説明

鉄骨柱脚部の固定構造

【課題】アンカーボルト貫通孔とアンカーボルトとの堅固な固着を維持することができる、鉄骨柱脚部の固定構造を提供する。
【解決手段】柱脚部の固定構造1は、基礎コンクリート90に固定されたアンカーボルト10と、アンカーボルト10が貫通するアンカーボルト貫通孔21が形成されたベースプレート20と、ベースプレート20の立上部21に下端30aが固定された鉄骨柱30と、アンカーボルト貫通孔21を貫通した状態のアンカーボルト10に螺合して、ベースプレート20を挾持する上ナット40bおよび下ナット40aと、アンカーボルト貫通孔21の内周と、アンカーボルト10の外周11(雄ネジ部12)の一部と、上ナット40bおよび下ナット40aと、によって形成されたグラウト注入空間60に注入されたグラウト材70と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄骨柱脚部の固定構造、特に、鉄鋼構造物を形成する鉄骨柱を基礎コンクリートに設置する鉄骨柱脚部の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨柱を基礎コンクリートに固定する露出型柱脚工法において、基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトと、アンカーボルトが貫通するアンカーボルト貫通孔が形成されたベースプレートと、が用いられ、ベースプレートに鉄骨柱が接続されている。このとき、アンカーボルト貫通孔を貫通するアンカーボルトにナットを螺合し、該ナットを締め付けることによって、ベースプレートを基礎コンクリートに押し付けている。
そして、アンカーボルト貫通孔の内径をアンカーボルトの外径よりも大きくして、アンカーボルト貫通孔へのアンカーボルトの挿入を容易にして作業性を向上させると共に、アンカーボルト貫通孔とアンカーボルトとの間隙にグラウト材を注入して、ベースプレートとアンカーボルトとを強固に固定しようとする発明が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭58−53365号公報(第1−2頁、図8)
【特許文献2】特開平7−102639号公報(第3−4頁、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示された発明は、アンカーボルト貫通孔とアンカーボルトとの間隙に注入されたグラウト材(固化している)は、円筒状で、上端面がナット(または座金)によって拘束され、下端面が基礎コンクリート(または、基礎コンクリートの上面とベースプレートの下面との間に充填された後詰めコンクリート)に当接しているため、以下のような問題があった。
【0005】
(あ)すなわち、ベースプレートに水平方向の荷重が作用した際、アンカーボルトは単純梁(二点支持)的な変形と片持ち梁的な変形とが合わさった挙動をするため、アンカーボルトの荷重受け側の面は、軸方向に変位し、グラウト材との間に隙間が生じる。そして、この隙間によってグラウト材は下方に押し出されていた(または、グラウト材を下方に押し出そうとする力が作用していた)。
このため、グラウト材の形状変形や一部の崩壊等によって、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との固着が弱くなるという問題があった。
【0006】
(い)また、鉄骨柱を倒そうとする荷重が作用した際、ベースプレートの一方側は浮き上がろうとするため、一方側に配置されたアンカーボルトは軸方向に引き伸ばされることになる。一方、続いて、鉄骨柱を反対方向に倒そうとする荷重が作用すると、ベースプレートの一方側は基礎コンクリートに押し付けられるものの、前記アンカーボルトには軸方向の力が作用しないことになる。そうすると、グラウト材がアンカーボルト貫通孔の内面に対して摺動(剥離)したり、グラウト材自体が崩壊したりするため、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との固着が弱くなるという問題があった。
【0007】
(う)さらに、アンカーボルトが、鉄骨柱またはベースプレートよりも早期に降伏する構造において、鉄骨柱を倒そうとする大きな荷重が作用した際、一方側に配置されたアンカーボルトは軸方向に引き伸ばされて、永久変形することになる。一方、続いて、鉄骨柱を反対方向に倒そうとする荷重が作用すると、ベースプレートの一方側は基礎コンクリートに押し付けられるものの、前記アンカーボルトには軸方向の力が作用しないから、前記永久変形を残したままになっている。