釣用リール装置
【課題】シェル外輪のハウジング内での滑りを有効に防止すると共に、製品コストを抑えた一方向クラッチを採用することによって、信頼性の高い釣用リール装置を提供する。
【解決手段】釣具用リール装置は、回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチ11とを備える。一方向クラッチ11は、外径寸法が相対的に大きい第1の部分13aと、外径寸法が第1の部分より小さい第2の部分13bとを含む外径面13、軸方向に延びる複数のカム面14aが形成された軌道面14を含む内径面、および軸方向端部に径方向内側に折り曲げられた端曲げ部17を含むシェル外輪12と、楔空間に配置される総ころ形式のころ18と、ころ18を楔空間の径方向隙間が減少する方向に付勢する弾性部材としてのC形ばね19と、シェル外輪12の内径面に嵌まり込んで端曲げ部17に軸方向外側から保持される側板20とを備える。
【解決手段】釣具用リール装置は、回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチ11とを備える。一方向クラッチ11は、外径寸法が相対的に大きい第1の部分13aと、外径寸法が第1の部分より小さい第2の部分13bとを含む外径面13、軸方向に延びる複数のカム面14aが形成された軌道面14を含む内径面、および軸方向端部に径方向内側に折り曲げられた端曲げ部17を含むシェル外輪12と、楔空間に配置される総ころ形式のころ18と、ころ18を楔空間の径方向隙間が減少する方向に付勢する弾性部材としてのC形ばね19と、シェル外輪12の内径面に嵌まり込んで端曲げ部17に軸方向外側から保持される側板20とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、釣用リール装置に関し、特に回転軸の一方方向への回転のみを許容する逆転防止機構を備えた釣用リール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の釣用リール装置は、例えば、実登3006902号公報(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている釣用リール装置は、回転軸の一方方向への回転を許容し、他方方向への回転を阻止する逆転防止装置としての一方向クラッチを備えていると記載されている。
【0003】
上記の一方向クラッチに類似する一方向クラッチが、例えば、特開2000−213566号公報(特許文献2)および特開2003−56601号公報(特許文献3)に記載されている。
【0004】
上記の各公報に記載されている一方向クラッチは、内径面にカム面を有し、ハウジングに固定される外輪と、外輪と回転軸との間に形成される環状空間に配置される複数のころとを主に備える。また、外輪の外径面に隆起部を、ハウジングの内径面に隆起部を受け入れる溝をそれぞれ形成し、隆起部と溝とを係合させることによって外輪がハウジングの内部で滑るのを防止することができると記載されている。
【特許文献1】実登3006902号公報
【特許文献2】特開2000−213566号公報
【特許文献3】特開2003−56601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2000−213566号公報(特許文献2)では引き抜き加工によって、特開2003−56601号公報(特許文献3)ではブローチ加工によって、それぞれ外輪の外径面に隆起部を形成している。これらの加工方法は、作業工数および作業コストが非常に高いので、結果として製品コストの増大を招く。
【0006】
そこで、この発明の目的は、シェル外輪のハウジング内での滑りを有効に防止すると共に、製品コストを抑えた一方向クラッチを採用することによって、信頼性の高い釣用リール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る釣用リール装置は、ハウジングと、ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、回転軸の一方側に連結されて回転軸を回転させるハンドルと、回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、ハウジングおよび回転軸の間に配置され、回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備える。一方向クラッチに注目すると、外径寸法が相対的に大きい第1の部分と、外径寸法が第1の部分より小さい第2の部分とを含む外径面、軸方向に延びる複数のカム面が形成された軌道面を含む内径面、および軸方向端部に径方向内側に折り曲げられた端曲げ部を含み、ハウジングに嵌まり込むシェル外輪と、カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置される総ころ形式のころと、ころを楔空間の径方向隙間が減少する方向に付勢する弾性部材と、シェル外輪の内径面に嵌まり込んで端曲げ部に軸方向外側から保持される側板とを備える。
【0008】
上記構成の一方向クラッチは、シェル外輪がハウジングに圧入されると共に、その外径面が廻り止め部として機能する。これにより、シェル外輪の耐クリープ力を大幅に向上することができる。また、シェル外輪の軸方向端部に側板を設けたことにより、シェル外輪の内部に配置される構成部品の軸方向への抜けを有効に防止することができる。さらに、このシェル外輪は、プレス加工によって製造可能であるので、製造工数および製造コストを大幅に削減することができる。
【0009】
好ましくは、シェル外輪は、内径面の端曲げ部に隣接する位置に側板を受け入れる側板案内面を有する。そして、軌道面の板厚をt1、側板案内面の板厚をt2とすると、0.6≦t2/t1≦0.8を満たす。これにより、側板が軌道面の方向に移動してころの回転を阻害するのを有効に防止することができる。
【0010】
