説明

鉄骨構造物柱梁接合部の梁と平滑内ダイアフラム直結工法

【課題】
従来、建築鉄骨柱梁接合部は角形鋼管柱を建物階毎に切断して通しダイアフラム方式で組み立てて複雑で製作工数が多くかかりダイアフラム外周部の劣化と変形を惹起し、柱を階毎に切断しなくても4面箱形鋼管(4面ボックス)柱とダイアフラムとの間でエレクトロスラグ溶接で多大な溶接量を余儀なくされ超大入熱でダイアフラムと柱の溶接をして柱の割れや劣化が起こしやすくしている。
【解決手段】
本発明では、角形鋼管柱を各階ごとに切断せず、内ダイアフラム端部と角形鋼管柱を小溶接量・低入熱で貫通孔溶接し、更に、H形鋼梁を、貫通孔溶接部を含めて多層盛りの一つの溶接部で溶接接合することによりこれらの問題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築鉄骨構造物の大凡板厚25mm以上で径400以上の柱の柱梁接合部において、内ダイアフラムの周辺端部を直角切りした内ダイアフラム(以下平滑内ダイアフラムという)と梁とを柱貫通孔を通して溶接で直結する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、建築鉄骨構造物の柱梁接合部は、接合部は図1に示すように、薄鋼板によるダイアフラム1と短い角形鋼管2との間で溶接6を施すことによりサイコロを形成させ、このサイコロとH形鋼梁フランジ4を溶接接合7し、更に、該サイコロと角形鋼管柱5とを溶接接合して構成する事が多い。この従来の技術では、図2に示すように、サイコロの角形鋼管2とダイアフラム1との溶接6及びサイコロのダイアフラム1とH形鋼フランジ4の溶接7は裏当金10を用いて片側溶接で実施されている。このダイアフラム1と梁フランジ4との従来溶接方法では、フランジ4の接合予定端部の開先加工をしてから、裏当金10の製作及び裏当金取付の仮付溶接8を行い、本溶接7を実施している。また、ダイアフラム1と角形鋼管2又は5との溶接も角形鋼管2又は5の接合予定端部の開先加工をしてから、裏当金10の製作及び裏当金取付の仮付溶接8を行いダイアフラム1と角形鋼管2又は5との本溶接6を実施している。
【0003】
柱スキンプレートが大凡25mmを超す厚板の柱梁接合部においては、図4の柱横断面図に示すようにエレクトロスラグ溶接で柱5Aとダイアフラム1Aとを溶接接合する方法がよく用いられている。現状では、この方法が最も効率的である。柱の肉厚が大凡25mm以下の場合は、日本では、ロール又はプレスした角形鋼管がよく用いられ、エレクトロスラグ溶接法は通常用いられず炭酸ガスアーク溶接法が用いられている。
【0004】
公開特許公報08−158476にあるように、角形鋼管柱にボルト貫通孔をあけてH鋼構造仕口部内部に内ダイアフラムを取付けこの内ダイアフラムにめねじを加工し,このめねじに、梁端部に取り付けたエンドプレートのボルト孔を通して高力ボルトを入れてエンドプレート側でナットを締めて梁を固定接合することを特徴とする内ダイアフラムと梁の接合を行う方法が開示されている。
【0005】
また、柱面又は角部にスリットを設けて、ダイアフラム又は金物を柱内に挿入する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】公開特許公報08−158476
【特許文献2】公開特許公報07−229243
【特許文献3】公開特許公報2002−146921
【特許文献4】公開特許公報平3−228938
【特許文献5】公開特許公報2007−002658
【特許文献6】公開特許公報平4−289348
【特許文献7】公開特許公報2005−264710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の建築鉄骨柱梁接合部では、殆どが図1で示すサイコロで製作されており、図1及び図2に示すように、ダイアフラム1・角形鋼管2・裏当金10・エンドタブ等部材が多く、溶接6は角形鋼管2の周囲に一周しており溶接量が多い。そのため、部品製作コストが掛かると共に、サイコロ製作後角形鋼管柱から張り出したダイアフラムが折れ曲がり、いわゆる傘折れ現象が起きて、ダイアフラム1と梁フランジ4との間で目違いが起こりやすいと言う問題がある。このようにダイアフラムが柱から張り出していると建物外壁を該ダイアフラムの外に作る必要があり建設上取り合いが悪くなると共に居住空間が狭くなる。また、ダイアフラムの使用材料が増加するなどの問題がある。また、裏当金10を角形鋼管2の端部内周に取付け仮付溶接8を行うのは手間とコストが掛かる。また、角形鋼管2とダイアフラム1の溶接6を全周に亘って行うため、溶接量が多いので溶接残留応力が大きくなるだけでなく、裏当金10を用いると部材4,5との間で切り欠きが出来て応力集中が発生し、強度を弱める結果となる。
【0008】
また、図2に示すように、従来、スカラップ11を用いているが、ダイアフラム1が存在しているために、該スカラップ加工が手間の掛かるものとなっている。スカラップ11を省略するにしてもダイアフラム1の板厚が梁フランジ4の板厚よりも大きいため、梁フランジ4の開先加工が難しい面がある。
【0009】
更に、一般に鋼材溶接熱影響部は脆化し易いという性質があり、従来、2つの溶接部が近接する場合、両溶接部による熱影響部が重なって脆化が更に促進されないように、両溶接部は該熱影響部が重ならないように遠ざけるようにするのが通例である。特に、両溶接部による溶接熱影響が重なった部分が外面に露出するとその部分に応力集中が働いて問題である。図2に示すように柱5とダイアフラム1との溶接部6が、梁4とダイアフラム1との溶接部7に近接し両溶接部に挟まれた共通の溶接熱影響部が外面に生じると該熱影響部は単一の熱影響部よりも脆化しやすいと言う現象がある。このような現象のために、柱梁接合部の脆性破壊強度・疲労強度及び塑性変形性能が低下するという問題が起こる。
【0010】
