説明

鉄イオン注入方法及び鉄イオン注入量制御装置

【課題】 復水器冷却管を流れる冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を適切に調節して、冷却管の内面に目標の鉄皮膜を確実に形成することができる鉄イオン注入方法及び鉄イオン注入量制御装置を提供する。
【解決手段】 復水器1の冷却管2内を流れる冷却水に鉄イオンを注入する鉄イオン注入手段3と、前記冷却管2の入口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する入口側鉄イオン濃度測定手段4と、前記冷却管2の出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する出口側鉄イオン濃度測定手段5と、前記冷却管2の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出する鉄付着量算出手段と、前記冷却管2への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御する制御手段とから構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水に海水を使用する復水器冷却管に鉄皮膜を形成するための鉄イオン注入方法及び鉄イオン注入量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸に立地した発電所や工場等のプラントでは、蒸気タービンの復水器を冷却する冷却水として海水を取水して使用している。この復水器には、熱伝導性の良い銅合金製の冷却管が使用されているが、海水中に含まれる腐食性物質により冷却管の内面が腐食するという問題がある。
従来、復水器冷却管の腐食を防止するために、冷却水に鉄イオンを注入して冷却管の内面に鉄皮膜を形成している。また、発電プラントの運転中に冷却水に注入して鉄イオン濃度を調節する方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−19292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却水に海水を使用する復水器は、冷却管の内面に海水中の微生物や有機物などが付着し熱交換の効率が次第に低下することから、ブラシ洗浄やジェット洗浄により冷却管の内面の洗浄を行っている。この洗浄によって冷却管の内面に形成された鉄皮膜も磨耗するために、冷却管内の洗浄後には通常運転時よりも高濃度の鉄イオンを注入して磨耗分の鉄皮膜を形成している。しかし、従来は、鉄イオンの注入量と鉄皮膜の形成量の関係が明確でないために、形成される鉄皮膜が不十分となったり、必要以上の鉄イオンを注入して形成される鉄皮膜が過多となったりするという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、復水器冷却管内を洗浄した後に該冷却管内を流れる冷却水に鉄イオンを注入して鉄皮膜を形成する鉄皮膜形成方法において、前記冷却管の入口側と出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定し、前記冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出し、前記冷却管への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を調節するようにした鉄イオン注入方法を提供するものである。
【0006】
また、本発明は、復水器冷却管内の洗浄方法によって前記冷却管への鉄付着量の目標値を変えた請求項1に記載の鉄イオン注入方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、設備別に冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と時間を設定するようにした請求項1又は2に記載の鉄イオン注入方法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、復水器冷却管内を流れる冷却水に鉄イオンを注入する鉄イオン注入手段と、前記冷却管の入口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する入口側鉄イオン濃度測定手段と、前記冷却管の出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する出口側鉄イオン濃度測定手段と、前記冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出する鉄付着量算出手段と、前記冷却管への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御する制御手段とからなる鉄イオン注入量制御装置を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、復水器冷却管内を洗浄した後に該冷却管内を流れる冷却水に注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御するようにした請求項4に記載の鉄イオン注入量制御装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、復水器冷却管内の洗浄方法によって前記冷却管への鉄付着量の目標値を変えた請求項5に記載の鉄イオン注入量制御装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鉄イオン注入方法によれば、復水器冷却管内を洗浄した後に該冷却管内を流れる冷却水に鉄イオンを注入して鉄皮膜を形成する鉄皮膜形成方法において、前記冷却管の入口側と出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定し、前記冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出し、前記冷却管への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を調節するようにした構成を有することにより、冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から冷却管への鉄付着量を算出することができ、冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を適切に調節して、冷却管の内面に目標の鉄皮膜を確実に形成することができる効果がある。
