説明

銀分散型炭素材料の製造方法

【課題】長期にわたり規制値未満の一定の濃度で銀イオンを溶出させることができるとともに、賦形性に優れた抗菌性炭素材料を提供することを主な目的とする。
【解決手段】1.ピッチ製造原料有機物と酢酸銀とを混合し、重縮合反応させることを特徴とする金属銀が均一に分散したピッチの製造方法。2.項1に記載の銀分散ピッチを不融化し、炭素化し、賦活することを特徴とする銀分散型活性炭素材料の製造方法。3.項2に記載の方法によって得られた銀分散型活性炭素材料。4.項3に記載の銀分散型活性炭素材料が、繊維状、粒状或いは粉末状である活性炭素材料。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、金属銀が均一に分散した炭素材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術とその問題点】石炭系ピッチ、石油系ピッチ、高分子化合物などに銀、コバルト、ルテニウム、銅などの金属成分を添加して、金属を含有する炭素複合体を製造する方法は、例えば、特開平4-124105号公報に記載されている。しかしながら、この方法では、金属成分として、非常に高価な有機金属を用いているので、経済的に実用性に欠けるという問題点がある。
【0003】銀などを含む炭素複合体を活性炭として用いることも提案されている。例えば、特開昭59-193134号公報に記載された方法では、活性炭表面に銀を添着させており、また、特開平1-278408号公報に記載された方法においては、銀を合成ゼオライト表面に添着させ、これを活性炭と混合して使用している。しかしながら、これらの方法では、活性炭の表面に銀を均一に添着することができないので、炭素複合体を抗菌材として使用する場合には、銀イオンの溶出量が一定とならず、長期にわたって抗菌性の効果を一定に保持することができない。また、銀を含有する抗菌材を使用する場合には、溶出する銀濃度は、米国公衆衛生局(NIH)による飲料水中の銀濃度規制値(50ppb)を超えてはならないので、添着する銀の濃度は、自ずから制限を受けることになり、殺菌性効果の持続時間が短くなるという問題を生じている。
【0004】また、先述の特開平4-124105号公報には、抗菌性金属超微粒子−炭素複合体に特定の形状を付与する技術は、開示されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、長期にわたり規制値未満の一定の濃度で銀イオンを溶出させることができるとともに、賦形性に優れた抗菌性炭素材料を提供することを主な目的とする。
【0006】
【課題を解決する手段】本発明者は、上記の様な技術の現状に鑑み、研究を重ねた結果、炭素材料の出発原料である有機物に酢酸銀を添加し、よく混合した後、炭素化することにより、金属銀が均一に分散し、抗菌性に優れた炭素材料が得られることを見出した。
【0007】また、有機物に対する酢酸銀の添加方法は、酢酸銀粉末を製造原料となる有機物に直接添加し、熱処理を行っても良いが、酢酸銀をキノリン或いはキノリンと酢酸の混合溶液に溶解した後、有機物に添加し、熱処理を行うことにより、銀がより均一に分散した炭素材料が得られることも、見出した。
【0008】すなわち、本発明は、下記の銀分散型炭素材料の製造方法を提供する;
1.銀分散型炭素材料の製造方法において、製造原料である有機物と酢酸銀とを混合した後、混合物を熱処理することを特徴とする銀分散型炭素材料の製造方法。
【0009】2.混合物の熱処理を蒸留、重縮合、不融化、炭素化および賦活化により行う上記項1に記載の銀分散型炭素材料の製造方法。
【0010】3.銀分散型炭素材料の製造において、酢酸銀をキノリンまたはキノリンと酢酸との混合溶液に溶解し、製造原料である有機物と混合した後、混合物を熱処理することを特徴とする銀分散型炭素材料の製造方法。
【0011】4.混合物の熱処理を蒸留、重縮合、不融化、炭素化および賦活化により行う上記項3に記載の銀分散型炭素材料の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明における炭素材料の製造原料となる有機物としては、特に制限されず、石炭系重質油、石油系重質油、溶融性ポリマ−など液状物質のほかに、木屑、ヤシ殻などの固体物質も挙げられる。