従来、建築鉄骨の組立は、工場においてサイコロと短尺梁を取り付けてパネルゾーンを製作し、該パネルゾーンに柱を溶接で繋ぎ、通常は建物の3階分の長さに製作し、建設現場でパネルゾーン付きの柱を直立させてから短尺梁間を長尺梁でボルト接合により連結して行う。この従来工法は、梁付きの柱は梁が1メートル程度の短尺とは言え柱に直交して2〜4方向に張り出すことがあるため工場から現場へ運送する効率が悪く、建設現場での梁同士の多数のボルトを使った接合に工数と費用が溶接よりも掛かるという問題がある。
【0011】
一方、図3に示す内ダイアフラム方式の柱梁接合部は、角形鋼管柱の端部から離れた位置にある内ダイアフラム1Aを内部が良く見えない状態で角形鋼管内面に溶接接合させる必要があり、その場合内面の溶接施工が難しくなると共に、角形鋼管柱5の外側のH形鋼梁フランジと高さ位置を合わせることが難しく梁フランジから内ダイアフラムへ応力が伝えにくくなり柱梁接合部の強度が低下しやすいという問題が存在する。当然のことながら、この内ダイアフラム方式では、該内ダイアフラムを角形鋼管内面に溶接するため、角形鋼管を内ダイアフラムの近傍で切断する必要がある。更に、その切断によるその後の突合せ溶接が必要になり、それらの工数が大きく掛かることになる。
【0012】
また、従来はダイアフラムと角形鋼管の短管からサイコロを製作する小組立工程と、それから、このサイコロにH形鋼梁を取り付ける中組立と、サイコロにH形鋼梁を取り付けたものに角形鋼管柱を取り付ける大組立を行う方法を採用している。この従来方法では、角形鋼管柱は各階ごとに切断して溶接接合する必要があり、複雑で製作工数が大きく掛かると言う問題がある。
【0013】
また、公開特許公報08−158476では、ボルト孔が角形鋼管柱を貫通させているので、角形鋼管の強度が低下するし、この強度低下を補うためにはかなりの厚肉の角形鋼管柱を使用する必要がある。角形鋼管柱は各階ごとに切断して溶接接合する必要がある。また、本方法では、かなり大きなエンドプレートを必要とする。
【0014】
公開特許公報07−229243では、内ダイアフラムをエレクトロスラグ溶接法により4面箱型鋼管柱に接合される方法や柱軸方向のスリットを柱に設けて該スリットと内ダイアフラムを縦方向に溶接する方法が述べられている。これらはいずれも鋼管柱内部に収まる内ダイアフラムを用いておりエレクトロスラグ溶接法では裏当金を用いても内ダイアフラムは柱内面及び裏当金から大きく後退させている。この内ダイアフラムはその端部が直角切りされている。このエレクトロスラグ溶接では、500〜1000KJ/cmの大入熱でなされ柱及びダイアフラムの靭性・延性が大きく低下しやすい上に、梁フランジとダイアフラム間に挟まれた柱鋼管板は板厚方向の溶接残留応力や構造からくる応力を受けてラメラテア(割れ)が懲りやすいので問題である。
【0015】
公開特許公報2002−146921では、鋼管柱の4面に細長い四辺形のスリットを設けて、内ダイアフラム端部とスリットを溶接して一体化されて断面がT字形の溶接部を形成させる方法が提示されている。この場合は、内ダイアフラムの外周部は直角切りされている。この場合は、四辺形のスリット端部では溶接欠陥が発生しやすいという問題がある。また、スリットの断面積の指定が無いので、梁からの力に対してスリット部での安全性が確保出来ないという問題がある。また、柱内壁と内ダイアフラムとの間に隙間の記述が無くスリット底部の溶接溶け込みが安定的に得られないという問題がある。
【0016】
公開特許公報平3−228938では、角形鋼管柱の角部に横スリットを設けて、裏当金を用いて水平補強プレートの縁端部を横スリット内に溶接固着させる方法が記載されている。この構造からすると出願書類の図2に示すように水平補強プレートは分割せざるを得ず柱内部は空洞で水平補強プレートに梁軸方向からの剪断力を十分に受け止めることができないという欠点がある。また、裏当金を密閉された長い柱内に取り付けることが難しいという問題がある、
【0017】
公開特許公報2007−002658では、角形鋼管柱面に全周に亘る横スリット即ちスロットを設けて、そのスロットの内側即ち角形鋼管柱内部に内ダイアフラムを設ける方法が提示されている。この方法は、角形鋼管柱と内ダイアフラムとの溶接が全周に亘るので、スロットの断面積が柱肉厚(板厚)と梁フランジ肉厚(板厚)が増すほど大きくなり、溶接量が飛躍的に大きくなるという問題があり、溶接能率が低下するという問題がある。柱の全周に亘る溶接なので柱軸方向の溶接収縮が有り切断した柱シャフト間の曲がりや方向も正確にする必要がある。この場合は、内ダイアフラムの外周部は直角切りされている。また、スリットの断面積の指定が無いので、梁からの力に対してスリット部での安全性が確保出来ないという問題がある。また、柱内壁と内ダイアフラムとの間に隙間の記述が無くスリット底部の溶接溶け込みが安定的に得られないという問題がある。
【0018】
公開特許公報平4−289348では、適用柱は角形鋼管であり、4面ボックスを想定していない。本願は、角形鋼管柱面に縦方向即ち柱軸方向に縦スリットを柱面当たり4個の貫通孔を開けて、いわゆるダイアフラムを用いず金物を4個に分けて、金物の端面の突上条を取付けその突条部を縦スリットの中に挿入して柱と溶接する方法である。この方法には、次の問題がある。即ち、
(1)単なる縦スリットではスリットの端部の溶接が角張っていて溶接時に欠陥が出やすい。
(2)縦スリットの個数が多い上にビス留めの孔が多数必要であるので孔明けのコストが掛かる。
(3)複雑な形状の金物が分割型で1個の柱梁接合部に対して8個必要である。従って、ダイアフラムのような単純な1枚板に比べてコストが掛かる。
(4)金物の固定ビスが必要でビス取付の貫通孔が柱に対し断面欠損となり、ビス留め時の雨水等に対し養生が必要である。
(5)金物本体が梁軸方向に対し45°の斜材になっており、梁軸方向の荷重に対し十分な耐力が得られにくい。
(6)金物・ビス・多数の孔明け等が有り、部品数が多く形状が複雑で、組立が難しくてコストがダイアフラム方式に比べ高くなる。25mmを超える柱肉厚に対して適用は難しい。
【0019】
公開特許公報2005−264710では、適用柱は角形鋼管であり、4面ボックスを想定していない。角形鋼管柱面に部分的に柱貫通の横スリット即ちスロットを設けて、そのスロットの内側即ち角形鋼管柱内部に内ダイアフラムを設ける方法が提示されている。この方法は、角形鋼管柱と内ダイアフラムとの溶接が部分的になるのであるが、スロットの断面積が溶接すべき対象となり柱肉厚(板厚)と梁フランジ肉厚(板厚)が増すほど大きくなり、溶接量が飛躍的に大きくなるという問題があり、溶接能率が低下するという問題がある。
