説明

銅の溶媒抽出方法

【課題】第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、高抽出率が得られる工業的に効率的な銅の溶媒抽出方法を提供する。
【解決手段】
抽出開始時における塩化物水溶液のpH(室温)を1.0以下にするとともに、該塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度を90〜200g/Lに調整することを特徴とする銅の溶媒抽出方法などによって提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の溶媒抽出方法に関し、さらに詳しくは、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、高抽出率が得られる工業的に効率的な銅の溶媒抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属精錬、銅を含む鉄鋼精錬の副産物、及び金属質廃棄物処理において、銅と種々の共存元素を分離する技術は、銅の収率と品質の向上、鉄の高純度化などにとって重要な技術課題であった。この一般的な方法としては、銅と鉄等が溶液中に共存するときには、鉄を酸化して沈殿除去する方法が行われていた。しかし、沈殿された水酸化鉄は一般に含水率が高く、銅のほか、他の共存元素も含み純度が低いので、利用先が限られ多くは廃棄となる。このとき共沈殿した銅も同時に廃棄されて損失となっていた。
【0003】
この解決策として、液中に低濃度に含まれる元素を濃縮し、また他の元素との分離が工業的に可能である有機溶媒からなる抽出剤を用いる溶媒抽出法が有効な方法であることが知られている。
銅と鉄を溶媒抽出法によって分離する代表的な方法として、以下の方法が挙げられる。 例えば、一部硫化銅鉱物を含む酸化銅鉱石の硫酸浸出法において得られる2価の銅イオン(第2銅イオン)、2価の鉄イオン(第1鉄イオン)及び3価の鉄イオン(第2鉄イオン)を含む浸出生成液から第2銅イオンを商品名LIX64等の酸性抽出剤を用いて溶媒抽出する方法が行われている。また、自動車、家電製品等の廃棄物処理過程で、アンモニア浸出液中の第2銅イオンをLIX54で抽出する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0004】
一般に、上記酸性抽出剤による抽出では、銅が抽出されるにしたがって液のpHが下がるので、液のpHを1.5〜2.5に保つため水酸化ナトリウムやアンモニア等の中和剤の添加が必要となり、これら中和剤の成分の浸出液への蓄積が問題となる。また、抽出後の抽出剤から銅を逆抽出するためには強酸性領域で行う必要がある。したがって、銅や鉄等が強酸性領域で浸出された浸出生成液の場合には、抽出及び逆抽出工程において酸やアルカリを大量に消費するという問題がある。
【0005】
一方、鉄イオンの分離に従来から使われているトリブチルフォスフェイト(TBP)やトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)等のような中性抽出剤では、液のpHにかかわらず金属イオンを抽出できるので、塩化物水溶液では、抽出及び逆抽出において酸及びアルカリをほとんど必要としない。しかしながら、中性抽出剤は、第2銅イオンに対する抽出性がない。したがって、第2銅イオン、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む塩化物水溶液に中性抽出剤による溶媒抽出法を適用する場合には、中性抽出剤に第2鉄イオンを抽出させ、抽出残液に第2銅イオンを残留させることで銅と鉄を分離することができる。しかしながら、第1鉄イオンの存在は鉄の抽出を不安定にするので、第1鉄イオンを第2鉄イオンに酸化しておくことが必要であった。
【0006】
ところで、近年、銅硫化鉱物の湿式精錬法において、塩化物水溶液から銅を電解採取する方法が注目されている。これは、硫酸水溶液と異なり、塩化物水溶液では第1銅イオンが安定に存在できるので、第1銅イオンを含む電解始液を用いると、通常の2価の銅の電解と比べて電解電力が半減される効果があるからである。この際、電解始液としては、第1銅イオンを含み、鉄等の不純物元素を含まない塩化物水溶液が望ましい。したがって、上記塩化物水溶液を効率的に得る方法が求められていた。
【0007】
この解決策として、本発明者らは、第2銅イオン、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む塩化物水溶液を還元し、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む液を得て、これをトリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤と接触させて第1銅イオンを該抽出剤中に抽出した後、該抽出剤に水溶液を接触させて第1銅イオンを水溶液中に逆抽出することからなる方法(例えば、特許文献2参照。)を提案している。この方法により、第1銅イオンを含み、鉄等の不純物元素を含まない塩化物水溶液が得られる。しかしながら、上記方法において、単位溶媒当たりに抽出できる第1銅イオン量には限りがあり、その抽出率が低いとその分より多くの溶媒量を必要とする。
