説明

釣糸及びその製造方法

【課題】 耐摩耗性に優れ、視認性にも優れた釣糸を提供すること。
【解決手段】 ポリアミド樹脂(A)90〜99.3重量%及び数平均分子量が10万〜200万のシリコーン化合物(B)0.7〜10重量%からなる樹脂組成物(C)を溶融紡糸してから延伸してモノフィラメントを得ることによって釣糸を製造する。このとき、ポリアミド樹脂(A)の一部とシリコーン化合物(B)とを予め溶融混練してから、残りのポリアミド樹脂(A)を加えてさらに溶融混練してから溶融紡糸することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性と視認性に優れた釣糸、特にポリアミド樹脂とシリコーン化合物からなる釣糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、釣糸用の素材としては、加工性、また強度などの力学的物性の要求からポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、超高分子量ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂などの合成樹脂が広く用いられている。中でも、ポリアミド樹脂は、柔軟性に富み耐摩耗性に優れること、また染色し易いため視認性の高い糸が容易に得られることから、釣糸用素材として特に一般的に用いられている。
【0003】
ポリアミド樹脂は元来耐摩耗性に優れる樹脂である。しかしながら、ポリアミド樹脂からなる釣糸を使用する時には、水底の岩などとの擦れである、いわゆる根ずれや岩ずれによって傷が付くことが避けられず、糸切れするおそれがあった。したがって、ポリアミド樹脂からなる釣糸に対して、さらなる耐摩耗性の改善が要求されている。
【0004】
耐摩耗性を改善するための手段として、1)釣糸繊維の表面に耐摩耗性改質剤を塗布あるいは固着する方法、2)釣糸用の原料樹脂内に耐摩耗性改質剤を混合する方法が提案されている。
【0005】
前記1)の方法として、例えば特許文献1には、フッ素系樹脂でコーティングされたナイロン製の釣糸が記載されており、滑り性、防汚性及び耐摩耗性に優れているとされている。また特許文献2には、アミノ変性シリコーンオイルが表面に付与されたポリアミドモノフィラメントからなる釣糸が記載されており、岩などとの摩擦によっても傷がつきにくいとされている。しかしながら、上記いずれの釣糸においても、コーティング層とポリアミド樹脂との接着性が十分ではなく、繰り返しの使用で剥離、脱落を起こす傾向がある。実際に釣りに使用すると短時間の使用、例えば1日程度の使用でも効果が消失してしまうことが多々あり、耐摩耗効果の持続性は十分とは言い難い状況にある。
【0006】
前記2)の方法として、例えば特許文献3には、フッ素系樹脂または/および有機ケイ素系樹脂からなる改質樹脂をナイロン樹脂に混合してから成形して得られたモノフィラメントからなる釣糸が記載されており、滑り性、防汚性及び耐摩耗性に優れているとされている。特許文献3の実施例では、有機ケイ素系樹脂としてポリジメチルシリコーンを配合した例が記載されているが、その配合量はナイロン樹脂100重量部に対してわずか0.05重量部である。このとき配合されたシリコーンの分子量については何ら記載されていない。
【0007】
特許文献3に記載されているように、シリコーンをナイロンモノフィラメントに練り込む方法によれば、表面にコーティングする方法に比べれば、耐摩耗性を改善する効果の持続性が向上する。しかしながら、数平均分子量が10万未満のシリコーンは時間経過と共に練り込まれたシリコーンが繊維表面へブリードアウトしやすいので、耐摩耗効果の持続性が未だ十分ではなかった。また、数平均分子量が10万未満のシリコーンは高温での粘度が低いので、ポリアミドとともに高温で混練して溶融紡糸する場合にその添加量を増やすと、繊維径のばらつきや糸切れが生じて曳糸性の著しい低下を招き工業的に安定した生産は困難であった。また、数平均分子量が10万未満のシリコーンの添加量を増やした場合には、引張強力、結節強力などの力学的物性も著しく低下して、実用的な強度を有する釣糸が得られなかった。
【0008】
【特許文献1】特開昭60−224885号公報
【特許文献2】特開平4−4832号公報