【0020】
目的
本発明は、柱を各階ごとに切断することなく、大径柱の板厚25mm以上の建築鉄骨構造物の柱梁接合部の柱と内ダイアフラムの大入熱溶接による脆化を防止し、内ダイアフラムと梁フランジの溶接による柱のラメラーテアを防止すると共に、柱と内ダイアフラムの溶接開先加工を単純化して溶接量を低減し溶接効率を高め、柱の製作コストを低減させ、スカラップ加工や裏当金を省略して梁端の溶接を省力化すると共に、応力集中を緩和し、更に、該仕口部の強度及び塑性変形性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような諸課題は、種々研究した結果、図1及び図2に示すような部材1と2で構成されるサイコロではダイアフラムの柱からの張り出しを無くして、例えば図4に示すような柱貫通のスロットを設けて内ダイアフラムと該スロットを溶接する方法が公開特許公報2007−002658にも提示されている。しかし、これでは厚板の柱と内ダイアフラムに対しては大きな溶接部が必要である。そこで、内ダイアフラムを、角形鋼管柱の階ごとの切断をすることなく、梁位置に相当する柱面に梁フランジ横断面形状より少し大きくし長さを柱径の4/5以下に短くした貫通孔を開けて、柱5とダイアフラム1との溶接部6を貫通孔溶接にして、梁4を、該貫通孔溶接部を含めて溶接接合させれば解決することを見いだした。但し、閉じられた角形鋼管柱内では内ダイアフラムを挿入することができないので、4枚の鋼板から溶接で組み立てて製作される4面ボックス柱では、溶接組み立てる前に内ダイアフラムを部分的長さの横方向貫通孔位置に定置して、4面の鋼板を組み立ててから柱を柱軸方向の縦シーム溶接してしかる後に内ダイアフラムと鋼管柱貫通孔を溶接する手順となる。
【0022】
本発明における内ダイアフラムの定義は、貫通孔以外の場所でダイアフラムの外形の角の4隅が柱内径よりも小さいダイアフラムを内ダイアフラムという。
【0023】
そこで、請求項1に係る発明では、建築鉄骨構造物の断面が四角形の4面箱形鋼管(4面ボックスという)柱を溶接組立する場合、同一ダイアフラム面内において、次の構成要素からなる。発明の第1の構成は、該4面箱形鋼管柱の少なくとも梁フランジ取付け位置の柱面の板厚25mm以上の鋼板即ちスキンプレートに、断面が四角形の4面箱形鋼管柱を組立する前に、柱径の4/5以下の長さで梁フランジ幅以上の長さの円形・楕円形又はダンベル形状の貫通孔を水平方向に設けることである。柱面の大凡板厚25mm以上としたのはこれ以下の板厚では通常の炭酸ガスアーク溶接法で容易に溶接できるからであり、貫通孔端部の外面形状を図6に示す端部が円弧の長孔又は図7に示すダンベル状にしたのは、その端部の溶接溶け込みを容易にし且つ貫通孔を開けるときに両端を錐で孔明けした後にガス切断等で端部錐孔を連結切断しやすいからである。特に、貫通孔端部を円弧でより大きな錐孔にすると2つの錐孔を連結して切断しやすいからである。貫通孔としたのはダイアフラムと鋼管柱とを柱スキンプレートの全厚に亘り柱の外面から溶接接合させるためであり、柱スキンプレートの板厚方向の力が掛かりにくくして柱のラメラーテアを防止するためである。横方向貫通孔長さを柱径の4/5以下の長さとしたのは、これ以上の長さだと貫通孔の柱の径方向の端部では柱縦継手に裏当金がついていて貫通孔と干渉するからであり、更に溶接量も増大して効果が減じるからである。また、貫通孔長さを梁フランジ幅以上の長さとし貫通孔短径幅以上としたのは、梁フランジ断面積を確保して梁の応力を確実に内ダイアフラムに伝えるためである。発明の第2の構成は、梁軸に直列する方向のダイアフラムと柱フランジ側面との溶接部縦断面積の和は、直列する方向の梁フランジの横断面積の和の√3(=1.7321)倍以上とする。これは、梁フランジが受けた軸方向荷重が内ダイアフラムを経由して内ダイアフラムと柱側面の溶接部に剪断力として掛かるのでフランジが受けた軸方向荷重を耐力として100%受け止めるために必要である。発明の第3の構成は、近接する内ダイアフラムの外周端部を平滑にして、該4面箱形鋼管柱を4枚の鋼板から溶接組立する前に、ダイアフラムの位置決め用ストッパーとして柱内面に取り付けた柱縦継手用裏当金端部を用いてダイアフラムの位置決めを容易にする。内ダイアフラム外周端部は平滑なので貫通孔に対して位置決めが難しいから該4面箱形鋼管柱縦継手の裏当金の端部位置を利用して位置決めするのである。発明の第4の構成は、柱内面とダイアフラム端面との間に0.5mm〜4mmの隙間を開けて貫通孔とダイアフラムの溶接のルート部の溶け
込みを容易にさせる。この隙間があると溶接ルート部の熱容量が小さくなって溶接ルート部の溶け込みが容易になる。この隙間が無くて柱内面とダイアフラム端面が密着すると、この溶接ルート部の溶け込みが容易でなくなる。また、この隙間があると炭酸ガス溶接の作動ガスである炭酸ガスが隙間から裏面に逃げやすくなり、この隙間に存在する汚れから発生するガスなども炭酸ガスと共に排出されてこのルート部のブローホール等の欠陥が発生しにくくなる。これは、エレクトロスラグ溶接では、裏当金と柱内面の隙間又は裏当金と内ダイアフラムの隙間が空くと溶融金属がその隙間から漏れて欠陥ができることと大きな違いである。
発明の第5の構成は、該4面箱形鋼管柱を4枚の鋼板から溶接組立して製作することである。その溶接組立は柱の長手方向に裏当金を取り付けて柱の外面から通常サブマージアーク溶接で接合される。発明の第6の構成は、該4面箱形鋼管柱の少なくとも外面から該貫通孔とダイアフラム端部を溶接することにより、H形鋼梁フランジの板厚よりも大きい板厚の内ダイアフラムと4面ボックス柱との溶接をすることである。H形鋼梁フランジの板厚よりも大きい板厚の内ダイアフラムを用いるのは梁フランジに係る荷重を十分に支えるためである。発明の第7の構成は、該貫通孔とダイアフラムの溶接部を含めた角形鋼管柱とH形鋼梁フランジとを溶接接合することである。該貫通孔とダイアフラムの溶接部の上にH形鋼フランジを取付けて、溶接の余盛りは梁フランジの板厚よりも広がるので鋼管柱の母材まで掛かることになる。発明の第8の構成は、該4面箱形鋼管柱は4枚の鋼板から構成されてそれを組み立てて製作するので少なくとも外部からの溶接は必須であり、その柱の組み立て完了前には内部は密閉されておらず内部の少なくとも一部は鋼管内部も溶接可能であり、ダイアフラムの柱内部への挿入時に柱とダイアフラムの継手は内面から溶接可能とならしめていることである。
