説明

鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法

【課題】鉄鋼スラグ全般について広く適用することが可能であり、低コストでアルカリ溶出を低下させることのできる鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法を提供すること。また、溶出するアルカリがpH12未満を満足する鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法を提供すること。
【解決手段】鉄鋼スラグの塩基度を測定し、塩基度に応じて鉄鋼スラグの粒度を調整することを特徴とする鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法を用いる。鉄鋼スラグの粒度の指標であるFM値を塩基度の1.36倍超えとすることで、鉄鋼スラグからのアルカリ溶出をpH12未満とすること、鉄鋼スラグ製造時の冷却速度を制御することで、粒度を調整することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法に関し、特に、アルカリ溶出がpH12未満である土木建築用資材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に環境に及ぼす悪影響の点から、土木建築用資材として海砂、山砂、砕石などの天然材を採取・供給することが困難になってきており、代替材として鉄鋼スラグが使用されるようになってきている。しかし、鉄鋼スラグはpHが12以上と強いアルカリ性を示すものが少なからず存在し、出荷ヤードや、出荷後ユーザーの使用中に固結して粒度分布が変化したり、岩盤上に形状が変化したりするため、土木建築用資材としての利用に関し、目的用途に応じた性状が得られず使用不能になる場合がある等の問題がある。また形状を保っていても、近年環境規制は強化される傾向にあり、高アルカリの溶出により使用禁止となることも考えられる。
【0003】
鉄鋼スラグのアルカリ溶出を低下させる手段として、従来から種々の取り組みがなされてきた。例えば、(a)鉄鋼スラグ中に含有されるアルカリを低減させる方法、(b)溶滓を凝固させた後、800〜300℃の温度領域をCO2雰囲気下に保持し、遊離CaOをCaCO3に炭酸化させることにより、炭酸化などの中和処理を行なう方法(例えば、特許文献1参照。)、(c)搬送中の高炉水砕スラグに無機酸又は有機酸を添加剤として用いて中和する方法(例えば、特許文献2参照。)、などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−129672号公報
【特許文献2】特開2002−356352号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「PROBLEMS AND APPROACHES TO THE PREDICTION OF THE CHEMICAL COMPOSITION IN CEMENT/WATER SYSTEMS」WASTE MANAGEMENT、Vol.12、1992年、p.221〜239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(a)〜(c)の方法には、それぞれ以下のような問題点がある。
【0007】
(a)については、アルカリ含有量の低下により、溶出pHが低下する傾向はあるものの、効果の度合いがスラグの種類等により大きく異なる場合があり、高アルカリ溶出を確実に防止するためには、スラグ品種ごとに各々溶出傾向を把握することが必要である。
【0008】
一方、(b)については、高温で炭酸化処理して得られるスラグは、遊離CaO、遊離MgOの膨張により粒径が小さくなる傾向があり、例えば路盤材に用いる粒径40mm程度を主とするような、比較的大きな粒度をもつスラグが得られない場合がある。また、炭酸化するには長時間を要し、かつ高温雰囲気下にする必要があるためコストが高いという問題がある。
【0009】
(c)については、新たな添加剤を添加することはコスト負担の増大を強いられるという問題がある
このように、従来の技術を用いて、鉄鋼スラグ全般について、低コストでアルカリ溶出を低下させることは困難である。
【0010】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、鉄鋼スラグ全般について広く適用することが可能であり、低コストでアルカリ溶出を低下させることのできる鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の目的は、溶出するアルカリがpH12未満を満足する鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意研究・検討行なった。その結果、鉄鋼スラグの溶出アルカリのpHは、鉄鋼スラグの塩基度と粒度との影響を受けるとの知見を得た。塩基度とは、スラグが含有するカルシウムと珪素を酸化物に換算した時の質量比のことをいい、「CaO/SiO2」で表される。