さらに好ましくは、端曲げ部の板厚をt3とすると、0.6≦t3/t2≦0.8を満たす。これにより、側板案内面と端曲げ部との間に、端曲げ部の曲げの起点となる段差が形成される。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、プレス加工によって廻り止め部を形成したので、一方向クラッチの製造コストを抑えることができる。そして、このような一方向クラッチを逆転防止機構として採用することにより、信頼性の高い釣用リール装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、図1を参照して、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1を説明する。なお、図1は釣用リール装置1の概略断面図である。
【0013】
釣用リール装置1は、釣糸を巻回するスプール2と、スプール2を両端から狭持する側方部材3,4と、スプール2を回転させるハンドル5と、ハウジングとしての側方部材4に収容され、ハンドル5の回転をスプール2に伝達する回転伝達機構とを主に備える。なお、釣用リール装置1の軽量化の観点から、例えば、側方部材3,4は樹脂材料等で形成されている。
【0014】
回転伝達機構は、駆動軸6と、従動軸7と、駆動軸6に連結される駆動歯車8と、従動軸7に連結される従動歯車9と、側方部材4と駆動軸6との間に配置される逆転防止機構としての一方向クラッチ11とを備える。
【0015】
回転軸としての駆動軸6は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、駆動軸6の一方側はハンドル5と、他方側は駆動歯車8、従動歯車9、および従動軸7を介してスプール2とそれぞれ連結しており、ハンドル5と駆動軸6とは常に一体回転する。従動軸7は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、従動軸7の一方側端部はスプール2に連結されている。
【0016】
駆動歯車8は駆動軸6に嵌合して一体回転する。従動歯車9は従動軸7に嵌合して一体回転する。そして、駆動歯車8と従動歯車9とは噛合った状態となっている。したがって、駆動軸6と従動軸7とは常に逆回転する。同様に、スプール2とハンドル5とも逆回転する。
【0017】
一方向クラッチ11は、側方部材4に圧入されると共に内径面に駆動軸6を受け入れる。そして、駆動軸6の一方方向の回転(図1中の矢印イの方向。以下「正転」という)のみを許容し、他方方向への回転(図1中の矢印ロの方向。以下「逆転」という)を阻止する逆転防止機構として動作する。
【0018】
図2〜図7を参照して、図1に示す一方向クラッチ11を説明する。なお、図2は一方向クラッチ11を回転軸線と平行な平面で切断した断面図、図3は図2のIII−IIIにおける断面図、図4および図5はC形ばね19の形状を示す図、図6および図7は側板20の形状を示す図である。
【0019】
まず、図2および図3を参照して、一方向クラッチ11は、シェル外輪12と、シェル外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ18と、弾性部材としてのC形ばね19と、シェル外輪12の軸方向一方側端部に配置される側板20とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ11は総ころ形式である。
【0020】
シェル外輪12は、外径寸法が相対的に大きい第1の部分13aおよび外径寸法が第1の部分13aより小さい第2の部分13bを含む外径面と、ころ18と接触する軌道面14および側板20を受け入れる側板案内面15を含む内径面と、軌道面14に隣接する軸方向一方側端部から径方向内側に突出する鍔部16と、側板案内面15に隣接する軸方向他方側端部に端曲げ部17とを備える。
【0021】
また、円周方向の一箇所にC形ばね19の一方側端部を受け入れる係合部12aが形成されている。なお、この実施形態における係合部12aは、端曲げ部17、側板案内面15、および軌道面14にかけてシェル外輪12を厚み方向に貫通している例を示したが、係合部12aは少なくとも軌道面14にのみ形成すればよい。具体的には、軌道面14の所定位置に係合部12aとなる貫通孔を設けてもよいし、軌道面14から側板案内面15にかけて軸方向に拡がる貫通孔を設けてもよい。
【0022】
また、係合部12aは、シェル外輪12の内径面に設けられた不貫通凹部であってもよい。この場合も、少なくとも軌道面14にのみ形成すればよい。具体的には、不貫通凹部の凹み量を調整して、軌道面14の所定位置に凹み量が(t1−t2)以下で軸方向に延びる溝を、または軌道面14から側板案内面15にかけて凹み量が(t1−t3)以下で軸方向に延びる溝を、さらには軌道面14から端曲げ部17にかけて凹み量がt1未満で軸方向に延びる溝を形成してもよい。なお、上記の各係合部は、いずれもプレス加工によって形成することができる。
【0023】
シェル外輪12の外径面は、第1および第2の部分13a,13bを含む非円筒形状であって、側方部材4の内径面に嵌合したときに、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを防止する廻り止め部として機能する。
【0024】
なお、シェル外輪12の外径面は、非円筒形状であれば任意の形状を採用することができる。例えば、多角形状(六角形、八角形、十二角形等)や歯車形状等であってもよい。なお、この実施形態においては、後述する軌道面14の形状に対応した形状となっており、シェル外輪12の板厚は円周方向の全ての位置で略同一となっている。
【0025】
軌道面14には、軸方向に延びるカム面14aが複数箇所に形成されている。このカム面14aの径方向内側には、円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間が形成されている。この実施形態においては、反時計回り方向(図2中の矢印ハの方向)に向かって径方向の隙間が増加(「拡大方向」という)し、時計回り方向(図2中の矢印ニの方向)に向かって径方向の隙間が減少している(「狭小方向」という)。そして、各楔空間には、ころ18が配置されている。
