説明

鉄塔の送電線支持点間の測量方法

【課題】再帰性反射シートを使用することなく、鉄塔に作業員が登らずに、送電線が活線状態の充電線路でも送電線支持点間の水平距離と高低差を安全かつ効率的に測量できる測量方法を提供する。
【解決手段】送電線支持点A、Bの座標をそれぞれ測量により求め、求めた座標から2つの送電線支持点A、B間の水平距離Labと高低差Habを求める。まず、鉄塔1直近に定めた観測点Pの座標を測量により求め、観測点Pの座標を基準として、鉄塔1の送電線支持点Aの座標を測量により求める。次に、鉄塔2直近に定めた観測点Pの座標を観測点Pの座標を基準として測量により求め、観測点Pの座標を基準として、鉄塔2の送電線支持点Bの座標を測量により求める。そして、求めた送電線支持点A、Bの座標から幾何学計算により、2つの送電線支持点間の水平距離と高低差を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔の送電線支持点間の測量方法に関し、具体的には、2つの鉄塔の対応する送電線支持点間の水平距離と高低差を測量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電設備は、複数の鉄塔を送電ルートに沿って離間して設け、それらの鉄塔に形成された送電線の支持アームに、碍子を介して送電線を支持させて形成される。送電線は、複数の鉄塔間である緊線区間ごとに切断されて、各鉄塔間に架け渡される。一般に、緊線区間の両端に位置する鉄塔の支持アームには耐張碍子が取り付けられ、耐張碍子には送電線の両端に取り付けられた耐張クランプが連結金具で連結されて、支持アームに送電線が支持されている。また、緊線区間の中継点に位置する鉄塔の支持アームには懸垂碍子が取り付けられ、懸垂碍子に連結金具で連結されている懸垂クランプには送電線が取り付けられて、支持アームに送電線が支持されている。
【0003】
また、各鉄塔間に架け渡す送電線に、所定の張力に応じた弛みをもたせるため、各鉄塔間の送電線の長さを調整することが行われている。通常、鉄塔間の送電線の長さ調整等の緊線作業は、鉄塔の支持アーム上で行う高所作業が多く、また、作業も長期を要する。これを改善し、高所での作業が短期にできるプレハブ架線工法が開発されている。このプレハブ架線工法での施工においては、予め、一方の鉄塔の支持アームに碍子を取り付ける位置(以下、送電線支持点という)と、他方の鉄塔の支持アームに碍子を取り付ける送電線支持点との間の水平距離と高低差を測量する。測量した水平距離と高低差から、地上又は工場にて、碍子、クランプ金具及び連結金具等の関連部材と送電線の弛みを考慮し各鉄塔径間ごとの電線の長さ(以下、電線実長という)を計尺し、懸垂クランプを装着する位置のマーキング及び緊線区間の電線実長を計尺する。これらの計尺により、地上又は工場にて、送電線を切断し、送電線の両端に耐張クランプを圧縮法によって装着している。これにより、支持アーム上での長さ調整等の作業が不要となる。
【0004】
ここで、2つの鉄塔の対応する送電線支持点間の水平距離と高低差を測量する方法として、例えば、2つの鉄塔間の中間付近の地上に測距儀を設置し、一方の鉄塔の送電線支持点付近に測量用反射プリズム(以下、プリズムという)を当接保持し、測距儀とプリズムを結ぶ線分の距離、鉛直角及び基準線に対する水平角を測量して、一方の送電線支持点の座標を測量により求める。同様に、他方の送電線支持点の座標を測量により求め、それらの座標に基づいて幾何学的に2つの送電線支持点間の水平距離と高低差を計算により求めることが知られている。
【0005】
しかし、この測量方法によれば、作業者が先端にプリズムを取り付けた測定用ポールを持って鉄塔に登り、その測定用ポールの先端を支持アームの先端にある送電線支持点近傍の碍子取付ボルトのねじ先芯に当接させた状態で測量しなければならない。そのため、送電線が活線状態にあっては、安全な離隔距離の確保が出来ないため測量ができない。また、プリズムが傾いたり、位置がずれたりして、測量誤差が生ずるおそれがある。さらに、作業員が鉄塔に登らなければならず、作業性が悪いという問題がある。
【0006】
