説明

鉗子

【課題】1つの器具で側頭筋膜のみをポケット内に簡便且つ正確に留置することが可能な鉗子を提供する。
【解決手段】鉗子1は、外筒111の内孔に芯棒112が摺動自在に挿通されてなる体内挿入部11と、外筒111及び芯棒112の端部にそれぞれ連結された柄121a及び121bからなる把持部12と、から構成されている。柄121a及び121bを枢着部122回りに回動させて芯棒112の先端部116を外筒111の先端部から延出させ、微小物を平板状の先端部116上に載置して体内に移送し、次いで芯棒112の先端部116を外筒111の先端部に格納することにより、微小物を患者や患畜等の体内の所定部位に留置して鉗子1のみを容易に抜去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉗子に関する。詳しくは、1つの器具で側頭筋膜のみをポケット内に簡便且つ正確に留置することが可能な鉗子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
声帯は、人間が他人とコミュニケーションを図り、人間社会を維持するために必須の感覚器の1つである。声帯は、喉頭の略中央の左右側壁から粘膜が盛り上がった上下2対のひだ状の隆起した下側部分にあり、筋肉、結合組織及び粘膜の三層構造からできている。この声帯の一側が、外傷、癌の手術、加齢、反回神経麻痺、喉頭麻痺等により、正中位(閉鎖位)への内転障害をきたし、或いは全体的に萎縮して声門閉鎖不全をきたすと、息漏れや嗄声(気息性嗄声)による音声障害のみならず、唾液の気管への垂れ込みによる誤嚥、更には息こらえが出来ないことによる身体能力の低下をも惹起し、その結果として、社会生活上におけるQOL(Quality of Life)が著しく低下する。
【0003】
そこで、本発明者は、上記の内転障害や声門閉鎖不全に対し、患者自身の側頭筋膜を声帯粘膜下に移植する「声帯内自家筋膜移植術(ATFV:Autologous Transplantation of Fascia into the Vocal Fold)」を考案した(例えば、非特許文献1参照)。かかるATFVは、声帯粘膜下に作成したポケット内に患者自身から採取した側頭筋膜を留置し、ポケットの入口を閉じて声帯を再生させる治療方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】加我 君孝、外2名 編著、「新 臨床耳鼻咽喉科学 <5巻−基本手術手技>」、中外医学社、p.172−175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかるATFVにおいては、テラメスや鈍針等の複数の器具と共に、先端が匙状や鉤状の喉頭手術用鉗子が用いられていたが、側頭筋膜は水分を含むと膨張してしまい、作成したポケット内に簡便且つ正確に押し込むことが困難であり、また、一度ポケット内に押し込んでも喉頭手術用鉗子を抜去しようとすると脱落してしまい、手技が煩雑で時間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、1つの器具で側頭筋膜のみをポケット内に簡便且つ正確に留置することが可能な鉗子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
(1)すなわち、本発明は、外筒と、前記外筒の内孔に挿通された芯棒と、を備え、前記芯棒の先端部が前記外筒の先端部から延出自在に構成されたことを特徴とする、鉗子である。
【0009】
(2)本発明はまた、前記外筒の先端部近傍に屈曲部が設けられてなる、(1)に記載の鉗子である。
【0010】
(3)本発明はまた、前記芯棒は、前記屈曲部に挿通される部分が屈曲自在に構成されてなる、(2)に記載の鉗子である。
【0011】
(4)本発明はまた、前記芯棒の先端部は、平板状、匙状又は鉤状に形成されてなる、(1)〜(3)の何れか1項に記載の鉗子である。
【0012】
(5)本発明はまた、前記外筒の末端部と連結された第1の柄と、前記芯棒の末端部と連結された第2の柄と、を備え、前記第1の柄と前記第2の柄の相対的変位に伴って前記芯棒の先端部が前記外筒の先端部から延出又は格納するように構成されてなる、(1)〜(4)の何れか1項に記載の鉗子である。
【0013】
(6)本発明はまた、前記第1の柄と前記第2の柄は、互いに交差するように軸止されてなる、(5)に記載の鉗子である。
