釣用リール装置
【課題】ハウジング内での滑りを有効に防止すると共に、製品コストを抑えた一方向クラッチを採用することによって、信頼性の高い釣用リール装置を提供する。
【解決手段】釣用リール装置は、溝部4aを有するハウジングとしての側方部材4と、側方部材4に回転自在に保持される回転軸としての駆動軸6と、ハンドルと、スプールと、側方部材4および駆動軸6の間に配置され、駆動軸6の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチ11とを備える。一方向クラッチ11に注目すると、筒状部13と、筒状部13の軸方向一方側端部に径方向内側に向かって突出する円環形状の鍔部14,15と、筒状部13の軸方向一方側端部に溝部4aに係合する廻り止め部16とを備える。
【解決手段】釣用リール装置は、溝部4aを有するハウジングとしての側方部材4と、側方部材4に回転自在に保持される回転軸としての駆動軸6と、ハンドルと、スプールと、側方部材4および駆動軸6の間に配置され、駆動軸6の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチ11とを備える。一方向クラッチ11に注目すると、筒状部13と、筒状部13の軸方向一方側端部に径方向内側に向かって突出する円環形状の鍔部14,15と、筒状部13の軸方向一方側端部に溝部4aに係合する廻り止め部16とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、釣用リール装置に関し、特に回転軸の一方方向への回転のみを許容する逆転防止機構を備えた釣用リール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の釣用リール装置は、例えば、実登3006902号公報(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている釣用リール装置は、回転軸の一方方向への回転を許容し、他方方向への回転を阻止する逆転防止装置としての一方向クラッチを備えていると記載されている。
【0003】
上記の一方向クラッチに類似する一方向クラッチが、例えば、特開2000−213566号公報(特許文献2)および特開2003−56601号公報(特許文献3)に記載されている。
【0004】
上記の各公報に記載されている一方向クラッチは、内径面にカム面を有し、ハウジングに固定される外輪と、外輪と回転軸との間に形成される環状空間に配置される複数のころとを主に備える。また、外輪の外径面に隆起部を、ハウジングの内径面に隆起部を受け入れる溝をそれぞれ形成し、隆起部と溝とを係合させることによって外輪がハウジングの内部で滑るのを防止することができると記載されている。
【特許文献1】実登3006902号公報
【特許文献2】特開2000−213566号公報
【特許文献3】特開2003−56601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2000−213566号公報(特許文献2)では引き抜き加工によって、特開2003−56601号公報(特許文献3)ではブローチ加工によって、それぞれ外輪の外径面に隆起部を形成している。これらの加工方法は、作業工数および作業コストが非常に高いので、結果として製品コストの増大を招く。
【0006】
また、特開2003−56601号公報(特許文献3)に記載されている一方向クラッチは、環状空間に配置される構成部品(例えば、「ころ」、「保持器」、「ばね」等を指す)の軸方向への抜けを防止するために、外輪の軸方向端部に側板を配置する必要が生じる。その結果、部品点数の増加に伴う製品コストの増大が問題となる。
【0007】
そこで、この発明の目的は、シェル外輪のハウジング内での滑りを有効に防止すると共に、製品コストを抑えた一方向クラッチを採用することによって、信頼性の高い釣用リール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る釣用リール装置は、溝部を有するハウジングと、ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、回転軸の一方側に連結されて回転軸を回転させるハンドルと、回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、ハウジングおよび回転軸の間に配置され、回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備える。一方向クラッチに注目すると、筒状部と、筒状部の軸方向一方側端部に径方向内側に向かって突出する鍔部と、筒状部の軸方向一方側端部に溝部に係合する廻り止め部とを有するシェル外輪を備える。
【0009】
一実施形態として、廻り止め部は、少なくとも鍔部の円周上の一箇所に鍔部の先端から径方向外側に延び、さらに筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている。
【0010】
他の実施形態として、廻り止め部は、筒状部の軸方向端部の鍔部と異なる位置から筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている。
【0011】
さらに他の実施形態として、廻り止め部は、少なくとも鍔部の円周上の一箇所に鍔部の先端から鍔部の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延びている。
【0012】
上記構成の一方向クラッチは、ハウジングに圧入されると共に、廻り止め部がハウジングに設けられた溝部に係合する。これにより、シェル外輪の耐クリープ力を大幅に向上することができる。また、筒状部の軸方向端部に鍔部を設けたことにより、シェル外輪の内部に配置される構成部品の軸方向への抜けを有効に防止することができる。さらに、このシェル外輪は、プレス加工によって製造可能であるので、製造工数および製造コストを大幅に削減することができる。
【0013】
一実施形態として、シェル外輪はその内径面に軸方向に延びる複数のカム面を有する。そして、一方向クラッチは、カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置されるころをさらに備える。
【0014】
一実施形態として、一方向クラッチは総ころ形式である。また、他の実施形態として、一方向クラッチは隣接するころの間隔を保持する保持器をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、プレス加工によって廻り止め部を形成したので、一方向クラッチの製造コストを抑えることができる。そして、このような一方向クラッチを逆転防止機構として採用することにより、信頼性の高い釣用リール装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、図1を参照して、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1を説明する。なお、図1は釣用リール装置1の概略断面図である。
【0017】
釣用リール装置1は、釣糸を巻回するスプール2と、スプール2を両端から狭持する側方部材3,4と、スプール2を回転させるハンドル5と、ハウジングとしての側方部材4に収容され、ハンドル5の回転をスプール2に伝達する回転伝達機構とを主に備える。なお、釣用リール装置1の軽量化の観点から、例えば、側方部材3,4は樹脂材料等で形成されている。
【0018】
回転伝達機構は、駆動軸6と、従動軸7と、駆動軸6に連結される駆動歯車8と、従動軸7に連結される従動歯車9と、側方部材4と駆動軸6との間に配置される逆転防止機構としての一方向クラッチ11とを備える。
【0019】
回転軸としての駆動軸6は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、駆動軸6の一方側はハンドル5と、他方側は駆動歯車8、従動歯車9、および従動軸7を介してスプール2とそれぞれ連結しており、ハンドル5と駆動軸6とは常に一体回転する。従動軸7は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、従動軸7の一方側端部はスプール2に連結されている。
【0020】
駆動歯車8は駆動軸6に嵌合して一体回転する。従動歯車9は従動軸7に嵌合して一体回転する。そして、駆動歯車8と従動歯車9とは噛合った状態となっている。したがって、駆動軸6と従動軸7とは常に逆回転する。同様に、スプール2とハンドル5とも逆回転する。
【0021】
一方向クラッチ11は、側方部材4に圧入されると共に内径面に駆動軸6を受け入れる。そして、駆動軸6の一方方向の回転(図1中の矢印イの方向。以下「正転」という)のみを許容し、他方方向への回転(図1中の矢印ロの方向。以下「逆転」という)を阻止する逆転防止機構として動作する。
【0022】
図2〜図5を参照して、図1に示した一方向クラッチ11を説明する。なお、図2は一方向クラッチ11を回転軸線と平行な平面で切断した断面図、図3は図2のIII−IIIにおける断面図、図4は弾性部材としてのC形ばね18を径方向から見た図、図5はC形ばね18を軸方向から見た図である。
【0023】
まず、図2および図3を参照して、一方向クラッチ11は、シェル外輪12と、シェル外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ17と、弾性部材としてのC形ばね18とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ11は総ころ形式である。
【0024】
シェル外輪12は、筒状部13と、筒状部13の軸方向両端部に径方向内側に向かって突出する円環形状の鍔部14,15と、鍔部14の円周上の4箇所に鍔部14の先端から径方向外側に延び、さらに筒状部13の外径面に沿って軸方向に延びる廻り止め部16とを有する。
【0025】
筒状部13は、その内径面に軸方向に延びる複数のカム面13aを有する。このカム面13aの径方向内側には、円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間が形成されている。この実施形態においては、反時計回り方向(図2中の矢印ハの方向)に向かって径方向の隙間が増加(「拡大方向」という)し、時計回り方向(図2中の矢印ニの方向)に向かって径方向の隙間が減少している(「狭小方向」という)。そして、各楔空間には、ころ17が配置されている。
【0026】
また、筒状部13の軸方向端部の一箇所には、軸方向に延び、C形ばね18の一方側端部を受け入れる係合部13bが形成されている。なお、この実施形態における係合部13bは、筒状部13を径方向に貫通する例を示したが、これに限ることなく、筒状部13の内径面に設けられた不貫通凹部であってもよい。
【0027】
鍔部14,15は、筒状部13の軸方向一方側および他方側端部に位置する円環形状の部分であり、筒状部13の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ17」、「C形ばね18」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0028】
廻り止め部16は、鍔部14の先端から径方向外側に延びると共に、筒状部13の外径面に沿って軸方向に延びる。この廻り止め部16は、鍔部14の少なくとも一箇所に設ければよいが、この実施形態においては、90°の間隔で4箇所に設けられている。
【0029】
この廻り止め部16は、側方部材4の内径面に設けられる溝部4aに係合して、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを防止する。したがって、駆動軸6のロック時に廻り止め部16に負荷される荷重を分散する観点からは、廻り止め部16の軸方向に延びる部分の長さLは長いほうが望ましい。一方、長さLをシェル外輪12の軸方向幅寸法より長くすれば、一方向クラッチ11を受け入れる側方部材4の軸方向のスペースも大きくする必要が生じる。したがって、側方部材4の一方向クラッチ11を受け入れる部分のスペースをコンパクト化する観点からは、廻り止め部16の先端が筒状部13の外径面上に位置するように長さLを設定するのが望ましい。
【0030】
図4および図5を参照して、C形ばね18は、円弧形状のC形部18aと、C形部18aの一方側および他方側端部にC形部18aと交差(この実施形態では「直交」)する方向に延びる係合突起18b,18cとを有する。
【0031】
このC形ばね18は、一方向クラッチ11に挿通する駆動軸6とシェル外輪12との間に形成される環状空間に弾性縮径された状態で配置される。そして、一方側端部の係合突起18bは係合部13bに係合し、他方側端部の係合突起18cは隣接するころ17の間の空間(PCDより外側の空間)に配置される。
【0032】
上記構成の一方向クラッチ11は、例えば、内径面に駆動軸6を受け入れると共に、側方部材4に圧入される。側方部材4は廻り止め部16を受け入れる溝部4aを有している。そして、廻り止め部16と溝部4aとが係合するような位置関係で一方向クラッチ11を側方部材4に嵌め込む。