このような問題に対応するため、特許文献1によれば、送電線の新設時に、送電線支持点付近に再帰性反射シートを貼り付けておき、再帰性反射シートの座標を上述と同様の測量方法により求め、それらの座標に基づいて幾何学的に2つの送電線支持点間の水平距離と高低差を測量することが提案されている。これによれば、送電線が活線状態であっても、作業員が鉄塔に登らずに送電線支持点間の水平距離と高低差を測量することができ、高所での作業員の手配や危険な作業をなくし、測量時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6―265355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の送電線支持点間の測量方法を適用しようとすると、再帰性反射シートが送電線支持点付近に貼付されていない場合は、送電を停止して再帰性反射シートを貼付する必要があり、停電時期あるいは停電期間の制約によって適用できない場合がある。
【0009】
例えば、送電線の経年劣化等の理由から、特別高圧(例えば、数万〜数十万ボルト)の既設送電線の張り替えが必要になった場合、この張り替え期間の最短化が要請されることから、プレハブ工法による張り替えを採用することになる。このプレハブ架線工法での各鉄塔間の緊線作業は、地上又は工場にて電線実長を計尺し、送電線の切断等を行うことになる。そのため、2つの送電線支持点間の水平距離と高低差を、予め測量により求める必要がある。このとき、送電線支持点付近に再帰性反射シートが貼られていない場合には、送電線を停電状態にして、再帰性反射シートを貼付するために作業員が鉄塔に登らなければならないことになる。
【0010】
ところで、送電線を停電状態にするには、需要家に対する停電が少ない良質の電気を供給する社会的な使命のため、短期間又は短時間に限られる。また、再帰性反射シートの貼付作業は、高所での危険な作業である。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、再帰性反射シートを使用することなく、鉄塔に作業員が登らずに、送電線が活線状態の充電線路でも送電線支持点間の水平距離と高低差を安全かつ効率的に測量できる測量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明では、測量対象点に指向性及び収束性を有する電磁波ビームを照射してその反射波を受波して、測量対象点までの距離と、電磁波ビームの鉛直角と、水平な基準線と電磁波ビームとのなす水平角を計測する測距儀を用いて2つの送電線支持点の座標を測量により求める。すなわち、本発明の鉄塔の送電線支持点間の測量方法は、まず、第1の鉄塔の第1の送電線支持点が視通できる地上に第1の観測点を定め、第1の観測点に設置した測距儀から電磁波ビームを第1の送電線支持点に照射して第1の送電線支持点の座標を測量により求める。次に、第2の鉄塔の第2の送電線支持点が視通できる地上に第2の観測点を定め、第1の観測点を基準として第2の観測点の座標を測量により求める。その後、第2の観測点に設置した測距儀から電磁波ビームを第2の送電線支持点に照射して第2の送電線支持点の座標を測量により求める。第1の送電線支持点の座標と第2の送電線支持点の座標から、それらの送電線支持点間の水平距離と高低差を幾何学計算により求める。このとき、送電線支持点は、送電線を支持する碍子が取り付けられる鉄塔の支持アームの下面又は碍子を支持アームに取り付ける固定金具の下面であることを特徴とする。
【0013】
すなわち、指向性及び収束性を有する電磁波ビームは、波長が短く、位相のそろった電磁波である。また、支持アーム下面又は固定金具の下面は、一般に塗装膜又は亜鉛皮膜等が施され、それらの膜表面は細かな凹凸があることから、照射された極超短長の電磁波ビームが凹凸した面により乱反射する。その結果、反射点から計測に十分な強度の電磁波ビームが反射されるから、再帰性反射シートを用いることなく、送電線支持点位置を測量できる。したがって、作業員が鉄塔に登って送電線支持点付近に再帰性反射シートを貼付する必要がないので、送電線が活線状態の充電線路であっても停電せずに、安全かつ効率的に送電線支持点間の水平距離と高低差を測量することができる。
【0014】
この場合において、測量対象の送電線支持点は、支持アームの下面に固定される金属板、金属板を支持アームの下面に固定するボルト若しくはナット、又は、金属板に碍子の連結金具を取り付けるボルト若しくはナットなどの固定金具の下面とすることができる。これらの固定金具は、前述した固定金具と同様に、照射された極超短長の電磁波ビームがこれらの表面の凹凸により乱反射して計測に十分な強度の反射波が測距儀に入射する。
【0015】
また、送電線支持点は、金属板又は連結金具の下面と下向きのボルトの頭頂部側面若しくは下向きのナットの側面、又は下向きのボルトのネジ部とこれに螺合するナットにより形成される隅部に設定することができる。これによれば、測距儀が受波する反射波が十分でない場合に、隅部に形成された複数の面で複雑に乱反射する反射波は、照射した電磁波ビームと平行に測距儀に向かう成分が多くなるため、反射波の強度を高めることができる。
