説明

銅電解殿物からのテルルの回収方法

【課題】銅電解殿物から塩化鉛と共に抽出されたテルル含有原料を、アルカリ溶液により浸出処理し、鉛の浸出を抑えつつテルルを浸出するためには、従来は、炭酸ソーダ浸出を行なっていた。この方法では、発泡、薬剤濃度が高い、加熱を必要とした。
【解決手段】
【0006】 アルカリ成分が40 〜60g/LのNaOHからなる常温の苛性ソーダ溶液で、空気を吹込みすることなく浸出して、鉛の浸出を抑えつつテルルを浸出した後、得られた浸出液を中和することにより、テルルを高純度の二酸化テルルとして回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅電解殿物よりテルル(Te)を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅電解殿物からテルルを回収する方法は、乾式法又は湿式法により行われているが、本発明は非特許文献1:JOURNAL OF MMJ 2007(12), VOL.123、「佐賀関製錬所の銅製錬」第626〜629頁、特に第628頁、図3に紹介されている湿式法に属する。
【0003】
非特許文献1の図3に示されているように、銅電解殿物の処理工程では銀含有中間生成物とテルル含有中間生成物が生成する。本出願人の特許文献1:特開2001−11547号公報で説明されているように、銅電解殿物を湿式処理して得られる塩化銀が銀含有中間生成物であり、これから銀を除去した浸出残渣にはテルルが塩化鉛とともに濃縮されており、これがテルル含有中間生成物である。
【0004】
特許文献1が比較法として言及している苛性ソーダによるテルル浸出方法の条件は、高いNaOH濃度、高温(50〜70℃)、かつ空気吹込み条件であり、この結果テルルの他に鉛も同時に浸出されるので、回収したテルルの品質が悪い。このため、特許文献1にあっては、炭酸ソーダ溶液による浸出を行って鉛の浸出を抑えつつテルルの浸出を行い、その後硫酸による中和を行い、二酸化テルルを回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−11547号公報
【特許文献2】特開2001−316735号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JOURNAL OF MMJ 2007(12), VOL.123、「佐賀関製錬所の銅製錬」第626〜629頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅電解殿物から塩化鉛と共に抽出されたテルル含有原料を、アルカリ溶液により浸出処理し、鉛の浸出を抑えつつテルルを浸出するためには、従来は、炭酸ソーダ浸出を行なっていた。この方法では、浸出後液から中和によりテルルを回収する際、炭酸ソーダが分解して発泡を伴うために次のような問題があった。(イ)泡の発生に応じて中和剤の投入量を調節しながら反応を進める必要があり、時間を要していた。(ロ)発泡の際にテルル含有浸出後液の体積が一時的に増大するために、これに対応した設備容量とするため、設備を大型化する必要があった。(ハ)また、炭酸ソーダの添加量が100g/L超と高いためにランニングコストが高くなり、さらに浸出温度は高温であるので、浸出設備に加熱装置が必要であるために、設備コストも高くなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、塩化鉛と共に抜出されたテルルを、苛性ソーダ溶液で浸出する際の鉛の浸出を抑える方法を鋭意研究した結果、次の発明に到達した。
(1)銅電解殿物から塩化鉛と共に抽出されたテルルを含有する原料に、アルカリ溶液による浸出処理を施し、次に中和を行い二酸化テルルを回収する方法において、アルカリ成分が40 〜60g/LのNaOHからなる常温の苛性ソーダ溶液で、空気を吹込みすることなく浸出を行い、鉛の浸出を抑えつつテルルを浸出した後、得られたテルル含有浸出液を硫酸で中和することにより、テルルを高純度の二酸化テルルとして回収することを特徴とする銅電解殿物からのテルルの回収方法。
(2)浸出の際のスラリー濃度が100〜200g/Lであり、かつ浸出時間が2 〜4時間である(1)の方法。
以下、本発明を詳しく説明する。
【0009】
本発明に係る方法の処理対象である原料は、銅電解殿物から塩化鉛と共に抽出された塩化テルルを含有するものであり、その基本的品位はTe:15質量%以下、 Pb:20質量%以下、塩素:残部である。
さらに、Pb,Te,Clの他に、Cu:0.11%以下, Fe:0.16%以下, Sb:25%以下, Se:15%以下, Sn:0.30%以下(何れも質量%)が含有され、これらの金属は何れもテルル品位を低下する。したがって、高純度の二酸化テルルを回収するためには、これらの元素を残渣中に残すか、あるいは浸出後の中和工程でテルルと分離することが望まれる。
【0010】
上記した処理原料を苛性ソーダ溶液でリパルプすることで、テルルを亜テルル酸ソーダとして液中に浸出させる。この際、適切に濃度管理された苛性ソーダ溶液で浸出すると意外にも鉛は溶解しないことが分かった。
【0011】
図1は、NaOH 濃度の20 〜60g/Lアルカリ浸出液(常温)で、原料を4時間、空気吹込みなし、攪拌のみ、スラリー濃度:100g/Lの条件で処理したときの浸出率を成分毎に示しており、テルルは20g/LのNaOH濃度で約60%以上の浸出率を達成しており、60g/L のNaOHで浸出率はほぼ100%となる。一方、Pbは40g/L以下のNaOH濃度では浸出されず、60g/LのNaOH濃度では数%浸出されている。