そうすると、当初対向していたアンカーボルト貫通孔の内面(たとえば、ベースプレートの上面に近い点)とアンカーボルトの外面(たとえば、最もナットに近い山)とは、かかる変形の後、軸方向で位相が異なるから、グラウト材がアンカーボルト貫通孔の内面に対して摺動(剥離)したり、グラウト材自体が崩壊したりするため、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との固着が弱くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題を解決するものであって、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との堅固な固着を維持することができる、鉄骨柱脚部の固定構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る柱脚部の固定構造は、基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトと、
該アンカーボルトが貫通するアンカーボルト貫通孔が形成されたベースプレートと、
該ベースプレートに下端が固定された鉄骨柱と、
前記アンカーボルト貫通孔を貫通した状態の前記アンカーボルトに螺合して、前記ベースプレートを挾持する上ナットおよび下ナットと、
前記アンカーボルト貫通孔の内周と、前記アンカーボルトの外周の一部と、前記上ナットおよび下ナットと、によって形成された空間に注入されたグラウト材と、
を有することを特徴とする。
【0010】
(2)また、基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトと、
該アンカーボルトが貫通するアンカーボルト貫通孔が形成されたベースプレートと、
該ベースプレートに下端が固定された鉄骨柱と、
前記アンカーボルト貫通孔を貫通した状態の前記アンカーボルトに螺合して、前記ベースプレートを挾持する上ナットおよび下ナットと、
前記アンカーボルトが貫通し、前記ベースプレートの上面と前記上ナットとの間に配置された上座金と、
前記アンカーボルト貫通孔の内周と、前記アンカーボルトの外周の一部と、前記上座金の一部と、前記下ナットの一部と、によって形成された空間に注入されたグラウト材と、
を有することを特徴とする。
【0011】
(3)さらに、前記(1)または(2)において、前記ベースプレートの上面に、前記空間に前記グラウト材を注入するための注入用凹溝が形成されていることを特徴とする。
(4)さらに、前記(1)乃至(3)の何れかにおいて、前記ベースプレートの上面に、前記空間に注入されたグラウト材が溢れ出すための排出用凹溝が形成されていることを特徴とする。
(5)さらに、前記(1)乃至(4)の何れかにおいて、前記鉄骨柱に横方向の荷重が作用した際、前記鉄骨柱に先行して前記アンカーボルトが降伏することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る柱脚部の固定構造は、アンカーボルト貫通孔の内周と、アンカーボルトの外周の一部と、上ナットおよび下ナットと、によって形成された空間(略円筒状の閉塞空間)に注入されたグラウト材とを有する、すなわち、固化した状態のグラウト材は、上端および下端が拘束されている。
(イ)したがって、ベースプレートに水平方向の荷重が作用した際、アンカーボルトの荷重受け側の面が軸方向に変位しても、グラウト材は前記空間に閉じ込められたままであるから、アンカーボルトとグラウト材との間に隙間が生じることがなく、グラウト材の変形や崩壊が防止され、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との固着が維持される。
(ロ)また、鉄骨柱を一方側およびこれと反対の方向に倒そうとする荷重が作用した際、グラウト材が前記空間に閉じ込められたままであるから、グラウト材のアンカーボルト貫通孔の内面に対する摺動(剥離)やグラウト材自体の崩壊が防止され、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との固着が維持される。
(ハ)さらに、アンカーボルトが、軸方向に引き伸ばされて永久変形した場合でも、グラウト材が前記空間に閉じ込められたままであるから、グラウト材のアンカーボルト貫通孔の内面に対する摺動(剥離)やグラウト材自体の崩壊が防止され、アンカーボルト貫通孔の内面とアンカーボルトの外面との固着が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造を説明する断面図。
【図2】本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造を説明する平面図と底面図。
【図3】本発明の実施の形態2に係る柱脚部の固定構造を説明する平面図と断面図。
【図4】本発明の実施の形態3に係る柱脚部の固定構造を説明する一部の平面図。
【図5】本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造の効果を模式的に説明する側面図であって、(a)は本発明固定構造、(b)は比較固定構造。