【0016】
支持アームの下面又は、金属板若しくは連結金具の下面に取り付けられている下向きのボルト頭頂部を送電線支持点に設定すると、通常、支持アーム下面又は、金属板若しくは連結金具の下面は、支持アームの下方から見える位置にあり、鉄塔直近から見上げて観測でき、また、支持アーム下方の鉄塔敷地付近は、保安のため管理されており、場所を確保しやすく、さらに、樹木等なども無いため視通障害も無く、観測点の設置場所とすることができる。なお、一つの金属板を複数のボルト若しくはナットで支持アームに固定されている場合には、選定したボルト若しくはナットを送電線支持点として設定することができる。
【0017】
また、送電線支持点は、支持アームの下面、金属板、金属板を支持アームの下面に固定するボルト若しくはナット、又は、金属板に碍子の連結金具を取り付けるボルト若しくはナットに限られるものではなく、碍子を支持アームに取り付ける位置が予め設計図等で定められているから、碍子を支持アームに取り付ける固定金具の特定の位置を送電線支持点として測量することができる。
【0018】
また、観測点は、一つの鉄塔に複数の送電線支持点がある場合に、それらすべての送電線支持点を視通できる位置に定めることが好ましい。これにより、一つの観測点から、一つの鉄塔にある全ての送電線支持点の座標を測量により求めることができ、作業員や測距儀の移動回数が減少するため、作業効率を高めることができる。
【0019】
また、鉄塔には通常、1回線当たり3本単位で送電線が装架されており、それら全ての送電線支持点の近傍に再帰性反射シートを貼りつける作業を省略できるから、送電線支持点間の測量にかかる時間を大幅に短縮させて、作業効率を高めることができる。さらに、送電線を活線状態の充電線路のままで測量ができるので、停電状態にする必要がなく、需要家に良質の電気を供給する事ができる。
【0020】
なお、測量対象点までの距離と鉛直角と水平角を測距儀で計測するため測量対象点への照射に用いる指向性及び収束性を有する電磁波ビームとして、例えばレーザー光を用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、再帰性反射シートを使用することなく、鉄塔に作業員が登らずに、送電線が活線状態の充電線路でも送電線支持点間の水平距離と高低差を安全かつ効率的に測量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態である測量方法の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態である耐張碍子連を取り付けた鉄塔の支持アームの先端部の側面図(a)と下面図(b)である。
【図3】本発明の一実施形態である懸垂碍子連を取り付けた鉄塔の支持アームの先端部の正面図(a)、側面図(b)、下面図(c)である。
【図4】本発明の一実施形態である測量方法を説明するXYZ座標図である。
【図5】測量基準点Pと観測点Pとの水平距離と高低差を表す図面である。
【図6】観測点Pと送電線支持点Aとの水平距離と高低差を表す図面である。
【図7】観測点Pと観測点Pとの水平距離と高低差を表す図面である。
【図8】観測点Pと送電線支持点Bとの水平距離と高低差を表す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の鉄塔の送電線支持点間の測量方法を、実施形態に基づいて説明する。
(実施形態1)
送電設備は、広域にわたって設けられた水力発電所、沿岸部の火力発電所及び原子力発電所などを結んで、発電された電力を需要家へ供給するものであり、平野部及び山間部等に計画された送電ルートに沿って設けられる。しかし、送電線支持点間の測量は、隣り合う2つの鉄塔間ごとに行われることから、図1に示す2つの鉄塔1と鉄塔2の送電線支持点間の測量を例に、送電設備を説明する。図1に示すように、鉄塔1には、上部の両側に腕のように水平方向へ突き出された支持アーム3、4、5が、上下方向にそれぞれ間隔をあけて設けられている。同様に、鉄塔2の上部にも、支持アーム6、7、8が設けられている。
【0024】
支持アーム3の一方の先端部には耐張碍子連9が取り付けられ、支持アーム6の一方の先端部には懸垂碍子連10が取り付けられている。それぞれの碍子連には送電線11が支持されている。同様に、支持アーム3、6の他方の先端部及び他の支持アーム4、5、7、8のそれぞれの両端部にも、図示されていない送電線が、耐張碍子連12、13、及び懸垂碍子連14、15を介して支持されている。ここで、耐張碍子連9は、支持アーム3の一方の先端部に2つ取り付けられ、ジャンパー線16で互いに接続されている。