【0033】
より具体的には、ハンドル5を正転させたときに駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するように、一方向クラッチ11を駆動軸6に嵌合させる。駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するとき、ころ17は楔空間の拡大方向に移動し、空転する。すなわち、駆動軸6の正転を許容する。このとき、従動軸7に連結されたスプール2は歯車8,9によって駆動軸6とは反対周りに回転し、釣糸を収容する。
【0034】
一方、スプール2を正転(釣糸が繰り出される方向)させようとすると、駆動軸6が逆転しようとする。駆動軸6が時計方向(図3中の矢印ニの方向)に回転するとき、ころ17は楔空間の狭小方向に移動し、シェル外輪12と駆動軸6との間に噛み合って、駆動軸6の逆転を阻止する。つまり、獲物の引き等によって釣糸が繰り出されるのを防止することができる。
【0035】
ここで、シェル外輪12と側方部材4とは、嵌め合いによって固定されていると共に、廻り止め部16と溝部4aとが係合している。これにより、駆動軸6がロックしたときの伝達トルクが大きくても、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを確実に防止することができる。この発明は、側方部材4が樹脂等の比較的剛性の低い材料で形成されている場合に、特に有利な効果を奏する。
【0036】
また、C形ばね18は、一方側端部が係合部13bに係合した状態で拡径しようとして(元の状態に復帰しようとして)、ころ17を狭小方向(図3中の矢印ニの方向)に付勢する。これにより、ころ17の遊度が小さくなるので、駆動軸6の逆転を敏速に停止させることが可能となる。なお、弾性部材は、図4および図5に示すC形ばね18に限らず、ころ17を狭小方向に付勢可能なあらゆる形態を採用することができる。
【0037】
また、筒状部13の軸方向両端部に鍔部14,15を設けたことにより、側板等の他の部品を用いなくともころ17やC形ばね18等の軸方向への抜けを防止することができる。その結果、部品点数を削減して低廉な一方向クラッチ11を得ることができる。
【0038】
さらに、廻り止め部16は、鍔部14の先端を起点として折り曲げられている。すなわち、廻り止め部16の位置にも鍔部14が存在するので、構成部品の抜けを心配することなく、廻り止め部16の幅寸法を大きくすることができる。その結果、廻り止め部16の強度を向上することが可能となる。
【0039】
なお、隣接するころ17の間隔を保持する保持器を組み込んでもよい。ただし、保持器を組み込んだ場合、総ころ形式と比較して収容可能なころ17の本数が減少するので、一方向クラッチの負荷容量が低下する。したがって、高荷重環境下で使用する場合には、図2および図3に示した総ころ形式の一方向クラッチ11が適しているといえる。
【0040】
次に、図6〜図18を参照して、一方向クラッチ11の製造方法を説明する。なお、図6は一方向クラッチ11の製造方法の主な工程を示すフロー図、図7〜図18は各工程におけるシェル外輪12の形状を示す図である。
【0041】
まず、図6および図7を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤21を得る(S11)。この円盤21は、筒状部13になる部分と鍔部15になる部分とを含んでいるので、外径寸法は完成品のシェル外輪12の外径寸法より大きくなっている。
【0042】
次に、図6、図8、および図9を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤21をカップ状部材22に成形すると共に、カップ状部材22の内側壁に深さ方向に延びるカム面13aを形成する(S12)。具体的には、内径寸法がシェル外輪12の外径寸法に一致するダイス(図示省略)に円盤21を載置し、外径面の形状が筒状部13の内径面の形状に対応するポンチ(図示省略)によって絞り加工を行う。なお、1度の絞り加工によってカップ状部材22を得てもよいし、複数回の絞り加工を経てカップ状部材22を形成してもよい。
【0043】
次に、図6、図10、および図11を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部14、および鍔部14の先端からさらに突出する突出部23を残して、カップ状部材22の底壁22aを除去する(S13)。
【0044】
この突出部23は後の工程で廻り止め部16となるので、複数の突出部23の先端は互いに分離していなければならず、先端同士の間には隙間を設けておく必要がある。また、他の突出部23との干渉を防止しつつ、突出部23の突出長さをできるだけ長くするためには、先端の幅方向中央部を最も長くし、幅方向両端部に向かって徐々に短くなるようにすればよい。図11では、突出部23の先端を幅方向の中央部を頂点とする三角形状としている。
【0045】
なお、突出部の数、突出部の突出長さ、および突出部の先端の形状は、任意に決定することができる。図12および図13を参照して、突出部の他の形態を説明する。
【0046】
まず、図12を参照して、突出部24は、先端が円弧形状であり、図11と比較して突出長さが短くなっている。ただし、図2に示したような廻り止め部16を形成するためには、突出部24の突出長さを鍔部14の突出量以上に設定する必要がある。
【0047】
次に、図13を参照して、突出部25は、鍔部14の円周上の一箇所にのみ設けられている。この場合、突出部25の先端と鍔部14とは互いに分離していなければならず、両者の間には隙間を設けておく必要がある。このように、突出部25を一箇所とすれば、図11および図12の突出部23,24と比較して突出長さを長くすることができる。
【0048】
次に、図6、および図14〜図17を参照して、第4の工程では、曲げ加工によって突出部23を廻り止め部16に成形する(S14)。具体的には、鍔部14の先端を起点として突出部23を軸方向に90°折り曲げ(図14に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図15に示す状態)。次に、筒状部13の外径面より径方向外側に位置する突出部23を筒状部13の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図16に示す状態)。これにより、図16および図17に示すように廻り止め部16が形成される。
【0049】
なお、廻り止め部16は、鍔部14の軸方向外側の壁面、および筒状部13の外径面の少なくとも一方に密着するように曲げ加工を行う(このような加工を「密着曲げ」という)。これにより、廻り止め部16の寸法精度を向上することができる。
【0050】
また、上記の工程によって廻り止め部16を形成した場合、廻り止め部16に連なる位置における鍔部14の突出長さが、図17に示すように他の部分と比較して長くなったり、反対に短くなったりすることがある。このような場合でも、構成部品の軸方向への抜けを防止するという鍔部の機能を発揮する限り、図17に示す鍔部14は、本明細書中の「円環形状の鍔部」に含まれるものとして理解すべきである。
【0051】
次に、図6を参照して、第5の工程では、シェル外輪12に必要な機械的性質を得るために、カップ状部材22に熱処理を施す(S15)。熱処理としては、例えば、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行う。
【0052】
次に、図6および図18を参照して、第6の工程では、一方向クラッチ11の組立を行う(S16)。具体的には、シェル外輪12の内部に複数のころ17およびC形ばね18を組み込む。
【0053】
次に、図6を参照して、第7の工程では、鍔部15を形成する(S17)。具体的には、カップ状部材22の開放側端部を径方向内側に折り曲げて鍔部15を形成する。なお、この工程に先立って、鍔部15となる部分に部分焼鈍しを施しておくのが望ましい。これにより、容易に曲げ加工を行うことができる。
【0054】
上記の各工程を経て、図2および図3に示したような一方向クラッチ11を得ることができる。このように、プレス加工によって廻り止め部16を有するシェル外輪12を形成すれば、従来の引き抜き加工やブローチ加工等によって外輪に廻り止め加工を施す場合と比較して、作業工数および作業コストを削減することができる。その結果、低廉な一方向クラッチ11を得ることができる。
【0055】
なお、図6に示した製造工程は、一方向クラッチ11の製造方法の一部であって、さらに工程を追加してもよいし、各工程をさらに細分化してもよい。また、一部の工程については順序を相互に入れ替えることもできる。
【0056】
次に、図19〜図28を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ31の製造方法を説明する。なお、図19は一方向クラッチ31の製造方法の主な工程を示すフロー図、図20〜図28は各工程におけるシェル外輪32の形状を示す図である。また、一方向クラッチ31の基本構成は一方向クラッチ11と共通し、図19に示す製造工程の一部は図6に示す製造工程と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0057】
まず、図19および図20を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤41を得る(S21)。この円盤41には円周上の4箇所に径方向外側に突出する突出部43が形成されている。この突出部43は後の工程で廻り止め部36となるので、少なくとも一箇所に設ければよい。
【0058】
次に、図19、図21、および図22を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤41をカップ状部材42に成形すると共に、カップ状部材42の内側壁に深さ方向に延びるカム面33aを形成する(S22)。具体的な方法は、図6に示す第2の工程(S12)と共通するので、説明は省略する。
【0059】
次に、図19および図23を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部34を残して、カップ状部材42の底壁42aを除去する(S23)。これにより、軸方向一方側端部の鍔部34が形成される。
【0060】
次に、図19を参照して、第4の工程では、シェル外輪32に必要な機械的性質を得るために、カップ状部材42に熱処理を施す(S24)。熱処理の具体例は、図6に示す第5の工程(S15)と共通するので、説明は省略する。
【0061】
次に、図19および図24を参照して、第5の工程では、一方向クラッチ31の組立を行う(S25)。具体的には、シェル外輪32の内部に複数のころ37およびC形ばね38を組み込む。
【0062】
次に、図19および図25を参照して、第6の工程では、突出部43を含むカップ状部材42の開放側端部を径方向内側に折り曲げて軸方向他方側端部の鍔部35を形成する(S26)。なお、この工程に先立って、鍔部35および廻り止め部36となる部分に部分焼鈍しを施しておくのが望ましい。これにより、容易に曲げ加工を行うことができる。また、複数の突出部43の先端同士が接触しないように、第1の工程において突出長さを所定の範囲内に設定しておく必要がある。
【0063】
次に、図19および図26〜図28を参照して、第7の工程では、曲げ加工によって突出部43を廻り止め部36に成形する(S27)。具体的には、鍔部35の先端を起点として突出部43を軸方向に90°折り曲げ(図26に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図27に示す状態)。次に、筒状部33の外径面より径方向外側に位置する突出部43を筒状部33の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図28に示す状態)。これにより、廻り止め部36が形成される。この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0064】
上記の各工程によっても図28に示したような一方向クラッチ31を得ることができる。なお、一方向クラッチ11と一方向クラッチ31とは、廻り止め部16,36の位置が異なる以外は同様の構成である。すなわち、一方向クラッチ11には、カップ状部材22の底壁22a側端部に廻り止め部16が設けられている。一方、一方向クラッチ31には、カップ状部材42の開放側端部に廻り止め部36が設けられている。
【0065】
次に、図29を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ51を説明する。なお、図29は一方向クラッチ51を回転軸線と平行な平面で切断した断面図である。また、上記の各実施形態との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0066】