【0012】
また、本発明は、復水器冷却管内の洗浄方法によって前記冷却管への鉄付着量の目標値を変えた請求項1に記載の構成を有することにより、洗浄方法別による鉄皮膜の磨耗量の違いに対応して、冷却管の内面に適切な量の鉄皮膜を形成することができる効果がある。
【0013】
また、本発明は、設備別に冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と時間を設定するようにした請求項1又は2に記載の構成を有することにより、冷却管洗浄後の鉄皮膜の形成に要する期間を把握することができると共に、設定した鉄イオンの濃度と時間によって簡単かつ確実に目標の鉄皮膜を形成することができる効果がある。
【0014】
また、本発明に係る鉄イオン注入量制御装置によれば、復水器冷却管内を流れる冷却水に鉄イオンを注入する鉄イオン注入手段と、前記冷却管の入口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する入口側鉄イオン濃度測定手段と、前記冷却管の出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する出口側鉄イオン濃度測定手段と、前記冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出する鉄付着量算出手段と、前記冷却管への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御する制御手段とからなる構成を有することにより、冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から冷却管への鉄付着量を算出することができ、冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を適切に調節して、冷却管の内面に目標の鉄皮膜を確実に形成することができる効果がある。
【0015】
また、本発明は、復水器冷却管内を洗浄した後に該冷却管内を流れる冷却水に注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御するようにした請求項4に記載の構成を有することにより、冷却管内の洗浄によって磨耗した鉄皮膜を確実に修復することができる効果がある。
【0016】
また、本発明は、復水器冷却管内の洗浄方法によって前記冷却管への鉄付着量の目標値を変えた請求項5に記載の構成を有することにより、洗浄方法別による鉄皮膜の磨耗量の違いに対応して、冷却管の内面に適切な量の鉄皮膜を形成することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図示する実施例に基づいて説明する。
本発明に係る鉄イオン注入量制御装置は、復水器1の冷却管2内を流れる冷却水に鉄イオンを注入する鉄イオン注入手段3と、前記冷却管2の入口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する入口側鉄イオン濃度測定手段4と、前記冷却管2の出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する出口側鉄イオン濃度測定手段5と、前記冷却管2の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出する鉄付着量算出手段と、前記冷却管2への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御する制御手段とから構成してある。
【実施例1】
【0018】
図1に示す実施例において、復水器1は、蒸気タービンから排出される水蒸気の排出経路上に設けてあり、蒸気タービンを回転させた水蒸気を冷却水として海水で冷却して水に戻すことができるように構成してある。復水器1には、多数の冷却管2を設けてあり、循環ポンプ10によって取水した海水を冷却水配管8により冷却管2に導き、冷却管2で熱交換した海水を排水管9により海に排水するようにしてある。
また、冷却管2は熱伝導性の良い銅合金からなり、管の内面に酸化鉄皮膜を形成して海水中に含まれる腐食性物質による腐食を防止している。
【0019】
鉄イオン注入手段3は、冷却水配管8にバルブ7を介して設けてあり、バルブ7の開閉操作により所定濃度の鉄イオンを冷却水に注入することができるように構成してある。鉄イオン注入手段3は、例えば、冷却水配管8から取水した冷却水に鉄イオンを含有させる電解槽からなり、電解槽へ流す電解電流を制御して所定濃度の鉄イオンを冷却水に注入するようにしてある。なお、鉄イオン注入手段3は、実施例の手段に限らず、硫酸鉄(II)を注入する手段等、種々の手段を使用することができる。
【0020】
入口側鉄イオン濃度測定手段4は、鉄イオン濃度計又は全鉄分析計等からなり、復水器1の冷却管2入口側の冷却水を抽出して、冷却水中の鉄イオン濃度を自動的に測定することができるようにしてある。同様に、出口側鉄イオン濃度測定手段5は、鉄イオン濃度計又は全鉄分析計等からなり、復水器1の冷却管2出口側の冷却水を抽出して、冷却水中の鉄イオン濃度を自動的に測定することができるようにしてある。
【0021】
図1に示す実施例において、6は演算装置であり、鉄付着量算出手段と制御手段を備えている。
鉄付着量算出手段は、入口側鉄イオン濃度測定手段4及び出口側鉄イオン濃度測定手段5により測定した冷却管2の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度から、濃度差ΔN(mg/l)を算出するようにしてある。鉄付着量算出手段は、算出した濃度差ΔNと冷却水流量F(l/min)と冷却管2の総内面積S(cm)より、数1の計算式に基づいて単位面積当たりの鉄付着量C(mg/cm)を算出することができるように構成してある。