【0026】
側板案内面15は、軌道面14に隣接する位置に設けられており、側板20の外径面を受け入れる。ここで、軌道面14および側板案内面15の内径寸法を同一とすれば、側板20が軌道面14の方向に移動してころ18の回転を阻害するおそれがある。そこで、軌道面14と側板案内面15との間に段差を設けて、側板20が軌道面14側に移動するのを防止している。
【0027】
具体的には、軌道面14の位置におけるシェル外輪12の板厚をt1、側板案内面15の位置におけるシェル外輪12の板厚をt2とすると、0.6≦t2/t1≦0.8の範囲内でt2を減じることによって、軌道面14と側板案内面15との間に段差を形成している(図10参照)。
【0028】
鍔部16は、軌道面14に隣接するシェル外輪12の軸方向一方側端部に位置する円環形状の部分である。この鍔部16は、シェル外輪12の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ18」、「C形ばね19」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0029】
端曲げ部17は、側板案内面15に隣接するシェル外輪12の軸方向他方側端部に位置する部分である。この端曲げ部17は、側板20の外径面の角部を軸方向外側から保持して、側板20の軸方向外側への抜けを防止する。なお、端曲げ部17の位置におけるシェル外輪12の板厚をt3とすると、0.6≦t3/t2≦0.8を満たすように、t3を決定する(図10を参照)。これにより、側板案内面15と端曲げ部17の境界部分に段差が形成される。この段差は、端曲げ部17の曲げの起点となる。
【0030】
図4および図5を参照して、C形ばね19は、円弧形状のC形部19aと、C形部19aの一方側および他方側端部にC形部19aと交差(この実施形態では「直交」)する方向に延びる係合突起19b,19cとを有する。
【0031】
このC形ばね19は、一方向クラッチ11に挿通する駆動軸6とシェル外輪12との間に形成される環状空間に弾性縮径された状態で配置される。そして、一方側端部の係合突起19bは係合部12aに係合し、他方側端部の係合突起19cは隣接するころ18の間の空間(PCDより外側の空間)に配置される。
【0032】
図6および図7を参照して、側板20は円環形状の部材である。この側板20は、シェル外輪12の側板案内面15に嵌まり込んで、シェル外輪12の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ18」、「C形ばね19」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0033】
上記構成の一方向クラッチ11は、例えば、内径面に駆動軸6を受け入れると共に、側方部材4に圧入される。また、側方部材4の内径面はシェル外輪12の外径面に対応する形状となっている。
【0034】
より具体的には、ハンドル5を正転させたときに駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するように、一方向クラッチ11を駆動軸6に嵌合させる。駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するとき、ころ18は楔空間の拡大方向に移動し、空転する。すなわち、駆動軸6の正転を許容する。このとき、従動軸7に連結されたスプール2は歯車8,9によって駆動軸6とは反対周りに回転し、釣糸を収容する。
【0035】
一方、スプール2を正転(釣糸が繰り出される方向)させようとすると、駆動軸6が逆転しようとする。駆動軸6が時計方向(図3中の矢印ニの方向)に回転するとき、ころ18は楔空間の狭小方向に移動し、シェル外輪12と駆動軸6との間に噛み合って、駆動軸6の逆転を阻止する。つまり、獲物の引き等によって釣糸が繰り出されるのを防止することができる。
【0036】
ここで、シェル外輪12と側方部材4とは、嵌め合いによって固定されていると共に、非円筒形状の外径面13が廻り止め部として機能する。これにより、駆動軸6がロックしたときの伝達トルクが大きくても、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを確実に防止することができる。この発明は、側方部材4が樹脂等の比較的剛性の低い材料で形成されている場合に、特に有利な効果を奏する。
【0037】
また、C形ばね19は、一方側端部が係合部12aに係合した状態で拡径しようとして(元の状態に復帰しようとして)、ころ18を狭小方向(図3中の矢印ニの方向)に付勢する。これにより、ころ18の遊度が小さくなるので、駆動軸6の逆転を敏速に停止させることが可能となる。なお、弾性部材は、図4および図5に示すC形ばね19に限らず、ころ18を狭小方向に付勢可能なあらゆる形態を採用することができる。
【0038】
また、シェル外輪12の軸方向一方側端部に鍔部16を、軸方向他方側端部に側板20をそれぞれ設けたことにより、ころ18やC形ばね19等の軸方向への抜けを防止することができる。さらに、側板案内面15の一方側に段差を設け、他方側に端曲げ部17を設けたことによって、シェル外輪12と側板20を強固に一体化することができる。
【0039】
次に、図8〜図15を参照して、一方向クラッチ11の製造方法を説明する。なお、図8は一方向クラッチ11の製造方法の主な工程を示すフロー図、図9〜図15は各工程におけるシェル外輪12の形状を示す図である。
【0040】
まず、図8および図9を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤21を得る(S11)。
【0041】
次に、図8、図10、および図11を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤21をカップ状部材22に成形すると共に、外径面13および軌道面14を所定の形状に成形する(S12)。具体的には、内径面の形状がシェル外輪12の外径面13に対応するダイス(図示省略)に円盤21を載置し、外径面の形状がシェル外輪12の軌道面14の形状に対応するポンチ(図示省略)によって絞り加工を行う。