まず、図29を参照して、一方向クラッチ51は、シェル外輪52と、シェル外輪52の内径面に沿って配置される複数のころ57と、弾性部材としてのC形ばね58とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ51は総ころ形式である。
【0067】
シェル外輪52は、筒状部53と、筒状部53の軸方向両端部に径方向内側に向かって突出する鍔部54,55と、筒状部53の軸方向一方側端部(鍔部54が設けられた側の端部)の円周上の4箇所から筒状部53の外径面に沿って軸方向に延びる廻り止め部56とを有する。なお、図29のIII−IIIにおける断面図は図3と同一であるので、説明は省略する。
【0068】
鍔部54,55は、筒状部53の軸方向一方側および他方側端部に位置する部分であり、筒状部53の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ57」、「C形ばね58」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0069】
具体的には、筒状部53の軸方向一方側端部には、円弧形状の鍔部54a,54b,54c,54d(これらを総称して「鍔部54」という)が4箇所に設けられており、隣接する鍔部54の間に廻り止め部56が配置されている。一方、筒状部53の軸方向他方側端部には、円環形状の鍔部55が設けられている。
【0070】
廻り止め部56は、鍔部54が設けられている側の軸方向端部の鍔部54と異なる位置から筒状部53の外径面に沿って軸方向に延びる。この廻り止め部56は、軸方向端部の円周上の少なくとも一箇所に設ければよいが、この実施形態においては、90°の間隔で4箇所に設けられている。
【0071】
上記構成のシェル外輪52の軸方向一方側端部(鍔部54が設けられている側を指す)において、廻り止め部56の位置には鍔部が存在しない。つまり、隣接する鍔部54の間には円周方向の隙間が形成されている。この円周方向隙間から一方向クラッチ51の内部に潤滑剤を充填すれば、給脂メンテナンスが容易となる。一方、この円周方向隙間が大きすぎると、ころ57が軸方向に抜けるおそれがある。そこで、この円周方向隙間はころ57の直径より小さく設定するのが望ましい。
【0072】
次に、図30〜図37を参照して、一方向クラッチ51の製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ51の製造工程は図6と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0073】
まず、第1および第2の工程(S11,S12)は図6〜図9と共通するので、説明は省略する。
【0074】
図6および図30を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部54、および鍔部54と異なる位置から径方向内側に突出する突出部63を残して、カップ状部材62の底壁を除去する(S13)。
【0075】
この突出部63は後の工程で廻り止め部56となるので、鍔部54と突出部63とは分離していなければならない。そこで、突出部63の円周方向の両側には、鍔部54と突出部63とを分離するスリットが設けられている。同様に、複数の突出部63の先端は互いに分離していなければならず、先端同士の間には隙間を設けておく必要がある。なお、突出部の数、突出部の突出長さ、および突出部の先端の形状は、任意に決定することができる。例えば、図31および図32に示すような構成とすることができる。
【0076】
次に、図6および図33〜図36を参照して、第4の工程では、曲げ加工によって突出部63を廻り止め部56に成形する(S14)。具体的には、筒状部53の軸方向一方側端部を起点として突出部63を軸方向に90°折り曲げ(図33に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図34に示す状態)。次に、筒状部53の外径面より径方向外側に位置する突出部63を筒状部53の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図35に示す状態)。これにより、図35および図36に示すように廻り止め部56が形成される。なお、この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0077】
また、図36を参照して、筒状部53の軸方向一方側端部には、廻り止め部56を挟んで円弧形状の鍔部54a,54b,54c,54dが4箇所に形成されており、廻り止め部56の位置には鍔部が存在しない。したがって、廻り止め部56の位置における鍔部54の円周方向隙間(廻り止め部56の円周方向幅寸法と両端のスリットの幅の合計に一致する)が大きすぎると、廻り止め部56の位置からころ57が軸方向に抜けるおそれがある。そこで、この円周方向隙間をころ57の直径より小さくするのが望ましい。
【0078】
次に、第5の工程(S15)は図6と共通するので、説明は省略する。
【0079】
次に、図6および図37を参照して、第6の工程では、一方向クラッチ51の組立を行う(S16)。具体的には、シェル外輪52の内部に複数のころ57およびC形ばね58を組み込む。
【0080】
次に、第7の工程(S17)は図6と共通するので、説明は省略する。これにより、図29に示す一方向クラッチ51を得ることができる。
【0081】
次に、図38〜図42を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ71およびその製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ71の基本構成は一方向クラッチ51と共通し、その製造工程は図19と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0082】
まず、図19および図38を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤81を得る(S21)。この円盤81には円周上の4箇所に径方向外側に突出する突出部83が形成されている。突出部83の円周方向の両側には、後の工程で鍔部75a,75b,75c,75d(これらを総称して「鍔部75」という)になる部分と突出部83とを分離するスリットが形成されている。なお、この突出部83は後の工程で廻り止め部76となるので、少なくとも一箇所に設ければよい。
【0083】
次に、図19および図39を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤81をカップ状部材82に成形すると共に、カップ状部材82の内側壁に深さ方向に延びるカム面(図示省略)を形成する(S22)。具体的な方法は、図6に示す第2の工程(S12)と共通するので、説明は省略する。
【0084】
次に、図19および図40を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部74を残して、カップ状部材82の底壁82aを除去する(S23)。これにより、円環形状の鍔部74が形成される。
【0085】
次に、第4の工程(S24)は図19と共通するので、説明は省略する。
【0086】
次に、図19および図41を参照して、第5の工程では、一方向クラッチ71の組立を行う(S25)。具体的には、シェル外輪72の内部に複数のころ77およびC形ばね78を組み込む。
【0087】
次に、第6の工程(S26)は図19および図25と共通するので、説明は省略する。
【0088】
次に、図19および図42〜図44を参照して、第7の工程では、曲げ加工によって突出部83を廻り止め部76に成形する(S27)。具体的には、筒状部73の軸方向端部(鍔部75が設けられている側を指す)を起点として突出部83を軸方向に90°折り曲げ(図42に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図43に示す状態)。次に、筒状部73の外径面より径方向外側に位置する突出部83を筒状部73の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図44に示す状態)。これにより、廻り止め部76が形成される。この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0089】
上記の各工程によっても図44に示したような一方向クラッチ71を得ることができる。なお、一方向クラッチ51と一方向クラッチ71とは、廻り止め部56,76の位置が異なり、円環形状の鍔部と円弧形状の鍔部の位置が入れ替わっている以外は同様の構成である。すなわち、一方向クラッチ51には、カップ状部材62の底壁側端部に円弧形状の鍔部54および廻り止め部56が、開放側端部に円環形状の鍔部55が設けられている。一方、一方向クラッチ71には、カップ状部材82の底壁82a側端部に円環形状の鍔部74が、開放側端部に円弧形状の鍔部75および廻り止め部76が設けられている。
【0090】
図45を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ91を説明する。なお、図45は一方向クラッチ91を回転軸線と平行な平面で切断した断面図である。また、上記の各実施形態との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0091】
まず、図45を参照して、一方向クラッチ91は、シェル外輪92と、シェル外輪92の内径面に沿って配置される複数のころ97と、弾性部材としてのC形ばね98とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ91は総ころ形式である。
【0092】
シェル外輪92は、筒状部93と、筒状部93の軸方向両端部に径方向内側に向かって突出する円環形状の鍔部94,95と、鍔部94の円周上の4箇所に鍔部94の先端から鍔部94の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延びる廻り止め部96とを有する。なお、図45のIII−IIIにおける断面図は図3と同一であるので、説明は省略する。
【0093】
鍔部94,95は、筒状部93の軸方向一方側および他方側端部に位置する円環形状の部分であり、筒状部93の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ97」、「C形ばね98」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0094】
廻り止め部96は、鍔部94の先端から鍔部94の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延び、その先端は、筒状部93の外径面より径方向外側に位置する。なお、鍔部94の突出方向(径方向内側)と廻り止め部96の延びる方向(径方向外側)とのなす角をθとすると、90°<θ≦180°を満たすように廻り止め部96の方向を決定する。この実施形態においては、θ=180°となっている。また、この廻り止め部96は、鍔部94の少なくとも一箇所に設ければよいが、この実施形態においては、90°の間隔で4箇所に設けられている。
【0095】
この廻り止め部96は、側方部材4に設けられる溝部4aに係合して、シェル外輪92が側方部材4の内部で滑るのを防止する。なお、溝部4aは、側方部材4の廻り止め部96に対面する壁面に設けられる。例えば、図45に示す一方向クラッチ91を受け入れる場合には、側方部材4の内径面に溝部4aを設ける。
【0096】
次に、図46〜図50を参照して、一方向クラッチ91の製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ91の製造工程は図6と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0097】
まず、第1〜第3の工程(S11,S12,S13)は図6〜図13と共通するので、説明は省略する。
【0098】
次に、図6および図46〜図48を参照して、第4の工程では、曲げ加工によって突出部103を廻り止め部96に成形する(S14)。具体的には、鍔部94の先端を起点として突出部103を軸方向に90°折り曲げ(図46に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図47に示す状態)。これにより、図47および図48に示すように廻り止め部96が形成される。なお、この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0099】
また、上記の工程によって廻り止め部96を形成した場合、廻り止め部96に連なる位置における鍔部94の突出長さが、図48に示すように他の部分と比較して長くなったり、反対に短くなったりすることがある。このような場合でも、構成部品の軸方向への抜けを防止するという鍔部の機能を発揮する限り、図48に示す鍔部94は、本明細書中の「円環形状の鍔部」に含まれるものとして理解すべきである。
【0100】