【0008】
このような状況から、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液から第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、前記塩化物水溶液にトリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤を接触混合させて第1銅イオンを抽出するにあたり、単位溶媒当たりに抽出できる第1銅イオン量をより多くすることができる、すなわち高抽出率が得られる工業的に効率的な銅溶媒抽出方法が求められている。
【0009】
【特許文献1】特開平06−240373号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2004−162135号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、高抽出率が得られる工業的に効率的な銅の溶媒抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液の溶媒抽出方法について、鋭意研究を重ねた結果、前記塩化物水溶液にトリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤を接触混合させて第1銅イオンを抽出する際に、抽出始液として特定の条件に調整した塩化物水溶液を用いることによって、より多くの第1銅イオンを抽出剤中に抽出させることができることを見出し、本発明を完成した。これによって、第1銅イオンを高抽出率で分離することができる。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、
抽出開始時における塩化物水溶液のpH(室温)を1.0以下にするとともに、該塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度を90〜200g/Lに調整することを特徴とする銅の溶媒抽出方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記抽出開始時のpH(室温)は、0.5以下であることを特徴とする銅の溶媒抽出方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度は、100〜200g/Lであることを特徴とする銅の溶媒抽出方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記塩化物水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)は、0〜400mVであることを特徴とする銅の溶媒抽出方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4の発明において、前記塩化物水溶液中の第1銅イオン濃度は、10〜70g/Lであることを特徴とする銅の溶媒抽出方法が提供される
【発明の効果】
【0017】
本発明の銅の溶媒抽出方法は、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、抽出剤中に高抽出率で第1銅イオンを抽出させることができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の銅の溶媒抽出方法を詳細に説明する。
本発明の銅の溶媒抽出方法は、第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、抽出開始時の塩化物水溶液のpH(室温)を1.0以下にするとともに、該塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度を90〜200g/Lに調整することを特徴とする。
【0019】
本発明において、抽出開始時の塩化物水溶液のpH(室温)を1.0以下に調整することに重要な意義を有しており、これにより、抽出剤中への第1銅イオンの高抽出率が得られる。さらに、同時に、塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度を90〜200g/Lの高濃度に調整することによって、より高い抽出率が得られることが重要である。
【0020】
本発明において、塩化物水溶液からの銅イオンの抽出は、塩化物水溶液とトリブチルフォスフェイトを主成分とする有機溶媒からなる抽出剤(以下、トリブチルフォスフェイト抽出剤と呼称する場合がある。)とを接触混合することによって行うことができる。接触混合には、工業的には通常のミキサーセトラー方式、パルスカラム方式等の溶媒抽出装置が使用される。ここで、トリブチルフォスフェイトは、塩化物水溶液中の第1銅イオン及び第2鉄イオンを第1鉄イオンに対して選択的に抽出する特性を有する。したがって、塩化物水溶液中の銅イオンと鉄イオンが、第1銅イオンと第1鉄イオンである場合には、トリブチルフォスフェイト抽出剤は第1銅イオンを選択的に抽出する。