【0014】
(7)本発明はまた、前記第1の柄は、前記外筒の末端部と着脱可能に連結され、前記第2の柄は、前記芯棒の末端部と着脱可能に連結されてなる、(5)又は(6)に記載の鉗子である。
【0015】
(8)本発明はまた、微小物を体内に移送及び留置するために用いることを特徴とする、(1)〜(7)の何れか1項に記載の鉗子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の鉗子によれば、外筒と外筒の内孔に挿通された芯棒とを備え、芯棒の先端部が外筒の先端部から延出自在に構成されているので、芯棒の先端部を外筒の先端部から延出させて微小物を芯棒の先端部に載置して体内に移送し、次いで芯棒の先端部を外筒の先端部に格納させることにより、微小物を体内の所定部位に留置して鉗子のみを容易に抜去することができる。
【0017】
また、本発明の鉗子によれば、外筒の先端部近傍に屈曲部が設けられているので、簡便且つ正確に鉗子の体内挿入部を体内に差し込み、更に先端部を所定部位に押し込むことができる。
【0018】
また、本発明の鉗子によれば、芯棒の先端部が平板状、匙状又は鉤状に形成されているので、微小物を芯棒の先端部に載置し易く、また、微小物の芯棒の先端部からの落下を防止することができる。
【0019】
また、本発明の鉗子によれば、外筒の末端部と連結された第1の柄と芯棒の末端部と連結された第2の柄とを備え、第1の柄と第2の柄が互いに交差するように軸止されているので、第1の柄と第2の柄を閉じた状態で把持することにより、外筒の先端部から芯棒の先端部を延出させた状態を容易に保持することができ、微小物を芯棒の先端部に載置した状態で落下させることなく体内の所望の部位に移送することができる。
【0020】
更に、第1の柄は外筒の末端部と着脱可能に連結され、第2の柄は芯棒の末端部と着脱可能に連結されているので、鉗子から外筒や芯棒を容易に取り外すことができ、消毒や清掃等のメンテナンスしたり新品に交換したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる鉗子の閉じた状態を示した概念図である。
【図2】芯棒112の構成を説明するための概念図である。
【図3】(a)は、先端部116の構成を説明するための概念図であり、(b)〜(g)は、先端部116の応用例を示した概念図である。
【図4】鉗子1の開いた状態を示した概念図である。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる鉗子の開いた状態を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる鉗子の閉じた状態を示した概念図である。図1に示すように、本実施形態に係る鉗子1は、側頭筋膜を声帯粘膜下に移植するための体内挿入部11と、体内挿入部11を開閉操作するための把持部12とから構成されており、これらの部材は、ステンレス鋼、純チタン等の生体適合性を有する素材からできている。
【0024】
体内挿入部11は、外筒111と芯棒112とから構成されている。外筒111は、円管状の形状で、喉頭に挿入するのに十分な長さを有している。また、外筒111の先端部近傍は屈曲して構成されており(屈曲部113)、これにより、側頭筋膜を声帯粘膜下のポケット内に押し込み又は差し込み易くなっている。
【0025】
一方、外筒111の内孔には、芯棒112が摺動自在に挿通されている。図2は、芯棒112の構成を説明するための概念図である。図2に示すように、芯棒112は、棒状の形状を有し、外筒111よりもやや長尺で、外筒111の先端部から芯棒112の先端が自在に延出できるようになっている。
【0026】
芯棒112は、基部114と、屈曲部115と、先端部116とが順次連結されて構成されている。基部114は、把持部12による変位を確実に屈曲部115や先端部116に伝達するために、適度な硬度を有し、伸縮性や可とう性を有しない素材からできている。また、屈曲部115は、外筒111の屈曲部113を摺動自在に挿通できるように、例えば、ワイヤー等の可とう性を有する素材又は構造からできている。図3(a)は、先端部116の構成を説明するための概念図である。図3(a)に示すように、先端部116は、平板状の形状を有しており、採取した側頭筋膜を先端部116上に載置することができるように構成されている。ただし、先端部116の形状は、これに限定されるものではなく、例えば、図3(b)に示すような匙状や、図3(c)に示すような鉤状であってもよいし、図3(d)及び(e)に示すような平板状の上面に複数の溝又は突起が形成されたものであってもよいし、図3(f)に示すような波板状や、図3(g)に示すような逆三角柱状の凹窩を有するものであってもよい。