【図6】本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造の効果を模式的に説明する側面図であって、(a)は本発明固定構造、(b)は比較固定構造。
【図7】本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造の効果を模式的に説明する側面図であって、(a)は本発明固定構造、(b)は比較固定構造。
【図8】本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造の効果を模式的に説明する側面図であって、(a)は本発明固定構造、(b)は比較固定構造。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態1]
図1および図2は本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造を説明するものであって、図1の(a)は一部を断面にした側面図、図1の(b)は一部を拡大して示す部分断面図、図2の(a)は平面図、図2の(b)は一部を透視した底面図である。
【0015】
(柱脚部の固定構造)
図1において、柱脚部の固定構造(以下「固定構造」と称す)1は、基礎コンクリート90に固定されたアンカーボルト10と、アンカーボルト10が貫通するアンカーボルト貫通孔(以下、「アンカーボルト貫通孔」と称す)21が形成されたベースプレート20と、ベースプレート20に下端30aが固定された鉄骨柱30と、アンカーボルト貫通孔21が貫通した状態のアンカーボルト10に螺合して、ベースプレート20を挾持する下ナット40aおよび上ナット40bと、を有している。
また、アンカーボルト10が貫通し、ベースプレート20の上面20bと上ナット40bとの間に上座金50bが配置されている。
さらに、アンカーボルト貫通孔21の内周と、アンカーボルト10の外周11の一部(雄ネジ部12の一部に同じ)と、下ナット40aの一部(外周側の範囲を除く)と、上座金50bの一部(外周側の範囲を除く)と、によって形成されたグラウト材注入空間60に、グラウト材70(図1の(a)において、梨地状に描いている)が注入され、固化している。
【0016】
(充填モルタル)
基礎コンクリート90の上面にはベースプレート20の鉛直方向のレベル(高さ位置)を調整するためのモルタル(以下、「据え込みモルタル」と称す)91が設けられ、据え込みモルタル91にベースプレート20が載置されている。
また、据え込みモルタル91、下ナット40aを包み込むように、基礎コンクリート90の上面とベースプレート20の下面との間にモルタル(以下、「充填モルタル」と称す)92が設けられている。なお、平面視において、充填モルタル92はベースプレート20よりも広い範囲に設けられている。充填モルタル92の充填要領は限定するものではなく、たとえば、ベースプレート20を包囲する充填用枠(型)を基礎コンクリート90の上面に設置して、かかる充填用枠にモルタルを注入する。
【0017】
(ベースプレート)
ベースプレート20は、平面視において略矩形であって、平面状の下面20aと、下面20aに平行で対角線状の略十字状(中央部を欠く)に形成された上面20bと、上面20bの中央部に形成された環状の立上部22とを有している。
また、立上部22の内側には、下面20aに平行な中央底面24と、下面20aを包囲して立上部22の内壁に繋がる中央傾面23が形成されている。下面20aと中央底面24との距離(中央厚さ)は、下面20aと上面20bとの距離(ナット挾持部厚さ)よりも小さく(薄く)、下面20aと中央傾面23との距離は立上部22に近づく程、大きく(厚く)なっている。
【0018】
また、外周20cと上面20bとに挟まれた平面視における略三角形の範囲は、中央から外周20cに向かって除々に薄くなるように傾斜した傾斜面25になっている。なお、傾斜面25は、外周20cに近い略台形状である傾斜が緩い緩斜面25aと、立上部22に近い略三角形状である傾斜が緩斜面25aよりも大きな急斜面25bと、から形成されているが、急斜面25bが形成されないものであってもよい。
また、外周20cを形成する各稜線の中点には、位置合わせのための突起26が形成されている。
【0019】
(注入用凹溝)
さらに、上面20bには、アンカーボルト貫通孔21にグラウト材70(液状)を注入するための注入用凹溝27が形成されている。注入用凹溝27の底面はアンカーボルト貫通孔21に向かって低くなるように傾斜し、液状のグラウト材70が流れ易くなっているが、本発明はこれに限定するものではなく、水平であってもよい。また、注入用凹溝27の断面形状は限定するものではなく、たとえば、円弧状、U字状等である。
