説明

鉄系超電導物質

【課題】
本発明は、毒性元素を用いないで超電導現象を発現させることが可能な鉄系超電導物質を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の鉄系超電導物質は、以下の式1を満たすように、FeTe合金にSをドープした組成よりなることを特徴とする。
<式1>
Fe(Te1−x (0<x<1, 0.8<y<=1)
本発明は、鉄系超電導物質において、正方晶のPbO構造(空間群P4/nmm)を取ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄を主成分とした超電導現象を発現する鉄系超電導物質に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年初頭、東工大の細野教授のグループにより、鉄系超電導体が発見された。この発見を契機に、類似化合物に超電導体が次々と見出され、この鉄系超電導体は、新しい高温超電導体の鉱脈と期待されている。この鉄系超電導体では、鉄ヒ素、鉄リン、鉄セレン、などが作る二次元構造が超電導の起源と考えられている。そのため、これまで発見された鉄系超電導体のほとんどが、ヒ素やリン、セレンなど、毒性の強い元素を含んでいる。鉄系超電導体を応用していくためには、毒性の少ない元素で構成された新超電導体を見出すことが望まれていた。
【非特許文献1】ACTA CHEMICA SCANDINAVICA 8,1927, 1945
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、毒性元素を用いないで超電導現象を発現させることが可能な鉄系超電導物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の鉄系超電導物質は、以下の式1を満たすように、FeTe合金にSをドープした組成よりなることを特徴とする。
<式1>
Fe(Te1−x (0<x<1, 0.8<y<=1)
発明2は、発明1の鉄系超電導物質において、正方晶のPbO構造(空間群P4/nmm)を取ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
鉄系超電導体と類似構造を持つが超電導を示さない鉄テルル化合物FeTeに着目し、そこへ硫黄を少量ドープすることで超電導を発現させる事に成功した。この鉄テルル系超電導体FeTe1−xは、ヒ素やリン、セレン等の毒性の高い元素を含まない。そのため、研究開発が容易であり、応用に適している材料であると考えられる。
また、FeTeで記述できるテルルが若干欠損もしくは過剰な組成比でも安定である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
式1において、実施例の機能測定からすれば、xの上限は、1未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下とする。また、その下限は、0超、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上とする。
また、yについては0.8<y<=1、より好ましくは0.9<y<=1である。
【実施例】
【0007】
合成方法1は、出発原料にFe, Te, Sを用い、組成比がFeTe1−x (x=0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5)または、Fe(Te1−x0.92 (x=0.1, 0.2, 0.3)になるように表1に示す比率となるように秤量して、グラインドせずに混合し、得られた原料を石英ガラス管に真空封入し、電気炉にて800℃(50℃単位、以下同じ)で1/2日焼成した。
原料に使用したFe,Te,S材料は、以下のものを使用した。
Fe:(株)高純度化学研究所製のFe粉末であって、純度99.9%以上、平均粒径150mmの粒子。
Te:(株)高純度化学研究所製のTe粉末であって、純度99.9%, 平均粒径150mmの粒子。
S:(株)高純度化学研究所製のS粉末であって、純度99%以上。
【0008】
【表1】

【0009】
合成方法2は、出発原料にTe, Sを用い、1:1の比で混合し、石英ガラス管に真空封入し、400℃で1/2日焼成し、全量が反応してTeS化合物を合成した。
TeS化合物は、灰色の粉末として得られた。
このTeS化合物は、S単独の蒸発による問題を低減する目的で、以後の合成に利用した。
得られた試料TeSとFe、TeをFeTe1−x (x=0.1, 0.2, 0.3)の組成比になるよう、表2に示す比率となるように秤量して、10分程メノー乳鉢でグラインドして混合し、石英ガラス管に真空封入し、550〜600℃で1/2日焼成した。得られた試料は、粉砕そして成形し、再度、石英ガラス管に真空封入し、600℃で1/2日焼成した。
なお、TeS化合物以外の原材料は、前記合成方法1と同様のものを使用した。
【0010】
【表2】

【0011】
得られた試料は、X線構造解析により、正方晶のPbO構造が主成分であることを確認した。
上記方法で合成した試料は全て超電導を示した。
代表的な実験結果として、以下に図を示す。
電気抵抗率測定は4端子法を用いて行った。磁化測定はSQUID磁束計を用いて行った。
合成法1で得られたサンプルに対しては、表面が黒くなっているところに4端子を設け電気抵抗率を測定した。
合成法2で得られたサンプルは焼結体で全体が同じ状態なので、ペレットを割り直方体に整形して4端子を設けた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】FeTeと実験No.1,2の電気抵抗の温度依存性を示すグラフ。
【図2】FeTeと実験No.1,2の電気抵抗の温度依存性を示すグラフの低温の拡大図。
【図3】FeTeと実験No.1,2の磁化率の温度依存性。
【図4】結晶構造を示す模式図。
【図5】図1から3の測定に使用した実験No.2の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とした超電導現象を発現する鉄系超電導物質であって、以下の式1を満たすように、FeTe合金にSをドープした組成よりなることを特徴とする鉄系超電導物質。
<式1>
Fe(Te1−x (0<x<1, 0.8<y<=1)
【請求項2】
請求項1に記載の鉄系超電導物質において、正方晶のPbO構造(空間群P4/nmm)を取ることを特徴とする鉄系超電導物質。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−111517(P2010−111517A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282673(P2008−282673)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】