説明

鉛蓄電池用負極板及び鉛蓄電池

【課題】 ハイブリッド電気自動車(HEV)、その他高率放電を要求する産業用途に用いる二次電池に具備せしめて用い、優れた高率放電特性やサイクル寿命の向上を確実にもたらす鉛蓄電池用負極板を提供する。
【解決手段】 負極活物質に導電性カーボンと活性炭を添加混合して成るものを集電用基板に支持せしめた鉛蓄電池用負極板において、該活性炭として、X線回折による10面の重心点角度が44.5°以下である活性炭を用いることを特徴とする鉛蓄電池用負極板。
この負極板を具備した鉛蓄電池は確実にサイクル寿命の向上をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSOCで急速充放電を繰り返すハイブリッド自動車などの電気自動車や風力発電や太陽光発電などの産業に用いる鉛蓄電池用負極板及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
先に、出願人は、特開2003-51306号公報において、鉛蓄電池用負極板とこれを具備した鉛蓄電池を開示した。該負極板は、負極活物質を主体とし、これに導電性を確保するカーボンとキャパシタ容量を確保する活性炭から成る2種類のカーボン材料を所定量添加、混合して調製した活物質合剤ペーストを集電用鉛合金基板に充填し、化成して成るものである。
該負極板を鉛蓄電池に用いるときは、負極活物質に導電性カーボンと活性炭が混在するので、その導電性カーボンによりPSOC状態で硫酸鉛が多く存在する負極の分極を減少させると同時に、活性炭の導電性を補うことができる。一方、活性炭により、導電性カーボンと共にその電気二重層容量を増大し、放電直後の電池電圧を高く維持することができる。かくして、この負極板を具備した鉛蓄電池は、PSOC状態での放電特性を大幅に改善でき、ハイブリッド車などの電気自動車、その他の高率放電を要求する各種の産業用途に適する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-51306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、上記のように電気二重層に用いられるキャパシタ容量を有する活性炭については、より大きな電気二重層容量と急速充放電性能を獲得するため、各種の活性炭を選択して使用したり、比表面積と細孔体積の増大と吸着イオン種に合わせた細孔径の最適化を検討したりして来たが、これらの選択した活性炭を用いた負極板を具備せしめた鉛蓄電池では、電解液に由来する硫酸イオンとプロトンの他に、負極活物質に由来する鉛イオンが活性炭との吸脱着と酸化還元反応に関与するため、最適な活性炭の選択はより複雑なものとなった。
そこで発明者らは、試行錯誤し乍ら、鋭意検討を重ねた結果、蓄電池の優れた性能を確実に発揮する特定の活性炭を見出し、これにより、本発明の目的は、上記従来の課題を解決し、従来の活性炭の選択の迷いを解決し、これを用いた鉛蓄電池用負極板とこれを用いてサイクル寿命を確実に向上し得る鉛蓄電池を提供することに在る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の通り、負極活物質に導電性カーボンと活性炭を添加混合して成るものを集電用基板に支持せしめた鉛蓄電池用負極板において、該活性炭として、X線回折による10面の重心点角度が44.5°以下である活性炭を用いることを特徴とする鉛蓄電池用負極板に存する。
更に本発明は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の負極板を具備した鉛蓄電池に存する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る上記特定の活性炭を含有する鉛蓄電池用負極板により、これを具備した鉛蓄電池のPSOC状態での放電特性を改善すると共に、サイクル寿命の向上を確実にもたらし、ハイブリッド自動車、電気自動車、その他の高率放電を要求する各種の産業用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】活性炭の10回折線の重心点角度とサイクル寿命との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態例を以下に説明する。
本発明の鉛蓄電池用負極板は、例えば、前記の特許文献1に記載のように、負極活物質100重量部に対し導電性を確保する導電性カーボン1〜5重量部と活性炭1〜5重量部を配合し、且つ該導電性カーボンと該活性炭との2種のカーボン合剤を負極活物質100重量部に対し2〜8重量部を添加、混合して成るものが好ましいが、これに限定されない。但し、活性炭としては、下記に詳述する特定の活性炭でなければならない。
導電性カーボンとしては、従来公知のファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛などの導電性を確保するカーボン種から選んだ少なくとも1種の導電性カーボンを添加する。
このようにして得られた負極活物質と上記2種のカーボン合剤の混合物に水などによりペースト状としたものを鉛又は鉛合金から成る格子基板などの集電用基板に充填し、乾燥して未化成の負極板を製造し、次いで、これを化成し、本発明の鉛蓄電池用負極板を製造する。更に、これを負極板とした鉛蓄電池を製造する。
【0009】
本発明の活性炭の特定は、下記する工程を順次行い知見した。
1)X線回折による種々の活性炭の測定:
サンプルとして、例えば、9種類の活性炭を選択し、その各活性炭を粉砕機で平均粒径30ミクロン以下になるように粉砕し、その各活性炭粉末をサンプルとして用意した。一方、X線回折装置として理学電気工業株式会社製のRINT2200Ultimaを用い、各サンプルをそのガラス製サンプルホルダーにセットし、X線源としてCu Kα線を用い、2θ=10-90°の測定を行った。得られた回折線はX線回折総合解析ソフトJADE+を用いてラインブロードニングとバックグラウンドの処理を行い、40-50°付近に現れる10回折線の重心点角度を算出した。その結果、サンプルである9種類の活性炭の重心点角度は、図1の図表の縦軸に示す通りであった。