【0025】
送電線11が耐張碍子連9を介して支持アーム3に支持されている構成を、支持アーム3、耐張碍子連9、送電線11を例にして、図2を用いて説明する。図2(a)は支持アーム3の先端部を拡大して示した側面図であり、同図(b)は支持アーム3の先端部の下面図である。支持アーム3の先端部20の下面に耐張碍子用腕金プレート23が取付ボルト21とナット22で固定されている。耐張碍子用腕金プレート23には、耐張碍子用取付ボルト24とナット25でU字型連結金具26が取り付けられ、U字型連結金具26に係合されたU字型連結金具27が連結されている。U字型連結金具27には、耐張碍子連連結金具28が接続金具29で接続されている。耐張碍子連連結金具28に耐張碍子連9の一端の端部金具30が接続金具31で接続されている。
【0026】
耐張碍子連9の他端の端部金具41には、耐張碍子連連結金具42が接続金具43で接続され、耐張碍子連連結金具42に耐張クランプ44が接続金具45で接続されている。耐張クランプ44は、略L字形に形成され、略L字型の角部46が耐張碍子連連結金具42に連結されている。略L字型の長腕部47は、送電線11を挟み込み、圧縮法により送電線11を把持している。略L字型の短腕部48は、ジャンパー線16の一端を圧縮法により把持し、ジャンパー線16の他端は、図示していないが、耐張碍子用腕金プレート23に連結されているもう一方の耐張碍子連9に接続されている耐張クランプ44の略L字型の短腕部48に把持されている。
【0027】
送電線11が懸垂碍子連10を介して支持アームに支持されている構成を、支持アーム6、懸垂碍子連10、送電線11を例にして、図3を用いて説明する。図3(a)と(b)は、それぞれ支持アーム6の先端部を拡大して示した正面図(懸垂碍子連10の上部)と側面図(懸垂碍子連10の下部)であり、同図(c)は、支持アーム6の先端部51の下面図である。支持アーム6の先端部51の下面に懸垂碍子用腕金プレート54が取付ボルト52とナット53で固定されている。懸垂碍子用腕金プレート54は、図3(c)に示すように、複数の取付ボルト52とナット53で支持アーム6の先端部51に固定されている。懸垂碍子用腕金プレート54の下面には、U字型連結金具55が溶接して固定され、U字型連結金具55に係合されたU字型連結金具56が連結されている。U字型連結金具56には、懸垂碍子連連結金具57が接続金具58で接続され、懸垂碍子連連結金具57に懸垂碍子連10の上端の端部金具59が接続金具60で接続されている。
【0028】
懸垂碍子連10の下端の端部金具71には、懸垂碍子連連結金具72が接続金具73で接続され、懸垂碍子連連結金具72に懸垂クランプ74が接続金具75で接続されている。懸垂クランプ74は、略逆T字形に形成され、T字型の脚部76の端部が懸垂碍子連連結金具72に連結されている。T字型の腕部77は、送電線11を挟み込み、送電線11を把持している。
【0029】
ここで、鉄塔1、2間に送電線11を架け渡す手順を説明する。送電線11は、地上又は工場にて、所定の張力に応じた弛み等を考慮した電線実長を計尺し、耐張碍子連9を取り付ける位置においては切断し、懸垂碍子連10を取り付ける位置においては、懸垂クランプ74で把持する位置にマーキングし、送電線11の両端に耐張クランプ44が圧縮法により装着される。マーキングされて、両端に耐張クランプ44が装着された送電線11は、鉄塔1、2間に延線され、マーキングした位置において懸垂クランプ74で把持され懸垂碍子連10を介して支持アーム6に支持される。耐張クランプ44は、耐張碍子連9を介して支持アーム3に支持され、送電線11が鉄塔1、2間に緊線される。
【0030】
次に、本発明の特徴である送電線支持点間の測量方法の一実施形態について、説明する。鉄塔1、2の間に架け渡される送電線11の電線実長を決めて、送電線11の懸垂クランプ74を装着する位置のマーキングと送電線11の端を切断し耐張クランプ44を装着し圧縮する作業を地上又は工場で行うために、2つの送電線支持点A、B間の水平距離と高低差を測量により求める。本実施形態では、送電線支持点Aは、下向きの耐張碍子用取付ボルト24の頭頂部に設定し、送電線支持点Bは、下向きの懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト52の頭頂部に設定する。これらの送電線支持点A、Bをピンポイントで測量する。ただし、送電線支持点A、Bは、これらに限られるものではなく、支持アーム3、6の下面、又は、腕金プレート23、54などの固定金具の下面に設定することもできる。ところで、送電線支持点Aに設定する耐張碍子用取付ボルト24の頭頂部から耐張クランプ44までと、送電線支持点Bに設定する懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト52の頭頂部から懸垂クランプ74までのそれぞれの位置関係の寸法は、予め設計図等で定められている。したがって、対応する2つの送電線支持点A、B間の水平距離と高低差を測量により求めれば、鉄塔1、2の間に架け渡される送電線11の電線実長を決めることができる。