【0027】
また、図1において、把持部12は、略真直な平板構造の柄121a及び121bとから構成され、これらは互いに交差した状態で枢着部122回りに回動自在に軸止されている。また、柄121a及び121bの先端部は、それぞれ螺子123a及び123bにより、外筒111及び芯棒112の末端部と着脱自在に連結されている。このような構成にすることにより、把持部12から体内挿入部11を容易に脱着することができるので、各部材の消毒を簡易且つ迅速に行うことができ、また、1つの部材が破損したとしても破損部材のみを新品に交換することができる。更に、柄121a及び121bの末端部には、指を入れて鉗子1を把持するための指孔124a及び124bが、それぞれ形成されている。
【0028】
かかる構成により、鉗子1は、指孔124a及び124bにそれぞれ指を入れて、柄121a及び121bを枢着部122回りに回動させて閉じると、柄121a及び121bの両先端部が閉じて、外筒111の先端部から芯棒112の先端部116が延出される。
【0029】
また、図4は、鉗子1の開いた状態を示した概念図である。図4に示すように、指孔124a及び124bにそれぞれ指を入れて、柄121a及び121bを枢着部122回りに回動させて開くと、柄121a及び121bの両先端部が開いて、外筒111の内孔に先端部116が格納される。
【0030】
次に、本実施形態に係る鉗子1の使用方法について、声帯内自家筋膜移植術(ATFV)を例に挙げて説明する。
【0031】
まず、声帯上面外側に、声帯に平行にして前から後へ粘膜切開を入れ、テラメスや一般的な鉗子等を用いて声門下へ剥離を進める。次いで、声帯の溝病変まで剥離を進めて、声帯粘膜に穿孔をきたさぬように声帯の形に添って溝を粘膜に付けるように、声帯靱帯又は粘膜下組織より剥離する。なお、剥離が難しい場合には、メスや鋏等で切離する。次いで、剥離を溝に対して平行にして声門下方向に3mm程まで進めてポケットを作成する。最後に、消毒した紙を作成したポケット内に挿入して、かかるポケットの大きさに合うように紙をトリミングする。
【0032】
次に、鼓膜形成術に準じた視野又は術野で、周囲の結合組織を十分に付けて、厚めに耳の側頭筋膜を採取する。次いで、採取した側頭筋膜を圧迫して伸ばし、水分を十分に除去して乾燥させる。最後に、トリミングした紙を乾燥させた側頭筋膜にあてがい、かかる紙の大きさに合わせて側頭筋膜をトリミングする。
【0033】
次に、鉗子1の指孔124a及び124bにそれぞれ指を入れて、柄121a及び121bを枢着部122回りに回動させて閉じ、外筒111の先端部から芯棒112の先端部116を延出する。次いで、先端部116上にトリミング済みの側頭筋膜を載置し、この状態を保持したまま鉗子1の体内挿入部11を患者の喉頭に差し込み、更に先端部116をポケット内に押し込む。次いで、柄121a及び121bを枢着部122回りに回動させて開き、外筒111の内孔に先端部116を格納して側頭筋膜をポケット内に留置し、体内挿入部11のみを患者の喉頭から抜去する。次いで、他の鉗子等の器具を用いて留置した側頭筋膜をポケット全体に行き渡るように調節して声帯の形を整えると共に、ポケット内の死腔を取り除く。最後に、縫合して又はフィブリン糊で覆って切開創を塞ぎ、手術を終了する。
【0034】
このように、鉗子1は、柄121a及び121bを閉じ、外筒111の先端部から芯棒112の先端部116を延出させ、先端部116上にトリミング済みの側頭筋膜を載置し、この状態を保持したまま鉗子1の体内挿入部11を患者の喉頭に差し込み、更に先端部116をポケット内に押し込むことができるので、これらの作業中に側頭筋膜が落下することがない。また、外筒111の内孔に先端部116を格納して側頭筋膜をポケット内に留置する際に柄121a及び121bを開くので、側頭筋膜をポケットから脱落させずに体内挿入部11のみを患者の喉頭から容易に抜去することができる。従って、鉗子1を用いれば、ATFVにおいて、簡便且つ正確に側頭筋膜を声帯粘膜下のポケットへ留置することができ、また、体内挿入部11のみをポケットから容易に抜去することができる。