【0024】
本発明における構成を先行技術文献との比較でまとめると次の通りである。表中の符号は、本願構成因子と一致しない場合×、本願構成因子に関して記載なしは△、本願構成因子と一致している場合○と表記する。
【表1】

【0025】
本発明は、先行文献2を対象としてその問題点を解決し改良するためのものである。先行文献2は、本出願発明と比較すると本願構成因子のc,d,e,g,h,j,k,l,m,pを含んでいないか記載がない。また、他のいずれの先行技術文献も一致している構成因子は半分以下である。特に、「貫通孔平面形状:長孔又はダンベル形状」、「ダイアフラムと柱スキンプレートの溶接断面積」「内面とダイアフラムとの間に0.5mm〜4mmの隙間」及び「柱とダイアフラムの継手は内面からの作業で溶接が可能」である構成因子は本願発明の独自のものである。尚、エレクトロスラグ溶接は一見して内面からの溶接に見えるが柱を組み立てた後に柱外面からの貫通溶接で柱内面とダイアフラムを溶接接合している。このエレクトロスラグ溶接では裏当金は内面からの作業で柱内面・ダイアフラムと裏当金とを溶接しているが柱本体とダイアフラム本体との溶接は作業として内面から行っていない。このように、個々の構成因子が既知であっても、多数の構成因子が組み合わさった場合の複合的な構成は当業者でも容易に想到できない新規性を発揮する。
【0026】
請求項1に係る発明は、柱スキンプレート肉厚が大凡25mm以上の4面箱形鋼管(4面ボックス)柱を対象としており、その新規性は、主なものは次の通りである。
(1)4面箱型鋼管柱組立時に外周面を平滑に直角切りした内ダイアフラムを柱の組立前に予め柱内に組み込むこと。
(2)4面箱型鋼管(4面ボックス)柱面に全周ではなく柱径方向即ち横方向に部分的水平方向に開けた貫通孔と、内ダイアフラムを溶接すること。従って、この場合、柱の角部を含めた全周に亘る柱鋼板の全幅及び全板厚貫通孔空間全てに対する溶接が不要である。
(3)4面箱型鋼管柱に開口したこの貫通孔の横方向端部は円弧・楕円弧である。従って、貫通孔の平面形状は長孔又はダンベル形状である。
(4)4面箱型鋼管柱の貫通孔の横方向長さは梁フランジの幅以上で通常は柱径の1/2程度であるが、最大柱径の4/5の長さである。
(5)内ダイアフラム端部と柱貫通孔とは溶接が容易にできる。その場合、梁軸に直列する方向の内ダイアフラムと柱スキンプレート端面の2方向溶接部縦断面積の和は、直列する方向の梁フランジの横断面積の和の√3(=1.7321)倍以上とする。
(6)少なくとも貫通孔付近の柱内面とダイアフラムとの間に0.5mm〜4mmの隙間
(7)箱型鋼管柱において、エレクトロスラグのような500〜1000KJ/cmの大入熱が不要で通常の炭酸がガス溶接で通常15〜40KJ/cmの低入熱でエレクトロスラグよりも約75%も少ない溶接量と1/10以下の溶接入熱と10倍以上の溶接速度で高能率な施工が可能である。柱スキンプレートの脆化やラメラーテア発生の心配もない。
(8)内ダイアフラムと該柱貫通孔との溶接部に重ねてH形鋼梁を溶接接合し、内ダイアフラムと角形鋼管柱と梁フランジの溶接部を多層溶接で一体化させることである。
このような新規性を同時に保有する本願発明は、柱の板厚の大きい4面箱形鋼管柱に対し既存の板厚の小さい角形鋼管の構成を用いると、特に施工能率面で種々の障害特に溶接量と溶接入熱に障害があり、既存の発明からは上記の発明構成は容易に想到できるものではない。特に、溶接量を大幅に減らして小入熱で高能率性を確保した上で上記の発明構成をすることは容易に想到できるものではない。
【0027】
請求項2に係る発明では、その構成は、図17に示すように、内ダイアフラムの板厚を梁フランジの板厚よりも大きくすると共に、貫通孔の短径幅を梁フランジ板厚以下にして、少なくとも梁フランジの取り付く側の柱の内平面と内ダイアフラム、及び、柱の外面から貫通孔と内ダイアフラムとを溶接したことである。この場合、内ダイアフラム外周角部を開先加工する場合もある。内ダイアフラムの板厚を梁フランジの板厚よりも大きくするのは、梁フランジからの力を100%受け止める耐力を持たせるためであり、梁フランジと内ダイアフラムとのズレがあっても梁フランジが内ダイアフラム端面の面内に収まるよう
にするためである。柱の外面から貫通孔と内ダイアフラムとを溶接することは不可欠であるが、貫通孔の幅を梁フランジ板厚よりも小さくするのは、貫通孔の溶接量を減少させるためである。貫通孔の幅を梁フランジ板厚よりも小さくすると梁フランジの板厚分の断面積が内ダイアフラム端面部で確保できないのでその不足分を少なくとも梁フランジの取り付く側の柱の内平面と内ダイアフラムとを柱を組み立てる前に柱の内面から溶接して、不足している梁フランジの板厚分の断面積を補うためである。通常は内面からの溶接と柱外面からの溶接とはつながって完全溶け込みとする。完全溶け込みの場合には、通常は、内側の溶接を裏波溶接で先に行うか又は内側の溶接を施工した後にはつりを行い、外側の溶接をあとに行うが、外側の溶接の第1層目は大電流で十分な溶け込みを確保して内側の溶接部まで溶け込ませる必要がある。尚、完全溶け込みしなくても溶接の断面の合計が梁フランジ板厚よりも大きければ良い。このように、柱の内平面と内ダイアフラムとの内面溶接は柱外面からの溶接と繋がらずに不溶着分を設ける場合もある。
【0028】
