説明

鉄道レール転倒防止装置

【課題】的確なレール転倒防止効果を奏することができ且つ製造コストを抑える。
【解決手段】鉄道レール転倒防止装置(1)はレール転倒防止プレート(12)と板バネ(14)とで構成されている。レール転倒防止プレート(12)は、レール(6)が配設されるレール溝(126)と、第1アーム(134)と、レール反力受け座(136)を備えている。車両の脱線によりレール(6)に横方向の力が作用したときに、第1アーム(134)とレール反力受け座(136)の協働作用によってレール(6)の倒れ角αを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道レール転倒防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の脱線に対する様々な対策が提案されている(例えば特許文献1〜3)。特許文献1は、車輪の側方に且つ隣接して車体から下方に突出するストッパ片を設けることを提案している。このストッパ片は、車輪が脱線したときにレールの側面に係止し、これにより脱線した車両が軌道から逸脱する範囲を規定することができる。
【0003】
周知のように、レールはその下端フランジ部が締結手段によって枕木や軌道スラブに固定されているが、車輪がレールから脱線したときに、脱線した車輪が接地してレール締結手段を破壊してしまう虞がある。このことから、特許文献2は、上記ストッパ片の代わりに、レールの頂部と当接するスロープ部などを備えたガイド部材を設けることを提案している。この特許文献2の提案によれば、車輪が脱線したときに、ガイド部材のスロープ部がレールの頂面に乗って車輪が接地するのを防止することができる。
【0004】
特許文献3は、脱線した車輪によってレール締結手段が破壊されるのを阻止しつつレールが転倒してしまうのを防止する手段として、レール締結手段の近傍にレールの内外の下端フランジの端縁を係止するためのブロック状金具とこれに併設した係合ブロックとを設けることを提案している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−250576号公報
【特許文献2】特開2006−315518号公報
【特許文献3】特開2006−316553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、的確なレール転倒防止効果を奏することができ且つ製造コストを抑えることのできる鉄道レール転倒防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題は、本発明によれば、基本的には、
鉄道のレールを支持する枕の間に設置される鉄道レール転倒防止装置において、
左右の各レールの下に固設され且つ該レールの車幅方向内外に亘って延びるレール転倒防止プレートであって、前記レールの一方の下端フランジと係合する第1アームを備えたレール転倒防止プレートと、
該レール転倒防止プレートに固定され、前記レールの他方の下端フランジと係合する係止手段とを有し、
前記レール転倒防止プレートには、前記レールの一方の下端フランジの車幅方向外端部を受止するためのレール反力受け座が設けられていることを特徴とする鉄道レール転倒防止装置を提供することにより達成される。
【0008】
すなわち、本発明によれば、車両の脱線により車両から下方に延びるストッパ片によって横方向の荷重がレールに付加されてレールが倒れ動作すると、レールの一方の下端フランジは第1アームによって支持されるだけでなく、当該下端フランジの外端がレール反力受け座によって受け止められるため、レールの倒れ角度を小さな値に抑えることができる。
【0009】
また、レールの一方の下端フランジと係合する第1アームを備えたレール転倒防止プレートと、レールの他方の下端フランジと係合する係止手段とを別の部材で構成されているため、レール転倒防止プレートを例えば成形型を使った鋳造や熱間鍛造により製造し、また、係止手段を板バネのようなプレス成型品で作ることができる。したがって、切削加工のような手間や時間を要する方法に依存しなくても製造できるため、鉄道レール転倒防止装置の製造コストを低減でき、また、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0011】
図1は、実施例の鉄道レール転倒防止装置をスラブ軌道に適用した例を説明するための図である。スラブ軌道1は、既知のように、コンクリート路盤上に並置された数多くのコンクリート板2を有し、このコンクリート板2には、上方に向けて突出した枕4が形成されている。枕4の上に敷設されたレール6は、その内外の下端フランジ6a、6bがバネ8を介してコンクリート板2に固定される。なお、図1中、右側に位置するレール6には「R」を付記し、左側に位置するレール6には「L」を付して識別してある。
【0012】