【0013】有機物に対する酢酸銀の混合に際しては、酢酸銀の粉末を直接有機物に添加し、混合しても良く、或いは酢酸銀をキノリンまたはキノリンと酢酸との混合溶液に溶解した後、有機物に加えて混合しても良い。この際、キノリン単独よりも、キノリン−酢酸混合液を使用することにより、より容易に酢酸銀を溶解させることができる。酢酸銀を溶液状態で有機物に添加し、混合する場合には、有機物中に酢酸銀をより一層均一に混合することができるので、最終的に得られる銀分散型炭素材料における銀の分散が均一となり、抗菌材としての性能が改善できる。
【0014】酢酸銀をキノリンに溶解させるに際してのキノリンの温度は、特に限定されるものではないが、操作上からは常温乃至その近傍の温度が好ましい。溶解温度が高くなると、会合により再結晶する場合があるが、抗菌性能などには、何ら影響はない。
【0015】キノリンに酢酸を添加した溶液に酢酸銀を溶解しておく場合には、加温しても会合による再結晶を抑えることが出来る。キノリン−酢酸混合溶液中の酢酸濃度は、特に限定されるものではないが、過剰量を添加してもより一層の効果の改善が得られることがないので、通常0.01〜10wt%程度とする。
【0016】酢酸銀をキノリン溶液或いはキノリン−酢酸混合溶液として使用する場合の溶液中の酢酸銀の濃度は、特に限定されないが、通常50wt%以下程度である。
【0017】炭素材料としての有機物に対する酢酸銀の添加量は、特に限定されるものではなく、原料である有機物の炭素化歩留、製品である銀分散型炭素材料の用途などによって大きく異なり得るため、一般的には炭素材料中の銀の濃度が通常0.01〜10wt%程度、より好ましくは0.1〜5wt%程度となる様にすれば良い。
【0018】炭素材料の原料となる有機物への酢酸銀の混合方法は、特に制限されず、常法に従って、前者に後者を添加し、均一に混合すればよい。加熱により液状を呈する有機物の場合には、加熱された液状の有機物に酢酸銀を添加し、混合することが好ましい。この場合の混合温度は、有機物の分解を生じない限り、特に限定されない。
【0019】また、有機物に対する酢酸銀含有キノリン溶液或いは酢酸銀含有キノリン−酢酸溶液の混合方法も、特に限定されるものでもなく、液体または加熱すれば液体となる有機物原料に対しては、液体状態の原料に酢酸銀含有溶液を加え、混合すればよい。この時の混合温度も、原料が分解されない限り、特に限定されるものではない。
【0020】次いで、上記の様にして得られた酢酸銀を分散含有する有機物は、一般的に知られている熱処理方法により処理される。この様な熱処理方法としては、蒸留方法;酸素、オゾンなどの活性ガスを吹き込みながら熱処理して、重縮合させる方法:窒素、アルゴンなどの不活性ガスを吹き込みながら熱処理して、重縮合させる方法など例示される。
【0021】上記で得られた熱処理生成物を原料として、公知の方法により繊維状、粒状、粉末状などの任意の形状に加工した後、公知の方法により不融化処理または/および炭素化または/および賦活処理を行うことにより、金属銀が均一に分散した繊維状、粒状、粉末状などの炭素材料を得ることが出来る。
【0022】或いは、金属銀を分散含有した液状有機物(例えば、金属銀を分散含有するピッチ)をバインダーとして木屑、ヤシ殻などの固体物質と混合し、成形し、炭素化または/および賦活処理しても良い。或いは、酢酸銀を溶解したキノリン溶液に木屑、ヤシ殻などの固体物質を含浸した後、これを公知の方法で炭素化または/および賦活処理を行うことにより、金属銀の分散した炭素材料を製造することが出来る。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、金属銀が分散した粉末状、粒状、繊維状などの任意の形態の炭素材料を容易に製造することができる。
【0024】また、酢酸銀を予めキノリンまたはキノリン−酢酸混合物に溶解させた状態で原料である有機物に添加混合する場合には、金属銀がより均一に分散した炭素材料を得ることができる。
【0025】本発明による炭素材料は、抗菌性材料として、従来品に比して、抗菌性効果およびその持続性に優れており、また、使用時の銀の溶出量をNIHによる規制値以下に抑制することができる。
【0026】
【実施例】以下に実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明らかにする。
【0027】実施例1粉末状酢酸銀を有機物に直接添加する実施例キノリン不溶分3.1wt%を含むコ−ルタ−ルを加熱し、水分を除去した後、150℃で濾紙を用いて濾過を行い、キノリン不溶成分を完全に除去した。