なお、注入用凹溝27はアンカーボルト貫通孔21毎に、円周方向に分散された3条が形成されているが、本発明はその数量を限定するものではない。
たとえば、注入用凹溝27が複数の場合、一方の注入用凹溝27からグラウト材が注入されると、グラウト材注入空間60内の空気は他方の注入用凹溝27から排出され、さらに、グラウト材注入空間60にグラウト材70が満たされた後、他方の注入用凹溝27から溢れたグラウト材が流出することになるため、他方の注入用凹溝27は「排出用凹溝(グラウト材の充填を確認する凹溝に相当する)」に該当することになる。
【0020】
また、注入用凹溝27のアンカーボルト貫通孔21の中心から遠い点(凹溝の始まる点に同じ)によって形成される仮想円の半径のうち最も大きな半径が、上座金50bの半径よりも大きくなっている。したがって、全ての注入用凹溝27が上座金50bによって覆われることがない。特に、注入用凹溝27が複数箇所に分散配置されているから、仮に、上座金50bの位置が変動して、何れかの注入用凹溝27が上座金50bによって覆われたとしても、これを除く注入用凹溝27は上座金50bによって覆われることがない。
さらに、アンカーボルト10が注入用凹溝27に最も近接した場合(注入用凹溝27が形成された位相において、アンカーボルト10がアンカーボルト貫通孔21の内周に当接した場合)でも、注入用凹溝27の全長が上座金50bによって覆われないだけの長さに、全ての注入用凹溝27を形成してもよい。そうすると、仮に、上座金50bの位置が如何様に変動しても、全ての注入用凹溝27のうちの何れかをグラウト注入用にし、これを除く注入用凹溝27のうちの何れかをグラウト流出用にすることができる。
【0021】
一方、注入用凹溝27が1条の場合、アンカーボルト貫通孔21に連通する空気抜き用の細管を注入用凹溝27に配置(挿入)して、注入用凹溝27からグラウト材70を注入すれば、グラウト材注入空間60内の空気は当該細管を経由して排出され、やがて、グラウト材注入空間60にグラウト材70が充満することになる。このとき、上座金50bの位置が変動しても、注入用凹溝27は、その全域(全長)が上座金50bによって覆われない大きさに形成しておく。
【0022】
さらに、ベースプレート20を鋳型によって形成するには、従来の注入用凹溝27のないベースプレートを形成する鋳型を用いて、注入用凹溝27を形成するための「入子」を当該鋳型に設置するだけで済む。したがって、所望の形状で所望の数量の注入用凹溝27を有するベースプレート20を、製造のための金型費用を抑えることで、安価に製造することができる。
【0023】
(上座金)
上座金50bは、円盤状のものを図示しているが、本発明はその形状を限定するものではなく、楕円状であってもよい。
また、上座金50bの一方の面に、グラウト材を注入するための凹溝を形成し、注入用凹溝27を上面20bに形成しないようにしてもよい。あるいは、上座金50bの一方の面に、空気抜きのための凹溝を形成し、上面20bに形成する注入用凹溝27の数量を少なくしたり、前記空気抜きのための細管を不要にしてもよい。
なお、以上は、ベースプレート20の下面20aと下ナット40aとの間に下座金を配置していないが、本発明はこれに限定するものではなく、上座金50bと同様に下座金を配置してもよい。このとき、下ナット40aの大きさに左右されることなく、アンカーボルト貫通孔21の内径を決定することが可能になる。
さらに、下ナット40aの強度を上ナット40bの強度よりも低くして、基礎コンクリート90に作用する圧縮力を低減するようにしてもよい。
なお、本発明はアンカーボルト貫通孔21(アンカーボルト10)の数量や配置を限定するものではない。
たとえば、アンカーボルト貫通孔21(アンカーボルト10)を角部にそれぞれ2箇所設けてもよいし(実施の形態3に示す8本タイプに同じ)、あるいは、外周20cを形成する各稜線の中央(位置合わせのための突起26の位置)で立上部22に近い位置に、それぞれ1箇または複数のアンカーボルト貫通孔21を追加して形成してもよい。
【0024】
[実施の形態2]
図3は本発明の実施の形態2に係る柱脚部の固定構造を説明するものであって、図3の(a)は一部(ベースプレート)を示す平面図、図3の(b)は図3の(a)に示すA−A断面における断面図である。実施の形態2に係る柱脚部の固定構造は、柱脚部の固定構造1(実施の形態1)におけるベースプレート20を、ベースプレート220に変更したものであって、これを除く形態は柱脚部の固定構造1(実施の形態1)に同じであるから、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0025】
図3において、ベースプレート220は、上面20bのアンカーボルト貫通孔21の周囲に砲台状の座28が形成されている。そして、座28に注入用凹溝27が形成されている。したがって、柱脚部の固定構造1(実施の形態1)と同様に、グラウト材注入空間にグラウト材70を注入することができる。