引き続き図1を参照して、左右のレール6R、6Lの夫々に関して、隣接する2つの枕4、4の間に、図外の絶縁プレートを介して鉄道レール転倒防止装置10が設置される。この実施例では、左右のレール6R、6Lに関して、鉄道レール転倒防止装置10は千鳥状に配置されており、各鉄道レール転倒防止装置10は、コンクリート板2に植設された2本のボルト(図示せず)に螺合されるナットNを締め付けることにより固定されている。勿論、左右のレール6R、6Lに関して、全ての隣接する2つの枕4、4の間に鉄道レール転倒防止装置10を設けてもよい。
【0013】
図1は、左右の車輪よりも車幅方向外方に位置して車体から下方に垂下するストッパ片を備えた列車が脱線事故を起こしたときに、当該ストッパ片が外方側からレールと係合してレールを内方側に転倒させてしまうのを防止する意図で鉄道レール転倒防止装置10をスラブ軌道1に設置した例を図示するものであり、これを前提として、以下に実施例を具体的に説明する。
【0014】
図2は鉄道レール転倒防止装置10の斜視図である。鉄道レール転倒防止装置10は、鍛造品からなるレール転倒防止プレート12と、別部材のプレス成形品である板バネ14とで構成されている。レール転倒防止プレート12は鋳造品であってもよい。図3は、レール転倒防止プレート12の要部拡大図である。
【0015】
図2及び図3を参照して、レール6を横断する方向に長い長方形のベースプレート120と、長手方向両端部に夫々設けられた複数の透孔124、124(実施例では透孔124は2つ)と、ベースプレート120の長手方向中央部分に形成され且つベースプレート120の幅方向一端から他端に亘って連続して延びるレール溝126とを有する。レール6はレール溝126の部分を通過する。上記2つの透孔124については、図2において、レール6を挟んで車幅方向内方に位置する透孔には「a」と付記し、外方に位置する透孔には「b」を付記してある。レール転倒防止プレート12は、スラブ軌道1のコンクリート板2に植設されたボルトを透孔124に挿入してナット(図示せず)を締め付けることによりスラブ軌道1に定置されるが、このレール転倒防止プレート12を固定する前に、絶縁プレートがコンクリート板2の上に設置される。すなわち、レール転倒防止プレート12は図外の絶縁プレートを介してスラブ軌道1に固定される。
【0016】
図2において、右上の部分が左右の各レール6R、6Lの車幅方向内側に位置し、左下の部分が左右の各レール6R、6Lの車幅方向外側に位置する。ベースプレート120は、また、レール溝126の内側縁に沿って連続して延びる断面矩形の第1隆起部128と、レール溝126の外側縁に沿って延びる断面矩形の第2隆起部130とを有し、これら第1、第2の隆起部128、130によってレール溝126が規定されると共にベースプレート120が補強される。
【0017】
第2隆起部130は、比較的長い長尺第2隆起部130aと、比較的短い短尺第2隆起部130bとで構成され、これら長尺、短尺の第2隆起部130a、130bとの間に切欠き部132が形成されている。板バネ14は切欠き部132に配設される。
【0018】
図2、図3を参照して、第1隆起部128には、第2隆起部130の切欠き部132に対抗する部位に第1アーム134が設けられ、この第1アーム134の下方にレール反力受け座136が形成されている。なお、第1アーム134は、上記切欠き部132からレール溝126の長手方向にオフセットして配置するようにしてもよい。図3から最も良く分かるように、第1アーム134は、第1隆起部128から上方に延びる起立部134aと、起立部24aの上端からレール溝126の幅方向内方に向けて横方向に延びる係止部134bとで構成された断面逆L字状の形状を有し、係止部134bの先端がレール溝126の幅方向内方に侵入している。すなわち、第1アーム134は、その係止部134bがレール溝126を横断する方向に延びており、そして、係止部134bの先端はレール6の内側下端フランジ6aの基端部に位置している(図4)。また、レール反力受け座136は、レール6の内側下端フランジ6aの外端部を受止するように、レール溝126の内側縁に沿って形成されている。
【0019】
図2を参照して、板バネ14は、平面視したときに、第2隆起部130の切欠き部132に相当する大きさの本体140と、この本体140の一端に形成された第2アーム142を有し、第2アーム142は、起立部142aと、起立部142aの上端からレール溝126の幅方向内方に向けて横方向に延びる係止部142bとで構成されている。
【0020】
板バネ14を受け入れる切欠き部132には、この切欠き部132を規定する長尺、短尺の第2隆起部130a、130bの互いに対抗する壁面132a、132bの夫々に溝138が形成されている。なお、図3では、作図の関係で、長尺第2隆起部130aの壁面132aの溝138だけが描かれており、短尺第2隆起部130bの壁面132bの溝138は現れていない。切欠き部132を規定する壁面132a、132bに形成した溝138に板バネ14を挿入することで、板バネ14の両側縁部が溝138によって係止される。なお、この溝138は、鍛造によりレール転倒防止プレート12を成形した後に切削加工によって形成される。