請求項3に係る発明では、その構成は、請求項1〜2に記載の発明において、梁フランジと柱の溶接部の幅の狭い側に補強板を取り付けて、少なくとも補強板の梁軸方向柱側端部と柱、及び梁軸方向梁側端部と梁フランジを完全溶け込み溶接することである。本方法の目的は、梁端ウエブと柱との溶接部で柱の内部が空洞で梁端ウエブの曲げモーメントの負担が期待できないのを補うため、梁フランジ端部側面の応力集中を緩和するため又は梁フランジ端部を補強して梁せいを低減するためである。梁フランジとダイアフラムの溶接部の幅の狭い側に即ち開先ルート側に補強板を取り付けるのは、溶接部の広い側からの超音波探傷検査が容易になるためである。
【0029】
請求項4に係る発明では、その構成は、請求項1〜3に記載の発明において、4面箱型鋼管角部の溶接用裏当金を少なくとも内ダイアフラム設置位置で切断し内ダイアフラムの位置決めをするためのストッパーとして該溶接用裏当金を用いることが特徴である。即ち、柱縦継手裏当金と内ダイアフラムストッパーを兼用させることが構成要素の1つになっている。本願発明において、溶接容易で1枚ものの内ダイアフラムをいかに決められた内径の厚肉柱内に柱縦継手用裏当金をストッパーとして利用して位置決めしてシンプルに組み込むかという観点からは他の特許出願では皆無である。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に係る発明では、対象が断面を四角形とする4面箱形鋼管(4面ボックス)柱なので、1枚板の内ダイアフラムを柱組立前に予め柱面に設けた貫通孔位置に組み込めるという特徴があり、プレス成形角形鋼管柱や圧延鋼板角形鋼管柱では容易に内ダイアフラムを予め柱内に組み込めない。従って、このように柱面に設けた貫通孔内に組み込めば貫通孔長さは柱周長よりも約半分と小さいので溶接量が大幅に低減できる。エレクトロスラグ溶接法に比較したら溶接部の断面積が約2/3になり、溶接長さは柱面一面当たり梁フランジの幅になるので柱の周方向の長さは平均的に約1/2になる。従って、この場合は、溶接量が約1/3になる。即ち、該一体化及び角形鋼管柱の切断無しの通し柱により、柱の切断作業をなくすると共に柱の溶接量がエレクトロスラグ溶接方法に比較して66%程度低減し溶接能率が向上する。エレクトロスラグ溶接法のような内ダイアフラムの端部両側に側面当て板(裏当金とも言う)が不要で、溶接終始端部の孔明け、エンドタブの取付と除去、及び始終端処理が不必要になり、溶接入熱は500〜1000KJ/cmに対し、本方法では15〜45KJ/cm(通常は15〜40KJ/cm)と低いのでダイアフラムと梁フランジとの間に挟まれた柱フランジの延性・靭性の劣化やラメラーテアなどの
割れの心配もない。また、従来の通しダイアフラム方式では通しダイアフラムの上下に全周溶接が2カ所有り、しかも通しダイアフラムに懸かる溶接余盛り高さを板厚の1/4を必要とするので、通しダイアフラム方式に比較して溶接量は1/4に低減する。
【0031】
請求項1に係る発明では、予め内ダイアフラムを柱内に組みこむので階毎に柱を切断する必要がない。柱を切断する必要がないということは、階毎に柱を切断する場合と比べると、階毎の大組立が不要であり柱の切断長さや溶接ひずみなどの柱長さや梁の方向など組立精度が良好である。
【0032】
請求項1に係る発明では、内ダイアフラムが柱の外面より外にはみ出ていないので、いわゆるダイアフラムの外縁が傘状に曲がる傘折れ現象が無く、建物外壁取付の取り合いが良くて、且つ、ダイアフラムの張り出しがあった分だけ建物室内空間が増加するという効果がある。少なくとも柱長管部材溶接部と梁端溶接部を個別に溶接し、両者を繋げて一体化させることにより、従来の柱・ダイアフラム間の溶接とダイアフラム・梁端の溶接によるダイアフラム張り出し部の熱歪脆化を防止することができる。内ダイアフラムの使用材料が従来の通しダイアフラムよりも20〜50%程度減少し省資源になる。また、内ダイアフラムと角形鋼管柱との溶接、及び該貫通孔溶接部を含めた角形鋼管柱梁端溶接を個別に溶接し、両者を繋げて一体化させることにより、柱と梁の応力の伝達がスムーズになる。更に、内ダイアフラムの位置は貫通孔溶接位置で明確に認識できるので内ダイアフラムと梁フランジとのずれが問題になることはない。また、ダイアフラムが角形鋼管柱を貫通していないので、内ダイアフラムのラメラーテアが問題になることもない。
【0033】
請求項1に係る発明では、公開特許公報2002−146921に係る発明のスリットはあるが4面ボックスのような厚板の柱ではスリットの記述がない。
【0034】
請求項2に係る発明では、内ダイアフラムの板厚を梁フランジの板厚以上とするのは当然であるが、柱貫通孔の幅を梁フランジ板厚以下にして、少なくとも梁フランジの取り付く側の柱の内平面と内ダイアフラムとの溶接、及び柱の外面から貫通孔と内ダイアフラムとを溶接し、柱の内外面に分けて溶接するので、全体としての溶接量は柱外部から片側のみ溶接を行うよりは少なくなるという利点がある。
【0035】
請求項3に係る発明では、内ダイアフラムと梁フランジの溶接部のビード幅の狭い側の梁端部に補強板を取り付ければ、梁端のウエブの曲げモーメント負担のできない分を補強すると共に積極的に梁端部を強化することもでき、更に梁フランジ溶接幅の広い方からの超音波探傷検査も可能になるので、梁端部の破壊に対する安全性が増加し、場合により梁サイズを小さくして鉄骨重量を低減させることも可能である。鉄骨重量を下げる事はコスト低減だけでなく、炭酸ガス排出も低減させることができ、環境保全に役立つ。また、梁フランジの溶接部のビード幅の狭い側の梁端部に補強板を取り付ければ、ビード幅の広い側に付けるよりも超音波探傷検査などの検査が容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来の建築鉄骨柱梁接合部の立体図の一例
【図2】従来の建築鉄骨柱梁接合部の角形鋼管柱・ダイアフラム・梁フランジ接合部の断面図
【図3】角形鋼管柱内部に装填された内ダイアフラムの施工状況を示す断面図
【図4】従来のエレクトロスラグ溶接を実施する4面箱形鋼管柱の横断面図
【図5】従来のエレクトロスラグ溶接を実施する4面箱形鋼管の縦断面図
【図6】4面箱形鋼管の面に梁フランジ断面形状に似せて開けた端部が円弧の貫通孔の外観図
【図7】4面箱形鋼管の面に梁フランジ断面形状に似せて開けたダンベル状の貫通孔の外観図