【特許文献3】特開平2−269877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐摩耗性に優れ、視認性にも優れた釣糸を提供することを目的とするものである。また、そのような釣糸を工業的に安定生産することができる釣糸の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、ポリアミド樹脂(A)90〜99.3重量%、及び下記式(1)で表わされ数平均分子量が10万〜200万であるシリコーン化合物(B)0.7〜10重量%からなる樹脂組成物(C)のモノフィラメントからなる釣糸を提供することによって解決される。
【0011】
【化1】

【0012】
(Rは一価の置換基であり、nは自然数である。)
【0013】
ポリアミド樹脂(A)に対して、数平均分子量が10万〜200万のシリコーン化合物(B)を一定量以上配合することによって、耐摩耗性に優れた釣糸を得ることができる。シリコーン化合物(B)が高分子量のものであることによって、一定量以上のシリコーン化合物(B)をポリアミド樹脂(A)に配合しても安定的に溶融紡糸することができる。こうして得られる釣糸は、径ムラが小さく、ポリアミド樹脂(A)のみからなる釣糸と比べてもそれほど強度は低下しない。しかも、一定量以上のシリコーン化合物(B)を配合することができるために、両成分の屈折率差に由来する内部乱反射が顕著であり、釣糸の視認性も大きく向上する。
【0014】
このとき、ポリアミド樹脂(A)の濃硫酸溶液で測定した相対粘度が3〜5であることが好適である。また、前記モノフィラメントの平均径(Dav)が0.05〜3.5mmであり、かつ下記式(2)で定義される径ムラ(Vd)が6%以下であることも好適である。
Vd=[(Dmax−Dmin)/Dav]×100 (%) (2)
但し、
Dmax:1本のモノフィラメント中での最大径
Dmin:1本のモノフィラメント中での最小径
Dav:1本のモノフィラメントの平均径
【0015】
前記モノフィラメントが、樹脂組成物(C)とポリアミド樹脂(A)とから構成される複合繊維であって、樹脂組成物(C)がモノフィラメントの表面を覆っていることが、本発明の好適な実施態様の一つである。
【0016】
また、上記課題は、ポリアミド樹脂(A)90〜99.3重量%、及び下記式(1)で表わされ数平均分子量が10万〜200万であるシリコーン化合物(B)0.7〜10重量%からなる樹脂組成物(C)を溶融紡糸してから延伸してモノフィラメントを得ることを特徴とする釣糸の製造方法を提供することによっても解決される。
【0017】
【化2】

【0018】
(Rは一価の置換基であり、nは自然数である。)
【0019】
このとき、ポリアミド樹脂(A)の一部とシリコーン化合物(B)とを予め溶融混練し、残りのポリアミド樹脂(A)を加えてさらに溶融混練してから溶融紡糸することが好適である。また、4〜7倍の延伸倍率で延伸することも好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の釣糸は、根ずれ、岩ずれに対する耐摩耗性に優れているとともに、視認性にも優れている。また、本発明の釣糸の製造方法によれば、そのような釣糸を工業的に安定生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の釣糸は、ポリアミド樹脂(A)及びシリコーン化合物(B)からなる樹脂組成物(C)のモノフィラメントからなるものである。樹脂組成物(C)のベースポリマーはポリアミド樹脂(A)であることが重要である。ポリアミド樹脂(A)は、柔軟性、耐摩耗性及び成形性に優れるので、釣糸として広く使用されている。ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂からなる釣糸は、比重が1.78と大きいため水中での沈降速度が早く、また屈折率が水の1.33に近い1.42であるため水中で目立たないという、釣糸として有利な性質を有するが、当該釣糸は硬くしかも原料が高価であるために、本発明においてベースポリマーとして使用するのには適さない。ポリエステルからなる釣糸は、低吸水率であり経時的に物性が安定しているという性質を有するが、弾性率が高く硬いため、釣用としては仕掛け糸などにしか使えない。また、高分子量ポリエチレンからなる釣糸は、その製法が超高分子量(約60万以上)のポリエチレンをゲル紡糸法により分子鎖を高配向化して紡出する方法のため、シリコーン化合物の如き異種成分を混合すると分子配向の妨げとなるため、本発明のベースポリマーとしての使用には適さない。
【0022】