このとき、仮に、上座金50bの位置が変動しても、注入用凹溝27が上座金50bによって覆われることがないから、グラウト材70の注入経路を確保することができると共に、グラウト材70の充填を確認することができる。なお、注入用凹溝27の数量、形状あるいは配置(分布の形態)等は限定するものではない。
【0026】
[実施の形態3]
図4は本発明の実施の形態3に係る柱脚部の固定構造を説明する一部(ベースプレート)を示す平面図である。実施の形態3に係る柱脚部の固定構造は、柱脚部の固定構造1(実施の形態1)におけるベースプレート20を、ベースプレート320に変更したものであって、これを除く形態は柱脚部の固定構造1(実施の形態1)に同じであるから、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0027】
図4において、ベースプレート320は、アンカーボルト貫通孔21が各角部にそれぞれ一対、合計8箇所に形成されている。そして、上面20bのアンカーボルト貫通孔21の周囲には、十字状に注入用凹溝27が形成されている。したがって、実施の形態3に係る柱脚部の固定構造はアンカーボルト10が8本になるだけで、柱脚部の固定構造1(実施の形態1)と同様に、グラウト材注入空間にグラウト材70を注入することができるから、柱脚部の固定構造1と同様の作用効果が得られる。
なお、注入用凹溝27の数量、形状あるいは配置(分布の形態)等は限定するものではなく、実施の形態2に準じて、上面20bのアンカーボルト貫通孔21の周囲に座28を形成してもよい。
【0028】
図4において、ベースプレート320の上面20b(下面20aに平行)は、角部が平面視において波状を呈し、該波状の角部から、ベースプレート320の外周20cの角部に向かって傾斜した角部傾斜面29が形成されている。したがって、ベースプレート320の軽量化を図りながら、ベースプレート320から基礎コンクリート90(正確には、充填モルタル92)に確実に荷重が伝達されるようになっている。
なお、本発明はアンカーボルト貫通孔21(アンカーボルト10)の数量や配置を限定するものではない。たとえば、外周20cを形成する各稜線の中央(位置合わせのための突起26の位置)で立上部22に近い位置に、それぞれ1箇(合計12箇所)またはそれぞれ2箇(合計16箇所)のアンカーボルト貫通孔21を形成してもよい。
【0029】
[効果の確認]
(解析モデル)
次に、柱脚部の固定構造1(実施の形態1)の挙動についてのFEM解析(弾性計算)の結果を簡単に示す。すなわち、下ナットおよび上ナットの両方を具備する本発明固定構造と、下ナットを欠き、上ナットのみ具備する比較固定構造と、について、解析モデルを作成した。
解析モデルは、形状の対称性を考慮して全体の2分の1をモデル化する。したがって、モデル化対象は、円板(外径400mm、厚さ50mm)を半分にした基礎コンクリート、円板(外径400mm、厚さ60mm)を半分にしたベースプレート、円柱(外径48mm)を半分にしたアンカーボルト、円環(外径75mm、内径48mm、厚さ29mm)を半分にした下ナット、円環(外径75mm、内径48mm、厚さ38mm)を半分にした上ナット、および固化している円筒状(外径75mm、内径48mm、高さ67mm)のグラウト材である。
【0030】
(解析条件)
グラウト材とベースプレート間は、引張には抵抗せず圧縮のみに抵抗する接触条件を設定する。同様な接触条件を、グラウト材、アンカーボルト間およびグラウト材、ナット間にも設定する。なお、接触箇所での摩擦は考慮しない。
そして、アンカーボルト1本あたりの設計水平荷重250kNをベースプレートに載荷しているから、解析モデル(2分の1モデル)については、125kNの載荷になる。
このとき、アンカーボルト下端部を固定とし、一方、グラウト材の端面はスライド可能にし、アンカーボルトの軸力は考慮しない。
モデル規模(ソリッド要素(テトラ2次))は、本発明固定構造が、要素数55483、節点数89774であるのに対し、比較固定構造は要素数61782、節点数98598である。
また、アンカーボルト、ナット、およびベースプレートのヤング率は「2.1×10E5(N/mm2)」、ポアソン比は「0.3」とし、グラウト材のヤング率は「2.1×10E4(N/mm2)」、ポアソン比は「0.19」とした。解析計算には「Solidworks simulation 2009 Sp3.0 (Dassault Systemes社製)」を使用した。
【0031】
(解析結果)
(i)水平方向の載荷によってアンカーボルトが略片持ち梁(カンチレバー)的な変形をすることから、グラウト材の上端面(上ナットに当接している)は上下方向(アンカーボルトの軸方向に同じ)に変位し、その変位量は、本発明固定構造では「0.036mm」と僅かであるのに対し、比較固定構造では「0.058mm」になっている。