以上の図1の実験結果から、苛性ソーダ溶液のNaOH濃度は40g/L以上であると、常温でテルルの効率的な浸出が可能である; また苛性ソーダ溶液中のNaOH濃度が60g/L以下であり、かつ空気の吹込みをしないと、鉛の浸出を抑え、これらをテルルから分離することができる;ことが分かる。よって、浸出に用いる苛性ソーダ溶液中のNaOH濃度を40〜60g/Lとすることで、鉛の浸出を抑えつつテルルの浸出が可能になりテルルと鉛を分離することができる。なお、セレンの浸出率も高い。
【0012】
図2は、図1と同じ条件、但しNaOHは60g/L、浸出時間は 2〜 4時間とした他は図1と同じ条件で浸出実験を行った結果を示し、浸出時間は4時間以下、好ましくは2時間以下で浸出率が最大に達することを示す。セレンとテルルの浸出率は同じ挙動を示す。
【0013】
浸出されたテルルを含有する浸出後液は、固液分離後硫酸により中和し、好ましくはpH=5.6〜6.0の酸性側に調整することで、二酸化テルルとして析出させ、液中に残るセレン、砒素などから分離し回収することができる。図1に示すように、NaOHが40g/L以上となるとSeの浸出率も90%以上、Asが60%以上であり、液中に溶け込むことから、硫酸によりpH=5.6〜6.0範囲で中和することによりテルルを二酸化テルルとして液中から残渣として抜出すことで、Se、Asと分離することができる。これにより二酸化テルル中のSe品位を0.5%以下、As品位を0.05%以下まで下げることができる。さらに残渣中のCl品位は、0.1%以下まで下げることができる。
【0014】
その後、固液分離を行い、二酸化テルルを固形分として回収し、洗浄後乾燥し、そのまま外販するか、あるいはその後公知の電解採取を行い金属テルルを製造する。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明によると、塩化鉛とともに含有されているテルルを、湿式法により鉛から分離して高純度ニ酸化テルルとして回収することができる。
(2)本発明による浸出法は、空気吹込みや液の加熱を行わないために、吹込み・加熱設備が必要なく、コンパクトな設備で実施できる。また、NaOH濃度が比較的低いために、薬剤コストが低減でき、ランニングコストも低くなる。
(3)さらに、中和の際に発泡が起こらない。このために次のような利点が生まれる、中和タンクの容量を小さく保つことができる。中和剤の投入タイミングを発泡を考慮して遅くする必要がない。さらに作業環境をクリーンに保つことができる。
(4)硫酸中和を行うと、アルカリ浸出残渣中の塩素品位が低減することから、浸出残渣を乾式工程で処理する際、排ガス中の塩素濃度が低減し、還元焼成炉のレンガへの影響を低減できると共に環境への負荷を低減することができる。
(5)2 〜4時間の浸出時間(請求項2)において、テルルの浸出率はほぼ100%であり、鉛の浸出率はほぼ0%である。この時間範囲内であれば浸出の終点は多少遅くなっても早くなってもよく、浸出終点を厳密に管理する必要がない。
以下、実施例及び比較例によりさらに本発明を詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施例
脱銅後、塩化銀を分離浸出した残渣の主たる元素の品位を表1に示す。
次に、この銅電解殿物を次の条件で苛性ソーダ溶液中に浸出した
(イ)NaOH濃度:40g/L
(ロ)温度:常温
(ハ)スラリー濃度: 100g/L
(ニ)浸出時間: 3hr
(ホ)その他:単に攪拌を行い空気の吹込みをしない。
この結果得られたアルカリ浸出液中の成分濃度は表2に示し、アルカリ浸出残渣(40g/L)の成分濃度を表1に示す。
続いて、固液分離後の浸出液を硫酸を用いて中和し、中和後固液分離を行った。得られた、中和残渣の品位を表1に示し、中和後液の品位を表2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
これらの表からから次のことが分かる。苛性ソーダ浸出により、鉛やアンチモンの浸出を抑えつつ、テルルやセレンを浸出することができる。浸出後の中和残渣の成分は大半がテルルであり、浸出されたセレンは液中に残っている。さらに、Cl,Cu,Fe,Sn,Sbなどが中和残渣中に含まれているが、低濃度である。
【0020】
比較例
表1に示す銅電解殿物を、苛性ソーダ濃度が100g/L, 液温80℃で浸出したところ、浸出液中には約28g/Lの濃度のPbが浸出された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上説明したように、本発明法は銅電解殿物の中間生成物であって鉛及びテルルを含有するものからアルカリ浸出により鉛とテルルを分離し、高純度テルルを回収することができるために、テルル回収の生産性を高めかつ、テルルの品位も良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】銅電解殿物(脱銅・脱銀処理をした塩化物)の浸出液のNaOH濃度と浸出率の関係を示すグラフである。
【図2】上記銅電解殿物の浸出時間と浸出率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅電解殿物から塩化鉛と共に抽出されたテルルを含有する原料にアルカリ溶液による浸出処理を施し、続いて中和を行い二酸化テルルを回収する方法において、アルカリ成分が40 〜60g/LのNaOHからなる常温の苛性ソーダ溶液で、空気吹込みをすることなく浸出を行い、テルル含有原料からの鉛の浸出を抑えつつテルルを浸出した後、得られたテルル含有浸出液を硫酸で中和することにより、テルルを高純度の二酸化テルルとして回収することを特徴とする銅電解殿物からのテルルの回収方法。
【請求項2】
スラリー濃度が 100 〜 200g/Lであり、かつ浸出時間が2 〜4時間である請求項1記載の銅電解殿物からのテルルの回収方法。


【図1】
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【図2】
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