説明

銅極細線不織布およびこれを用いた鳥インフルエンザウイルスの殺滅法

【課題】 この発明は、鳥インフルエンザウイルスを殺滅させる銅極細線不織布および殺滅法に関する。
【解決手段】銅極細線不織布は、銅を延伸してアンニーリングせずに冷間加工により直径30μm以下の極細線とすると共に、該極細線に付着する付着物を洗浄し、乾燥させて表面の付着物を除去した銅極細線を用いて不織布を成形してなる。次に、この銅極細線不織布を用いた鳥インフルエンザウイルスの殺滅方法は、不織布を鳥インフルエンザウイルスに直接接触させることで達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鳥インフルエンザウイルスを殺滅させる銅極細線不織布およびこれを用いた鳥インフルエンザウイルスの殺滅法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀や銅イオンは、固有の殺菌作用を有していることから、銀や銅の極細線を原料とした不織布を濾材として液体を濾過する殺菌法として、特開昭50−138641号が開示されている。
しかし、従来の極細線不織布によると細菌類やプランクトンの殺滅はできるが、ウイルス、特に鳥インフルエンザウイルスに対しては効果が得られなかった。
そこで、本発明者らは、殺菌作用と原料の価格の面から素材として銅に着目し、鳥インフルエンザウイルスの殺滅に対して有効な銅極細線不織布について鋭意研究の結果、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】特開昭50−138641号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の主たる課題は、鳥インフルエンザウイルスに対して有効な銅極細線不織布およびこれを用いた鳥インフルエンザウイルスの殺滅法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、請求項1の銅極細線不織布の発明では、
銅を延伸してアンニーリングせずに冷間加工により直径30μm以下の極細線とすると共に、該極細線に付着する付着物を洗浄し、乾燥させて表面の付着物を除去した銅極細線を用いて成形された不織布であることを特徴とする。
請求項2の発明では、
前記銅極細線が、延伸した極細線の表面のクラックに付着した付着物を超音波洗浄し、かつ、表面に残留する細かい切粉等の付着物をアルコール等の液体で洗浄し、室温で乾燥させて極細線の表面金属の付着物を除去してなり、該銅極細線で形成された不織布を鳥インフルエンザウイルスに接触させてて鳥インフルエンザウイルスを殺滅させうることを特徴とする。
また、請求項3の鳥インフルエンザウイルスの殺滅法の発明では、
銅を延伸してアンニーリングせずに冷間加工により直径30μm以下の極細線とすると共に、該極細線に付着する付着物を洗浄し、乾燥させて表面の付着物を除去した銅極細線を用いて成形された不織布に、鳥インフルエンザウイルスを接触させて鳥インフルエンザウイルスを殺滅させうることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
この発明の銅極細線不織布に鳥インフルエンザウイルスを接触させることで、鳥インフルエンザウイルスの感染価は、10分後には99.8%、30分後には99.999%のウイルス感染価の減少がみられ、鳥インフルエンザウイルスが殺滅されることが確認された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
この発明は、銅の極細線を冷間加工により延伸し、該極細線の表面に付着する付着物を除去して不織布を成形することで、鳥インフルエンザウイルスの殺滅を実現した。
以下に、この発明の銅極細線不織布の好適実施例について説明する。
【実施例1】
【0007】
純銅を冷間加工により延伸して直径30μm以下の極細線とする。
より好ましい極細線の直径は、25〜27μmの範囲である。
この銅の極細線は、棒状の銅をダイスの穴に通し、機械で引っ張って細く長く延ばし、上記ダイスの穴を徐々に小さくしながら更に延伸して、段階的に直径を所定値まで細くする。
従来は、延伸した極細線をアンニーリング(annealing)処理しているが、本件発明では、アンニーリング処理を行わない点に特徴があり、冷間加工によっている。
【0008】
このように成形された極細線は、単位面積を大幅に増やすため、一本あたりの表面積を小さくし、単位断面積あたりの金属素子を増加する。
【0009】
次ぎに、上記極細線の表面のクラックにできた粉体部分や油脂などの付着物を超音波洗浄する。
更に、上記極細線の表面に残留する細かい切粉を高級薬用アルコールなどの洗浄液で洗浄する。
そして、室温で自然乾燥させる。
これにより、上記極細線の金属表面を全くの裸金属とする銅極細線が得られる。
【0010】