また、グラウト材の下端面の上下方向(アンカーボルトの軸方向に同じ)の変位は、本発明固定構造では下ナットによって拘束されているから略「0.00mm」と変位を無視することができる。一方、比較固定構造では、アンカーボルト10と基礎コンクリート90との間に隙間が生じることから、グラウト材70が基礎コンクリート90に侵入する方向に、その下端面が「0.07mm」変位している。
【0032】
すなわち、本発明固定構造では、注入されて固化したグラウト材70の両端面が下ナット40aおよび上ナット40bによって拘束され、密閉状態にあることから、グラウト材70のそれぞれの端面における変位が小さくなっている。すなわち、グラウト材70の崩壊が抑えられるから、アンカーボルト10とベースプレート20との固定が、弱くなることなく継続することになる。
一方、比較固定構造では、グラウト材60の両端面における変位が大きく、また、下端面が基礎コンクリート90に侵入するように変位している。したがって、グラウト材70は崩壊するおそれがあるから、アンカーボルト10とベースプレート20との固定が、弱くなるおそれが生じる。
【0033】
(アンカーボルトの永久伸び変形)
図5〜図8は本発明の実施の形態1に係る柱脚部の固定構造の効果を模式的に説明する側面図であって、それぞれ(a)は実施の形態1に係る柱脚部の固定構造、それぞれ(b)は比較のための下ナットを具備しない柱脚部の固定構造である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0034】
図5の(a)に示す実施の形態1に係る柱脚部の固定構造(以下、「本発明固定構造」と称す)1、および図5の(b)に示す下ナットを具備しない柱脚部の固定構造(以下、「比較固定構造」と称す)2において、鉄骨柱30に図中、時計回りの曲げモーメントが作用した場合、ベースプレート20は図中、下面20aの右側縁を支点にして、下面20aの左側縁が浮き上がるように回転する。
そうすると、左側に配置されたアンカーボルト10Lには上ナット40bを経由して引っ張り力が作用する。このとき、かかる引っ張り力が大きいとき、アンカーボルト10Lは降伏して永久伸び変形が生じる。
【0035】
次に、図6の(a)および(b)において、図5の(a)および(b)において作用した曲げモーメントとは反対方向の曲げモーメントが作用したとすると、ベースプレート20は図中、下面20aの右側縁を支点にして、下面20aの左側縁がベースプレート20に近づくように回転する。
そうすると、図6の(a)に示す本発明固定構造1では、左側に配置されたアンカーボルト10Lには下ナット40aを経由して圧縮力が作用する。このとき、かかる圧縮が大きいとき、アンカーボルト10Lは降伏して、先に生じた永久伸び変形を打ち消すように永久変形する。
一方、図6の(b)に示す比較固定構造2では、左側に配置されたアンカーボルト10Lには下ナット40aが設置されていないから、アンカーボルト10Lに圧縮力が作用することがない。そうすると、ベースプレート20の上面20bから上ナット40bが離れることになる。
【0036】
さらに、図7の(a)および(b)において、 図5の(a)および(b)とは反対の方向に曲げモーメント(図6の(a)および(b)において作用した曲げモーメントとよりも大きな曲げモーメント)が作用したとすると、今度は、ベースプレート20は図中、下面20aの左側縁を支点にして、下面20aの右側縁がベースプレート20が浮き上がるように回転する。
そうすると、図7の(a)に示す本発明固定構造1および図7の(b)に示す比較固定構造2では、左側に配置されたアンカーボルト10Lには下ナット40aを経由して圧縮力が作用する。このとき、かかる圧縮が大きいとき、アンカーボルト10Rは降伏して永久伸び変形が生じる。
【0037】
さらに、図8の(a)および(b)において、図7の(a)および(b)に作用していた曲げモーメントが無くなると、ベースプレート20は図中、下面20aの左側縁を支点にして、下面20aの右側縁がベースプレート20に近づくように回転する。
そうすると、図8の(a)に示す本発明固定構造1では、右側に配置されたアンカーボルト10Rには下ナット40aを経由して圧縮力が作用する。このとき、かかる圧縮が大きいとき、アンカーボルト10Rは降伏して、先に生じた永久伸び変形を打ち消すように永久変形する。
一方、図8の(b)に示す比較固定構造2では、右側に配置されたアンカーボルト10Rには下ナット40aが設置されていないから、アンカーボルト10Rに圧縮力が作用することがない。そうすると、ベースプレート20の上面20bから上ナット40bが離れることになる。
【0038】