本発明で使用されるポリアミド樹脂(A)は特に限定されるものではないが、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン−6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン−6,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン−6,12)等の脂肪族ポリアミド単独重合体;カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン−6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン−6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6/6,6/6,12)等の脂肪族ポリアミド共重合体;ヘキサメチレンジアンモニウムテレフタレート/ヘキサメチレンジアンモニウムイソフタレート共重合体(ナイロン−6T/6I)等の芳香族ポリアミドがあげられる。これらのポリアミド樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0023】
これらのポリアミド樹脂のうち、工業的に安定供給されており、価格的にも安価なものが容易に得られることから、カプロアミド成分を含むポリアミド樹脂(例えば、ナイロン−6、ナイロン−6,12、ナイロン−6/10、ナイロン−6/12、ナイロン−6/6,6等)が好ましい。中でも、カプロアミド成分を含む共重合ポリアミド樹脂(ナイロン−6/10、ナイロン−6/12、ナイロン−6/6,6等)が、結晶性が低く、柔軟性が向上するためより好ましい。
【0024】
ポリアミド樹脂(A)の濃硫酸溶液で測定した相対粘度が3〜5であることが好ましい。釣糸用のモノフィラメントは、通常押出成形によって製造され、高強度であることが要求されるので、その相対粘度が3以上であることが好ましく、3.3以上であることがより好ましい。一方、相対粘度が5を超えると、溶融成形性が悪化する場合があり、好ましくない。特に本発明では、ポリアミド樹脂(A)に対して一定量以上のシリコーン化合物(B)を配合するので、ポリアミド樹脂(A)の相対粘度が高すぎると、安定的に溶融紡糸することが困難になるおそれがある。相対粘度はより好適には4以下である。
【0025】
本発明で使用されるシリコーン化合物(B)は、下記式(1)で表わされるものである。
【0026】
【化3】

【0027】
上記式(1)中、Rは一価の置換基であればよく、特に限定されない。nは自然数であり、繰り返し単位の数を示すものである。全てのRが同一であってもよく、異なっていてもよい。R同士が連結して環を形成してもよい。Rとして好適なものとしては、炭素数が1〜12の炭化水素基が例示される。炭素数が1〜12の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基;あるいはビニル基などの不飽和炭化水素基を挙げることができる。なかでも、Rがメチル基であることが好適であり、全てのRのうちの80%以上がメチル基であることが好ましく、実質的に全てのRがメチル基であることが特に好ましい。nはRによって異なるが、実質的に全てのRがメチル基の場合で1350〜27000程度である。
【0028】
本発明で使用するシリコーン化合物(B)の数平均分子量は、10万〜200万であることが重要である。このような高分子量のシリコーン化合物(B)を一定量使用することによって、得られる釣糸の耐摩耗性が顕著に向上する。シリコーン化合物(B)の室温における形態はオイル状ではなく、通常、弾性を有する固体状である。室温において流動性を有さないことによって、モノフィラメントからのブリードアウトを抑制し、またモノフィラメント表面からの脱落を抑制することが可能となり、耐摩耗性を長期間維持することが可能になる。
【0029】
シリコーン化合物の数平均分子量が10万未満の場合には、高温での粘度が低くなりすぎる。そのため、ポリアミド樹脂(A)と溶融混練する際にモノフィラメント中に均一に分散させることが困難であり、溶融紡糸時に経時的なポリマーの吐出斑を引き起こし、径ムラが大きくなるとともに、工業的に安定的に生産することが困難になる。また、得られるモノフィラメントの耐摩耗性も不十分になりやすい。シリコーン化合物(B)の数平均分子量は、好適には20万以上であり、より好適には30万以上である。一方、シリコーン化合物の数平均分子量が200万を超える場合には、ポリアミド樹脂(A)と溶融混練することが困難となり、モノフィラメント中での分散性が悪化する。シリコーン化合物(B)の数平均分子量は、好適には150万以下であり、より好適には100万以下である。シリコーン化合物(B)は、1種類のものを単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の釣糸を構成する樹脂組成物(C)は、ポリアミド樹脂(A)90〜99.3重量%及びシリコーン化合物(B)0.7〜10重量%からなるものである。