また、上記構成の廻り止め部96は、側方部材4の内径面に設けられた溝部4aに係合してシェル外輪92の滑りを防止する。上記構成とすれば、側方部材4を軸方向にコンパクト化することができる。言い換えれば、側方部材4の一方向クラッチ91を受け入れる部分の軸方向のスペースが小さく、軸方向に溝部4aを設けることができないような場合に特に有利な効果を奏する。
【0101】
一方、図49を参照して、鍔部94と廻り止め部96とのなす角θを図47と比較して小さくし(例えば、θ=120°)、廻り止め部96の先端が筒状部93の外径面より径方向内側に位置するようにしてもよい。上記構成とすれば、側方部材4を径方向にコンパクト化することができる。言い換えれば、側方部材4の一方向クラッチ91を受け入れる部分の厚みが薄く、径方向に溝部4aを設けることができないような場合に特に有利な効果を奏する。
【0102】
さらに、θ=180°とした場合、廻り止め部96の鍔部94と重なる部分は溝部4aと係合せず、廻り止めとしては機能しない。そこで、図49に示すように、θ<180°として、廻り止め部96の溝部4aと係合し得る部分を長くしてもよい。これにより、廻り止め部96のモーメント荷重に対する剛性が向上する。なお、図49では、廻り止め部96の先端が筒状部93の外径面より径方向内側に位置する例を示したが、廻り止め部96の剛性を高める観点からは、廻り止め部96の先端が筒状部93の外径面より径方向外側に位置していてもよい。
【0103】
次に、図6および図50を参照して、第6の工程では、一方向クラッチ91の組立を行う(S16)。具体的には、シェル外輪92の内部に複数のころ97およびC形ばね98を組み込む。
【0104】
次に、第7の工程(S17)は図6と共通するので、説明は省略する。これにより、図45に示す一方向クラッチ91を得ることができる。
【0105】
次に、図51〜図53を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ111およびその製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ111の基本構成は一方向クラッチ91と共通し、その製造工程は図19と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0106】
まず、第1〜第6の工程(S21、S22,S23,S24,S25,S26)は図19〜図25と共通するので、説明は省略する。
【0107】
次に、図19、図51、および図52を参照して、第7の工程では、曲げ加工によって突出部123を廻り止め部116に成形する(S27)。具体的には、鍔部115の先端を起点として突出部123を軸方向に90°折り曲げ(図51に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図52に示す状態)。これにより、廻り止め部116が形成される。この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0108】
また、図53を参照して、図49を用いて説明した場合と同様に鍔部115と廻り止め部116とのなす角θを図52と比較して小さく設定し、廻り止め部116の先端が筒状部113の外径面より径方向内側に位置するようにしてもよい。
【0109】
上記の各工程によっても図52に示したような一方向クラッチ111を得ることができる。なお、一方向クラッチ91と一方向クラッチ111とは、廻り止め部96,116の位置が異なる以外は同様の構成である。すなわち、一方向クラッチ91には、カップ状部材102の底壁側端部に廻り止め部96が設けられている。一方、一方向クラッチ111には、カップ状部材122の開放側端部に廻り止め部116が設けられている。
【0110】
なお、廻り止め部の形状は上記の各実施形態に示す形態に限定されない。つまり、この発明は、筒状部の軸方向端部にプレス加工によって形成可能なあらゆる形態の廻り止め部を包含する。
【0111】
また、上記の各実施形態においては、シェル外輪12,32,52,72,92,112の内径面にころ17,37,57,77,97,117を配置した一方向クラッチ11,31,51,71,91,111の例を示したが、シェル外輪12,32,52,72,92,112は、他の一方向クラッチにも適用することができる。例えば、スプラグタイプの一方向クラッチにも適用することができる。
【0112】
また、上記構成の釣用リール装置1は、操作性の観点から、歯車8,9を用いてハンドル5とスプール2とが逆回転するようにしたが、従動軸7および従動歯車9を省略して、駆動軸6の一方側にハンドル5を、他方側にスプール2をそれぞれ連結し、両者を同一方向に回転させる構成としても、この発明の効果を得ることができる。
【0113】
さらに、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1として、ベイトリールの例を示したが、この発明は他の構成の釣用リール装置にも適用することができる。例えば、スピニングリールにも適用することができる。
【0114】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
この発明は、釣用リール装置に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】この発明の一実施形態に係る釣用リール装置の概略断面図である。
【図2】図1に示す一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図3】図2のIII−IIIにおける断面図である。
【図4】C形ばねを径方向から見た図である。
【図5】C形ばねを軸方向から見た図である。
【図6】図1に示す一方向クラッチの製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【図7】図6の第1の工程で得られた円盤の形状を示す図である。
【図8】図6の第2の工程で得られたカップ状部材を回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図9】図8のIX−IXにおける断面図である。
【図10】図6の第3の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図11】図10の矢印XIの方向から見た矢視図である。
【図12】図11の他の実施形態を示す図である。
【図13】図11のさらに他の実施形態を示す図である。
【図14】図6の第4の工程の途中におけるカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図15】図14からさらに工程を進めたときのカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図16】図6の第4の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図17】図16の矢印XVIIの方向から見た矢視図である。
【図18】図6の第6の工程終了後の一方向クラッチを示す断面図である。
【図19】他の実施形態に係る一方向クラッチの製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【図20】図19の第1の工程で得られた円盤の形状を示す図である。
【図21】図19の第2の工程で得られたカップ状部材を回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図22】図21のXXII−XXIIにおける断面図である。
【図23】図19の第3の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図24】図19の第5の工程終了後の一方向クラッチを示す断面図である。
【図25】図19の第6の工程終了後の一方向クラッチを示す断面図である。
【図26】図19の第7の工程の途中におけるカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図27】図26からさらに工程を進めたときのカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図28】図19の第7の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図29】他の実施形態に係る一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図30】図29に示す一方向クラッチの図11に対応する図である。
【図31】図30の他の実施形態を示す図である。
【図32】図31のさらに他の実施形態を示す図である。
【図33】図29に示す一方向クラッチの図14に対応する図である。
【図34】図29に示す一方向クラッチの図15に対応する図である。
【図35】図29に示す一方向クラッチの図16に対応する図である。
【図36】図35の矢印XXXVIの方向から見た矢視図である。
【図37】図29に示す一方向クラッチの図18に対応する図である。
【図38】図44に示す一方向クラッチの図20に対応する図である。
【図39】図44に示す一方向クラッチの図21に対応する図である。
【図40】図44に示す一方向クラッチの図23に対応する図である。
【図41】図44に示す一方向クラッチの図24に対応する図である。
【図42】図44に示す一方向クラッチの図26に対応する図である。
【図43】図44に示す一方向クラッチの図27に対応する図である。
【図44】図44に示す一方向クラッチの図28に対応する図である。
【図45】他の実施形態に係る一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図46】図45に示す一方向クラッチの図14に対応する図である。
【図47】図45に示す一方向クラッチの図16に対応する図である。
【図48】図47の矢印XLVIIIの方向から見た矢視図である。
【図49】図47の他の実施形態を示す図である。
【図50】図47に示す一方向クラッチの図18に対応する図である。
【図51】図52に示す一方向クラッチの図26に対応する図である。
【図52】他の実施形態に係る一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図53】図52の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
1 釣用リール装置、2 スプール、3,4 側方部材、4a 溝部、5 ハンドル、6 駆動軸、7 従動軸、8 駆動歯車、9 従動歯車、11,31 一方向クラッチ、12,32,52,72,92,112 シェル外輪、13,33,53,73,93,113 筒状部、13a,33a,53,73,93,113 カム面、13b,33b,53b,73b,93b,113b 係合部、14,15,34,35,54,54a,54b,54c,54d,55,74,75,75a,75b,75c,75d,94,95,114,115 鍔部、16,36,56,76,96,116 廻り止め部、17,37,57,77,97,117 ころ、18,38,58,78,98,118 C形ばね、18a C形部、18b,18c 係合突起、21,41,81 円盤、22,42,62,82,102,122 カップ状部材、22a,42a,82a 底壁、23,24,25,43,63,64,65,83,103,123 突出部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、釣用リール装置に関し、特に回転軸の一方方向への回転のみを許容する逆転防止機構を備えた釣用リール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の釣用リール装置は、例えば、実登3006902号公報(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている釣用リール装置は、回転軸の一方方向への回転を許容し、他方方向への回転を阻止する逆転防止装置としての一方向クラッチを備えていると記載されている。
【0003】
上記の一方向クラッチに類似する一方向クラッチが、例えば、特開2000−213566号公報(特許文献2)および特開2003−56601号公報(特許文献3)に記載されている。
【0004】
上記の各公報に記載されている一方向クラッチは、内径面にカム面を有し、ハウジングに固定される外輪と、外輪と回転軸との間に形成される環状空間に配置される複数のころとを主に備える。また、外輪の外径面に隆起部を、ハウジングの内径面に隆起部を受け入れる溝をそれぞれ形成し、隆起部と溝とを係合させることによって外輪がハウジングの内部で滑るのを防止することができると記載されている。
【特許文献1】実登3006902号公報
【特許文献2】特開2000−213566号公報
