直接接触することがなくなるので、マグネシウム合金製のスプール12の電解腐食を防止できる。
【0048】
スプール12を合成樹脂によって形成する場合には、前記実施形態のアルミニウム合金を合成樹脂に読み替え、前記実施形態のスプール12及びスプール軸16の表面構造及び表面処理工程を除く構成は同様であるので説明を省略する。
【0049】
スプール12を合成樹脂によって形成する場合のスプール12及びスプール軸16の表面構造について図9及び図10によって説明する。
【0050】
スプール12は、図10に示すように、合成樹脂を成形加工することによって形成され、スプール12の表層側には、合成樹脂が露出している。スプール軸16は、スプール12の内周部に固定され、ステンレス合金により形成されており、スプール軸16の表層側にはPBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)処理によるDLC層92(Diamond Like Carbon、ダイヤモンドライクカーボン層、図9及び図10参照)が形成されている。
【0051】
スプール12を合成樹脂によって形成する場合のスプール12及びスプール軸16の表面処理工程を図8に示す。
【0052】
まず、図8に示すステップS11において、スプール軸16の表層側にDLC層92を形成する(図9参照)。DLC層92は、PBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)によって形成される。PBID法は、PBII法と同時に行われる成膜処理であって、Cイオンを照射することよってスプール軸16の表層側にDLC層92が形成される。
【0053】
次に、図8に示すステップS12において、スプール軸16の表層側にDLC層92が形成された状態で、スプール軸16を金型に入れ、スプール12をインサート成形することによって、スプール12の内周部にスプール軸16を固定する(図10参照)。なお、スプール12の内周部にスプール軸16が固定されていない部分(スプール12の両側方)のスプール軸16は外部に露出している。
【0054】
以上の工程によって、スプール軸16の表層側には、DLC層92が形成され、スプール12の表層側には、合成樹脂が露出している。
【0055】
この場合には、合成樹脂によって、スプール12を軽量化できるとともに、スプール12を成形加工により形成することによって、スプール12の形成が容易になる。
【0056】
(e) 前記実施形態では、スプール軸16は、ステンレス合金製であったが、これに限定されるものではなく、チタン合金やアルミニウム合金によりスプール軸16を形成してもよい。なお、スプール軸16をアルミニウム合金により形成する場合には、アルミニウム合金はDLC層82との密着性がよくないので、スプール軸16の表面に予め陽極酸化被膜層やめっき層を形成してから、DLC層82を形成することが望ましい。
【符号の説明】
【0057】
1 リール本体
2 ハンドル
3 スタードラグ
5 フレーム
5a 第1側板
5b 第2側板
5d 開口
6a 第1側カバー
6b 第2側カバー
6c ボス部
7 前カバー
8 サムレスト
12 スプール
12a フランジ部
12b 糸巻胴部
12c ボス部
13 クラッチ機構
15 レベルワインド機構
16 スプール軸
16a 大径部分
16b 係合ピン
17 クラッチレバー
18 ギア機構
19 クラッチ係脱機構
21 ドラグ機構
22 キャスティングコントロール機構
23 遠心ブレーキ機構
24a 軸受
24b 軸受
30 ハンドル軸
31 メインギア
32 ピニオンギア
32a 歯部
32b 噛み合い部
32c くびれ部
40 クラッチヨーク
40a 係合部
41 ピン
42 スプリング
43 軸受
45 摩擦プレート
46 押圧プレート
51 摩擦プレート
52 制動キャップ
65 ブレーキケース
66 回転部材
67 移動部材
68 制動部材
81 アルマイト層
82、92 DLC層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り糸を巻き取り及び繰り出す釣り用リールであって、
外周に前記釣り糸を巻き取る筒状のスプールと、
前記スプールの内周部に装着される金属製のスプール軸と、
前記スプール軸の表層側にDLC成膜処理により形成されたDLC層と、
を備えた釣り用リール。
【請求項2】
前記スプールは、前記スプール軸に用いられる金属より比重の小さい材料により形成されている、請求項1に記載の釣り用リール。
【請求項3】
前記スプールは、合成樹脂製である、請求項2に記載の釣り用リール。
【請求項4】
前記スプールは、マグネシウム合金製である、請求項2に記載の釣り用リール。
【請求項5】
前記スプールは、アルミニウム合金製である、請求項2に記載の釣り用リール。
【請求項6】
前記釣り用リールは、両軸受リールであり、
前記スプール軸は、前記スプールの内周部に直接接触可能に固定されるステンレス合金製であり、
前記DLC層は、絶縁性を有している、請求項4又は5に記載の釣り用リール。
【請求項7】
前記スプール軸の表層側に形成された陽極酸化被膜層をさらに備えている、請求項6に記載の釣り用リール。
【請求項8】
前記陽極酸化被膜層は、前記スプールに前記スプール軸を固定した後に行われる陽極酸化処理により形成されている、請求項7に記載の釣り用リール。
【請求項9】
前記DLC層は、前記DLC成膜処理であるプラズマイオン成膜処理により形成されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の釣り用リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−43(P2013−43A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133243(P2011−133243)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】