シリコーン化合物(B)を0.7重量%以上含有することによって、耐摩耗性に優れた釣糸を得ることができる。数平均分子量が10万未満のシリコーン化合物を使用して、0.7重量%以上配合する場合には、得られるモノフィラメントの繊維径がばらついたり、糸切れが生じたりして曳糸性の著しい低下を招き工業的に安定生産することが困難である。また、その場合、引張強力や結節強力などの力学的物性も著しく低下して、実用的な強度を有する釣糸を得ることも困難である。これに対し、本発明のように数平均分子量が10万以上のシリコーン化合物(B)を使用することによって0.7重量%以上の配合量であっても安定的に良質なモノフィラメントを得ることができる。ポリアミド樹脂(A)中に、一定量以上のシリコーン化合物(B)を均一に分散させて配合することができるので、両成分の屈折率差に由来する内部乱反射が顕著であり、得られる釣糸の視認性も良好となる。
【0031】
シリコーン化合物(B)の含有量は好適には1.5重量%以上であり、より好適には3重量%以上である。このとき、ポリアミド樹脂(A)の含有量は好適には98.5重量%以下であり、より好適には97重量%以下である。一方、シリコーン化合物(B)の含有量が10重量%を超えると、口金から吐出されるポリマー流が安定せず、ノズル孔ごとの吐出量がばらついたり、また同一孔からの吐出量が経時的に変動したりして、糸切れが多発し、安定的な生産が困難になる。シリコーン化合物(B)の含有量は好適には7重量%以下である。このとき、ポリアミド樹脂(A)の含有量は好適には93重量%以上である。
【0032】
上記ポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)とを使用して溶融紡糸することによって、モノフィラメントが成形される。溶融紡糸するに際しては、ポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)とを成形機に投入しながら直接紡糸してもよい。しかしながら、ポリアミド樹脂(A)の一部とシリコーン化合物(B)とを予め溶融混練してから、残りのポリアミド樹脂(A)を加えてさらに溶融混練してから溶融紡糸する方が好ましい。この方法によれば、ポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)とを良好に分散させることができる。具体的には、ポリアミド樹脂(A)にシリコーン化合物(B)を所定量混合した後ペレット化し、それをマスターペレットとして、更にポリアミド樹脂(A)とドライブレンドにて希釈して紡糸する方法などが例示される。ポリアミド樹脂(A)の一部とシリコーン化合物(B)とを予め溶融混練する方法としては、2軸押出機、単軸押出機、ニーダーなど、混練効果の高い混練装置を用いて両成分を溶融混練してペレット化する方法が好ましいものとして例示される。こうして予め溶融混練して得られた樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)30〜90重量%及びシリコーン化合物(B)10〜70重量%を含有することが好ましい。
【0033】
紡糸時の口金からの紡出温度は、ポリアミド樹脂(A)の溶融紡糸が可能な温度であれば特に限定されないが、230〜290℃であることが好ましい。釣糸として要求される強度を満足するためには、比較的高粘度のポリアミド樹脂(A)が使用されるので、溶融紡糸性を良好にするためには、紡出温度が230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、260℃以上であることがより好ましい。一方、紡出温度が高すぎるとポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)との分散性が悪化し、強度が低下するおそれがあるので、290℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。
【0034】
紡出されたモノフィラメントは、一旦冷却された後、延伸される。延伸温度は90〜120℃であることが好ましく、95〜105℃であることがより好ましい。また、延伸倍率は4〜7倍であることが好ましく、5〜6.8倍であることがより好ましく、5.7〜6.2倍であることがさらに好ましい。延伸するに際しては、一度に所望の倍率まで延伸しても良いが、ポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)の両者を含有する樹脂組成物(C)を安定的に延伸するためには、多段延伸することが好ましい。この場合、1回目の延伸温度よりも2回目の延伸温度を高くすることが好ましく、1回目の延伸倍率よりも2回目の延伸倍率を小さくすることが好ましい。延伸操作に引き続き、緩和熱処理を施すことも好ましい。