【0010】
2)未化成の鉛蓄電池用負極板の製法:
ボールミル法で製造した酸化鉛から成る負極活物質粉末に、導電カーボン粉末として比表面積70m2/gのカーボンブラックと上記の9種類の各活性炭粉末を添加し、更に、硫酸バリウム粉末を添加して乾式混合した。この場合、該酸化鉛100重量部に対し該カーボンブラックを0.5重量部、該活性炭粉末を2重量部、硫酸バリウム粉末を 重量部添加した。このようにして9種類の混合物を調製し、各混合物に、リグニンの水溶液を加え、続いてイオン交換水を加え乍ら混練して水性ペーストを調製し、更に希硫酸を加え乍ら混練して活物質ペーストを調製した。次いでこのペーストを鉛-カルシウム合金から成る集電用鋳造基板に充填し、加圧圧着させた後、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して未化成の9種類の鉛蓄電池用負極板を多数枚製造した。
【0011】
3)未化成の正極板の製造:
酸化鉛から成る正極活物質100重量部にイオン交換水10重量部を添加し、次いで比重1.27の希硫酸10重量部を加え乍ら混練して正極用活物質ペーストを調製した。このペーストを鉛−カルシウム合金から成る集電用鋳造基板に充填し、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して未化成の正極板を多数枚製造した。
【0012】
4)鉛蓄電池の製造:
前記の各未化成の鉛蓄電池用負極板と前記の未化成の正極板とを微細ガラスマットセパレータを介して交互に積層した後、その積層体をCOS方式で同極性同士の極板の耳列を溶接して極板群とした。これをポリプロピレン製の電槽に入れ、ヒートシールによって蓋をした。このときの群の圧迫度は50kPaになるようにスペーサーを入れて調整した。次いで、Alイオンを硫酸塩で0.1mol/l添加した電解液を注入して電槽化成を行い、12V、40Ah相当の制御弁式鉛蓄電池を製造した。この電池の電解液比重は1.32であった。このようにして、結局、活性炭が異なる上記の9種類の鉛蓄電池用負極板を具備した9種類の鉛蓄電池を製造した。
【0013】
5)上記9種類の鉛蓄電池の寿命試験:
上記の9種類の鉛蓄電池の夫々について、風力発電による蓄電を模擬してPSOCで急速充放電を繰り返すことによる寿命試験を行った。その試験は、該蓄電池を8Aで1時間放電してSOC 80%とした後、25℃の雰囲気中で400A・1秒放電と80A・1秒充電を500回繰り返した後、120A・1秒充電と1秒の休止を510回繰り返し、これを1サイクルとした。そして、放電時のセル電圧が0Vに達した時点を寿命として、寿命に至るまでのサイクル数を測定した。その結果を図1に示した。図1から明らかな通り、10回折線の角度が44.5°以下の活性炭は、サイクル寿命が500サイクルを超え、優れていることが判明した。かくして、本発明の製造には、活性炭は、10回折線の角度が44.5°以下の活性炭を用いることにより、サイクル寿命の延長した蓄電池が確実に得られる効果をもたらす。
【0014】
活性炭は六角網面が積層したグラファイトの結晶構造が大きく乱れたものと言われ、六角網面は維持されるが、c軸方向が乱層構造を取るためX線回折を行ってもピークが不鮮明になることが知られ、00l回折線とhkl回折線はブロードになり、hkl回折線は認められなくなる。即ち、2θ=20-30°に002回折線、40-50°に10回折線(グラファイトの100,101,102回折線に対応)、75-85°に11回折線(グラファイトの110,112回折線に対応)が現れる。一般に002回折線が低角度側に移動するとc軸方向の面間隔が拡がり、イオンが層間に侵入し易くなることが知られている。
本発明の上記に特定した活性炭の作用は明らかではないが、X線回折による10面の重心点角度が44.4°未満の活性炭は、c軸方向の乱れに加えて、a軸方向の面間隔がある値よりも拡大することで、更にイオンの吸脱着を容易にし、また酸化還元反応に対する活性の向上にも影響したと考えられる。
【0015】
更に、本発明の上記特定の活性炭のうち、例えば、10面の重心点角度が44.2°である活性炭の負極活物質100重量部に対する添加量を4重量部添加して製造した鉛蓄電池用負極板を具備した鉛蓄電池のサイクル寿命は、1500サイクルであった。これに対し、10回折線の角度が44.9°の活性炭を負極活物質100重量部に対し4重量部添加して製造したキャパシタ複合負極板を具備した鉛蓄電池の寿命は、200サイクルに留まった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
上記から明らかなように、本発明の鉛蓄電池用負極板を用いた鉛蓄電池は、PSOCの状態で急速充放電を繰り返すハイブリッド電気自動車、その他の電気自動車、或いは風車、太陽電池(PV)などの電源により充電される産業用などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質に導電性カーボンと活性炭を添加混合して成るものを集電用基板に支持せしめた鉛蓄電池用負極板において、該活性炭として、X線回折による10面の重心点角度が44.5°以下である活性炭を用いることを特徴とする鉛蓄電池用負極板。
【請求項2】
請求項1に記載の負極板を具備した鉛蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−171035(P2011−171035A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32092(P2010−32092)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】