【0031】
以下、図1〜図8を用いて、詳しく説明する。図1のレーザー測距儀81は、水平軸と鉛直軸に全周回転する倍率の高い望遠鏡と気泡管を備え、地面に対して水平にする整準台により三脚82の上部に取り付けられている公知のものを適用することができる。望遠鏡には、パルスレーザー光を照射する送信器部と、反射光を受光する受信器部が併設されており、望遠鏡で測量対象点を視準したときの鉛直軸に対する角度(鉛直角)と、基準線に対する時計回りの水平回転角(水平角)がおのおの電子的に計測できるようになっている。気泡管は、レーザー測距儀81を観測点に据え付けて水平にする整準のため使用するものである。レーザー測距儀81は、パルスレーザー光を測量対象点に照射して、測量対象点から反射してくるパルスレーザー光の往復時間等から測量対象点までの距離を計測するようになっている。なお、レーザー光は、指向性及び収束性を有する電磁波ビームで、その波長は一般に、180nmから1mmである。ただし、指向性及び収束性を有し、波長が短く、位相のそろった電磁波ビームであれば波長域はこれに限られない。
【0032】
このように構成されるレーザー測距儀81を用いて、図4の送電線支持点A(Xa、Ya、Za)とBの座標(Xb、Yb、Zb)をそれぞれ測量により求めて、送電線支持点A、B間の水平距離Labと高低差Habを幾何学計算により求める。図4は、図1における観測点と送電線支持点との水平距離及び水平角等の位置関係を示したXYZ座標図である。まず、鉄塔1付近に観測点Pを定め、予め定めた測量基準点P(X、Y、Z)を基準として、観測点Pの座標(X、Y、Z)を測量により求める。次いで、観測点Pを基準として、鉄塔1の送電線支持点Aの座標(Xa、Ya、Za)を測量により求める。次に、鉄塔2付近に観測点Pを定め、観測点Pを基準として観測点Pの座標(X、Y、Z)を測量により求める。次いで、観測点Pを基準として、鉄塔2の送電線支持点Bの座標(Xb、Yb、Zb)を測量により求める。
【0033】
まず、北方向をX軸の正方向、東方向をY軸の正方向とし、XY平面に対し鉛直上向きをZ軸の正方向として、XYZ座標軸を設定する。測量基準点Pは、測量基準点Pと観測点Pが互いに見通すことができる点とし、XY座標が既知の三角点に定める。ただし、測量基準点Pは、三角点に限らず測量上の便宜を考慮して任意に定めることができる。また、観測点Pと観測点Pは、互いに見通すことができ、かつ、Pにおいては送電線支持点Aを、また、PにおいてはBを見通すことができるように、それぞれ鉄塔1、2直近の地上に定める。また、本実施形態において、レーザー測距儀81を測量基準点P、観測点P、又は、観測点Pに水平に整準したとき、望遠鏡の水平面の回転軸と鉛直面の回転軸との交点の位置を測距儀視準点R、R、Rとして説明する。
【0034】
次に、観測点Pの座標(X、Y、Z)を求めるために、測量基準点Pにレーザー測距儀81を設置し、観測点Pの位置に、例えば、レーザー測距儀81の測距儀視準点Rから視準できる、一定の高さを有する測量ターゲットQを立てる。測量基準点Pに設置したレーザー測距儀81で、測量ターゲットQを視準して、測距儀視準点Rと測量ターゲットQとの斜距離D、望遠鏡の鉛直角φと水平角αを測量する。水平角αは、望遠鏡をX軸に対し、時計回りに回転させて測量ターゲットQを視準したときの水平回転角である。
【0035】
図5のように、測量基準点Pと観測点Pとの水平距離L、及び、測量基準点Pと観測点Pとの高低差Hは、式(1)により表せる。式(1)において、rは、測量基準点Pと測距儀視準点Rとの高さの差で、hは、観測点Pと測量ターゲットQとの高さの差である。
【数1】

【0036】
観測点Pの座標(X、Y、Z)は、式(2)により表せる。
【数2】

【0037】
観測点Pを基準として、送電線支持点Aの座標(Xa、Ya、Za)を求めるために、観測点Pに設置したレーザー測距儀81で、送電線支持点Aを視準して、観測点Pに設置したレーザー測距儀81の測距儀視準点Rと送電線支持点Aとの斜距離Da、望遠鏡の鉛直角φaと水平角θaを測量する。水平角θaは、測量基準点Pと観測点Pとを結ぶ線分を基準とし、望遠鏡を時計回りに回転させて、送電線支持点Aを視準したときの水平回転角である。