【0021】
本発明に用いる抽出剤において、トリブチルフォスフェイトは、流動性を保つために、ケロシン等の希釈剤で希釈されても良いが、銅イオンの抽出率は接触混合させるトリブチルフォスフェイトの濃度に依存するので、トリブチルフォスフェイトの希釈は極力行わない方が好ましい。しかしながら、トリブチルフォスフェイト濃度を、好ましくは40〜100容量%、さらに好ましくは50〜100容量%に調整することにより、工業的に満足されるCu/Feの分離係数を得ることができる。
【0022】
本発明で用いる第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液としては、主に非鉄金属精錬工程などから産出する銅、鉄等を含む浸出生成液である塩化物水溶液、銅メッキ被覆鉄系材料などからの銅、鉄等の回収用塩化物水溶液、自動車、家電製品等のシュレッダー処理産出物からの銅、貴金属、鉄等の分離回収用塩化物水溶液等を原料溶液として用いて、必要に応じて液中の銅イオンと鉄イオンを還元処理して得られたものが挙げられる。この中で、特に、銅硫化精鉱の塩素浸出法から産出される浸出生成液が好ましく用いられる。
【0023】
上記塩化物水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)としては、特に限定されるものではなく、銅イオンと鉄イオンの還元条件によって異なるが、好ましくは0〜400mV、より好ましくは0〜350mV、特に好ましくは250〜300mVである。
例えば、銅硫化精鉱の塩素浸出法から産出される浸出生成液は、一般に第2銅イオン、第1鉄イオン及び第2鉄イオン等を含む溶液であり、これに還元剤を添加し、酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)を0〜400mVに調整して、第2銅イオンを第1銅イオンに、及び第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元する。
【0024】
上記酸化還元電位の調整方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法、例えば、不活性雰囲気で金属銅、あるいは銅より卑な金属鉄等を加える方法、二酸化硫黄ガスを添加する方法、銅硫化精鉱の塩素浸出法において黄銅鉱等の銅硫化鉱物を還元剤として用いる方法等によって行うことができる。
【0025】
上記塩化物水溶液中の第1銅イオン濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば、銅硫化精鉱の塩素浸出法において得られる浸出生成液の場合には、10〜70g/Lが用いられる。すなわち、第1銅イオン濃度が10g/L未満では、液濃度が薄いので設備効率が悪い。一方、第1銅イオン濃度が70g/Lを超えると、溶媒抽出において銅の抽出効率が低下する。
【0026】
本発明で用いる抽出開始時の塩化物水溶液(抽出始液)のpHとしては、室温において1.0以下、好ましくは0.5以下に調整される。すなわち、pHが低い程、第1銅イオンの抽出率が上昇するので、十分な高銅抽出率を得るためには1.0以下にまで、好ましくは0.5以下にまでpHを低下させる。また、pHが1.0を超えると、水溶液中に高濃度で存在する鉄の水酸化物沈殿の生成により、クラッド等の発生の恐れがある。
【0027】
上記pHの調整方法としては、特に限定されるものではないが、上記塩化物水溶液のpHが高い場合には、液性を変えないため塩酸の添加が好ましい。
【0028】
本発明に用いる塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度としては、90〜200g/L、好ましくは100〜200g/Lに調整する。すなわち、第1鉄イオン濃度が高い程、第1銅イオンの抽出率が上昇するので、十分な高銅抽出率を得るためには第1鉄イオン濃度を90g/L以上の高濃度に調整することが望ましい。一方、第1鉄イオン濃度が200g/Lを超えると、塩化物水溶液の塩濃度そのものが上昇することになるため、溶解度の関係で液中に含まれている塩化第1鉄、食塩、塩化銅等の一部が析出し、配管に詰まる等の不具合が多発することになる。
【0029】
ここで、第1銅イオンの抽出率に対する抽出始液の鉄濃度の影響を明確にするため、以下の具体例で説明する。
抽出始液として、銅精鉱を塩化浴中で浸出し、金属銅粉を用いて酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)を300mV以下になるように調節した後、pHを1.0に調整したものを用いた。なお、第1銅濃度は約30g/L及び塩素イオン濃度は約160〜190g/Lであった。このとき、第1鉄濃度を20〜160g/Lと変化させた。抽出剤としては、希釈剤としてドデカン相当であるテクリーンN20(新日本石油製、炭化水素系無極性洗浄剤)を使用して、トリブチルフォスフェイト(TBP)を80容量%に調整したものを用いた。上記抽出剤と抽出始液とを200mLビーカーの中に容量比で2:1で混合し、約25℃の室温で10分間、マグネチックスターラーで攪拌した。なお、攪拌時は液の酸化を防止する意味で、ビーカー内を窒素でパージした。