【0028】次いで、このコ−ルタ−ルを蒸留して、キノリン不溶成分を含まない、軟化点68.2℃のピッチをコ−ルタ−ル当り72.5wt%の収率で得た。
【0029】次いで、得られたピッチ500gを容量1リットルの小型反応器に仕込み、250℃で溶解した後、攪拌しつつ、粉末の酢酸銀2.0gを徐々に添加し、添加終了後さらに0.5時間攪拌を行った。
【0030】次いで、上記の小型反応器内のピッチの温度を330℃まで昇温させた後、常圧攪拌下で5リットル/分の空気を吹き込みつつ240分間ピッチを重縮合させた。
【0031】取得したピッチの軟化点をメトラ−法で測定したところ、283.2℃であり、ピッチ中の銀の濃度は、0.39%であった。ピッチの取得量は、306gであつた。次いで、上記のピッチをバッチ式のモノホ−ル紡糸器に仕込み、335℃の溶融温度で、ノズル径0.3mm、巻取速度300m/の速度で紡糸を行い、ピッチ繊維を得た。
【0032】次いで、上記のピッチ繊維を空気中で常温から300℃まで昇温速度2.0℃/分の速度で昇温を行い、さらに300℃で180分間保持して、不融化処理した。
【0033】次いで、不融化処理したピッチ繊維を窒素雰囲気中で常温から850℃まで10℃/分の速度で昇温した後、850℃で60分間蒸気と窒素の混合気体により賦活処理を行い、不融化繊維に対し39.1wt%の収率で活性炭素繊維を得た。
【0034】得られた活性炭素繊維の平均細孔半径は8.1Å、比表面積は1306m2/g、Agの含有率は0.88%であり、繊維の断面をEPMAで観察したところ、繊維断面全体にAgが観察された。またESCAでこのAgの電子状態を測定した結果、金属銀であることが確認された。
【0035】実施例2予めキノリンに溶解した酢酸銀をコ−ルタ−ルに添加する実施例実施例1で用いたと同様のコ−ルタ−ルを実施例1と同様にして熱処理し、水分とキノリン不溶成分とを除去した。
【0036】次いで、濾過処理後のコ−ルタ−ル1000gを蒸留フラスコに入れ、フラスコ内を窒素雰囲気とした後、コ−ルタ−ルを50〜70℃に加温した。
【0037】次いで、別途にビ−カ−中の100mlのキノリンに酢酸銀3.0gを添加し、常温で溶解させた後、フラスコ内で加温してあるコ−ルタ−ルに徐々に滴下し、約0.5時間にわたり攪拌混合を行った。引続き、減圧下で蒸留を行って、キノリンとコ−ルタ−ル中の軽質分を除去し、軟化点82.6℃のピッチをコ−ルタ−ル当り60.8wt%の収率で取得した。
【0038】次いで、この軟化点82.6℃のピッチ500gを容量1リットルの小型の反応容器に仕込み、反応温度330℃、反応圧力常圧で攪拌下に5リットル/分の空気を吹き込みながら、240分間反応を行ったところ、軟化点278.1℃のピッチ315gを取得した。このピッチには、銀が0.46wt%が含まれていた。
【0039】次いで、このピッチを使用して実施例1と同じ方法で紡糸を行った後、さらに実施例1と同じ条件で不融化および賦活処理を行うことにより、不融化処理繊維に対し40.2wt%の収率で活性炭素繊維を取得した。
【0040】得られた繊維状活性炭の平均細孔半径は8.2Åであり、比表面積は1320m2/g、金属銀の含有率は1.02wt%であった。
【0041】実施例3予め酢酸−キノリン混合物に溶解した酢酸銀をピッチに添加する実施例実施例1で取得した軟化点68.2℃のピッチ500gを容量1リットルの小型反応容器に仕込み、温度を150〜170℃に調整して、ピッチを溶解した。
【0042】別途にビ−カ−に0.1wt%の酢酸を含むキノリン50mlに酢酸銀4.60gを添加し、70〜80℃で溶解した後、上記の150〜170℃で溶融したピッチに徐々に添加し、同温度で0.5時間攪拌混合した後、実施例1と同じ方法で240分間反応を行い、軟化点280.3℃のピッチ310gを取得した。得られたピッチ中の銀の含有量は0.89wt%であった。
【0043】次いで、このピッチを原料として実施例1と同じ方法で紡糸を行った後、実施例1と同じ条件で不融化および賦活処理を行うことにより、不融化処理繊維に対し40.6wt%の収率で活性炭素繊維を取得した。
【0044】得られた繊維状活性炭の平均細孔半径は8.5Åであり、比表面積は1367m2/g、金属銀の含有率は1.91wt%であった。