【0038】
図6のように、観測点Pと送電線支持点Aとの水平距離La、及び、観測点Pと送電線支持点Aとの高低差Haは、式(3)により表せる。式(3)において、rは、観測点Pと測距儀視準点Rとの高さの差である。
【数3】

【0039】
観測点Pを中心軸として、X軸に対し、時計回りに送電線支持点Aの方向まで回転させたときの水平角αaは、式(4)により表せる。
【数4】

【0040】
送電線支持点Aの座標(Xa、Ya、Za)は、式(5)により表せる。
【数5】

【0041】
送電線支持点Aと同様に、鉄塔1の支持アーム3の他方の先端部の送電線支持点、及び、鉄塔1の支持アーム4、5のそれぞれの両端の送電線支持点の座標を求めることができる。
【0042】
次に、観測点Pを基準として、観測点Pの座標(X、Y、Z)を求めるために、測量ターゲットQと同様に、観測点Pの位置に、測量ターゲットQを立てる。観測点Pに設置したレーザー測距儀81で、測量ターゲットQを視準して、観測点Pに設置したレーザー測距儀81の測距儀視準点Rと測量ターゲットQとの斜距離D、望遠鏡の鉛直角φと水平角θを測量する。水平角θは、測量基準点Pと観測点Pとを結ぶ線分を基準とし、望遠鏡を時計回りに回転させて、測量ターゲットQを視準したときの水平角とする。
【0043】
図7のように、観測点Pと観測点Pとの水平距離L1、及び、観測点Pと観測点Pとの高低差Hは、式(6)により表せる。式(6)において、rは、観測点Pと測距儀視準点Rとの高さの差で、hは、観測点Pと測量ターゲットQとの高さの差である。
【数6】

【0044】
観測点Pを中心軸として、X軸に対し、時計回りに測量ターゲットQの方向まで回転させたときの水平角αは、式(7)により表せる。
【数7】

【0045】
観測点Pの座標(X、Y、Z)は、式(8)により表せる。
【数8】

【0046】
観測点Pを基準として、送電線支持点Bの座標(Xb、Yb、Zb)を求めるために、観測点Pに設置したレーザー測距儀81で、送電線支持点Bを視準して、観測点Pに設置したレーザー測距儀81の測距儀視準点Rと送電線支持点Bとの斜距離Db、望遠鏡の鉛直角φbと水平角θbを測量する。水平角θbは、観測点Pと観測点Pとを結ぶ線分を基準とし、望遠鏡を時計回りに回転させて、送電線支持点Bを視準したときの水平角である。
【0047】
図8のように、観測点Pと送電線支持点Bとの水平距離Lb、及び、観測点Pと送電線支持点Bとの高低差Hbは、式(9)により表せる。式(9)において、rは、観測点Pと測距儀視準点Rとの高さの差である。
【数9】

【0048】
観測点Pを中心軸として、X軸に対し、時計回りに送電線支持点Bの方向まで回転させたときの水平角αbは、式(10)により表せる。
【数10】

【0049】
送電線支持点Bの座標(Xb、Yb、Zb)は、式(11)により表せる。
【数11】

【0050】
送電線支持点Bと同様に、鉄塔2の支持アーム6の他方の先端部の送電線支持点、及び、鉄塔2の支持アーム7、8のそれぞれの両端の送電線支持点の座標を求めることができる。
【0051】
上述の通り、式(1)から(11)を用い、測量によって、送電線支持点Aの座標(Xa、Ya、Za)と送電線支持点Bの座標(Xb、Yb、Zb)を求める。求めた送電線支持点A、Bの座標から、送電線支持点A、B間の水平距離Labを式(12)により求める。
Lab=√{(Xa−Xb)+(Ya−Yb)}・・・(12)
送電線支持点A、Bの高低差Habを式(13)により求める。
Hab=Zb−Za・・・(13)
鉄塔1と鉄塔2のその他の対応する2つの送電線支持点間の水平距離と高低差も、それぞれ同様に式(12)、(13)で求めることができる。
【0052】
すなわち、レーザー光は、指向性及び収束性を有し、波長が短く、位相のそろった光である。また、耐張碍子用取付ボルト24の頭頂部と懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト52の頭頂部は、一般に塗装膜又は亜鉛皮膜等が施され、それらの膜表面は細かな凹凸があることから、照射された極超短長のレーザー光が凹凸した面により乱反射する。その結果、反射点から計測に十分な強度の反射光が反射されるから、再帰性反射シートを用いることなく、送電線支持点A、B間の水平距離と高低差を測量できる。したがって、作業員が鉄塔1、2に登って送電線支持点A、B付近に再帰性反射シートを貼付する必要がないので、送電線11が活線状態の充電線路であっても停電せずに、安全かつ効率的に送電線支持点A、B間の水平距離と高低差を測量して、幾何学計算により求めることができる。なお、送電線支持点A、Bは、支持アーム3、6の下面、又は、耐張碍子用腕金プレート23又は,懸垂碍子用腕金プレート54などの固定金具の下面とする場合も同様に、照射された極超短長のレーザー光がこれらの表面の凹凸により乱反射して、計測に十分な強度の反射光がレーザー測距儀81に入射する。