【図8】柱と内ダイアフラムの溶接部断面図、及び梁横断面図を説明する柱梁接合部横断面図
【図9】内ダイアフラム端部を柱フランジ貫通孔内に挿入して内ダイアフラムを4面箱形鋼管内に装着した状態の貫通孔中央断面図。(A)はダイアフラム全周に亘ってその外周面と柱内面の間に隙間0.5〜4mmを明けた場合を示し、(B)は貫通孔貫通孔部分より大きめの範囲に該隙間0.5〜4mmを明けた場合を示す。
【図10】裏当金及びダイアフラムストッパーの 取付け状況 (A)裏当金及び内ダイアフラムストッパーの無い状態、(B)裏当金を取り付けた状態、(C)ストッパをダイアフラムの片方に取り付けた状態、(D)ストッパを内ダイアフラムの両方に取り付けた状態、(E)裏当金を用いて貫通孔の柱内面側に開先を設けた状態、(F)裏当金を用いて貫通孔の柱内面側に部分開先を設けた状態
【図11】組み立てる前の4面ボックス用鋼板の準備状況の説明図。予め貫通孔を柱鋼板に開けてある。
【図12】内ダイアフラムを4面ボックス用鋼板の2面の中に組み込められる初期組立状況。
【図13】内ダイアフラムを4面ボックス用鋼板の3面の中に組み込められる中間組立状況。
【図14】内ダイアフラムを4面ボックス用鋼板の4面の中に組み込められた中間組立状況。
【図15】ダイアフラムを4面ボックス鋼管柱の部分貫通孔に組み込んで、内ダイアフラムと柱とを溶接し、更にその溶接部の上に、肉諸溶接した梁端を合わせて梁フランジの溶接を重ねて行う状況を示す図。
【図16】内ダイアフラムと角形鋼管柱とを貫通孔溶接し、梁フランジの内側に補強板を完全溶け込み溶接させて貫通孔溶接部に重ねて溶接し、梁ウエブを角形鋼管柱にすみ肉溶接した断面図
【図17】貫通孔の幅を梁フランジ板厚以下にして、少なくとも梁フランジの取り付く側の柱の内平面と内ダイアフラム、及び柱の外面と内ダイアフラムとを溶接したことを示す断面図
【図18】内ダイアフラムと角形鋼管柱とを貫通孔溶接し、梁フランジを貫通孔溶接部に重ねて溶接し、梁ウエブを角形鋼管柱にすみ肉溶接した横断面上面図
【図19】内ダイアフラムと梁フランジ直結の柱梁接合部で梁フランジの裏面に肉盛溶接を施した場合の縦断面図
【図20】内ダイアフラムと梁フランジ直結の柱梁接合部で内ダイアフラムの端部両面及び梁フランジの裏面に継手溶接前に予め肉盛溶接を施した場合の縦断面図
【図21】梁端部側面に肉盛溶接を実施した場合の柱梁接合部
【図22】4面ボックスの溶接縦継手用の裏当金が内ダイアフラム角部を貫通させた場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0037】
請求項1に記載の発明において、図11〜図14に本発明に係る実施の状況を示す。図11は4面箱形鋼管柱を組み立てる前の4面箱形用鋼板の準備状況の説明図で、予め貫通孔を柱鋼板に開けてある。図12は内ダイアフラムを4面箱型鋼管用鋼板の2面の中に組み込められる初期組立状況を示し、内ダイアフラム外周が直角切りされた状態で柱縦継手用裏当金を横切って内ダイアフラムが設置されている。図13は、内ダイアフラムを4面箱形鋼管用鋼板の3面の中に組み込められる中間組立状況で、図14は内ダイアフラムを4面箱形鋼管用鋼板の4面の中に組み込められた中間組立状況を示し、このあと鋼管角部縦継手を柱軸方向に溶接すれば貫通孔溶接を除いて鋼管は完成し、貫通孔と内ダイアフラムを溶接すれば、4面箱型鋼管柱は完成する。
【0038】
図8に示すように、本発明では、梁フランジの横断面積22Cより、梁フランジが取り付く柱の両側面の柱と内ダイアフラムの溶接部の縦断面積22A+22Bが√3倍大きくとる。これは梁フランジに掛かる直応力が柱の両側面の柱と内ダイアフラムの溶接部の縦断面積に掛かる剪断力に耐える必要があるからである。
【実施例2】
【0039】
請求項1に記載の発明において、図10(A)に示すように裏当金が無い状態では、内ダイアフラム1Aの板厚を貫通孔幅よりも5〜10mm程度は大きくとる必要がある。これは柱の外からの溶接で柱内への溶接溶け落ちを防ぐためである。図10(B)の1例に示すように貫通孔の内側部分に裏当金10Aを設置することは柱外面から安定的に溶接する目的で用いられる。この場合は、内ダイアフラム1Aの板厚を貫通孔幅より0〜5mm程度の増厚で済ますことができる。これは、裏当金が溶接溶け落ちを防止するためである。この裏当金は柱側に取り付けても良いしダイアフラム側に取り付けても良い。ストッパー10Bを柱内面に取り付けておけば内ダイアフラムの設置が容易となる。このストッパーは図10(C)のように内ダイアフラムの片方に付ける場合と図10(D)のように両方に取り付ける場合がある。裏当金とストッパーを兼用にすることもできる。裏当金は原則として内ダイアフラムの両側に取り付けるが、ストッパーは内ダイアフラムの片側でも良い。裏当金は貫通孔の全長に亘る長さが必要だが、ストッパーは内ダイアフラムを機械的に受け止めれば良いので長さは貫通孔の全長は必要がない。また、図10(E)に示すように裏当金を用いて貫通孔の柱内面側に開先27Aを設けた状態で柱の外から内ダイアフラムと貫通孔を溶接する事ができ、図10(F)に示すように裏当金を用いて貫通孔の柱内面側に部分開先27Bを設けた状態で柱の外から内ダイアフラムと貫通孔を溶接する事ができる。これら図10のいずれの場合も、貫通孔の柱内面での幅即ちルート間隔は梁フランジの板厚以上を確保する必要がある。
【実施例3】
【0040】
本発明のいずれの請求項に対しても、4面ボックス又は角形鋼管に対して説明しているが、円形鋼管にも適応できる。例えば、円形鋼管の円周を分割して角形鋼管に見立てれば角形鋼管と同様に適用できる。その場合、円形鋼管は少なくとも軸方向に2分割となり、内ダイアフラム形状は円形となり、
梁端部形状は円弧となる。
【実施例4】
【0041】
請求項1〜2に記載の発明において、図20に示すように、内ダイアフラム1Aと鋼管柱5との溶接を行う場合又は該溶接部22の上に重ねてH形鋼梁フランジ4を完全溶け込み溶接する場合に、該内ダイアフラム接合予定箇所の端部両面14又は該H形鋼梁の接合端部裏面に14に予め肉盛溶接をする方法も有効である。内ダイアフラム1A端部側面に予め肉盛溶接しておけば内ダイアフラム端部の板厚が増加した効果が期待でき内ダイアフラムの板厚を薄くできる効果がある。即ち、内ダイアフラム1Aの端部両面に肉盛溶接した場合、しない場合よりも内ダイアフラム1Aの肉厚を10〜20mm程度低減することが出来る。