【0030】
図1に、抽出始液中の鉄濃度と銅抽出率の関係を表す。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行なった。
図1より、抽出始液の鉄濃度が上昇するにつれて、銅のトリブチルフォスフェイトへの抽出率が上昇し、特に、鉄濃度90g/L以上で75%以上の高銅抽出率が得られることが分かる
【0031】
上記塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度の調整方法としては、特に限定されるものではなく、塩化物水溶液に塩化鉄、金属鉄等を投入して調整することができるが、塩化物水溶液が銅硫化精鉱の塩素浸出法からの浸出生成液の場合には、プロセス全体としての経済的に効率的な第1鉄イオン濃度の調整方法が用いられる。
【0032】
以下に、図面を用いて、銅硫化精鉱の塩素浸出法における銅溶媒抽出工程での第1鉄イオン濃度の調整について説明する。
図2は、銅硫化精鉱の塩素浸出法の一例を表す工程フロー図の概要である。図2において、銅硫化精鉱6は、塩素浸出工程1、還元工程2、溶媒抽出工程3、銅電解工程4、及び鉄電解工程5からなる一連の工程で処理される。
塩素浸出工程1からの浸出生成液7中には、原料の銅硫化精鉱6中から銅と鉄が塩化銅と塩化鉄の形で浸出され、溶存している。塩化銅は、還元工程2で塩化第1銅に還元され、本発明に係る溶媒抽出工程3によって抽出され、その後逆抽出液9として回収され、銅電解工程4で電解銅11として回収される。一方、抽出残液10中の塩化鉄は、その後、鉄電解工程5に送られ、その一部を電解鉄12あるいは他の方法により分離された後、酸化性の液体である電解廃液13として塩素浸出工程1に繰り返され、再び使用されることなる。
【0033】
このため、本発明に用いる抽出始液中では、一般に塩化第1銅イオン濃度より塩化第1鉄イオン濃度の方が高くなっている。また、鉄電解工程で抜き取られる鉄量を調節することによって、繰り返される鉄量を調節し、抽出始液中に含まれる第1鉄イオン濃度を調節することもできる。鉄電解工程で抜き取られる鉄量を減らせば、繰り返しの鉄量が多くなり、結果として抽出始液中の第1鉄イオン濃度を高く保つことになる。また、一時的であれば、塩化第1鉄の結晶を抽出始液に投入することによって第1鉄イオンの濃度を上昇させることができる。
【0034】
以上の方法でトリブチルフォスフェイト抽出剤中に抽出された銅は、逆抽出操作において、トリブチルフォスフェイト抽出剤を酸性水溶液と接触混合させ、銅イオンを水溶液側に逆抽出することにより回収される。この逆抽出条件としては、特に限定されるものではなく、通常の条件を用いて行なわれる。例えば、逆抽出に用いられる酸性水溶液としては、銅濃度が70g/L以下、塩素イオン濃度が50〜350g/Lであることが望ましい。また、逆抽出の温度は、40〜90℃であることが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた銅、鉄の分析方法は、蛍光X線定量分析方法(XRF)で行なった。
【0036】
また、実施例及び比較例で用いた抽出始液、抽出剤とその調整方法は、以下の通りであった。
(1)抽出始液:銅精鉱を塩化浴中で浸出し、金属銅粉を用いて酸化還元電位(銀/塩化銀電極)を300mV以下になるように調節した試料を塩酸でpHを調整した。
(2)トリブチルフォスフェイト抽出剤:希釈剤としてドデカン相当であるテクリーンN20(新日本石油製、炭化水素系無極性洗浄剤)を使用して、抽出剤中のトリブチルフォスフェイト(TBP)を80容量%に調整した。
【0037】
(実施例1)
まず、抽出始液として、上記調整方法で、第1銅イオン濃度30g/L、第1鉄イオン濃度90g/L及び塩素イオン濃度190g/Lを含有する水溶液を用意し、塩酸にてpHを1.0に調整したものを用いた。
次に、上記抽出剤と前記抽出始液とを200mLビーカーの中に容量比で2:1で混合し、約25℃の室温で10分間、マグネチックスターラーで攪拌した。なお、攪拌時は液の酸化を防止する意味で、ビーカー内を窒素でパージした。その後、得られた抽出残液の銅を分析し、トリブチルフォスフェイト抽出剤への銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
抽出始液として、塩素イオン濃度196g/Lを含有する水溶液を用意したこと、及び塩酸にてpHを0.0に調整したものを用いたこと以外は実施例1と同様に行ない、得られた抽出残液の銅を分析し、トリブチルフォスフェイト抽出剤への銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
抽出始液として、塩素イオン濃度175g/Lを含有する水溶液を用意したこと、及び塩酸にてpHを0.0に調整したものを用いたこと以外は実施例1と同様に行ない、得られた抽出残液の銅を分析し、トリブチルフォスフェイト抽出剤への銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例4)