【0035】
ポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)との樹脂組成物(C)のみからなるモノフィラメントとする代わりに、樹脂組成物(C)とポリアミド樹脂(A)とから構成される複合繊維とすることもできる。このような複合繊維は、樹脂組成物(C)とポリアミド樹脂(A)とを別個に溶融して複合紡糸を行うことによって得られる。これによって、耐摩耗性を改善しながら強度の低下を最小限に抑えることができるし、原料コストを抑制することもできる。この場合、耐摩耗性を改善するという観点からは、樹脂組成物(C)がモノフィラメントの表面を覆っていることが好ましい。複合比率(樹脂組成物(C)/ポリアミド樹脂(A))は体積比で10/90〜90/10であることが好ましく、20/80〜80/20であることがより好ましく、30/70〜70/30であることがさらに好ましい。樹脂組成物(C)の割合が少なすぎると、製造する釣糸の繊維径により異なるが、生産上安定してシリコーン含有成分により繊維表面を均一に覆うことが困難となるおそれがある。
【0036】
上記複合繊維において、その断面構造が重要である。すなわち、耐摩耗性の効果が発現するために、樹脂組成物(C)が繊維表面を完全に覆うような断面構造とすることが重要である。そのようなものの例として、図1のような芯鞘型、図2のような多芯型などが挙げられる。なかでも製造の容易さなどから芯鞘型の複合繊維が好適である。ポリアミド樹脂(A)がモノフィラメントの表面に露出している個所が存在する釣糸は、根ずれ、岩ずれにより当該露出部分が傷付き、傷付いた個所が破断開始点となり、最終的には糸切れを引起すこととなるので好ましくない。
【0037】
得られるモノフィラメントの直径は0.05〜3.5mmであることが好適であり、0.1〜1mmであることがより好適である。また、モノフィラメントの横断面形状は、特に限定されるものではないが、通常は円形である。円形以外の形状も、撚溜りが生じる、糸癖が付き易いなどの釣糸として使用時のトラブルを生じない程度であれば、公知のあらゆる異形形状とすることが可能である。
【0038】
本発明の釣糸の引張強度は7〜11cN/dTexであることが好ましく、そのときの伸度は23〜35%であることが好ましい。本発明の釣糸は一定量以上のシリコーン化合物(B)を含有しているが、ポリアミド樹脂(A)のみからなる釣糸に比べて強度の低下は僅かに留まっていて実用的な強度を有する。また、引張伸度もポリアミド樹脂(A)のみからなる釣糸に比べてほとんど変わらない。また、本発明の釣糸の結節強度は5〜10cN/dTexであることが好ましく、そのときの伸度は13〜25%であることが好ましい。結節強度及び結節伸度もポリアミド樹脂(A)のみからなる釣糸に比べてほとんど変わらない。
【0039】
本発明の釣糸は、ポリアミド樹脂(A)のみからなる釣糸に比べて、耐摩耗性が著しく向上する。後の実施例で説明する耐摩耗破断値を用いて説明すると、本発明の釣糸における耐摩耗破断値は、ポリアミド樹脂(A)のみからなる釣糸における耐摩耗破断値の1.3倍以上、さらには1.5倍以上とすることができる。これに対し、分子量10万未満のシリコーン化合物を配合する場合には、多くのシリコーン化合物を配合することが困難であることもあり、それほど顕著な耐摩耗性の改善は望めない。
【0040】
また、本発明の釣糸を構成するモノフィラメントの平均径(Dav)が0.05〜3.5mmであり、かつ下記式(2)で定義される径ムラ(Vd)が6%以下であることが好ましい。
Vd=[(Dmax−Dmin)/Dav]×100 (%) (2)
但し、
Dmax:1本のモノフィラメント中での最大径
Dmin:1本のモノフィラメント中での最小径
Dav:1本のモノフィラメントの平均径
【0041】
ここで、モノフィラメントの直径の測定は、1本のモノフィラメント全体の直径を等間隔にサンプリングして測定することによって行い、測定点は20点以上とする。径ムラ(Vd)が大きすぎる場合には、強度が低下するおそれがあるとともに伸度のばらつきも顕著となり、釣りにおける当りの感度が鈍るという観点から大きな欠点となるおそれがある。径ムラ(Vd)は、より好適には5%以下である。
【0042】