【0013】
つまり、様々な塩基度のスラグにおいて冷却条件を変化させたり、また得られたスラグについて粒度調整を行なったりして、そのときの鉄鋼スラグからの溶出アルカリを調査した結果、鉄鋼スラグからのアルカリ溶出は、鉄鋼スラグの塩基度だけでなく、さらにスラグの粒度にも大きく影響されるとの知見を得た。
【0014】
そして、鉄鋼スラグの塩基度と、粒度の指標となるFM値に関し、FM値が1.36×(塩基度)を超えるよう管理することにより、アルカリ溶出をpH12未満に確実に抑えることができるとの知見を得た。
【0015】
なお、粒度の指標となるFM値とは、粗粒率(FM:fineness modulus)のことであり、80、40、20、10、5、2.5、1.2、0.6、0.3、0.15mmの篩目の各篩で篩い分けたとき、それぞれの各篩にとどまった量の質量百分率の和を100で割った値である。
【0016】
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、その特徴は以下の通りである。
(1)鉄鋼スラグの塩基度を測定し、該塩基度に応じて前記鉄鋼スラグの粒度を調整することを特徴とする鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法。
(2)鉄鋼スラグの粒度の指標であるFM値を塩基度の1.36倍超えとすることで、前記鉄鋼スラグからのアルカリ溶出をpH12未満とすることを特徴とする(1)に記載の鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法。
(3)鉄鋼スラグ製造時の冷却速度を制御することで、粒度を調整することを特徴とする(1)または(2)に記載の鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉄鋼スラグの塩基度に応じた粒度管理だけで、鉄鋼スラグからのアルカリ溶出が少なくなり、極めて安価に且つ大量にアルカリ溶出の少ない土木建築用資材を製造することができる。
【0018】
また、アルカリ溶出がpH12未満である鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】アルカリ溶出方試験方法を示す概略図。
【図2】スラグの溶出試験結果と、FM値と塩基度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る土木建築用資材は、溶融状態の鉄鋼スラグを冷却して得られるスラグの固化体により構成されている。鉄鋼スラグの冷却方法に特に制限はなく、どのような冷却方法であっても構わない。尚、鉄鋼スラグとは、高炉スラグ、転炉スラグ、予備処理スラグ等の鉄鋼の製造過程で副産物として発生するスラグである。
【0021】
鉄鋼スラグからのアルカリ溶出は、スラグ表面から起こっていると考えられる。したがって、スラグ表面に、イオンとなって溶出するCaが多量に存在するほど、高いpHを示すと考えられる。
【0022】
本発明者等は、Caイオンとともに水酸化物イオンが溶出している、すなわちCa溶出がCa(OH)2の溶解によるものとみなして、様々なスラグについて溶出試験を行い、溶出液のCa濃度から計算したpH(OH濃度)と、溶出液の実測pHの関係を調査した。Ca溶出濃度からのpH計算は下記(1)式により行なった。
pH=−log[H+]=14−log[OH-]=14−log(2[Ca2+])・・・(1)
その結果、溶出Ca濃度より算出したpHと実測pHとはほぼ一致しており、このことによりCa含有など成分に関わる因子と溶出アルカリが相関づけられると結論付けた。
【0023】
また細粒ほど比表面積が大きいので、アルカリ溶出量が大きくなる。水酸化物イオンとともに、Caイオンが溶出しているとすると、下記の(2)式が成立する。
[Ca2+]=K×S・・・(2)
但し、K:スラグ種による定数、S:表面積である。
【0024】
また、セメントのCaイオンの溶出は、Ca/Si比に依存することが明らかにされている(例えば、非特許文献1参照。)。すなわち、Caイオンの溶出は塩基度「CaO/SiO2」に依存すると考えられる。
【0025】
以上の結果を踏まえ、本発明者等は、Caイオン溶出濃度とスラグ表面積の関係について、スラグの形状とアルカリ溶出の関係をより分かりやすいイメージにするため、一般的なスラグ品質の指標とされている項目を用いて表すことを試みた。すなわち、Caイオン溶出濃度をスラグ塩基度に、スラグ表面積を粒度の指標であるFM値に置き換えることを、様々なスラグの塩基度とFM値、アルカリ溶出試験結果をもとに試みた。
【0026】
その結果、スラグは塩基度とFM値に関し、FM値が1.36×(塩基度)を超える場合に、アルカリ溶出がpH12未満であるという結論に達した。
【0027】
したがって、土木建築用資材に用いる鉄鋼スラグの塩基度を測定し、塩基度に応じて鉄鋼スラグの粒度を調整することでアルカリ溶出を制御することができる。
【0028】
より具体的には、鉄鋼スラグの粒度を、FM値が塩基度の1.36倍超えとなるように調整することで、鉄鋼スラグからのアルカリ溶出を土壌環境基準等にも対応できるpH12未満とすることができる。