【実施例5】
【0042】
請求項1〜3に記載の発明において、図21に示すように、柱への梁フランジ端部の溶接7の後、該梁フランジ端部継手溶接部に繋げて該梁フランジの側面に肉盛溶接21することにより、梁端部の応力集中係数を緩和し、梁端の剛性を向上させる方法である。この肉盛寸法は幅フランジ厚さ程度、長さ20〜200mm、高さ3〜10mmが適当である。応力集中緩和のためには、梁端に架かって次第に肉盛高さを大きくすることが望ましい。
【実施例6】
【0043】
請求項1〜3に記載の発明において、図15及び図19に示すように、梁フランジ端部4に裏当金及びスカラップを設けずに、梁フランジ端部4を柱5と内ダイアフラム1Aの溶接部22の上に重ねて完全溶け込み溶接することを特徴とする鉄骨構造物の製作方法を提案する。図15において、上部内ダイアフラムには貫通孔溶接に裏当金を用いた場合を示し、下部内ダイアフラムには内ダイアフラムの板厚を大きくして貫通孔溶接に裏当金を用いない場合を示す。両者は混合して用いても良いが通常はどちらかに統一して用いられる。
【実施例7】
【0044】
請求項3に係る発明において、図16において、補強板の梁軸方向の両端部は開先加工を行い、その両端部をそれぞれ柱側及び梁フランジ側に完全溶け込み溶接を行う。この完全溶け込み溶接は梁フランジの梁軸方向の応力を補強板に分担させる役割がある。そして、梁端部の断面係数を増加させる。また、補強板28の幅は、内ダイアフラムと梁フランジを工場溶接する場合梁の側端から内側に約10mm以上後退させ、ノンブラケット方式で下向き姿勢で現場溶接する場合に内ダイアフラムと梁フランジを溶接する時に梁の側端から外側に約10mm以上広げる。このようにすれば、梁フランジ4と補強板28のすみ肉溶接を、梁端部の角を溶かさずに容易に行うことができる。このすみ肉溶接は主に補強板の座屈防止である。補強板を取り付けた場合のダイアフラムの板厚は補強板の板厚を加えたものとなり、且つ補強板28は内ダイアフラム1Aの面内になる必要がある。
【実施例8】
【0045】
請求項1から3に係る発明において、該梁軸に直列する方向の内ダイアフラムと柱フランジ側面の溶接部縦断面積の和は、梁フランジ全断面の性能が要求されない場合を除いて、直列する方向の梁フランジの横断面積の和の√3倍以上であることを特徴とする鉄骨構造物製作方法を提案する。
【実施例9】
【0046】
請求項1〜3に記載の発明について、図18に示すように、角形鋼管柱5は、建築物の各階ごとに柱を切断することなく、2〜4階分を通し柱にして、該角形鋼管5の梁フランジ取付位置に梁フランジ断面形状相当以上の貫通孔を開けて、該貫通孔位置27に内ダイアフラム1Aを角形鋼管柱5の内部に設置して、角形鋼管柱5の外面から貫通孔溶接22を行うことにより、角形鋼管柱5と内ダイアフラム1Aを溶接接合して、しかる後、該貫通孔溶接部22を含めた角形鋼管柱5とH形鋼梁フランジ4とを溶接接合17して鉄骨構造物を製作する方法を示している。溶接部17は裏当金10を用いて溶接するか、又は裏当金やエンドタブを用いずに溶接することができる。図18に示すように、内ダイアフラムの形状はスニップカットで4角形の角を切り欠いたものであるが、角形鋼管柱内面の形状に合わせたものでも良い。その内ダイアフラムの肉厚は、梁フランジと内ダイアフラムのセンターがずれないように、貫通溝溶接を柱外面から実施した場合に柱内面に溶け落ちないように、梁フランジよりも通常5〜15mm程度大きく取る。また、図8に示すように、内ダイアフラム1Aの板厚中央に突起1Bを設けて柱面に設けた貫通孔24をガイドにして、該内ダイアフラムの角形鋼管柱5内部への挿入と固定に役立てる。また、貫通孔溶接22は梁が1方向しかなくても梁から掛かる応力を受けるために通常箱型鋼管5の面の4面について行う。梁が柱に1本しか架からない場合は、貫通孔は少なくとも梁が取り付く柱面だけ開けて、梁の取り付く柱面の向かい側の柱面には溶接を省略することが可能で、梁が取り付く柱面の側面側の柱面では貫通孔ではなくて柱内面とダイアフラムとをすみ肉溶接又は部分溶け込み溶接とすることができる。
【実施例10】
【0047】
請求項1の実施例として、図8の下側内ダイアフラム1Aに示すように、該開先付き突起部付け根の幅及び貫通孔幅よりもダイアフラムの板厚を大きくし、該開先付き突起部付け根に肩部を設けて、図10(B)や図15上部に示すように、柱と内ダイアフラムの溶接時に溶け落ちが起こらないようにしたことを特徴とする鉄骨構造物製作方法であり、この場合は、図10(A)、図15下部又は図20に示すように、内ダイアフラムに対する裏当金や肉盛溶接は必要がない。
【実施例11】
【0048】
請求項1〜3に係る発明において、図20に示すように、内ダイアフラム1Aの端部両面に肉盛溶接14をする代わりに、図15の上側内ダイアフラム及び図16に示すように、内ダイアフラム1Aの端部両面に裏当金10を仮付溶接8により取り付けておく方法も内ダイアフラム1Aと角形鋼管5との貫通孔溶接を安定的に実施する良い方法であり、本発明の応用例の一つである。この場合、この裏当金を用いた場合に、裏当金10を付けない場合よりも、内ダイアフラムの厚さを大きくすることなく貫通孔溶接22を安定的に行う
ことができる。
【実施例12】
【0049】
請求項4に係る発明において、4面箱型鋼管(4面ボックス)柱の溶接縦継手において、該縦継手用の裏当金を図12〜図14に示すように内ダイアフラムを貫通させずに内ダイアフラム間で裏当金を設置する。この場合、予め、内ダイアフラムを所定の位置に定置させるために内ダイアフラム上下面の位置を特定しておいて、裏当金の端部を内ダイアフラムの上下面に合わせて柱内面に取り付ける。裏当金の長さを例えば半分に分割しておけば容易に裏当金の位置合わせが可能になる。この場合、4面箱型鋼管角部の溶接用裏当金が内ダイアフラムのストッパーの役割も兼ねることになり、更に、内ダイアフラムが柱内面角まで達しているので梁フランジ位置を柱端部まで寄せることができるという利点がある。