また、本発明の釣糸は視認性が良好である。本発明の釣り糸は一定以上のシリコーン樹脂(B)を含有することから、ポリアミド樹脂(A)とシリコーン化合物(B)との界面における反射によって、視認性が向上する。モノフィラメント内で両成分が細かく均質に分散することが可能であるから、その外観は高級感のあるパール調を呈する。
【0043】
以上説明したように、本発明の釣糸は、耐摩耗性に優れ、視認性にも優れている。そのような性質を活かして、各種の用途の釣糸に使用することができる。例えば、磯のフカセ釣り、カゴ釣り、バスフィッシング、トラウトフィッシング、ソルトルアーフィッシングなどに好適に使用される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。本実施例における試験方法は以下のとおりである。
【0045】
(1)ポリアミド樹脂(A)の相対粘度
試料とするポリアミド樹脂(A)を96重量%の濃硫酸に1g/100mLのポリマー濃度で溶解して25℃で測定した。
【0046】
(2)シリコーン化合物(B)の数平均分子量
試料とするシリコーン化合物(B)の標準ポリスチレン換算による数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めた。
【0047】
(3)繊維径
(株)ミツトヨ製デジタルインヂケーター「ID−112BS」を用い、試料長20mのモノフィラメントにおいて、等間隔に20点繊維径を測定した。得られた繊維径の値から、下記式(2)にしたがって径ムラ(Vd)を求めた。
Vd=[(Dmax−Dmin)/Dav]×100 (%) (2)
但し、
Dmax:1本のモノフィラメント中での最大径
Dmin:1本のモノフィラメント中での最小径
Dav:1本のモノフィラメントの平均径
【0048】
(4)引張強度・伸度
(株)島津製作所製オートグラフ「AGS−1kNG」を用いて、試験長20cm、引張速度30cm/分で10サンプルを測定し、その平均値から、引張強度(cN/dTex)及び引張伸度(%)を求めた。
【0049】
(5)結節強度・伸度
JIS L1013(1992)の7.6項に記載された方法で試料のモノフィラメント結節部を作り、(株)島津製作所製オートグラフ「AGS−1kNG」を用いて、試験長20cm、引張速度30cm/分で10サンプルを測定し、その平均値から、結節強度(cN/dTex)及び結節伸度(%)を求めた。
【0050】
(6)耐摩耗破断値
耐摩耗性の評価は、特開2001−208663号公報の記載に準じ、室温水中での耐摩耗試験により評価した。すなわち、試験長110cmの糸の一端を糸固定用治具に固定し、もう片方の一端に繊維断面積あたり9kg/mmとなるように荷重を掛け、糸固定治具を動かすことにより室温水中に置かれた径20mmの荒目砥石(WA砥粒#60)の摩擦体上で糸を往復走行させて、糸が破断するまでの往復回数を測定した。試験条件は、摩擦体との接触角度が90°、糸の往復速度90回/分、往復距離17cmとした。また、糸が同一個所を連続して走行しないように摩擦体は往復距離20mmで走行糸と垂直方向に2往復/分の速度で往復運動させた。糸が切断するまでの往復回数を耐摩耗破断値と称し、1サンプルにつき5回測定し、その平均値を得た。
【0051】
実施例1
ポリアミド樹脂(A)として、ナイロン−6とナイロン−6,6の共重合比率(6/6,6:モル比)が85/15である共重合ポリアミド樹脂からなるペレットを用いた。当該共重合ポリアミド樹脂の濃硫酸溶液で測定した相対粘度は3.4である。シリコーン化合物(B)として数平均分子量が50万のポリジメチルシロキサンを使用した。
【0052】
ポリアミド樹脂(A)60重量部とシリコーン化合物(B)40重量部とを、二軸押出機にて溶融混練してから切断して、シリコーン化合物(B)を40重量%含有するマスターペレットを得た。
【0053】
モノフィラメント中でのシリコーン化合物(B)の濃度が4重量%となるようにポリアミド樹脂(A)ペレット90重量部と前記マスターペレット10重量部をドライブレンドしてから、シリンダー径が30mmの単軸押出機に投入した。押出機中で、溶融混練してから、直径1.6mm、L/D=2、孔数10の紡糸口金から温度270℃で紡出した。紡出された繊維を、25℃の水槽中で冷却した後、100℃のスチーム加熱槽中で3.4倍、次いで185℃の乾熱槽中で1.7倍に延伸(合計で5.8倍に延伸)してから、185℃の乾熱槽中で4%の緩和熱処理を施した。引き続き、100mm/分の速度で巻取り、直径0.240mmのモノフィラメントを製造した。得られたモノフィラメント中のシリコーン化合物(B)の濃度は4重量%であった。このときの曳糸性は良好であった。得られたモノフィラメントについて、上記方法にしたがって、径ムラ(Vd)、引張強度・伸度、結節強度・伸度及び耐摩耗破断値を評価した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0054】
