説明

鉄塔主柱の落雪防止装置

【課題】設備が大がかりにならず、エネルギの供給が不要で、設備コスト及び保守コストを低減できるとともに、鉄塔を構成する主柱材にカバー部材及びスペーサ部材を安定して、かつ、手間をかけずに取り付けることができる鉄塔主柱の落雪防止装置を提供すること。
【解決手段】鉄塔を構成する主柱材Sを囲繞して覆うカバー部材1を設けるとともに、カバー部材1と主柱材Sとの間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材2を設けるようにし、カバー部材1に目合い寸法30〜60mmの合成樹脂製のシート状のネット部材を用いるとともに、スペーサ部材2に合成樹脂製の筒状で少なくとも一端に筒軸方向の糸21が突出したネット部材を用い、スペーサ部材2の突出した筒軸方向の糸21が、カバー部材1の網目に挿入、係止されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔に降着した雪が雪塊や氷塊となって落下することによる落雪被害を防止する鉄塔主柱の落雪防止装置に関し、特に、鉄塔を構成する主柱材を囲繞して覆うカバー部材によって雪を捕捉して雪が雪塊や氷塊となって落下することによる落雪被害を防止するようにした鉄塔主柱の落雪防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄塔に降雪があると、鉄塔を構成する各構成部材に着雪する。
鉄塔を構成する構成部材は、主に、山型鋼、鋼管を用いて形成され、その使用部位により、鉄塔の主柱となる主柱材、アングルを形成する斜材、水平に設けられる水平材、突出して設けられる腕金部等に分けられるが、着雪はすべての構成部材に発生する。
着雪は集積されて次第に成長し、やがて自重、風圧等により崩壊して雪塊となり地上へ落下したり、さらに、寒暖が繰り返されることにより、着雪が氷塊となって地上へ落下し、鉄塔下の通行人、構造物、農作物等に当たって被害をもたらすことがあった。
【0003】
このような鉄塔に降着した雪が雪塊や氷塊となって落下することによる落雪被害を防止するために、従来より、鉄塔の下方の周囲に防護ネットを張り巡らせ、この防護ネットによって鉄塔からの落雪を受け止めるようにしたり、鉄塔を構成する構成部材に融雪ヒータを敷設し、融雪ヒータによって着雪の成長を防止したり、鉄塔を構成する構成部材に難着雪性塗料を塗布し、着雪を防止する等、種々の対策が提案されている。
しかしながら、これらの対策は、防護ネットを用いる場合には、設備が大がかりなって設備コストが増大するとともに、景観を損ねることになり、融雪ヒータを用いる場合には、電気エネルギ等の熱量を大量に消費することになり、難着雪性塗料を用いる場合には、塗料の塗り替えを頻繁に行う必要があり、保守コストが増大する等、いずれも問題を抱えており、より効果的な対策が要請されていた。
【0004】
一方、設備が大がかりにならず、エネルギの供給が不要で、設備コスト及び保守コストを低減できるものとして、鉄塔を構成する鉄塔構成部材を囲繞して覆うカバー部材を設けるとともに、このカバー部材と主柱材との間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材を設けるようにした鉄塔の落雪防止装置が提案されている(特許文献1参照)。
この鉄塔の落雪防止装置は、上記の利点を有するものであるが、鉄塔を構成する主柱材の場合には、カバー部材を安定して取り付けにくく、かつ、取付に多大な手間を要するという問題があった。
【特許文献1】特開平6−81517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の落雪防止装置の有する問題点に鑑み、設備が大がかりにならず、エネルギの供給が不要で、設備コスト及び保守コストを低減できるとともに、鉄塔を構成する主柱材にカバー部材及びスペーサ部材を安定して、かつ、手間をかけずに取り付けることができる鉄塔主柱の落雪防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の鉄塔主柱の落雪防止装置は、鉄塔を構成する主柱材を囲繞して覆うカバー部材を設けるとともに、カバー部材と主柱材との間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材を設けるようにした鉄塔主柱の落雪防止装置において、カバー部材に目合い寸法30〜60mmの合成樹脂製のシート状のネット部材を用いるとともに、スペーサ部材に合成樹脂製の筒状で少なくとも一端に筒軸方向の糸が突出したネット部材を用い、スペーサ部材の突出した筒軸方向の糸が、カバー部材の網目に挿入、係止されるようにしたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、カバー部材に筒状になる巻き癖を有する合成樹脂製のシート状のネット部材を用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄塔主柱の落雪防止装置によれば、鉄塔を構成する主柱材を囲繞して覆うカバー部材を設けるとともに、カバー部材と主柱材との間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材を設けるようにすることにより、設備が大がかりにならず、エネルギの供給が不要で、設備コスト及び保守コストを低減でき、さらに、カバー部材に目合い寸法30〜60mmの合成樹脂製のシート状のネット部材を用いるとともに、スペーサ部材に合成樹脂製の筒状で少なくとも一端に筒軸方向の糸が突出したネット部材を用い、スペーサ部材の突出した筒軸方向の糸が、カバー部材の網目に挿入、係止されるより、カバー部材とスペーサ部材とが嵌合することによってスペーサ部材の移動が阻止されてカバー部材とスペーサ部材との一体性が向上し、鉄塔を構成する主柱材にカバー部材及びスペーサ部材を安定して、かつ、手間をかけずに取り付けることができ、スペーサ部材の取付箇所を低減できることと相俟ってメンテナンスが容易になり、また、スペーサ部材を設けることによる雪の保持スペースの減少量が少なく、カバー部材と主柱材との間に形成された間隙に雪を安定して保持することができる。