【特許文献3】特開2003−56601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2000−213566号公報(特許文献2)では引き抜き加工によって、特開2003−56601号公報(特許文献3)ではブローチ加工によって、それぞれ外輪の外径面に隆起部を形成している。これらの加工方法は、作業工数および作業コストが非常に高いので、結果として製品コストの増大を招く。
【0006】
また、特開2003−56601号公報(特許文献3)に記載されている一方向クラッチは、環状空間に配置される構成部品(例えば、「ころ」、「保持器」、「ばね」等を指す)の軸方向への抜けを防止するために、外輪の軸方向端部に側板を配置する必要が生じる。その結果、部品点数の増加に伴う製品コストの増大が問題となる。
【0007】
そこで、この発明の目的は、シェル外輪のハウジング内での滑りを有効に防止すると共に、製品コストを抑えた一方向クラッチを採用することによって、信頼性の高い釣用リール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る釣用リール装置は、溝部を有するハウジングと、ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、回転軸の一方側に連結されて回転軸を回転させるハンドルと、回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、ハウジングおよび回転軸の間に配置され、回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備える。一方向クラッチに注目すると、筒状部と、筒状部の軸方向一方側端部に径方向内側に向かって突出する鍔部と、筒状部の軸方向一方側端部に溝部に係合する廻り止め部とを有するシェル外輪を備える。
【0009】
一実施形態として、廻り止め部は、少なくとも鍔部の円周上の一箇所に鍔部の先端から径方向外側に延び、さらに筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている。
【0010】
他の実施形態として、廻り止め部は、筒状部の軸方向端部の鍔部と異なる位置から筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている。
【0011】
さらに他の実施形態として、廻り止め部は、少なくとも鍔部の円周上の一箇所に鍔部の先端から鍔部の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延びている。
【0012】
上記構成の一方向クラッチは、ハウジングに圧入されると共に、廻り止め部がハウジングに設けられた溝部に係合する。これにより、シェル外輪の耐クリープ力を大幅に向上することができる。また、筒状部の軸方向端部に鍔部を設けたことにより、シェル外輪の内部に配置される構成部品の軸方向への抜けを有効に防止することができる。さらに、このシェル外輪は、プレス加工によって製造可能であるので、製造工数および製造コストを大幅に削減することができる。
【0013】
一実施形態として、シェル外輪はその内径面に軸方向に延びる複数のカム面を有する。そして、一方向クラッチは、カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置されるころをさらに備える。
【0014】
一実施形態として、一方向クラッチは総ころ形式である。また、他の実施形態として、一方向クラッチは隣接するころの間隔を保持する保持器をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、プレス加工によって廻り止め部を形成したので、一方向クラッチの製造コストを抑えることができる。そして、このような一方向クラッチを逆転防止機構として採用することにより、信頼性の高い釣用リール装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、図1を参照して、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1を説明する。なお、図1は釣用リール装置1の概略断面図である。
【0017】
釣用リール装置1は、釣糸を巻回するスプール2と、スプール2を両端から狭持する側方部材3,4と、スプール2を回転させるハンドル5と、ハウジングとしての側方部材4に収容され、ハンドル5の回転をスプール2に伝達する回転伝達機構とを主に備える。なお、釣用リール装置1の軽量化の観点から、例えば、側方部材3,4は樹脂材料等で形成されている。
【0018】
回転伝達機構は、駆動軸6と、従動軸7と、駆動軸6に連結される駆動歯車8と、従動軸7に連結される従動歯車9と、側方部材4と駆動軸6との間に配置される逆転防止機構としての一方向クラッチ11とを備える。
【0019】
回転軸としての駆動軸6は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、駆動軸6の一方側はハンドル5と、他方側は駆動歯車8、従動歯車9、および従動軸7を介してスプール2とそれぞれ連結しており、ハンドル5と駆動軸6とは常に一体回転する。従動軸7は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、従動軸7の一方側端部はスプール2に連結されている。
【0020】
駆動歯車8は駆動軸6に嵌合して一体回転する。従動歯車9は従動軸7に嵌合して一体回転する。そして、駆動歯車8と従動歯車9とは噛合った状態となっている。したがって、駆動軸6と従動軸7とは常に逆回転する。同様に、スプール2とハンドル5とも逆回転する。
【0021】
一方向クラッチ11は、側方部材4に圧入されると共に内径面に駆動軸6を受け入れる。そして、駆動軸6の一方方向の回転(図1中の矢印イの方向。以下「正転」という)のみを許容し、他方方向への回転(図1中の矢印ロの方向。以下「逆転」という)を阻止する逆転防止機構として動作する。
【0022】
図2〜図5を参照して、図1に示した一方向クラッチ11を説明する。なお、図2は一方向クラッチ11を回転軸線と平行な平面で切断した断面図、図3は図2のIII−IIIにおける断面図、図4は弾性部材としてのC形ばね18を径方向から見た図、図5はC形ばね18を軸方向から見た図である。
【0023】
まず、図2および図3を参照して、一方向クラッチ11は、シェル外輪12と、シェル外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ17と、弾性部材としてのC形ばね18とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ11は総ころ形式である。
【0024】
シェル外輪12は、筒状部13と、筒状部13の軸方向両端部に径方向内側に向かって突出する円環形状の鍔部14,15と、鍔部14の円周上の4箇所に鍔部14の先端から径方向外側に延び、さらに筒状部13の外径面に沿って軸方向に延びる廻り止め部16とを有する。
【0025】
筒状部13は、その内径面に軸方向に延びる複数のカム面13aを有する。このカム面13aの径方向内側には、円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間が形成されている。この実施形態においては、反時計回り方向(図2中の矢印ハの方向)に向かって径方向の隙間が増加(「拡大方向」という)し、時計回り方向(図2中の矢印ニの方向)に向かって径方向の隙間が減少している(「狭小方向」という)。そして、各楔空間には、ころ17が配置されている。
【0026】
また、筒状部13の軸方向端部の一箇所には、軸方向に延び、C形ばね18の一方側端部を受け入れる係合部13bが形成されている。なお、この実施形態における係合部13bは、筒状部13を径方向に貫通する例を示したが、これに限ることなく、筒状部13の内径面に設けられた不貫通凹部であってもよい。
【0027】
鍔部14,15は、筒状部13の軸方向一方側および他方側端部に位置する円環形状の部分であり、筒状部13の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ17」、「C形ばね18」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0028】
廻り止め部16は、鍔部14の先端から径方向外側に延びると共に、筒状部13の外径面に沿って軸方向に延びる。この廻り止め部16は、鍔部14の少なくとも一箇所に設ければよいが、この実施形態においては、90°の間隔で4箇所に設けられている。
【0029】
この廻り止め部16は、側方部材4の内径面に設けられる溝部4aに係合して、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを防止する。したがって、駆動軸6のロック時に廻り止め部16に負荷される荷重を分散する観点からは、廻り止め部16の軸方向に延びる部分の長さLは長いほうが望ましい。一方、長さLをシェル外輪12の軸方向幅寸法より長くすれば、一方向クラッチ11を受け入れる側方部材4の軸方向のスペースも大きくする必要が生じる。したがって、側方部材4の一方向クラッチ11を受け入れる部分のスペースをコンパクト化する観点からは、廻り止め部16の先端が筒状部13の外径面上に位置するように長さLを設定するのが望ましい。
【0030】
図4および図5を参照して、C形ばね18は、円弧形状のC形部18aと、C形部18aの一方側および他方側端部にC形部18aと交差(この実施形態では「直交」)する方向に延びる係合突起18b,18cとを有する。
【0031】
このC形ばね18は、一方向クラッチ11に挿通する駆動軸6とシェル外輪12との間に形成される環状空間に弾性縮径された状態で配置される。そして、一方側端部の係合突起18bは係合部13bに係合し、他方側端部の係合突起18cは隣接するころ17の間の空間(PCDより外側の空間)に配置される。
【0032】
上記構成の一方向クラッチ11は、例えば、内径面に駆動軸6を受け入れると共に、側方部材4に圧入される。側方部材4は廻り止め部16を受け入れる溝部4aを有している。そして、廻り止め部16と溝部4aとが係合するような位置関係で一方向クラッチ11を側方部材4に嵌め込む。
【0033】
より具体的には、ハンドル5を正転させたときに駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するように、一方向クラッチ11を駆動軸6に嵌合させる。駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するとき、ころ17は楔空間の拡大方向に移動し、空転する。すなわち、駆動軸6の正転を許容する。このとき、従動軸7に連結されたスプール2は歯車8,9によって駆動軸6とは反対周りに回転し、釣糸を収容する。
【0034】
一方、スプール2を正転(釣糸が繰り出される方向)させようとすると、駆動軸6が逆転しようとする。駆動軸6が時計方向(図3中の矢印ニの方向)に回転するとき、ころ17は楔空間の狭小方向に移動し、シェル外輪12と駆動軸6との間に噛み合って、駆動軸6の逆転を阻止する。つまり、獲物の引き等によって釣糸が繰り出されるのを防止することができる。
【0035】
ここで、シェル外輪12と側方部材4とは、嵌め合いによって固定されていると共に、廻り止め部16と溝部4aとが係合している。これにより、駆動軸6がロックしたときの伝達トルクが大きくても、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを確実に防止することができる。この発明は、側方部材4が樹脂等の比較的剛性の低い材料で形成されている場合に、特に有利な効果を奏する。
【0036】
また、C形ばね18は、一方側端部が係合部13bに係合した状態で拡径しようとして(元の状態に復帰しようとして)、ころ17を狭小方向(図3中の矢印ニの方向)に付勢する。これにより、ころ17の遊度が小さくなるので、駆動軸6の逆転を敏速に停止させることが可能となる。なお、弾性部材は、図4および図5に示すC形ばね18に限らず、ころ17を狭小方向に付勢可能なあらゆる形態を採用することができる。
【0037】
また、筒状部13の軸方向両端部に鍔部14,15を設けたことにより、側板等の他の部品を用いなくともころ17やC形ばね18等の軸方向への抜けを防止することができる。その結果、部品点数を削減して低廉な一方向クラッチ11を得ることができる。
【0038】
さらに、廻り止め部16は、鍔部14の先端を起点として折り曲げられている。すなわち、廻り止め部16の位置にも鍔部14が存在するので、構成部品の抜けを心配することなく、廻り止め部16の幅寸法を大きくすることができる。その結果、廻り止め部16の強度を向上することが可能となる。
【0039】
なお、隣接するころ17の間隔を保持する保持器を組み込んでもよい。ただし、保持器を組み込んだ場合、総ころ形式と比較して収容可能なころ17の本数が減少するので、一方向クラッチの負荷容量が低下する。したがって、高荷重環境下で使用する場合には、図2および図3に示した総ころ形式の一方向クラッチ11が適しているといえる。
【0040】