実施例2、3及び比較例1
実施例1において、モノフィラメント中でのシリコーン化合物(B)の濃度が1重量%(実施例2)、0.8重量%(実施例3)及び15重量%(比較例1)となるように、ポリアミド樹脂(A)ペレットとマスターペレットのドライブレンド比率を変えた以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0055】
シリコーン化合物(B)の濃度が1重量%(実施例2)及び0.8重量%(実施例3)のときの曳糸性はいずれも良好であり、得られたモノフィラメントを実施例1と同様に評価した結果を表1にまとめて示す。また、シリコーン化合物(B)の濃度が15重量%(比較例1)のときは、紡糸口金のノズル孔からのポリマー吐出が不安定であり紡出糸中に節状物が見られるようになり、また糸切れも多発し曳糸性は不良であった。また、得られた糸は径ムラ(Vd)が13.4%と大きく、その他の評価は行わなかった。
【0056】
比較例2、3
ポリアミド樹脂(A)として、実施例1と同じ共重合ポリアミドを使用し、シリコーン化合物(B)として数平均分子量が9万のポリジメチルシロキサンを使用した。ポリアミド樹脂(A)80重量部とシリコーン化合物(B)20重量部とを、実施例1と同様に溶融混練してから切断して、シリコーン化合物(B)を20重量%含有するマスターペレットを得た。モノフィラメント中でのシリコーン化合物(B)の濃度が0.8重量%(比較例2)及び4.0重量%(比較例3)となるように、ポリアミド樹脂(A)ペレットとマスターペレットをドライブレンドして、実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。
【0057】
シリコーン化合物(B)の濃度が0.8重量%(比較例2)のときは、繊維径のばらつきが大きく時折糸切れも発生し、曳糸性不良であった。得られたモノフィラメントを実施例1と同様に評価した結果を表1にまとめて示す。また、シリコーン化合物(B)の濃度が4.0重量%(比較例3)のときは、繊維径のばらつきが更に酷くなり、またノズル孔部の汚れが酷く、更に糸切れも多発し、曳糸性は極めて不良であった。また、得られた糸は径ムラ(Vd)が12.4%と大きく、その他の評価は行わなかった。
【0058】
比較例4
ポリアミド樹脂(A)として、実施例1と同じ共重合ポリアミドを使用し、シリコーン化合物(B)として数平均分子量が250万のポリジメチルシロキサンを使用した。ポリアミド樹脂(A)80重量部とシリコーン化合物(B)20重量部とを、実施例1と同様に溶融混練してから切断して、シリコーン化合物(B)を20重量%含有するマスターペレットを得た。モノフィラメント中でのシリコーン化合物(B)の濃度が0.5重量%となるように、ポリアミド樹脂(A)ペレットとマスターペレットをドライブレンドして、実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。しかしながらこのときの曳糸性は紡糸口金のノズル孔からのポリマー吐出が不安定であり紡出糸中に節状物が数多く見られ、また糸切れも多発し曳糸性は極めて不良であった。また、得られた糸は、径ムラ(Vd)が18.5%と大きく、その他の評価は行わなかった。
【0059】
比較例5
実施例1において、ポリアミド樹脂(A)とマスターチップの混合物を使用する代わりに、ポリアミド樹脂(A)のみを使用して紡糸した以外は実施例1と同様にしてシリコーン化合物(B)を含有しないモノフィラメントを製造した。このときの曳糸性はいずれも良好であった。得られたモノフィラメントを実施例1と同様に評価した結果を表1にまとめて示す。
【0060】
実施例4
ポリアミド樹脂(A)として、実施例1と同じ共重合ポリアミドを使用し、シリコーン化合物(B)として実施例1と同じ数平均分子量が50万のポリジメチルシロキサンを使用した。ポリアミド樹脂(A)93重量部とシリコーン化合物(B)7重量部とを、実施例1と同様に溶融混練してから切断して、シリコーン化合物(B)を7重量%含有する樹脂組成物(C)ペレットを得た。ポリアミド樹脂(A)を芯成分、上記樹脂組成物(C)ペレットを鞘成分として、芯鞘型に複合紡糸を行った。このときの両成分の体積複合比率(樹脂組成物(C)/ポリアミド樹脂(A))は1/1である。2台のシリンダー径が30mmの単軸押出機に、それぞれ樹脂組成物(C)及びポリアミド樹脂(A)を投入し、直径1.6mm、L/D=2、孔数10の紡糸口金から温度270℃で紡出した。