【0053】
また、送電線支持点A、Bは、腕金プレート23、54の下面と下向きの取付ボルト21、52の頭頂部側面若しくは下向きのナット22、53の側面や、U字型連結金具26の下面と下向きの取付ボルト24の頭頂部側面若しくは下向きのナット25の側面、又は下向きのボルト21、24、52のネジ部とこれにそれぞれ螺合するナット22、25、53により形成される隅部に設定することができる。これによれば、レーザー測距儀81が受光する反射光が十分でない場合に、隅部に形成された複数の面で複雑に乱反射する反射光は、照射したレーザー光と平行にレーザー測距儀81に向かう成分が多くなるため、反射光の強度を高めることができる。なお、本実施形態では、送電線支持点A、Bの測量にレーザー光を用いたが、これに限られず、指向性及び収束性を有する電磁波ビームを用いてもよい。
【0054】
支持アーム3、6の下面又は、腕金プレート23、54の下面や、耐張碍子用取付ボルト24の頭頂部と懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト52の頭頂部を送電線支持点A、Bに設定すると、通常、送電線支持点A、Bは、支持アーム3、6の下方から良く見える位置にあり、鉄塔1、2付近から見上げて観測できるため、設置場所を確保しやすい鉄塔1、2直近に観測点P、Pを設置することができる。なお、一つの懸垂碍子用腕金プレート54を複数の懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト52とナット53で取付けられている場合は、その内の1つのボルト52を測量対象点として選定、測量し、設計図等により取付ボルトと碍子を取付ける位置との関係より送電線支持点Bを求めることができる。その他の送電線支持点についても同様に求めることができる。
【0055】
観測点P、Pは、一つの鉄塔に複数の送電線支持点がある場合に、それら全ての送電線支持点を視通できる位置に定めることができる。また、鉄塔1、2には通常、1回線当たり3本単位で送電線11が装架されており、それら全ての送電線支持点の近傍に再帰性反射シートを貼りつける作業を省略できるから、送電線支持点間の測量に係る時間を大幅に短縮させて、作業効率を高めることができる。また、送電線を活線状態の充電線路のままで測量できるので、停電状態にする必要がなく、需要家に良質の電気を供給することができる。
【0056】
本実施形態では、支持アームは、各鉄塔に3本ずつ取り付けられているが、支持アームの本数は、これに限られない。なお、鉄塔の1、2の碍子は耐張碍子、懸垂碍子どれでもよい。送電線11の電線実長を決定するため送電線支持点A、Bの座標を求める観測点P、Pの選定は、取付ボルトの頭頂部が視通できる任意の位置とすることができる。また、観測点Pの位置より、鉄塔1の全ての送電線支持点を視通できる位置が望ましいが、できない場合は2以上の観測点を設け、それぞれの位置関係を測量した座標より送電線支持点の座標を求めることができる。観測点Pについても同様に求めることができる。
【0057】
さらに、観測点Pから観測点Pが視通できない場合には、鉄塔1と鉄塔2のそれぞれの鉄塔直近に観測点P1、を定め、観測点P1、の間に1又は2以上の中継点となる観測点を設けて測量を行うことができる。なお、観測点Pと観測点Pの位置関係はGPS等を利用しても測量を行なうこともできる。
【0058】
本実施形態を用いれば、活線状態の充電線路であっても、停電することなく送電線支持点間を測量できるため、新設及び既設のどちらの送電線路の場合においても、予め送電線支持点間の水平距離と高低差を測量し、送電線の電線実長を計尺決定してから鉄塔間に送電線を緊線するプレハブ架線工法を適用することができる。なお、送電線支持点の座標を求める測量の方法は、本実施形態に限られない。
【0059】
(実施形態2)