次に、図6〜図18を参照して、一方向クラッチ11の製造方法を説明する。なお、図6は一方向クラッチ11の製造方法の主な工程を示すフロー図、図7〜図18は各工程におけるシェル外輪12の形状を示す図である。
【0041】
まず、図6および図7を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤21を得る(S11)。この円盤21は、筒状部13になる部分と鍔部15になる部分とを含んでいるので、外径寸法は完成品のシェル外輪12の外径寸法より大きくなっている。
【0042】
次に、図6、図8、および図9を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤21をカップ状部材22に成形すると共に、カップ状部材22の内側壁に深さ方向に延びるカム面13aを形成する(S12)。具体的には、内径寸法がシェル外輪12の外径寸法に一致するダイス(図示省略)に円盤21を載置し、外径面の形状が筒状部13の内径面の形状に対応するポンチ(図示省略)によって絞り加工を行う。なお、1度の絞り加工によってカップ状部材22を得てもよいし、複数回の絞り加工を経てカップ状部材22を形成してもよい。
【0043】
次に、図6、図10、および図11を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部14、および鍔部14の先端からさらに突出する突出部23を残して、カップ状部材22の底壁22aを除去する(S13)。
【0044】
この突出部23は後の工程で廻り止め部16となるので、複数の突出部23の先端は互いに分離していなければならず、先端同士の間には隙間を設けておく必要がある。また、他の突出部23との干渉を防止しつつ、突出部23の突出長さをできるだけ長くするためには、先端の幅方向中央部を最も長くし、幅方向両端部に向かって徐々に短くなるようにすればよい。図11では、突出部23の先端を幅方向の中央部を頂点とする三角形状としている。
【0045】
なお、突出部の数、突出部の突出長さ、および突出部の先端の形状は、任意に決定することができる。図12および図13を参照して、突出部の他の形態を説明する。
【0046】
まず、図12を参照して、突出部24は、先端が円弧形状であり、図11と比較して突出長さが短くなっている。ただし、図2に示したような廻り止め部16を形成するためには、突出部24の突出長さを鍔部14の突出量以上に設定する必要がある。
【0047】
次に、図13を参照して、突出部25は、鍔部14の円周上の一箇所にのみ設けられている。この場合、突出部25の先端と鍔部14とは互いに分離していなければならず、両者の間には隙間を設けておく必要がある。このように、突出部25を一箇所とすれば、図11および図12の突出部23,24と比較して突出長さを長くすることができる。
【0048】
次に、図6、および図14〜図17を参照して、第4の工程では、曲げ加工によって突出部23を廻り止め部16に成形する(S14)。具体的には、鍔部14の先端を起点として突出部23を軸方向に90°折り曲げ(図14に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図15に示す状態)。次に、筒状部13の外径面より径方向外側に位置する突出部23を筒状部13の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図16に示す状態)。これにより、図16および図17に示すように廻り止め部16が形成される。
【0049】
なお、廻り止め部16は、鍔部14の軸方向外側の壁面、および筒状部13の外径面の少なくとも一方に密着するように曲げ加工を行う(このような加工を「密着曲げ」という)。これにより、廻り止め部16の寸法精度を向上することができる。
【0050】
また、上記の工程によって廻り止め部16を形成した場合、廻り止め部16に連なる位置における鍔部14の突出長さが、図17に示すように他の部分と比較して長くなったり、反対に短くなったりすることがある。このような場合でも、構成部品の軸方向への抜けを防止するという鍔部の機能を発揮する限り、図17に示す鍔部14は、本明細書中の「円環形状の鍔部」に含まれるものとして理解すべきである。
【0051】
次に、図6を参照して、第5の工程では、シェル外輪12に必要な機械的性質を得るために、カップ状部材22に熱処理を施す(S15)。熱処理としては、例えば、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行う。
【0052】
次に、図6および図18を参照して、第6の工程では、一方向クラッチ11の組立を行う(S16)。具体的には、シェル外輪12の内部に複数のころ17およびC形ばね18を組み込む。
【0053】
次に、図6を参照して、第7の工程では、鍔部15を形成する(S17)。具体的には、カップ状部材22の開放側端部を径方向内側に折り曲げて鍔部15を形成する。なお、この工程に先立って、鍔部15となる部分に部分焼鈍しを施しておくのが望ましい。これにより、容易に曲げ加工を行うことができる。
【0054】
上記の各工程を経て、図2および図3に示したような一方向クラッチ11を得ることができる。このように、プレス加工によって廻り止め部16を有するシェル外輪12を形成すれば、従来の引き抜き加工やブローチ加工等によって外輪に廻り止め加工を施す場合と比較して、作業工数および作業コストを削減することができる。その結果、低廉な一方向クラッチ11を得ることができる。
【0055】
なお、図6に示した製造工程は、一方向クラッチ11の製造方法の一部であって、さらに工程を追加してもよいし、各工程をさらに細分化してもよい。また、一部の工程については順序を相互に入れ替えることもできる。
【0056】
次に、図19〜図28を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ31の製造方法を説明する。なお、図19は一方向クラッチ31の製造方法の主な工程を示すフロー図、図20〜図28は各工程におけるシェル外輪32の形状を示す図である。また、一方向クラッチ31の基本構成は一方向クラッチ11と共通し、図19に示す製造工程の一部は図6に示す製造工程と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0057】
まず、図19および図20を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤41を得る(S21)。この円盤41には円周上の4箇所に径方向外側に突出する突出部43が形成されている。この突出部43は後の工程で廻り止め部36となるので、少なくとも一箇所に設ければよい。
【0058】
次に、図19、図21、および図22を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤41をカップ状部材42に成形すると共に、カップ状部材42の内側壁に深さ方向に延びるカム面33aを形成する(S22)。具体的な方法は、図6に示す第2の工程(S12)と共通するので、説明は省略する。
【0059】
次に、図19および図23を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部34を残して、カップ状部材42の底壁42aを除去する(S23)。これにより、軸方向一方側端部の鍔部34が形成される。
【0060】
次に、図19を参照して、第4の工程では、シェル外輪32に必要な機械的性質を得るために、カップ状部材42に熱処理を施す(S24)。熱処理の具体例は、図6に示す第5の工程(S15)と共通するので、説明は省略する。
【0061】
次に、図19および図24を参照して、第5の工程では、一方向クラッチ31の組立を行う(S25)。具体的には、シェル外輪32の内部に複数のころ37およびC形ばね38を組み込む。
【0062】
次に、図19および図25を参照して、第6の工程では、突出部43を含むカップ状部材42の開放側端部を径方向内側に折り曲げて軸方向他方側端部の鍔部35を形成する(S26)。なお、この工程に先立って、鍔部35および廻り止め部36となる部分に部分焼鈍しを施しておくのが望ましい。これにより、容易に曲げ加工を行うことができる。また、複数の突出部43の先端同士が接触しないように、第1の工程において突出長さを所定の範囲内に設定しておく必要がある。
【0063】
次に、図19および図26〜図28を参照して、第7の工程では、曲げ加工によって突出部43を廻り止め部36に成形する(S27)。具体的には、鍔部35の先端を起点として突出部43を軸方向に90°折り曲げ(図26に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図27に示す状態)。次に、筒状部33の外径面より径方向外側に位置する突出部43を筒状部33の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図28に示す状態)。これにより、廻り止め部36が形成される。この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0064】
上記の各工程によっても図28に示したような一方向クラッチ31を得ることができる。なお、一方向クラッチ11と一方向クラッチ31とは、廻り止め部16,36の位置が異なる以外は同様の構成である。すなわち、一方向クラッチ11には、カップ状部材22の底壁22a側端部に廻り止め部16が設けられている。一方、一方向クラッチ31には、カップ状部材42の開放側端部に廻り止め部36が設けられている。
【0065】
次に、図29を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ51を説明する。なお、図29は一方向クラッチ51を回転軸線と平行な平面で切断した断面図である。また、上記の各実施形態との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0066】
まず、図29を参照して、一方向クラッチ51は、シェル外輪52と、シェル外輪52の内径面に沿って配置される複数のころ57と、弾性部材としてのC形ばね58とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ51は総ころ形式である。
【0067】
シェル外輪52は、筒状部53と、筒状部53の軸方向両端部に径方向内側に向かって突出する鍔部54,55と、筒状部53の軸方向一方側端部(鍔部54が設けられた側の端部)の円周上の4箇所から筒状部53の外径面に沿って軸方向に延びる廻り止め部56とを有する。なお、図29のIII−IIIにおける断面図は図3と同一であるので、説明は省略する。
【0068】
鍔部54,55は、筒状部53の軸方向一方側および他方側端部に位置する部分であり、筒状部53の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ57」、「C形ばね58」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0069】
具体的には、筒状部53の軸方向一方側端部には、円弧形状の鍔部54a,54b,54c,54d(これらを総称して「鍔部54」という)が4箇所に設けられており、隣接する鍔部54の間に廻り止め部56が配置されている。一方、筒状部53の軸方向他方側端部には、円環形状の鍔部55が設けられている。
【0070】
廻り止め部56は、鍔部54が設けられている側の軸方向端部の鍔部54と異なる位置から筒状部53の外径面に沿って軸方向に延びる。この廻り止め部56は、軸方向端部の円周上の少なくとも一箇所に設ければよいが、この実施形態においては、90°の間隔で4箇所に設けられている。
【0071】
上記構成のシェル外輪52の軸方向一方側端部(鍔部54が設けられている側を指す)において、廻り止め部56の位置には鍔部が存在しない。つまり、隣接する鍔部54の間には円周方向の隙間が形成されている。この円周方向隙間から一方向クラッチ51の内部に潤滑剤を充填すれば、給脂メンテナンスが容易となる。一方、この円周方向隙間が大きすぎると、ころ57が軸方向に抜けるおそれがある。そこで、この円周方向隙間はころ57の直径より小さく設定するのが望ましい。
【0072】
次に、図30〜図37を参照して、一方向クラッチ51の製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ51の製造工程は図6と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0073】
まず、第1および第2の工程(S11,S12)は図6〜図9と共通するので、説明は省略する。
【0074】
図6および図30を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部54、および鍔部54と異なる位置から径方向内側に突出する突出部63を残して、カップ状部材62の底壁を除去する(S13)。
【0075】