【0042】
なお、1度の絞り加工によってカップ状部材22を得てもよいし、複数回の絞り加工を経てカップ状部材22を形成してもよい。また、この工程において、カップ状部材22の開放側端部の内径面の板厚を減じて、側板案内面15および端曲げ部17を形成する。
【0043】
次に、図8および図12を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部16を残して、カップ状部材22の底壁22aを除去する(S13)。
【0044】
次に、図8、図13、および図14を参照して、第4の工程では、カップ状部材22の円周上の一箇所に軸方向に延びる係合部12aを形成する(S14)。この実施形態においては、カップ状部材22の開放側端部に設けられている。
【0045】
次に、図8および図15を参照して、第5の工程では、端曲げ部17に端曲げ加工を施して、カップ状部材22の開放側端部に所定の曲率を与える(S15)。端曲げ部17の先端の直径が小さすぎると、後述する第7の工程(S17)で側板20を組み込むことができない。一方、端曲げ部17の先端の直径が大きすぎると、側板20を安定して保持することができない。
【0046】
次に、図8を参照して、第6の工程では、シェル外輪12に必要な機械的性質を得るために、カップ状部材22に熱処理を施す(S16)。熱処理としては、例えば、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行う。
【0047】
次に、図8および図2を参照して、第7の工程では、一方向クラッチ11の組立を行う(S17)。具体的には、図2に示すようにシェル外輪12の内部に複数のころ18およびC形ばね19を組み込む。さらに、端曲げ部17を弾性変形させながら側板20をかち込む。
【0048】
上記の各工程を経て、図2および図3に示したような一方向クラッチ11を得ることができる。このように、プレス加工によってシェル外輪12の外径面13に廻り止め部を形成すれば、従来の引き抜き加工やブローチ加工等によって外輪に廻り止め加工を施す場合と比較して、作業工数および作業コストを削減することができる。その結果、低廉な一方向クラッチ11を得ることができる。
【0049】
なお、図8に示した製造工程は、一方向クラッチ11の製造方法の一部であって、さらに工程を追加してもよいし、各工程をさらに細分化してもよい。また、一部の工程については順序を相互に入れ替えることもできる。
【0050】
また、上記構成の釣用リール装置1は、操作性の観点から、歯車8,9を用いてハンドル5とスプール2とが逆回転するようにしたが、従動軸7および従動歯車9を省略して、駆動軸6の一方側にハンドル5を、他方側にスプール2をそれぞれ連結し、両者を同一方向に回転させる構成としても、この発明の効果を得ることができる。
【0051】
さらに、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1として、ベイトリールの例を示したが、この発明は他の構成の釣用リール装置にも適用することができる。例えば、スピニングリールにも適用することができる。
【0052】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明は、釣用リール装置に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の一実施形態に係る釣用リール装置の概略断面図である。
【図2】図1に示す一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図3】図2のIII−IIIにおける断面図である。
【図4】C形ばねを径方向から見た図である。
【図5】C形ばねを軸方向から見た図である。
【図6】側板を軸方向から見た図である。
【図7】図6のVII−VIIにおける断面図である。
【図8】図2に示す一方向クラッチの製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【図9】図8の第1の工程で得られた円盤の形状を示す図である。
【図10】図8の第2の工程で得られたカップ状部材を回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図11】図10のXI−XIにおける断面図である。
【図12】図8の第3の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図13】シェル外輪に係合部を形成した状態を示す図である。
【図14】図13の矢印XIVの方向から見た矢視図である。
【図15】図9の第6の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 釣用リール装置、2 スプール、3,4 側方部材、5 ハンドル、6 駆動軸、7 従動軸、8 駆動歯車、9 従動歯車、11 一方向クラッチ、12 シェル外輪、12a 係合部、13 外径面、13a 第1の部分、13b 第2の部分、14 軌道面、14a カム面、15 側板案内面、16 鍔部、17 端曲げ部、18 ころ、19 C形ばね、19a C形部、19b,19c 係合突起、20 側板、21 円盤、22 カップ状部材、22a 底壁。
【技術分野】
【0001】
この発明は、釣用リール装置に関し、特に回転軸の一方方向への回転のみを許容する逆転防止機構を備えた釣用リール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の釣用リール装置は、例えば、実登3006902号公報(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている釣用リール装置は、回転軸の一方方向への回転を許容し、他方方向への回転を阻止する逆転防止装置としての一方向クラッチを備えていると記載されている。