【0021】
前述したように、レール転倒防止プレート12は絶縁プレートを介してスラブ軌道に設置されるが、先ず、レール転倒防止プレート12をレール6の下に仮位置決めし、次いで、レール転倒防止プレート12を持ち上げて、このレール転倒防止プレート12とスラブ軌道との隙間を作り、この隙間に絶縁プレートが挿入される。この設置の際のレール転倒プレート12の持ち上げ操作を許容するのに必要最小限のクリアランスC(図4)が第1アーム134の係止部134bとレール溝126との間に設定されている。
【0022】
図4は、鉄道レール転倒防止装置10の作用説明図であり、車両の脱線事故によって車両から垂下するストッパ片(特許文献1)がレール6の起立部6cの上端に位置する頂部6dの側面に当接して、レール6を車幅方向内方に向けて転倒させる横荷重Fが加わったときの状態を示す。
【0023】
レール6の頂部6dに加わる横荷重Fによってレール6は角度α傾斜するが、この状態でレール6の内外の下端フランジの6a、6bは、第1、第2のアーム134、142の係止部134b、142bによって拘束され、特に、第1アーム134の係止部134bの先端とレール6の内側下端フランジ6aの基端部との間の係合だけでなく、レール6の内側下端フランジ6aの外端がレール溝126の底面から上方に突出したレール反力受け座136によって受止されることによってレール6の倒れ角αを比較的小さな値に規定することができる。
【0024】
図5は第2実施例としてのレール転倒防止プレート22を示し、図6は第3実施例としてのレール転倒防止プレート32を示す。これら第2、第3実施例のレール転倒防止プレート22、32は上述した第1実施例に含まれるレール転倒防止プレート12の変形例でもあることから、上記第1実施例に含まれる要素と同一の要素には同一の参照符号を付すことにより、その説明を省略する。
【0025】
図5のレール転倒防止プレート22にあっては、レール反力受け座136が、レール溝126の長手方向に分断され、図示の例では、4つに分断されている。勿論、レール反力受け座136をレール溝126の長手方向の一端から他端まで連続して延びていてもよい。
【0026】
他方、図6のレール転倒防止プレート32にあっては、レール反力受け座136が、第1アーム134が臨む部分で分断され、第1アーム134を除く部分に設けられている。これら、図5、図6のレール転倒防止プレート22、32にあっても、図4で説明した作用効果は第1実施例に含まれるレール転倒防止プレート12と実質的に同じ作用効果を奏することができる。
【0027】
図5、図6の第2、第3の実施例の例示から分かるように、レール反力受け座136は、ベースプレート120を横断する方向つまりレール溝126の長手方向に関して一端から他端に亘って連続して設けてもよいし、不連続に設けてもよい。勿論、レール溝126の長手方向一端と他端にだけ設けてもよい。
【0028】
図7は比較例としてのレール転倒防止プレート42を示す。この図7と先に説明した図2などを対比すると直ちに分かるように、比較例のレール転倒防止プレート42にあっては、第1〜第3実施例で説明したレール反力受け座136が省かれている。図8は、比較例のレール転倒防止プレート42の作用効果を説明するための図である。この図8と前述した図4(第1実施例の作用効果)とを対比すると分かるように、比較例のレール転倒防止プレート42の方が、レール反力受け座136が存在していない分だけレール6の倒れ角βが第1実施例の倒れ角αよりも大きい(β>α)。
【0029】
実施例の鉄道レール転倒防止装置10によれば、レール反力受け座136を設けることにより、レール転倒防止プレート12、22、32を設置するのに必要とされる第1アーム134とレール溝126との間のクリアランスCを確保しつつ、第1アーム134と反力受け座136との協働作用によって、脱線事故の際のレール6の倒れ角αを極力小さくすることができ、これによりレール6の転倒を的確に防止することができる。
【0030】
また、第1アーム134を備えたレール転倒防止プレート12、22、32と、第2アーム142を備えた板バネ14とを別の部材で構成したことから、従来から知られている一般的な成型方法や切削方法を使って製造することができるため、鉄道レール転倒防止装置10の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】スラブ軌道に本発明を適用した例を示す図である。
【図2】第1実施例の鉄道レール転倒防止装置の分解斜視図である。
【図3】第1実施例に含まれるレール転倒防止プレートの要部拡大図である。
【図4】第1実施例の鉄道レール転倒防止装置の作用説明図である。