【0029】
鉄鋼スラグの粒度の調整は、鉄鋼スラグの製造時の冷却速度を制御することで行なうことが好ましい。溶融状態のスラグを除冷する際の条件や、溶融状態のスラグを水で急冷する水砕処理の条件を変化させることで、粒度を変化させることができる。スラグの製造条件を変化させる他に、製造後のスラグを適当な粒度に破砕したり、篩い分け等して適当な粒度を有するものを選別して用いたりすることでも粒度調整をすることができる。
【実施例1】
【0030】
試料No.1〜10の鉄鋼スラグについて、スラグの塩基度とFM値を測定した。また各試料についてアルカリ溶出試験を行った。鉄鋼スラグとしては、脱炭スラグ、脱リンスラグ、脱珪スラグを用いた。
【0031】
鉄鋼スラグの塩基度はNa247とスラグを溶融してガラスビードを作製し、蛍光X線による成分分析を行いCaO、SiO2の含有量を求め、その値から算出した。また、FM値は定義通りの80、40、20、10、5、2.5、1.2、0.6、0.3、0.15mmの篩目の各篩で篩い分け、それぞれの篩にとどまった量の質量百分率の和を100で割って求めた。試料No.1〜10の各鉄鋼スラグの塩基度とFM値を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
次に、試料No.1〜10に示す鉄鋼スラグにおいて、有姿の状態でアルカリ溶出試験を行い、スラグからのアルカリ溶出量を測定した。
【0034】
アルカリ溶出試験はタンクリーチング試験法(JIS K−0058−1)で実施した。タンクリーチング試験法は、図1に示すように、製造したままの状態の鉄鋼スラグ1を容器2に収容された溶媒3(脱イオン水)中に試料として浸漬し、溶出する成分の濃度を測定するものである。試験方法及び手順は、採取試料に対する溶媒の比が1:10(試料の乾燥質量の10倍体積の溶媒)となるように試料及び溶媒を容器2に収容し、容器中の上澄みの溶媒部分に攪拌羽根4を投入し、200rpmで溶媒を6時間攪拌した後に溶媒を採取した。採取した溶媒は、測定に必要な分量を孔径0.45μmのメンブランフィルターにてろ過した後に、pH測定を行なった。測定結果を溶出試験pHとして表1に併せて示す。
【0035】
表1において、このまま土木建築用資材として使用するとアルカリ溶出量が多い、溶出試験の結果がpH12.00以上の試料No.8〜10について、鉄鋼スラグの冷却速度の制御または篩い分けにより同一組成のスラグを粗粒化し、これらの試料について試験No.11〜16として、FM値の測定と、アルカリ溶出試験を行った。FM値の測定、アルカリ溶出試験は上記と同様にして行なった。測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、製造されたままの状態では、アルカリ溶出試験の結果がpH12.00未満とならなかった試料No.8〜10においても、冷却速度の制御または篩い分けを行ない、FM値を調整することで試験No.11〜13、15においては溶出試験でpH12.00未満を達成することができた。
【0038】
図2に、スラグの溶出試験結果と、FM値と塩基度との関係について、表1および表2の結果を併せて示す。図2中の番号は試験No.であり、白丸(○)が溶出試験pH12.00未満の場合、黒丸(●)が溶出試験pH12.00以上の場合である。図2中の直線はy=1.36Xを示すものであり、FM値が1.36×(塩基度)を超えるようにすることで、アルカリ溶出試験結果をpH12未満にすることができ、土木建築用資材として好適に利用できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0039】
1 鉄鋼スラグ
2 容器
3 溶媒
4 攪拌羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグの塩基度を測定し、該塩基度に応じて前記鉄鋼スラグの粒度を調整することを特徴とする鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法。
【請求項2】
鉄鋼スラグの粒度の指標であるFM値を塩基度の1.36倍超えとすることで、前記鉄鋼スラグからのアルカリ溶出をpH12未満とすることを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法。
【請求項3】
鉄鋼スラグ製造時の冷却速度を制御することで、粒度を調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉄鋼スラグを用いた土木建築用資材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265130(P2010−265130A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116062(P2009−116062)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】