【0003】
上記の一方向クラッチに類似する一方向クラッチが、例えば、特開2000−213566号公報(特許文献2)および特開2003−56601号公報(特許文献3)に記載されている。
【0004】
上記の各公報に記載されている一方向クラッチは、内径面にカム面を有し、ハウジングに固定される外輪と、外輪と回転軸との間に形成される環状空間に配置される複数のころとを主に備える。また、外輪の外径面に隆起部を、ハウジングの内径面に隆起部を受け入れる溝をそれぞれ形成し、隆起部と溝とを係合させることによって外輪がハウジングの内部で滑るのを防止することができると記載されている。
【特許文献1】実登3006902号公報
【特許文献2】特開2000−213566号公報
【特許文献3】特開2003−56601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2000−213566号公報(特許文献2)では引き抜き加工によって、特開2003−56601号公報(特許文献3)ではブローチ加工によって、それぞれ外輪の外径面に隆起部を形成している。これらの加工方法は、作業工数および作業コストが非常に高いので、結果として製品コストの増大を招く。
【0006】
そこで、この発明の目的は、シェル外輪のハウジング内での滑りを有効に防止すると共に、製品コストを抑えた一方向クラッチを採用することによって、信頼性の高い釣用リール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る釣用リール装置は、ハウジングと、ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、回転軸の一方側に連結されて回転軸を回転させるハンドルと、回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、ハウジングおよび回転軸の間に配置され、回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備える。一方向クラッチに注目すると、外径寸法が相対的に大きい第1の部分と、外径寸法が第1の部分より小さい第2の部分とを含む外径面、軸方向に延びる複数のカム面が形成された軌道面を含む内径面、および軸方向端部に径方向内側に折り曲げられた端曲げ部を含み、ハウジングに嵌まり込むシェル外輪と、カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置される総ころ形式のころと、ころを楔空間の径方向隙間が減少する方向に付勢する弾性部材と、シェル外輪の内径面に嵌まり込んで端曲げ部に軸方向外側から保持される側板とを備える。
【0008】
上記構成の一方向クラッチは、シェル外輪がハウジングに圧入されると共に、その外径面が廻り止め部として機能する。これにより、シェル外輪の耐クリープ力を大幅に向上することができる。また、シェル外輪の軸方向端部に側板を設けたことにより、シェル外輪の内部に配置される構成部品の軸方向への抜けを有効に防止することができる。さらに、このシェル外輪は、プレス加工によって製造可能であるので、製造工数および製造コストを大幅に削減することができる。
【0009】
好ましくは、シェル外輪は、内径面の端曲げ部に隣接する位置に側板を受け入れる側板案内面を有する。そして、軌道面の板厚をt1、側板案内面の板厚をt2とすると、0.6≦t2/t1≦0.8を満たす。これにより、側板が軌道面の方向に移動してころの回転を阻害するのを有効に防止することができる。
【0010】
さらに好ましくは、端曲げ部の板厚をt3とすると、0.6≦t3/t2≦0.8を満たす。これにより、側板案内面と端曲げ部との間に、端曲げ部の曲げの起点となる段差が形成される。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、プレス加工によって廻り止め部を形成したので、一方向クラッチの製造コストを抑えることができる。そして、このような一方向クラッチを逆転防止機構として採用することにより、信頼性の高い釣用リール装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、図1を参照して、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1を説明する。なお、図1は釣用リール装置1の概略断面図である。
【0013】
釣用リール装置1は、釣糸を巻回するスプール2と、スプール2を両端から狭持する側方部材3,4と、スプール2を回転させるハンドル5と、ハウジングとしての側方部材4に収容され、ハンドル5の回転をスプール2に伝達する回転伝達機構とを主に備える。なお、釣用リール装置1の軽量化の観点から、例えば、側方部材3,4は樹脂材料等で形成されている。
【0014】
回転伝達機構は、駆動軸6と、従動軸7と、駆動軸6に連結される駆動歯車8と、従動軸7に連結される従動歯車9と、側方部材4と駆動軸6との間に配置される逆転防止機構としての一方向クラッチ11とを備える。
【0015】
回転軸としての駆動軸6は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、駆動軸6の一方側はハンドル5と、他方側は駆動歯車8、従動歯車9、および従動軸7を介してスプール2とそれぞれ連結しており、ハンドル5と駆動軸6とは常に一体回転する。従動軸7は、側方部材4に軸受(図示省略)によって回転自在に支持されている。また、従動軸7の一方側端部はスプール2に連結されている。
【0016】
駆動歯車8は駆動軸6に嵌合して一体回転する。従動歯車9は従動軸7に嵌合して一体回転する。そして、駆動歯車8と従動歯車9とは噛合った状態となっている。したがって、駆動軸6と従動軸7とは常に逆回転する。同様に、スプール2とハンドル5とも逆回転する。
【0017】
一方向クラッチ11は、側方部材4に圧入されると共に内径面に駆動軸6を受け入れる。そして、駆動軸6の一方方向の回転(図1中の矢印イの方向。以下「正転」という)のみを許容し、他方方向への回転(図1中の矢印ロの方向。以下「逆転」という)を阻止する逆転防止機構として動作する。