紡出された繊維を、25℃の水槽中で冷却した後、100℃のスチーム加熱槽中で3.4倍、次いで185℃の乾熱槽中で1.7倍に延伸(合計で5.8倍に延伸)してから、185℃の乾熱槽中で4%の緩和熱処理を施した。引き続き、100mm/分の速度で巻取り、直径0.240mmの複合モノフィラメントを製造した。このときの曳糸性は良好であった。得られたモノフィラメントを実施例1と同様に評価した結果を表1にまとめて示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されるように、ポリアミド樹脂(A)に対して、数平均分子量が10万〜200万のシリコーン化合物(B)を0.7〜10重量%配合した実施例1〜3では、配合しなかった比較例5に比べて、耐摩耗性が顕著に向上し、径ムラも良好であり、強度の低下も僅かに留まった。シリコーン化合物(B)の配合量が10重量%を超える比較例1では曳糸性が著しく悪化した。分子量が10万未満のシリコーン化合物を配合した場合、配合量が0.8重量%(比較例2)のときには径ムラが増加し、配合量を4.0重量%(比較例3)まで増加させたときには、曳糸性が著しく悪化した。すなわち、シリコーン化合物の分子量が低い場合には、一定量以上のシリコーン化合物を配合することが困難であり、径ムラが小さくかつ耐摩耗性に優れた釣糸を得ることができなかった。比較例4に示されるように、分子量が200万を超えるシリコーン化合物を配合した場合には、曳糸性が著しく悪化した。また、実施例4に示されるように、複合繊維とした場合にも本発明の効果を奏することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】芯鞘型複合モノフィラメントの断面の模式図である。
【図2】多芯型複合モノフィラメントの断面の模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1 複合モノフィラメント
2 ポリアミド樹脂(A)
3 樹脂組成物(C)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)90〜99.3重量%、及び下記式(1)で表わされ数平均分子量が10万〜200万であるシリコーン化合物(B)0.7〜10重量%からなる樹脂組成物(C)のモノフィラメントからなる釣糸。
【化1】

(Rは一価の置換基であり、nは自然数である。)
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)の濃硫酸溶液で測定した相対粘度が3〜5である請求項1記載の釣糸。
【請求項3】
前記モノフィラメントの平均径(Dav)が0.05〜3.5mmであり、かつ下記式(2)で定義される径ムラ(Vd)が6%以下である請求項1又は2記載の釣糸。
Vd=[(Dmax−Dmin)/Dav]×100 (%) (2)
但し、
Dmax:1本のモノフィラメント中での最大径
Dmin:1本のモノフィラメント中での最小径
Dav:1本のモノフィラメントの平均径
【請求項4】
前記モノフィラメントが、樹脂組成物(C)とポリアミド樹脂(A)とから構成される複合繊維であって、樹脂組成物(C)がモノフィラメントの表面を覆っている請求項1〜3のいずれか記載の釣糸。
【請求項5】
ポリアミド樹脂(A)90〜99.3重量%、及び下記式(1)で表わされ数平均分子量が10万〜200万であるシリコーン化合物(B)0.7〜10重量%からなる樹脂組成物(C)を溶融紡糸してから延伸してモノフィラメントを得ることを特徴とする釣糸の製造方法。
【化2】

(Rは一価の置換基であり、nは自然数である。)
【請求項6】
ポリアミド樹脂(A)の一部とシリコーン化合物(B)とを予め溶融混練し、残りのポリアミド樹脂(A)を加えてさらに溶融混練してから溶融紡糸する請求項5記載の釣糸の製造方法。
【請求項7】
4〜7倍の延伸倍率で延伸する請求項5又は6記載の釣糸の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−115802(P2006−115802A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309462(P2004−309462)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(591051966)株式会社サンライン (8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】