以上のように、鉄骨柱30に方向が相違する曲げモーメントが作用して、アンカーボルト10が降伏した場合でも、本発明固定構造1ではベースプレート20が下ナット40aと上ナット40bとによって挾持され続けるから、注入された固化したグラウト材70はグラウト材注入空間に密閉された状態に維持される。
一方、比較固定構造2ではベースプレート20から上ナット40bが離れるから、注入されて固化したグラウト材70が、アンカーボルト10の方により堅固に固着した場合には、かかるグラウト材70はアンカーボルト貫通孔21から剥離して、一部がアンカーボルト貫通孔21の外部に抜け出すことになる。
【0039】
あるいは、グラウト材70がアンカーボルト10とアンカーボルト貫通孔21の両方に堅固に固着した場合には、かかるグラウト材70は崩壊して、アンカーボルト貫通孔21から脱落することになる。
よって、特に、アンカーボルト10が降伏するような場合には、本発明固定構造1ではアンカーボルト10とベースプレート20と固定が堅固に維持されるのに対し、比較固定構造2ではアンカーボルト10とベースプレート20と固定が維持されないことが如実に示されるから、前者の顕著の効果が鮮明になる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は以上であって、アンカーボルトとベースプレートと固定が堅固に維持されるから、ベースプレートのアンカーボルト貫通孔とアンカーボルトとの間にグラウト材を注入する各種形態の鉄骨柱脚部の固定構造として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 アンカーボルトの固定構造
2 比較固定構造
10 アンカーボルト
11 外周
12 雄ネジ部
20 ベースプレート
20a 下面
20b 上面
20c 外周
21 アンカーボルト貫通孔
22 立上部
23 中央傾面
24 中央底面
25 傾斜面
25a 緩斜面
25b 急斜面
26 突起
27 注入用凹溝
28 座
29 角部傾斜面
30 鉄骨柱
30a 下端
40a 下ナット
40b 上ナット
50b 上座金
60 グラウト材注入空間
70 グラウト材
90 基礎コンクリート
91 据え込みモルタル
92 充填モルタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトと、
該アンカーボルトが貫通するアンカーボルト貫通孔が形成されたベースプレートと、
該ベースプレートに下端が固定された鉄骨柱と、
前記アンカーボルト貫通孔を貫通した状態の前記アンカーボルトに螺合して、前記ベースプレートを挾持する上ナットおよび下ナットと、
前記アンカーボルト貫通孔の内周と、前記アンカーボルトの外周の一部と、前記上ナットおよび下ナットと、によって形成された空間に注入されたグラウト材と、
を有することを特徴とする鉄骨柱脚部の固定構造。
【請求項2】
基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトと、
該アンカーボルトが貫通するアンカーボルト貫通孔が形成されたベースプレートと、
該ベースプレートに下端が固定された鉄骨柱と、
前記アンカーボルト貫通孔を貫通した状態の前記アンカーボルトに螺合して、前記ベースプレートを挾持する上ナットおよび下ナットと、
前記アンカーボルトが貫通し、前記ベースプレートの上面と前記上ナットとの間に配置された上座金と、
前記アンカーボルト貫通孔の内周と、前記アンカーボルトの外周の一部と、前記上座金の一部と、前記下ナットの一部と、によって形成された空間に注入されたグラウト材と、
を有することを特徴とする鉄骨柱脚部の固定構造。
【請求項3】
前記ベースプレートの上面に、前記空間に前記グラウト材を注入するための注入用凹溝が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の鉄骨柱脚部の固定構造。
【請求項4】
前記ベースプレートの上面に、前記空間に注入されたグラウト材が溢れ出すための排出用凹溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の鉄骨柱脚部の固定構造。
【請求項5】
前記鉄骨柱に横方向の荷重が作用した際、前記鉄骨柱に先行して前記アンカーボルトが降伏することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鉄骨柱脚部の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−12402(P2011−12402A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155287(P2009−155287)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000231855)日本鋳造株式会社 (19)