【0018】
図2〜図7を参照して、図1に示す一方向クラッチ11を説明する。なお、図2は一方向クラッチ11を回転軸線と平行な平面で切断した断面図、図3は図2のIII−IIIにおける断面図、図4および図5はC形ばね19の形状を示す図、図6および図7は側板20の形状を示す図である。
【0019】
まず、図2および図3を参照して、一方向クラッチ11は、シェル外輪12と、シェル外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ18と、弾性部材としてのC形ばね19と、シェル外輪12の軸方向一方側端部に配置される側板20とを備える。なお、この実施形態における一方向クラッチ11は総ころ形式である。
【0020】
シェル外輪12は、外径寸法が相対的に大きい第1の部分13aおよび外径寸法が第1の部分13aより小さい第2の部分13bを含む外径面と、ころ18と接触する軌道面14および側板20を受け入れる側板案内面15を含む内径面と、軌道面14に隣接する軸方向一方側端部から径方向内側に突出する鍔部16と、側板案内面15に隣接する軸方向他方側端部に端曲げ部17とを備える。
【0021】
また、円周方向の一箇所にC形ばね19の一方側端部を受け入れる係合部12aが形成されている。なお、この実施形態における係合部12aは、端曲げ部17、側板案内面15、および軌道面14にかけてシェル外輪12を厚み方向に貫通している例を示したが、係合部12aは少なくとも軌道面14にのみ形成すればよい。具体的には、軌道面14の所定位置に係合部12aとなる貫通孔を設けてもよいし、軌道面14から側板案内面15にかけて軸方向に拡がる貫通孔を設けてもよい。
【0022】
また、係合部12aは、シェル外輪12の内径面に設けられた不貫通凹部であってもよい。この場合も、少なくとも軌道面14にのみ形成すればよい。具体的には、不貫通凹部の凹み量を調整して、軌道面14の所定位置に凹み量が(t1−t2)以下で軸方向に延びる溝を、または軌道面14から側板案内面15にかけて凹み量が(t1−t3)以下で軸方向に延びる溝を、さらには軌道面14から端曲げ部17にかけて凹み量がt1未満で軸方向に延びる溝を形成してもよい。なお、上記の各係合部は、いずれもプレス加工によって形成することができる。
【0023】
シェル外輪12の外径面は、第1および第2の部分13a,13bを含む非円筒形状であって、側方部材4の内径面に嵌合したときに、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを防止する廻り止め部として機能する。
【0024】
なお、シェル外輪12の外径面は、非円筒形状であれば任意の形状を採用することができる。例えば、多角形状(六角形、八角形、十二角形等)や歯車形状等であってもよい。なお、この実施形態においては、後述する軌道面14の形状に対応した形状となっており、シェル外輪12の板厚は円周方向の全ての位置で略同一となっている。
【0025】
軌道面14には、軸方向に延びるカム面14aが複数箇所に形成されている。このカム面14aの径方向内側には、円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間が形成されている。この実施形態においては、反時計回り方向(図2中の矢印ハの方向)に向かって径方向の隙間が増加(「拡大方向」という)し、時計回り方向(図2中の矢印ニの方向)に向かって径方向の隙間が減少している(「狭小方向」という)。そして、各楔空間には、ころ18が配置されている。
【0026】
側板案内面15は、軌道面14に隣接する位置に設けられており、側板20の外径面を受け入れる。ここで、軌道面14および側板案内面15の内径寸法を同一とすれば、側板20が軌道面14の方向に移動してころ18の回転を阻害するおそれがある。そこで、軌道面14と側板案内面15との間に段差を設けて、側板20が軌道面14側に移動するのを防止している。
【0027】
具体的には、軌道面14の位置におけるシェル外輪12の板厚をt1、側板案内面15の位置におけるシェル外輪12の板厚をt2とすると、0.6≦t2/t1≦0.8の範囲内でt2を減じることによって、軌道面14と側板案内面15との間に段差を形成している(図10参照)。
【0028】
鍔部16は、軌道面14に隣接するシェル外輪12の軸方向一方側端部に位置する円環形状の部分である。この鍔部16は、シェル外輪12の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ18」、「C形ばね19」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0029】
端曲げ部17は、側板案内面15に隣接するシェル外輪12の軸方向他方側端部に位置する部分である。この端曲げ部17は、側板20の外径面の角部を軸方向外側から保持して、側板20の軸方向外側への抜けを防止する。なお、端曲げ部17の位置におけるシェル外輪12の板厚をt3とすると、0.6≦t3/t2≦0.8を満たすように、t3を決定する(図10を参照)。これにより、側板案内面15と端曲げ部17の境界部分に段差が形成される。この段差は、端曲げ部17の曲げの起点となる。
【0030】
図4および図5を参照して、C形ばね19は、円弧形状のC形部19aと、C形部19aの一方側および他方側端部にC形部19aと交差(この実施形態では「直交」)する方向に延びる係合突起19b,19cとを有する。
【0031】
このC形ばね19は、一方向クラッチ11に挿通する駆動軸6とシェル外輪12との間に形成される環状空間に弾性縮径された状態で配置される。そして、一方側端部の係合突起19bは係合部12aに係合し、他方側端部の係合突起19cは隣接するころ18の間の空間(PCDより外側の空間)に配置される。
【0032】
図6および図7を参照して、側板20は円環形状の部材である。この側板20は、シェル外輪12の側板案内面15に嵌まり込んで、シェル外輪12の内部に収容される構成部品(例えば、「ころ18」、「C形ばね19」等を指す)の軸方向への抜けを防止する。