この突出部63は後の工程で廻り止め部56となるので、鍔部54と突出部63とは分離していなければならない。そこで、突出部63の円周方向の両側には、鍔部54と突出部63とを分離するスリットが設けられている。同様に、複数の突出部63の先端は互いに分離していなければならず、先端同士の間には隙間を設けておく必要がある。なお、突出部の数、突出部の突出長さ、および突出部の先端の形状は、任意に決定することができる。例えば、図31および図32に示すような構成とすることができる。
【0076】
次に、図6および図33〜図36を参照して、第4の工程では、曲げ加工によって突出部63を廻り止め部56に成形する(S14)。具体的には、筒状部53の軸方向一方側端部を起点として突出部63を軸方向に90°折り曲げ(図33に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図34に示す状態)。次に、筒状部53の外径面より径方向外側に位置する突出部63を筒状部53の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図35に示す状態)。これにより、図35および図36に示すように廻り止め部56が形成される。なお、この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0077】
また、図36を参照して、筒状部53の軸方向一方側端部には、廻り止め部56を挟んで円弧形状の鍔部54a,54b,54c,54dが4箇所に形成されており、廻り止め部56の位置には鍔部が存在しない。したがって、廻り止め部56の位置における鍔部54の円周方向隙間(廻り止め部56の円周方向幅寸法と両端のスリットの幅の合計に一致する)が大きすぎると、廻り止め部56の位置からころ57が軸方向に抜けるおそれがある。そこで、この円周方向隙間をころ57の直径より小さくするのが望ましい。
【0078】
次に、第5の工程(S15)は図6と共通するので、説明は省略する。
【0079】
次に、図6および図37を参照して、第6の工程では、一方向クラッチ51の組立を行う(S16)。具体的には、シェル外輪52の内部に複数のころ57およびC形ばね58を組み込む。
【0080】
次に、第7の工程(S17)は図6と共通するので、説明は省略する。これにより、図29に示す一方向クラッチ51を得ることができる。
【0081】
次に、図38〜図42を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ71およびその製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ71の基本構成は一方向クラッチ51と共通し、その製造工程は図19と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0082】
まず、図19および図38を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤81を得る(S21)。この円盤81には円周上の4箇所に径方向外側に突出する突出部83が形成されている。突出部83の円周方向の両側には、後の工程で鍔部75a,75b,75c,75d(これらを総称して「鍔部75」という)になる部分と突出部83とを分離するスリットが形成されている。なお、この突出部83は後の工程で廻り止め部76となるので、少なくとも一箇所に設ければよい。
【0083】
次に、図19および図39を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤81をカップ状部材82に成形すると共に、カップ状部材82の内側壁に深さ方向に延びるカム面(図示省略)を形成する(S22)。具体的な方法は、図6に示す第2の工程(S12)と共通するので、説明は省略する。
【0084】
次に、図19および図40を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部74を残して、カップ状部材82の底壁82aを除去する(S23)。これにより、円環形状の鍔部74が形成される。
【0085】
次に、第4の工程(S24)は図19と共通するので、説明は省略する。
【0086】
次に、図19および図41を参照して、第5の工程では、一方向クラッチ71の組立を行う(S25)。具体的には、シェル外輪72の内部に複数のころ77およびC形ばね78を組み込む。
【0087】
次に、第6の工程(S26)は図19および図25と共通するので、説明は省略する。
【0088】
次に、図19および図42〜図44を参照して、第7の工程では、曲げ加工によって突出部83を廻り止め部76に成形する(S27)。具体的には、筒状部73の軸方向端部(鍔部75が設けられている側を指す)を起点として突出部83を軸方向に90°折り曲げ(図42に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図43に示す状態)。次に、筒状部73の外径面より径方向外側に位置する突出部83を筒状部73の外径面に沿って軸方向に折り曲げる(図44に示す状態)。これにより、廻り止め部76が形成される。この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0089】
上記の各工程によっても図44に示したような一方向クラッチ71を得ることができる。なお、一方向クラッチ51と一方向クラッチ71とは、廻り止め部56,76の位置が異なり、円環形状の鍔部と円弧形状の鍔部の位置が入れ替わっている以外は同様の構成である。すなわち、一方向クラッチ51には、カップ状部材62の底壁側端部に円弧形状の鍔部54および廻り止め部56が、開放側端部に円環形状の鍔部55が設けられている。一方、一方向クラッチ71には、カップ状部材82の底壁82a側端部に円環形状の鍔部74が、開放側端部に円弧形状の鍔部75および廻り止め部76が設けられている。
【0090】
図45を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ91を説明する。なお、図45は一方向クラッチ91を回転軸線と平行な平面で切断した断面図である。また、上記の各実施形態との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0091】
まず、図45を参照して、一方向クラッチ91は、シェル外輪92と、シェル外輪92の内径面に沿って配置される複数のころ97と、弾性部材としてのC形ばね98とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ91は総ころ形式である。
【0092】
シェル外輪92は、筒状部93と、筒状部93の軸方向両端部に径方向内側に向かって突出する円環形状の鍔部94,95と、鍔部94の円周上の4箇所に鍔部94の先端から鍔部94の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延びる廻り止め部96とを有する。なお、図45のIII−IIIにおける断面図は図3と同一であるので、説明は省略する。
【0093】
鍔部94,95は、筒状部93の軸方向一方側および他方側端部に位置する円環形状の部分であり、筒状部93の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ97」、「C形ばね98」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0094】
廻り止め部96は、鍔部94の先端から鍔部94の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延び、その先端は、筒状部93の外径面より径方向外側に位置する。なお、鍔部94の突出方向(径方向内側)と廻り止め部96の延びる方向(径方向外側)とのなす角をθとすると、90°<θ≦180°を満たすように廻り止め部96の方向を決定する。この実施形態においては、θ=180°となっている。また、この廻り止め部96は、鍔部94の少なくとも一箇所に設ければよいが、この実施形態においては、90°の間隔で4箇所に設けられている。
【0095】
この廻り止め部96は、側方部材4に設けられる溝部4aに係合して、シェル外輪92が側方部材4の内部で滑るのを防止する。なお、溝部4aは、側方部材4の廻り止め部96に対面する壁面に設けられる。例えば、図45に示す一方向クラッチ91を受け入れる場合には、側方部材4の内径面に溝部4aを設ける。
【0096】
次に、図46〜図50を参照して、一方向クラッチ91の製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ91の製造工程は図6と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0097】
まず、第1〜第3の工程(S11,S12,S13)は図6〜図13と共通するので、説明は省略する。
【0098】
次に、図6および図46〜図48を参照して、第4の工程では、曲げ加工によって突出部103を廻り止め部96に成形する(S14)。具体的には、鍔部94の先端を起点として突出部103を軸方向に90°折り曲げ(図46に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図47に示す状態)。これにより、図47および図48に示すように廻り止め部96が形成される。なお、この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0099】
また、上記の工程によって廻り止め部96を形成した場合、廻り止め部96に連なる位置における鍔部94の突出長さが、図48に示すように他の部分と比較して長くなったり、反対に短くなったりすることがある。このような場合でも、構成部品の軸方向への抜けを防止するという鍔部の機能を発揮する限り、図48に示す鍔部94は、本明細書中の「円環形状の鍔部」に含まれるものとして理解すべきである。
【0100】
また、上記構成の廻り止め部96は、側方部材4の内径面に設けられた溝部4aに係合してシェル外輪92の滑りを防止する。上記構成とすれば、側方部材4を軸方向にコンパクト化することができる。言い換えれば、側方部材4の一方向クラッチ91を受け入れる部分の軸方向のスペースが小さく、軸方向に溝部4aを設けることができないような場合に特に有利な効果を奏する。
【0101】
一方、図49を参照して、鍔部94と廻り止め部96とのなす角θを図47と比較して小さくし(例えば、θ=120°)、廻り止め部96の先端が筒状部93の外径面より径方向内側に位置するようにしてもよい。上記構成とすれば、側方部材4を径方向にコンパクト化することができる。言い換えれば、側方部材4の一方向クラッチ91を受け入れる部分の厚みが薄く、径方向に溝部4aを設けることができないような場合に特に有利な効果を奏する。
【0102】
さらに、θ=180°とした場合、廻り止め部96の鍔部94と重なる部分は溝部4aと係合せず、廻り止めとしては機能しない。そこで、図49に示すように、θ<180°として、廻り止め部96の溝部4aと係合し得る部分を長くしてもよい。これにより、廻り止め部96のモーメント荷重に対する剛性が向上する。なお、図49では、廻り止め部96の先端が筒状部93の外径面より径方向内側に位置する例を示したが、廻り止め部96の剛性を高める観点からは、廻り止め部96の先端が筒状部93の外径面より径方向外側に位置していてもよい。
【0103】
次に、図6および図50を参照して、第6の工程では、一方向クラッチ91の組立を行う(S16)。具体的には、シェル外輪92の内部に複数のころ97およびC形ばね98を組み込む。
【0104】
次に、第7の工程(S17)は図6と共通するので、説明は省略する。これにより、図45に示す一方向クラッチ91を得ることができる。
【0105】
次に、図51〜図53を参照して、他の実施形態に係る一方向クラッチ111およびその製造方法を説明する。なお、一方向クラッチ111の基本構成は一方向クラッチ91と共通し、その製造工程は図19と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0106】
まず、第1〜第6の工程(S21、S22,S23,S24,S25,S26)は図19〜図25と共通するので、説明は省略する。
【0107】
次に、図19、図51、および図52を参照して、第7の工程では、曲げ加工によって突出部123を廻り止め部116に成形する(S27)。具体的には、鍔部115の先端を起点として突出部123を軸方向に90°折り曲げ(図51に示す状態)、さらに径方向外側に90°折り曲げる(図52に示す状態)。これにより、廻り止め部116が形成される。この工程も、図6に示す第4の工程(S14)と同様に密着曲げとするのが望ましい。
【0108】
また、図53を参照して、図49を用いて説明した場合と同様に鍔部115と廻り止め部116とのなす角θを図52と比較して小さく設定し、廻り止め部116の先端が筒状部113の外径面より径方向内側に位置するようにしてもよい。
【0109】