【図5】第2実施例のレール転倒防止プレートの要部拡大図である。
【図6】第3実施例のレール転倒防止プレートの要部拡大図である。
【図7】比較例のレール転倒防止プレートの要部拡大図である。
【図8】図7のレール転倒防止プレートを含むレール転倒防止装置の作用説明図である。
【符号の説明】
【0032】
6 レール
6a レールの内側下端フランジ
6b レールの外側下端フランジ
10 鉄道レール転倒防止装置
12 レール転倒防止プレート
120 レール転倒防止プレートのベースプレート
124 レール転倒防止プレートの透孔
126 レール転倒防止プレートのレール溝
128 レール転倒防止プレートの第1隆起部
130 レール転倒防止プレートの第2隆起部
130a 長尺第2隆起部
130b 短尺第2隆起部
132 第2隆起部の切欠き部
134 レール転倒防止プレートの第1アーム
134a 第1アームの起立部
134b 第1アームの係止部
136 レール転倒防止プレートのレール反力受け座
14 板バネ
140 板バネ本体
142 板バネの第2アーム
142a 第2アームの起立部
142b 第2アームの係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道のレールを支持する枕の間に設置される鉄道レール転倒防止装置において、
左右の各レールの下に固設され且つ該レールの車幅方向内外に亘って延びるレール転倒防止プレートであって、前記レールの一方の下端フランジと係合する第1アームを備えたレール転倒防止プレートと、
該レール転倒防止プレートに固定され、前記レールの他方の下端フランジと係合する係止手段とを有し、
前記レール転倒防止プレートには、前記レールの一方の下端フランジの車幅方向外端部を受止するためのレール反力受け座が設けられていることを特徴とする鉄道レール転倒防止装置。
【請求項2】
前記第1アームの係止部が前記レールの一方の下端フランジの基端部まで延びている、請求項1に記載の鉄道レール転倒防止装置。
【請求項3】
前記係止手段が、前記レールの他方の下端フランジと係合する第2アームを備えた板バネで構成されている、請求項1又は2に記載の鉄道レール転倒防止装置。
【請求項4】
鉄道のレールを支持する枕の間に設置される鉄道レール転倒防止装置において、
左右の各レールの下に設置され且つ該レールの車幅方向内外に亘って延び、前記レールの一方の下端フランジと係合する第1アームを備えたレール転倒防止プレートと、
該レール転倒防止プレートに固定され、前記レールの他方の下端フランジと係合する板バネとを有し、
前記レール転倒防止プレートが、前記レールが位置するレール溝と、該レール溝において前記レールの一方の下端フランジの車幅方向外端部の下方に位置するレール反力受け座とを備えていることを特徴とする鉄道レール転倒防止装置。
【請求項5】
鉄道のレールを支持する枕の間に設置される鉄道レール転倒防止装置において、
左右の各レールの下に固設され且つ該レールの車幅方向内外に亘って延びるレール転倒防止プレートと、該レール転倒防止プレートに固定される板バネとを有し、
前記レール転倒防止プレートが、
ベースプレートと、
該ベースプレートに設けられ、該ベースプレートを横断する前記レールを挟んで車幅方向一方側に位置して前記レールの長手方向に沿って延びる断面矩形の第1隆起部と、
該第1隆起部に設けられ且つ前記レールの一方の下端フランジと係合する第1アームと、
前記ベースプレートに設けられ、前記レールの一方の下端フランジの外端部を受止するレール反力受け座と、
前記ベースプレートに設けられ、前記レールを挟んで車幅方向他方側に位置して前記レールの長手方向に沿って延びる第2隆起部と、
該第2隆起部の一部を切り欠いた切欠き部と、
該切欠き部を規定する互いに対抗する壁面に前記板バネの側縁部を受け入れる溝と、を備えていることを特徴とする鉄道レール転倒防止装置。
【請求項6】
前記第1アームの係止部が前記レールの一方の下端フランジの基端部まで延びている、請求項4又は5に記載の鉄道レール転倒防止装置。
【請求項7】
前記レールの一方の下端フランジが前記レールの車幅方向内側に位置する内側下端フランジであり、前記レールの他方の下端フランジが前記レールの車幅方向外側に位置する外側下端フランジである、請求項4〜6のいずれか一項に記載の鉄道レール転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−155805(P2009−155805A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331764(P2007−331764)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(506070279)テクノメタル株式会社 (7)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)