【0033】
上記構成の一方向クラッチ11は、例えば、内径面に駆動軸6を受け入れると共に、側方部材4に圧入される。また、側方部材4の内径面はシェル外輪12の外径面に対応する形状となっている。
【0034】
より具体的には、ハンドル5を正転させたときに駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するように、一方向クラッチ11を駆動軸6に嵌合させる。駆動軸6が反時計方向(図3中の矢印ハの方向)に回転するとき、ころ18は楔空間の拡大方向に移動し、空転する。すなわち、駆動軸6の正転を許容する。このとき、従動軸7に連結されたスプール2は歯車8,9によって駆動軸6とは反対周りに回転し、釣糸を収容する。
【0035】
一方、スプール2を正転(釣糸が繰り出される方向)させようとすると、駆動軸6が逆転しようとする。駆動軸6が時計方向(図3中の矢印ニの方向)に回転するとき、ころ18は楔空間の狭小方向に移動し、シェル外輪12と駆動軸6との間に噛み合って、駆動軸6の逆転を阻止する。つまり、獲物の引き等によって釣糸が繰り出されるのを防止することができる。
【0036】
ここで、シェル外輪12と側方部材4とは、嵌め合いによって固定されていると共に、非円筒形状の外径面13が廻り止め部として機能する。これにより、駆動軸6がロックしたときの伝達トルクが大きくても、シェル外輪12が側方部材4の内部で滑るのを確実に防止することができる。この発明は、側方部材4が樹脂等の比較的剛性の低い材料で形成されている場合に、特に有利な効果を奏する。
【0037】
また、C形ばね19は、一方側端部が係合部12aに係合した状態で拡径しようとして(元の状態に復帰しようとして)、ころ18を狭小方向(図3中の矢印ニの方向)に付勢する。これにより、ころ18の遊度が小さくなるので、駆動軸6の逆転を敏速に停止させることが可能となる。なお、弾性部材は、図4および図5に示すC形ばね19に限らず、ころ18を狭小方向に付勢可能なあらゆる形態を採用することができる。
【0038】
また、シェル外輪12の軸方向一方側端部に鍔部16を、軸方向他方側端部に側板20をそれぞれ設けたことにより、ころ18やC形ばね19等の軸方向への抜けを防止することができる。さらに、側板案内面15の一方側に段差を設け、他方側に端曲げ部17を設けたことによって、シェル外輪12と側板20を強固に一体化することができる。
【0039】
次に、図8〜図15を参照して、一方向クラッチ11の製造方法を説明する。なお、図8は一方向クラッチ11の製造方法の主な工程を示すフロー図、図9〜図15は各工程におけるシェル外輪12の形状を示す図である。
【0040】
まず、図8および図9を参照して、第1の工程では、打ち抜き加工によって鋼板から円盤21を得る(S11)。
【0041】
次に、図8、図10、および図11を参照して、第2の工程では、絞り加工によって円盤21をカップ状部材22に成形すると共に、外径面13および軌道面14を所定の形状に成形する(S12)。具体的には、内径面の形状がシェル外輪12の外径面13に対応するダイス(図示省略)に円盤21を載置し、外径面の形状がシェル外輪12の軌道面14の形状に対応するポンチ(図示省略)によって絞り加工を行う。
【0042】
なお、1度の絞り加工によってカップ状部材22を得てもよいし、複数回の絞り加工を経てカップ状部材22を形成してもよい。また、この工程において、カップ状部材22の開放側端部の内径面の板厚を減じて、側板案内面15および端曲げ部17を形成する。
【0043】
次に、図8および図12を参照して、第3の工程では、打ち抜き加工によって鍔部16を残して、カップ状部材22の底壁22aを除去する(S13)。
【0044】
次に、図8、図13、および図14を参照して、第4の工程では、カップ状部材22の円周上の一箇所に軸方向に延びる係合部12aを形成する(S14)。この実施形態においては、カップ状部材22の開放側端部に設けられている。
【0045】
次に、図8および図15を参照して、第5の工程では、端曲げ部17に端曲げ加工を施して、カップ状部材22の開放側端部に所定の曲率を与える(S15)。端曲げ部17の先端の直径が小さすぎると、後述する第7の工程(S17)で側板20を組み込むことができない。一方、端曲げ部17の先端の直径が大きすぎると、側板20を安定して保持することができない。
【0046】
次に、図8を参照して、第6の工程では、シェル外輪12に必要な機械的性質を得るために、カップ状部材22に熱処理を施す(S16)。熱処理としては、例えば、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行う。
【0047】
次に、図8および図2を参照して、第7の工程では、一方向クラッチ11の組立を行う(S17)。具体的には、図2に示すようにシェル外輪12の内部に複数のころ18およびC形ばね19を組み込む。さらに、端曲げ部17を弾性変形させながら側板20をかち込む。
【0048】
上記の各工程を経て、図2および図3に示したような一方向クラッチ11を得ることができる。このように、プレス加工によってシェル外輪12の外径面13に廻り止め部を形成すれば、従来の引き抜き加工やブローチ加工等によって外輪に廻り止め加工を施す場合と比較して、作業工数および作業コストを削減することができる。その結果、低廉な一方向クラッチ11を得ることができる。
【0049】
なお、図8に示した製造工程は、一方向クラッチ11の製造方法の一部であって、さらに工程を追加してもよいし、各工程をさらに細分化してもよい。また、一部の工程については順序を相互に入れ替えることもできる。
【0050】
また、上記構成の釣用リール装置1は、操作性の観点から、歯車8,9を用いてハンドル5とスプール2とが逆回転するようにしたが、従動軸7および従動歯車9を省略して、駆動軸6の一方側にハンドル5を、他方側にスプール2をそれぞれ連結し、両者を同一方向に回転させる構成としても、この発明の効果を得ることができる。
