説明

銅合金

【課題】 粒界反応型析出によるノジュール組織を抑制し、強度を向上し、端子、コネクタ、スイッチなどの材料として好適な、強度、導電性、曲げ加工性、応力緩和特性、メッキ密着性などに優れる銅合金を提供する。
【解決手段】Niを3.5〜6.5mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにMg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snから選択される1種または2種以上の元素を総量で0.01〜3.0mass%含有し、Znを0.2〜1.5mass%含有し、Sの含有量を0.005mass%未満に制限し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金であって、粒界反応型析出により形成されるノジュール組織の面積率が5%以下であることを特徴とする銅合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、例えば、自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに適用される銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子機器の小型化および高性能化に伴って、そこに用いられるコネクタなどの材料にも、より厳しい特性改善が要求されるようになった。具体的には、例えば、コネクタのばね接点部に使用される板材の厚さが非常に薄くなり接触圧力の確保が難しくなってきている。即ち、コネクタのばね接点部では、通常、板材(ばね材)を撓ませて、その反力で電気的接続に必要な接触圧を得ているが、板材の厚さが薄くなると同じ接触圧を得るためには撓み量を大きくする必要があり、そうすると、板材が弾性限度を超えて塑性変形してしまうことがある。このため、板材には弾性限度の一層の向上が要求されることになる。
【0003】
この他、コネクタのばね接点部の材料には応力緩和特性、熱伝導性、曲げ加工性、耐熱性、メッキ密着性、マイグレーション特性など多岐に渡る特性が要求される。中でも強度、応力緩和特性、熱・電気伝導性、曲げ加工性が重要である。ところで、前記コネクタのばね接点部には、従来より、リン青銅が大量に用いられているが、リン青銅は前記要求を完全に満たすことができず、近年は、より高強度で応力緩和特性に優れ、導電性も良好なベリリウム銅(JIS−C1753合金)への切り替えが進んでいる。しかしながら、ベリリウム銅は非常に高価な上、金属ベリリウムには毒性がある。
【0004】
この為、前記接点部材料には、ベリリウム銅と同等の特性を有し、かつ安価で、安全性の高い材料が強く望まれるようになり、多くの材料の中から比較的強度の高いCu−Ni−Si系合金(特開昭63−130739号公報など)が注目され、昭和60年代後半に盛んに研究され多数の発明がなされた。しかし、現在市場で使用されている銅合金を見渡すと、当時開発されたCu−Ni−Si系合金は、残念ながらベリリウム銅の代替材には成り得ていない。その理由は強度および応力緩和特性がベリリウム銅に及ばないためと思われる。
【0005】
この他、前記接点部材料には、前記Cu−Ni−Si系合金の応力緩和特性をMgを添加して改善した銅合金が提案されている(特開平5−59468号公報など)が、Mgを添加しただけではベリリウム銅と同等の応力緩和特性は得られず、更なるブレークスルーが必要とされていた。それらを解決する為にSn、Mg、Znを適量添加し、且つ結晶粒径を制御することで強度と曲げ加工性と応力緩和特性を改善した銅合金が提案された(例えば、特許文献1)。
【0006】
端子、コネクタ、スイッチ材料における近年のより厳しい特性改善要求に対応するためには、より高強度なベリリウム銅(JIS−C1720合金)の代替材になりうるよう、Cu−Ni−Si系合金において更なる高強度化が必要となる。Cu−Ni−Si系合金の高強度化の手段には、NiおよびSiの含有量を増加させる手段があるが、NiおよびSi含有量の増加に伴い、粒界から粒界反応型析出(不連続析出とも言う)の進行が起こりやすくなることを発明者らは見出した。粒界反応型析出より粒界から形成した層状のノジュール組織は脆性的であり、ノジュール組織の増加に伴い強度の低下および曲げ加工性の劣化が引き起こされ、要求の特性を満たすことは容易でなくなる。
【0007】
粒界反応型析出のノジュール組織形成に伴う特性の低下は、他の合金系でも問題であり、Cu−Ti系合金およびCu−Ni−Sn系合金などでは改善の手法も提案されている(例えば、特許文献2,3)。しかしながらCu−Ni−Si系合金での改善事例は無く、Cu−Ni−Si系合金において、NiおよびSiの含有量を増加させ強度を向上する手法は困難であり、粒界反応型析出を制御することが必要であった。