【0045】比較例1実施例1で取得した軟化点が68.2℃のピッチ600gを容量1リットルの小型反応器に仕込み、実施例1と同様にして反応器を徐々に加温し、反応器内のピッチの温度が150℃になった時点から攪拌と減圧を開始し、反応温度が330℃になった時点で、常圧下で攪拌を行いながら5リットル/分の空気を吹き込みつつ、240分間の反応を行った。その結果、軟化点282.7℃のピッチ301gを取得した。ピッチ中の銀の含有量は1ppm以下であった。
【0046】このピッチを原料として実施例1と同じ方法で紡糸を行い、ピッチ繊維を得た後、得られたピッチ繊維を実施例1と同じ条件で不融化処理および賦活処理して繊維状の活性炭を得た。
【0047】得られた活性炭素繊維は、ピッチ繊維当りの収率38.6wt%、平均細孔半径7.8Å比表面積1318m2/g、Agの含有率は5ppm以下であった。
【0048】実施例4実施例1、実施例2、実施例3および比較例1で取得したそれぞれの繊維状活性炭について、抗菌性を試験した。抗菌力試験は、以下の様にして行った。
【0049】イ.試験菌株大腸菌;Escherichia coli IFO 3301黄色ブドウ球菌;Staphylococcus aureus IFO 12732ロ.試験菌液の調製試験菌株をBrain Heart Infusion Agarに接種し、35℃で24時間培養し、その1白金耳を0.2%肉エキス加普通ブイヨン培地で37℃で16〜24時間振とう培養した後、減菌リン酸緩衝液を用いて1000倍に希釈し、減菌リン酸緩衝液50mlを収容する容積200mlの三角フラスコにこの希釈菌液1mlを加えて、1ml当りの生菌数が104個となるように調整した。なお、使用した減菌リン酸緩衝液は、リン酸二水素カリウム34gを精製水5000mlに溶かし、これに4wt%の水酸化ナトリウム溶液約175mlを加え、次いで、pH7.2に調整した後、精製水を加えて全量を1000mlとし、さらにこの溶液を精製水で800倍に希釈して、調製した。
ハ.試験方法と試験結果実施例および比較例で取得した繊維状活性炭、粉末活性炭および成形活性炭を粉砕し、先に調製した試験菌液に0.1gを加えて試験液とした。これを25℃で振とうし、1時間後、2時間後、6時間後および24時間後に試験液中の生菌数を菌数測定用培地を用いた混釈平板培養法により測定を行った。
【0050】なお、対照として活性炭を添加していない試験菌液のみについても、同様の試験を行った。
【0051】試験結果について表1および表2に示す。
【0052】
【表1】


【0053】表1に示す結果から、本発明による銀分散型の炭素材料が、大腸菌に対して優れた抗菌性を発揮することが明らかである。
【0054】
【表2】


【0055】表2に示す結果から、本発明による銀分散型の炭素材料が、黄色ブドウ球菌に対しても優れた抗菌性を発揮することが明らかである。
【0056】実施例5実施例2で取得した繊維状活性炭と市販の銀添着活性炭(武田薬品工業(株)製:粒状白鷺WHA 銀の添着量0.76wt%)とについて、銀の溶出量の比較試験を行った。
【0057】試験は、サンプル1gを秤取り、300mlの丸底フラスコに投入し、純水100mlを加え、丸底フラスコに還流冷却器を取り付けた後、所定時間沸騰を行い、室温まで冷却し、濾紙を用いて濾過を行い、濾液中の銀の溶出量を測定することにより、行った。
【0058】試験結果を表3に示す。
【0059】
【表3】


【0060】表3に示す結果から、本発明による銀分散型炭素材料は、水との接触状態で銀の溶出量が少なく、飲料水用の抗菌材としてNIHの銀濃度規制(50ppb)を超えないことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピッチ製造原料有機物と酢酸銀とを混合し、重縮合反応させることを特徴とする金属銀が均一に分散したピッチの製造方法。
【請求項2】 請求項1に記載の銀分散ピッチを不融化し、炭素化し、賦活することを特徴とする銀分散型活性炭素材料の製造方法。
【請求項3】 請求項2に記載の方法によって得られた銀分散型活性炭素材料。
【請求項4】 請求項3に記載の銀分散型活性炭素材料が、繊維状、粒状或いは粉末状である活性炭素材料。

【公開番号】特開2000−26867(P2000−26867A)
【公開日】平成12年1月25日(2000.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−100018
【分割の表示】特願平8−60601の分割
【出願日】平成8年3月18日(1996.3.18)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)