そして、カバー部材と主柱材との間に形成された間隙に保持された雪は、溶けるまでそのまま保持され、また、万一落下しても、カバー部材によって分割されて大きな塊のままで落下することがないため、雪塊や氷塊となって落下することによる落雪被害を確実に防止することができる。
【0009】
また、カバー部材に筒状になる巻き癖を有する合成樹脂製のシート状のネット部材を用いることにより、鉄塔を構成する主柱材にカバー部材を取り付ける際の作業性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の鉄塔主柱の落雪防止装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1に、本発明の鉄塔主柱の落雪防止装置の一実施例を示す。
この鉄塔主柱の落雪防止装置は、鉄塔を構成する主柱材Sを囲繞して覆うカバー部材1を設けるとともに、カバー部材1と主柱材Sとの間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材2を設けるようにしたもので、カバー部材1に合成樹脂製のシート状のネット部材を用いるとともに、スペーサ部材2に合成樹脂製の筒状のネット部材を用いるようにしている。
【0012】
この場合において、カバー部材1に用いる合成樹脂製のシート状のネット部材には、目合い寸法30〜60mm、より好ましくは、40〜50mmのものを用いるようにする。
目合い寸法が、30mmより小さいと、雪によって網目が閉塞され、カバー部材1と主柱材Sとの間に形成された間隙に雪を安定して保持することができなくなりやすく、一方、60mmより大きいと、大きな塊のままで雪塊や氷塊が落下し、落雪被害を確実に防止することができないものとなる。
【0013】
そして、カバー部材1に用いるシート状のネット部材は、特に限定されるものではないが、例えば、周上に縦糸を連続押し出ししながら横糸を溶融着することで筒状のネット部材を連続的に製造し(特開昭60−78716号公報参照)、その後、筒状のネット部材を筒軸方向に切開することにより得ることができる(タキロン社製「トリカルネット」(商品名))。
また、ネット部材を構成する合成樹脂には、特に限定されるものではないが、好ましくは、紫外線劣化防止剤を配合した高密度ポリエチレン樹脂を用いることができ、これにより、カバー部材1の耐久性を一層向上することができる。
また、この合成樹脂には、比較的柔軟な材料を用いることが好ましく、これにより、カバー部材1を取り付ける際の作業性を向上することができる。
【0014】
そして、このようにして得たネット部材は、縦糸に横糸が溶融着した一体角目構造であることと相俟って、特に、低温下における繰り返し応力に対する耐久性に優れ、鉄塔に装着された劣悪な環境下での長期間(10年程度)の使用に十分耐えることができる。
【0015】
また、このネット部材は、そのままの状態で筒状になる巻き癖を有するシート状のネット部材となることから、これをカバー部材1に用いることにより、鉄塔を構成する主柱材Sにカバー部材1を装着する際にカバー部材1が主柱材Sに自然に巻き付くようになり、カバー部材1を取り付ける際の作業性を向上することができる。
【0016】
また、スペーサ部材2に用いる合成樹脂製の筒状のネット部材には、特に限定されるものではないが、例えば、目合い寸法10〜50mmのものを用いるようにする。
目合い寸法が、10mmより小さいと、カバー部材1とスペーサ部材2との嵌合力が得にくくスペーサ部材2が移動しやすくなるとともに、雪によって網目が閉塞され、スペーサ部材2を設けることによる雪の保持スペースの減少量が大きくなりやすく、一方、50mmより大きいと、スペーサ部材としての剛性を得にくくなる。
なお、このネット部材の断面形状は、円形、矩形、多角形等、任意の形状のものを用いることができる。
【0017】
そして、スペーサ部材2に用いる筒状のネット部材は、特に限定されるものではないが、カバー部材1と同様、例えば、周上に縦糸を連続押し出ししながら横糸を溶融着することで筒状のネット部材を連続的に製造することにより得ることができる(特開昭60−78716号公報参照。タキロン社製「トリカルパイプ」(商品名))。
また、ネット部材を構成する合成樹脂には、特に限定されるものではないが、好ましくは、紫外線劣化防止剤を配合した高密度ポリエチレン樹脂を用いることができ、これにより、スペーサ部材2の耐久性を一層向上することができる。
また、この合成樹脂には、比較的硬質の材料を用いることが好ましく、これにより、カバー部材1と主柱材Sとの間に形成する間隙の寸法を所定の値に設定することができる。
【0018】