次に、本発明の他の実施形態を示す。本実施形態が実施形態1と相違する点は、鉄塔1、2の支持アーム3、6の両方に、懸垂碍子連10が取り付けられるときの、送電線支持点A、Bを設定する位置にある。その他の点は、実施形態1と同一であることから、説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、2つの送電線支持点A、Bは、支持アーム3、6のそれぞれに懸垂碍子用腕金プレート54を取り付けている懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト52の頭頂部に設定して、送電線支持点A、Bを測量する。これにより、実施形態1と同様に、送電線支持点A、Bに照射された極超短長のレーザー光が取付ボルト52の頭頂部の表面の凹凸により乱反射して、計測に十分な強度の反射光がレーザー測距儀81に入射する。その結果、反射点から計測に十分な強度の反射光が反射されるから、再帰性反射シートを用いることなく、送電線支持点A、B間の水平距離と高低差を測量できる。
【0061】
以上、本発明を実施形態1、2を用いて説明したが、本発明はこれらに限られない。要するに、本発明に係る送電線支持点間の測量方法は、再帰性反射シートを使用することなく、鉄塔に作業員が登らずに、送電線が活線状態の充電線路でも送電線支持点間の水平距離と高低差を安全かつ効率的にピンポイントで測量ができる。
【符号の説明】
【0062】
1、2 鉄塔
3〜8 支持アーム
9、12、13 耐張碍子連
10、14、15 懸垂碍子連
11 送電線
20 支持アームの先端部
21 耐張碍子用腕金プレート取付ボルト
22 ナット
23 耐張碍子用腕金プレート
24 耐張碍子用取付ボルト
25 ナット
26、27 U字型連結金具
28、42 耐張碍子連連結金具
44 耐張クランプ
51 支持アームの先端部
52 懸垂碍子用腕金プレート取付ボルト
53 ナット
54 懸垂碍子用腕金プレート
55、56 U字型連結金具
57、72 懸垂碍子連連結金具
74 懸垂クランプ
81 レーザー測距儀
A、B 送電線支持点
測量基準点
、P 観測点
0、R、R 測量視準点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測量対象点に指向性及び収束性を有する電磁波ビームを照射してその反射波を受波して、前記測量対象点までの距離と前記電磁波ビームの鉛直角と水平角を計測する測距儀を用い、
第1の鉄塔の第1の送電線支持点が視通できる地上に第1の観測点を定め、前記第1の観測点に設置した前記測距儀から前記電磁波ビームを前記第1の送電線支持点に照射して前記第1の送電線支持点の座標を測量により求め、
第2の鉄塔の第2の送電線支持点が視通できる地上に第2の観測点を定め、前記第1の観測点を基準として前記第2の観測点の座標を測量により求め、
前記第2の観測点に設置した前記測距儀から前記電磁波ビームを前記第2の送電線支持点に照射して前記第2の送電線支持点の座標を測量により求め、
前記第1の送電線支持点の座標と前記第2の送電線支持点の座標から、それらの送電線支持点間の水平距離と高低差を求め、
前記送電線支持点は、前記送電線を支持する碍子が取り付けられる前記鉄塔の支持アームの下面又は前記碍子を前記支持アームに取り付ける固定金具の下面であることを特徴とする鉄塔の送電線支持点間の測量方法。
【請求項2】
前記送電線支持点とする前記固定金具は、前記支持アームの下面に固定される金属板を固定するボルト若しくはナット、又は、前記金属板に前記碍子の連結金具を取り付けるボルト若しくはナットであることを特徴とする請求項1に記載の鉄塔の送電線支持点間の測量方法。
【請求項3】
前記送電線支持点は、前記金属板若しくは前記連結金具の下面と前記ボルトの頭頂部側面若しくは前記ナットの側面により形成される隅部に設定することを特徴とする請求項2に記載の鉄塔の送電線支持点間の測量方法。
【請求項4】
前記観測点は、一つの鉄塔に複数の前記送電線支持点がある場合に、それら全ての前記送電線支持点を視通できる位置に定められることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉄塔の送電線支持点間の測量方法。
【請求項5】
前記送電線は、活線状態の充電線路であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉄塔の送電線支持点間の測量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19699(P2013−19699A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151175(P2011−151175)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000222015)株式会社ユアテック (26)