抽出始液として、塩素イオン濃度168g/Lを含有する水溶液を用意したこと、及び塩酸にてpHを−0.2に調整したものを用いたこと以外は実施例1と同様に行ない、得られた抽出残液の銅を分析し、トリブチルフォスフェイト抽出剤への銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
抽出始液の第1鉄イオン濃度を110g/L、及び塩素イオン濃度を210g/Lとした以外は、実施例1と同様におこない、得られた抽出残液の銅を分析し、銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例6)
抽出始液の第1鉄イオン濃度を160g/L、及び塩素イオン濃度を250g/Lとした以外は、実施例1と同様におこない、得られた抽出残液の銅を分析し、銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例7)
抽出始液の第1鉄イオン濃度を90g/L、及び塩素イオン濃度を175g/Lとした以外は、実施例1と同様におこない、得られた抽出残液の銅を分析し、銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
抽出始液の第1鉄イオン濃度を20g/L、及び塩素イオン濃度を175g/Lとした以外は、実施例1と同様におこない、得られた抽出残液の銅を分析し、銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
抽出始液の第1鉄イオン濃度を45g/L、及び塩素イオン濃度を180g/Lとした以外は、実施例1と同様におこない、得られた抽出残液の銅を分析し、銅の抽出率を求めた。なお、抽出率は(抽出始液の銅濃度−抽出残液の銅濃度)/抽出始液の銅濃度×100(%)で計算を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1より、実施例1〜7では、抽出開始時の塩化物水溶液(抽出始液)のpH(室温)と第1鉄イオン濃度において本発明に従って調整されているので、銅の高抽出率が得られることが分かる、これに対して、比較例1又は2では、第1鉄イオン濃度がこれらの条件に合わないため、銅の抽出率において満足すべき結果が得られないことが分かる。なお、塩素イオン濃度と銅の抽出率の相関は見られない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上より明らかなように、本発明の本発明の銅の溶媒抽出方法は、塩化物水溶液に含有される銅、鉄などの有価金属を分離回収する製錬プロセス分野において効果的に利用されるものである。特に、第1銅イオンを含む電解始液を製造する方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】抽出始液中の鉄濃度と銅抽出率の関係を表す図である。
【図2】銅硫化精鉱の塩素浸出法の一例を表す工程フローの概要を表す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 塩素浸出工程
2 還元工程
3 溶媒抽出工程
4 銅電解工程
5 鉄電解工程
6 銅硫化精鉱
7 浸出生成液
8 浸出残渣
9 逆抽出液
10 抽出残液
11 電解銅
12 電解鉄
13 電解廃液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1銅イオンと第1鉄イオンを含む塩化物水溶液からトリブチルフォスフェイトを主成分とする抽出剤を用いて、第1銅イオンを選択的に抽出し分離回収する溶媒抽出方法において、
抽出開始時における塩化物水溶液のpH(室温)を1.0以下にするとともに、該塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度を90〜200g/Lに調整することを特徴とする銅の溶媒抽出方法。
【請求項2】
前記抽出開始時のpH(室温)は、0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅の溶媒抽出方法。
【請求項3】
前記塩化物水溶液中の第1鉄イオン濃度は、100〜200g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の銅の溶媒抽出方法。
【請求項4】
前記塩化物水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)は、0〜400mVであることを特徴とする請求項1に記載の銅の溶媒抽出方法。
【請求項5】
前記塩化物水溶液中の第1銅イオン濃度は、10〜70g/Lであることを特徴とする請求項1〜4に記載の銅の溶媒抽出方法。

【図1】
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【図2】
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