【0008】
【特許文献1】特許第3520046号公報
【特許文献2】特開2004−143469号公報
【特許文献3】特開平11−293367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、NiおよびSiを高濃度で含有するCu−Ni−Si系合金において、粒界反応型析出によるノジュール組織を抑制し、強度を向上し、端子、コネクタ、スイッチなどの材料として好適な、強度、導電性、曲げ加工性、応力緩和特性、メッキ密着性などに優れる銅合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来から知られているCu−Ni−Si系合金のNiおよびSiを高濃度に含有する合金のうち、近年のニーズを満足するように改良し、前記課題を解決した銅合金である。
すなわち本発明は、
(1)Niを3.5〜6.5mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにMg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snから選択される1種または2種以上の元素を総量で0.01〜3.0mass%含有し、Sの含有量を0.005mass%未満に制限し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金であって、粒界反応型析出により形成されるノジュール組織の面積率が5%以下であることを特徴とする銅合金、
(2)Niを3.5〜6.5mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにMg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snから選択される1種または2種以上の元素を総量で0.01〜3.0mass%含有し、Znを0.2〜1.5mass%含有し、Sの含有量を0.005mass%未満に制限し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金であって、粒界反応型析出により形成されるノジュール組織の面積率が5%以下であることを特徴とする銅合金、及び
(3)結晶粒径が0.001mmを超え0.025mm以下である、(1)および(2)に記載の銅合金、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高強度銅合金は、強度、曲げ加工性に優れ、近年の傾向である電子・電気機器用部品の小型化および高性能化に好適に対応できる。本発明の銅合金は端子、コネクタ、スイッチなどに好適であるが、その他スイッチ、リレーなど一般材料としても好適である。依って、工業上顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の銅合金の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。
CuにNiとSiを添加すると、Ni−Si系化合物(Ni Si相)がCuマトリックス中に析出して強度および導電性が向上することが知られている。本発明において、Niの含有量を3.5〜6.5mass%、Siの含有量を0.7〜2.0mass%を規定する理由は、いずれが下限値未満でもベリリウム銅と同等以上の強度が得られず、何れが上限値を超えると鋳造時や熱間加工時に強度向上に寄与しない晶出および析出が生じ添加量に見合う強度が得られないだけでなく、熱間加工性に悪影響を及ぼす問題が生じる。また、粒界反応型析出によるノジュール組織形成の影響が顕著になるのは、いずれかが下限値以上の含有量の場合である為、下限値以下の場合粒界反応型析出を抑制する必要は無い。ノジュール組織形成の影響が顕著である為粒界反応型析出の抑制が必要で、かつ、鋳造性および熱間加工性を良好に保つ観点から、特に望ましい含有量はNiが4.5〜5.5mass%、Si含有量が0.9〜1.7mass%の場合である。
【0013】
NiとSiは主としてNiSi相を形成する為、強度を向上する為に最適なNiとSiの比が存在する。Ni2Si相を形成したときのNi(mass%)とSi(mass%)の比、Ni/Siは4.2であり、その値を中心に、Ni/Siを3.4〜5.0に、更には3.8〜4.6に制御することが望ましい。
【0014】