そして、このネット部材は、縦糸に横糸が溶融着した一体角目構造であることと相俟って、特に、低温下における繰り返し応力に対する耐久性に優れ、鉄塔に装着された劣悪な環境下での長期間(10年程度)の使用に十分耐えることができる。
【0019】
また、このネット部材は、スペーサ部材2に用いるに際して、筒状のネット部材を輪切り状に切断することによって、少なくとも一端に筒軸方向の糸(縦糸)21が突出するようにし、このスペーサ部材2の突出した筒軸方向の糸(縦糸)21が、カバー部材1の網目に挿入、係止されるようにする。
これにより、カバー部材1とスペーサ部材2との一体性が向上し、鉄塔を構成する主柱材Sにカバー部材1及びスペーサ部材2を一層安定して取り付けることができる。
【0020】
そして、この鉄塔主柱の落雪防止装置を構築するに当たっては、図1(a)に示すように、スペーサ部材2を、筒軸方向の糸(縦糸)21が外向きに突出し、鉄塔を構成する主柱材Sを囲むように針金3等を用いて取り付けた後、図1(b)に示すように、その外周に、主柱材Sを囲繞して覆うようにカバー部材1を設けるようにすることにより、スペーサ部材2の突出した筒軸方向の糸(縦糸)21が、カバー部材1の網目に挿入、係止されるようにする。
この場合、カバー部材1の端縁は、針金や汎用の合成樹脂製の結束部材等を用いて固定するようにする。
これにより、カバー部材1と主柱材Sとの間に所定の間隙(例えば、スペーサ部材2の筒軸方向の寸法:20〜50mmに対応する隙間)を形成することができるとともに、カバー部材1からのステップボルトStの突出寸法を所定の値に設定して、作業者の安全性を確保できる。
【0021】
この鉄塔主柱の落雪防止装置は、鉄塔を構成する主柱材Sを囲繞して覆うカバー部材1を設けるとともに、カバー部材1と主柱材Sとの間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材2を設けるようにしているので、設備が大がかりにならず、エネルギの供給が不要で、設備コスト及び保守コストを低減でき、さらに、カバー部材1に目合い寸法30〜60mmの合成樹脂製のシート状のネット部材を用いるとともに、スペーサ部材2に合成樹脂製の筒状で少なくとも一端に筒軸方向の糸(縦糸)21が突出したネット部材を用い、スペーサ部材2の突出した筒軸方向の糸(縦糸)21が、カバー部材1の網目に挿入、係止されるようにしているので、カバー部材1とスペーサ部材2とが嵌合することによってスペーサ部材2の移動が阻止されてカバー部材1とスペーサ部材2との一体性が向上し、鉄塔を構成する主柱材Sにカバー部材1及びスペーサ部材3を安定して、かつ、手間をかけずに取り付けることができ、スペーサ部材2の取付箇所を低減できることと相俟ってメンテナンスが容易になり、また、スペーサ部材2を設けることによる雪の保持スペースの減少量が少なく、カバー部材1と主柱材Sとの間に形成された間隙に雪を安定して保持することができる。
そして、カバー部材1と主柱材Sとの間に形成された間隙に保持された雪は、溶けるまでそのまま保持され、また、万一落下しても、カバー部材1によって分割されて大きな塊のままで落下することがないため、雪塊や氷塊となって落下することによる落雪被害を確実に防止することができる。
【0022】
以上、本発明の鉄塔主柱の落雪防止装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の鉄塔主柱の落雪防止装置は、設備が大がかりにならず、エネルギの供給が不要で、設備コスト及び保守コストを低減できるとともに、鉄塔を構成する主柱材にカバー部材及びスペーサ部材を安定して、かつ、手間をかけずに取り付けることができることから、送電線用等の各種鉄塔の主柱の落雪防止の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の鉄塔支部材の落雪防止装置及びそれに用いるカバー部材の配設方法の一実施例を示し、(a)はスペーサ部材の取付状態を示す説明図、(b)は鉄塔支部材の落雪防止装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 カバー部材
2 スペーサ部材
21 筒軸方向の糸(縦糸)
S 主柱材
St ステップボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔を構成する主柱材を囲繞して覆うカバー部材を設けるとともに、カバー部材と主柱材との間に所定の間隙を形成するためのスペーサ部材を設けるようにした鉄塔主柱の落雪防止装置において、カバー部材に目合い寸法30〜60mmの合成樹脂製のシート状のネット部材を用いるとともに、スペーサ部材に合成樹脂製の筒状で少なくとも一端に筒軸方向の糸が突出したネット部材を用い、スペーサ部材の突出した筒軸方向の糸が、カバー部材の網目に挿入、係止されるようにしたことを特徴とする鉄塔主柱の落雪防止装置。
【請求項2】
カバー部材に筒状になる巻き癖を有する合成樹脂製のシート状のネット部材を用いたことを特徴とする請求項1記載の鉄塔主柱の落雪防止装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−309006(P2007−309006A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140328(P2006−140328)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【出願人】(591008823)株式会社カナエ (14)