請求項1〜3に係る発明において、4面ボックスの溶接縦継手において、該縦継手用の裏当金を図12〜図14に示すように内ダイアフラムを貫通させずに内ダイアフラム間で柱縦継手用裏当金を設置するのではなくて、図22に示すように、内ダイアフラムを貫通させて裏当金を溶接縦継手37の裏面に当てる方法も可能である。このようにした場合は、内ダイアフラムの角部は裏当金の分だけ切り欠く必要がある。裏当金10をダイアフラム1Aに貫通させた場合の方が、4面ボックスの組立の縦継手溶接37の施工が切れなくスムーズに行える。尚、裏当金10をダイアフラム1Aに貫通させない方が、梁フランジ接合の部分スロット貫通孔27を柱側面近く寄せることができるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
25mmを超える厚肉の箱型鋼管柱の溶接は溶接量が多くて、現在大入熱のエレクトロスラグ溶接方法が主流である。しかし、この方法は、大入熱による母材劣化・割れなどの問題や溶接のスタート部(始端部)やエンド部(終端部)における段取りや後始末に多大な時間が掛かる。本発明によれば、溶接入熱が低くて材質劣化が少なく、溶接量が75%も低減できて、スタート部(始端部)やエンド部(終端部)における段取りや後始末が殆どなくて効率的なので、利用価値が大きい。
【符号の説明】
【0051】
1 建築鉄骨柱梁接合部のダイアフラム
1A 建築鉄骨柱梁接合部の内ダイアフラム
2 ダイアフラム間の角形鋼管又は4面箱形鋼管の短管。1と2から構成される部材をサイコロという。
3 H形鋼梁
4 H形鋼梁フランジ
5 角形鋼管又は4面箱形鋼管による柱
5A 4面箱形鋼管
5F 柱フランジ又はスキンプレート
6 角形鋼管又は4面箱形鋼管とダイアフラムとの溶接
7 梁フランジとダイアフラムとの溶接
8 仮付又は組立溶接
9 H形鋼梁ウエブ
9A ウエブせい
10 裏当金及び内ダイアフラムストッパーの取付け状況
10A 裏当金
10B ダイアフラムストッパー
11 スカラップ
14 部材裏面又は表面又は側面に施工された肉盛溶接又は部材裏面からなされた裏波溶接
15 レ形開先
15A I開先
17 継手溶接
20 フランジ側面・上面又は裏面の肉盛溶接
21 梁応力集中部
22 角形鋼管又は4面箱形鋼管による柱と内ダイアフラムを取り付ける貫通孔又はスロット溶接部
22A 4面箱形鋼管による柱と内ダイアフラムを取り付ける貫通孔の長手方向断面積
22B 4面箱形鋼管による柱と内ダイアフラムを取り付ける貫通孔の長手方向断面積
22C 梁フランジ横断面積
23 角形鋼管又は4面箱形鋼管とH形鋼梁ウエブとの溶接
24 内ダイアフラムの中央に開けた貫通孔
27 角形鋼管又は4面箱形鋼管面に梁フランジ形状に合わせて明けた貫通孔即ちスロット
28 補強板
28L 補強板の長さ
29 内ダイアフラムと梁フランジの溶接部に挟まれた柱フランジ(又はスキンプレート)
30 貫通孔の幅(ギャップ)
31 貫通孔の狭くした幅(ギャップ)
32 箱形鋼管貫通孔(スロット)の溶接部
33 柱内面と内ダイアフラムとの溶接
34 梁端と柱の溶接
35 補強板と梁フランジとの完全溶け込み溶接
36 補強板と柱溶接部との完全溶け込み溶接
37 柱縦継手
38 柱内面とダイアフラムとの間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築鉄骨構造物の断面が四角形で肉厚が大凡25mm以上の鋼板から4面箱形鋼管柱を階ごとに切断することなく溶接組立する場合において、
同一ダイアフラム面内において、該4面箱形鋼管柱の少なくとも梁フランジ取付け位置の柱面の鋼板に梁フランジ幅以上の長さで柱径の4/5以下の長さの端部が円形又はダンベル形状の貫通孔を水平方向に設けて、梁軸に直列する方向の内ダイアフラムと柱フランジ両側面の溶接部縦断面積の和は、直列する方向の梁フランジの横断面積の和の√3倍以上とし、
該内ダイアフラムの周辺端部を平滑にして、該4面箱形鋼管柱を4枚の鋼板から溶接組立する場合に、少なくとも貫通孔付近の柱内面と内ダイアフラム外周端面との間に0.5mm〜4mmの隙間を開けて、予め該貫通孔位置に、該内ダイアフラムを設置させて、
該4面箱形鋼管柱の少なくとも外面から該貫通孔と内ダイアフラムを溶接すると共に、H形鋼梁フランジの板厚よりも大きい板厚の内ダイアフラムと角形鋼管柱貫通孔とを溶接した後、該溶接部を含めた角形鋼管柱とH形鋼梁フランジとを溶接接合することを特徴とする鉄骨構造物製作方法
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、内ダイアフラムの板厚を梁フランジの板厚よりも大きくすると共に、開先のない貫通孔の短径幅を梁フランジ板厚以下にするか又は貫通孔の柱内面側に開先を設けて、少なくとも梁フランジの取り付く側の柱の内面と内ダイアフラムを内面から溶接し、更に柱の外面から貫通孔と内ダイアフラムとを溶接したことを特徴とする鉄骨構造物製作方法
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発明において、柱と梁フランジの溶接部のビード幅の狭い側の梁端部に補強板を取り付けて、補強板の少なくとも梁軸方向柱側端部と柱、及び補強板の少なくとも梁軸方向梁中央側端部と梁フランジとを完全溶け込み溶接することを特徴とする
鉄骨構造物製作方法
【請求項4】
請求項1又は2又は3に記載の発明において、4面箱形鋼管柱の縦溶接継手用の裏当金を内ダイアフラムの位置決めストッパーとして用いる鉄骨構造物製作方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−57234(P2013−57234A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180591(P2012−180591)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【出願人】(503318518)株式会社アークリエイト (16)