次に、強度向上に有効なMg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snの副成分元素について説明する。これらの元素は何れも、粒界反応型析出によるノジュール組織形成を抑制し粒内への析出を均一にする為、強度の向上および曲げ加工性の向上に寄与する。
【0015】
Mgは更には、応力緩和特性を大幅に改善するが、添加量により曲げ加工性には悪影響を及ぼす。応力緩和特性の改善にはMg量は0.01mass%以上で多ければ多いほど良いが、0.20mass%を超えると曲げ加工性が要求特性を満たさなくなる。本発明ではNiSi相の析出による強化量が従来のCu−Ni−Si系合金よりも格段に大きいことから、曲げ加工性が低下し易いので、Mg量は厳密に制御する必要がある。
【0016】
Snは更には、Mgと相互に関係し合って、応力緩和特性をより一層向上させるが、その効果はMg程大きくない。Snが0.05mass%未満ではその効果が充分に現れず、1.5mass%を超えると導電性が大幅に低下する。
【0017】
Coは更には、Niと同様にSiと化合物を形成して強度を向上させる。Coの含有量は0.05mass%未満ではその効果が充分に得られず、1.0mass%を超えると、強度に寄与しない析出が形成し、曲げ加工性が劣化する。
【0018】
Crは更には、銅中に微細に析出して強度向上に寄与するともに、SiもしくはNiとSiと化合物を形成し、結晶粒径の粗大化を抑制する効果がある。0.05mass%未満ではその効果が充分に得られず、1.0mass%を超えると曲げ加工性が劣化する。
【0019】
Sc,Zr,Ti,Yは、0.01mass%未満ではノジュール組織形成の抑制効果が充分に得られず、0.2mass%を超えると、強度に寄与しない化合物が銅中に形成し、曲げ加工性が劣化する。
【0020】
Mg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snから選択される1種または2種以上の元素を総量で0.01〜3.0mass%に規定する理由は、粒界反応型析出によるノジュール組織形成を抑制し、強度および曲げ加工性の向上に有効だからである。0.01mass%未満ではその効果が充分に得られず、3.0mass%を超えると強度に寄与しない化合物が形成し、導電率および曲げ加工性を劣化させる。
【0021】
Sは熱間加工性を悪化させるため、その含有量は0.005mass%未満に規定する。特には0.002mass%未満が望ましい。
【0022】
Znは曲げ加工性を若干改善する。好ましくはZn量を0.2〜1.5mass%に規定することにより、Mgを最大0.20mass%まで添加しても実用上問題ないレベルの曲げ加工性が得られる。この他、ZnはSnメッキやハンダメッキの密着性やマイグレーション特性を改善する。Zn量が1.5mass%を超えると導電性が低下する。
【0023】
本発明では、前記組成の銅合金の特性を好適に実現するために結晶粒径を規定する。本発明において、前記結晶粒径を、0.001mmを超え0.025mm以下に規定する理由は、結晶粒径が0.001mm以下では再結晶組織が混粒(大きさの異なる結晶粒が混在した組織)と成り易く、曲げ加工性並びに応力緩和特性が低下し、また結晶粒径が0.025mmを超えると曲げ加工性に悪影響が及ぶため、また、粒界反応型析出によるノジュール組織も形成しやすくなるためである。なお、前記結晶粒径はJISH0501(切断法)に基づいて測定した値とする。
【0024】
本発明の銅合金は、例えば、鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延、溶体化熱処理、時効熱処理、最終冷間圧延、低温焼鈍の各工程を順に施して製造される。本発明において、前記結晶粒径は、前記製造工程において、熱処理条件、圧延加工率、圧延の方向、圧延時のバックテンション、圧延時の潤滑条件、圧延時のパス回数などを調整して制御する。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す本発明規定組成の銅合金(本発明例1〜19)を、高周波溶解炉にて溶解し、これを10〜30℃/秒の冷却速度で鋳造して厚さ3.0mm、幅100mm、長さ150mmの鋳塊を得た。これを1000℃×1hrの保持後、熱間圧延により板厚t=12mmの熱延板を作製し、その両面を各1mm面削してt=10mmとし、次いで冷間圧延によりt=0.167mmに仕上げた。その板材を950℃にて2.0secで溶体化処理を行った。溶体化処理の後は直ちに水焼入れを行った。次いで、全ての合金は時効熱処理を450〜500℃にて2hr実施した後、加工率10%で冷間圧延を行ってt=0.15mmの板を得て供試材とした。この供試材について下記の特性評価を行った。
a.導電率:
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
b.引張強度:
圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定しその平均値を示した。
c.曲げ加工性:
圧延方向に平行に幅10mm、長さ25mmに切出し、これに曲げの軸が圧延方向に直角に曲げ半径R=0、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6で90°W曲げし、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で目視観察および走査型電子顕微鏡によりその曲げ加工部位を観察し割れの有無を調査した。なお、評価結果はR/t(Rは曲げ半径、tは板厚)で表記し、割れが発生する限界のRを採用してR/tを算出した。仮に、R=0.15で割れが発生せず、R=0.1で割れが発生した場合は、板厚(t)=0.15mmなのでR/t=0.15/0.15=1と表記した。
d.結晶粒径測定および粒界反応型析出により形成したノジュール組織の面積率測定
結晶粒径はJISH0501(切断法)に基づき、板材の最終冷間圧延方向(最終塑性加工方向)と平行な断面、および最終冷間圧延方向と直角な断面にて測定を行った。またノジュール組織の面積率測定は、上記結晶粒度を測定する時に同時に行った。即ち、供試材の最終冷間圧延方向(最終塑性加工方向)に対して、垂直および直角な断面を研磨用樹脂に埋め込み後、鏡面仕上げを行い、クロム酸と硫酸の混合液によるエッチング処理にて観察面を得た。それらの観察面を200倍の光学顕微鏡にて観察を行い粒界反応型析出により形成したノジュール組織の観察を行った。この際、ノジュール組織は光学顕微鏡組織の中では他の部位と比べ層状の黒い領域として観察され、他の組織と区別して観察される(合金の析出:幸田成康監修 丸善発行1972、p230、図7・9参照)。ノジュール組織観察を10視野にて行い、セル組織の面積率を求めた。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表1に明らかなように、本発明1〜19はいずれも優れた特性を示している。これに対し、比較例1比較例2および比較例3では、ノジュール組織の面積率が本発明規定値よりも多い為、引張強度および曲げ加工性が劣った。比較例4ではNi,Si量が多かった為、熱間圧延中に割れが発生し正常に製造することができなかった。比較例5ではNi,Si量が少なかった為、引張強度が劣った。比較例6では、S量が本発明規定値を超えている為、熱間圧延中に割れが発生し、正常に製造することができなかった。比較例7はMg添加量が多い為、曲げ加工性が劣った。比較例8はSn添加量が多い為、冷間圧延中に割れが発生し、正常に製造することができなかった。比較例9はCr添加量が多い為、曲げ加工性が劣った。比較例10は結晶粒径が本発明規定値を超えた為、曲げ加工性が劣った。比較例11はノジュール組織の面積率が、本発明規定値を超えた為、強度がわずかに劣り、曲げ加工性が劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを3.5〜6.5mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにMg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snから選択される1種または2種以上の元素を総量で0.01〜3.0mass%含有し、Sの含有量を0.005mass%未満に制限し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金であって、粒界反応型析出により形成されるノジュール組織の面積率が5%以下であることを特徴とする銅合金。
【請求項2】
Niを3.5〜6.5mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにMg、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Y、Zr、Snから選択される1種または2種以上の元素を総量で0.01〜3.0mass%含有し、Znを0.2〜1.5mass%含有し、Sの含有量を0.005mass%未満に制限し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金であって、粒界反応型析出により形成されるノジュール組織の面積率が5%以下であることを特徴とする銅合金。
【請求項3】
結晶粒径が0.001mmを超え0.025mm以下である、請求項1又は2記載の銅合金。