上記の各工程によっても図52に示したような一方向クラッチ111を得ることができる。なお、一方向クラッチ91と一方向クラッチ111とは、廻り止め部96,116の位置が異なる以外は同様の構成である。すなわち、一方向クラッチ91には、カップ状部材102の底壁側端部に廻り止め部96が設けられている。一方、一方向クラッチ111には、カップ状部材122の開放側端部に廻り止め部116が設けられている。
【0110】
なお、廻り止め部の形状は上記の各実施形態に示す形態に限定されない。つまり、この発明は、筒状部の軸方向端部にプレス加工によって形成可能なあらゆる形態の廻り止め部を包含する。
【0111】
また、上記の各実施形態においては、シェル外輪12,32,52,72,92,112の内径面にころ17,37,57,77,97,117を配置した一方向クラッチ11,31,51,71,91,111の例を示したが、シェル外輪12,32,52,72,92,112は、他の一方向クラッチにも適用することができる。例えば、スプラグタイプの一方向クラッチにも適用することができる。
【0112】
また、上記構成の釣用リール装置1は、操作性の観点から、歯車8,9を用いてハンドル5とスプール2とが逆回転するようにしたが、従動軸7および従動歯車9を省略して、駆動軸6の一方側にハンドル5を、他方側にスプール2をそれぞれ連結し、両者を同一方向に回転させる構成としても、この発明の効果を得ることができる。
【0113】
さらに、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1として、ベイトリールの例を示したが、この発明は他の構成の釣用リール装置にも適用することができる。例えば、スピニングリールにも適用することができる。
【0114】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
この発明は、釣用リール装置に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】この発明の一実施形態に係る釣用リール装置の概略断面図である。
【図2】図1に示す一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図3】図2のIII−IIIにおける断面図である。
【図4】C形ばねを径方向から見た図である。
【図5】C形ばねを軸方向から見た図である。
【図6】図1に示す一方向クラッチの製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【図7】図6の第1の工程で得られた円盤の形状を示す図である。
【図8】図6の第2の工程で得られたカップ状部材を回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図9】図8のIX−IXにおける断面図である。
【図10】図6の第3の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図11】図10の矢印XIの方向から見た矢視図である。
【図12】図11の他の実施形態を示す図である。
【図13】図11のさらに他の実施形態を示す図である。
【図14】図6の第4の工程の途中におけるカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図15】図14からさらに工程を進めたときのカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図16】図6の第4の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図17】図16の矢印XVIIの方向から見た矢視図である。
【図18】図6の第6の工程終了後の一方向クラッチを示す断面図である。
【図19】他の実施形態に係る一方向クラッチの製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【図20】図19の第1の工程で得られた円盤の形状を示す図である。
【図21】図19の第2の工程で得られたカップ状部材を回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図22】図21のXXII−XXIIにおける断面図である。
【図23】図19の第3の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図24】図19の第5の工程終了後の一方向クラッチを示す断面図である。
【図25】図19の第6の工程終了後の一方向クラッチを示す断面図である。
【図26】図19の第7の工程の途中におけるカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図27】図26からさらに工程を進めたときのカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図28】図19の第7の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図29】他の実施形態に係る一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図30】図29に示す一方向クラッチの図11に対応する図である。
【図31】図30の他の実施形態を示す図である。
【図32】図31のさらに他の実施形態を示す図である。
【図33】図29に示す一方向クラッチの図14に対応する図である。
【図34】図29に示す一方向クラッチの図15に対応する図である。
【図35】図29に示す一方向クラッチの図16に対応する図である。
【図36】図35の矢印XXXVIの方向から見た矢視図である。
【図37】図29に示す一方向クラッチの図18に対応する図である。
【図38】図44に示す一方向クラッチの図20に対応する図である。
【図39】図44に示す一方向クラッチの図21に対応する図である。
【図40】図44に示す一方向クラッチの図23に対応する図である。
【図41】図44に示す一方向クラッチの図24に対応する図である。
【図42】図44に示す一方向クラッチの図26に対応する図である。
【図43】図44に示す一方向クラッチの図27に対応する図である。
【図44】図44に示す一方向クラッチの図28に対応する図である。
【図45】他の実施形態に係る一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図46】図45に示す一方向クラッチの図14に対応する図である。
【図47】図45に示す一方向クラッチの図16に対応する図である。
【図48】図47の矢印XLVIIIの方向から見た矢視図である。
【図49】図47の他の実施形態を示す図である。
【図50】図47に示す一方向クラッチの図18に対応する図である。
【図51】図52に示す一方向クラッチの図26に対応する図である。
【図52】他の実施形態に係る一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図53】図52の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
1 釣用リール装置、2 スプール、3,4 側方部材、4a 溝部、5 ハンドル、6 駆動軸、7 従動軸、8 駆動歯車、9 従動歯車、11,31 一方向クラッチ、12,32,52,72,92,112 シェル外輪、13,33,53,73,93,113 筒状部、13a,33a,53,73,93,113 カム面、13b,33b,53b,73b,93b,113b 係合部、14,15,34,35,54,54a,54b,54c,54d,55,74,75,75a,75b,75c,75d,94,95,114,115 鍔部、16,36,56,76,96,116 廻り止め部、17,37,57,77,97,117 ころ、18,38,58,78,98,118 C形ばね、18a C形部、18b,18c 係合突起、21,41,81 円盤、22,42,62,82,102,122 カップ状部材、22a,42a,82a 底壁、23,24,25,43,63,64,65,83,103,123 突出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部を有するハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、
前記回転軸の一方側に連結されて前記回転軸を回転させるハンドルと、
前記回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、
前記ハウジングおよび前記回転軸の間に配置され、前記回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備え、
前記一方向クラッチは、
筒状部と、前記筒状部の軸方向一方側端部に径方向内側に向かって突出する鍔部と、前記筒状部の軸方向一方側端部に前記溝部に係合する廻り止め部とを有するシェル外輪を備える、釣用リール装置。
【請求項2】
前記廻り止め部は、少なくとも前記鍔部の円周上の一箇所に前記鍔部の先端から径方向外側に延び、さらに前記筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項3】
前記廻り止め部は、前記筒状部の軸方向端部の前記鍔部と異なる位置から前記筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項4】
前記廻り止め部は、少なくとも前記鍔部の円周上の一箇所に前記鍔部の先端から前記鍔部の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延びている、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項5】
前記シェル外輪は、その内径面に軸方向に延びる複数のカム面を有し、
前記一方向クラッチは、前記カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置されるころをさらに備える、請求項1〜4のいずれかに記載の釣用リール装置。
【請求項6】
前記一方向クラッチは、総ころ形式である、請求項5に記載の釣用リール装置。
【請求項7】
前記一方向クラッチは、隣接する前記ころの間隔を保持する保持器をさらに備える、請求項5に記載の釣用リール装置。
【請求項1】
溝部を有するハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、
前記回転軸の一方側に連結されて前記回転軸を回転させるハンドルと、
前記回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、
前記ハウジングおよび前記回転軸の間に配置され、前記回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備え、
前記一方向クラッチは、
筒状部と、前記筒状部の軸方向一方側端部に径方向内側に向かって突出する鍔部と、前記筒状部の軸方向一方側端部に前記溝部に係合する廻り止め部とを有するシェル外輪を備える、釣用リール装置。
【請求項2】
前記廻り止め部は、少なくとも前記鍔部の円周上の一箇所に前記鍔部の先端から径方向外側に延び、さらに前記筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項3】
前記廻り止め部は、前記筒状部の軸方向端部の前記鍔部と異なる位置から前記筒状部の外径面に沿って軸方向に延びている、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項4】
前記廻り止め部は、少なくとも前記鍔部の円周上の一箇所に前記鍔部の先端から前記鍔部の内周面よりも径方向外側の領域に向かって延びている、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項5】
前記シェル外輪は、その内径面に軸方向に延びる複数のカム面を有し、
前記一方向クラッチは、前記カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置されるころをさらに備える、請求項1〜4のいずれかに記載の釣用リール装置。
【請求項6】
前記一方向クラッチは、総ころ形式である、請求項5に記載の釣用リール装置。
【請求項7】
前記一方向クラッチは、隣接する前記ころの間隔を保持する保持器をさらに備える、請求項5に記載の釣用リール装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【公開番号】特開2008−263844(P2008−263844A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110517(P2007−110517)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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