【0051】
さらに、この発明の一実施形態に係る釣用リール装置1として、ベイトリールの例を示したが、この発明は他の構成の釣用リール装置にも適用することができる。例えば、スピニングリールにも適用することができる。
【0052】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明は、釣用リール装置に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の一実施形態に係る釣用リール装置の概略断面図である。
【図2】図1に示す一方向クラッチを回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図3】図2のIII−IIIにおける断面図である。
【図4】C形ばねを径方向から見た図である。
【図5】C形ばねを軸方向から見た図である。
【図6】側板を軸方向から見た図である。
【図7】図6のVII−VIIにおける断面図である。
【図8】図2に示す一方向クラッチの製造方法の主な工程を示すフロー図である。
【図9】図8の第1の工程で得られた円盤の形状を示す図である。
【図10】図8の第2の工程で得られたカップ状部材を回転軸線に平行な平面で切断した断面図である。
【図11】図10のXI−XIにおける断面図である。
【図12】図8の第3の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【図13】シェル外輪に係合部を形成した状態を示す図である。
【図14】図13の矢印XIVの方向から見た矢視図である。
【図15】図9の第6の工程終了後のカップ状部材の形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 釣用リール装置、2 スプール、3,4 側方部材、5 ハンドル、6 駆動軸、7 従動軸、8 駆動歯車、9 従動歯車、11 一方向クラッチ、12 シェル外輪、12a 係合部、13 外径面、13a 第1の部分、13b 第2の部分、14 軌道面、14a カム面、15 側板案内面、16 鍔部、17 端曲げ部、18 ころ、19 C形ばね、19a C形部、19b,19c 係合突起、20 側板、21 円盤、22 カップ状部材、22a 底壁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、
前記回転軸の一方側に連結されて前記回転軸を回転させるハンドルと、
前記回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、
前記ハウジングおよび前記回転軸の間に配置され、前記回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備え、
前記一方向クラッチは、
外径寸法が相対的に大きい第1の部分と、外径寸法が前記第1の部分より小さい第2の部分とを含む外径面、
軸方向に延びる複数のカム面が形成された軌道面を含む内径面、および
軸方向端部に径方向内側に折り曲げられた端曲げ部を含み、前記ハウジングに嵌まり込むシェル外輪と、
前記カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置される総ころ形式のころと、
前記ころを前記楔空間の径方向隙間が減少する方向に付勢する弾性部材と、
前記シェル外輪の内径面に嵌まり込んで前記端曲げ部に軸方向外側から保持される側板とを備える、釣用リール装置。
【請求項2】
前記シェル外輪は、内径面の前記端曲げ部に隣接する位置に前記側板を受け入れる側板案内面を有し、
前記軌道面の板厚をt1、前記側板案内面の板厚をt2とすると、
0.6≦t2/t1≦0.8を満たす、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項3】
端曲げ部の板厚をt3とすると、0.6≦t3/t2≦0.8を満たす、請求項2に記載の釣用リール装置。
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に保持される回転軸と、
前記回転軸の一方側に連結されて前記回転軸を回転させるハンドルと、
前記回転軸の他方側に連結されて釣糸を巻回するスプールと、
前記ハウジングおよび前記回転軸の間に配置され、前記回転軸の一方方向への回転のみを許容し、他方方向への回転を阻止する一方向クラッチとを備え、
前記一方向クラッチは、
外径寸法が相対的に大きい第1の部分と、外径寸法が前記第1の部分より小さい第2の部分とを含む外径面、
軸方向に延びる複数のカム面が形成された軌道面を含む内径面、および
軸方向端部に径方向内側に折り曲げられた端曲げ部を含み、前記ハウジングに嵌まり込むシェル外輪と、
前記カム面の径方向内側の円周方向一方側と他方側とで径方向の隙間が異なる楔空間に配置される総ころ形式のころと、
前記ころを前記楔空間の径方向隙間が減少する方向に付勢する弾性部材と、
前記シェル外輪の内径面に嵌まり込んで前記端曲げ部に軸方向外側から保持される側板とを備える、釣用リール装置。
【請求項2】
前記シェル外輪は、内径面の前記端曲げ部に隣接する位置に前記側板を受け入れる側板案内面を有し、
前記軌道面の板厚をt1、前記側板案内面の板厚をt2とすると、
0.6≦t2/t1≦0.8を満たす、請求項1に記載の釣用リール装置。
【請求項3】
端曲げ部の板厚をt3とすると、0.6≦t3/t2≦0.8を満たす、請求項2に記載の釣用リール装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−263846(P2008−263846A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110519(P2007−110519)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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