【0035】
図5は、第2の実施形態にかかる鉗子を開いた状態を示した概念図である。図5に示すように、鉗子2は、略くの字状に屈曲した平板構造の把持部22の構造以外は鉗子1と同一である。把持部22は、柄221a及び221bとから構成され、これらの一部が互いに重なった状態で枢着部222回りに回動自在に軸止されている。また、柄221a及び221bの先端部は、それぞれ螺子223b及び223aにより、芯棒212及び外筒211の末端部と着脱自在に連結されている。更に、柄221a及び221bの末端部には、指を入れて鉗子2を把持するための指孔224a及び224bが、それぞれ形成されている。
【0036】
かかる構成により、鉗子2は、指孔224a及び224bにそれぞれ指を入れて、柄221a及び221bを枢着部222回りに回動させて開くと、柄221a及び221bの両先端部が閉じて、外筒211の先端部から芯棒212の先端部216が延出される。一方、指孔224a及び224bにそれぞれ指を入れて、柄221a及び221bを枢着部222回りに回動させて閉じると、柄221a及び221bの両先端部が開いて、外筒211の内孔に先端部216が格納される。
【0037】
なお、本発明の鉗子は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述したように、本発明の鉗子は、芯棒の先端部を外筒の先端部から延出させて微小物を芯棒の先端部に載置して体内に移送し、次いで芯棒の先端部を外筒の先端部に格納させることにより、微小物を患者や患畜等の体内の所定部位に留置して鉗子のみを容易に抜去することができるので、側頭筋膜、骨髄、筋肉、脂肪、粘膜、結合組織、血管壁、軟骨、軟骨膜等の組織、臓器の一部、培養細胞等の微小物、及び人工物や培養組織等に細胞や薬剤ホルモン等を付着添付せしめた微小物を、体内に移送及び留置するための鉗子として利用した場合極めて有用である。
【符号の説明】
【0039】
1、2・・・鉗子
11、21・・・体内挿入部
111、211・・・外筒
112、212・・・芯棒
113、115、213、215・・・屈曲部
114、214・・・基部
116、216・・・先端部
12、22・・・把持部
121a、121b、221a、221b・・・柄
122、222・・・枢着部
123a、123b、223a、223b・・・螺子
124a、124b、224a、224b・・・指孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、
前記外筒の内孔に挿通された芯棒と、
を備え、
前記芯棒の先端部が前記外筒の先端部から延出自在に構成されたことを特徴とする、鉗子。
【請求項2】
前記外筒の先端部近傍に屈曲部が設けられてなる、請求項1に記載の鉗子。
【請求項3】
前記芯棒は、前記屈曲部に挿通される部分が屈曲自在に構成されてなる、請求項2に記載の鉗子。
【請求項4】
前記芯棒の先端部は、平板状、匙状又は鉤状に形成されてなる、請求項1〜3の何れか1項に記載の鉗子。
【請求項5】
前記外筒の末端部と連結された第1の柄と、
前記芯棒の末端部と連結された第2の柄と、
を備え、
前記第1の柄と前記第2の柄の相対的変位に伴って前記芯棒の先端部が前記外筒の先端部から延出又は格納するように構成されてなる、請求項1〜4の何れか1項に記載の鉗子。
【請求項6】
前記第1の柄と前記第2の柄は、互いに交差するように軸止されてなる、請求項5に記載の鉗子。
【請求項7】
前記第1の柄は、前記外筒の末端部と着脱可能に連結され、前記第2の柄は、前記芯棒の末端部と着脱可能に連結されてなる、請求項5又は6に記載の鉗子。
【請求項8】
微小物を体内に移送及び留置するために用いることを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の鉗子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224258(P2011−224258A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98984(P2010−98984)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】