そして、この銅極細線を用いて銅極細線不織布を成形する。
本実施例で銅極細線不織布は、一例として、波形状またはカール状のランダムな捲縮を有する銅極細線を少なくとも30%以上含有する長さが30〜250mmの開繊された銅極細線の絡合体からなっているが、例えば特許第905266号に開示されたようなクロスラップ方式で作られた不織布に限らず、この発明では前記銅極細線を用いて公知の方法で成形された不織布を用いるものであってもよい。
【0011】
上記のように成形された銅極細線不織布を用いて、鳥インフルエンザウイルスを用いた抗ウイルス試験を行った。
【0012】
[試験方法]
(1).50mlの遠心管にH5N3亜型の鳥インフルエンザウイルス液40m1と、前記実施例で得られた銅極細線不織布4gを入れ、4℃で回転混和し、ウイルスと銅極細線不織布との混合液からなる実施品(a)を得た。
(2).該実施品(a)を得て10分後、および30分後の実施品(a)を、10日齢の発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.lmlずつ接種した。
(3).発育鶏卵を37℃、2日間培養した後、赤血球凝集試験により、漿尿膜腔でのウイルス増殖の有無を確認し、前記実施品(a)中のウイルス感染価を算出した。
(4).同時に、前記銅極細線不織布と混合していないウイルス液を対照品(b)とし、実施品(a)と同様に10日齢の発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.lmlずつ接種し、発育鶏卵を37℃、2日間培養した後、赤血球凝集試験により、漿尿膜腔でのウイルス増殖の有無を確認し、前記ウイルス液からなる対照品(b)中のウイルス感染価を算出した。
そして、実施品(a)と対照品(b)の両者を比較することで感染価の減少率を求めた(図1参照)。
【0013】
[試験結果]
前記銅極細線不織布との混合による実施品(a)の、鳥インフルエンザウイルスの感染価は、3回の試験の平均値として、前記10分後のものは99.8%、30分後のものは99.999%のウイルス感染価の減少がみられた(図1、図2参照)。
【0014】
このように、本件発明の銅極細線不織布は、従来、銅の殺菌作用が及ばないとされていた鳥インフルエンザウイルスに対して、銅極細線への加工を変えるだけで特段の殺滅効果を奏することができることを見出した。
即ち、鳥インフルエンザウイルスは、前記銅極細線不織布と接触させることにより、前記のように極く短時間の内にほぼ完全に殺滅されることが確認できた。
【0015】
この因果関係は未だ明確ではないが、冷間加工による銅極細線への残留応力やひずみエネルギーが、銅イオンの有する殺菌作用に影響を及ぼして鳥インフルエンザウイルスの殺滅に対しても有効となったものと考えられる。
したがって、本発明の銅極細線不織布は、その他のウイルスに対しても殺滅作用を有するものとして利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】銅極細線不織布の鳥インフルエンザウイルス殺滅効果の表である。
【図2】鳥インフルエンザウイルス感染価残存率の対比を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を延伸してアンニーリングせずに冷間加工により直径30μm以下の極細線とすると共に、該極細線に付着する付着物を洗浄し、乾燥させて表面の付着物を除去した銅極細線を用いて成形された銅極細線不織布。
【請求項2】
銅極細線が、延伸した極細線の表面のクラックに付着した付着物を超音波洗浄し、かつ、表面に残留する細かい切粉等の付着物をアルコール等の洗浄液で洗浄し、室温で乾燥させて極細線の表面金属の付着物を除去してなり、該銅極細線で形成された不織布を鳥インフルエンザウイルスに接触させてて鳥インフルエンザウイルスを殺滅させうることを特徴とする請求項1に記載の銅極細線不織布。
【請求項3】
銅を延伸してアンニーリングせずに冷間加工により直径30μm以下の極細線とすると共に、該極細線に付着する付着物を洗浄し、乾燥させて表面の付着物を除去した銅極細線を用いて成形された不織布に、鳥インフルエンザウイルスを接触させて鳥インフルエンザウイルスを殺滅させうることを特徴とする鳥インフルエンザウイルスの殺滅法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−138323(P2008−138323A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326374(P2006−326374)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(503048497)株式会社エスコ (1)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】