【0022】
【数1】

【0023】
制御手段は、入口側鉄イオン濃度測定手段4の測定値と注入濃度の目標値に基づいて、鉄イオン注入手段3が冷却水に注入する鉄イオン濃度を制御することができるようにしてある。また、制御手段は、冷却管2への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいてバルブ7の開閉を制御して、冷却水へ注入する鉄イオンの注入時間を制御することができるように構成してある
【0024】
本発明に係る鉄イオン注入量制御装置は、復水器1の冷却管2内を洗浄した後に、洗浄による鉄皮膜の磨耗量に対応して冷却管2への鉄付着量の目標値を設定することにより、冷却水に注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御して目標の鉄皮膜を形成することができるようにしてある。また、冷却管2内の洗浄方法によって鉄皮膜の磨耗量がことなるから、制御手段は洗浄方法によって冷却管2への鉄付着量の目標値を変えることができるように構成してある。
また、鉄イオン注入量制御装置は、冷却管2内面の鉄皮膜の維持に必要な鉄付着量を目標値として設定し、発電プラントの運転中に冷却水に注入する鉄イオンの濃度と注入時間を調節することも可能である。
【実施例2】
【0025】
本発明に係る鉄イオン注入方法は、復水器1の冷却管2内を洗浄した後に該冷却管2内を流れる冷却水に鉄イオンを注入して鉄皮膜を形成する鉄皮膜形成方法において、前記冷却管2の入口側と出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定し、前記冷却管2の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管2への鉄付着量を算出し、前記冷却管2への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を調節するようにしてある。
【0026】
また、本発明に係る鉄イオン注入方法は、復水器1の冷却管2内の洗浄方法によって冷却管2への鉄付着量の目標値を変えるようにしてある。例えば、ブラシ洗浄後の鉄イオン注入時には、鉄付着量の目標値を0.25mg/cmにし、ジェット洗浄後の鉄イオン注入時には、鉄付着量の目標値を0.55mg/cmにしている。
【0027】
また、本発明に係る鉄イオン注入方法は、設備別に冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と時間を設定するようにしてある。例えば、ブラシ洗浄後の鉄イオン注入時には、0.3mg/lの濃度の鉄イオンを29時間注入し、ジェット洗浄後の鉄イオン注入時には、0.3mg/lの濃度の鉄イオンを58時間注入するようにしている。設備別に設定した鉄イオンの濃度と時間によって、冷却管2の入口側と出口側の鉄イオン濃度の濃度差を測定することなく、簡単かつ確実に目標の鉄皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る鉄イオン注入量制御装置の一実施例を示す構成図。
【符号の説明】
【0029】
1 復水器
2 冷却管
3 鉄イオン注入手段
4 入口側鉄イオン濃度測定手段
5 出口側鉄イオン濃度測定手段
6 演算装置
7 バルブ
8 冷却水配管
9 排水管
10 循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
復水器冷却管内を洗浄した後に該冷却管内を流れる冷却水に鉄イオンを注入して鉄皮膜を形成する鉄皮膜形成方法において、前記冷却管の入口側と出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定し、前記冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出し、前記冷却管への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を調節するようにした鉄イオン注入方法。
【請求項2】
復水器冷却管内の洗浄方法によって前記冷却管への鉄付着量の目標値を変えた請求項1に記載の鉄イオン注入方法。
【請求項3】
設備別に冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と時間を設定するようにした請求項1又は2に記載の鉄イオン注入方法。
【請求項4】
復水器冷却管内を流れる冷却水に鉄イオンを注入する鉄イオン注入手段と、前記冷却管の入口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する入口側鉄イオン濃度測定手段と、前記冷却管の出口側で冷却水中の鉄イオン濃度を測定する出口側鉄イオン濃度測定手段と、前記冷却管の入口側と出口側の冷却水中の鉄イオン濃度の濃度差から前記冷却管への鉄付着量を算出する鉄付着量算出手段と、前記冷却管への鉄付着量の目標値及び算出した鉄付着量に基づいて冷却水へ注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御する制御手段とからなる鉄イオン注入量制御装置。
【請求項5】
復水器冷却管内を洗浄した後に該冷却管内を流れる冷却水に注入する鉄イオンの濃度と注入時間を制御するようにした請求項4に記載の鉄イオン注入量制御装置。
【請求項6】
復水器冷却管内の洗浄方法によって前記冷却管への鉄付着量の目標値を変えた請求項5に記載の鉄イオン注入量制御装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−101137(P2007−101137A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294528(P2005−294528)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)